(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば有機溶剤)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば導電性ペーストの調製方法、付与方法等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書において範囲を示す「A〜B」の表記は、A以上B以下を意味する。
【0018】
ここに開示される導電性ペーストは、導電性粉末と、バインダ樹脂と、有機溶剤とを含んでいる。有機溶剤は、少なくともSP値の異なる2種類の溶剤を含んだ混合溶剤である。以下、各構成成分について順に説明する。
【0019】
[導電性粉末]
導電性粉末は、導電性ペーストを焼成して得られる電極に電気伝導性を付与する成分である。導電性粉末の種類等については特に限定されず、導電性ペーストの用途等に応じて、従来のこの種の導電性ペーストに用いられているものを適宜用いることができる。典型例として、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)等の金属、およびそれらの合金、例えば、銀−パラジウム(Ag−Pd)、銀−白金(Ag−Pt)、銀−銅(Ag−Cu)等の銀合金が挙げられる。なかでも、比較的コストが安く、電気伝導度が高いこと等から、銀および銀合金が好ましい。
【0020】
ただし、導電性粉末は、例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料や、LaSrCoFeO
3系酸化物(例えばLaSrCoFeO
3)、LaMnO
3系酸化物(例えばLaSrGaMgO
3)、LaFeO
3系酸化物(例えばLaSrFeO
3)、LaCoO
3系酸化物(例えばLaSrCoO
3)等の遷移金属ペロブスカイト型酸化物に代表される導電性セラミックスであってもよい。
【0021】
導電性粉末の性状については特に限定されず、導電性ペーストの用途等に応じて適宜調整することができる。例えばインダクタ等のインダクタンス部品の電極を形成する用途では、平均粒径が、概ね0.1μm以上、典型的には0.5μm以上、例えば1μm以上であって、概ね5μm以下、典型的には4μm以下、例えば3μm以下の導電性粉末を好ましく使用することができる。平均粒径を所定値以上とすることで、導電性ペースト中での導電性粉末の凝集を抑制して、焼成後に得られる電極の充填性を向上することができる。平均粒径を所定値以下とすることで、易焼結性を向上すると共に電極の低抵抗化を実現することができる。なお、本明細書において「平均粒径」とは、電子顕微鏡観察に基づく円相当径の粒度分布(個数基準)における積算値50%粒径をいう。
【0022】
導電性粉末は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積10体積%に相当するD
10粒径が、概ね1.6μm以下、典型的には1.3μm以下、例えば1.0μm以下であってもよい。このようにD
10粒径が小さい場合、グリーンシート上で上述した導電性粉末の透過が生じ易くなる。ここに開示される技術によれば、導電性粉末がこのようなD
10粒径を有する場合にも、導電性粉末の透過を好適に抑制することができる。
【0023】
一好適例では、電極の緻密性や充填性を向上する観点から、導電性粉末が平均粒径の異なる2つの粒子群を含んでいる。言い換えれば、導電性粉末の粒度分布が二峰性を有している。一具体例では、第1粒子群の平均粒径が、概ね1〜5μm、例えば2±0.5μmの範囲にあり、第2粒子群の平均粒径が、概ね0.5〜2μm、例えば0.5±0.5μmの範囲にある。粒度分布が二峰性を有する場合、粒度分布が単峰性である場合に比べて、平均粒径に比して粒子径の小さな粒子の割合が多くなる。小さな粒子の割合が多くなるほど、グリーンシート上で上述した導電性粉末の透過が生じ易くなる。そのため、ここに開示される技術の適用が特に効果的である。
【0024】
導電性ペースト全体に占める導電性粉末の割合は特に限定されない。一好適例では、導電性ペースト全体を100質量%としたときに、導電性粉末が、概ね80質量%以上、好ましくは90質量%以上であって、概ね98質量%以下、例えば96質量%以下であるとよい。導電性粉末の割合が高くなるほど、グリーンシート上で上述した導電性粉末の透過が生じ易くなる。そのため、ここに開示される技術の適用が特に効果的である。また、上記導電性粉末の割合とすることで、緻密性や電気伝導性が高く、低抵抗な電極を好適に形成することができる。
【0025】
[バインダ樹脂]
