(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2誘電体膜、第3誘電体膜、及び第4誘電体膜は、Zn及びSnを含む酸化物からなる誘電体をそれぞれ有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の日射遮蔽部材。
前記第1誘電体膜は、該透明基材上から順に、Siを含む酸化物からなるパッシベーション層、前記Tiを含む酸化物からなる反射防止層、及びZnを含む酸化物からなるシード層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の日射遮蔽部材。
前記第4誘電体膜は、Tiを含む酸化物からなる誘電体の層を有し、該第4誘電体膜全体の平均屈折率が1.85〜2.05であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の日射遮蔽部材。
【背景技術】
【0002】
建物や車両の開口部に設けられた窓において、室内での冷暖房の使用を低減させることを目的として、室内へ入射する日射を遮蔽することが可能な日射遮蔽部材が広く利用されている。建物の窓に利用される日射遮蔽部材はガラス板表面に金属膜を形成した低放射ガラスとして知られている。また、車両の窓に利用される日射遮蔽部材は、上記と同様の金属膜を形成したガラス等が知られている。
【0003】
前述した日射遮蔽部材としては、Ag膜と該Ag膜を挟む透明誘電体膜とが基材上に積層された積層体が広く用いられている。特にAg膜を2層使用した積層体(例えば、ガラス板の上に順に、第1透明誘電体膜、Ag膜、第2透明誘電体膜、Ag膜、及び第3透明誘電体膜の積層体)は高い日射遮蔽機能を有することから、様々な日射遮蔽部材が検討されていた。
【0004】
前述した日射遮蔽部材は、Ag膜の総膜厚が増える程、日射遮蔽機能が向上する傾向がある。今まではコストと要求される性能との兼ね合いから前述したAg膜を2つ有する積層体が妥当だったが、近年、さらなる日射遮蔽機能の向上への要求が高まっており、Ag膜を3つ有する積層体について検討がなされている。
【0005】
例えば特許文献1には、赤外反射金属フィルムを3層、反射防止膜を3層有する日射透過量をコントロールする被覆が提案されている。当該文献では、反射防止膜として、亜鉛、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、ビスマス、インジウム、スズ、およびそれらの混合物の酸化物が、赤外反射金属フィルムとして金、銀、アルミニウム、またはそれらの混合物、合金が挙げられている。得られる被覆は、可視光線透過率を60%以上、外観を無彩色(±|3|以下のa
*及びb
*)、300〜2150nmの全日射エネルギー反射率を20〜50%、及びシート抵抗を1.5〜3.5Ω/□とすることが可能である旨が開示されている。
【0006】
例えば特許文献2には、車両用の窓に使用可能な太陽光制御コーティングが提案されている。当該文献では、Agの赤外線反射金属膜を3層有する太陽光制御コーティングにおいて、ガラス板側から第1赤外線反射金属膜、第2赤外線反射金属膜、第3赤外線反射金属膜、の順に厚みを小さくすることによって、所望の可視光線透過率を確保しながら紫外線透過率や赤外線透過率を抑制している。例えば、例1では高透過ガラスを用いた合わせガラスの構成において、可視光線透過率が70%以上、全太陽光反射率を30〜50%程度、透過光及び反射光をほぼ無彩色とした積層体を開示している。また、第2赤外線反射金属膜の厚みを最も厚くした例3について、可視光線透過率は例1程度で反射光を無彩色とすることが可能である旨が開示されている。ただし、特許文献2では視野角や光源を変えて透過光や反射光の色調を測定しているが、斜めから見た時の透過色調は測定していない。
【0007】
