特許第6853485号(P6853485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853485粉体状1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853485
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】粉体状1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
(51)【国際特許分類】
   C07C 61/09 20060101AFI20210322BHJP
   C07C 51/09 20060101ALI20210322BHJP
   C07C 51/43 20060101ALI20210322BHJP
   C07C 51/36 20060101ALI20210322BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   C07C61/09
   C07C51/09
   C07C51/43
   C07C51/36
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-504540(P2018-504540)
(86)(22)【出願日】2017年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2017009141
(87)【国際公開番号】WO2017154947
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-46582(P2016-46582)
(32)【優先日】2016年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎也
(72)【発明者】
【氏名】石橋 義宏
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 貫剛
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−330239(JP,A)
【文献】 特開2010−254849(JP,A)
【文献】 特表平7−507041(JP,A)
【文献】 日本画像学会誌,2007年,Vol. 46, No. 6,pp. 472-477
【文献】 BETNEV, A.F. et al.,Synthesis of Polycarboxylic Acids of Cyclohexane Series and Their Derivatives,Russian Journal of Organic Chemistry,1999年,Vol. 35, No. 4,pp. 519-521,ISSN 1070-4280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 61/09
C07C 51/09
C07C 51/36
C07C 51/43
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であって、
その粉体の粒度分布(体積基準)が、D10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、D90が170〜800μmの範囲であり、かつ、ゆるみ嵩密度が0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度が0.5〜1.0g/cm、圧縮度が10〜23%であり、
当該粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が、下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも1つを満たし;
(a)シクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)の含有量が0.1%以下、
(b)シクロヘキサンカルボン酸の含有量が0.1%以下、
(c)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)の含有量が0.1%以下、
(d)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸の含有量が0.3%以下、
(e)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノアルキル(C1〜C4)の含有量が0.5%以下、
かつ、下記(i)〜(iii)からなる群から選ばれる少なくとも1つを満たす;
(i)アルカリ金属含有量(重量基準):20ppm以下、
(ii)水分含有量:0.1重量%以下、
(iii)色数(ハーゼン):50以下、
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【請求項2】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体とトランス体の比率が、50:50〜90:10である、請求項1に記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【請求項3】
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のテレフタル酸ジアルキル(C1〜C4)、テレフタル酸モノアルキル(C1〜C4)及びテレフタル酸の合計含有量が0.2%以下である、請求項1又は2に記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【請求項4】
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を製造する方法であって、
(1)テレフタル酸ジアルキル(C1〜C4)を核水素化して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を得る工程、
(2)前記工程(1)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を、水又は水を含有する溶媒の存在下、酸性触媒存在下で加水分解して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を得る工程、
(3)前記工程(2)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を晶析する工程、
(4)前記工程(3)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の結晶を固液分離する工程、
(5)前記工程(4)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶を、乾燥する工程、乾燥及び造粒する工程、又は乾燥及び粉砕する工程(ここで、当該湿結晶を乾燥する工程が、湿結晶を撹拌しながら乾燥する工程である)、並びに
必要に応じて、(6)前記工程(5)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の粉体を分級する工程、
を含む、製造方法。
【請求項5】
請求項1〜いずれかに記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸をポリマー原料として使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、医薬品、合成樹脂、合成繊維、染料等の原料として有用である。特に近時、耐熱性、電気特性、光学特性から光学材料、電子材料用途のポリエステル樹脂の酸成分として高純度の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の需要が高まっている。
