【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0063】
(抗体および試薬)
抗体および試薬は、以下の供給元から入手した。
マウス抗IIa型ミオシン重鎖(MyHC) (SC-71) 抗体およびマウス抗IIb型MyHC (BF-F3)抗体は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen (Braunschweig, Germany)から入手した。
マウス抗μ-クリスタリン抗体は、 Santa Cruz Biotechnology (Santa Cruz, CA, USA)から購入した。
マウス抗チューブリン抗体、2-メルカプト-1-メチルイミダゾール (MMI)および 3,3’,5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩 (T3) は、Sigma-Aldrich (St. Louis, MO, USA)から購入した。
核染色用DAPI含有封入剤およびM.O.M. キットは、Vector Laboratories (Burlingame, CA, USA)から購入した。
【0064】
(動物)
動物実験は、長崎大学の動物保護と利用に関する委員会による審査と承認を受けた 。Crym-/- マウス系統 (Imai, H., Ohta, K., Yoshida, A., Suzuki, S., Hashizume, K., Usami, S., and Kikuchi, T. (2010) Investigative ophthalmology & visual science 51, 3554-3559)は、理研BRCにより提供された(RBRC04396)。 B6.129の遺伝背景を有するマウスを、週齢の一致する同腹仔対照として、6 - 13週齢で用いた。
【0065】
(動物への甲状腺機能亢進症および甲状腺機能低下症の誘発)
甲状腺機能亢進症は、T3 (5μg/ml)を含む飲水を2週間与えることによって誘発した。甲状腺機能低下症は、0.1% MMIを含む飲水を21日間与えることによって誘発した。
【0066】
(握力測定およびランニング試験)
最大四肢筋力は、握力計 (Columbus Instruments, Columbus, OH, USA)で測定した。10回の連続測定を3セット行い、前肢/後肢の握力を評価した。 実験の各セットにおける最大の力の平均値をデータ解析に用いた。
トレッドミルランニング試験を、15°の傾斜を有するMK-680 トレッドミル (Muromachi Kikai Co., Ltd., Tokyo, Japan)上で、初速10 m/minで10分間行った。
最初のランニング後10分間の休憩の後、高速ランニング試験では、2分毎に5 m/min速度を増加させた。低速ランニング試験では、3分毎に1 m/min速度を増加させた。
疲弊時点を、データ解析のための走行時間として用いた。
【0067】
(サテライト細胞の単離および培養)
既報(Ono, Y., Masuda, S., Nam, H. S., Benezra, R., Miyagoe-Suzuki, Y., and Takeda, S. (2012) Journal of cell science 125, 1309-1317)に従って、長趾伸筋(EDL)を単離し、タイプIコラゲナーゼで消化した。サテライト細胞を単離した筋線維から得て、成長培地(GM;GlutaMax DMEM、30% FBS、1%チキンエンブリオエキストラクト、10 ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補足) 中で、37℃、5% CO
2条件下で培養した。筋分化は、分化培地 (DM; GlutaMax DMEM、5%ウマ血清および1% ペニシリン-ストレプトマイシンを補足) 中、37℃、5% CO
2条件下で誘導した。
【0068】
(siRNA のトランスフェクション)
siRNAのトランスフェクションは、既報に従って行った(Ono, Y., Urata, Y., Goto, S., Nakagawa, S., Humbert, P. O., Li, T. S., and Zammit, P. S. (2015) Cell reports 10, 1135-1148)。細胞を、6ウエルのプレートに播種し、30-40% のコンフルエンスでsiRNAのトランスフェクションを行った。二本鎖siRNA(Stealth siRNA; Life Technologies, Tokyo, Japan)をOptiMEM (Life Technologies)で希釈し、ウエル当たり10 pmol加え、製造業者の指示書に従って、OptiMEMで希釈したRNAiMAX (Life Technologies)とともにインキュベートした。 以下のsiRNA配列を用いた:
Crym siRNA-1: 5'-UCCAAGCUCAGCAAAGAUGUCAGCC-3'(センス鎖:配列番号11)