例えば特許文献3には、特許文献2と同様にガラス板側の金属機能層が最も厚く、最上層の金属機能層が最も薄い積層体が開示されている。当該文献の実施例では、ソーダ石灰ガラスを用いた合わせガラスの構成において、可視光線透過率が73%程度、可視光線反射率が12%程度、0°と60°における反射光の色調の赤味が抑制された積層グレージングユニットが開示されている。また、最上層の金属機能層が最も厚く、ガラス板側の金属機能層が最も薄い場合、可視光線透過率が低くなる旨が、及び全ての金属機能層の厚みを同じにした場合、0°と60°での反射光の差が大きくなる旨がそれぞれ開示されている。しかし、特許文献3には日射遮蔽機能について実測がなく、どの程度日射遮蔽部材として有効なのか不明である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1:用語の説明
以下に本明細書の用語について説明する。
【0019】
(各種波長光)
本明細書における「可視光線」は、波長380nm〜780nmの範囲の光とする。また、本明細書における「日射遮蔽」とは、波長300nm〜2500nmの範囲の光のエネルギーの透過を抑制することを指すものとする。また、本明細書では「日射遮蔽機能」を「日射透過率」で評価する。
【0020】
(透過率、反射率、色調)
可視光線透過率、可視光線反射率、日射透過率、日射反射率、可視光線の透過色調、及び反射色調について、自記分光光度計(日立製作所製、U−4000)や手動ステージ付き絶対反射測定ユニットを使用した分光光度計(日本分光製、V−670およびARSN−733)、分光測色計(コニカミノルタ製、CM−2600d)などを用いて測定できる。また、反射率や反射色調については、積層膜が形成されていない透明基材面側と積層膜が形成された膜面側についてそれぞれ算出する。上記のうち、可視光線透過率、可視光線反射率、日射透過率、及び日射反射率は、JIS R3106(1998)に準拠する方法又は参考とする方法で算出できる。また、透過色調及び反射色調はJIS Z8781−4に準拠する方法又は参考とする方法で、CIE L
*a
*b
*色空間のa
*を算出できる。
【0021】
(屈折率)
本明細書における「屈折率」は、波長550nmにおける値を指すものとする。また屈折率は、まず日射遮蔽部材と同様の条件で単層を作成し、得られた可視光線透過率と可視光線反射率(膜面)とを自記分光光度計(日立製作所製、U−4000)で測定し、得られた値から光学シミュレーション(Reflectance−transmittance法)で算出できる。
【0022】
(幾何学膜厚)
幾何学膜厚は、一般的に用いられる膜厚と同じ意味であり、単なる膜や層の厚みを示す。幾何学膜厚は、日射遮蔽部材と同様の成膜条件で作成した単層の膜厚と基材の搬送速度との積から、該単層を作製する際の成膜速度を求め、該成膜速度を用いて該当する層又は膜の膜厚を算出できる。
【0023】
(光学膜厚)
光学膜厚とは、幾何学膜厚と屈折率の積で表される値であり、日射遮蔽部材と同様の成膜条件で作成した単層の、波長550nmにおける屈折率と膜厚との積から算出できる。
【0024】
(積層膜)
本明細書における「積層膜」は、透明基材上の膜全体を指すものとする。また、「膜」は1以上の層が積層されたものとし、「層」は境界によって区切られる最小単位であり、層を構成する成分は1種類でも複数種類でもよく、また層内の成分の分布は均一でも不均一でもよい。また、「透明基材上」等の「上」とは、透明基材と接触しても、他の任意の膜や層が介在しているものでもよい。また、例えば
図1に示したような日射遮蔽部材において、ガラス板G側を「下」、保護層44側を「上」とし、
図1の保護層44のように最も上側にある層を「最上層」と記載することもある。
【0025】
2:日射遮蔽部材
本発明は、透明基材上に、順に、第1誘電体膜、第1金属膜、第2誘電体膜、第2金属膜、第3誘電体膜、第3金属膜、及び第4誘電体膜が積層された日射遮蔽部材において、該第1誘電体膜は、屈折率が2.4以上の層を含む2層以上の誘電体層からなり、該第1誘電体膜全体の