【0003】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の製造方法としては、テレフタル酸のジナトリウム塩を、水溶液中でその芳香環を水素化して1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のジナトリウム塩とし、これを塩酸、硫酸等で酸析して1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を得る方法(特許文献1)が一般的である。しかしながら、この方法で製造された1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、製造方法由来のナトリウム等の金属や、酸析に用いた塩素や硫黄等を含有する酸成分が残存するために、この1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を原料としたポリマーでは重合度が上がり難いということや、残留する酸成分のため装置等の金属腐食や電気特性への影響の懸念が問題となることがあった。
【0004】
また、その他の方法としてテレフタル酸を直接核水素化する方法(特許文献2〜4)も知られている。これらの方法は、いずれもシクロヘキサンカルボン酸、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸等のモノカルボン酸類の不純物の副生が避けられず、しかもこの不純物であるモノカルボン酸類は、再結晶等の通常の方法では分離は容易ではない。このためにこれら不純物を含有する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を原料としたポリマーでは重合度が上がり難いということや、耐熱性、耐候性、物理的強度等の特性への影響の懸念が問題となることがあった。
【0005】
また、テレフタル酸ジアルキルを核水素化し、得られた1,4−シクロヘキサンカルボン酸ジアルキルを水溶液中で酸性触媒存在下に加水分解反応させて1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を得る方法で、その加水分解時に水及び加水分解反応中に副生するアルコールを反応系外に連続的に蒸発させながら、水を反応系に連続的又は間欠的に添加する方法(特許文献5)も提案されている。
【0006】
ところで、一般的に上述の通り、有機化合物において純度の向上及び不純物の低減が解決しようとする主題となりうるが、有機化合物が粉体の形態である場合、粉体取り扱い性が良好であるか否かは工業的に重要な問題となる。粉体取り扱い性として、主に粉体流動性と噴流性が評価され、その粉体流動性及び噴流性の程度によっては、機械的な対応装置の設置や作業環境の整備などが必要となることがあり、その場合には経済的に不利益となる。そして、その問題の解決に当たっては、有機化合物は同じ化学構造であっても、その製造履歴、保管履歴、物質固有の性質(粘着性、付着性等)などの影響により粉体特性が異なるために容易に問題解決に至らないことが多い。即ち、粉体特性に影響する原因の特定の困難さが粉体取り扱い性の改良の難易度を上げる要因の一つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開93/06076号パンフレット
【特許文献2】特開昭58−198439号公報
【特許文献3】米国特許第6291706号明細書
【特許文献4】特開2003−128622号公報
【特許文献5】特開2005−330239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、粉体流動性が良好な1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の項を要旨とする粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びその製造方法を提供するものである。
【0010】
(項1)
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であって、その粉体の粒度分布(体積基準)が、D10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μm、D90が170〜800μmの範囲であり、かつ、ゆるみ嵩密度が0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度が0.5〜1.0g/cm、圧縮度が10〜23%である、粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【0011】
(項2)
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体とトランス体の比率が、50:50〜90:10である、項1に記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【0012】
(項3)
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のテレフタル酸ジアルキル(C1〜C4)、テレフタル酸モノアルキル(C1〜C4)及びテレフタル酸の合計含有量が0.2%以下である、項1又は項2に記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【0013】
(項4)
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が、下記(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも1つを満たし;
(a)シクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)の含有量が0.1%以下、
(b)シクロヘキサンカルボン酸の含有量が0.1%以下、
(c)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)の含有量が0.1%以下、
(d)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸の含有量が0.3%以下、
(e)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノアルキル(C1〜C4)の含有量が0.5%以下、
かつ、下記(i)〜(iii)からなる群から選ばれる少なくとも1つを満たす;
(i)アルカリ金属含有量(重量基準):20ppm以下、
(ii)水分含有量:0.1重量%以下、
(iii)色数(ハーゼン):50以下、
項1〜3の何れかに記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【0014】
(項5)
安息角が46度以下、及び分散度が20%以上である、項1〜4の何れかに記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
【0015】
(項6)
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を製造する方法であって、
(1)テレフタル酸ジアルキル(C1〜C4)を核水素化して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を得る工程、
(2)前記工程(1)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を、水又は水を含有する溶媒の存在下、酸性触媒存在下で加水分解して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を得る工程、
(3)前記工程(2)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を晶析する工程、
(4)前記工程(3)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の結晶を固液分離する工程、
(5)前記工程(4)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶を、乾燥する工程、乾燥及び造粒する工程、又は乾燥及び粉砕する工程、並びに
必要に応じて、(6)前記工程(5)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の粉体を分級する工程、
を含む、製造方法。
【0016】
(項7)
工程(5)における湿結晶を乾燥する工程が、湿結晶を撹拌しながら乾燥する工程である、項6に記載の製造方法。
【0017】
(項8)