Crym siRNA-2: 5'-UAACUUGGUGGUGAGCGCAUCCUCA-3'(センス鎖:配列番号12)
Life Technologies社により選択された対照siRNA。
【0069】
(Q-PCR)
全RNAを、RNeasy Kit (Qiagen, Hilden, Germany)またはISOGEN II (Nippon Gene, Tokyo, Japan)をそれぞれ用いて、培養サテライト細胞または筋肉組織から抽出し、ReverTra Ace kitとgenomic DNA remover (Toyobo, Tokyo, Japan)を用いて、cDNAを調製した。THUNDERBIRD SYBR qPCR mixおよびCFX96 Touch real-time PCR detection system (Bio Rad, Tokyo, Japan)を用いて、Q-PCRを行った。
【0070】
【表1】
【0071】
(イムノブロッティング)
筋肉組織をRIPA緩衝液 (Thermo Fisher Scientific, Yokohama, Japan)に曝した後に、筋肉組織から全タンパク溶解液を得た。一次抗体をCanGetSignal(登録商標)溶液 A (Toyobo) で希釈し、4℃で一晩インキュベートした。次いで、セイヨウワサビペルオキシダーゼ (HRP)標識二次抗体をCanGetSignal(登録商標)溶液 B (Toyobo) で希釈し、室温で1時間インキュベートした。 HRP標識二次抗体を、化学発光およびデジタル発光イメージアナライザーLAS-4000 (GE Healthcare, Tokyo, Japan)で可視化した。
【0072】
(免疫染色)
筋肉組織の免疫組織化学を既報に従って行った(Ono, Y., Calhabeu, F., Morgan, J. E., Katagiri, T., Amthor, H., and Zammit, P. S. (2011) Cell Death Differ 18, 222-234)。凍結筋肉断面4%パラホルムアルデヒドで固定し、M.O.M. キット (Vector Laboratories) でブロックし、一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。すべての免疫染色試料は、適切な種特異的Alexa Fluor 488 および/または568 蛍光標識二次抗体 (Life Technologies)を用いて可視化した。次いで、試料をOlympus IX83顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)上で観察した。デジタル画像を取得し、DP80カメラおよびcellSensソフトウエア(Olympus)を用いて定量した。画像を全体的に最適化し、Adobe Photoshopを用いて図面に組み立てた。
【0073】
(統計学的解析)
有意差は、Studentのt-検定を用いて決定した。P < 0.05を統計学的に有意であると見なした。すべてのデータは、平均 ± 平均の標準誤差 (SEM)である。
【0074】
結果
成体マウスの骨格筋におけるCrymの高発現
身体全体にわたるCrym遺伝子の発現プロファイルを調べるために、野生型 (WT) マウス組織の Q-PCR解析を行った。 既に報告されているように(Kim, R. Y., Gasser, R., and Wistow, G. J. (1992) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 89, 9292-9296)、Crymは、脳および腎臓に高発現し、骨格筋に選択的に発現していた(
図1A)。FSHD は、特定の筋肉領域、特に上肢の近位筋が侵されている(Lek, A., Rahimov, F., Jones, P. L., and Kunkel, L. M. (2015) Trends in molecular medicine 21, 295-306、Ciciliot, S., Rossi, A. C., Dyar, K. A., Blaauw, B., and Schiaffino, S. (2013) The international journal of biochemistry & cell biology 45, 2191-2199)。FSHD患者で優先的に侵されている上腕三頭筋および前脛骨筋 (TA)の筋肉では、Crymの異常発現は観察されなかった(Tawil, R., van der Maarel, S. M., and Tapscott, S. J. (2014) Skeletal muscle 4, 12) (
図1A)。
インビトロでの筋原性進行中のCrym の発現パターンをさらに探索するために、骨格筋の組織に内在する幹細胞であるサテライト細胞を用いて、Q-PCR解析を行った。Q-PCRデータは、Crymの発現が、マイトジェン豊富培地(GM)で維持された増殖中の筋芽細胞と比較して、血清低下培地 (DM)で3日間誘導した筋分化中に高度にアップレギュレートされたことを示した(
図1B)。
【0075】
