(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853524
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】臭気変調方法
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20210322BHJP
A61L 9/013 20060101ALI20210322BHJP
C10M 129/20 20060101ALI20210322BHJP
C10M 129/76 20060101ALI20210322BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20210322BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
A61L9/01 H
A61L9/01 J
A61L9/01 K
A61L9/01 Q
A61L9/013
A61L9/01 V
C10M129/20
C10M129/76
C10N30:00 G
C10N40:00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-150153(P2016-150153)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-15429(P2018-15429A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】598118776
【氏名又は名称】山本香料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238234
【氏名又は名称】シキボウ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】辻本 裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 芳邦
(72)【発明者】
【氏名】肥下 隆一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 祥一郎
(72)【発明者】
【氏名】横瀬 秀人
【審査官】
河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0032913(US,A1)
【文献】
特開昭59−185813(JP,A)
【文献】
特開平07−220531(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0307804(US,A1)
【文献】
特開平02−304132(JP,A)
【文献】
実開昭64−014291(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00 − 9/22
C11B 9/00 − 9/02
E03F 7/10
F04F 1/14
C10M 101/00 − 177/00
C10N 30/00
C10N 40/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生車の糞尿タンクを真空ポンプにより減圧して、前記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を吸引する工程、及び/又は、前記糞尿タンクを真空ポンプにより加圧して、前記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を排出する工程を有し、
前記真空ポンプに用いられる潤滑油が、臭気変調用油剤を含有し、
前記臭気変調用油剤は、臭気変調成分及び油剤成分を含有し、
前記臭気変調成分は、フラン化合物及びピラン化合物から選択される少なくとも一種の含酸素複素環式化合物を含む、
ことを特徴とする臭気変調方法。
【請求項2】
前記含酸素複素環式化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として1〜20質量%である、請求項1に記載の臭気変調方法。
【請求項3】
前記フラン化合物は、フラネオール、フルフラール、5−メチルフルフラール、フルフリルメルカプタン、フルフリールアルコール、2−プロピオニルフラン、2−エチルフラン、メントフラン、2−メチル−3−フランチオール、2−メチル−3−テトラヒドロフランチオール、2−メチル−4,5−ジヒドロ−3−フランチオール、2−メチルフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−ヘキサノイルフラン、2−ペンチルフラン、2−プロピルフラン、2−(3−フェニルプロピル)テトラヒドロフラン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,4−ジメチル−4−フェニルテトラヒドロフラン、2−フルフリル−5−メチルフラン、2−ヘプチルフラン、2−メチルベンゾフラン、2−メチル−5−プロピオニルフラン、2−(5−エテニル−5−メチルテトラヒドロフラン−2−イル)−プロパナール、3−{[2−メチル−(2or4),5−ジヒドロ−3−フリル]チオ}−2−メチルテトラヒドロフラン−3−チオール、2−エテニル−5−イソプロペニル−2−メチルテトラヒドロフラン、5−メチル−2−フランメタンチオール、6−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[2,3−c]フラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、3−アセチル−2,5−ジメチルフラン、2−アセチル−5−メチルフラン、2−アセチルフラン、2−ブチルフラン、2,5−ジエチルテトラヒドロフラン、ジフルフリルジスルフィド、ジフルフリルエーテル、ジフルフリルスルフィド、及び2,5−ジメチル−3−フランチオールからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の臭気変調方法。
