特許第6853545号(P6853545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6853545
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】側臥位手術用マット装置
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/15 20060101AFI20210322BHJP
   A61G 13/12 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   A47C27/15 B
   A61G13/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-174285(P2020-174285)
(22)【出願日】2020年10月15日
【審査請求日】2020年10月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼刊行物 第28回日本脊椎インストゥルメンテーション学会抄録集,第182頁 発行者 日本脊椎インストゥルメンテーション学会発行 頒布日 令和元年11月15日 ▲2▼集会名 第28回日本脊椎インストゥルメンテーション学会 開催場所 つくば国際会議場 開催日 令和元年11月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(73)【特許権者】
【識別番号】398020219
【氏名又は名称】四国繊維販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(72)【発明者】
【氏名】生熊 久敬
(72)【発明者】
【氏名】西岡 美彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 悟
【審査官】 松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07024711(US,B1)
【文献】 中国実用新案第204734680(CN,U)
【文献】 米国特許第05479667(US,A)
【文献】 実開平01−061163(JP,U)
【文献】 特開2000−253957(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3105323(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/00−27/22
A61G 13/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術台の台板上に載置されて側臥位手術において使用されるマット装置であって、
長矩形の平面形体を持ち上記台板上に設置されるベースマットと、
略長矩形の平面形体をもち上記ベースマット上に載置されるとともに、その長手方向の一端寄りの側縁部には該一端から該側縁に沿って所定幅で延びる切欠き空間が設けられた主マットと、
上記主マットの上記一端の直前に位置するようにして上記ベースマット上に載置された肩マットと、
上記肩マットの直前に位置するようにして上記ベースマット上に載置された頭部マットを備え、
側臥位手術に際しては、上記ベースマットの幅方向略中央において側臥位にある患者の背中部分が上記主マットの切欠き空間に、肩部が上記肩マット部分に、頭部が上記頭部マット部分にそれぞれ対応するようにして使用されることを特徴とする側臥位手術用マット装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記主マットは、その側面視において、該主マットの他端から上記一端側に向かって略水平に延出する低位平坦部と、該低位平坦部の端部に連続してここから上昇傾斜する傾斜面部と、該傾斜面部の端部に連続してここから略水平に延出する高位平坦部を備えるとともに、
上記傾斜面部と高位平坦部が上記主マットの幅方向において上記切欠き空間に対応していることを特徴とする側臥位手術用マット装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記位平坦部と高位平坦部の高低差を40mmから50mmの範囲に設定したことを特徴とする側臥位手術用マット装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、