バインダ樹脂は、導電性ペーストを素体(グリーンシート)上に付与して乾燥させた未焼成の塗膜の状態において、導電性粉末を構成する導電性粒子同士、および、導電性粒子とグリーンシートとを粘着する成分である。バインダ樹脂は、導電性ペーストの焼成時に導電性粉末の焼結温度よりも低い温度で燃え抜けることが好ましい。言い換えれば、バインダ樹脂は、焼成後に得られる電極には残存しないことが好ましい。バインダ樹脂の種類等については特に限定されず、例えば導電性ペーストの付与方法やグリーンシートの種類等に応じて、従来のこの種の導電性ペーストに用いられているものを適宜用いることができる。
【0026】
バインダ樹脂の一例として、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子(セルロース誘導体)、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アルキド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ロジン、マレイン化ロジン等のロジン系樹脂等が挙げられる。なかでも、導電性ペーストをグリーンシート上に付与する際の印刷適性に優れる点や、焼成時の燃焼分解性に優れる点、環境配慮の点等から、セルロース系高分子、例えばエチルセルロースの使用が好ましい。これにより、導電性ペーストの焼成後に電気伝導性の高い電極を好適に得ることができる。
【0027】
導電性ペースト全体に占めるバインダ樹脂の割合は特に限定されない。一好適例では、導電性ペースト全体を100質量%としたときに、バインダ樹脂が、概ね0.1質量%以上、典型的には0.5質量%以上であって、概ね10質量%以下、典型的には5質量%以下であるとよい。
【0028】
[有機溶剤(混合溶剤)]
有機溶剤は、導電性粉末とバインダ樹脂とを分散または溶解して、導電性ペーストを付与に適した粘性に調整するための成分である。ここに開示される技術において、有機溶剤は、少なくとも第1の溶剤と第2の溶剤とを含んだ混合溶剤である。そして、有機溶剤全体のSP値は、9.0(cal/cm
3)
0.5〜10.1(cal/cm
3)
0.5に調整されている。このことにより、シートアタックの発生と導電性粉末の透過とがもれなく抑制された電極を好適に形成することができる。
有機溶剤全体のSP値は、例えば9.2(cal/cm
3)
0.5以上であってもよい。このことにより、導電性粉末が微粒子化された場合に、導電性粉末の透過をより良く抑制することができる。有機溶剤全体のSP値は、例えば9.9(cal/cm
3)
0.5以下、さらには9.6(cal/cm
3)
0.5以下であってもよい。このことにより、シートアタックの発生をより良く抑制することができる。
【0029】
第1の溶剤は、SP値が9.0(cal/cm
3)
0.5以下の溶剤である。第1の溶剤を含むことで、グリーンシートに対するシートアタックの発生を抑えることができる。第1の溶剤のSP値は、概ね7.0(cal/cm
3)
0.5以上、典型的には8.0(cal/cm3)
0.5以上、例えば8.2(cal/cm
3)
0.5以上であって、例えば8.5(cal/cm
3)
0.5以下であってもよい。このことにより、有機溶剤全体のSP値を上記範囲に調整し易くなる。
【0030】
第1の溶剤の種類については特に限定されない。一例として、エーテル類、エステル類、アルコール類、アミン類、アミド類、炭化水素類等のうち、SP値が9.0(cal/cm
3)
0.5以下のものが挙げられる。第1の溶剤は、有機溶剤の濡れ広がりをより良く抑制する観点から、環状の構造部分を有しない直鎖状または分岐状の化合物、すなわち非環式の化合物であることが好ましい。ただし、第1の溶剤は、環状の構造部分を有する環式の化合物、例えば環状エーテルであってもよい。
【0031】
エーテル類は、主鎖(母核)にエーテル結合(−C−O−C−)を少なくとも1つ有する化合物である。エステル類は、主鎖にエステル結合(R−C(=O)−O−R’)を少なくとも1つ有する化合物である。アルコール類は、炭化水素の水素原子を水酸基で置換した化合物であり、一般式:R−OHで表される化合物である。アミン類は、アンモニアの少なくとも1つの水素原子が炭化水素残基で置換された化合物である。アミド類は、アンモニアの少なくとも1つの水素原子がアシル基(R−C(=O)−)で置換された化合物である。炭化水素類は、炭素原子と水素原子とで構成された化合物である。なお、1分子中に複数の官能基を有する場合にはIUPACの命名法に従って分類するが、1分子中にエーテル結合と水酸基とを有する場合は、エーテル類、詳しくは後述するグリコールエーテル類に分類することとする。
【0032】
