【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業「高精度にリアルタイムで加工現象(熱・振動・抵抗)をマルチ計測できる技術・回転式工具の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
略円筒状の金属材料の試験片を固定端側で装着部に対して固定して軸回転させ、自由端側で鉛直下方に荷重を負荷して試験片の回転曲げ疲労強度を測定する疲労試験装置であって、
前記装着部は、前記試験片および該装着部と協動して軸回転する温度計測手段を備え、該温度計測手段は先端が試験片の内部に位置決めされる熱電対を有し、該熱電対で検出された試験片内部の温度情報が送信手段より試験片の外部に伝達され、
前記送信手段が、前記熱電対で検出された温度情報を疲労試験中に外部に送信し、
軸方向に沿って、前記試験片の固定端側にスピンドルとしての前記装着部と前記温度計測手段とが連結されており、
前記試験片は、少なくとも破断が予想される近傍の所定領域まで固定端側から軸方向の中空孔が形成され、
前記温度手段から試験片側に突出する熱電対の先端の温度計測部分が前記装着部の貫通孔を通過して前記試験片の中空孔の前記所定領域に位置決めされ、
前記試験片は、少なくとも破断が予想される近傍の所定領域まで固定端側から軸方向の中空孔が複数形成され、
複数の前記中空孔は、少なくとも、
略中心軸線上の位置の中心孔と、該中心孔から径方向外側の位置の外側孔とを有する、ことを特徴とする疲労試験装置。
前記試験片の内部において試験中に破断が予想される近傍の所定領域であって該試験片の略中心軸線上の位置に前記熱電対を位置決めする、ことを特徴とする請求項1に記載の温度測定方法。
【背景技術】
【0002】
難削材や複雑形状物等を加工するにはマシニングセンタなどの工作機械が用いられ、この工作機械では工具そのものが回転する回転工具が用いられている。しかしながら、従来、回転工具の刃先や回転工具そのもので発生する切削熱を加工しながら定量的に計測できる機器が存在しておらず、加工現象を正確に把握できないことが大きな問題であった。
【0003】
この問題に対して出願人は、回転工具を用いる工作機械において回転加工中の温度を直接測定する装置を開発することで加工中の工具温度を精緻にモニタリングできるようになった(特許文献1)。しかしながら、上記装置においても回転加工中の被加工物から工具への横方向の負荷により発生する繰り返し応力と工具温度との関係について必ずしも精緻に検証することはできていない。
【0004】
一方、このことを検証するため従来より回転曲げ疲労試験法が存在し、この疲労試験において片持ち試験片の自由端で下方に過重を負荷し、片持ち試験片を回転させて破断するまでの時間を工具の繰り返し疲労結果として評価している。しかしながら、回転曲げ疲労試験ではJIS規格により5,000rpm以下の回転数での試験が求められている。その理由として、5,000rpmになると、試験片(素材)が急激に発熱し、信頼性のあるデータがとれないということが挙げられるが、5,000rpmが適正であることを示す具体的な事例はなく、根拠がない状態で一律に定められた規制値であるに過ぎない。このため本来、環境条件や試験片の材料、形状によって規制値が変化するものであると考えられる。出願人は試験片に応じた精緻な疲労検証や、迅速な疲労試験の実行を考慮し、回転負荷中の試験片をモニタリングする必要性を感じていた。一旦、回転負荷中の試験片をモニタリングする方法が提唱されると、高回転で高精度を要求される工作機械であればあるほど、その必要性が高まってくると予想される。
【0005】
また、原子炉や自動車のエンジン周辺部品は、高温環境下で使用された場合通常環境よりも上記疲労強度が低下することが知られている。したがって、高温環境下で使用される工具等の金属材料は、特に高温環境下での疲労試験を行う必要がある。このことを踏まえると、回転曲げ疲労試験機の温度環境ユニットの信頼性確認できることが望ましい。
