(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕10.0〜78.9質量部、ポリエステル樹脂〔B〕1.0〜30.0質量部、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体〔C〕0.1〜10.0質量部およびポリカーボネート樹脂[D]20.0〜80.0質量部(ただし、〔A〕+〔B〕+〔C〕+[D]=100.0質量部)を含有し、 成分〔B〕と成分〔D〕の質量比(〔B〕/〔D〕)が0.050〜0.200であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、ゴム質重合体部とビニル系樹脂部とを有するゴム強化共重合樹脂〔A1〕、または、当該ゴム強化共重合樹脂〔A1〕とビニル系単量体の共重合体〔A2〕であり、ゴム質重合体部の含有量が、ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕100質量%に対して5〜40質量%である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、α−メチルスチレンに由来する構造単位、及び/又は、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含有し、且つ、α−メチルスチレンに由来する構造単位、及び/又は、マレイミド系化合物に由来する構造単位の合計量が、該ゴム強化ビニル系樹脂100質量%に対し、1〜50質量%である請求項1〜3の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0020】
[1]熱可塑性樹脂組成物:
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕、ポリエステル樹脂〔B〕、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体〔C〕及びポリカーボネート樹脂[D]を含有する。
【0021】
以下、上記の各成分について、それぞれ、成分〔A〕、成分〔B〕、成分〔C〕、成分〔D〕と略記することがある。
【0022】
(1−1)ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕:
本発明において、ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕は、ゴム質重合体部とビニル系樹脂部とを有するゴム強化共重合樹脂〔A1〕、または、当該ゴム強化共重合樹脂〔A1〕とビニル系単量体の共重合体〔A2〕が使用される。ゴム質重合体部の含有量は、通常、後述する様に、ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕100質量%に対して5〜40質量%である。
ゴム強化共重合樹脂〔A1〕は、以下の様に、ゴム質重合体〔a〕の存在下にビニル系単量体〔b1〕を重合して得られ、ゴム質重合体部とビニル系樹脂部とを有する。
【0023】
ゴム質重合体〔a〕の存在下、ビニル系単量体〔b1〕を重合して得られるゴム強化共重合樹脂〔A1〕には、通常、ビニル系単量体がゴム質重合体にグラフトしたグラフト共重合体と、ビニル系単量体成分がゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト成分(すなわち、上記成分〔A2〕と同様のビニル系単量体〔b1〕同士の(共)重合体)が含まれる。また、このグラフト共重合体は、ビニル系単量体〔b1〕の(共)重合体がグラフトしていない、ゴム質重合体〔a〕が含まれていてもよい。これらのうち、好ましいゴム強化ビニル系樹脂〔A〕は、ゴム質重合体〔a〕の存在下にビニル系単量体〔b1〕を重合して得られたゴム強化共重合樹脂〔A1〕とビニル系単量体〔b2〕の(共)重合体〔A2〕を含有するゴム強化ビニル系樹脂である。
【0024】
ゴム質重合体〔a〕は、室温でゴム質であれば、単独重合体であってよいし、共重合体であってもよい。また、ゴム質重合体〔a〕は、非架橋重合体であってよいし、架橋重合体であってもよい。ゴム質重合体〔a〕の具体例としては、ジエン系重合体(ジエン系ゴム質重合体)及び非ジエン系重合体(非ジエン系ゴム質重合体)が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0025】
上記のジエン系重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体などのスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体などのスチレン・イソプレン系共重合体ゴム;天然ゴム等が挙げられる。尚、上記の各共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。上記のジエン系重合体は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0026】
また、上記の非ジエン系重合体としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム、アクリル系ゴム、ウレタン系ゴム、シリコーン系ゴム、シリコーン・アクリル系IPNゴム等の複合ゴム、共役ジエン系化合物より成る単位を含む(共)重合体を水素添加して成る重合体などが挙げられる。尚、上記の各共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。上記の非ジエン系重合体は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。上記の非ジエン系重合体としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム、及び、アクリル系ゴムが好ましい。
【0027】
上記のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムは、エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンから成る単位とを含むものであり、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム等が挙げられる。
【0028】
上記の炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、エチル−1−ペンテン、1−オクテン、プロピル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0029】
また、上記の非共役ジエンとしては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン化合物;5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン化合物;5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−シクロオクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−2,5−ジエン等の脂環式ジエン化合物などが挙げられる。
【0030】
上記のエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムの具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ペンテン共重合体、エチレン・3−メチル−1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・3−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・3−エチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−デセン共重合体、エチレン・1−ウンデセン共重合体などが挙げられる。
【0031】
また、上記のエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴムの具体例としては、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン・5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体、エチレン・1−ブテン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体などが挙げられる。