工程(2)において、反応液用量を基準とした液空間速度で0.05〜0.5/hの範囲になるように水を反応系に連続的又は間欠的に添加して加水分解反応することを特徴とする、項6又は項7に記載の製造方法。
【0018】
(項9)
項6〜項8のいずれかに記載の製造方法より製造された粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸。
(項10)
項1〜5及び項9のいずれかに記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のポリマー原料として使用する方法。
(項11)
項1〜5及び項9のいずれかに記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いてポリマーを製造する方法。
(項12)
項1〜5及び項9のいずれかに記載の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とアルコール又はアミンを反応させて、ポリエステル又はポリアミドを製造する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、粉体流動性が良好である。また、上記項3〜7の発明によれば、粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、さらに高純度である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は粉体であり、その粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の粒度分布(体積基準)は、D10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜800μmの範囲であり、好ましくは、D10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜600μmの範囲であり、より好ましくは、D10が10〜50μmの範囲、D50が45〜130μmの範囲、かつ、D90が175〜500μmの範囲が推奨される。さらに好ましくは、D10が13〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜350μm、特に好ましくは、D10が15〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜300μmが推奨される。
【0021】
本発明に係る粒度分布(D10、D50、D90、平均粒子径)は、レーザー回折・光散乱法を用いた乾式法での測定値である。当該測定法の測定装置としては、マイクロトラック・ベル(株)、マルバーン社(Malvern Instruments Ltd.)、ベックマン・コールター社(Beckman Coulter, Inc.)、及び島津製作所(株)から市販されている測定装置は精度が高く、本発明の分析に有効に使用できる。
【0022】
粒度分布(D10、D50、D90、平均粒子径)の値はそれぞれ、同一の粉体について2以上のサンプル(n≧2)をサンプリングし、各サンプルの粒度分布(D10、D50、D90、平均粒子径)を測定してそれらの算術平均値で表した数値である。
【0023】
また、粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の嵩密度については、ゆるみ嵩密度と固め嵩密度があり、ゆるみ嵩密度は疎充填嵩密度とも呼ばれ、粉体を一定量のメスシリンダーに振動を加えずに充填した際の見かけ密度である。固め嵩密度は、密充填嵩密度とも呼ばれ、ゆるみ嵩密度の測定後、充填された粉体を、シリンダーを特定回数タッピングすることによって、再度充填したものである。さらに、得られたゆるみ嵩密度と固め嵩密度から圧縮度(%)を計算することができる。圧縮度は、嵩減りの度合いを示すものであり、粉体流動性の指標の一つである。一般的に、圧縮度が大きいほど粉体流動性が悪く、圧縮度が小さいほど粉体流動性が良好である。
【0024】
本発明に係る粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸では、通常、ゆるみ嵩密度は0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度は0.5〜1.0g/cm、及び圧縮度は10〜23%であり、好ましくは、ゆるみ嵩密度が0.5〜0.75g/cm、固め嵩密度が0.6〜0.95g/cm、及び圧縮度が10〜22%であり、より好ましくはゆるみ嵩密度が0.6〜0.7g/cm、固め嵩密度が0.7〜0.85g/cm、及び圧縮度が10〜21%である。
【0025】
上述の粒度分布の範囲、嵩密度の範囲及び圧縮度の範囲とすることにより、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の良好な粉体流動性が得られる。当該範囲外で粉体が細かい範囲側にあると粉体流動性が悪くなる傾向がある。一方、当該範囲外で粉体が大きい範囲側にあると不純物を包含し易くなり、純度が低下する傾向がある。
【0026】
好ましい態様の組合せとしては、以下の組合せが挙げられる。
10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜800μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度は0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度は0.5〜1.0g/cmである。
10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜600μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度は0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度は0.5〜1.0g/cmである。
10が10〜50μmの範囲、D50が45〜130μmの範囲、かつ、D90が175〜500μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度は0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度は0.5〜1.0g/cmである。
10が13〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜350μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度は0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度は0.5〜1.0g/cmである。
10が15〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜300μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度は0.4〜0.8g/cm、固め嵩密度は0.5〜1.0g/cmである。
10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜800μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.5〜0.75g/cm、固め嵩密度が0.6〜0.95g/cmである。
10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜600μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.5〜0.75g/cm、固め嵩密度が0.6〜0.95g/cmである。
10が10〜50μmの範囲、D50が45〜130μmの範囲、かつ、D90が175〜500μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.5〜0.75g/cm、固め嵩密度が0.6〜0.95g/cmである。