【請求項4】
前記フラン化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として0.1〜10質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項5】
前記ピラン化合物は、マルトール、エチルマルトール、4−アセトキシ−3−ペンチルテトラヒドロピラン、3,5−ジヒドロキシ−6−メチル−2,3−ジヒドロ−4(4H)−ピラノン、6−エテニル−2,2,6−トリメチルテトラヒドロピラン、5−メチル−3−ブチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート、オクタヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−オン、4−メチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)テトラヒドロピラン、テアスピラン、ビティスピラン、(2S,4aR,8aS)−2,5,5,8a−テトラメチル−3,4,4a,5,6,8a−ヘキサヒドロ−2H−1−ベンゾピラン、6−エテニル−2,2,6−トリメチルテトラヒドロ−3(4H)−ピラノン、6−ヒドロキシジヒドロテアスピラン、6−アセトキシジヒドロテアスピラン、及び2,6−ジエチル−5−イソプロピル−2−メチルテトラヒドロ−2H−ピランからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項6】
前記ピラン化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として1〜10質量%である、請求項1〜5のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項7】
前記臭気変調成分が、更に、バニリン系化合物を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項8】
前記バニリン系化合物は、バニリン、エチルバニリン、アセトアルデヒドエチルバニリンアセタール、バニリンアセテート、エチルバニリンイソブチレート、アセトバニロン、エチルバニレート、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、メチルバニレート、バニリックアシド、バニリンイソブチレート、ブチルバニレート、バニリン2,3−ブタンジオールアセタール、及びバニリンラクテートからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の臭気変調方法。
【請求項9】
前記バニリン系化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として5〜25質量%である、請求項7又は8に記載の臭気変調方法。
【請求項10】
前記油剤成分は、非イオン性界面活性剤を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項11】
前記油剤成分は、グリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、及びポリオキシソルビトール脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種の脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項12】
前記油剤成分は、グリセロールモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセキスオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタントリオレエートからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項13】
前記油剤成分は、HLBが11.0以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項14】
前記油剤成分の含有量は、臭気変調成分を100質量部として、10〜400質量部である、請求項1〜13のいずれかに記載の臭気変調方法。
【請求項15】
前記潤滑油中の前記臭気変調用油剤の含有量は0.01〜99vol%である、請求項1〜14のいずれかに記載の臭気変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛生車(バキュームカー)により便所から排泄物をくみ取る際の悪臭が問題となっている。一般に、衛生車では排泄物を吸引する場合、糞尿タンク内を真空ポンプにより減圧し、当該糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を糞尿タンク内に吸引する。また、排泄物を排出する場合、糞尿タンク内を真空ポンプにより加圧し、当該糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を糞尿タンク外に排出する。
【0003】
上記排泄物の吸引や排出の際に、糞尿タンク内の悪臭を含む空気を外部に排出することとなり、作業者や近隣住民に対し、不快感を感じさせるため問題となっている。
【0004】
特に、排泄物の吸引の際は、糞尿タンクの上部から糞尿タンク内の悪臭を含む空気を真空ポンプにより吸引して減圧し、真空ポンプを介して外部に排気する必要があるため、上記悪臭が発生し易い。排気の際は、糞尿タンクの排気口に備え付けられた脱臭器(フィルター)により脱臭されるが、悪臭の低減が十分でないという問題がある。