【0032】
上記のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを構成するエチレン単位の含有量は、全単位の合計量に対し、通常10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%である。また、上記のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムの重量平均分子量(Mw)は、通常5,000〜1,000,000、好ましくは30,000〜300,000である。このMwが大きすぎると、得られる非ジエン系ゴム強化樹脂を使用した際の加工性が低下することがある。更に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は通常10以下である。
【0033】
前記のアクリル系ゴム(アクリル系ゴム質重合体)としては、アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを含む単量体から成る(共)重合体であれば、特に限定されない。
【0034】
上記の単量体は、アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましく、なかでも、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルを含むことが特に好ましい。このアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物のうち、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。また、これらのアクリル酸アルキルエステルは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0035】
上記のアクリル系ゴム質重合体は、上記のアクリル酸アルキルエステルの1種を使用してなる単独重合体であってよいし、2種以上を使用してなる共重合体であってもよい。また、アクリル酸アルキルエステルの1種以上と、このアクリル酸アルキルエステルと共重合可能な化合物の1種以上とを使用してなる共重合体であってもよい。
【0036】
上記のアクリル酸アルキルエステルと共重合可能な化合物としては、特に限定されず、メタクリル酸アルキルエステル、単官能性芳香族ビニル化合物、単官能性シアン化ビニル化合物、ジエン化合物、多官能性ビニル化合物などが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0037】
ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の形成に使用するゴム質重合体〔a〕の形状は、特に限定されないが、粒子状である場合、その体積平均粒子径は、通常30〜2,000nm、好ましくは50〜1,500nm、更に好ましくは100〜1,000nmである。体積平均粒子径が小さすぎると、本発明の組成物の耐衝撃性が劣る傾向にある。一方、大きすぎると、成形品の表面外観性が劣る傾向にある。尚、上記体積平均粒子径は、レーザー回折法、光散乱法などにより測定することが出来る。
【0038】
ゴム質重合体〔a〕が乳化重合により得られた粒子状である場合、体積平均粒子径が上記範囲内にあるものであれば、例えば、特開昭61−233010号公報、特開昭59−93701号公報、特開昭56−167704号公報などに記載されている公知の方法により肥大化したものを使用することも出来る。
【0039】
ゴム質重合体(a)としてのジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム等を製造する方法としては、平均粒子径の調整などを考慮し、乳化重合が好ましい。この場合、平均粒子径は、乳化剤の種類及びその使用量、開始剤の種類及びその使用量、重合時間、重合温度、攪拌条件などの製造条件を選択することにより調節することが出来る。また、上記の体積平均粒子径(粒子径分布)の調節方法としては、異なる粒子径を有するゴム質重合体(a)の2種類以上をブレンドする方法でもよい。
【0040】
ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の形成に用いられるビニル系単量体〔b1〕としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、酸無水物などが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0041】
上記の芳香族ビニル化合物としては、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されず、その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。また、これらのうち、特にスチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0042】
上記のシアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。また、これらのうち、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0043】
上記の(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。また、これらのうち、特にメタクリル酸メチルが好ましい。
【0044】
上記のマレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。また、これらのうち、特にN−フェニルマレイミドが好ましい。尚、マレイミド系化合物から成る単位を導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸を共重合し、その後にイミド化する方法でもよい。
【0045】
上記の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0046】
また、上記の化合物以外に、必要に応じて、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、アミド基、カルボキシル基、オキサゾリン基などの官能基を有するビニル系化合物を使用することが出来る。上記のビニル系化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルアミド、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0047】
ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の形成に使用するビニル系単量体〔b1〕としては、以下の組み合わせの化合物を主として使用することが好ましい。
【0048】
(1)芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物。
(2)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及びマレイミド系化合物。
【0049】
上記の態様(1)において、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の使用割合は、これらの合計量を100質量%とした場合、通常50〜97質量%及び3〜50質量%であり、好ましくは55〜95質量%及び5〜45質量%である。また、上記の態様(2)において、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及びマレイミド系化合物の使用割合は、これらの合計量を100質量%とした場合、通常50〜96質量%、3〜49質量%及び1〜47質量%であり、好ましくは50〜90質量%、5〜45質量%及び5〜45質量%である。
【0050】