【0006】
回転曲げ疲労試験機において、高温環境ユニットや低温環境ユニットが標準機に後付できる様々なタイプがある。従来、試験片周辺に環境ユニットを組付け、外部より、加熱・冷却を施す例(例えば、特許文献3)があるが、試験片表面と中心部で温度勾配が生じ、深さ方向での例えば熱膨張量の差異によって、応力勾配が生じると、その影響が疲労試験結果に加味され、データの信頼性を完全に確保することは難しくなる。したがって、高温環境、もしくは低温環境下の試験を実施しながら、回転・負荷中の試験片に対し、温度差表面から内部までの温度勾配をモニタリングして試験片周辺に設置された環境ユニットが、信頼性のある疲労試験ができるものであるかどうか検証したいという潜在的なニーズが存在すると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の事情に鑑みて本発明は創作されたものであり、本発明は、回転工具等を想定した片持ち式の金属材料片に曲げ荷重を負荷しつつ回転させてその材料の疲労強度を評価する際にリアルタイムの温度条件を考慮し得る疲労試験装置を提供することを目的としている。
【0009】
とりわけ第一の本発明では、回転曲げ疲労試験において回転負荷中に試験片の温度をモニタリングすることで試験片それぞれに応じた試験条件を適正に検証して高精度で迅速な疲労試験結果を入手し得る疲労試験装置を提供し、第二の本発明では、高温又は低温環境下での回転曲げ疲労試験において回転負荷中で生じる試験片内の温度勾配をモニタリングすることで、高温又は低温環境を提供する装置を付加した場合に於いても、当該装置が正しく試験片に対して作用しているかを検証できることとなり、より高精度な疲労試験結果を提供し得る疲労試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、略円筒状の金属材料の試験片を固定端側で装着部に対して固定して軸回転させ、自由端側で鉛直下方に荷重を負荷して試験片の回転曲げ疲労強度を測定する疲労試験装置であって、
前記装着部は、前記試験片および該装着部と協動して軸回転する温度計測手段を備え、該温度計測手段は先端が試験片の内部に位置決めされる熱電対を有し、該熱電対で検出された試験片内部の温度情報が送信手段より試験片の外部に伝達される、ことを特徴とする。
【0011】
本疲労試験装置によれば、試験の内部に直接熱電対を設け温度計測することができるため、軸回転数について前記規制値によらず試験片に応じて疲労試験評価への影響を適正に判断することができ、試験片の材質・形状毎に、所望の軸回転数を設定して試験を行うことができることとなる。したがって、試験時間の大幅な短縮も可能となる。
【0012】
前記送信手段は、前記熱電対で検出された温度情報を疲労試験中に外部に送信する、ことが好ましい。具体的には、無線で温度情報を外部送信することで回転曲げ疲労試験中の試験片の温度情報又は後述の温度勾配をリアルタイムに検出することができ、精緻な破断予測や冷却制御を行うことが可能となる。
【0013】
また、軸方向に沿って、前記試験片の固定端側にスピンドルとしての前記装着部と前記温度計測手段とが連結されており、
前記試験片は、少なくとも破断が予想される近傍の所定領域まで固定端側から軸方向の中空孔が形成され、
前記温度手段から試験片側に突出する熱電対の先端の温度計測部分が前記装着部の貫通孔を通過して前記試験片の中空孔の前記所定領域に位置決めされる、ことを特徴とすることが好ましい。
【0014】
本疲労試験装置の代表例としては、温度計測部は、スピンドルに連結協動して軸回転し、温度測定部に接続された熱電対をスピンドル内に通過等させ、さらに前方の試験片も中空にくり抜いて(チャンネル形成して)破断位置の近傍に位置決めする構成がある。
【0015】
また、前記試験片は、少なくとも破断が予想される近傍の所定領域まで固定端側から軸方向の中空孔が複数形成され、