【0005】
上記悪臭を低減する手段として、バキューム車の糞尿タンクから大気に通じる配管系に介装した真空ポンプを運転して糞尿の吸排を行う際に、真空ポンプの循環管路に、脱臭剤を混入した循環水を貯溜する補水槽を具備したバキューム車の脱臭装置が提案されており、脱臭剤として苛性ソーダ、次亜塩素酸ソーダを用いる消臭方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、糞尿等の排泄物の悪臭は完全には消え難く、上述のような消臭剤を用いた方法では、不快な悪臭を十分に消臭することができないという問題がある。
【0007】
また、上述の消臭方法では、脱臭剤を混入した循環水を貯水する補水槽や、循環水の循環設備を有する必要があり、大がかりな装置が必要となるという問題がある。
【0008】
従って、衛生車により便所から排泄物を吸引、排出する際に発生する不快な悪臭を容易に低減できる手段の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実公平4−2229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、衛生車により便所から排泄物を吸引、排出する際に発生する不快な悪臭を異なる臭気に変調して、悪臭による害を容易に低減することができる臭気変調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、衛生車の糞尿タンク内の減圧、加圧を行うための真空ポンプに用いる潤滑油が臭気変調用油剤を含有する構成とすれば、真空ポンプに空気を通過させることにより、上記潤滑油中の臭気変調用油剤の作用により悪臭を異なる臭気に変調して他の不快でない臭いとすることができ、排泄物の悪臭による不快感を十分に低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の臭気変調方法に関する。
1.衛生車の糞尿タンクを真空ポンプにより減圧して、前記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を吸引する工程、及び/又は、前記糞尿タンクを真空ポンプにより加圧して、前記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を排出する工程を有し、
前記真空ポンプに用いられる潤滑油が、臭気変調用油剤を含有することを特徴とする臭気変調方法。
2.前記臭気変調用油剤は、臭気変調成分及び油剤成分を含有する、項1に記載の臭気変調方法。
3.前記臭気変調成分は、フラン化合物及びピラン化合物から選択される少なくとも一種の含酸素複素環式化合物を含む、項2に記載の臭気変調方法。
4.前記含酸素複素環式化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として1〜20質量%である、項3に記載の臭気変調方法。
5.前記フラン化合物は、フラネオール、フルフラール、5−メチルフルフラール、フルフリルメルカプタン、フルフリールアルコール、2−プロピオニルフラン、2−エチルフラン、メントフラン、2−メチル−3−フランチオール、2−メチル−3−テトラヒドロフランチオール、2−メチル−4,5−ジヒドロ−3−フランチオール、2−メチルフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−ヘキサノイルフラン、2−ペンチルフラン、2−プロピルフラン、2−(3−フェニルプロピル)テトラヒドロフラン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,4−ジメチル−4−フェニルテトラヒドロフラン、2−フルフリル−5−メチルフラン、2−ヘプチルフラン、2−メチルベンゾフラン、2−メチル−5−プロピオニルフラン、2−(5−エテニル−5−メチルテトラヒドロフラン−2−イル)−プロパナール、3−{[2−メチル−(2or4),5−ジヒドロ−3−フリル]チオ}−2−メチルテトラヒドロフラン−3−チオール、2−エテニル−5−イソプロペニル−2−メチルテトラヒドロフラン、5−メチル−2−フランメタンチオール、6−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[2,3−c]フラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、3−アセチル−2,5−ジメチルフラン、2−アセチル−5−メチルフラン、2−アセチルフラン、2−ブチルフラン、2,5−ジエチルテトラヒドロフラン、ジフルフリルジスルフィド、ジフルフリルエーテル、ジフルフリルスルフィド、及び2,5−ジメチル−3−フランチオールからなる群より選択される少なくとも一種である、項3又は4に記載の臭気変調方法。
6.前記フラン化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として0.1〜10質量%である、項3〜5のいずれかに記載の臭気変調方法。
7.前記ピラン化合物は、マルトール、エチルマルトール、4−アセトキシ−3−ペンチルテトラヒドロピラン、3,5−ジヒドロキシ−6−メチル−2,3−ジヒドロ−4(4H)−ピラノン、6−エテニル−2,2,6−トリメチルテトラヒドロピラン、5−メチル−3−ブチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート、オクタヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−オン、4−メチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)テトラヒドロピラン、テアスピラン、ビティスピラン、(2S,4aR,8aS)−2,5,5,8a−テトラメチル−3,4,4a,5,6,8a−ヘキサヒドロ−2H−1−ベンゾピラン、6−エテニル−2,2,6−トリメチルテトラヒドロ−3(4H)−ピラノン、6−ヒドロキシジヒドロテアスピラン、6−アセトキシジヒドロテアスピラン、及び2,6−ジエチル−5−イソプロピル−2−メチルテトラヒドロ−2H−ピランからなる群より選択される少なくとも1種である、項3〜6のいずれかに記載の臭気変調方法。