上記主マットの上記切欠き空間に嵌合可能で且つ該切欠き空間への嵌合状態では該主マットと略同一の表面を形成する側縁部マットが着脱自在に取り付けられることを特徴とする側臥位手術用マット装置。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4において、
上記肩マットは多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマットで構成され、
上記頭部マットは多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマットで構成されていることを特徴とする側臥位手術用マット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、側臥位に体位設定された患者に対してその背面側から手術を行う場合において使用されるマット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
側臥位手術は、通常、側臥位手術用の手術台を使用して行われるが、この側臥位手術用の手術台は、長手方向において折曲させる必要がないことから、長矩形の平面形態をもつ台板を備えるとともに、該台板上に長矩形の平面形態をもつマット装置を設置して構成され、該マット装置上に患者を側臥させて施術するように構成されている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−113528号公報
【特許文献2】特開2001−238924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような従来のマット装置を備えた手術台を使用して側臥位手術を行う場合には、以下のような問題があった。
【0005】
「第1の問題点」
通常、側臥位手術を行う場合には、図10に示すように、手術台50の台板51上に載置したマット装置52上に、患者70を側臥姿勢で寝かせてその体位を保持させる。この場合、側臥位にある患者70は、その肩部73と臀部77の下方への突出量が他の部位に比して大きいことから、これらの部位に体圧が集中し、マット装置52上における体圧分布が大きく偏るとともに、頭部71は頸部72を曲げた傾斜状態で枕53に支持されることから、側臥位にある患者70の体幹、特に、頚椎から脊柱及び骨盤に至る体幹が、体幹線Lで示すように大きく屈曲したものとなる。
【0006】
これらの結果、術中における患者70の身体的負荷が大きくなり、特に長時間に及ぶ手術においては、患者70の術中体位の安定性が損なわれ手術の円滑な進行が阻害されるとか、過度の体圧負荷によって該患者70が皮膚症や関節部位の神経障害を引き起こすことも考えられる。
【0007】
「第2の問題点」
側臥位手術の代表的なものとして、図11に示すように、側臥位にある患者70の腰部76に対してその背中75側から経皮的椎弓根スクリュー(以下、「スクリュー」と略記する)を挿入して行う脊椎手術がある。この場合、図11に示すように、患者70が、マット装置52の幅方向中央部において側臥していると(本来の適正な側臥位置)、患者70の右半部側がマット装置52に沈み込んでいることから、上記マット装置52の患者背面側の角部52aがスクリュー挿入の障害物となり、適正な術式の遂行が妨げられることになる。
【0008】
即ち、体中心線L0より上側からのスクリュー挿入は、挿入障害物が存在しないことから、挿入線Luで示すように適正な挿入角度を確保できるが、上記体中心線L0より下側では、適正な挿入角度に設定された挿入線Ld1でのスクリュー挿入が、上記角部52aとの干渉によって実行できず、該挿入線Ld1よりも小角度の挿入線Ld2でのスクリュー挿入とならざるを得ないなど、手術手技が制約され、本来の術式効果が期待できないという問題がある。
【0009】
「第3の問題点」
一方、上記角部52aが挿入障害となるのを避けるべく、図12に示すように、上記患者70を上記マット装置52の角部52aの側縁に寄せて側臥させることも考えられる。しかし、この場合には、体中心線L0より上側からのスクリュー挿入(挿入線Lu)も、体中心線L0より下側からのスクリュー挿入(挿入線Ld)も可能となる反面、該角部52aが上記マット装置52の側縁部に位置しその体圧支持能が低いことから、患者70の術中姿勢の維持が損なわれ、適正な術式遂行が阻害されるという問題がある。
【0010】