複数の前記中空孔は、少なくとも、
略中心軸線上の位置の中心孔と、該中心孔から径方向外側の位置の外側孔とを有しても良い。
【0016】
本発明の変形として、径方向に複数のチャンネルを設けることができる。この構成を採用すれば、高温・低温環境下での回転曲げ疲労試験において試験片の表面から内部へ向かう径方向の温度勾配を回転中に計測することができ、高温又は低温環境を提供する装置を付加した場合にも、正しく試験片に対して前記装置が作用しているかを検証できることとなり、より精緻な疲労評価を行うことができる。
【0017】
また、前記外側孔は、
試験片の外周表面近傍の外周孔と、軸線中心から外周表面までの径方向中間であって前記中心孔に対して前記外周孔と径方向反対側の位置に形成された中間孔と、を含むことができる。
【0018】
上記試験片内の温度計測チャンネルは、回転軸中心、外表面近傍以外に別途設けても良く、より正確な温度勾配計測を行うことができる。
【0019】
また、前記試験片の内部において試験中に破断が予想される近傍の所定領域であって該試験片の略中心軸線上の位置に前記熱電対を位置決めする、ことが好ましい。
【0020】
さらに、前記熱電対の計測部を位置決めする位置は、少なくとも、
略中心軸線上の中心位置と、該中心位置から径方向外側の外側位置とを有しても良く、
前記外側位置は、
試験片の外周表面近傍の外周位置と、軸線中心から外周表面までの径方向中間であって前記中心位置に対して前記外周位置と径方向反対側の位置孔と、を含んでも良い。
【0021】
また、本疲労試験装置は、
軸方向に沿って前記試験片の固定端側に、スピンドルとしての前記装着部と前記温度計測手段とが連結されており、
前記試験片は内部に、それぞれ軸方向の深さが異なる3つ以上の温度測定位置に前記熱電対が配設される、場合もある。
【0022】
この場合、試験片の軸方向に計測位置が異なる3つ以上の温度測定ができるため、試験片の温度勾配(分布)を評価でき、高温/低温環境下での試験における試験部での温度制御のズレを計測することができる。さらに、後述するが、内外挿法を駆使することにより、実際には測定していない部位の温度も推定することができる。
【0023】
以下、3点以上の温度測定位置の具体例を列挙する。第一の例として、
前記温度測定位置は、少なくとも、前記試験片の破断が予想される近傍の所定領域の第一所定位置と、該第一所定位置に対して前記試験片の固定側の第二所定位置と、前記第一所定位置に対して前記試験片の自由端側の第三所定位置と、を有する。
【0024】
第二の例として、
前記温度測定位置は、少なくとも、前記試験片の破断が予想される近傍の所定領域の第一所定位置と、該第一所定位置に対して前記試験片の固定側又は自由端側いずれか一方の第二所定位置及び第三所定位置と、を有する。
【0025】
第三の例として、
前記温度測定位置は、少なくとも、前記試験片の破断が予想される近傍の所定領域に対して前記試験片の固定側又は自由端側いずれか一方の第一所定位置及び第二所定位置と、前記第一所定位置及び第二所定位置に対して前記試験片の自由端側又は固定端側の他方の第三所定位置と、を有する。
【0026】
第四の例として、
前記温度測定位置は、少なくとも、前記試験片の破断が予想される近傍の所定領域に対して前記試験片の固定側又は自由端側いずれか一方の第一所定位置、第二所定位置及び第三所定位置、を有する。
【0027】
上記本発明の疲労試験装置の試験片の固定端側の軸方向後端又は自由端側の軸受け方向前端は、温度計測手段が配設されており、
軸回転を滑り軸受するベアリングユニットで支持されることが好ましい。
【0028】
回転曲げ疲労試験中の振動をベアリングユニットにより支持・吸収することで、特に高回転域での回転曲げ疲労試験に際し、発生する振動を抑制することが出来、疲労試験精度を向上させることが可能となる。
【0029】
前記温度測定位置は、前記試験片の破断が予想される近傍の所定領域内に複数配設する、ことが好ましい。