印刷適性に優れる点等からは、第1の溶剤として、エーテル類の使用が好ましい。エーテル類の一例として、グリコールエーテル類が挙げられる。第1の溶剤として用いられるグリコールエーテル類は、2個の水酸基が2個の相異なる炭素原子に結合している脂肪族化合物または脂環式化合物において、その2個の水酸基のうちの1個または2個の水酸基の水素が、炭化水素残基またはエーテル結合を含む炭化水素残基で置換された化合物である。グリコールエーテル類は、1個の水酸基の水素のみが置換されているグリコールモノアルキルエーテル類と、2個の水酸基の水素がいずれも置換されているグリコールジアルキルエーテル類とを包含する。
【0033】
また、エーテル類のなかでも、比較的沸点が高くて導電性ペーストの取扱性を向上できる点等からは、下記の一般式(化1)で示される非環式の低級グリコールエーテル類の使用が好ましい。
R
1−(O−R
2)
m−O−R
3・・・(化1)
(ここで、R
1,R
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R
2は炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、mは1〜4である。)
【0034】
一般式(化1)において、アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基等である。アルキレン基は、例えば、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基等である。mは、典型的には2〜4である。
SP値を低く抑えて、シートアタックの発生をより良く抑制する観点からは、R
1,R
3が、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であるとよい。また、R
2が、炭素数2のアルキレン基、すなわちエチレン基(CH
2CH
2)であるとよい。
【0035】
グリコールエーテル類としては、例えば、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、トリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、テトラアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、ジアルキレングリコールジアルキルエーテル類、トリアルキレングリコールジアルキルエーテル類、テトラアルキレングリコールジアルキルエーテル類等が挙げられる。なかでも、SP値を低く抑える観点などから、ジアルキレングリコールジアルキルエーテル類の使用が好ましい。
【0036】
エーテル類の具体的な化合物(と、そのSP値。単位は(cal/cm
3)
0.5。)としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル(SP値:8.2)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(SP値:8.2)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(SP値:8.3)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.4)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(SP値:8.4)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.5)等が挙げられる。
【0037】
エステル類としては、例えば、グリコールエーテルアセテート類が挙げられる。グリコールエーテルアセテート類は、上述のグリコールエーテル類がエステル化された化合物である。グリコールエーテルアセテート類の一例として、上記した(化1)のR
1,R
3のうちの少なくとも一方がアシル基である、非環式の低級グリコールエーテル類が挙げられる。上記(化1)において、アシル基は、例えば、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖である。アシル基は、例えば、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ベンゾイル基等である。また、エステル類の他の一例として、ターピネオールのターピネオール誘導体が挙げられる。
【0038】
エステル類の具体的な化合物(と、そのSP値。単位は(cal/cm
3)
0.5。)としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.9)、ジヒドロターピネオールをアセチル化したジヒドロターピニルアセテート(SP値:8.9)、ジヒドロターピニルプロピオネート(SP値:8.9)等が挙げられる。
【0039】