そこで本願発明は、側臥位にある患者の背面側におけるワークスペースの確保と、患者の術中体位の安定性の確保、並びに患者の身体的負荷の改善を並立させ得る側臥位手術用マット装置を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0012】
本願の第1の発明では、手術台の台板上に載置されて側臥位手術において使用されるマット装置において、長矩形の平面形体を持ち上記台板上に設置されるベースマットと、略長矩形の平面形体をもち上記ベースマット上に載置されるとともに、その長手方向の一端寄りの側縁部には該一端から該側縁に沿って所定幅で延びる切欠き空間が設けられた主マットと、上記主マットの上記一端の直前に位置するようにして上記ベースマット上に載置された肩マットと、上記肩マットの直前に位置するようにして上記ベースマット上に載置された頭部マットを備え、側臥位手術に際しては、上記ベースマットの幅方向略中央において側臥位にある患者の背中部分が上記主マットの切欠き空間に、肩部が上記肩マット部分に、頭部が上記頭部マット部分にそれぞれ対応するようにして使用されることを特徴と
している。
【0013】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る側臥位手術用マット装置において、上記主マットが、その側面視において、該主マットの他端から上記一端側に向かって略水平に延出する低位平坦部と、該低位平坦部の端部に連続してここから上昇傾斜して延出する傾斜面部と、該傾斜面部の端部に連続してここから略水平に延出する高位平坦部を備えるとともに、上記傾斜面部と高位平坦部が上記主マットの幅方向において上記切欠き空間に対応していることを特徴としている。
【0014】
本願の第3の発明では、上記第2の発明に係る側臥位手術用マット装置において、上記位平坦部と高位平坦部の高低差を40mmから50mmの範囲に設定したことを特徴としている。
【0015】
本願の第4の発明では、上記第1、第2又は第3の発明に係る側臥位手術用マット装置において、上記主マットの上記切欠き空間に嵌合可能で且つ該切欠き空間への嵌合状態では該主マットと略同一の表面を形成する側縁部マットが着脱自在に取り付けられることを特徴としている。
【0016】
本願の第5の発明では、上記第1、第2、第3又は第4の発明に係る側臥位手術用マット装置において、上記肩マットが多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマットで構成され、上記頭部マットが多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマットで構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本願各発明では以下のような効果が得られる。
【0018】
(a)本願の第1の発明
本願の第1の発明に係る側臥位手術用マット装置によれば、
(a−1)側臥位手術に際しては、上記ベースマットの幅方向略中央において側臥位にある患者の背中部分が上記主マットの切欠き空間に、肩部が上記肩マット部分に、頭部が上記頭部マット部分にそれぞれ対応するようにして使用されることから、側臥位での患者の身体的負担が少なく、その体位の維持が促進される、
(a−2)側臥位手術時には、施術部位となる患者の背中部分が上記主マットの上記切欠き空間部分に対応しており、該切欠き空間によって手術手技のワークスペースが確保されているので、手術手技の実施が容易且つ確実となり、例えば、側臥位にある患者の腰部に対して背中側からスクリューを挿入して行う脊椎手術においては、該スクリューの適正な挿入角度を確保することが容易である、
(a−3)側臥位手術に際しては、上記ベースマットの幅方向略中央において側臥位にある患者の下肢から肩部直前の腋窩部分の範囲が上記主マットによって支持されるともに、肩部が上記肩マット部分に、頭部が上記頭部マット部分によって支持されることで、側臥位における体圧分布性・安定性が保たれ、患者への身体的負荷が軽減される、
等の新規有用な効果が得られる。
【0019】
(b)本願の第2の発明
本願の第2の発明に係る側臥位手術用マット装置によれば、上記(a)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。
【0020】
即ち、この発明では、