【0030】
この場合、試験片の径方向の温度勾配の影響を低減することができ、試験部内での温度計測点数を増やすことで形状変更による熱抵抗の変化の影響も低減することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、回転曲げ疲労試験において回転負荷中の試験片の温度を直接モニタリングできるので、JIS規格に拘泥されず試験片それぞれに応じた所望の軸回転数での疲労試験評価を行うことができ、高精度かつ迅速に疲労試験結果を得ることができる。
【0032】
また、本発明では、高温又は低温環境下での回転曲げ疲労試験において回転負荷中で生じる試験片内の温度勾配をモニタリングすることで、高温又は低温環境を提供する装置を付加した場合にも、正しく試験片に対して前記装置が作用しているかを検証できることとなり、より高精度な疲労試験結果を提供することができる。
【0033】
また、試験片の内部の軸方向に3つ以上の温度測定点を設けることで、試験片の温度勾配(分布)を評価できる。したがって、高温/低温環境下での試験において試験部(切欠部)での温度制御のズレを計測することができ、試験部の位置で温度測定ができない場合でも温度を推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
まず、本発明の実施の形態を説明する前提として、本発明で用いる回転曲げ疲労試験装置の構造について
図1〜
図3を参照して説明する。
【0036】
本発明の回転曲げ疲労試験装置1の要部の構成を示す概略図である
図1と、本発明の一実施形態に係る回転曲げ疲労試験装置1における、荷重付加部の要部の構成を示す概略図である
図2と、本発明の一実施形態に係る回転曲げ疲労試験装置1、及び回転曲げ疲労試験1に使用される試験片12を例示する略図である
図3と、を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
図1に示すように、回転曲げ疲労試験装置1は少なくとも、試験片12を回転させるスピンドル(回転駆動手段)10と、その回転駆動手段10の回転主軸10aの一方の側に、回転主軸10aの後端で協動して軸回転するように回転主軸10aと同芯に固定される温度測定部14と、温度測定部14の後端で軸回転を滑り軸受するベアリングユニット16とを備えている。
【0038】
また、
図1の回転曲げ疲労試験装置1の回転駆動手段10は、回転主軸10aとその内部の貫通孔10bとで構成され、温度計測部14は、その前端の連結部14aが回転主軸10aの後端で貫通孔10bに挿入されて結合している。連結部14aは内部に熱電対20の一端が挿入されて本体部14b内の検出部に接続される。また、熱電対20は、連結部14aから突出して貫通孔10bを通過して先端が試験片12の所定位置まで到達する(試験片12内の位置決めについては後述)。
【0039】
また、温度計測部14の後端には本体部14bと協動して軸回転する後端部14cが連結される。したがって、回転主軸10aが軸回転すると後端部14cも軸回転し、回転曲げ疲労試験装置1の振動を吸収しつつ回転を軸受している。
【0040】
次に、
図1に示す本回転曲げ疲労試験装置1の前端における荷重付加部22の構成の要部概略図である
図2を説明する。回転曲げ疲労試験装置1において、回転駆動手段10により回転可能な試験片12に荷重を付加する。この回転曲げ疲労試験装置1では、装着部10の回転主軸10aの先端(前端)を試験片12の固定端(後端)をチャック部18で把持し、試験片12の自由端としての他端には、荷重負荷部22が配設される。
【0041】
荷重付加部22は、回転駆動手段10により回転される試験片12の上記自由端としての試験片40の端部を、回転自在に連結するためのアダプタ22aと、試験片12に鉛直下方向の自重を作用させる錘としての加重部22cと、アダプタ22aと加重部22cとを連結するための吊下げ部22bと、で構成される。加重部22cは、試験片12の形状、評価条件によって荷重の付加設定を行う。