10が13〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜350μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.5〜0.75g/cm、固め嵩密度が0.6〜0.95g/cmである。
10が15〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜300μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.5〜0.75g/cm、固め嵩密度が0.6〜0.95g/cmである。
10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜800μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.6〜0.7g/cm、固め嵩密度が0.7〜0.85g/cmである。
10が5〜55μmの範囲、D50が40〜200μmの範囲、かつ、D90が170〜600μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.6〜0.7g/cm、固め嵩密度が0.7〜0.85g/cmである。
10が10〜50μmの範囲、D50が45〜130μmの範囲、かつ、D90が175〜500μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.6〜0.7g/cm、固め嵩密度が0.7〜0.85g/cmである。
10が13〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜350μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.6〜0.7g/cm、固め嵩密度が0.7〜0.85g/cmである。
10が15〜45μmの範囲、D50が50〜100μmの範囲、かつ、D90が180〜300μmの範囲の場合、ゆるみ嵩密度が0.6〜0.7g/cm、固め嵩密度が0.7〜0.85g/cmである。
【0027】
特に、粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の粉体流動性を良好とするには、圧縮度とD50の粒度分布の関係が重要である。具体的には、圧縮度が10〜23%であり、かつ、D50が40〜200μmの範囲であり、好ましくは、圧縮度が10〜22%、かつ、D50が45〜130μmの範囲が推奨される。さらに好ましくは、圧縮度が10〜21%、かつ、D50が50〜100μmが推奨される。
【0028】
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の平均粒子径は、通常35〜220μmであり、好ましくは40〜200μmであり、より好ましくは45〜130μmである。
【0029】
また、粉体流動性の指標の一つである安息角については、好ましくは46度以下、より好ましくは45度以下、特に40度以下とすることが推奨される。前記安息角は、通常、粉体を水平な面に漏斗のようなもので静かに落下させた時に生ずる円錐体の母線と水平面のなす角をいう。粒子の大きさと粒子の角の丸みや形状により決まる。
【0030】
また、噴流性の指標の一つである分散度については、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上が推奨される。前記分散度は、通常、一定量の粉体を一定の高さから自然落下させたとき、落下地点に置いてあるテーブル台にどの程度粉体が飛散せずにそのテーブル台に残ったかを計量して算出される。
【0031】
安息角及び分散度は公知の測定方法及び粉体特性評価装置を用いて測定できる。例えば、当該装置としては、(株)セイシン企業のマルチテスターMT-01、MT-02、ホソカワミクロン(株)のパウダーテスターPT-X等を用いて測定することができる。
【0032】
本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、製造方法や製造条件によっては、不純物としてテレフタル酸ジアルキル(C1〜C4)、テレフタル酸モノアルキル(C1〜C4)またはテレフタル酸を含有することがある。粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のこれら不純物の合計含有量は、通常0.2%以下、好ましくは0.1%以下、特に0.001〜0.05%であることが推奨され、そのような高純度の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、高い性能が要求される各種用途において好適に用いられる。
【0033】
本明細書において「アルキル(C1〜C4)」とは、炭素数1〜4のアルキル(具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル又はtert−ブチル)を意味する。なお、「ジアルキル(C1〜C4)」とは、2つの炭素数1〜4のアルキルを意味し、当該2つの炭素数1〜4のアルキルは同一又は異なっていてもよい。
【0034】
また、本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、製造方法や製造条件によっては、次の(a)〜(e)の不純物を含有することもある。
(a)シクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)、
(b)シクロヘキサンカルボン酸、
(c)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)、
(d)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸、
(e)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノアルキル(C1〜C4)。
【0035】
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中における、前記(a)〜(e)の不純物の含有量は、例えば、次の通りである。
(a)シクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)の含有量は、通常0.1%以下(好ましくは0.05%以下、特に0.001〜0.05%)、
(b)シクロヘキサンカルボン酸の含有量は、通常0.3%以下(好ましくは0.1%以下、特に0.001〜0.1%)、
(c)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸アルキル(C1〜C4)の含有量は、通常0.1%以下(より好ましくは0.05%以下、特に0.001〜0.05%)
(d)4−メチルシクロヘキサンカルボン酸の含有量は、通常0.3%以下(好ましくは0.2%以下、特に0.001〜0.2%)、
(e)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノアルキル(C1〜C4)の含有量は、通常0.5%以下(好ましくは0.2%以下、特に好ましくは0.001〜0.2%)。
【0036】
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、上記(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも1つ(好ましくは2つ、より好ましくは3つ、さらに好ましくは4つ、特に好ましくは全て)を満たすことが望ましい。
【0037】
本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を高純度で含むことが好ましい。粉体中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の含有量(純度)は、通常98%以上、好ましくは98.5%以上、より好ましくは99%以上である。
【0038】
本明細書における1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の純度及び不純物の含有量の「%」表示は、ガスクロマトグラフ分析による「単純面積百分率」を意味する。
【0039】