(b−1)上記主マットが、その側面視において、該主マットの他端から上記一端側に向かって略水平に延出する低位平坦部と、該低位平坦部の端部に連続してここから上昇傾斜して延出する傾斜面部と、該傾斜面部の端部に連続してここから略水平に延出する高位平坦部を備えているが、この主マットの上記傾斜面部から高位平坦部に至る部分の表面形状は、側臥位にある患者の腰部から腋窩部までの凹凸形状に近似することから、この患者の腰部から腋窩部までの間における体圧分布が可及的に平均化され、それだけ患者にかかる身体的負担が軽減される、
(b−2)上記主マットの上記傾斜面部と高位平坦部が上記主マットの幅方向において上記切欠き空間に対応しているが、この患者の腰部から腋窩部までの範囲は側臥位手術の施術範囲に対応することから、側臥位手術におけるワークスペースが確保される、
等の効果が得られる。
【0021】
(c)本願の第3の発明
本願の第3の発明に係る側臥位手術用マット装置によれば、上記(a)又は(b)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。
【0022】
一般に、側臥位にある患者の肩部分を上記肩マットおいて支持させると、この肩部分の沈み込みに伴って、該肩部の近傍の腋窩部分に圧力が加わりその沈み込みが大きくなることで、骨盤から脊柱を経て頸部に至る体幹の平行性が崩れ、患者の身体的負荷が大きくなる。係る場合、この発明のように、上記主マットにおける上記低位平坦部(即ち、骨盤部分を支持する部分)と高位平坦部(即ち、腋窩部分を支持する部分)の高低差を40mmから50mmの範囲に設定することで、腋窩部分にかかる圧力が減じてその沈み込みが抑制され、これによって骨盤から脊柱を経て頸部に至る体幹の平行性が可及的に確保され、患者の身体的負荷が軽減されることになる。
【0023】
なお、上記主マットにおける上記低位平坦部と高位平坦部の高低差を「40mmから50mm」の範囲に限定した根拠は、平均的体格の日本人の骨盤の最外側にある腸骨と肩部の近傍に位置する腋窩との高低差(体中心からの距離差)が略45mm程度であり、これが40mm以下とか50mm以上である場合には、体幹の平行性確保という面での効果が小さくなるという知見に基づいている。
【0024】
(d)本願の第4の発明
本願の第4の発明では、上記第1、第2又は第3の発明に係る側臥位手術用マット装置において、上記主マットの上記切欠き空間に嵌合可能で且つ該切欠き空間への嵌合状態では該主マットと略同一の表面を形成する側縁部マットを着脱自在に取り付けるようにしているので、例えば、このマット装置を側臥位手術において使用する場合には、上記側縁部マットを取り外すことで、施術部分の周辺における手術手技のワークスペースが確保される一方、このマット装置を仰臥位手術とか伏臥位施術において使用する場合には、上記側縁部マットを上記主マットの上記切欠き空間に嵌合配置することで該側縁部マットの表面積だけマット面が拡大し、患者の支持が安定する。
【0025】
(e)本願の第5の発明
本願の第5の発明では、上記第1、第2、第3又は第4の発明に係る側臥位手術用マット装置において、上記肩マットを多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマットで構成し、上記頭部マットを多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマットで構成したので、患者の身体的サイズ、例えば、肩幅、体重、身長等に応じて上記肩マット及び頭部マットをそれぞれ選択使用することで、体幹の適正化が担保される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明の実施形態に係るマット装置の平面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3図1のB−B断面図である。
図4図1に示したマット装置の分解斜視図である。
図5図1に示したマット装置のフル装備状態における斜視図である。
図6図1に示したマット装置の側臥位手術時における斜視図である。
図7図6に示すマット装置に患者が側臥した状態における平面図である。
図8図7のC−C断面図である。
図9図7のD−D拡大断面図である。
図10】従来の側臥位手術用マット装置の断面図である。
図11図10のE−E矢視図である。
図12図11に示す状態から患者をマット装置の縁部側に移動させた場合における斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1図4には、本願発明の実施形態に係る側臥位手術用のマット装置Xを示している。このマット装置Xは、手術台Yの長矩形の台板Ya上に設置されるものであって、図1及び図4に示すように、ベースマット1と主マット2と側縁部マット3と第1側端マット4と第2側端マット5と肩マット6及び頭部マット9を備えて構成される。