上記の態様(1)及び(2)において、芳香族ビニル化合物として、α−メチルスチレンを使用する場合、芳香族ビニル化合物中のα−メチルスチレンの含有量は、通常10〜100質量%、好ましくは20〜90質量%である。尚、上記態様(1)及び(2)において、更に他の単量体を併用してもよい。また、これらは組み合わせて使用することも出来る。
【0051】
前述のように、成分〔A〕は、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕のみであってもよく、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕と、ビニル系単量体(b2)の重合によって得られた(共)重合体〔A2〕とより成る混合物であってもよい。ビニル系単量体〔b2〕としては、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の形成に使用したビニル系単量体〔b1〕の中から選ばれる1種以上を使用することが出来る。従って、(共)重合体〔A2〕は、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の形成に使用したビニル系単量体〔b1〕と全く同じ組成の化合物をビニル系単量体〔b2〕として重合して得られた重合体であってもよいし、異なる組成で同じ種類の単量体を重合して得られた重合体であってもよいし、更には、異なる組成で異なる種類の単量体を重合して得られた重合体であってもよい。これらの各重合体が2種以上含まれるものであってもよい。
【0052】
(共)重合体〔A2〕は、ビニル系単量体〔b2〕の重合によって得られた単独重合体又は共重合体であり、好ましい態様は以下の(3)〜(9)に例示される。
【0053】
(3)芳香族ビニル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。
(4)(メタ)アクリル酸エステル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。
(5)芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(6)芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(7)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(8)芳香族ビニル化合物及びマレイミド系化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(9)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及びマレイミド系化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
【0054】
上記の態様(3)〜(9)は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。また、上記の態様(3)〜(9)において、芳香族ビニル化合物として、α−メチルスチレンを使用する場合、芳香族ビニル化合物中のα−メチルスチレンの含有量は、通常10〜100質量%、好ましくは20〜90質量%である。
【0055】
尚、上記の各単量体は、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の形成に用いられる化合物を適用でき、好ましい化合物も同様である。また、(共)重合体〔A2〕が共重合体である場合には、各単量体の使用割合は特に限定されない。
【0056】
従って、(共)重合体〔A2〕の具体例としては、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体、アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体、スチレン・N−フェニルマレイミド・無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0057】
本発明においては、特に、優れた耐薬品性および耐熱性を得るために、成分〔A〕が、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕のみから成る場合、及び、このゴム強化共重合樹脂〔A1〕と、(共)重合体〔A2〕とから成る場合、の何れにおいても、α−メチルスチレンに由来する構造単位、及び/又は、マレイミド系化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。これらの構造単位の合計量は、ゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕100質量%に対し、通常1〜50質量%、好ましくは2〜45質量%、更に好ましくは3〜40質量%である。そして、α−メチルスチレンに由来する構造単位の含有量は、ゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕100質量%に対し、通常10〜50質量%、好ましくは15〜45質量%、更に好ましくは20〜40質量%であり、マレイミド系化合物に由来する構造単位の含有量は、ゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕100質量%に対し、通常1〜25質量%、好ましくは2〜20質量%、更に好ましくは3〜15質量%である。上記範囲にあると、耐熱性および表面硬度が高く、耐傷付き性に優れ、樹脂への溶剤の吸収が抑制されて耐薬品性が高度に発揮される。
【0058】
従って、成分〔A〕がゴム強化共重合樹脂〔A1〕のみから成る場合、ビニル系単量体〔b1〕は、α−メチルスチレン及びマレイミド系化合物の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、成分〔A〕が、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕と、(共)重合体〔A2〕とから成る場合、ビニル系単量体〔b1〕及び〔b2〕の少なくとも一方に、α−メチルスチレン及びマレイミド系化合物の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0059】
ゴム強化共重合樹脂〔A1〕のグラフト率は、通常10〜200質量%、好ましくは15〜150質量%、更に好ましくは20〜150質量%である。ゴム強化共重合樹脂〔A1〕のグラフト率が10質量%未満では、本発明の組成物の表面外観性および耐衝撃性が不十分になる可能性がある。また、200質量%を超えると、成形加工性が不十分になる可能性がある。
【0060】
上記のグラフト率とは、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕1グラム中のゴム成分をxグラム、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕1グラムをアセトン(但し、ゴム質重合体〔a〕がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用)に溶解させた際の不溶分をyグラムと
したときに、次式により求められる値である。
[数1]
グラフト率(質量%)={(y−x)/x}×100
【0061】
また、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕のアセトン(但し、ゴム質重合体〔a〕がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用)による可溶成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中30℃で測定)は、通常0.1〜1.0dl/g、好ましくは0.1〜0.9dl/g、更に好ましくは0.1〜0.7dl/gである。この範囲とすることにより、本発明の組成物は成形加工性および耐衝撃性に優れる。
【0062】
尚、上記のグラフト率および極限粘度[η]は、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕を製造する際に用いられる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤などの種類や量、更には、重合時間、重合温度などを変えることにより、容易に制御することが出来る。
【0063】