【0042】
図3には本回転曲げ疲労試験1で使用される試験片12を例示しており、(a)は試験片12全体の略正面図であり、(b)はその中心部近傍の拡大図である。なお、紙面右側が加重側(自由端側)であり、左側が回転主軸10a側(固定端側)である。試験片12は軸方向中央部X−X近傍領域を切欠いて径を小さくしているのは、き裂、破断を誘導するためであり(「切欠部」とも称する)、この切欠部は、前述する「試験片12の破断が予想される近傍の所定位置」である。試験片12は回転主軸10a側の端部から内部軸方向に孔24を有し、孔24の終端12aは、中心X−Xよりも回転主軸10a側所定距離に位置する。孔24には温度計測部14から突出した熱電対20が挿入され、その先端の計測部分が孔24の終端12aに位置決めされる。
【0043】
以上のような回転曲げ疲労試験機1の熱電対20により計測された試験片12内の温度計測結果は以下のとおりである。試験片12としては、ステンレス鋼材の1つであるSUS304を使用し、負荷300MPaで試験した。また、試験は3つの軸回転数で行い、それぞれ(1)1,000rpmと、(2)3,000rpm、これまで規制されていた回転数以上の(3)5000rpm、(4)6000rpm、試験終了時間5,000s(=sec)で行った。
【0044】
その結果のグラフ図が
図4に示されている。(1)〜(4)ともに室温が約15℃〜16℃で試験開始しており、概ね環境温度条件は同一と考えられる。また、(1)〜(4)と回転数が増加するにつれ時間経過に応じた温度上昇が増加し、所定の温度で温度上昇が緩やかになる(上限温度に収束していく)様子がわかる。具体的には、(1)1,000rpmでは、温度上昇が非常に緩やかであり17℃までしか到達していないことがわかる。また、(2)3,000rpmでは、4,000(s)前後から18℃付近でほとんど温度上昇していないことがわかる。また、(3)5,000rpmでは、(1)、(2)よりも温度上昇勾配は増加しており20℃付近まで温度上昇していることがわかる。さらに、(4)6000rpmでは、(3)よりさらに温度上昇勾配が増加し、4,500(s)前後で22℃付近の温度上昇が非常に緩やか又は温度上限に近づいていることがわかる。なお、(1)〜(4)の軸回転数ともに上限が約22℃以下であり、SUS材の疲労試験評価としては問題ないことがわかった。
【0045】
したがって、この
図4のグラフ図からSUS304材の場合、JIS規格の上限を超えた軸回転数6,000rpmであっても1,000rpm、3,000rpm、5,000rpm同様に、遜色のない疲労試験評価を行うことができることが検証された。
【0046】
上記
図4の試験(負荷300MPa)の他に、同条件で3種類の負荷100Mpa、200MPa、600MPaについても検証した。
図5では軸回転速度と荷重(負荷)と試験片12の最大温度との関係を図式化している。
【0047】
図5から荷重(負荷)の増加に伴う試験片12の温度上昇は緩やかであると言える。一方、軸回転速度については、その増加とともに試験片12の最大温度が緩やかに上昇しているが、回転数が大きいほど最大温度の上昇率も大きい傾向が見られた。SUS304の場合、JIS規格の上限値である5,000rpmを超えると最大温度上昇率が大きくなっているが、
図4での温度上昇の収束化と踏まえて判断すると6,000rpm程度の軸回転速度の場合は、問題がないこともわかる。
【0048】
このように本回転曲げ疲労試験装置1により回転速度と負荷と温度変化と破断との関係を詳細に測定することができ、疲労試験評価の精度が向上する。また、この疲労試験の結果を実際の工具材料・形状・回転数等の選択、使用状況や履歴に応じた工具疲労寿命予測を適正に行うことへの応用展開が可能となる点も有利である。
【0049】