【0028】
「ベースマット1」
上記ベースマット1は、所定厚さ(この実施形態では、50mmとしている)のマット材(この実施形態ではラテックスフォーム材としている)を長矩形(この実施形態では2000mm×520mmとしている)に形成して構成され、上記手術台Yの長矩形の台板Ya上に略重合状態で設置される。
【0029】
なお、この実施形態では、上記ベースマット1を上記手術台Yの台板Ya上に設置するようにしているが、本願発明は係る構成に限定されるものではなく、例えば、上記台板Yaが適度のクッション性を有するように構成されている場合は、この台板Yaを上記ベースマット1として利用し、専用部材としてのベースマット1の設置を不要とすることも可能である。
【0030】
「主マット2」
上記主マット2は、例えば、ラテックスフォーム材を用いて長矩形(この実施形態では1620mm×520mmとしている)の平面形体をもつように一体成形されている。また、この主マット2の断面形状は、図2に示すように、長手方向の一端2aから他端2b側へ所定寸法(例えば、217mm)だけ移行した位置2dの間は、所定厚さ(例えば、150mm)をもつ高位平坦部23とされ、該主マット2の他端2bから上記一端2a側へ所定寸法(例えば、1020mm)だけ移行した位置2cの間は、所定厚さ(例えば、100mm)をもつ低位平坦部21とされ、さらに上記位置2dと位置2cの間は、上記高位平坦部23の厚さから上記低位平坦部21の厚さまで厚さが直線的に減少変化する傾斜面部22とされている。
【0031】
さらに、上記主マット2の上記高位平坦部23の一方の側縁部23aと、上記傾斜面部22の一方の側縁部22aに跨る部分には、上記主マット2の一方の側縁2eから他方の側縁2fに向けて所定深さ(例えば、100mm)に切り欠かくことで切欠き空間20が形成されている。また、この主マット2は上記ベースマット1上に、例えば面ファスナー等の接合材を用いて着脱自在に取り付けられる。
【0032】
「側縁部マット3」
上記側縁部マット3は、上記主マット2の上記切欠き空間20に着脱自在に嵌合配置されるものであり、この実施形態では、上記切欠き空間20の形成を目的として上記主マット2から切り取られた部分を、そのまま上記側縁部マット3として流用するようにしている。したがって、上記側縁部マット3は、上記主マット2側の上記切欠き空間20bに嵌合可能であり、且つ上記嵌合切欠き空間20に嵌合した状態においては、その高位平坦部32は上記主マット2側の高位平坦部23と、その傾斜面部31は上記主マット2側の傾斜面部22と略同一面を形成する。この側縁部マット3は、面ファスナー等の接合材を用いて上記ベースマット1側に着脱自在に取り付けられる。なお、上記側縁部マット3は、上述のように、上記主マット2に上記切欠き空間20を形成した場合の残材をそのまま利用するのに限定されるものではなく、新規に製作しても良いことは勿論である。
【0033】
「肩マット6」
上記肩マット6は、上記マット装置X上に側臥した患者70の肩部73を支持するためのものであって(図7図8参照)、例えば、ラテックスフォーム材を用いて長矩形(この実施形態では420mm×200mmとしている)の平面形体をもつように一体成形された第1マット7と第2マット8を備えて構成される。そして、この第1マット7と第2マット8は、その厚さが異なるように形成されており(例えば、第1マット7は厚さ100mm、第2マット8は厚さ50mm)、上記マット装置Xを使用する患者70の体格等の条件に応じて適宜選択使用される。なお、これら肩マット6の二つのマット7,8は、上記主マット2の一端2aの直前に位置するようにして、面ファスナー等の接合材を用いて上記ベースマット1側に着脱自在に取り付けられる。
【0034】
この実施形態では、上記肩マット6を二つのマット7,8で構成しているが、本願発明は係る構成に限定されるものではなく、例えば、上記肩マット6を三つ以上のマットで構成することもできる。
【0035】
「頭部マット9」