アミン類は、例えば、1個の水素のみが置換されている第一級アミンと、2個の水素が置換されている第二級アミンと、3個の水素が置換されている第三級アミンと、を含む。アミン類の具体的な化合物(と、そのSP値。単位は(cal/cm
3)
0.5。)としては、例えば、ジ(2−エチルヘキシル)アミン(SP値:8.2)等が挙げられる。
【0040】
炭化水素類としては、例えば、炭素数が20以下、例えば10〜15の鎖式飽和炭化水素(直鎖アルカン)、炭素数が20以下、例えば10〜15の鎖式不飽和炭化水素(直鎖アルケン、直鎖アルキン)等が挙げられる。直鎖アルカンの具体例(と、そのSP値。単位は(cal/cm
3)
0.5。)としては、デカン(SP値:7.7)、ウンデカン(SP値:7.8)、ドデカン(SP値:7.9)、トリデカン(SP値:7.9)、テトラデカン(SP値:7.9)等が挙げられる。
【0041】
一好適例では、第1の溶剤のSP値と、グリーンシートに含まれるバインダ樹脂のSP値との差が、概ね0.5(cal/cm
3)
0.5以上、典型的には1.0(cal/cm
3)
0.5以上、好ましくは1.5(cal/cm
3)
0.5以上である。グリーンシートに含まれるバインダ樹脂のSP値が10.0(cal/cm
3)
0.5以上、例えば10.0〜11.0(cal/cm
3)
0.5程度である場合、第1の溶剤のSP値は小さいほど好ましい。このことにより、シートアタックの発生をより良く抑制することができる。
【0042】
第2の溶剤は、SP値が10.0(cal/cm
3)
0.5以上の溶剤である。第2の溶剤を含むことで、グリーンシートに対する導電性粉末の透過を抑えることができる。第2の溶剤のSP値は、概ね20.0(cal/cm
3)
0.5以下、典型的には15.0(cal/cm
3)
0.5以下、好ましくは13.0(cal/cm
3)
0.5以下、さらには12.0(cal/cm
3)
0.5以下、例えば10.5(cal/cm
3)
0.5以下であってもよい。このことにより、有機溶剤全体のSP値を上記範囲に調整し易くなる。
【0043】
第2の溶剤の種類については特に限定されない。一例として、エーテル類、エステル類、アルコール類、アミン類、アミド類、炭化水素類等のうち、SP値が10.0(cal/cm
3)
0.5以上のものが挙げられる。第2の溶剤は、環状の構造部分を有しない非環式の化合物であってもよいし、環状の構造部分を有する環式の化合物であってもよい。相溶性や一体性を高める観点から、第2の溶剤は、第1の溶剤と同じ官能基部分を有する同種の溶剤であるとよい。ただし、第1の溶剤と同じ官能基部分を有しない異種の溶剤であってもよい。なお、エーテル類、エステル類、アルコール類、アミン類、アミド類、炭化水素類の分類については第1の溶剤と同様である。第2の溶剤の具体例として、以下の(a)〜(c)の化合物が挙げられる。
【0044】
(a)エーテル類
印刷適性に優れる点等からは、第2の溶剤として、エーテル類の使用が好ましい。エーテル類の一例として、グリコールエーテル類が挙げられる。なお、グリコールエーテル類の分類については第1の溶剤と同様である。
【0045】
エーテル類のなかでも、比較的沸点が高くて導電性ペーストの取扱性を向上できる点等からは、下記の一般式(化2)で示される低級グリコールエーテル類の使用が好ましい。
R
11−(O−R
12)
n−O−R
13・・・(化2)
(ここで、R
11,R
13は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アリール基のうちのいずれかであり、R
12は炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、nは1〜4である。)
【0046】
一般式(化2)において、アルキル基は、例えば、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖である。アルキル基およびアルキレン基は、例えば一般式(化1)と同様である。アルコキシ基は、例えば、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖である。アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等である。アリール基は、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基等である。
SP値を向上して、導電性粉末の透過をより良く抑制する観点からは、R
11,R
13のうちの一方が水素原子であり、他の一方が、炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であるとよい。また、R