8.前記ピラン化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として1〜10質量%である、項3〜7のいずれかに記載の臭気変調方法。
9.前記臭気変調成分が、更に、バニリン系化合物を含有する、項3〜8のいずれかに記載の臭気変調方法。
10.前記バニリン系化合物は、バニリン、エチルバニリン、アセトアルデヒドエチルバニリンアセタール、バニリンアセテート、エチルバニリンイソブチレート、アセトバニロン、エチルバニレート、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、メチルバニレート、バニリックアシド、バニリンイソブチレート、ブチルバニレート、バニリン2,3−ブタンジオールアセタール、及びバニリンラクテートからなる群より選択される少なくとも一種である、項9に記載の臭気変調方法。
11.前記バニリン系化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として5〜25質量%である、項9又は10に記載の臭気変調方法。
12.前記油剤成分は、非イオン性界面活性剤を含む、項2〜11のいずれかに記載の臭気変調方法。
13.前記油剤成分は、グリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、及びポリオキシソルビトール脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種の脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤を含む、項2〜11のいずれかに記載の臭気変調方法。
14.前記油剤成分は、グリセロールモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセキスオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタントリオレエートからなる群より選択される少なくとも一種を含む、項2〜11のいずれかに記載の臭気変調方法。
15.前記油剤成分は、HLBが11.0以下である、項2〜14のいずれかに記載の臭気変調方法。
16.前記油剤成分の含有量は、臭気変調成分を100質量部として、10〜400質量部である、項2〜15のいずれかに記載の臭気変調方法。
17.前記潤滑油中の前記臭気変調用油剤の含有量は0.01〜99vol%である、項1〜16のいずれかに記載の臭気変調方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の臭気変調方法は、衛生車により便所から排泄物を吸引、排出する際に発生する不快な悪臭を異なる臭気に変調して他の不快でない臭いに感じさせて、排泄物の悪臭による不快感を容易に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の臭気変調方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明の臭気変調方法は、衛生車の糞尿タンクを真空ポンプにより減圧して、上記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を吸引する工程、及び/又は、上記糞尿タンクを真空ポンプにより加圧して、上記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を排出する工程を有し、上記真空ポンプに用いられる潤滑油が、臭気変調用油剤を含有する。
【0016】
衛生車としては特に限定されず、従来公知の衛生車を用いることができる。このような衛生車は、通常吸引した排泄物を収容するための糞尿タンクを備えており、当該糞尿タンクには、排泄物を吸引及び排出するためのホースが接続されている。また、衛生車には、糞尿タンク内を減圧及び加圧するための真空ポンプも備えられている。
【0017】
上記衛生車の糞尿タンクを真空ポンプにより減圧して、上記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を吸引する工程により、便所等から排泄物を吸引する。この際、減圧するために、糞尿タンク内の悪臭を含んだ空気が、糞尿タンク上部等の糞尿を吸引し難い箇所から吸引される。この空気は、配管を通って真空ポンプ内を通過し、排気口から排気される。排気口の先端には、通常脱臭器が備えられており、悪臭を含んだ空気は、脱臭器を通過して外部へ排出される。
【0018】
上記真空ポンプとしては、作動のために潤滑油を用いる真空ポンプであれば特に限定されず、例えば、ベーンポンプ等が挙げられる。上記真空ポンプを作動させると、上記悪臭を含んだ空気が真空ポンプ内を通過する際に、真空ポンプ内の潤滑油と接触する。本発明の臭気変調方法では、上記潤滑油が臭気変調用油剤を含有するために、潤滑油と接触した際に糞尿の不快な悪臭が異なる臭気に変調され、悪臭による害が容易に低減される。
【0019】