上記頭部マット9は、上記マット装置X上に側臥した患者70の頭部71を支持するためのものであって(図7図8参照)、例えば、ラテックスフォーム材を用いて長矩形(この実施形態では420mm×270mmとしている)の平面形体をもつように一体成形された第1マット10と第2マット11を備えて構成される。そして、この第1マット7と第2マット8は、その厚さが異なるように形成されており(例えば、第1マット10は厚さ30mm、第2マット11は厚さ70mm)、上記マット装置Xを使用する患者70の体格等の条件に応じて適宜選択使用される。なお、これら頭部マット9の二つのマット10,11は、上記肩マット6の直前に位置するようにして、面ファスナー等の接合材を用いて上記ベースマット1側に着脱自在に取り付けられる。
【0036】
この実施形態では、上記頭部マット9を二つのマット10、11で構成しているが、本願発明は係る構成に限定されるものではなく、例えば、上記頭部マット9を三つ以上のマットで構成することもできる。
【0037】
また、上記頭部マット9の上には、所定厚さ(例えば、70mm)のラテックスフォーム材を用いて長矩形(この実施形態では310mm×240mmとしている)の平面形体をもつように一体成形された枕12が必要に応じて配置される。また、この枕12の略中央部には、側臥姿勢にある患者70の耳部分を対応させてその圧痛等を防ぐための開穴13が設けられている。
【0038】
「第1側端マット4及び第2側端マット5」
上記第1側端マット4は、図4図5に示すように、上記側縁部マット3の端部と、上記肩マット6の端部で囲まれたコーナ部に配置されて、その配置状態においては上記側縁部マット3及び上記頭部マット9とともに略同一の表面を形成するものであって、ラテックスフォーム材を用いて略矩形ブロック状に形成され、上記部位に面ファスナー等の接合材を用いて着脱自在に取り付けられる。
【0039】
上記第2側端マット5は、図4図5に示すように、上記頭部マット9の端部と、上記第1側端マット4の端部で囲まれたコーナ部に配置されて、その配置状態においては上記頭部マット9及び上記第1側端マット4とともに略同一の表面を形成するものであって、ラテックスフォーム材を用いて略矩形ブロック状に形成され、上記部位に面ファスナー等の接合材を用いて着脱自在に取り付けられる。
【0040】
そして、図5に示すように、上記側縁部マット3が上記主マット2の切欠き空間20部分に嵌合配置される場合には、上記第1側端マット4及び上記第2側端マット5はそれぞれ上記所定部位に配置され、該第1側端マット4は、上記側縁部マット3及び上記肩マット6とともに略同一の表面を形成する一方、上記第2側端マット5は上記第1側端マット4及び上記頭部マット9と略同一の表面を形成する。
【0041】
これに対して、図6に示すように、上記側縁部マット3が上記主マット2の切欠き空間20から取り外された状態では、上記第1側端マット4及び上記第2側端マット5も共に上記ベースマット1側から取り外され、上記主マット2の側縁側には、上記切欠き空間20とこれに連続する上記第1側端マット4及び第2側端マット5の取り外し後の面からなる手術手技のためのワークスペース25が形成される。
【0042】
したがって、上記側縁部マット3と上記第1側端マット4及び第2側端マット5が共に装着された図5の状態は、上記マット装置Xが側臥位手術以外の手術を行う時の形態である(以下においては、このときのマット装置Xの形態を「使用時形態」という)。これに対して、上記側縁部マット3と第1側端マット4及び第2側端マット5が取り外されて上記主マット2の側縁部に手技スペース25が形成された図6の状態は、上記マット装置Xが側臥位手術を行うときの形態である(以下においては、このときのマット装置Xの形態を「非使用時形態」という)。
【0043】
なお、図1図4図6において鎖線図示する部材は、側臥位にある患者70がその肩部73を上記肩マットに支持させるとともに、その腕を上記肩マット6の上面側に形成される空間部26に預けた状態において、該空間部26の延長上に配置された手台マット27であり、必要に応じて配置される。また、この実施形態では、作図の便宜上、上記マット装置Xの各マット1〜11をラテックスフォーム材の一体成型品として描いているが、実際には、一体成型品を適宜のカバーによって覆った構成としている。
【0044】
「側臥位手術時における作用効果」
ここで、上記マット装置Xを備えた手術台Yを使用して側臥位手術を行う場合における作用効果を説明する。
【0045】