次に、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕及び(共)重合体〔A2〕の製造方法について説明する。
【0064】
ゴム強化共重合樹脂〔A1〕は、ゴム質重合体〔a〕の存在下に、ビニル系単量体〔b1〕を重合することにより製造することが出来る。重合方法としては、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合が挙げられる。
【0065】
尚、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の製造の際、ビニル系単量体〔b1〕は、ゴム質重合体〔a〕全量の存在下、反応系に一括して又は連続的に添加することが出来る。更に、ゴム質重合体〔a〕の全量又は一部を重合途中で添加して重合してもよい。
【0066】
ゴム強化共重合樹脂〔A1〕を100質量部製造する場合、ゴム質重合体〔a〕の使用量は、通常5〜80質量部、好ましくは10〜70質量部、更に好ましくは15〜65質量部である。また、ビニル系単量体〔b1〕の使用量は、通常20〜95質量部、好ましくは30〜90質量部、更に好ましくは35〜85質量部である。
【0067】
乳化重合によりゴム強化共重合樹脂〔A1〕を製造する場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水などが用いられる。
【0068】
上記の重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方などの還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレイト、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物などが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。更に、上記の重合開始剤は、反応系に一括して又は連続的に添加することが出来る。また、上記の重合開始剤の使用量は、ビニル系単量体〔b1〕全量に対し、通常0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0069】
上記の連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。上記の連鎖移動剤の使用量は、ビニル系単量体〔b1〕全量に対し、通常0.05〜2.0質量%である。
【0070】
上記の乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、高級脂肪族カルボン酸塩、リン酸系などのアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型などのノニオン系界面活性剤などが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。上記の乳化剤の使用量は、ビニル系単量体〔b1〕全量に対し、通常0.3〜5.0質量%である。
【0071】
乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、重合体成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸などの有機酸などが用いられる。
【0072】
尚、複数のゴム強化共重合樹脂〔A1〕を併用する場合には、各樹脂を製造した後、混合してもよいが、他の方法として、各樹脂を各々含むラテックスを混合し、その後、凝固する等により、混合されたゴム強化共重合樹脂〔A1〕とすることが出来る。
【0073】
溶液重合および塊状重合によるゴム強化共重合樹脂〔A1〕の製造方法は、公知の方法を適用することが出来る。
【0074】
(共)重合体〔A2〕は、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の製造に適用される重合開始剤などを用い、ビニル系単量体〔b2〕を、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合などで重合することにより、あるいは、重合開始剤を用いない熱重合により、製造することが出来る。また、これらの重合方法を組み合わせてもよい。
【0075】
(共)重合体〔A2〕の極限粘度[η](メチルエチルケトン中30℃で測定)は、通常0.1〜1.0dl/g、好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度[η]が上記範囲内であると、本発明の組成物は、成形加工性と耐衝撃性との物性バランスに優れる。尚、(共)重合体〔A2〕の極限粘度[η]は、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕の場合と同様、製造条件を調節することにより制御することが出来る。
【0076】
成分〔A〕のアセトン(但し、ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用)による可溶成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中30℃で測定)は、通常0.1〜0.8dl/g、好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度[η]が上記の範囲内であると、本発明の組成物は成形加工性と耐衝撃性との物性バランスに優れる。
【0077】
成分〔A〕が、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕である場合、及び、ゴム強化共重合樹脂〔A1〕と、(共)重合体〔A2〕との混合物から成る場合の何れにおいても、上記のゴム強化樹脂中のゴム質重合体〔a〕の含有量は、通常5〜40質量%、好ましくは8〜30質量%、更に好ましくは10〜25質量%である。ゴム質重合体〔a〕の含有量が上記の範囲内であると、本発明の組成物は、成形加工性、耐衝撃性および耐熱性に優れる。ゴム質重合体〔a〕の含有量が5質量%未満では、耐衝撃性が不十分になる可能性があり、一方、含有量が40質量%を超えると、成形品の外観、耐熱性及び成形加工性が不十分になる可能性がある。
【0078】
(1−2)ポリエステル樹脂〔B〕:
本発明で使用するポリエステル樹脂〔B〕は、分子の主鎖中にエステル結合を有する樹脂であれば、特に限定されず、飽和ポリエステル樹脂であってよいし、不飽和ポリエステル樹脂であってもよい。これらのうち、特に飽和ポリエステル樹脂が好ましい。また、ホモ型ポリエステルであってよいし、共重合ポリエステルであってもよい。更に、結晶性樹脂であってよいし、非晶性樹脂であってもよい。
【0079】
ポリエステル樹脂〔B〕は、例えば、ジカルボン酸成分とジヒドロキシ成分との重縮合、オキシカルボン酸成分又はラクトン成分の重縮合などにより得られたものを使用することが出来る。
【0080】
上記のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸(2,6−ナフタレンジカルボン酸など)、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸などの炭素数8〜16程度の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体;シクロヘキサンジカルボン酸(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸など)、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等の炭素数8〜12程度の脂環式ジカルボン酸又はその誘導体;アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸などの炭素数2〜40程度の脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体などが挙げられる。これらジカルボン酸成分は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。尚、上記の誘導体には、エステル形成可能な誘導体、例えば、ジメチルエステル等の低級アルキルエステル、酸無水物、酸クロライド等の酸ハライド等が含まれる。
【0081】