Crym-/- マウスは筋力の増加および高い走運動能を示した
生体内での筋組織におけるCrymの発現は明確であったので、次に、Crymノックアウトマウス(Suzuki, S., Suzuki, N., Mori, J., Oshima, A., Usami, S., and Hashizume, K. (2007) Mol Endocrinol 21, 885-894)を用いて、骨格筋におけるCrymの生理学的機能を調べた。
イムノブロッティング解析により、WTマウスのTA筋でのCrymタンパク質は検出可能であったが、Crym欠損マウスでは検出不可能であることが確認された (
図2A)。以前の研究と同様に(Suzuki, S., Suzuki, N., Mori, J., Oshima, A., Usami, S., and Hashizume, K. (2007) Mol Endocrinol 21, 885-894)、 Crymのホモ欠損(Crym-/-)はマウスにおいて自明な有害な発達または成長を生じないことも見出した (データ示さず)。WTマウスとCrym-/-マウスでは、身体および筋肉量に差がなかった (
図2B、C)。 また、肝臓、白色脂肪組織、心臓、腎臓および脳を含む他の組織の重量にも有意差がないことを確認した (データ示さず)。興味深いことに、握力試験解析により、Crym-/-マウスにおいて四肢の筋力の発生がアップレギュレートされたことが解明された(
図2D)。それに対応して、Crym-/-マウスは、高速ランニング試験において疲労耐性を示したが、低速の持久ランニング試験ではそうではなかった(
図2E)。これらの結果は、マウスにおいてCrymの不活化が最大筋肉収縮を増加させ、高速ランニングパフォーマンスを増加させることを示唆する。
【0076】
Crymの不活化は解糖速単収縮筋形成を促進させる
Crym-/-マウスにおいては筋力がアップレギュレートしたので、次に、Crym-/-マウスの骨格筋の特性を評価した。免疫組織化学により、TA筋のIIb型線維の断面領域(CSA)は、線維型の組成の割合に変化はなかったが、WTマウスと比較して、Crym-/-マウスにおいて有意に増加していることが示された(
図3A、 B)。免疫組織化学解析に対応して、IIb型(Myh4)遺伝子の発現は、Crym-/-マウス由来のTA筋においてアップレギュレートしていた(
図3C)。
線維型の特性を決定するために、Crym-/-筋の代謝プロファイルを評価した。Q-PCR解析により、解糖酵素[乳酸脱水素酵素A (LDH)および筋型ホスホフルクトキナーゼ(Pfkm)]遺伝子がCrym-/- 骨格筋で高度に発現していることがわかった(
図3D)。次に、これらの変化がサテライト細胞由来の筋管で観察されうるか否かをインビトロで試験した。サテライト細胞は、出生後の筋肉の成長ならびに成体における維持、修復/再生および肥大のための筋核の供給に重要な役割を果たす (Relaix, F., and Zammit, P. S. (2012) Development 139, 2845-2856、Blau, H. M., Cosgrove, B. D., and Ho, A. T. (2015) Nature medicine 21, 854-862)。既報に従って、EDLから単離されたサテライト細胞を培養し、DMによって分化を誘導させ、筋管を形成させた(Masuda, S., Hisamatsu, T., Seko, D., Urata, Y., Goto, S., Li, T. S., and Ono, Y. (2015) Physiological reports 3)。WTマウスとCrym-/-マウスとでは、増殖および筋原能に差がないことが観察された (データ示さず)。 Q-PCR解析により、解糖酵素もCrym-/-筋管(
図3E)およびCrymに対するsiRNA をトランスフェクトした筋管(
図3F)の両方で増加していることが示された。
同様に、Crymに対するsiRNA をサテライト細胞由来の筋管にトランスフェクトし、IIx型(Myh1)遺伝子およびIIa型(Myh2)遺伝子の発現について、インビトロで試験した。Q-PCR解析により、Myh1は増加したが、Myh2は減少したことから、速筋化が誘導されたと考えられる(
図4)。
【0077】
甲状腺ホルモン応答遺伝子はCrym-/-筋でアップレギュレートされる
