特許第6853438号(P6853438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853438高活性銅スラグ微粉末の製造方法、高活性銅スラグ微粉末およびセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853438
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】高活性銅スラグ微粉末の製造方法、高活性銅スラグ微粉末およびセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/14 20060101AFI20210322BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20210322BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C04B18/14 ZZAB
   C04B28/02
   C22B7/04 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-73124(P2017-73124)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172260(P2018-172260A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】白濱 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 牧生
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−093738(JP,A)
【文献】 土木学会論文集,1986年 2月,第366号/V−4,第75−82頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 18/14
C04B 28/02
C22B 7/04
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、平均粒径が1mm〜50mmの塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が2000cm/g以上の微粉末となるまで粉砕することを特徴とする高活性銅スラグ微粉末の製造方法。
【請求項2】
前記塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が5000cm/gを超えないように粉砕する請求項1に記載の高活性銅スラグ微粉末の製造方法。
【請求項3】
酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、ブレーン比表面積が2000cm/g以上で、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上であることを特徴とする高活性銅スラグ微粉末。
【請求項4】
セメントと、酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、ブレーン比表面積が2000cm/g以上で、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上である銅スラグ微粉末とを含み、
銅スラグ微粉末を、前記セメント100質量部に対して5質量部以上35質量部以下の範囲の量にて含むことを特徴とするセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性銅スラグ微粉末の製造方法、高活性銅スラグ微粉末およびセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
銅スラグは銅精錬所において銅地金を精錬する際に副産されるガラス質物質であり、一般に、酸化鉄、二酸化けい素、酸化カルシウム、酸化アルミニウムなどを含む金属酸化物である。銅スラグは、酸化鉄を多く含むためセメント製造の際の鉄原料をして活用されている。また、銅スラグは比較的密度が高く、また化学的に安定であることから、砂粒状にしてモルタルやコンクリートの細骨材として利用されている。さらには、ケーソンの中詰材や防波堤のマウンドを構築する材料としても活用されている。ただし、その一部は産業廃棄物として処分されているのが現状である。
また、セメント業界では低炭素社会の実現のために、セメントクリンカー焼成の際に排出されるCOを低減することが課題となっており、その対策のひとつとして、セメントの一部を混合材で置き換えることが検討されている。
【0003】
特許文献1には、コンクリートの細骨材として、銅スラグと粗粒率2.75未満の砂とから構成され、細骨材全体に対する前記砂の比率を、体積比で43%以上としたコンクリートが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、土壌を固化して六価クロムの溶出を防止するためのセメント系固化材として、ポルトランドセメントおよび石膏の水硬性成分に対して、第一鉄化合物または高炉スラグ微粉末の一種または二種と、銅スラグ微粉末とを配合したセメント系固化材が記載されている。この特許文献2には、銅スラグ微粉末の比表面積が4000cm/g以下では固化処理後の圧縮強度が十分に向上せず、六価クロムの溶出量をやや抑制できない傾向があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−189335号公報
【特許文献2】特開2011−93738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銅スラグは銅精錬所において大量に副生する。このため、大量に発生した銅スラグについて、例えば、その活性を高めて、セメント用混合材やコンクリート用混合材として利用できれば好ましい。