次に、高温又は低温環境下での回転曲げ疲労試験における第二の本発明の回転曲げ疲労試験装置について説明する。なお、ここでは上述してきた第一の本発明の回転曲げ疲労試験装置1と同様の装置を使用するため装置全体の説明は省略するとともに、同一部材については同一参照番号を付することとする。
【0050】
図6は、
図3の試験片12のY−Yの位置の略断面図が示されている。
図2では熱電対20用の孔24が回転中央に1つ設けられていたが、この例では、熱電対20は複数、試験片12に配設している。具体的には、回転中心Cの位置の以外に、回転中心Cから径方向外側の位置に孔24cが配設され、熱電対20が位置決めされている。
図6では、試験片12の外表面12b近傍の位置Aに孔24aが配設され、熱電対20が位置決めされる。さらに、回転中心Cと位置Aとの径方向中間位置Bに孔24bが配設され、熱電対20が位置決めされる。
【0051】
図6では、回転中心Cに対して位置Aと位置Bとが反対側に示されているが、これは3つの孔24a〜24cの加工精度上の相対的な位置を示しているものに過ぎず、回転中心Cと位置Aと位置Bとが同方向に配置されても良い。また、
図6では位置Aと位置Bとの2つの位置に熱電対20が配設されているが、いずれか1つだけでも良く、さらに複数個追加されても良い。なお、熱電対20の熱計測位置となる孔24a〜24cの軸方向終端位置は、
図3の例と同様に試験片12の軸方向中心近傍(
図3のX−X位置)から所定距離回転主軸10a側の位置に配置される。試験片12の破断、き裂やその位置での強度低下による疲労試験評価への影響を考慮しつつ、最も回転中の温度を容易に計測できる位置だからである。
【0052】
この試験片12での回転曲げ疲労試験では、試験片12内の表面から内部までの温度勾配がわかり、高温・低温環境を提供する装置を付加した場合での回転工具等の疲労評価を温度的に校正できるため、より高精度に行うことができる。以下、高温環境下で実際に行った回転曲げ疲労試験について説明する。
【0053】
図7は、
図6の位置で回転中に温度測定した結果のグラフ図である。試験片12としてはSUS304を用いて、軸回転数800rpmで回転させた。具体的温度データは下記表2に示すとおりである。
【表1】
【0054】
図7、表2は、(1)〜(4)の四種類の温度環境下における温度の各熱電対20の位置(
図6のA、B、C参照)の試験時間(s)と温度とを示しており、Tmは試験片12の最高温度(℃)、ΔTは各熱電対20の位置(
図6参照)の最高温度の差、ΔT/TmはΔTとTmとの比(%)を示している。(1)の環境温度条件では位置A〜CはTm=95〜96℃程度まで上昇し、位置A〜Cの温度差ΔT=1℃、ΔTとTmとの比ΔT/Tm=1(%)となっている。(2)の環境温度条件では位置A〜CはTm=391〜399℃程度まで上昇し、位置A〜Cの温度差ΔT=8℃、ΔTとTmとの比ΔT/Tm=2(%)となっている。(3)の環境温度条件では位置A〜CはTm=538〜549℃程度まで上昇し、位置A〜Cの温度差ΔT=11℃、ΔTとTmとの比ΔT/Tm=2(%)となっている。さらに、(4)の環境温度条件では位置A〜CはTm=777〜793℃程度まで上昇し、位置A〜Cの温度差ΔT=16℃、ΔTとTmとの比ΔT/Tm=2(%)となっている。この結果から、環境温度条件にかかわらずSUS304の試験片12では、位置A〜Cともに同程度の温度、温度勾配を維持しつつ温度変化していることがわかる。
【0055】
また、表3は試験片12としてS45Cを使用し、800rpmで軸回転させた結果が表1同様に示されている。表3では、(5)の環境温度条件では位置A〜CはTm=255.5〜259℃程度まで上昇し、位置A〜Cの温度差ΔT=3.5℃、ΔTとTmとの比ΔT/Tm=1(%)となっている。(6)の環境温度条件では位置A〜CはTm=490.5〜499℃程度まで上昇し、位置A〜Cの温度差ΔT=8.8℃、ΔTとTmとの比ΔT/Tm=1.6(%)となっている。(7)の環境温度条件では位置A〜CはTm=612〜624℃程度まで上昇し、位置A〜Cの温度差ΔT=12℃、ΔTとTmとの比ΔT/Tm=2(%)となっている。