甲状腺ホルモンは、筋肉において速筋解糖型変換に関する遺伝子の発現を強力に誘導する (Salvatore, D., Simonides, W. S., Dentice, M., Zavacki, A. M., and Larsen, P.R. (2014) Nature reviews. Endocrinology 10, 206-214;Clement, K., Viguerie, N., Diehn, M., Alizadeh, A., Barbe, P., Thalamas, C., Storey, J. D., Brown, P. O., Barsh, G. S., and Langin, D. (2002) Genome research 12, 281-291;Nwoye, L., Mommaerts, W. F., Simpson, D. R., Seraydarian, K., and Marusich, M. (1982) The American journal of physiology 242, R401-408;Bahi, L., Garnier, A., Fortin, D., Serrurier, B., Veksler, V., Bigard, A. X., and Ventura-Clapier, R. (2005) J Cell Physiol 203, 589-598)。WTマウスと比較して、Crym-/-筋は速-単収縮解糖型線維に関する遺伝子の発現がより高いことが示されたので、次に、Crymの不活化が骨格筋における甲状腺ホルモン状態に影響するか否かを決定した。脱共役タンパク質-3 (UCP3)は、甲状腺ホルモンの標的遺伝子であり、その発現レベルは、筋肉において近位プロモーター領域の甲状腺ホルモン応答配列によって調節されている(Solanes, G., Pedraza, N., Calvo, V., Vidal-Puig, A., Lowell, B. B., and Villarroya, F. (2005) The Biochemical journal 386, 505-513;Gong, D. W., He, Y., Karas, M., and Reitman, M. (1997) The Journal of biological chemistry 272, 24129-24132)。
ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ-4 (Pdk4)は、T3の主要な標的遺伝子である(Orfali, K.A., Fryer, L. G., Holness, M. J., and Sugden, M. C. (1995) Journal of molecular and cellular cardiology 27002C901-908)。UCP3およびPdk4の発現は、筋肉組織およびサテライト細胞由来のCrym-/-筋管でアップレギュレートすることを示した (
図5A, B)。
甲状腺機能亢進症のCrym-/-筋に対する影響をさらに評価するために、T3 (5 μg/ml)を含む飲水を2週間与えることにより、甲状腺機能亢進状態を誘導した。T3での処置により、WT筋でのUCP3発現はアップレギュレートされたが、Crym-/-筋ではそうではなかった(
図5C)。これらの結果は、甲状腺機能正常状態で、Crym-/-筋で甲状腺ホルモン作用が最大に増幅されることを示す。
【0078】
甲状腺ホルモン合成阻害はCrym欠損筋での表現型を救済する
甲状腺ホルモン阻害剤での処置が生体内でCrym不活化の筋肉に対する影響を救済するか否かを調べた。甲状腺ホルモン合成阻害を、甲状腺ホルモン合成酵素である甲状腺ペルオキシダーゼの強力な阻害剤であるMMIを0.1%含む飲水を21日間飲ませることにより誘導した。甲状腺ホルモン合成酵素の障害は、Crym-/-筋において甲状腺ホルモン応答遺伝子の発現を有意に低下させたが、 WTマウスは影響を受けなかった(
図6A)。重要なことに、甲状腺ホルモン合成阻害は、Crym-/-マウスにおいて、上昇したIIb型亢進症 (
図6B)、握力(
図6C)および高速ランニングパフォーマンス(
図6D)のすべての表現型を十分に救済した。総合すると、これらの結果は、Crymの欠損が筋肉における甲状腺ホルモン作用を亢進させることによって速筋解糖型の形成を促進させることを示唆する。
【0079】
考察
Crymは、有袋類の眼のレンズ、ならびに脳、腎臓および骨格筋を含む他の組織で発現している (Kim, R. Y., Gasser, R., and Wistow, G. J. (1992) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 89, 9292-9296)。Crym発現のアップレギュレーションは、FSHD筋肉においても報告されている(Reed, P. W., Corse, A. M., Porter, N. C., Flanigan, K. M., and Bloch, R. J. (2007) Experimental neurology 205, 583-586;Vanderplanck, C., Ansseau, E., Charron, S., Stricwant, N., Tassin, A., Laoudj-Chenivesse, D., Wilton, S.D., Coppee, F., and Belayew, A.(2011) PloS one 6, e26820)。最近の研究により、Crymは甲状腺ホルモン結合タンパク質として機能することが解明されたが、Crymの筋肉における生理学的役割は不明のままである。Crym遺伝子は骨格筋で高度に発現しているが、肝臓または脂肪組織などの他の代謝器官では低いレベルで発現していることが示された。このことは、Crymが身体全体にわたって甲状腺ホルモンのシグナル伝達の普遍的調節因子ではないことを示唆している。 遺伝子発現解析により、Crymの異常発現はFSHD患者の優先的に罹患した筋肉(三頭筋およびTA筋を含む)では観察されなかったことも明らかとなった(Tawil, R., van der Maarel, S. M., and Tapscott, S. J. (2014) Skeletal muscle 4, 12)。