本発明の臭気変調方法は、上記糞尿タンクを真空ポンプにより加圧して、上記糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を排出する工程を有していてもよい。上記工程においては、通常真空ポンプから空気が糞尿タンク内に送り込まれ、糞尿タンクが加圧されるが、空気が逆流した場合に、糞尿タンクから悪臭を含んだ空気が真空ポンプを通過することにより潤滑油と接触する。本発明の臭気変調方法では、上記工程において、悪臭を含む空気が逆流して、真空ポンプを通って排気口から排気された場合であっても、潤滑油が臭気変調用油剤を含有するために、潤滑油と接触した際に糞尿の不快な悪臭が異なる臭気に変調され、悪臭による害が容易に低減される。
【0020】
本発明の臭気変調方法は、上記衛生車の糞尿タンクを真空ポンプにより減圧して、糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を吸引する工程、及び、上記糞尿タンクを真空ポンプにより加圧して、糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を排出する工程のうち、少なくとも一方の工程を有していればよい。糞尿タンクを真空ポンプにより減圧するために、糞尿タンク内の空気を外部に排出することとなるため、本発明の臭気変調方法においては、上記衛生車の糞尿タンクを真空ポンプにより減圧して、糞尿タンクに接続されたホースから排泄物を吸引する工程を行う場合に、排泄物の悪臭による害が低減されるとの効果が特に顕著になる。
【0021】
(潤滑油)
本発明の臭気変調方法は、上記真空ポンプに用いられる潤滑油が、臭気変調用油剤を含有する。潤滑油中の臭気変調用油剤以外の成分としては特に限定されず、鉱物油等の真空ポンプに用いられる従来公知の潤滑油の成分を用いることができる。通常真空ポンプに用いられている市販の潤滑油に、後述する臭気変調用油剤を混合して用いてもよい。
【0022】
潤滑油中の臭気変調用油剤の含有量は特に限定されず、0.01〜99vol%が好ましく、0.1〜50vol%がより好ましく、0.1〜10vol%が更に好ましく、0.5〜1.5vol%が特に好ましい。潤滑油中の臭気変調用油剤の含有量を上記範囲とすることにより、潤滑油としての機能を損なわず、真空ポンプの不具合の発生が抑制され、また、臭気変調用油剤の臭いが強くなり過ぎず、潤滑油が十分な臭気変調効果を発揮することができ、且つ、液安定性に優れる。
【0023】
臭気変調用油剤を含有する潤滑油を真空ポンプに充填する際は、臭気変調用油剤と潤滑油とを撹拌混合して、臭気変調用油剤を含有する潤滑油を調製し、次いで、真空ポンプに充填して用いることができる。また、臭気変調用油剤と潤滑油とを別々に真空ポンプ内に充填し、次いで、真空ポンプを稼働させることにより、真空ポンプ内で臭気変調用油剤と潤滑油とを混合して、臭気変調用油剤を含有する潤滑油として用いてもよい。
【0024】
(臭気変調用油剤)
上記臭気変調用油剤としては、臭気変調成分及び油剤成分を含有する臭気変調用油剤が挙げられる。以下、この臭気変調用油剤を例示的に説明する。
【0025】
(臭気変調成分)
臭気変調成分は、フラン化合物及びピラン化合物から選択される少なくとも一種の含酸素複素環式化合物を含むことが好ましい。
【0026】
(フラン化合物)
フラン化合物は、含酸素複素環式化合物であり、4個の炭素原子と1個の酸素原子により形成される5員環のフラン骨格を有していれば特に限定されない。フラン化合物としては、例えば、フラネオール、フルフラール、5−メチルフルフラール、フルフリルメルカプタン、フルフリールアルコール、2−プロピオニルフラン、2−エチルフラン、メントフラン、2−メチル−3−フランチオール、2−メチル−3−テトラヒドロフランチオール、2−メチル−4,5−ジヒドロ−3−フランチオール、2−メチルフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−ヘキサノイルフラン、2−ペンチルフラン、2−プロピルフラン、2−(3−フェニルプロピル)テトラヒドロフラン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,4−ジメチル−4−フェニルテトラヒドロフラン、2−フルフリル−5−メチルフラン、2−ヘプチルフラン、2−メチルベンゾフラン、2−メチル−5−プロピオニルフラン、2−(5−エテニル−5−メチルテトラヒドロフラン−2−イル)−プロパナール、3−{[2−メチル−(2or4),5−ジヒドロ−3−フリル]チオ}−2−メチルテトラヒドロフラン−3−チオール、2−エテニル−5−イソプロペニル−2−メチルテトラヒドロフラン、5−メチル−2−フランメタンチオール、6−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[2,3−c]フラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、3−アセチル−2,5−ジメチルフラン、2−アセチル−5−メチルフラン、2−アセチルフラン、2−ブチルフラン、2,5−ジエチルテトラヒドロフラン、ジフルフリルジスルフィド、ジフルフリルエーテル、ジフルフリルスルフィド、及び2,5−ジメチル−3−フランチオール等が挙げられる。これらの中でも、フラネオール、5−メチルフルフラール、フルフリルメルカプタンが好ましい。
【0027】
フラン化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として0.1〜10質量%が好ましく、0.4〜10質量%がより好ましく、0.4〜3質量%が更に好ましく、0.4〜1.5質量%が特に好ましく、0.5〜1.2質量%が最も好ましい。フラン化合物の含有量を上記範囲とすることにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0028】
上記フラン化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
(ピラン化合物)