2が、炭素数2のアルキレン基、すなわちエチレン基(CH
2CH
3)であるとよい。また、nが、1または2であるとよい。
【0047】
具体的な化合物(と、そのSP値。単位は(cal/cm
3)
0.5。)としては、例えば、ジエチレングリコール(SP値:12.1)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:10.2)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.5)、エチレングリコール(SP値:17.8)、エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:12.0)、エチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:11.5)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.2)、フェニルプロピレングリコール(SP値:11.5)等が挙げられる。
【0048】
(b)アルコール類
アルコール類(と、そのSP値。単位は(cal/cm
3)
0.5。)の具体例としては、例えば、メタノール(SP値:13.8)、エタノール(SP値:12.6)、1−ブタノール(SP値:11.4)、2−ブタノール(SP値:10.8)、tert−ブタノール(SP値:10.6)、1−オクタノール(SP値:10.3)等が挙げられる。アルコール類は、炭素数が6以上、例えば6〜10であることが好ましい。アルコール類は、直鎖状の化合物であることが好ましい。
【0049】
(c)エステル類
エステル類としては、例えば、グリコールエーテルアセテート類が挙げられる。なお、グリコールエーテルアセテート類の分類については第1の溶剤と同様である。グリコールエーテルアセテート類の一例として、上記した(化2)のR
11,R
13のうちの少なくとも一方がアシル基である、低級グリコールエーテル類が挙げられる。アシル基は、例えば一般式(化1)と同様である。エステル類(と、そのSP値。単位は(cal/cm
3)
0.5。)の具体例としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオ−ル−1−モノイソブチレート(SP値:10.2)、プロピレンカーボネート(SP値:13.3)等が挙げられる。
【0050】
ここに開示される技術の一好適例では、第2の溶剤のSP値と、第1の溶剤のSP値との差が、1.5(cal/cm
3)
0.5を超えて、概ね1.8(cal/cm
3)
0.5以上、例えば2.0(cal/cm
3)
0.5以上である。このことにより、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0051】
他の一好適例では、第2の溶剤のSP値と、導電性ペーストに含まれるバインダ樹脂のSP値との差が、概ね1.0(cal/cm
3)
0.5以下、典型的には0.5(cal/cm
3)
0.5以下である。例えば導電性ペーストに含まれるバインダ樹脂のSP値が10.0〜11.5(cal/cm
3)
0.5程度である場合、第2の溶剤のSP値も10.0〜11.5(cal/cm
3)
0.5程度であることが好ましい。このことにより、導電性ペースト全体としての一体性や保存安定性をより良く高めることができる。
【0052】
また、導電性ペースト全体としての一体性や保存安定性をさらに高める観点からは、第2の溶剤が、第1の溶剤と同類のものであることが好ましい。例えば、第1の溶剤がエーテル類(特にはグリコールエーテル類)である場合には、第2の溶剤もまたエーテル類(特にはグリコールエーテル類)であることが好ましい。
【0053】
導電性ペーストの取扱性や電極形成時の作業性を向上する観点からは、第1の溶剤および第2の溶剤のうちの少なくとも一方(好ましくは両方)について、沸点が概ね100℃以上、好ましくは130℃以上、典型的には150℃以上、例えば160〜260℃程度であるとよい。また、第1の溶剤および第2の溶剤の分子量は、それぞれ、概ね80以上、典型的には100以上、例えば130以上であって、概ね500以下、典型的には300以下、例えば250以下であるとよい。なお、本明細書において「分子量」は、化合物の構造式に基づく各元素の原子量の総和である。
【0054】
なお、有機溶剤は、上記した第1の溶剤と第2の溶剤とで構成されていてもよいし、第1の溶剤と第2の溶剤とに加えて第3の溶剤を1種または2種以上含んでもよい。第3の溶剤としては、有機溶剤全体のSP値が上記範囲を満たす限りにおいて特に限定されず、従来のこの種の導電性ペーストに用いられているものを適宜用いることができる。一例として、エーテル類、エステル類、アルコール類、アミン類、アミド類、炭化水素類等のうち、SP値が9.0(cal/cm