【0080】
筋疾患においては、速筋線維と病理学的ジストロフィープロセスとの優先的な関連がある。以前の研究では、ジストロフィーマウスモデルにおいて最速IIb型線維に特異的な力の損失が報告されている(Sampaolesi, M., Torrente, Y., Innocenzi, A., Tonlorenzi, R., D'Antona, G., Pellegrino, M. A., Barresi, R., Bresolin, N., De Angelis, M. G., Campbell, K. P., Bottinelli, R., and Cossu, G. (2003) Science 301, 487-492;Denti, M. A., Rosa, A., D'Antona, G., Sthandier, O., De Angelis, F. G., Nicoletti, C., Allocca, M., Pansarasa, O., Parente, V., Musaro, A., Auricchio, A., Bottinelli, R., and Bozzoni, I. (2006) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 103, 3758-3763)。FSHD患者は、II型筋の力の発生および速筋-解糖から遅筋-酸化線維への変換の低下を示す(Celegato, B., Capitanio, D., Pescatori, M., Romualdi, C., Pacchioni, B., Cagnin, S., Vigano, A., Colantoni, L., Begum, S., Ricci, E., Wait, R., Lanfranchi, G., and Gelfi, C. (2006) Proteomics 6, 5303-5321)。最近の研究により、FSHD患者のII型筋線維は、健康な対照と比較して、有意に低下した力を発生することが解明された(Lassche, S., Stienen, G. J., Irving, T. C., van der Maarel, S. M., Voermans, N. C., Padberg, G. W., Granzier, H., van Engelen, B. G., and Ottenheijm, C. A. (2013) Neurology 80, 733-737)。II型線維の機能低下は、FSHDにおける筋肉衰弱の発生に役割を果たしていることを示唆する。
本発明者は、Crym欠損マウスが解糖速筋線維の有意な肥大を呈することを見出した。したがって、増加したCrym発現は、FSHD病理の発症に関与している可能性がある。しかしながら、本発明者は、筋肉の機能におけるCrymの機能獲得の効果を評価しなかった。Crym発現レベルとFSHD患者の疾患の重症度との相関関係をより一層理解するためには、Crymの過剰発現が筋肉の特性にどのような影響するのか、さらなる研究が必要である。
【0081】
甲状腺ホルモンは、身体全体にわたって 広範囲の生理学的機能に重要な役割を果たす(Salvatore, D., Simonides, W. S., Dentice, M., Zavacki, A. M., and Larsen, P. R. (2014) Nature reviews. Endocrinology 10, 206-214;Mullur, R., Liu, Y. Y., and Brent, G. A. (2014) Physiological reviews 94, 355-382)。骨格筋は、速筋解糖型変換に不可欠である甲状腺ホルモンの主要な標的である (Salvatore, D., Simonides, W. S., Dentice, M., Zavacki, A. M., and Larsen, P. R. (2014) Nature reviews. Endocrinology 10, 206-214;Nwoye, L., Mommaerts, W. F., Simpson, D. R., Seraydarian, K., and Marusich, M. (1982) The American journal of physiology 242, R401-408;Bahi, L., Garnier, A., Fortin, D., Serrurier, B., Veksler, V., Bigard, A. X., and Ventura-Clapier, R. (2005) J Cell Physiol 203, 589-598)。