図7は、使用時形態に設定された上記マット装置Xの上に患者70を側臥させた状態における平面図であり、図8はその場合における側面図である。この図7及び図8に示す状態では、側臥位にある患者70は、上記マット装置Xの長手方向の中心線にその体幹線Lを沿わせた状態で、その下肢部78を上記主マット2の低位平坦部21に、臀部77及び腰部76を上記主マット2の上記傾斜面部22に、背中75から腋窩部74にかけての部位を上記主マット2の高位平坦部23にそれぞれ対応させるとともに、その肩部73を上記肩マット6に、上記頭部71を上記頭部マット9に、それぞれ対応させている。したがって、側臥位手術の施術対象位置である上記腰部76から腋窩部74に掛けての部分は、上記主マット2の切欠き空間20を含む手技スペース25に臨んでいる。この側臥位設定状態において側臥位手術、例えば、患者70の背中76側から腰部76部分にスクリューを挿入して行う脊椎手術が行われる。
【0046】
この側臥位手術の実施に伴って、以下のような本願発明に特有な作用効果が得られる。
(1)側臥位手術に際しては、上記マット装置Xの幅方向略中央において側臥位にある患者70の背中75部分が上記主マット2の切欠き空間20を含む手技スペース25に臨むとともに、肩部73が上記肩マット6部分に、頭部71が上記頭部マット9部分にそれぞれ対応するようにして使用されることから、側臥位での患者70の身体的負担が少なく、長時間に亘っての体位の維持が可能となる。
【0047】
(2)側臥位手術時には、施術部位となる患者70の背中76部分が上記主マット2の上記切欠き空間20部分に対応しており、該切欠き空間20を含む手技スペース25によって手術手技のワークスペースが確保されているので、手術手技の実施が容易且つ確実となり、例えば、側臥位にある患者70の腰部76に対して背中75側からスクリューを挿入して行う脊椎手術においては、該スクリューの適正な挿入角度を確保することが容易であり、側臥位手術の信頼性が担保される。
【0048】
ここで、このスクリュー挿入角度の拡大効果を、図9図7のD−D断面図)に基づいて具体的に説明する。
図9には、患者70がマット装置X上に側臥した状態における腰部76近傍(図7のD−D断面線を参照)の断面図を示している。側臥位手術脊椎手術においては、この患者70の腰部76に対してその背中75側から所定のスクリュー挿入角度でスクリューを挿入する。このスクリュー挿入は、挿入線Luで示すように、体中心を通る体中心線Lcより上側位置から斜め下方へ向けてスクリューを挿入する場合(上側挿入術式)と、挿入線Ld1〜Ld3で示すように、体中心を通る体中心線Lcより下側位置から斜め上方へ向けてスクリューを挿入する場合(下側挿入術式)とがある。
【0049】
上側挿入術式では、患者70の背中75側にスクリュー挿入の障害となるものが存在しないことから、術式上適正なスクリュー挿入角度(挿入線Lu)を確保することができるため、何ら問題はない。
【0050】
これに対して、下側挿入術式では、体圧によって患者70の腰部76部分が上記主マット2の表面から沈み込んでいるため、該主マット2の側臥位置より手前側部分がスクリュー挿入の障害となり、例えば、上記主マット2に上記切欠き空間20で構成される手技スペース25が設けられていない場合には、該主マット2の上端隅部P3との干渉回避上、挿入線Ld3で示すように浅いスクリュー挿入角度しかとれず、十分な術式効果が期待できない。
【0051】
これに対して、この実施形態の主マット2においては、上記切欠き空間20の形成によって主マット2の側臥位置より手前側に上記手技スペース25が存在し、この手技スペース25の存在によってスクリュー挿入の障害となる主マット2の上端隅部の位置が、位置P2(スクリュー挿入位置が上記主マット2の高位平坦部23に対応する場合。図7参照)、あるいは位置P1(スクリュー挿入位置が上記主マット2の高位平坦部23に対応する場合。図7参照)となり、位置P2では挿入線Ld2で示すスクリュー挿入角度が確保でき、また位置P1では挿入線Ld1で示すスクリュー挿入角度が確保できる。そして、患者70の腰部76は上記主マット2の傾斜面部22に対応している(図7参照)ことから、下側挿入術式を適正なスクリュー挿入角度で行うことができ、高い術式効果が期待できる。
【0052】
(3)側臥位手術に際しては、上記マット装置Xの幅方向略中央において側臥位にある患者の下肢部78から腋窩部74の範囲が上記主マット2によって支持されるともに、肩部73が上記肩マット6部分に、頭部71が上記頭部マット9部分によって支持されることで、側臥位における体圧分布性・安定性が保たれ、患者70への身体的負荷が軽減される。
【0053】