3)
0.5を超えて10.0(cal/cm
3)
0.5未満のものが挙げられる。
【0055】
有機溶剤の全体を100質量%としたときに、第1の溶剤の割合は、概ね10質量%以上、例えば20質量%以上であって、概ね80質量%以下、例えば70質量%以下であるとよい。また、第2の溶剤の割合は、概ね20質量%以上、例えば30質量%以上であって、概ね90質量%以下、例えば80質量%以下であるとよい。また、第1の溶剤と第2の溶剤との合計は、概ね50質量%以上、好ましくは80質量%以上、例えば90質量%以上、特には95質量%以上であるとよい。このことにより、シートアタックの抑制効果と、導電性粉末の透過を抑制する効果とを、より高いレベルで安定して兼ね備えることができる。さらに、有機溶剤全体のSP値を上記範囲に調整し易くもなる。また、第1の溶剤と第2溶剤との混合割合は特に限定されないが、一好適例では、第1の溶剤と第2溶剤とを、質量比で、第1の溶剤:第2溶剤=20:80〜70:30の間に調整するとよい。このことにより、導電性ペーストの保存安定性等をより良く高めることができる。
【0056】
導電性ペースト全体に占める有機溶剤の割合は特に限定されない。一好適例では、導電性ペースト全体を100質量%としたときに、有機溶剤が、概ね0.1質量%以上、典型的には0.5質量%以上であって、概ね10質量%以下、典型的には5質量%以下であるとよい。このことにより、例えば導電性ペーストの取扱性や印刷適性を向上して、グリーンシート上に均質な厚みの電極を形成し易くなる。
【0057】
導電性ペーストには、上記構成成分に加えて、種々の添加成分を配合することができる。添加成分の一例としては、例えば、無機フィラー、界面活性剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、可塑剤、酸化防止剤、顔料等が挙げられる。無機フィラーとしては、例えば、セラミック粉末やガラス粉末等が例示される。導電性ペースト全体に占める添加成分の割合は特に限定されないが、より高い電気伝導性を実現する観点からは、概ね5質量%以下、例えば3質量%以下とすることが好ましい。
【0058】
ここに開示される導電性ペーストは、例えば、適切な粘度等に調整することで様々な方法によって素体上に付与することができる。例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の各種印刷法や、ドクターブレード法、スプレー法等によって、素体上に付与することができる。
【0059】
ここに開示される導電性ペーストは、例えば、インダクタンス部品やコンデンサ部品等といった様々な電子部品の電極形成に利用することができる。なお、上記導電性ペーストを用いて電子部品を製造するにあたっては、電子部品の分野における従来公知の手法を適宜用いることができる。上記導電性ペーストは、インダクタ(コイル)、チョークコイル、トランス等といったインダクタンス部品の電極を形成する用途で好適に用いることができる。
【0060】
すなわち、本発明者の知見によれば、インダクタンス部品では、例えば積層セラミックコンデンサ(Multi-Layered Ceramic Capacitor:MLCC)のようなコンデンサ部品に比べて、相対的に素体の気孔径が大きく、気孔率が高い。また近年、低抵抗化の観点から、導電性粉末は微粒子化される傾向にある。そのため、インダクタンス部品の電極形成時には有機溶剤が素体に浸み込み易くなる。また、素体に対する導電性粉末の透過も生じ易くなる。したがって、ここに開示される導電性ペーストの使用が効果的である。インダクタンス部品は、表面実装タイプやスルーホール実装タイプ等、各種の実装形態のものであってよい。インダクタンス部品は、積層型のものであってもよいし、巻線型のものであってもよいし、薄膜型のものであってもよい。特には、上記導電性ペーストによれば低抵抗な電極を実現し得ることから、大電流を流すことが可能な電源回路に用いられる積層チップインダクタの内部電極層を形成する用途に好適である。
【0061】
図1は、積層チップインダクタ1の構造を模式的に示した断面図である。なお、
図1における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。また、図面中の符号X、Zは、それぞれ左右方向、上下方向を表す。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎない。
【0062】
積層チップインダクタ1は、本体部10と、本体部10の左右方向Xの両側面部分に設けられた外部電極20とを備えている。積層チップインダクタ1の形状は、例えば、1608形状(1.6mm×0.8mm)、2520形状(2.5mm×2.0mm)等のサイズである。