上記のジヒドロキシ成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、デカンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜12程度のアルキレングリコール等の脂肪族アルキレングリコール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、水素化ビスフェノールA等の脂環族ジオール;ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタァ激塔Wオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールA、ビスフェノールAに対してエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加した付加体(ジエトキシ化ビスフェノールA等)等の芳香族ジオール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ジテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリオキシアルキレングリコール等が挙げられる。上記のジヒドロキシ成分は2種以上を組み合わせて使用することも出来る。尚、上記のジヒドロキシ成分は、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン等の置換基を有してもよい。
【0082】
上記のオキシカルボン酸成分としては、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ジフェニレンオキシカルボン酸等のオキシカルボン酸及びその誘導体等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0083】
また、上記のラクトン成分としては、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0084】
ポリエステル樹脂〔B〕がホモ型ポリエステルである場合、その具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキ
サン−1,4−ジメチルテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用することも出来る。これらのうち、特にポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。
【0085】
また、ポリエステル樹脂〔B〕が共重合ポリエステルである場合、その形成に用いられる一般的なジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸どの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。また、ジヒドロキシ成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の直鎖状アルキレングリコール等の脂肪族アルキレングリコール;ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリ(オキシ−アルキレン)単位を含み、繰り返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリオキシアルキレングリコール等が挙げられる。
【0086】
更に、上記の化合物以外に、必要に応じ、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分又はそのエステル誘導体;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール;没食子酸等の3官能以上の多官能成分又はそのエステル誘導体の1種または2種以上を、重縮合用成分として使用してもよい。
【0087】
本発明において、好ましい共重合ポリエステルは、テレフタル酸及び/又はその誘導体(ジメチルエステル等の低級アルキルエステル、酸無水物、酸クロライド等の酸ハライド等)を主として含むジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを含むジヒドロキシ成分との重縮合などにより得られた重合体であって、ガラス転移温度が0〜75℃の範囲にある共重合型ポリブチレンテレフタレート;テレフタル酸及び/又はその誘導体(ジメチルエステル等の低級アルキルエステル、酸無水物、酸クロライド等の酸ハライド等)を主として含むジカルボン酸成分と、エチレングリコールを含むジヒドロキシ成分との重縮合等により得られた共重合型ポリエチレンテレフタレート等である。これらのうち、共重合ポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。尚、共重合型ポリブチレンテレフタレートは、上記のポリブチレンテレフタレート(PBT)に比し、実質的に、柔軟性があることが知られており、「ソフトPBT」とも呼ばれている。
【0088】
上記のポリブチレンテレフタレートは、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸またはその誘導体とを重縮合して得られるブチレンテレフタレート単位を含む重合体であるが、テレフタル酸又は1,4−ブタンジオールの各々の一部を他の共重合可能な単量体成分で置換して得られた共重合体であってもよい。共重合可能な酸成分としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸が挙げられる。また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリグリコール等が挙げられる。但し、このような共重合可能な単量体成分から成る単量体単位の割合は、重合体全体に対して30モル%未満とするのが好ましい。
【0089】
本発明に使用するポリブチレンテレフタレートとしては、フェノール/テトラクロロエタンの1/1(質量比)の混合溶媒中30℃で測定した固有粘度が0.5〜1.3dl/gであることが好ましく、0.6〜0.8dl/gであることが更に好ましい。
【0090】
ポリエステル樹脂〔B〕の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することが出来る。例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の製造方法としは、テレフタル酸及び/又はそのエステル誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、単数若しくは複数のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下に、通常150〜280℃、好ましくは180〜265℃の温度、及び、通常50〜1000Torr(6666〜133322Pa)、好ましくは70〜760Torr(9333〜101325Pa)の圧力の条件で、攪拌しながら2〜5時間エステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物(オリゴマー)を重縮合反応槽に移送し、単数若しくは複数の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、及び、通常200Torr(26664Pa)以下、好ましくは150Torr(19998Pa)以下の圧力、の条件で、攪拌しながら2〜5時間重縮合反応させる。反応形式は、連続式、半連続式あるいは回分式の何れであってもよい。
【0091】
また、重縮合反応により得られた樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら、あるいは、水冷後、カッターで切断されてペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
【0092】
上記のエステル化反応触媒としては、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ジルコニウム化合物などが挙げられる。これらのうち、チタン化合物が好ましく、その具体例としては、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート;テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。このエステル化反応触媒の使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の理論収量に対し、チタン原子として、通常30〜300ppm、好ましくは50〜200ppmである。
