特許第6853683号(P6853683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853683
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】血中酸素飽和度測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   A61B5/1455
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-19742(P2017-19742)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-930(P2018-930A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2020年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-126266(P2016-126266)
(32)【優先日】2016年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515290343
【氏名又は名称】医療法人社団皓有会
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】小山 和泉
【審査官】 ▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−194908(JP,A)
【文献】 特開2008−099890(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0037138(KR,A)
【文献】 実開昭63−102402(JP,U)
【文献】 特開2008−086705(JP,A)
【文献】 特開2002−078691(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/136956(WO,A1)
【文献】 特開2006−326153(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0006098(US,A1)
【文献】 特開平07−246191(JP,A)
【文献】 特表2016−514992(JP,A)
【文献】 米国特許第04468197(US,A)
【文献】 特開2012−254194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145 − 5/1495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の血液中の酸素飽和度を測定する血中酸素飽和度測定装置であって、
互いに異なる第1および第2の波長の光を照射する照射手段と、
前記照射手段によって照射され、前記生体を透過した光を反射する反射手段と、
前記反射手段によって反射され、再び前記生体を透過した光を受光する受光手段と、
前記受光手段によって受光された光の受光強度を算出する強度算出部と、
前記強度算出部によって算出された前記受光強度の時間変化に基づいて前記生体による吸光度の変化量を算出する吸光度変化量算出部と、
前記第1および第2の波長について前記吸光度変化量算出部によって算出された前記吸光度変化量に基づいて、前記生体の血液中の酸素飽和度を算出する血中酸素飽和度算出部と、
前記生体の上顎に着脱可能に装着されるマウスピースと、を備え、
前記反射手段は、前記マウスピースの上唇側に取り付けられることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記反射手段は、反射面に半球状の凹部を有することを特徴とする血中酸素飽和度測定
装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記受光手段は、前記生体の皮膚表面によって反射された光を遮光する遮光手段を有することを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記照射手段と、受光手段と、強度算出部と、吸光度変化量算出部と、血中酸素飽和度算出部とは、前記生体から離間して設置されることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記生体から離間して設置される筐体をさらに備え、
前記照射手段と、受光手段と、強度算出部と、吸光度変化量算出部と、血中酸素飽和度算出部とは、前記筐体に格納されることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記生体の皮膚表面に着脱可能に貼り付けられる、または塗布可能な表面反射低減膜をさらに備えることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記第1および第2の波長は、近赤外領域にあることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記照射手段は、前記第1および第2の波長と異なる第3の波長の光をさらに照射することを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の血中酸素飽和度を測定する血中酸素飽和度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルスオキシメータを用いて睡眠中の生体の血中酸素飽和度を測定し、睡眠時無呼吸による低酸素状態を監視するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、パルスオキシメータを指先などの測定部位に装着して生体の血中酸素飽和度を測定する。