【0063】
本体部10は、複数の磁性体層12が上下方向Zに積層されて一体化された構造を有する。磁性体層12は、例えば、Ni−Cu−Zn系フェライト等のフェライト磁性体、Fe−Cr−Si合金、Fe−Al−Si合金、Fe−Si−M系軟磁性合金(ただし、Mは、クロム、アルミニウム、チタンのうちの少なくとも1種。)等のメタル系材料で構成されている。
各磁性体層12の間には、内部電極層14としてのコイル導体が備えられている。コイル導体は、上述の導電性ペーストを用いて、各磁性体層12の間に形成されている。磁性体層12を挟んで上下方向Zに隣り合う2つのコイル導体は、磁性体層12に設けられたビアホールを通じて導通されている。このことにより、内部電極層14は、3次元的なコイル形状(螺旋状)に構成されている。コイル導体の両端はそれぞれ外部電極20と接続されている。
【0064】
このような積層チップインダクタ1は、例えば、以下の手順で製造することができる。すなわち、まず、上記したメタル系材料とバインダ樹脂と有機溶剤とを含む磁性体ペーストを調製し、これをキャリアシート上に供給して、グリーンシートを形成する。次いで、このグリーンシートを圧延後、所望のサイズにカットして、複数の磁性体層形成用シートを得る。次いで、この磁性体層形成用シートの所定の位置に、穿孔機等を用いてビアホールを形成する。次いで、上述の導電性ペーストを、複数の磁性体層形成用シートの所定の位置に所定のコイルパターンで印刷する。次いで、これらを積層、圧着することによって未焼成のグリーンシートの積層体を作製する。これを乾燥、焼成することによって、グリーンシートが一体的に焼成され、磁性体層12と内部電極層14とを備えた本体部10が形成される。そして、本体部10の両端部に適当な外部電極形成用ペーストを塗布し、焼成することによって、外部電極20を形成する。このようにして、積層チップインダクタ1を製造することができる。
【0065】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0066】
(実施例1)
[導電性ペーストの調製]
以下の手順で、導電性ペースト(サンプル1〜
8、10)を調製した。
すなわち、まず、表1に示す有機溶剤を用意した。表1にはあわせてSP値を示している。次いで、導電性粉末としての銀粉末と、バインダ樹脂としてのエチルセルロース(EC)と、表2に示す種類の単一の有機溶剤とを、銀粉末:EC:有機溶剤=92:0.5〜2:6〜7.5の質量比で配合し、三本ロールミルで混練して、導電性ペースト(サンプル1〜
8、10)を調製した。
【0068】
[グリーンシートの用意]
上記の導電性ペーストの塗布対象として、グリーンシートを用意した。グリーンシートは、メタルインダクタの電極層の形成を想定したものを用意した。すなわち、まず、金属磁性材料としてのFe−Cr−Si合金粉末と、バインダ樹脂としてのポリビニルブチラールと、有機溶剤と配合し、三本ロールミルで混練して、磁性体ペーストを得た。次いで、この磁性体ペーストをPET製のキャリアシートの表面に塗工し、乾燥させて、グリーンシートを成形した。
【0069】
[シートアタック性の評価]
上述の通り、グリーンシート上に導電性ペーストを印刷すると、導電性ペーストに含まれる有機溶剤がグリーンシート中のバインダ樹脂を膨潤または溶解して、局所的にシートが薄くなったり穴が開いたりするシートアタック現象が生じることがある。本試験例では、シートアタック性を評価するため、上記グリーンシートの表面に、上記導電性ペーストを印刷成形し、乾燥させることで、電極層を形成した。そして、グリーンシートの裏面、言い換えればPET製のキャリアシートと接している側の面から顕微鏡またはマイクロスコープで観察して、裏面に穴が開いているかを確認した。結果を表2に示す。なお、表2では、裏面に穴が確認された場合を「×」とし、裏面に穴が確認されなかった場合を「〇」とした。
【0070】
[Ag透過性の評価]
上述の通り、グリーンシート上に導電性ペーストを印刷すると、導電性ペーストに含まれる有機溶剤が銀粉末と共にグリーンシートに浸透して、銀粉末がグリーンシートの裏側まで透過するAg透過が生じることがある。本試験例では、Ag透過性を評価するために、上記グリーンシートの表面に、上記導電性ペーストを印刷成形し、乾燥させることで、電極層を形成した。そして、グリーンシートの裏面からSEM−EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)の観察を行い、裏面にAg微粒子が存在するかを確認した。結果を表2に示す。なお、表2では、裏面にAg微粒子が確認された場合を「×」とし、裏面にAg微粒子が確認されなかった場合を「〇」とした。また、