なお、上記不純物の含有量を上限値のみで規定したものは、下限値は0%であり、これは後述のガスクロマトグラフ分析において検出限界以下(以下では「痕跡程度」という表現する場合がある)を意味する。不純物の含有量は、用途によって許容される範囲があり、また工業的レベルでの製造における品質管理上で許容される範囲がある。両者の観点を考慮して、より好ましい範囲として設定することができる。
【0040】
前記不純物は、テレフタル酸ジアルキルを核水素化した後に加水分解して1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を得る製造方法に由来する不純物であり、これら不純物が多量に含有する1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を使用した場合、ポリマーでは重合度が上がり難いことや、耐熱性、耐候性、物理的強度等の特性への悪影響をもたらすことがある。本発明では、例えば、上記(項5)〜(項7)等に記載の製造方法を採用することにより、上記不純物を極力減少させることができる。
【0041】
さらに、粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、次の(i)〜(iii)の物性を有することが推奨される。
(i)アルカリ金属含有量(重量基準)は、通常20ppm以下(好ましくは10ppm以下)、
(ii)水分含有量は、通常0.1重量%以下(好ましくは0.06重量%以下、特に好ましくは0.04重量%以下)、
(iii)色数(ハーゼン)は、通常50以下(好ましくは30以下、特に好ましくは20以下)。
【0042】
粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、上記(i)〜(iii)からなる群から選ばれる少なくとも1つ(好ましくは2つ、より好ましくは3つ)を満たすことが、高純度かつ着色の低減となるため望ましい。
【0043】
上記不純物の物性値(i)及び(ii)において上限値のみで規定しており、それぞれ下限値は0ppm及び0重量%である。これは後述の金属分析又は水分含有量測定(カールフィッシャー滴定)において検出限界以下(以下では「痕跡程度」という表現する場合がある)を意味する。物性値(i)(アルカリ金属含有量)は、通常ナトリウムとカリウムの総量を意味するが、実質的にはナトリウムの含有量を意味する。物性値iii)の色数(ハーゼン)も上限値のみで規定しており、下限値は0である。
【0044】
前記(i)〜(iii)の物性値は、用途によっては前記不純物と同様の影響をもたらすことがある物性値である。また(ii)の水分含有量は、純度に対して影響することは勿論であるが、上記粉体流動性にも影響する物性である。前記物性値(i)及び(ii)の含有量は、全て重量基準である。
【0045】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、シス体(cis体)とトランス体(trans体)の幾何異性体が存在する。本発明において、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体とトランス体の比率は、好ましくはシス体:トランス体=50:50〜90:10の範囲、より好ましくはシス体:トランス体=65:35〜85:15の範囲が推奨される。
【0046】
本明細書における1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体とトランス体の比率は、ガスクロマトグラフ分析による「単純面積百分率」の比で表される。
【0047】
本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の「粉体」とは、本明細書及び特許請求の範囲において、粉末、顆粒、粒状、細粒などの総称として使用している。また通常、当該粉体は、針状、板状、柱状等の結晶あるいは不定形の結晶などの集合体として形成されている。
【0048】
本発明の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の製造方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0049】
具体的には、(1)テレフタル酸ジアルキル(C1〜C4)を核水素化して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を得る工程、(2)水又は水を含有する溶媒の存在下、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を酸性触媒存在下で加水分解して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を得る工程、(3)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を晶析する工程、(4)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の結晶を固液分離する工程、及び(5)前記工程(4)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶を乾燥する工程、前記工程(4)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶を乾燥及び造粒する工程、又は前記工程(4)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶を乾燥及び粉砕する工程、を含む製造方法が推奨される。さらに必要に応じて、(6)前記工程(5)で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の粉体を分級する工程、を使用目的に応じて含めることができる。
【0050】
前記工程に沿ってさらに具体的に説明すると次の通りである。
工程(1):
テレフタル酸ジアルキルを、通常、ニッケル触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、白金触媒又はロジウム触媒(特に好ましくはルテニウム触媒)の存在下に芳香環を核水素化することにより、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を製造することができる。このような製造方法としては、例えば、特開昭54−163554号、特開平6−192146号、特開平7−149694号、国際公開第98/00383号パンフレット、特開2000−1447号等に記載の方法が挙げられる。
それらのなかでも、特開2000−1447号公報に記載の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルの製造方法は、純度が98%以上の目的物が得られること、シクロヘキサンカルボン酸アルキルや4−メチルシクロヘキサンカルボン酸アルキル等の不純物の副生が少量であることから好ましい。
本発明に係るテレフタル酸ジアルキル(C1〜C4)の具体例としては、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジn−プロピル、テレフタル酸ジイソプロピル、テレフタル酸ジn−ブチルなどが挙げられ、なかでもテレフタル酸ジメチルが好ましい。
【0051】
工程(2):
テレフタル酸ジアルキルの核水素化反応により製造された1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)を加水分解する際に用いられる酸触媒としては、具体的には、塩酸,硫酸、硝酸などの鉱酸;メタンスルホン酸,p−トルエンスルホン酸などの有機酸;リンタングステン酸等のヘテロポリ酸;スルホン酸型陽イオン交換樹脂等の固体酸などが例示され、なかでも塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸が好ましい。
【0052】
前記酸触媒の使用量としては、通常、原料1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)に対して0.5〜10重量%程度、好ましくは、1〜7重量%程度が推奨される。通常、加水分解反応の反応溶媒として、水又は水を含有する溶媒(好ましくは水)が使用される。前記水の具体例としては、水道水、イオン交換水、逆浸透膜処理水、限外濾過膜処理水、蒸留水等が挙げられ、なかでもイオン交換水、蒸留水等の精製水が金属混入の防止の観点から好ましい。