ピラン化合物は、含酸素複素環式化合物であり、5個の炭素原子と1個の酸素原子により形成される6員環のエーテル化合物を骨格とするピラン骨格を有していれば特に限定されない。ピラン化合物としては、例えば、マルトール、エチルマルトール、4−アセトキシ−3−ペンチルテトラヒドロピラン、3,5−ジヒドロキシ−6−メチル−2,3−ジヒドロ−4(4H)−ピラノン、6−エテニル−2,2,6−トリメチルテトラヒドロピラン、5−メチル−3−ブチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート、オクタヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−オン、4−メチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)テトラヒドロピラン、テアスピラン、ビティスピラン、(2S,4aR,8aS)−2,5,5,8a−テトラメチル−3,4,4a,5,6,8a−ヘキサヒドロ−2H−1−ベンゾピラン、6−エテニル−2,2,6−トリメチルテトラヒドロ−3(4H)−ピラノン、6−ヒドロキシジヒドロテアスピラン、6−アセトキシジヒドロテアスピラン、及び2,6−ジエチル−5−イソプロピル−2−メチルテトラヒドロ−2H−ピラン等が挙げられる。これらの中でも、マルトール、エチルマルトールが好ましい。
【0030】
ピラン化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として1〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましく、1〜5質量%が更に好ましく、2〜5質量%が特に好ましい。ピラン化合物の含有量を上記範囲とすることにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0031】
上記ピラン化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
上記含酸素複素環式化合物の臭気変調剤成分中の含有量、すなわち、フラン化合物及びピラン化合物の含有量の合計は、臭気変調成分を100質量%として、1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%が更に好ましく、2〜5質量%が特に好ましい。含酸素複素環式化合物の含有量を上記範囲とすることにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0033】
臭気変調成分中のフラン化合物と、ピラン化合物との含有量の比は、質量比でフラン化合物:ピラン化合物=1:2〜1:5が好ましく、1:3〜1:4がより好ましい。フラン化合物と、ピラン化合物との含有量の比を上記範囲とすることにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0034】
(バニリン系化合物)
臭気変調成分は、更にバニリン系化合物を含有することが好ましい。臭気変調成分がバニリン系化合物を含有することにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0035】
バニリン系化合物は、バニリン骨格を有する化合物であれば特に限定されない。バニリン系化合物としては、例えば、バニリン、エチルバニリン、アセトアルデヒドエチルバニリンアセタール、バニリンアセテート、エチルバニリンイソブチレート、アセトバニロン、エチルバニレート、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、メチルバニレート、バニリックアシド、バニリンイソブチレート、ブチルバニレート、バニリン2,3−ブタンジオールアセタール、バニリンラクテート等が挙げられる。これらの中でも、バニリンが好ましい。
【0036】
バニリン系化合物の含有量は、臭気変調成分を100質量%として5〜25質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、10〜20質量%が更に好ましく、10〜15質量%が特に好ましい。バニリン系化合物の含有量を上記範囲とすることにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0037】
上記バニリン系化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
(ピリジン類)
臭気変調成分は、更にピリジン類を含有することが好ましい。臭気変調成分がピリジン類を含有することにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0039】
ピリジン類は、含窒素複素環式芳香族化合物であり、5個の炭素原子と1個の窒素原子により形成される6員環構造を有するピリジンを骨格とするピリジン骨格を有していれば特に限定されない。ピリジン類としては、例えば、2−アセチルピリジン、3−アセチルピリジン、4−アセチルピリジン、2−アセチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリジン、2−アセチル−4−イソプロペニルピリジン、4−アセチル−2−イソプロペニルピリジン、2−アセチル−4−イソプロピルピリジン、3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−アセチル−3,4,5,6−テトラヒドロピリジン等が挙げられる。これらの中でも、2−アセチルピリジンが好ましい。
【0040】
ピリジン類の含有量は、臭気変調成分を100質量%として、0.01〜0.3質量%が好ましく、0.05〜0.2質量%がより好ましく、0.09〜0.11質量%が更に好ましい。ピリジン類の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調用油剤が日常生活での生活環境や、産業において発生する悪臭を異なる臭気により変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0041】