【表2】
【0056】
これらの結果から、概ね
図7に示す鉄系材料の試験片12の場合には、試験片12の表面から内部までの温度勾配は小さく、通常の回転曲げ疲労試験のように雰囲気温度条件での試験結果と略同様の評価ができることがわかった。一方、他の形状、材質の試験片12では温度勾配が大きく疲労評価への影響が大きいこともあり、本回転曲げ疲労試験機の温度検証・校正機能を使用すれば高精度に疲労評価することができ、実際の回転工具等の冷却制御条件等に精緻に反映することが可能となる。
【0057】
次に、本発明の回転曲げ疲労試験装置における熱電対20の位置についての他の例を説明する。なお、上述してきた本発明の回転曲げ疲労試験装置1と同一部材については同一参照番号を付することとする。
【0058】
図8〜
図10、
図12、
図14は、
図3に示す試験片12の変形例であり、
図8〜
図10、
図12の上図は試験片12内に熱電対20を位置決めするための孔を表示したものであり、下図は該孔を省略して熱電対20の位置を明確に示したものである。
【0059】
図8の例では、試験片12の内部に熱電対20を3箇所配設している。まず、
図3に示す熱電対20の位置Y−Y、すなわち試験片12の破断を予測する所定領域としての切欠部の所定位置(2)に、配設している。(2)の位置は、試験片12の軸方向中心位置X−Xに位置している。試験片12は、その固定端側(
図8の左側)から軸方向に沿った孔124−2が設けられ、孔124−2の先端となる(2)の位置に熱電対を配設する。
【0060】
また、(2)の位置から固定端側で切欠部を超えた(1)の位置にも熱電対20が配設している。試験片12は、その固定端側から軸方向に沿った孔124−1が設けられ、孔124−1の先端となる(1)の位置に熱電対を配設する。また、(2)の位置から自由端側で切欠部を超えた(3)の位置にも熱電対20が配設している。試験片12は、その固定端側から軸方向に沿った孔124−3が設けられ、切欠部を超えて孔124−1の先端となる(3)の位置に熱電対を配設する。
【0061】
このように(1)〜(3)の位置で熱電対による温度測定をすることにより試験片12の軸方向の温度勾配(温度分布)を評価することができる。その結果、主な熱源を特定することができ、冷却を要する箇所を検出できる。例えば、自由端側(荷重側)が試験片12の温度上昇の主な原因であることを検出できる等の点で有利ある。この場合、冷却機構を荷重側に設置し、冷却効率を向上させ、温度上昇の試験部(切欠部)への影響を低減させる等の措置を講じることができる。
【0062】
図9の例では、試験片12の内部に熱電対20を4箇所配設している。
図9は右側に試験片12の側面視における位置(1)〜(4)を示す図が示されている。試験片12の固定端側から順に3つの軸方向の孔224−1、孔224−2(孔224−4と共通)、孔224−3が設けられている。熱電対20はそれぞれ、孔224−1の先端の位置(1)、孔224−4と共通の孔224−2内で孔224−4の先端より手前の位置(2)、孔224−3の位置(3)、前記孔224−2と共通の孔224−4の先端の位置(4)に配設される。
【0063】
また、
図9の右側図に示すように複数の熱電対20の位置は径方向一直線上に並べて配設する必要はなく、試験片12の表面からの距離を異であれば良い。この点は複数の熱電対20を配設する他の例(
図8〜
図10、
図12、
図13参照)でも同様である。また、たとえば熱電対20を軸方向中心X−Xの位置に複数配設する場合であっても表面からの距離が異なり同一平面上であれば径方向同一線上に並べる必要はない。
【0064】