【0053】
加水分解反応における水の使用量としては、基質として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアルキル(C1〜C4)の濃度が2〜50重量%、好ましくは10〜40重量%の範囲が推奨される。加水分解反応の反応温度として、常圧(大気圧)下では、通常90〜100℃、好ましくは98〜100℃の範囲が推奨される。また反応時間としては、通常1〜15時間の範囲である。加水分解反応は平衡反応であるため、平衡を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が生成する側(加水分解側)に偏らせることが肝要である。その方法の一つとして、水と加水分解反応で副生するアルコールを連続的に反応系外に留出させて除去する方法が例示される。前記の方法を使用するとき、その除去操作と同時に、留出水又は水と副生アルコールとの留出物と同重量の水を反応系に連続的又は間欠的に添加する操作を行うことが好ましい。この除去操作において、留出物である水又は水とアルコールとの混合物と共に、前記核水素化反応により副生するシクロヘキサンカルボン酸アルキルや4−メチルシクロヘキサンカルボン酸アルキル等の不純物を同伴して反応系外に除去することができるので、高純度化の観点から、この除去操作は好ましい態様であると言える。
【0054】
なお、水の添加方法は特に限定はない。反応温度の低下を防ぐため所定の温度に加熱して添加することが好ましい。反応系に連続的又は間欠的に添加する水の使用量は、反応液容量を基準とした液空間速度で、通常、0.05〜0.5/hの範囲、好ましくは0.05〜0.4/hの範囲、より好ましくは0.05〜0.3/hの範囲、さらに好ましくは0.1〜0.25の範囲が推奨される。また、反応条件に応じて、0.05〜0.2/hの範囲、さらに0.1〜0.15/hの範囲を選択することもできる。
【0055】
なお、工程(1)及び工程(2)は、例えば、特許文献5(特開2005−330239号公報)を参照することにより好適に実施することができる。
【0056】
工程(3):
加水分解工程後の晶析工程において、その加水分解反応液を、通常40℃以下、好ましくは20℃以下、更に好ましくは0〜15℃に冷却して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を晶析させる。このとき、冷却速度、スラリー濃度、攪拌操作(攪拌速度、レイノルズ数、攪拌翼の形状等)などの工程条件については、結晶又は結晶化に対する影響(例えば、粒度分布、結晶構造、不純物等の包含などへの影響も含む)を考慮して、所望の目的に応じて適宜検討して決定することが肝要である。例えば、冷却速度については、ゆっくり冷却することで結晶が大きくなる傾向がある。冷却速度は、本発明に係る粉体の特性及び生産効率に影響するので、工程条件は適宜検討して決定する。
【0057】
工程(4):
固液分離工程では、固液分離操作ができれば特に限定はなく、晶析工程によって得られたスラリーを1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶と晶析母液に分離させる。
固液分離装置は通常の分離機能を有する設備であれば使用できる。例えば、バッチ式では減圧濾過機、加圧濾過機、遠心濾過機などを使用することができる。これらの固液分離装置には、湿結晶の表面に付着する不純物や酸触媒を洗浄するリンス水を供給する装置が設置されていることが好ましい。
リンス水の使用量は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶に対して、30〜200重量%が好ましく、これより少ないと不純物や酸触媒が残存しやすく、多くても廃水が増えて生産効率が低くなる。
また、晶析母液は固液分離装置の濾液として得られる。この晶析母液は酸触媒および晶析工程で結晶化しなかった1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を含有しており、経済的観点から加水分解反応に再使用することが望ましい。再使用に当たっては、反応原料1,4−シクロヘキサンジカルボン酸アルキルに由来する不純物が蓄積して、最終製品としての1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の純度を低下させる場合があり、その純度の低下が許容範囲内である限りは、何度でも再使用できる。
【0058】
工程(5):
分離された1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶は、乾燥されて、又は乾燥及び造粒されて、又は粉砕(若しくは解砕)されて、乾燥固体(粉体)となる。つまり、当該湿結晶を乾燥した後、必要に応じて、造粒及び/又は粉砕(若しくは解砕)して粉体を得る。
【0059】
乾燥条件は、通常、使用目的や処理効率などを鑑みて、その手法や装置を適宜選択することができる。好適な乾燥方法としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の湿結晶を撹拌しながら乾燥することが挙げられる。乾燥には撹拌型乾燥機を用いることができる。湿結晶を静置して乾燥した場合には、湿結晶同士が持つ水分で結晶が溶解し合うことにより、結晶同士が凝集したりブロッキングしたりすることがあり、これを回避するために湿結晶を撹拌しながら乾燥することが推奨される。これにより、粉体流動性に優れた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の粉体が調製される。
【0060】
乾燥固体(粉体)の乾燥の終点としては、水分含有量が、乾燥固体(粉体)の重量基準で、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.06重量%以下、特に0.04重量%以下を目標に行うことが推奨される。
【0061】
また、乾燥操作と同時に又は乾燥操作後に、造粒操作を行うことができる。造粒操作は、使用目的に応じて、適宜造粒装置や造粒条件を選択して使用することができる。例えば、攪拌混合造粒では、当該湿結晶を攪拌翼の回転によりせん断、転動、圧密等の作用により粒子が成長させる方法や流動層の中で転動造粒させる方法、乾燥固体(粉体)を圧縮成型機等で顆粒や細等に造粒する方法などが挙げられる。
【0062】
また、乾燥操作後に粉砕操作を行うことができる。粉砕は、例えば、微粉砕(概ね10〜150μm程度)、中粉砕(概ね300〜500μm程度)、粗粉砕又は解砕(概ね1〜10mm程度)とすることができる。粉砕操作としては、本発明の目的に合致するように、適宜粉砕装置又は粉砕条件を選択し、或いは組み合わせて実施することができる。例えば、主に圧縮・衝撃力を利用して粗粉砕や中粉砕とする方法や、主に圧縮・衝撃力に加え剪断力・摩擦力を利用して微粉砕とする方法が例示される。
【0063】
この工程(5)は粉体流動性に影響する工程であり、その工程において本発明に係る粒度分布、嵩密度及び圧縮度の範囲内となるように工程条件を調整することが肝要である。工程条件は、上記の手順に基づいて適宜条件を調整することができる。なお、後述の工程(6)の分級工程においても当該範囲内に調整することは可能ではあるが、製造工程数は少ない方が経済的には有利である。
【0064】
工程(6):
さらに必要に応じて、乾燥固体(粉体)を分級することができる。分級工程は、使用目的に応じて、適宜分級装置や分級条件を選択して使用することができる。例えば、スクリーンを使用する方法(篩分け・スクリーン分級)や比重差を利用して風力で分級する方法(風力分級)が挙げられる。
【0065】
かくして、本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、粉体流動性が良好な1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、またさらに不純物の含有量が少なく良好な物性を有する高純度な1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。
【0066】