上記ピリジン類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
(ピラジン類)
臭気変調成分は、更にピラジン類を含有することが好ましい。臭気変調成分がピラジン類を含有することにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0043】
ピラジン類は、含窒素複素環式芳香族化合物であり、4個の炭素原子と2個の窒素原子により形成される6員環構造を有する化合物であるピラジンを骨格とするピラジン骨格を有していれば特に限定されない。ピラジン類としては、例えば、2−メチルチオ−3−メチルピラジン、2−メトキシ−3−メチルピラジン、2−エチル−3(5/6)ジメチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジン、2−メトキシ−5−メチルピラジン、2−アセチル−3(5/6)−ジメチルピラジン、2−アセチル−3−エチルピラジン、2−アセチル−3−メチルピラジン、アセチルピラジン、2−(フルフリルチオ)−(3/5/6)−メチルピラジン、2−メチル−(5/6)−(メチルチオ)ピラジン、2−エチル−3−(メチルチオ)ピラジン、2−イソプロピル−3−(メチルチオ)ピラジン、2−sec−ブチル−3−メトキシピラジン、2−エトキシ−(3/5/6)−メチルピラジン、2−エトキシ−3−エチルピラジン、2−エトキシ−3−イソプロピルピラジン、2−エチル−3−メトキシピラジン、2−ヘキシル−3−メトキシピラジン、2−イソブチル−3−メトキシピラジン、2−イソプロポキシ−3−メチルピラジン、2−イソプロピル−(3/5/6)−メトキシピラジン、2−メトキシ−(5/6)−メチルピラジン、2−メトキシ−3,5−ジメチルピラジン、2−イソプロピル−3−メトキシピラジン、メトキシピラジン、2−メチル−6−プロポキシピラジン、2−エトキシ−(5/6)−メチルピラジン及び2−(ヒドロキシメチル)−5−メチルピラジン等が挙げられる。これらの中でも、2−メチルチオ−3−メチルピラジン、2−メトキシ−3−メチルピラジン、2−エチル−3(5/6)ジメチルピラジン、2−エチル−3−メチルピラジンが好ましい。
【0044】
ピラジン類の含有量は、臭気変調成分を100質量%として0.01〜0.5質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましく、0.05〜0.3質量%が更に好ましく、0.1〜0.3質量%が特に好ましい。ピラジン類の含有量を上記範囲とすることにより、排泄物の不快な悪臭を、より十分に異なる臭気に変調することができ、本発明の臭気変調方法により排泄物の悪臭による不快感をより十分に低減することができる。
【0045】
上記ピラジン類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
臭気変調成分は、本発明の効果を妨げない限り、他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、上記フラン化合物、ピラン化合物、バニリン系化合物、ピリジン類及びピラジン類以外のテルペンアルコール系化合物、エステル系化合物、アルデヒド系化合物、ケトン系化合物等が挙げられる。
【0047】
臭気変調成分中の上記他の添加剤の含有量の合計は、臭気変調成分を100質量%として30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。他の添加剤の含有量の合計を上記範囲とすることにより、臭気変調用油剤が日常生活での生活環境や、産業において発生する悪臭を異なる臭気により変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0048】
(溶媒)
臭気変調成分において、上記各成分は、溶媒中に分散していることが好ましい。各成分が溶媒中に分散していることにより、臭気変調用油剤中に各成分が均一に分散することができ、臭気変調用油剤が液安定性に優れ、臭気変調効果をより効果的に発揮することができる。
【0049】
溶媒としては水、溶剤を用いることができるが、油剤成分との相溶性に優れる点で、溶剤が好ましい。溶剤としては特に限定されず、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、エステル等が挙げられる。中でも、油剤成分との相溶性に特に優れる点で、アルコール、エステルが好ましい。
【0050】
上記アルコールとしては特に限定されず、モノアルコール、又は、ジオール、トリオール等のポリオールが挙げられる。また、上記アルコールとしては、炭素数2〜4のアルコールを好適に用いることができる。上記アルコールの炭素数は、2〜3がより好ましい。
【0051】
上記アルコールとしては、具体的には、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、2−2(エトキシエトキシ)エタノール等が挙げられ、臭気変調用油剤を使用した際に、有害性が低い点で、エタノール、2−2(エトキシエトキシ)エタノール、プロピレングリコールが好ましい。
【0052】
上記エステルとしては特に限定されず、食品衛生法第10条に基づき、厚生労働大臣が定めた指定添加物の中のエステルを好適に用いることができる。具体的には、食品衛生法施行規則別表1に収載されている「指定添加物」のうち、エステル類に分類される化合物を好適に用いることができる。これらの中でも、比較的臭いが弱く、他の成分の香りを妨げない点で、安息香酸ベンジル、トリエチルシトレート、イソプロピルミリステートをより好適に用いることができる。