図2には、一例として、Ag微粒子が確認された場合(A)と、Ag微粒子が確認されなかった場合(B)とのSEM−EDS画像を示している。
【0072】
表2に示した通り、単一の有機溶剤のみでは、シートアタックとAg透過とを同時に抑制することができなかった。すなわち、SP値が9.2(cal/cm
3)
0.5以下の有機溶剤を単独で用いたサンプル1〜
8では、シートアタック性が良好なものの、いずれもAg透過が発生した。この理由は定かではないが、本発明者は、銀粉末の透過性が有機溶剤の濡れ性(表面張力)と関係していると考えている。すなわち、表面張力が低い有機溶剤は、グリーンシート上で濡れ広がり易く、グリーンシートにも浸み込み易くなる。そのため、銀粉末の透過が起こり易くなると考えられる。また、粉体の分散系に関する報文(水溶性アクリル樹脂塗料系における顔料分散、色材, 62(8) pp.524-528,1989 〈インターネット〉https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/62/9/62_524/_pdf)によれば、表面張力は、Fedorsの溶解度パラメータδと関係づけられ、SP値と相関を持って変化することが予測される。したがって、SP値が所定値以下となると、有機溶剤の濡れ性が向上し、銀粉末の透過が生じることが推察される。
【0073】
また、SP値が10.5(cal/cm
3)
0.5の有機溶剤のみを用いたサンプル10では、Ag透過性が良好なものの、シートアタックが発生した。この理由は定かではないが、本発明者は、SP値がシートアタック性に大きく影響すると考えている。すなわち、SP値が所定値以上となると、グリーンシートに含まれるバインダ樹脂との相溶性が高まり、シートアタックを生じることが推察される。
【0074】
(実施例2)
溶剤C(ジエチレングリコールジブチルエーテル)と溶剤M(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)とを表3に示す質量比率で混合して、混合溶剤を調製した。これを用いて導電性ペースト(サンプル11〜17)を調製し、実施例1と同様に電極層を形成して、シートアタック性とAg透過性とを評価した。加えて、ここでは印刷性も評価した。
【0075】
[印刷性の評価]
上記グリーンシートの表面に、上記導電性ペーストを印刷成形した際の転写性を評価した。また、サンプル3,10についても同様に印刷性の評価を行った。結果を表3に示す。なお、表3では、印刷カスレ等による断線が確認された場合を「×」とし、印刷カスレ等による断線が確認されなかった場合を「〇」とした。
【0077】
表3に示した通り、いずれのサンプルも、印刷性については良好であった。しかし、混合溶剤の全体のSP値が9.0(cal/cm
3)
0.5未満であるサンプル16,17では、シートアタック性が良好なものの、Ag透過が発生した。
これに対して、混合溶剤のSP値が9.0〜10.1(cal/cm
3)
0.5であるサンプル11〜15では、シートアタックとAg透過とが同時に抑制されていた。
【0078】
(実施例3)
表4に示す種々の有機溶剤を混合して、混合溶剤を調製した。これを用いて導電性ペースト(サンプル
19〜21、23〜31)を調製し、実施例2と同様に電極層を形成して、シートアタック性とAg透過性と印刷性とを評価した。結果を表4に示す。
【0080】
表4に示した通り、いずれのサンプルも、印刷性については良好であった。特に、本発明者の検討によれば、2種類の溶剤がいずれもエーテル類である場合には、印刷適性が格段に優れ、有機溶剤の質量比をより小さくすることが可能であった。
【0081】
また、SP値が9.0(cal/cm
3)
0.5以下の有機溶剤を含まないサンプ
ル19では、シートアタックが発生した。一方、SP値が10.0(cal/cm
3)
0.5以上の有機溶剤を含まないサンプル20
、21では、Ag透過が発生した。
これに対し、SP値が9.0(cal/cm
3)
0.5以下の有機溶剤と、SP値が10.0(cal/cm
3)
0.5以上の有機溶剤とを含み、有機溶剤全体のSP値が9.0〜10.1(cal/cm
3)
0.5に調整されているサンプル23〜31では、シートアタックとAg透過とが同時に抑制されていた。なかでも、SP値が9.0(cal/cm
3)
0.5以下の有機溶剤として非環式の化合物を用いたサンプル23〜29では、有機溶剤の濡れ広がりが特に良く抑制されていた。この理由は定かではないが、一因として、第1の溶剤が非環式の(例えば直鎖状)化合物であると、疎水性相互作用によって第1の溶剤が第2の溶剤の極性箇所(O原子によるδ
−)に引きつけられ易くなり、第1の溶剤の濡れ広がりがより良く抑制されたことが考えられる。