(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
モノクロメータは、その主要素である入射スリット、コリメータ鏡、回折格子、カメラ鏡、出射スリットの配置方法により様々なタイプがあるが、ツェルニ・ターナー型(Czerny−Turner型)がよく知られている。そして、白色光から所望する波長を取り出すため、入射光に対し回折格子の角度を変更する方法として、サインバー方式、カム方式の波長走査方法が広く使われている。
【0003】
サインバー方式は、回折格子を搭載する回転台から伸びるバーの端を、送りネジに螺合させたナットで押動することで、回折格子が回転する。送りねじの回転量(ナットの移動量)と回折格子の回転角とがリニアな関係にあることから、容易に所望する波長を取り出すことができるという利点がある。
【0004】
カム方式は、回折格子を保持する回転軸から伸びるバーの端を、異形カムに接触させ、回転する異形カムにより、回折格子が回転する。高速走査、反復走査性に優れるという利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のサインバー方式は、精度を上げるためには、高精度な送りねじを用いる等の必要があり、装置が高コストになるおそれがある。また、ばねで付勢した球体をねじに噛合させるため、高速でねじを正反転できないおそれがあり、又は反復走査させるためにサインバーを戻す機構が必要となる等、構造を簡易にできないおそれがある。カム方式は反復走査に優れるが、カムの回転量と回折格子の回転量をリニアな関係にするためには、特殊な形状のカムを高精度に製作し、このカムに正確に追従する機構が必要になる等、やはり装置が高額、複雑なものにならざるを得ない。
【0008】
上記不都合に鑑みて、本願発明は、簡易な構造で、高精度かつ反復走査に優れた回折格子の角度調整機構を有するモノクロメータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本願発明は、回折格子と、この回折格子の角度を調整する角度調整部とを具備するモノクロメータであって、上記角度調整部が、回折格子が相対的に固定されるパンタグラフ機構と、このパンタグラフ機構に連結され、パンタグラフ機構を伸縮する往復直線機構とを有し、上記往復直線機構の往復動によって回折格子が回動することを特徴とするモノクロメータである。
【0010】
本発明に係るモノクロメータは、直線往復運動機構の往復動により伸縮するパンタグラフ機構を具備しており、当該パンタグラフ機構に回折格子が相対的に固定されている。従って、パンタグラフの伸縮により、相対的に固定された回折格子が回動し、この回折格子の反射面に照射される光から、所望する特定波長の光を得ることができる。また、往復直線機構による往復動によって回折格子を回動するため、回折格子を一方向に回動させるための機構と、反対に戻す方向に回動させるための機構とを備える必要がなく、簡易に波長の反復走査を行うことができる。
【0011】
上記パンタグラフ機構が、一の固定軸に回動可能に軸支される一対の揺動リンクと、この一対の揺動リンクの自由端に一端がそれぞれ枢支されると共に、他端が一の自由軸に回動自在に軸支される一対の主動リンクとを備え、上記一対の揺動リンクの一方に上記回折格子が相対的に固定され、上記自由軸に上記往復直線機構が連結されているとよい。このようにすることで、簡易な構成で、回折格子を反復回動させることが可能な波長走査装置が得られる。
【0012】
当該モノクロメータは、さらに固定軸に回動可能に軸支される第二揺動リンクと、上記第二揺動リンクの自由端に一端が枢支されると共に、他端が上記揺動リンクの自由端に枢支される副動リンクとを備え、上記第二揺動リンクの一方に第二回折格子が相対的に固定されることで、ダブルモノクロメータとすることができる。このようにすることで、上記往復直線機構の往復動によって回折格子及び第二回折格子が同期して同一角度に回動することができ、簡易な構成のダブルモノクロメータを得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のモノクロメータは、簡易な構成で精度の高い波長走査を可能とし、反復走査も容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0016】