平均屈折率が1.8〜2.0の範囲内となるものであり、該第2誘電体膜は、
光学膜厚が165〜201nmであり、該第3誘電体膜は、光学膜厚が147〜182nmであり、該第4誘電体膜は、光学膜厚が75〜120nmであり、該第1金属膜、第2金属膜、及び第3金属膜の幾何学的膜厚が合計で30〜40nmであり、該第2金属膜の幾何学的膜厚は、該第1金属膜及び該第3金属膜のそれぞれの幾何学的膜厚に対して1.01〜1.55の範囲内となることを特徴とする日射遮蔽部材である。
【0026】
本発明の日射遮蔽部材について、以下
図1を参照しながら説明する。なお、本発明は
図1に限定されるものではない。
【0027】
(日射遮蔽部材55)
日射遮蔽部材55は、上記の第1誘電体膜10〜第4誘電体膜40までの積層膜50と、該積層膜50が形成された透明基材とを指すものである。本発明においては、透明基材の厚みが2mmのとき、該日射遮蔽部材55の可視光線透過率を74%以上、日射透過率を38%以下、正面から見た時と斜めから見た時のどちらでも透過色調、基材面反射色調、及び膜面反射色調のa
*を+3未満とすることが可能である。
【0028】
また、日射遮蔽部材55は、基材面及び膜面の可視光線反射率を12%以下とすることが可能である。可視光線反射率を低くするとギラつきを抑制することが可能であるため好適である。
【0029】
(透明基材)
透明基材は積層膜50を形成する板状の基材であり、本明細書においては、「透明基材」を厚み2mmにおける可視光線透過率が80%以上となる基材としてもよい。なお、
図1では透明基材としてガラス板Gを用いているが、これに限定されるものではなく、透明樹脂板等を用いてもよい。
【0030】
透明基材にガラス板Gを用いる場合、ガラス板Gは特に限定されるものではないが、例えば、通常使用されているソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、高透過ガラス、風冷強化ガラス、化学強化ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス等を用いることが可能である。また、透明樹脂板を用いる場合は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂等が挙げられる。
【0031】
(金属膜)
金属膜は、透明基材側から順に、第1金属膜1、第2金属膜2、及び第3金属膜3とする。まず、本発明は金属膜の厚みの合計値を30〜40nmとすることによって良好な日射透過率を実現した。厚みの合計値が40nmを超えると、日射透過率は良好になるが可視光線透過率が低下してしまい、また、斜めから見た時の反射色調に赤味を呈しやすくなる。また、30nm未満だと、日射遮蔽機能が不十分になりやすい。
【0032】
さらに本発明は、第2金属膜2を最も厚くし、他の金属膜に対する厚みの比を1.01〜1.55の範囲内とすることによって、日射透過率を損なうことなく可視光線透過率を向上させたものである。1.01未満、及び1.55を超えると可視光線透過率が不十分になる場合がある。
【0033】
金属膜は、Agを90〜100wt%含む金属膜を用いるのが好ましい。また、Ag膜は熱や酸素等によって劣化しやすいため、耐熱性や化学的耐久性を向上させる目的で、膜中にPd、Au、Pt、Ti、Al、Cu、Cr、Mo、Nb、Nd、Bi及びNi等を含んでもよい。
【0034】
第1金属膜1、第2金属膜2、及び第3金属膜3は、それぞれ第1誘電体膜10、第2誘電体膜20、及び第3誘電体膜30の直上に形成されるのが好ましい。後述する各誘電体膜10、20、30の好ましい構成では、最も上の層にシード層13、23、33を有するため、当該シード層13、23、33の直上にAgを有する金属膜を形成することによって、Ag膜の結晶性が向上し日射遮蔽機能を高めることが可能となる。