本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、粉体流動性が良好であり、不純物の含有量が少ない高純度1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。この粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、例えば、ポリエステル、ポリアミド等のポリマーを製造するための原料として用いることができる。具体的には、この粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とアルコール(ジオール、ポリオール等)又はアミン(ジアミン、ポリアミン等)を反応させてエステル(ポリエステル等)又はアミド(ポリアミド等)を製造することができる。これらの反応工程において、取扱性が飛躍的に向上するとともに、得られたエステル又はアミドは純度が極めて高くなる。そのため、本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、医薬品、合成樹脂、合成繊維、染料等の様々な有用なポリマーの原料として使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例における評価方法は、以下の通りである。
1)粒度分布
レーザー回折・光散乱法(装置;「マスターサイザー3000」,マルバーン社製)を用いて、乾式法での粒度分布(体積基準)を測定し、D10、D50、D90及び平均粒子径を求めた。なお、D10とは体積累積10%の粒子径、D50とは体積累積50%の粒子径(メジアン径)、D90とは体積累積90%の粒子径をそれぞれ意味する。
【0068】
2)安息角及び分散度
安息角及び分散度は、粉体特性評価装置(ホソカワミクロン(株)のパウダーテスター(PT−X))にて測定した。
【0069】
3)嵩密度及び圧縮度
[嵩密度]
試料の単位容積当たりの重量を測定し、見掛け密度とする。メスシリンダーを電子天秤に載せ、ゼロ補正を行う。試料をメスシリンダーの100mlの目盛まで入れて重量を0.1gまで精秤(Ag)する。この時の見掛け密度をゆるみ嵩密度(g/cm)とする。
その後、試料の入ったメスシリンダーを5cmの高さからゴムシート(衝撃台;約3mm厚さ)の上に50回落下させた後、メスシリンダーの目盛(Bcm)を読み取る。この時の見掛け密度を固め嵩密度(g/cm)とする。
ゆるみ嵩密度 (g/cm) = A/100 (1)
固め嵩密度 (g/cm) = A/B (2)
粉体の流動性の観点から、ゆるみ嵩密度は、0.4〜0.8g/cmであることが推奨され、固め嵩密度は、0.5〜1.0g/cmであることが推奨される。
【0070】
[圧縮度]
前記ゆるみ嵩密度と固め嵩密度の測定値から、下記の式(3)に従って、圧縮度(%)を求めた。
圧縮度(%)={(固め嵩密度−ゆるみ嵩密度)/固め嵩密度}×100 (3)
圧縮度は、粉体の流動性の観点から、23%以下であることが推奨される。
【0071】
4)ガスクロマトグラフ分析
装置:GC−2010(島津製作所(株)製)
検出器:FID 325℃
カラム:TC−5(30m×0.25mmφ)
インジェクション温度:300℃
カラム温度:100℃(2min保持)から320℃ 10℃/min
なお、実施例における1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の純度及び不純物の含有量の「%」表示は、ガスクロマトグラフ分析による「単純面積百分率」を意味している。この「単純面積百分率」とは、ガスクロマトグラム中の検出されたピークの総面積に対して、補正を行わず単純に各ピークの面積を百分率で表したものである。また測定試料は、シリル化剤N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフロオロアセトアミド (BSTFA)を用いて前処理した。
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体とトランス体の比率は、ガスクロマトグラフ分析による「単純面積百分率」の比で表される。
【0072】
5)融点測定(示差走査熱量計)
装置:DSC6220(セイコーインスツル株式会社製)
機器名:電動サンプルシーラー(エポリードサービス社製)
昇温速度:50℃から200℃ 10℃/min
なお、実施例では吸熱ピークトップの温度を記載した。
【0073】
6)金属分析(ICP発光分光分析法)
装置:iCAP6500Duo(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)
マイクロウェーブ分解法による前処理を実施して、金属分析を行った。前処理は、装置:Multiwave PRO (Anton Paar社製)を用い、試料0.3gと特級硝酸6mlを入れ、マイクロウェーブ分解装置で分解後、蒸留水で約15gとした。その後、ICP発光分光分析装置にて金属分析を行った。
金属の含有量(重量基準)は、ナトリウムについては、10ppm以下、鉄については、0.3ppm以下が推奨される。
【0074】
7)水分含有量
カールフィッシャー滴定により、水分含有量(重量%)を測定した。
水分測定装置:AQV−2100(平沼産業社製)
滴定試薬:HYDRANAL−composite 5K(SIGMA−ALDRICH社製)
溶媒:メタノール(超脱水)150ml、エチレングリコール50ml及びクロロホルム300ml
サンプル1グラムを薬包紙に秤量、溶媒へ投入し、一分間攪拌溶解後、水分含有量を測定した。
【0075】
8)色数(ハーゼン)
装置:透過色数測定器(石油製品測定装置 OME−2000 日本電色工業株式会社)
試料30wt%N−メチル−2−ピロリドン溶液とブランクのN−メチル−2−ピロリドン(溶剤)を透過色数測定器にてそれぞれ測定し、その試料溶液の色数から溶剤の色数を引いた値を試料の色数とする。
【0076】
[実施例1]
電動磁気攪拌装置を備えた500mlオートクレーブにテレフタル酸ジメチル200g、触媒として5%ルテニウム/アルミナ触媒3gを仕込み、系内を水素置換後、反応温度150℃、水素圧力3MPaで5時間反応した。冷却後、触媒を濾別し、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル201gを得た。得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルをガスクロマトグラフ分析したところ、純度は98.5%、不純物としてシクロヘキサンカルボン酸メチルを0.4%、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルを0.7%含有していた。
【0077】
次いで、攪拌装置、温度計、デカンター及び冷却管を備えた1Lガラス製四ツ口フラスコに前記で得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル200g、イオン交換水336g、触媒として塩酸4gを仕込み、反応温度100℃、反応系に添加するイオン交換水の液空間速度が0.5/hとなるように留出量を調整しながら11時間反応を行った。その反応液をガスクロマトグラフで分析した結果、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを痕跡程度、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノメチルを0.25%含有していた。得られた反応液を18時間掛けて徐々に10℃まで冷却し、その後に析出した結晶を濾別し、その結晶を10℃のイオン交換水で洗浄した。
【0078】
続いて、湿結晶をゆっくり攪拌しながら乾燥できる乾燥機を用いて、0.65kPa、100℃で5時間乾燥し、その乾燥後に簡易小型粉砕機を用いて粉砕(中粉砕〜粗粉砕)を行った。そして、目的とする粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸160g(収率93%)を得た。
【0079】
得られた粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を前処理してガスクロマトグラフ分析したところ純度は99.5%であった。
【0080】