【0003】
また、胸部のみ止まり、腹部は動作すると言う睡眠時の無呼吸で生じる現象を捉えることで、睡眠時無呼吸状態を判定するようにした装置が知られている(例えば特許文献2参照)。この特許文献2記載の装置では、睡眠中の生体の胸部および腹部にマイクロ波を照射し、その反射波に基づいて睡眠時無呼吸状態を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−239808号公報
【特許文献2】特開2014−166568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置は、パルスオキシメータを指先などに装着して血中酸素飽和度を測定するため、睡眠時の生体に違和感を与えて睡眠を妨げたり、パルスオキシメータが指先などから脱落して測定を継続できなくなったりするおそれがある。また、上記特許文献2の装置は、マイクロ波を利用するため、装置自体の構成が複雑で高価なものになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、生体の血液中の酸素飽和度を測定する血中酸素飽和度測定装置であって、互いに異なる第1および第2の波長の光を照射する照射手段と、照射手段によって照射され、生体を透過した光を反射する反射手段と、反射手段によって反射され、再び生体を透過した光を受光する受光手段と、受光手段によって受光された光の受光強度を算出する強度算出部と、強度算出部によって算出された受光強度の時間変化に基づいて生体による吸光度の変化量を算出する吸光度変化量算出部と、第1 および第2 の波長について吸光度変化量算出部によって算出された吸光度変化量に基づいて、生体の血液中の酸素飽和度を算出する血中酸素飽和度算出部と、生体の上顎に着脱可能に装着されるマウスピースと、を備える。反射手段は、マウスピースの上唇側に取り付けられる
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、照射手段によって照射され、生体を透過し、反射手段によって反射され、生体を透過した光に基づいて血中酸素飽和度を測定するように構成したので、簡易な構成で、睡眠時の生体に違和感を与えることなく生体の血液中の酸素飽和度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置の全体構成を示す概略図。
図2】ヘモグロビンによる近赤外光の吸収スペクトルを示す図。
図3図1に示す本体の斜視図。
図4図1に示す本体の断面図。
図5図1に示す本体の正面図。
図6図4に示す制御ユニットの構成を示すブロック図。
図7A図1に示すマウスピースの第1層を示す斜視図。
図7B図1に示すマウスピースの第1層と反射フィルムとを示す斜視図。
図7C図1に示すマウスピースの第1層と反射フィルムと第2層とを示す斜視図。
図8図1に示すマウスピースの断面図。
図9】上唇部を説明するための図。
図10図8に示す反射フィルムの変形例を示す断面図。
図11図4に示す赤外線カメラの変形例を示す図。
図12図3に示す制御ユニットで実行される処理の一例を示すフローチャート。
図13図12のステップS1の処理をより具体化したフローチャート。
図14】本発明の第2の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置の全体構成を示す概略図。
図15A図14に示すマウスピースの第1層を示す斜視図。
図15B図14に示すマウスピースの第1層と照射ユニットとを示す斜視図。
図15C図14に示すマウスピースの第1層と照射ユニットと第2層とを示す斜視図。
図16図14に示すマウスピースの断面図。
図17図15Bに示す照射ユニットの回路図。
図18図15Bに示す照射ユニットの照射パターンを示す図。
図19図14に示す本体の斜視図。
図20図14に示す本体の断面図。
図21図20に示す制御ユニットの構成を示すブロック図。
図22図20に示す制御ユニットで実行される処理の一例を示すフローチャート。
図23図22のステップS1の処理をより具体化したフローチャート。
図24】本発明の第3の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置の全体構成を示す概略図。
図25図24に示すマウスピースの斜視図。
図26図25に示す上顎用マウスピースの部分断面図。
図27図25に示すマウスピースに類似する、治療用マウスピースの斜視図。
図28図27に示す治療用上顎用マウスピースの部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施形態−
以下、図1図13を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置(以下、装置という)100の概略構成を示す図である。装置100は、生体(人間)、特に就寝中の生体の血液中の酸素飽和度(SpO2)を測定し、睡眠時無呼吸によって起こり得るSpO2の低下を監視するために用いられる。装置100は、測定対象(生体)200から離間して設置される本体10と、生体の上顎に着脱可能に装着されるマウスピース20とを備え、装置100全体として、パルスオキシメータとして機能する。