図9のように軸方向に異なる位置で温度測定した場合、中心X−Xでの温度測定をしなくても試験片12の温度勾配(分布)が評価できるため、高温/低温環境下での試験において試験部(切欠部)での温度制御のズレを計測することができる。なお、
図9では試験部(切欠部)を長く設定し、その領域に温度測定位置(1)〜(4)を設けているが、位置(1)〜(4)が試験部を超えて配設されても良い(試験部の複数点での計測の効果は
図14で後述する)。
【0065】
図10の例では、試験片12の内部に熱電対20を3箇所配設している。この例では試験片12の試験部の中心X−Xの位置(5)に熱電対20の設置が困難な場合、たとえば孔324−1((1)の位置)に水素を封入している場合等、試験部以外の3箇所に熱電対20を設置する。具体的には、試験片12の固定端側(
図10の左側)から軸方向に沿って孔324−2、孔324−3、324−4が配設が設けられる。孔324−2の先端の位置(2)は、位置(5)より固定端側に、孔324−3の先端の位置(3)は、位置(2)と位置(5)の間に、孔324−4の先端の位置(4)は、位置(5)を超えて自由端側にあり、その位置(2)〜(4)に熱電対20が配設される。
【0066】
この例では、X−Xの近傍の位置(5)で温度測定できない場合であっても位置(2)〜(4)の温度測定を行うことで、その結果に基づいて試験部の位置(5)の温度を推定することができる。
【0067】
例えば、
図11を参照する。
図11は、
図10の試験片12における位置(2)〜(4)の3箇所での計測温度から位置(5)の温度を推定したグラフ図が示されている。まず、位置(2)〜(4)それぞれの計測位置(固定端側からの距離(mm))と計測温度(℃)とから3点プロットする(黒四角印参照)。この3点から計測位置と計測温度との関係がグラフ化する。そして、グラフ図における位置(5)の計測位置(=50mm)の計測温度を検出する。この図からは位置(5)での計測温度は32℃であると推定される(黒丸印参照)。
【0068】
図12の例では、試験片12の固定端側(図中左側)の内部に熱電対20を3箇所配設している。この例も
図10と同様に試験片12の試験部の中心X−Xの位置(5)に熱電対20の設置が困難な場合である。具体的には、試験片12の固定端側から順に軸方向に沿った孔424−4、孔424−2、424−3が配設が設けられ、それぞれの先端の位置(4)(2)(3)に熱電対20が配設される。
【0069】
この例における位置(5)の温度の推定について
図13を参照して説明する。
図13は、
図12の試験片12における位置(2)〜(4)3箇所での計測温度から位置(5)の温度を推定したグラフ図が示されている。まず、
図11と同様に位置(2)〜(4)それぞれの計測位置(mm)と計測温度(℃)とから3点プロットし(黒四角印参照)、プロットされた3点から計測位置と計測温度との関係をグラフ化する。そして、グラフ図における位置(5)の計測位置(=50mm)の計測温度を検出すると、位置(5)での計測温度が32℃であると推定される(黒丸印参照)。
【0070】
さらに、試験片12内に配設する熱電対20は上述してきたような固定側からの軸方向に沿って設けられた孔の先端位置でなくてもよく、
図14に示すように表面から同じ深さのところに埋め込んでも良い。
図14の例では、位置(1)〜(6)の軸方向の位置は異なるが、表面から径方向の距離は同じである。したがって、径方向の温度勾配の影響を低減することができる。また、
図14に示すように試験部(切欠部)内での温度計測点数(図では5点)を増やすことで形状変更による熱抵抗の変化の影響も低減することができる。
【0071】
以上が本発明の実施形態について種々例示してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、工具破断現象の発生時を模擬した工具温度異常の再現実験装置といった、特許請求の範囲の記載および精神を逸脱しない範囲で他の実施形態が想定されることを当業者は容易に理解するであろう。