【0035】
(ブロッカー膜4)
上記の各金属膜は、直上にブロッカー膜4を形成するのが好ましい。ブロッカー膜4は、金属膜の上に各誘電体膜を形成する際、露出した状態の金属膜の直上に各誘電体膜20、30、40を形成すると、該金属膜が酸素等により劣化してしまうことがあるため、この金属膜を保護する事を目的としたものである。ブロッカー膜4としては、Zn、Sn、Ti、Al、NiCr、Cr、Zn合金、及びSn合金等が好ましい。また、該ブロッカー膜4は最終的に酸化や窒化によって速やかに透明になるものを用いると、可視光線透過率を必要以上に損なわずに済むため好適である。膜厚は特に限定するものではないが、通常幾何学膜厚で1〜5nm程度あればよい。また、可視光線透過率を損なわない為には極力厚みを薄くするのが好ましい。また、ブロッカー膜4とその上の誘電体膜との間に別の膜が介在してもよいが、各ブロッカー膜4の直上に、第2誘電体膜20、第3誘電体膜30、及び第4誘電体膜40をそれぞれ設けるのが好適である。
【0036】
(第1誘電体膜10)
第1誘電体膜10は、透明基材上に設けられる誘電体の膜であり、屈折率が2.4以上の層を含む2層以上の誘電体層からなり、該第1誘電体膜全体の
平均屈折率が1.8〜2.0の範囲内となる膜である。屈折率が2.4以上の層を含まない場合や、膜全体の屈折率が1.8〜2.0の範囲内に入らない場合は、可視光線透過率が不十分になることがある。
また、第1 誘電体膜10は透明基材の直上に設けられるのが好ましい。
【0037】
前記の第1誘電体膜を得るには、光学膜厚を105〜140nmとするのが好ましい。
上記の膜厚の範囲外だと、全体の
平均屈折率が1.8〜2.0の範囲内とならない場合がある。また、Tiを含む酸化物からなる反射防止層12を有し、該反射防止層12の光学膜厚を5〜70nmとするのが好ましい。また、該第1誘電体膜1 0は、該透明基材上から順に、Siを含む酸化物からなるパッシベーション層11、前記Tiを含む反射防止層12、及びZnを含む酸化物からなるシード層13を有するのが好ましい。
【0038】
上記のパッシベーション層11は、前述したようにSiを含む酸化物の誘電体を用いるのが好ましい。例えば透明基材にガラス板Gを用いた場合、ガラス板Gが加熱環境に置かれるとガラス板Gからアルカリ成分等が金属膜中へ拡散する可能性がある。そこで、該パッシベーション層11を透明基材上、好ましくは透明基材の直上に設けることによって、金属膜の劣化を抑制することが可能となる。また、上記のSiを含む酸化物の誘電体としては、例えばSiO
2を用いることが可能である。
【0039】
パッシベーション層11としては、Siを含む誘電体を用いることが可能であり、該誘電体はAl、Zr、及びTi等を該パッシベーション層11の誘電体全体に対して0.1〜30wt%含む合金であってもよい。該誘電体としては、例えばSi又は上記Si合金の酸化物、窒化物、酸窒化物が挙げられ、特にSiとAlとの合金酸化物は、成膜時の放電を抑制可能で緻密な構造な為、パッシベーション層としてのバリア性に優れるため好適である。SiとAlの合金酸化物を用いる場合は、第1誘電体膜の屈折率を1.8〜2.0の範囲内とする為に、光学膜厚で10〜110nmとするのが好ましい。
【0040】
上記の反射防止層12は、前述したようにTiを含む誘電体を用いるのが好ましく、より好ましくはTiの酸化物を用いるのが好ましい。また、Tiを含む酸化物は屈折率が2.4以上になり易く、安価で、機械的強度に優れており、紫外線を遮蔽する機能も有し、なおかつ各種ガスや水分と反応し難いため劣化しにくいことから、当該反射防止層12を、第1誘電体膜が有する屈折率2.4以上の層とするのが好ましい。上記のような反射防止層12を設けるによって、可視光線反射率を低くすることが可能となる。また、第1誘電体膜10全体の