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、銅精錬所において副生した銅スラグを用いて、セメント用混合材として用いることができる高活性な銅スラグとして改質できる高活性銅スラグ微粉末の製造方法、セメント用混合材として有用な高活性銅スラグ微粉末およびこれを含むセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、平均粒子径が1mm以上50mm以下である塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が2000cm/g以上となるまで粉砕して得た銅スラグ微粉末は、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上と高くなることを見出した。そして、その銅スラグ微粉末は、セメントに対する活性度指数が高く、セメント用混合材として有用であることを確認して本発明を完成させた。
【0008】
従って、本発明の高活性銅スラグ微粉末の製造方法は、酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、平均粒径が1mm〜50mmの塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が2000cm/g以上の微粉末となるまで粉砕することを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明の高活性銅スラグ微粉末の製造方法においては、前記塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が5000cm/gを超えないように粉砕することが好ましい。
この場合、過剰に微細な銅スラグ微粉末の生成を抑制できるので、得られる銅スラグ微粉末をセメントに混合する際の作業性が向上すると共に、過剰な粉砕動力を低減できる。
【0010】
本発明の高活性銅スラグ微粉末は、酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、ブレーン比表面積が2000cm/g以上で、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上であることを特徴とする。
このような構成の高活性銅スラグ微粉末は、ブレーン比表面積が2000cm/g以上と微細であることに加えて、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上と高いので、セメントに混合した場合の活性度指数が高く、セメント用混合材として有用となる。
【0011】
本発明のセメント組成物は、セメントと、酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、ブレーン比表面積が2000cm/g以上で、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上である銅スラグ微粉末とを含み、銅スラグ微粉末を、前記セメント100質量部に対して5質量部以上35質量部以下の範囲の量にて含むことを特徴としている。
このような構成のセメント組成物は、混合材として、上記の高活性銅スラグ微粉末を含むので、圧縮強度を大幅に低下させることなく、CO排出量を抑制できるセメントを提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅精錬所において副生した銅スラグを用いて、セメント用混合材として用いることができる高活性な銅スラグと改質できる高活性銅スラグ微粉末の製造方法、セメント混合材用として有用な高活性銅スラグ微粉末およびこれを含むセメント組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態である高活性銅スラグ微粉末の製造方法、高活性銅スラグ微粉末およびセメント組成物について説明する。
【0014】
本実施形態の高活性銅スラグ微粉末の製造方法において、原料となる塊状銅スラグは、銅精錬所において副生した副生物である。塊状銅スラグは、酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲とされている。このような組成を有する塊状銅スラグを粉砕することによって、活性な酸化ケイ素などが粉体の表面に露出するので、得られる銅スラグ微粉末の表面の活性が増加することによって、銅スラグ微粉末の反応性が向上して、活性度指数が向上すると考えられる。
【0015】
本実施形態において用いる高活性銅スラグ微粉末もの原料は、平均粒径が1mm〜50mmの塊状銅スラグとされている。この塊状物を粉砕して、微粉末とすることによって、得られ銅スラグ微粉末の表面の活性が確実に増加する。
【0016】
本実施形態においては、上記の塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が2000cm/g以上となるように粉砕する。高活性な銅スラグ微粉末を得るためには、ブレーン比表面積を高くすることが有効である。従って、ブレーン比表面積は3000cm/g以上が好ましく、4000cm/g以上が特に好ましい。一方、銅スラグ微粉末が過剰に微細になると、得られる銅スラグ微粉末をセメントに混合する際の作業性が向上すると共に、過剰な粉砕動力が必要となる。従って、塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が5000cm/gを超えないように粉砕することが好ましい。
【0017】