(4)上記主マット2が、その側面視において、該主マット2の他端2bから一端2a側に向かって略水平に延出する低位平坦部21と、該低位平坦部21の端部に連続してここから上昇傾斜する傾斜面部22と、該傾斜面部22の端部に連続してここから略水平に延出する高位平坦部23を備えているが、この主マット2の上記傾斜面部22から高位平坦部23に至る部分の表面形状は、側臥位にある患者70の腰部76から腋窩部74までの凹凸形状に可及的に近似することから、この患者70の腰部76から腋窩部74までの間における体圧分布が可及的に平均化され、それだけ患者にかかる身体的負担が軽減される。
【0054】
(5)上記主マット2の上記傾斜面部22と高位平坦部23が上記主マット2の幅方向において上記切欠き空間20に対応しているが、この患者70の腰部76から腋窩部74までの範囲は側臥位手術の施術範囲に該当することから、側臥位手術におけるワークスペースが確保され、その適正化、信頼性が向上する。
【0055】
(6)一般に、側臥位にある患者70の肩部73を上記肩マット6において支持させると、この肩部73部分の沈み込みに伴って、該肩部73の近傍の腋窩部74に圧力が加わりその沈み込みが大きくなるため、骨盤から脊柱を経て頸部に至る体幹の平行性が崩れ、患者70の身体的負荷が大きくなる。係る場合、この発明のように、上記主マット2における上記低位平坦部21(即ち、骨盤部を支持する部分)と高位平坦部23(即ち、腋窩部74を支持する部分)の高低差を40mmから50mmの範囲に設定することで、腋窩部74にかかる圧力が減じてその沈み込みが抑制され、これによって骨盤から脊柱を経て頸部に至る体幹の平行性が可及的に確保され、患者の身体的負荷が軽減される。
【0056】
(7)上記主マット2の上記切欠き空間20に嵌合可能で且つ該切欠き空間20への嵌合状態では該主マット2と略同一の表面を形成する側縁部マット3を着脱自在に取り付けるようにしているので、例えば、このマット装置Xを側臥位手術において使用する場合には、上記側縁部マット3を取り外すことで、施術部分の周辺における手術手技のワークスペースが確保される一方、このマット装置Xを仰臥位手術とか伏臥位施術において使用する場合には、上記側縁部マット3を上記主マット2の上記切欠き空間20に嵌合配置することで該側縁部マット3の表面積だけマット面が拡大し、患者の側臥姿勢での支持が安定する。
【0057】
(8)上記肩マット6を多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマット7,8で構成し、上記頭部マット9を多段積み状態で配置され且つ選択使用される複数のマット10,11で構成したので、患者70の身体的サイズ、例えば、肩幅、体重、身長等に応じて上記肩マット6の各マット7,8、及び上記頭部マット9の各マット10,11をそれぞれ選択使用することで、体幹の適正化が担保される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明に係る側臥位手術用マット装置は、医療分野において利用されるものである。
【符号の説明】
【0059】
1 ・・ベースマット
2 ・・主マット
3 ・・側縁部マット
4 ・・第1側端マット
5 ・・第2側端マット
6 ・・肩マット
7 ・・第1マット
8 ・・第2マット
9 ・・頭部マット
10 ・・第1マット
11 ・・第2マット
12 ・・枕
13 ・・開穴
20 ・・切欠き空間
21 ・・低位平坦部
22 ・・傾斜面部
23 ・・高位平坦部
25 ・・手技スペース
26 ・・空間部
31 ・・傾斜部
32 ・・平坦部
X ・・マット装置
Y ・・手術台
【要約】
【課題】側臥位手術におけるワークスペースの確保と、患者の術中体位の安定性の確保、並びに患者の身体的負荷の改善を並立させ得る側臥位手術用マット装置を提案する。
【解決手段】側臥位手術において使用されるマット装置であって、ベースマット1と、側縁部に切欠き空間20が設けられた主マット2と、肩マット6と、頭部マット9を備え、側臥位手術に際しては、側臥位にある患者70の背中部75が主マット2の切欠き空間20に、肩部73が肩マット6部分に、頭部71が頭部マット9部分にそれぞれ対応するようにして使用する。係る構成によれば、側臥位での患者の身体的負担が少なくその体位の維持が促進される、切欠き空間20によって手術手技のワークスペースが確保され脊椎手術においてはスクリューの適正な挿入角度を確保できる、側臥位における体圧分布性・安定性が保たれ患者への身体的負荷が軽減される、等の効果が得られる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12