[第一実施形態]
<モノクロメータ>
本発明の一実施形態であるモノクロメータ1は、
図1に示すように、波長走査装置2、入射スリット3、コリメータ鏡4、フォーカス鏡5及び出射スリット6を有する。なお、二点鎖線は光の経路を表し、矢印の方向に進行する。白色光として入射スリット3から入射した光はコリメータ鏡4により平行光となり、波長走査装置2に備えられる回折格子13に導かれる。回折格子13で回折された光は、フォーカス鏡5により出射スリット6に向かい、出射スリット6から特定の波長の単色光が出射される。
【0017】
(波長走査装置)
波長走査装置2は、
図2に示すように、走査台7、往復直線機構8、パンタグラフ機構10、回折格子13を備える。本実施例の往復直線機構8は、ボールねじを用い、ねじ軸8aと、ナットを含む移動台8bと、回転モーター9とを備える。
【0018】
走査台7は、ねじ軸8aを支持するための第一支持台7a、及び第二支持台7bを有する。第一支持台7a及び第二支持台7bは共に、走査台7と平行に、かつ一直線上に孔が設けられ、当該孔が公知のボールベアリング等を含み、ねじ軸8aを回転自在に支持する。第二支持台7bの天部には、後述するパンタグラフ機構10の揺動リンク11を軸支する固定軸14を受けるための軸受穴が配される。
【0019】
ねじ軸8aは、走査台7と平行に、第二支持台7bを貫通し、一端が第一支持台7aに支持され、他端が、後述する回転モーター9と連結される。回転モーター9との連結手段は、特に限定されないが、公知のカップリング等により連結される。また、ねじ軸8aは、第一支持台7a及び第二支持台7bの間に、移動台8bを有する。
【0020】
移動台8bは、ねじ軸8aに螺合し、ねじ軸8aの回転により、ねじ軸8aの中心軸と平行に直線往復移動が可能である。移動台8bは、その天部に、後述するパンタグラフ機構10の主動リンク12を軸支する自由軸15を受けるための軸受穴が配される。
【0021】
回転モーター9は、走査台7に固定され、回転モーター9の回転軸中心とねじ軸8aの中心軸とが一直線になるように、ねじ軸8aに連結される。回転モーター9は、図示されない通電機構により通電され、正転・逆転を行う。回転モーター9の正逆転に伴い、ねじ軸8aが正逆回転し、移動台8bが前後進(
図2の左右)の直線往復移動を行う。回転モーター9の種類は、特に限定されないが、ステッピングモーターを用いることが好ましい。ステッピングモーターは、非通電時に停止位置を保持する特性を有し、ステップ数で回転角が制御できるため、ねじ軸8aの正確な回転角、すなわち移動台8bの正確な送り量及び精度の高い反復走査等が可能で、制御手段を簡易にすることができる。
【0022】
パンタグラフ機構10は、本実施例では4本のアームで菱形を構成するものを用いて説明する。
【0023】
パンタグラフ機構10は、揺動リンク11及び主動リンク12を有する。揺動リンク11の一端は、第二支持台7bが有する固定軸14に回動自在に軸支され、他端がそれぞれ主動リンク12の一端と接合する。主動リンク12のそれぞれの他端は、移動台8bが有する自由軸15に回動自在に軸支される。具体的には、揺動リンク11は、第1揺動アーム11a及び第2揺動アーム11bを、主動リンク12は、第1主動アーム12a及び第2主動アーム12bを含み、第1揺動アーム11aの一端は固定軸14に軸支され、第1主動アーム12aの一端は自由軸15に軸支され、それぞれの他端が第一枢軸16で回動自在に枢支されている。同様に、第2揺動アーム11bの一端は固定軸14に軸支され、第2主動アーム12bの一端は自由軸15に軸支され、それぞれの他端が第二枢軸17で回動自在に枢支されている。第1揺動アーム11a及び第1主動アーム12aと、第2揺動アーム11b及び第2主動アーム12bとは、平面視で、ねじ軸8aの回転軸を中心として、線対称に構成され、菱形(パンタグラフ形状)を形成する。なお、平面視とは、波長走査装置2(モノクロメータ1)を上から見た状態をいう。
【0024】