【0093】
また、上記の重縮合反応触媒としては、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒を引き続いて重縮合反応触媒として使用することにより新たな触媒の添加を行わなくてもよいが、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒と同じ触媒を更に添加してもよく、その際の使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の理論収量に対してチタン原子として、通常300ppm以下、好ましくは150ppm以下である。また、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒とは異なる、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物などを新たに添加してもよい。
【0094】
上記のエステル化反応、及び/又は、重縮合反応において、前記触媒の他に、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸及びこれらのエステルや金属塩などの燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物などの反応助剤;2,6−ジ−tert−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物などの抗酸化剤;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸及びそのエステル、シリコーンオイル等の離型剤など、他の添加剤を存在させてもよい。
【0095】
エステル化反応槽としては、例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などの何れの型式であってもよい。また、単数槽としても、同種又は異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。更に、重縮合反応槽としては、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などの何れの型式であってもよく、また、単数槽としても、同種又は異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。
【0096】
(1−3)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体〔C〕:
本発明で使用するエチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体〔C〕は、エチレン単位(以下、「単位〔t1〕」という)と、(メタ)アクリル酸エステルから成る単位(以下、「単位〔t2〕」という)と、一酸化炭素から成る単位(以下、「単位〔t3〕」という)とを含む共重合体である。
【0097】
単位〔t1〕の含有量は、成分〔C〕100質量%に対し、通常30〜90質量%、好ましくは40〜80質量%である。また、単位〔t2〕の含有量は、成分〔C〕100質量%に対し、通常5〜60質量%、好ましくは20〜50質量%である。更に、単位〔t3〕の含有量は、成分〔C〕100質量%に対し、通常1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%である。
【0098】
尚、単位〔t2〕を形成する(メタ)アクリル酸エステルは、この(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基が、直鎖状または分岐状であって、その炭素数は1〜18であり、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基などが挙げられ、このうち炭素数1〜8の化合物が好ましく、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。これらのうち、メタクリル酸メチル及びアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。
【0099】
上記のようなエチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体〔C〕は、特開平9−87484号公報、特許2884180号公報等に開示された方法により製造することがきる。
【0100】
即ち、単量体として、エチレン、アクリル酸エステル及び一酸化炭素を用い、先ず、一酸化炭素及びアクリル酸エステルを反応器の圧力でエチレン供給系に圧入し、次いで、この単量体混合物を反応器の圧力で一緒に又は別々に反応器に圧入することにより製造することが出来る。上記の反応器は、高圧・高温に耐えるもので、高速モーターで駆動する攪拌機と圧力放出弁、ならびに温度調整用の加熱または冷却流体循環用ジャケット付き壁面を有するものが好ましい。この際、必要に応じて、ラジカル重合触媒(過酸化物、過エステル、アゾ化合物、過炭酸塩など)を、他の供給ラインを通じて反応器に圧入してもよい。その後、共重合体と単量体との混合物は、反応器を出て、混合物が分離器へと流れるにつれてその圧力が減少する。単量体は、分離器を出て分解されるか、または、調合用単量体と共に反応器へと圧入循環される。溶融した共重合体は、分離器から出て、冷却されて適当な大きさに切断される。ここで、反応器の温度は、通常140℃以上であり、好ましくは155〜300℃、更に好ましくは155〜225℃である。また、反応器の圧力は、通常3.45×10
7〜4.14×10
8Pa、好ましくは1.38×10
8〜2.41×10
8Paである。
【0101】
成分〔C〕のMFR(JIS K7210に準拠、温度;200℃、加重;19.6N)は、通常1〜500g/10分、好ましくは1〜150g/10分、更に好ましくは3〜130g/10分、特に好ましくは5〜50g/10分である。この範囲の成分〔C〕を使用することにより、本発明の組成物の耐薬品性が一層高められ、層状剥離などの不良現象を抑制することが出来る。
【0102】
更に、成分〔C〕は、本発明の組成物中に均一に分散していることが好ましい。成分〔C〕の粒子径は、通常0.001〜10μm、好ましくは0.01〜5μmである。分散粒子径が0.001μm未満の場合は、得られる組成物の機械的強度が不十分になる可能性があり、一方10μmを超える場合は、成形品外観(光沢度)が不十分になる可能性がある。
【0103】
成分〔C〕としては、市販品を使用することが出来、例えば、「エルバロイ HP4051」、「エルバロイ HP771」(以上、三井・デュポンケミカル社製)等を使用することが出来る。
【0104】
(1−4)ポリカーボネート樹脂〔D〕:
本発明で使用するポリカーボネート〔D〕は、種々のジヒドロキシアリールとホスゲンとの反応(ホスゲン法)、ジヒドロキシアリールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)等の方法によって得られる。代表的なポリカーボネート〔D〕としては、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとホスゲンとの反応により得られる芳香族ポリカーボネートが挙げられる。
【0105】
上記のジヒドロキシアリールとしては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホン、ヒドロキノン、レゾルシン等が挙げられる。また、斯かるジヒドロキシアリールは、その芳香環がハロゲン(好ましくは臭素)やメチル基、エチル基などの有機置換基で置換されていてもよい。
【0106】
ポリカーボネート〔D〕の粘度平均分子量は、通常15,000〜40,000、好ましくは17,000〜30,000、より好ましくは18,000〜28,000である。ポリカーボネート〔D〕の粘度平均分子量が上記の範囲の場合は、成形加工性の特に優れる本発明の熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0107】