平均屈折率を1.8〜2.0の範囲内とする為に、反射防止層12の光学膜厚の下限値をより好ましくは14nm以上としてもよい。また、Ti酸化物の他にも、屈折率を2.4以上とすることが可能であれば、Nb酸化物、Zr酸化物、Ta酸化物、及びそれらの混合酸化物等を用いてもよい。
【0041】
上記の「Tiを含む酸化物」としては、例えばTiO
2や、Tiに対してSi、Al、Zn、In、Sn、Nb、Zr又はTaを0.1〜30wt%含むTi合金酸化物が挙げられる。また、上記のNb酸化物としてはNb
2O
5、Zr酸化物としてはZrO
2、Ta酸化物としてはTa
2O
5が挙げられる。
【0042】
上記のシード層13は、前述したようにZnを含む酸化物からなる誘電体を用いるのが好ましい。該シード層13は、上記の金属膜にAg膜を用いる場合、当該Ag膜の形成時にAgの結晶成長を促進させるものである。Agが結晶成長することによって、各種光学特性をより向上させることが可能となる。
【0043】
シード層13としては、Znを含む誘電体を用いることが可能であり、該誘電体はAl、Ga、及びSn等を、誘電体全体に対して1〜45wt%含む合金であってもよい。該誘電体としては、例えばZn又は上記Zn合金の酸化物が挙げられ、特にZnO等のZnの酸化物は好ましい。また、該シード層13は、光学膜厚で5〜20nmとするのが好ましい。5nm未満ではAgの結晶成長を促進させる効果が不十分になりやすく、また、20nmを超えるとシード層13中に結晶粒界が存在することがあり、該結晶粒界から各種ガスや水分が浸入して金属膜を劣化させてしまうことがある。
【0044】
前記第1誘電体膜1は、該透明基材上から順に、Siを含む酸化物からなるパッシベーション層11、前記Tiを含む酸化物からなる反射防止層12、及びZnを含む酸化物からなるシード層13を有するのが好ましい。前述したように透明基材側にパッシベーション層11を設けることによって、基材側から金属層を劣化させる各種ガスや水分が浸入するのを防ぎ、また、シード層13を設けることによって第1金属層1の結晶成長を促すことが可能である。さらに、パッシベーション層11とシード層13との間に反射防止層12を設けることによって、第1誘電体膜1全体としての
平均屈折率を所望の範囲内とし、目的とする光学特性を得ることが可能となる。
【0045】
(第2誘電体膜20、第3誘電体膜30)
第2誘電体膜20は、光学膜厚が165〜201nmの範囲内に入る誘電体膜であり、主に可視光線の透過率や反射率、透過色調や反射色調に影響を及ぼす。特に本発明の日射遮蔽部材55の場合、165nm未満だと可視光線透過率は上昇する一方で、特に正面から見た際の反射色調に赤味を呈するようになる。また、201nmを超えると可視光線反射率が高くなり、結果的に透過率が低くなってしまうことがある。
【0046】
第3誘電体膜30は、光学膜厚が147〜182nmの範囲内に入る誘電体膜であり、第2誘電体膜20と同様に、主に可視光線の透過率や反射率、透過色調や反射色調に影響を及ぼす。特に本発明の日射遮蔽部材55の場合、147nm未満だと可視光線反射率が高くなるために可視光線透過率が低くなりやすく、182nmを超えると可視光線透過率が上昇する一方で、正面から見た時及び斜めから見た時の反射色調に赤味を呈するようになる。
【0047】
第2誘電体膜20及び第3誘電体膜30は、各金属膜の屈折率と異なる屈折率を有する誘電体を用いればよく、特に限定されるものではない。例えば、ZnO、ZnAlO、ZnSnO、ZnGaO、In
2O
3、InSnO、InZnO、Si
3N
4、及びSiAlN等の屈折率が2.0前後の誘電体を用いることが可能である。なお、上記の合金酸化物や合金窒化物について、記載通りの成分比ではない場合も含むものとする。例えば「ZnSnO」はZn:Sn:Oが必ずしも1:1:1ではない。上記の誘電体のうちZn及びSnを含む酸化物からなる誘電体であるZnSnOは緻密な膜構造を有することが知られており、金属膜を劣化させるガスや水分に対するバリア性に優れていることから、好適に使用することが可能である。