塊状銅スラグの粉砕は、乾式で行うことが好ましい。粉砕装置としては、ディスクミル、ボールミル、竪型ミル、チューブミルなど高炉スラグやセメントクリンカーなどの粉砕に利用されている公知の粉砕装置を用いることができる。また、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャーなどの破砕機と前記粉砕装置とを併用してもよい。
【0018】
以上のような構成された本発明の高活性銅スラグ微粉末の製造方法によれば、原料として、酸化鉄の含有量が35質量%以上55質量%以下の範囲、二酸化けい素の含有量が28質量%以上38質量%以下の範囲、酸化カルシウムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲、酸化アルミニウムの含有量が2質量%以上8質量%以下の範囲にある組成を有し、平均粒子径が1mm〜50mmの塊状銅スラグを、ブレーン比表面積が2000cm/g以上となるまで粉砕するので、微細でかつ溶解シリカ量が1.5mmol/L以上と高く、活性度指数が高くセメント用混合材として有用な高活性銅スラグ微粉末を得ることができる。
【0019】
また、本実施形態によれば、塊状銅スラグ粉末をブレーン比表面積が5000cm/gを超えないように粉砕することによって、過剰に微細な銅スラグ微粉末の生成を抑制でき、得られる高活性銅スラグ微粉末は、セメントに混合する際の作業性が向上すると共に、過剰な粉砕動力を低減できる。
【0020】
また、本実施形態の高活性銅スラグ微粉末は、ブレーン比表面積が2000cm/g以上で、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上とされている。本実施形態の高活性銅スラグ微粉末によれば、ブレーン比表面積が2000cm/g以上と微細であることに加えて、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上と高いので、セメントに混合した場合、活性度指数が高く、セメント用混合材として有用となる。ブレーン比表面積は3000cm/g以上が好ましく、4000cm/g以上が特に好ましい。一方、ブレーン比表面積が大きくなりすぎると、セメントに混合する際の作業性が向上するおそれがある。従って、ブレーン比表面積は5000cm/gを超えないことが好ましい。
【0021】
本実施形態のセメント組成物は、セメントと、ブレーン比表面積が2000cm/g以上で、溶解シリカ量が1.5mmol/L以上である銅スラグ微粉末とを含み、銅スラグ微粉末を、セメント100質量部に対して5質量部以上35質量部以下の範囲の量にて含む。本実施形態のセメント組成物によれば、混合材として、上記の高活性銅スラグ微粉末を含むので、圧縮強度を大幅に低下させることがないセメント組成物を提供することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を、実施例により説明する。
【0023】
[本発明例1〜4]
銅精錬所において副生した下記の組成を有する塊状銅スラグを用意した。塊状銅スラグの平均粒径は、24mm(粒径の範囲は2〜40mm)であった。
Fe :51.25質量%
SiO :34.72質量%
CaO :5.43質量%
Al :5.48質量%
MgO :0.73質量%
SO :0.11質量%
NaO :1.25質量%
O :0.84質量%
TiO :0.50質量%
MnO :0.16質量%
:0.18質量%
【0024】
[本発明例1〜4]
上記の塊状銅スラグを、ディスクミルを用いて、ブレーン値が約2000cm/g(本発明例1)、約3000cm/g(本発明例2)、約4000cm/g(本発明例3)、約5000cm/g(本発明例4)になるように粉砕して、銅スラグ微粉末を得た。
【0025】
得られた銅スラグ微粉末について、ブレーン比表面積、粒度分布、溶解シリカ量、活性度評価を下記の方法により測定した。
【0026】
(ブレーン比表面積)
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載のブレーン空気透過装置を用いた比表面積試験に準拠して測定した。
【0027】
(粒度分布)
粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製マイクロトラック、型式MT3300EXII)を用い、銅スラグ微粉末を装置内でエタノール(分散媒屈折率:1.360)とともに、超音波(出力30W)で1分間分散させ、粒子の屈折率に起因するパラメータを1.70に設定して測定した。
【0028】
(溶解シリカ)
JIS A 1145「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法)」に準拠して、溶解シリカ量を測定した。
【0029】
(活性度指数)
JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に準拠して測定した。銅スラグ微粉末の置換率は20質量%とした。活性度指数は、材齢28日と材齢91日で測定した。なお、表1には、参考例1として、基準モルタルの圧縮強度を記載した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1の結果から、ブレーン比表面積が2000cm/g以上とされた本発明例1の銅スラグ微粉末は、材齢91日の活性度指数が88.4と高いことからセメント用混合材として有用であることが確認された。
また、ブレーン比表面積が大きくなるに伴って、指数的に溶解シリカと活性度指数が増加することが確認された。これは、粉砕が進むに伴って、銅スラグ粉末の表面に活性な酸化ケイ素が露出するためであると考えられる。そして、溶解シリカ量が増加することによって、銅スラグ微粉末中のシリカ分とセメント中のカルシウム分との反応性が向上して、活性度指数がさらに向上すると考えられる。