【0053】
上記溶媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
溶媒の含有量は、臭気変調成分を100質量%として20〜90質量%が好ましく、30〜90質量%がより好ましく、40〜85質量%が更に好ましく、50〜85質量%が特に好ましい。溶媒の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調用油剤中に各成分が均一に分散することができ、臭気変調用油剤が液安定性に優れ、臭気変調効果をより効果的に発揮することができる。
【0055】
(油剤成分)
油剤成分は、上記臭気変調成分に用いられる成分と異なる成分を含む油剤であれば特に限定されない。上記油剤成分としては、臭気変調成分との相溶性に優れ、且つ、真空ポンプに用いられる潤滑油中での相溶性に優れる油剤成分を用いることが好ましい。このような油剤成分としては、非イオン性界面活性剤を含む油剤成分が挙げられる。
【0056】
上記非イオン性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤等を用いることができる。脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ポリオキシソルビトール脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤等が挙げられ、中でも、機械に用いられる潤滑油との相溶性により優れる点で、グリセリン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0057】
上記非イオン性界面活性剤としては、より具体的には、グリセロールモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセキスオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等が、真空ポンプに用いられる潤滑油中での相溶性により優れる点で好適に用いることができる。
【0058】
上記油剤成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
油剤成分のHLBは、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましく、9.0以下が更に好ましく、5.0以下が特に好ましい。また、油剤成分のHLBは、2.5以上が好ましい。油剤成分のHLBを上記範囲とすることにより、真空ポンプに用いられる潤滑油中での相溶性が、より向上する。
【0060】
なお、上記HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)は親水親油バランス値を示す。本明細書において、上記HLBは、グリフィン法により、下記式に基づいて算出される値である。なお、油剤成分を二種以上混合して用いる場合は、それぞれのHLB値の平均値である。
[HLB]=20×(油剤成分内の親水基の割合(質量%))
【0061】
臭気変調用油剤中の油剤成分の含有量は、臭気変調成分を100質量部として、10〜400質量部が好ましく、50〜150質量部がより好ましい。油剤成分の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調用油剤がより優れた臭気変調性を示すことができ、且つ、真空ポンプに用いられる潤滑油中での相溶性が、より向上する。
【0062】
上記油剤成分は、本発明の効果を妨げない限り、上記非イオン界面活性剤の他に、他の油剤を含有していてもよい。
【0063】
臭気変調用油剤は、本発明の効果を妨げない限り、上記臭気変調成分及び油剤成分の他に、他の添加剤を含有していてもよい。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0065】
実施例1
(臭気変調成分の調製)
表1に示す臭気変調成分の原料を、混合槽に投入して混合、撹拌し、臭気変調成分を調製した。具体的には、加熱装置を備えた混合槽に、表1に示す配合により溶媒を投入し、次いで他の原料を順次添加して、20℃の条件下で30分間撹拌して、臭気変調成分を調製した。
【0066】
(臭気変調用油剤の調製)
油剤成分として、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)を用意し、上記のようにして調製した臭気変調成分と、ソルビタンモノオレエートとを質量比で1:1の割合となるように混合槽中で常温で混合し、臭気変調用油剤を調製した。
【0067】
(潤滑油の調製)
上記のようにして調製した臭気変調用油剤50cc、及び、潤滑油4950ccを、衛生車(バキュームカー)の真空ポンプ内にそれぞれ充填した。真空ポンプを稼働させることにより、臭気変調用油剤と潤滑油とが混合されて、臭気変調用油剤を1vol%含有する、5Lの潤滑油が調製された。これを用いて、以下の臭気変調試験を行い、評価した。
【0068】
(臭気変調試験)
上記のようにして得られた、臭気変調用油剤を含有する潤滑油が充填された真空ポンプを備える衛生車により、くみ取り現場でくみ取りを行い、作業者により、臭いを下記評価基準に従って評価した。なお、下記評価において、3以上であれば臭気変調効果が得られていると評価される。
5:糞尿の臭いを全く感じず、非常によい臭いだと感じた
4:糞尿の臭いを殆ど感じず、よい臭いだと感じた
3:糞尿の臭いを若干感じたが、不快でないと感じた
2:糞尿の臭いを感じ、よい臭いだと感じなかった
1:糞尿の臭いを強く感じ、不快な臭いだと感じた
【0069】
上記評価を2回行った。1回目の結果を表2に示し、2回目の結果を表3に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】