【0048】
また、上記の第2誘電体膜20及び第3誘電体膜30は、第1誘電体膜10と同様に、シード層23、33を有するのが好ましい。シード層23、33を有する場合は、上記のような誘電体膜20、30を便宜上反射防止層22、32とし、該反射防止層22、32上に該シード層23、33を設け、該シード層23、33の直上に第2金属膜2、第3金属膜3をそれぞれ設けるのが好ましい。また、シード層23、33は、前述した第1誘電体膜10のシード層13と同様のものを用いればよい。
【0049】
(第4誘電体膜40)
第4誘電体膜40は、光学膜厚が75〜120nmの範囲内に入る誘電体膜であり、主に透過色調や反射色調に影響を及ぼす。特に本発明の日射遮蔽部材55の場合、75nm未満だと反射色調に赤味を呈するようになる。また、120nmを超えると、可視光線透過率が低くなってしまうと考えられる。
【0050】
第4誘電体膜40は、前記第2誘電体膜20等と同様に、各金属膜の屈折率と異なる屈折率を有する誘電体を用いればよく、特に限定されるものではない。また、第2誘電体膜20及び第3誘電体膜30と同様に、Zn及びSnを含む酸化物からなる誘電体を用いるのが好ましい。
【0051】
また、第4誘電体膜40は、本発明の日射遮蔽部材55の最上層を含む膜であり、最上層に保護層44を有するのが好ましい。保護層44は積層膜50の表面からの酸素等を防いで内部の金属膜が劣化するのを抑制する層である。例えばSiO
2、SiAlO等の誘電体を用いる事が可能である。
【0052】
また、前記第4誘電体膜40は、Tiを含む誘電体からなる層を有し、該第4誘電体膜全体の平均屈折率が1.85〜2.05であるのが好ましい。Tiを含む誘電体からなる層は、積層膜50の機械的耐久性を向上したり、反射防止効果により可視光透過率を高めたりできるため好ましい。より好ましくはTiO
2を用いるとしてもよい。だが、一方でTiを含む誘電体からなる層は屈折率が2.4以上になり易く、屈折率が高過ぎると透過色調や反射色調が赤味を呈しやすくなる。そのため、第4誘電体膜40全体の平均屈折率が1.85〜2.05の範囲内となるように、前述した保護層44や他の誘電体の層を併せて用いるのが好ましい。
【0053】
また、
図1では誘電体の層を下から反射防止層42、反射防止層42、及び保護層44と記載している。
図1のように、反射防止層42を膜厚方向に2分割した2層構造とすると、層に生じる亀裂やクラックが伝播し難くなると考えられ、機械的強度の向上や化学的耐久性の向上が期待できるため好ましい。
【0054】
3:日射遮蔽部材の製造方法
本発明の日射遮蔽部材55の積層膜50は、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法等で形成することが可能である。また、生産性、均一性を確保しやすいという点でスパッタリング法が適している。以下にスパッタリング法を用いて形成する方法を記載する。なお、本発明は以下の製造方法に限定されるものではない。
【0055】
スパッタリング法による積層膜50の形成は、各層の材料となるスパッタリング用のターゲットが設置された装置内を、透明基材を搬送させながら行う。装置内には層形成を行う真空チャンバーが設けられており、真空チャンバー内に上記のターゲットが設置された状態でスパッタリング時に用いる雰囲気ガスが導入され、該ターゲットに負の電位を印加することにより装置内にプラズマを発生させてスパッタリングを行う。
【0056】
また、所望の膜厚を得る方法はスパッタリング装置の形式によって異なるため特に限定しないが、ターゲットへの投入電力や導入ガス条件の調整により、層の形成速度を変化させることで所望の膜厚とする方法や、基板の搬送速度を調節することで所望の膜厚とする方法などが広く用いられている。
【0057】