以前の研究により、CrymはT3の細胞質から核への輸送を調節し、甲状腺ホルモン受容体への結合の制御およびT3応答遺伝子の活性化に関与していることが明らかとなった(Suzuki, S., Mori, J., and Hashizume, K. (2007) Trends in endocrinology and metabolism: TEM 18, 286-289)。実際、Crymは甲状腺ホルモン作用の正の調節因子と考えられている (Takeshige, K., Sekido, T., Kitahara, J., Ohkubo, Y., Hiwatashi, D., Ishii, H., Nishio, S., Takeda, T., Komatsu, M., and Suzuki, S. (2014) Endocrine journal 61, 561-570)。
【0082】
しかしながら、Crymノックアウトマウスは、血清および組織におけるT3およびチロキシン(T4)のターンオーバーを加速させることを示すが、末梢T3作用に対して変化することなく正常の成長を示す(Suzuki, S., Suzuki, N., Mori, J., Oshima, A., Usami, S., and Hashizume, K. (2007) Mol Endocrinol 21, 885-894)。本発明者は、Crymの不活化が筋肉における甲状腺ホルモン作用をアップレギュレートすることを示した。重要なことに、Crym不活化筋肉におけるこのアップレギュレートされた甲状腺ホルモンのシグナル伝達は、甲状腺ホルモンの産生を阻害することにより救済された。
【0083】
これらの知見は、Crymが骨格筋において甲状腺ホルモン作用の負の制御因子として機能することを意味する。したがって、低下したCrymは T3を核に移行させ、甲状腺ホルモン受容体に結合させて甲状腺ホルモン応答遺伝子の発現を促進させることが推測される。野生型マウスの筋肉において甲状腺ホルモン標的遺伝子の発現に対する甲状腺ホルモン合成の阻害効果を示すことができなかったことに注目することは重要である。これらの現象は、骨格筋において、細胞は細胞質に正常にT4とT3を貯蔵し、抗甲状腺剤で誘導した甲状腺機能低下はT4をT3に変換する2型ヨードチロニンセレン置換脱ヨード酵素 (Dio2)の活性をアップレギュレートするという以前の知見によって説明できる可能性がある (Marsili, A., Ramadan, W., Harney, J. W., Mulcahey, M., Castroneves, L. A., Goemann, I. M., Wajner, S. M., Huang, S. A., Zavacki, A. M., Maia, A. L., Dentice, M., Salvatore, D., Silva, J. E., and Larsen, P. R. (2010) Endocrinology 151, 5952-5960;Dentice, M., Ambrosio, R., Damiano, V., Sibilio, A., Luongo, C., Guardiola, O., Yennek, S., Zordan, P., Minchiotti, G., Colao, A., Marsili, A., Brunelli, S., Del Vecchio, L., Larsen, P. R., Tajbakhsh, S., and Salvatore, D. (2014) Cell metabolism 20, 1038-1048)。
【0084】
結論として、Crymの不活化が骨格筋の特性にどのように影響するかを調べた。非筋肉細胞においてCrymは甲状腺ホルモンシグナル伝達を媒介するにも関わらず、筋肉においてはCrymはT3作用の負の調節因子として作用するようにみえる。これらの知見は、Crymが細胞および組織型特異的様式で甲状腺ホルモンの状況を調節していることを示唆している。総合すると、Crymは、少なくとも一部は骨格筋における甲状腺ホルモン作用を調節することにより、代謝および収縮表現型を調節する、筋肉可塑性の極めて重要な調節因子である。
選択的にCrymを標的化することは、特にII型筋線維において、FSHDのみならず、有意な筋委縮が関与する加齢性サルコペニアに対する潜在的治療の代替案となりうる。最近の研究により、Crymはケチミン還元酵素としても機能することが報告されている (Hallen, A., Cooper, A. J., Jamie, J. F., Haynes, P. A., and Willows, R. D. (2011) Journal of neurochemistry 118, 379-387;Borel, F., Hachi, I., Palencia, A., Gaillard, M.C., and Ferrer, J. L. (2014) The FEBS journal 281, 1598-1612)。したがって、Crymは、甲状腺ホルモン非依存的様式でも筋肉の可塑性を調節するか不明のままである。Crymの生理学的および病理学的機能を明らかにするためには、さらなる研究が必要であろう。