回折格子13は、第1揺動アーム11a上に配置される。具体的には、平面視で、第一第一枢軸16及び固定軸14の中心を結ぶ線と回折格子13の反射面13aとが同一線上に、かつ固定軸14の中心と回折格子13の反射面13aの中心とが重なるように配置されるのが好ましい。このような配置とすることで、取り出される単色光の波長と回折格子13の回転角との関係式を、簡易なものとすることができる。
【0025】
(波長走査)
図3は、
図2の状態から移動台8bが、距離d[mm]移動した状態を示している。距離d[mm]は、図示しない制御装置が回転モーター9の回転角度を制御することにより管理される。移動台8bが距離d[mm]移動することで、回折格子13の反射面が回転角θ[°]で回転する。
【0026】
[利点]
一般のサインバー方式の走査装置は、回折格子が固定される回転台と一体のサインバーを、ねじ軸に螺合させた送りナットが押動するため、ねじ軸と送りナットの遊び(ガタつき)が、回折格子の回転角の精度に直接影響する。本実施例に係る波長走査装置では、移動台8bと回折格子13との間に、パンタグラフ機構10が備えられるため、当該パンタグラフが、ねじ軸8aと移動台8bとの間に生じる遊び(ガタつき)を吸収し、当該遊びの影響を極めて小さくすることができる。また、一般のサインバー方式の走査装置では、ねじ軸の回転数、すなわちナットの移動距離d[mm]と回折格子の回転角θ[°]とが下記式1の比例関係となるが、本件実施例に掛かる走査装置ではパンタグラフ機構10により、移動台8bの移動距離d[mm]の半分の値(d/2[mm])と回折格子13の回転角θ[°]とが下記式2の比例関係となるため、回折格子13の回転角を微細に調整することができる。式2より、本件実施例に掛かる走査装置では、移動台8bの移動距離d、すなわちねじ軸8aの回転数と、回折格子13の回転角θとが、サインバー方式の波長走査と同じく、リニアな関係にあることがわかる。さらに、移動台8bを送った方向と逆向きの方向へ移動させるための機構を必要とせず、回転モーター9を正転及び逆転させるのみで、移動台8bが往復直線運動を行うため、反復波長走査を容易に行うことができる。
[式1]d=L
1・sinθ・・・・・・・・・・・・・・(1)
[式2]d/2=L
2・sinθ・・・・・・・・・・・・(2)
ここで、dは送りナット(移動台8b)の移動距離[mm]、θは回折格子(回折格子13)の回転角[°]、L
1はサインバーの長さ[mm]、L
2はパンタグラフ機構10の4本のアーム(揺動リンク11の第1揺動アーム11a、第2揺動アーム11b、主動リンク12の第1主動アーム12a及び第2主動アーム12b)の長さ[mm]である。
【0027】
[第二実施形態]
本発明の他の実施形態であるモノクロメータは、ダブルモノクロメータ18である。ダブルモノクロメータ18は、
図4に示すように、波長走査装置19、入射スリット3、コリメータ鏡4、フォーカス鏡5及び出射スリット6を有する点で上述したモノクロメータ1と同一である。ダブルモノクロメータ18は、さらに第二回折格子26、ハーフミラー20、スリット21、ミラー22、第二コリメータ鏡23、第二フォーカス鏡24及び第二出射スリット25を有する。以下は、第一実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0028】
(波長走査装置)
波長走査装置19は、
図5に示すように、走査台27、往復直線機構8、パンタグラフ機構10、回折格子13を備え、さらに第二回折格子26と、第二揺動リンク28、及び副動リンク30を備える。本実施例の往復直線機構8は、実施形態1と同様に、ボールねじを用い、ねじ軸8a、ねじ軸8aに螺合する移動台8b、及び回転モーター9を備える。走査台27は、ねじ軸8aを支持するための第一支持台27a、第二支持台27b、及び第二揺動リンク28を軸支する第二固定軸29を保持する第三支持台27cを有する。
【0029】
第二揺動リンク28の一端は、第三支持台27cが有する第二固定軸29に回動自在に軸支され、他端が副動リンク30の一端と接合する。副動リンク30の他端は、揺動リンク11の一端と接合し、揺動リンク11の回動に同期して副動リンク30が回動する。具体的には、副動リンク30の一端は、第二揺動リンク28の他端と第三枢軸31で回動自在に枢支され、他端は第一揺動アーム11a及び第一主動アーム12aと共に、第一枢軸16に回動自在に枢支される。