不純物である、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸モノメチル及びテレフタル酸の合計含有量が0.03%であった。また、シクロヘキサンカルボン酸の含有量は0.02%、シクロヘキサンカルボン酸メチルの含有量は検出限界以下、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸の含有量は0.05%、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの含有量は検出限界以下であり、また1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノメチルの含有量は0.04%であった。
【0081】
金属分析の結果、ナトリウム含有量は8ppm、鉄含有量は0.03ppmであった。水分含有量は0.03重量%であった。
【0082】
粉体特性を評価したところ、ゆるみ嵩密度が0.57g/cm、固め嵩密度が0.69g/cm、圧縮度が17.4%であった。また粒度分布(体積基準)は、D10が35μm、D50が89μm、D90が274μmであった。平均粒子径は100μmであった。安息角は40度、分散度は25%であった。
【0083】
得られた粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸60gを225mLマヨネーズ瓶に入れて、その瓶を傾けて粉体の流動状態を目視で観察したところ、全体が流れるように流動し、粉体流動性が良好であった。
【0084】
また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体及びトランス体の比率は、81:19であった。色数は4であり、融点は168.8℃で、シングルピークであった。
【0085】
[実施例2]
液空間速度を0.1/h、反応時間18時間とした他は、実施例1と同様に実施して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸156g(収率91%)を得た。
【0086】
金属分析の結果、ナトリウム含有量は8ppm、鉄含有量は0.03ppmであった。水含有量は0.03重量%であった。
【0087】
不純物である、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸モノメチル及びテレフタル酸の合計含有量が0.03%であった。また、シクロヘキサンカルボン酸の含有量は0.03%、シクロヘキサンカルボン酸メチルの含有量は検出限界以下、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸の含有量は0.05%、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの含有量は検出限界以下であり、また1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノメチルの含有量は0.04%であった。
【0088】
粉体特性を評価したところ、ゆるみ嵩密度が0.63g/cm、固め嵩密度が0.77g/cm、圧縮度が18.2%であった。また粒度分布(体積基準)は、D10が15μm、D50が72μm、D90が313μmであった。平均粒子径は75μmであった。安息角は40度、分散度は20%であった。
【0089】
また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体及びトランス体の比率は、77:23であった。色数は4であり、融点は168.3℃で、シングルピークであった。
【0090】
実施例1と同様に、得られた粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸60gを225mLマヨネーズ瓶に入れて、その瓶を傾けて粉体の流動状態を目視で観察したところ、全体が流れるように流動し、粉体流動性が良好であった。
【0091】
[実施例3]
液空間速度を0.2/h、反応時間18時間とした他は、実施例1と同様に実施して、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸159g(収率92%)を得た。得られた粉体の測定結果を表1に示す。
【0092】
[比較例1]
攪拌装置、温度計、冷却管を備えた1Lガラス製四つ口フラスコに純度98.5%の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル140g(4−メチルシクロヘキサンカルボン酸の含有量;0. 8重量%)、イオン交換水360g、水酸化ナトリウム30gを仕込み、反応温度100℃で還流させながら2時間反応を行い、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジナトリウム塩の反応液を得た。
【0093】
得られた反応液に、10℃で濃塩酸約67mLを滴下しながら酸戻しを行い、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を析出させた。析出した結晶を濾別し、この結晶を10℃のイオン交換水で十分に洗浄し、続いて0.65kPa、100℃で3時間乾燥を行い、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸81g(収率68%)を得た。
【0094】
この得られた1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を前処理してガスクロマトグラフ分析したところ純度は99. 3%であり、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸モノメチル及びテレフタル酸の合計含有量が0.2%、及び4−メチルシクロヘキサンカルボン酸の含有量が0.4%であった。
【0095】
金属分析の結果、ナトリウム含有量は60ppm、鉄含有量は0.03ppmであった。水分含有量は0.04重量%であった。
【0096】
粉体特性を評価したところ、ゆるみ嵩密度が0.49g/cm、固め嵩密度が0.71g/cm、圧縮度が31.7%であった。また粒度分布(体積基準)は、D10が12μm、D50が36μm、D90が83μmであった。平均粒子径は32μmであった。安息角は47度、分散度は11%であった。
【0097】
また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のシス体及びトランス体の比率は、80:20であった。色数は4であった。融点は169.4℃であったが、その吸熱ピークの他に小さい吸熱ピークが低温側に2つ観測された。
【0098】
実施例1と同様に、得られた粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸60gを225mLマヨネーズ瓶に入れて、その瓶を傾けて粉体の流動状態を目視で観察したところ、マヨネーズ瓶に粉体が付着し、粉体流動性が悪かった。
【0099】
[比較例2]
撹拌装置、温度計、デカンター及び冷却管を備えた1Lのガラス製四つ口フラスコに純度98.5%の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル140g、イオン交換水360g、硫酸4.2gを仕込み、反応温度100℃、液空間速度0.13/hとなるように留出量を調整しながら10時間反応を行った。
【0100】
得られた反応液を4時間掛けて徐々に10℃まで冷却後、析出した結晶を濾別し、この結晶を10℃のイオン交換水で洗浄し、続いて0.65kPa、100℃で3時間静置乾燥を行い1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を得た。純度は99.8%であった。得られた結晶は、ブロッキングしており、各種粉体特性に関する測定ができなかった。そのため、表1中、測定不可と記載している。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の粉体状の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、粉体流動性が良好であり、またさらに不純物の含有量が少なく良好な物性を有している高純度1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であるので、作業時の仕込み易さや取り扱い易さなどによる作業性の向上に寄与し、医薬品、合成樹脂、合成繊維、染料等の有用な原料としても使用することができる。