(1−5)添加剤:
本発明の塗装用樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限り、難撚剤、充填剤、着色剤、金属粉末、補強剤、可塑剤、相容化剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、耐候剤、老化防止剤、防曇剤、抗菌剤、防かび剤、粘着付与剤、可塑剤などの添加剤を適宜添加することが出来る。着色剤としては、有機顔料、有機染料、無機顔料などが挙げられる。
【0108】
上記の難撚剤としては、リン酸化合物、例えば、ポリリン酸アンモニウム、トリエチルホスフェート、及びトリクレジルホスフェート等が挙げられる。その添加量は、熱可塑性樹脂組成物を100質量%とした場合、通常1〜20質量%である。
【0109】
上記の充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ミルドファイバー、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー等が挙げられる。充填剤の添加量は、前記の成分〔A〕〜〔D〕の合計100質量部に対し、通常1〜50質量部である。
【0110】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じ、他の樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド等を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することが出来る。
【0111】
[2]熱可塑性樹脂組成物の製造方法:
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、成分〔A〕/成分〔B〕/成分〔C〕/成分〔D〕の配合量は、上記成分〔A〕、〔B〕、〔C〕及び〔D〕の合計を100質量部として、10.0〜78.9/1〜30/0.1〜10.0/20〜80質量部、好ましくは15〜70/2〜20/0.3〜8.0/25〜75質量部、更に好ましくは20〜65/3〜10/0.5〜6.0/28〜70質量部、特に好ましくは25〜45/3.5〜8.0/1〜4/40〜70質量部である。
【0112】
成分〔B〕の含有量が1.0質量部未満では、本発明の組成物の耐薬品性が不十分となり、シンナー等の有機溶剤の吸い込みにより塗装不良(ワキ)が発生する。一方、成分〔B〕の含有量が30.0質量部を超えると、本発明の組成物の相溶性が低下し、剥離が発生し易くなる。また、塗料をはじき易くなるため、塗装外観が低下する。成分〔C〕の含有量が0.1質量部未満では、成分〔A〕と成分〔B〕の相溶性が低下し、本発明の組成物の耐薬品性が不十分となり、塗装不良(ワキ)、塗装外観の低下が発生する。一方、成分〔C〕の含有量が10.0質量部を超えると、成分〔A〕と成分〔B〕の相溶性が低下し、剥離が発生し易くなる。また、耐熱性も低下する。成分[D]の含有量が20.0質量部未満では、本発明の組成物の耐熱性と対衝撃性の十分な改善効果が発現されない。一方、成分[D]の含有量が80.0質量部を超えると、本発明の組成物の耐薬品性が不十分となり、塗装不良(ワキ)、塗装外観が低下する。また、MFRが下がり成形加工性が低下する。また、成分[B]と成分[D]([B]/[D]:質量比)は0.07から0.15が好ましい。上記の質量比が0.07未満では塗装不良(ワキ)が生じる場合があり、0.15超過では剥離が発生する場合がある。更に、成分[C]と成分[D]([C]/[D]:質量比)は0.02から0.13が好ましい。上記の質量比が0.02未満では塗装外観が悪くなる場合があり、0.13超過では剥離が発生する場合がある。
【0113】
本発明の好ましい態様においては、充填剤としてタルク[E]を含有する。タルク[E]の含有量は、前記の成分〔A〕〜〔D〕の合計100質量部に対し、1〜50質量部、好ましくは5〜30質量部、更に好ましくは8〜25質量部、特に好ましくは10〜20質量部である。タルク[E]含有量が上記範囲未満では、本発明の組成物の線膨張係数の改良は見られない。一方、タルク[E]含有量が上記範囲を超えると、本発明の組成物の成形加工性が低下し、成形品表面外観が低下する。
【0114】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等により、原料成分を混練することにより調製することが出来、所定形状のペレット等とすることが出来る。混練温度は、各原料成分の種類、量などにより選択されるが、通常180〜300℃、好ましくは200〜280℃である。原料成分の使用方法は、特に限定されず、各成分を一括配合して混練してもよく、多段に分割配合して混練してもよい。
【0115】
[3]成形品:
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形、共押出成形、シート押出成形、異形押出成形、発泡成形、真空成形、ブロー成形、圧縮成形、キャスト成形、ロール成形などの公知の成形法により、所定形状の成形品とすることが出来る。特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、従来ブロー成形で製造されていたスポイラー等の大型成型品を射出成形を製造するのに好適である。
【0116】
本発明の成形品に対する塗装方法は、特に制限はなく、静電塗装、粉体塗装、電着塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装などの従来公知の塗装方法が挙げられる。塗装に使用する塗料としては、アクリル樹脂塗料、フェノール樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、塩化ビニル樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、不飽和樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、油性塗料、粉体塗料、エナメル系塗料、水溶性樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂系塗料、アクリルメラミン樹脂系塗料、ポリエステルメラミン樹脂系塗料などが挙げられるが、これらのうち、エナメル塗装、アクリル塗装、ウレタン塗装およびメラミン塗装が特に好ましい。
【0117】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、塗装性、耐衝撃性、成形性および耐薬品性のバランスに優れ、例えば、大型の成形品を塗装しても良好な塗装外観を得ることが出来ることから、車両、家電、建材分野などの広範な分野に用いられる。特に車両分野において好適に用いられ、フロントグリル、ホイールキャップ、バンパー、フェンダー、スポイラー、ガーニッシュ等の塗装を必要とする大型部品用途として好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0118】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。また、以下の諸例で採用した評価方法は次の通りである。
【0119】
(1)評価方法
【0120】
(1−1)シャルピー衝撃強さ(C−IMP):
ISO179に準じて、室温におけるシャルピー衝撃強さ(Edgewise Impact、ノッチ付き)を測定した。測定条件は、次の通りである。
試験片タイプ : Type 1
ノッチタイプ : Type A
荷重 : 2J
【0121】
(1−2)マスメルトフローレート(MFR):
ISO1133に準じ、測定温度240℃、荷重98Nの条件で測定を行った。
【0122】
(1−3)熱変形温度(HDT):
ISO75に準じ、荷重1.80MPaの条件で測定を行った。
【0123】
(1−4)塗装不良(ワキ):
FANAC株式会社製の射出成形機「α−150」(型式名)を用い、表1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる、150mm×70mm×3mmの試験片を射出成形した。射出成形時の樹脂温度は260℃、金型温度は5℃、射出速度は5mm/sであった。得られた試験片を以下の手順(i)〜(vi)に従って塗装し、その判定を行った。
【0124】