【0030】
第二回折格子26は、第二揺動リンク28に配置される。具体的には、平面視で、第二揺動リンク28を軸支する第二固定軸29及び第三枢軸31の中心を結ぶ線と第二回折格子26の反射面26aとが同一線上に、かつ第二揺動リンク28を軸支する第二固定軸29の中心軸と第二回折格子26の反射面26aの中心とが重なるように配置され、回折格子13の反射面13aと第二回折格子26の反射面26aとが平行になることが好ましい。このような配置にすることで、反射面13aと反射面26aとが、平行を保ったまま同期して回動することが可能となる。
【0031】
<利点>
本実施形態によるダブルモノクロメータでは、第二回折格子を回動するための駆動等を必要とせず、回折格子を回動するためのパンタグラフ機構と連結することで、第二回折格子を回動させることができる。また、回折格子と第二回折格子とを同期させるための制御手段等も要せず、回折格子と第二回折格子とを平行に配置することで、同期して同一角度で回動させることができる。
【0032】
[第三実施形態]
上述のダブルモノクロメータ18は、加分算式のダブルモノクロメータについて説明したが、副動リンク30の配置を変更することで、容易に差分算式ダブルモノクロメータとすることができる。差分算式ダブルモノクロメータの波長走査装置32は、
図6に示すように、副動リンク30が、第二揺動リンク28と第二揺動アーム11bとを連結する。以下は、第二実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0033】
(波長走査装置)
波長走査装置32は、加分算式のダブルモノクロメータ18の波長走査装置19と同様に、走査台27、往復直線機構8、パンタグラフ機構10、回折格子13、第二回折格子26、第二揺動リンク28及び副動リンク30を備える。
【0034】
副動リンク30の一端は第二揺動リンク28の他端と第三枢軸31で回動自在に枢支され、他端は第二揺動アーム11b及び第二主動アーム12bと共に、第二枢軸17に回動自在に枢支される。
【0035】
第二回折格子26は、第二揺動リンク28に配置される。具体的には、第二揺動リンク28を軸支する第二固定軸29及び第三枢軸31の中心を結ぶ線と第二回折格子26の反射面26aとが同一線上に、かつ第二揺動リンク28を軸支する第二固定軸29の中心軸と第二回折格子26の反射面26aの中心とが重なるように配置される。このような配置にすることで、反射面13aと反射面26aとが、同期して逆方向に回動することが可能となる。例えば
図6で、回折格子13が一定角度に反時計回りに回動すると、回折格子26が同一角度に時計回りに回動する。
【0036】
<利点>
本実施形態によるダブルモノクロメータでは、第二回折格子を回動するための駆動等を必要とせず、回折格子を回動するためのパンタグラフ機構と連結することで、回折格子が一定角度で回動すると、同期して同一角度で逆方向に第二回折格子を回動させることができる。
【0037】
<その他の実施形態>
上記開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0038】
上記実施形態のおいては、モノクロメータの波長走査のパンタグラフ機構を4本のアームで構成されるものを用いて説明したが、より簡易な2本のアームで構成されるパンタグラフ機構とすることも可能である。上述の実施例で例示すると、揺動リンク11が第二揺動アーム11bを、主動リンク12が第二主動アーム12bをそれぞれ含まず、揺動リンク11の第一揺動アーム11a及び主動リンク12の第一主動アーム12aの2本のアームでパンタグラフ機構10が構成される等である。
【0039】
また、回折格子の反射面が、パンタグラフ機構のアームと平行に取り付けたもので説明したが、所定の角度をつけて取り付けることも、本発明の意図する範囲である。
【0040】
ダブルモノクロメータで、副動リンクで揺動リンク及び第二揺動リンクを同期して回動させる構成で説明したが、歯車による駆動伝達機構等により揺動リンク及び第二揺動リンクを同期して回動させることも可能である。