前記誘電体膜10、20、30、40を形成する場合、使用するターゲットはセラミックターゲット、金属ターゲット、どちらを用いても構わない。いずれにおいても使用する雰囲気ガスのガス条件は特に限定するものでなく、例えばArガス、O
2ガス、及びN
2ガス等から目的とする層に応じたガス種、混合比を適宜決めれば良い。また、真空チャンバーに導入するガスとして、Arガス、O
2ガス、N
2ガス以外の任意の第3成分を含んでも良い。
【0058】
また、第2誘電体膜20、第3誘電体膜30、第4誘電体膜40を形成する際は、上記各誘電体膜の直下にある各ブロッカー膜4を酸化や窒化、酸窒化によって透明にすることが可能になるように、O
2ガス、N
2ガス、CO
2ガス等の反応性ガス雰囲気中で成膜するのが好ましい。
【0059】
金属層1、2、3を形成する場合、使用するターゲットにはAgターゲット又はAg合金ターゲットを用いる。この時導入する雰囲気ガスにはArガスを用いるのが好ましいが、Agの光学特性を損なわない程度であれば異なる種類のガスを混合してもよい。
【0060】
ブロッカー膜4を形成する場合、使用するターゲットは適宜選択すればよく、導入する雰囲気ガスにはAr等の不活性ガスを用いればよい。またこの時、ブロッカー膜4は従来通り後工程で酸化や窒化が可能な程度の膜厚にする。
【0061】
プラズマ発生源には直流電源、交流電源、及び交流と直流を重畳した電源等、いずれも用いられるが、誘電体の層を形成する際に異常放電が生じやすい場合は、直流電源にパルスを印加した電源又は交流電源を用いるのが好ましい。
【0062】
4:実施形態
本発明の日射遮蔽部材55は、透明基材にガラス板Gを使用し、別途ガラス板を組み合わせて、合わせガラスとするのが好ましい。特に、可視光線透過率を74%以上とすることが可能である為、合わせガラスにした場合でも視認性を大きく損なわないと考えられる。また、単板で使用したり複層ガラスに組み込んだりして、建物用の窓材として有用である。
【0063】
以下に透明基材の厚みが2mmのとき、該日射遮蔽部材55の可視光線透過率を74%以上、日射透過率を38%以下、正面から見た時と斜めから見た時のどちらでも透過色調、基材面反射色調、及び膜面反射色調のa
*を+3未満とすることが可能な日射遮蔽部材55の好適な実施形態を記載する。
【0064】
(実施形態1)
実施形態1の構成を以下に記載する。また、表1には積層膜50の各層の膜厚を記載する。表1の番号は
図1の符号に対応しており、誘電体膜の膜厚は光学膜厚(nm)、金属膜とブロッカー膜の膜厚は幾何学膜厚(nm)を記載する。
【0065】
なお、「ZnSnO」「ZnAlO」等の合金酸化物は、前述したように必ずしもZn:Sn:O=1:1:1となるものではない。また、膜厚が0の場合は、該当する層を形成していないものとする。また、SiAlO層はSiにAlを10wt%含有する層、ZnAlO層はZnにAlを2wt%含有する層、及びZnSnO層はZnにSnを50wt%含有する層、とする。また、ブロッカー膜4の「Ti膜4」は、ブロッカー膜4を形成時の膜を記載するものであり、該ブロッカー膜4の上に誘電体膜を形成すると酸化されるものとする。
【0066】
ソーダライムガラス板G(厚み2mm)/SiAlO層11/TiO
2層12/ZnAlO層13/Ag膜1/Ti膜4/ZnSnO層22/ZnAlO層23/Ag膜2/Ti膜4/ZnSnO層32/ZnAlO層33/Ag膜3/Ti膜4/ZnSnO層42/TiO
2層42/SiAlO層44
【0068】
また、上記例1〜10の第1誘電体膜10と第4誘電体膜40の全体の平均屈折率、金属膜1、2、3の合計膜厚、第1金属膜1に対する第2金属膜2の比率、及び第3金属膜3に対する第2金属膜2の比率を以下表2に示す。なお、TiO
2層の屈折率は2.46、ZnSnO層の屈折率は2.05、ZnAlO層の屈折率は1.99、及びSiAlO層の屈折率は1.52である。
【0070】