<(i)状態調節>
射出成形した試験片を、0℃にコントロールした恒温層内に12時間以上放置して状態調節を行った。
<(ii)ベース塗装>
合成樹脂エナメル塗料53部及び合成樹脂塗料用シンナー47部(但し、これら成分の合計は100部)からなるベース塗装用塗料を調製し、吹き付け塗装を行った。塗膜厚さは20〜30μmであった。
<(iii)1分間放置>
(ii)の試験片を、1分間放置した。
<(iv)クリア塗装>
合成樹脂クリア塗料56部、合成樹脂塗料用シンナー22部、及び、硬化剤22部(但し、これら成分の合計は100部)からなるクリア塗装用塗料を調製し、吹き付け塗装を行った。塗膜厚さは30〜40μmであった。
<(v)10分間放置>
クリア塗装後の試験片を、10分間放置した。
<(vi)乾燥>
(v)の試験片を、温度80℃、30分間の条件で乾燥を行った。
乾燥後の試験片の塗装表面を観察し、塗装不良(ワキ)の発生を、以下の評価基準に基
づいて判定を行った。
【0125】
<塗装不良(ワキ)の評価>
○:試験片表面にワキ不良は発生しなかった。
△:試験片表面にワキ不良が1〜10個発生した。
×:試験片表面にワキ不良が11個以上発生した。
【0126】
(1−5)塗装外観:
塗装評価(ワキ)の評価で準備した試験片について、ワキ以外の塗装不良の発生を、以下の基準に基づいて判定を行った。
【0127】
<塗装不良(ワキ以外)の評価基準>
○:試験片全体に塗装不良の発生はなく、美麗な塗装外観が得られた。
△:試験片の一部に塗装不良(クラック等)が発生した。
×:試験片全体にわたって塗装不良(クラック等)が発生し、美麗は塗装外観が得られなかった。
【0128】
(1−6)剥離試験:
FANAC株式会社製の射出成形機「α−150」(型式名)を用い、表1に記載の塗装用樹脂組成物からなる試験片を射出成形した。射出成形時の樹脂温度は260℃、金型温度は50℃、射出速度は80mm/sであった。
【0129】
図1(a)は上記の試験片の底面図、
図1(b)は
図1(a)のA−A断面図である。各図中の寸法は次の通りである。すなわち、L=150mm、W=70mm、T=3mm、L1=45mm、L0=6mm、W1=3mm、T0=2mmである。
【0130】
剥離試験は、試験片(1)のゲート(2)の左右2箇所に切り込み(3)を入れ(切り込みの長さは2mm)、ゲート(2)をペンチで挟み、
図1(b)の矢示する方向へ引っ張り、その際、試験片(1)の表面に剥離が生じるか否かを観察し、以下の評価基準に基づいて判定した。
【0131】
<剥離の評価基準>
○:ゲート近傍に剥離は発生しなかった。
△:ゲートから成形品に向かって剥離が発生した。剥離の長さはゲートから5mm以下であった。
×:ゲートから成形品に向かって剥離が発生した。剥離の長さはゲートから5mmを超えた。
【0132】
(1−7)線膨張係数:
射出成形により得た50mm×10mm×4mmの試験片を80℃で2時間アニールした後、23℃の雰囲気中て基準となる成形品長さを測定した。その後30℃、50℃、及び70℃の各温度における成形品長さを測定し、23℃から70℃までの1℃当たりの長さの平均変化率を線膨張係数(単位は、×10
−5/℃)とした。なお、成形品長さは、MITUTOYO製LASERSCAN MICROMETER 1000にて測定した。
【0133】
(2)塗装用樹脂組成物の原料成分
【0134】
(2−1)成分〔A〕:
【0135】
(2−1−1)ゴム強化共重合樹脂(A1−1):
ゲル分率86%、平均粒子径290nmのポリブタジエンゴムの存在下、スチレン及びアクリロニトリルを乳化重合して得られた、グラフト率が53%のジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂91.8%と、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂8.2%とからなるゴム強化樹脂である。ジエン系ゴム質重合体強化ビニル系樹脂におけるグラフト率は53%であり、ゴム強化樹脂に含まれるポリブタジエンゴムの含量は60.0%、アクリロニトリル単位量は10%、スチレン単位量は30%であった。また、未グラフトのアクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(アセトン可溶分)の固有粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.45dl/gであった。
【0136】
(2−1−2)共重合体(A2−1):
スチレン単位量が76%、アクリロニトリル単位量が24%のアクリロニトリル・スチレン共重合体であり、固有粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.42dl/gであった。
【0137】
(2−1−3)共重合体(A2−2):
電気化学工業株式会社製「デンカIP MS−NIP(商品名)」(スチレン・N−フェニルマレイミド・無水マレイン酸共重合体、N−フェニルマレイミド単位含有率38.5%)
【0138】
(2−2)成分〔B〕:
【0139】
(2−2−1)ポリエステル樹脂(B−1):
ウィンテックポリマー株式会社製「ジュラネックス200FP(商品名)」(PBT)
【0140】
(2−3)成分〔C〕:
【0141】
(2−3−1)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体(C−1):
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体(商品名「エルバロイHP−4051」、三井・デュポンポリケミカル社製)を使用した。JIS K7210に準ずるMFR(温度;200℃、荷重;19.6N)は、12g/10分である。
【0142】
(2−4)成分[D]:
【0143】
(D−1)PC
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「NOVAREX 7022PJ」(商品名)を用いた。粘度平均分子量(Mv)は、22,000であり、MFR(温度240℃、荷重98N)は、9g/10分である。
【0144】
(2−5)成分[E]:
【0145】
(2−5−1)タルク粒子(E−1):
日本タルク社製「ミクロエース P−3RC」(商品名)を用いた。平均粒子径は5.0μmである。
【0146】
エチレンビスステアリン酸アマイド(商品名「カオーワックス EB−P」、花王社製)を使用した。
【0147】
(2−6)成分[F]:
【0148】
(2−6−1)滑剤(F−1):
硬化ヒマシ油(商品名「カオーワックス 85P」、花王社製)を使用した。
【0149】
(2−6−2)酸化防止剤(F−2):
3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−N−オクタデシルプロピオネート(商品名「アデカスタブ AO−50」、アデカ社製)を使用した。
【0150】
(2−6−3)酸化防止剤(D−3):
ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名「アデカスタブPEP−36」、アデカ社製)を使用した。
【0151】
実施例1〜14及び比較例1〜5:
表1〜表3に記載の配合割合で、上記成分〔A〕〜〔F〕をヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44、バレル設定温度240℃)で混練し、塗装用樹脂組成物をペレット化した。得られたペレットで評価用の各試験片を成形し、前記の評価を行い、その結果を表1及び表2に示した。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【0155】
表1〜表3から以下のことが明らかである。
【0156】
比較例1は、成分〔A〕の含有量が本発明の範囲外に多く、成分〔D〕の含有量が本発明の範囲外に少ない例であるが、耐熱性、耐衝撃性が悪かった。
比較例2は、成分〔C〕の含有量が本発明の範囲外に多い例であるが、耐熱性が悪く、成形品に剥離が生じた。
比較例3は、成分〔D〕の含有量が本発明の範囲外に多い例であるが、MFRが悪く、塗装不良(ワキ)が生じ、塗装外観が悪かった。
比較例4は、成分〔B〕の含有量が本発明の範囲外に少ない例であるが、塗装不良(ワキ)が生じた。
比較例5は、成分〔C〕の含有量が本発明の範囲外に少ない例であるが、塗装不良(ワキ)が生じ、塗装外観が悪かった。