実施形態1の例1〜例10について、各光学特性を以下表3に記載する。表3の「膜面」とは、積層膜50側の反射、「基材面」とはガラス板G側の反射を示すものである。また、「10度」「60度」とは、面に対する垂直線を0度とした時、10度、60度に傾いた方向での透過色調や反射色調を示すものである。
【0072】
以上より、実施形態1は透明基材の厚みが2mmのとき、日射遮蔽部材55の可視光線透過率を74%以上、日射透過率を38%以下、正面から見た時と斜めから見た時のどちらでも透過色調、基材面反射色調、及び膜面反射色調のa
*を+3未満とすることが可能である。
【0073】
(比較形態1)
前述した実施形態1と同様の層を用いて膜厚を変えた比1〜比9を表4に記載する。また、上記の表2と同様に表5に第1誘電体膜10と第4誘電体膜40の全体の平均屈折率、金属膜1、2、3の合計膜厚、第1金属膜1に対する第2金属膜2の比率、及び第3金属膜3に対する第2金属膜2の比率を示す。また、表4の各種光学特性を表6に記載する。
【0077】
以上より、比較形態1は可視光線透過率が74%に満たないものや、日射透過率が38%を超えるものが見られる。また、上記の透過率が十分でも透過色調や反射色調が赤味を帯びてしまうものがあり、本願発明の目的に適さない。
【0078】
(比較形態2)
比較形態2を以下に記載する。( )内には膜厚を記載する。また、誘電体膜は光学膜厚(nm)、金属膜とブロッカー膜は幾何学膜厚(nm)をそれぞれ記載する。なお、SiAlO層はSiにAlを10wt%含有する層、ZnAlO層はZnにAlを2wt%含有する層、及びZnSnO層はZnにSnを50wt%含有する層、とする。また、ブロッカー膜4の「Ti膜4」は、ブロッカー膜4を形成時の膜を記載するものであり、該ブロッカー膜4の上に誘電体膜を形成すると酸化されるものとする。
【0079】
ソーダライムガラス板G(厚み2mm)/ZnSnO層(61.8)/ZnAlO層(20.1)/Ag膜(13.1)/Ti膜(0.2)/ZnAlO層(20.5)/ZnSnO層(126.6)/ZnAlO層(20.5)/Ag膜(12.6)/Ti膜(0.2)/ZnAlO層(18.6)/ZnSnO層(114.7)/ZnAlO層(18.6)/Ag膜(11.9)/Ti膜(0.2)/ZnAlO層(20.1)/ZnSnO層(62)/SiAlO層(151.7)
【0080】
上記比較形態2において、金属膜の合計膜厚は37.6nm、第1金属膜1に対する第2金属膜2の比率は0.96、第3金属膜3に対する第2金属膜2の比率は1.07、第1誘電体膜10の全体の平均屈折率は2.03、及び第4誘電体膜40の全体の平均屈折率は1.67である。
【0081】
当該比較形態2の各種光学特性を表7に示す。
【0083】
比較形態2は第1誘電体膜10に屈折率が2.4以上となる層を含まないものであり、可視光線透過率が著しく不足する。
【0084】
また、
図2に実施形態及び比較形態の可視光線透過率と日射透過率をプロットした図を、
図3に10度の透過色調a
*と60度の透過色調a
*をプロットした図を、
図4に10度の膜面反射色調a
*と60度の膜面反射色調a
*をプロットした図を、
図5を10度の基材面反射色調a
*と60度の基材面反射色調a
*をプロットした図を、それぞれ示す。
【0085】
図3より、実施形態及び比較形態は、いずれも正面から見た場合及び斜めから見た場合に透過色調の赤味を低減可能である。また、
図2では、比較形態1、3、4が可視光線透過率及び日射透過率が実施例相当であることが示されているが、
図4、5より、比較形態1、3、4は膜面反射色調や基材面反射色調が赤味を帯びることがわかる。従って、
図2〜
図5より、実施形態は可視光線透過率及び日射透過率が所望の値を示し、さらに透過色調や反射色調の正面から見た時及び斜めから見た時の赤味を低減するものであり、比較形態は実施形態の光学特性や外観を満たさないと言える。