【0010】
図2は、ヘモグロビンによる近赤外光の吸収スペクトルを示す図である。パルスオキシメータは、血液中のヘモグロビンが酸素を含むとき(酸化ヘモグロビンHbO2)と酸素を含まないとき(還元ヘモグロビンHb)とで光の吸収特性が異なることを利用し、異なる2つ以上の波長の光についての生体を透過させたときの透過率からSpO2を測定する装置である。装置100は、生体を透過しやすい近赤外領域(生体の窓)の赤外光のうち、HbとHbO2とで吸光率が異なる波長、例えば、図2の780nmと805nmと830nmの3種類、あるいはこのうちの780nmと830nmの2種類の波長の赤外光を利用する。
【0011】
図3は、本体10の斜視図である。本体10は、略電球形状の筐体11を備える。筐体11は、一端部において、ねじ部12aが形成された導電性の口金部12を有する。ねじ部12aは、例えば壁面300に取り付けられたスタンド301の先端部のソケット302に螺合され、口金部12を介して本体10に電力が供給される。スタンド301は屈曲自在な可動部303を有し、可動部303を介して本体10の向きを調整することができる。スタンド301は、壁面取り付け式以外にも、天井取付け式や自立式、クランプ式などでもよく、ベッドサイドに設置しやすい形状が適する。筐体11の他端部には、透光性を有する樹脂材により構成されるカバー13が取り付けられる。
【0012】
図4は、本体10の断面図である。図示のように、筐体11内には、赤外線LED(発光ダイオード)14と、赤外線カメラ15と、白色LED16と、制御ユニット17とが配置され、口金部12および図示しないケーブルなどを介してこれらに外部から電力が供給される。赤外線LED14と赤外線カメラ15とは、それぞれ図示しないケーブルなどを介して制御ユニット17に接続される。
【0013】
図5は、本体10をカバー13側から見たときの正面図である。赤外線LED14は、互いに異なる波長λa,λb,λcの赤外光を照射する赤外線LED14a,14b,14cを含む。波長λa,λb,λcは、例えば、780nm,805nm,830nmである(図2参照)。赤外線LED14a,14b,14cは、一定の照射強度INT0で赤外光を照射する。赤外線LED14a,14b,14cは、それぞれ照射面がカバー13の表面と平行となるように、筐体11の周方向に配置される。なお、赤外線LED14は、少なくとも互いに異なる2種類の波長の赤外光を照射できればよいので、赤外線LED14a,14cの2つのみを使用するようにしてもよい。
【0014】
赤外線LED14が照射する赤外光の波長として3種類の波長λa,λb,λcを設定することで、波長ごとの測定結果から得られる関係式が増える。このため、酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの%濃度[HbO2],[Hb]を算出するときの精度を高めることができ、SpO2の測定精度を向上させることができる。また、可視光領域を避けて波長λa,λb,λcを設定することで、測定対象200の睡眠を妨げることなく、赤外光の照射によりSpO2を測定することができる。
【0015】
赤外線カメラ15は、赤外線LED14a,14b,14cによって照射された光の照射量、より詳しくは、後述するマウスピース20の反射フィルム21の反射面で反射した赤外光を受光して光量を検出し、光量に応じた信号を制御ユニット17に送信する。また、赤外線カメラ15は、測定対象200の顔を認識して上顎の位置(向き)を特定し、その情報を制御ユニット17に送信する。
【0016】
さらに、赤外線カメラ15は、ズーム機能を有し、例えば5〜10倍の光学的なズーミングを行うことができる。赤外線カメラ15は、図4,5に示すように、レンズ部(受光面)がカバー13の表面と平行となるように、本体10の中央に配置される。赤外線カメラ15は、図4に示すように、受光面がカバー13に固定され、本体部15aが筐体11に設けられたレール11aに沿って筐体11の長さ方向(矢印で示す)に移動可能であり、これにより、倍率を適宜調整することができる。
【0017】
白色LED16は、例えば、高輝度白色LEDにより構成される。白色LED16は、赤外線LED14と同様に、照射面がカバー13の表面と平行となるように、筐体11の周方向に配置される。なお、白色LED16は、SpO2の測定には直接関係しないため、本体10は必ずしも白色LED16を備える必要はない。従って、照明としての機能は不要であり、本体10の形状も略電球形状に限定されるものではない。
【0018】
図6は、制御ユニット17の構成を示すブロック図である。制御ユニット17には、赤外線LED14と赤外線カメラ15とが接続される。制御ユニット17は、CPU,ROM,RAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含むコンピュータにより構成される。
【0019】
制御ユニット17は、機能的構成として、赤外線LED14の点消灯を制御する照射制御部170と、赤外線カメラ15が受光した光量に応じた信号に基づいて受光強度INT(INTa,INTb,INTc)を算出する強度算出部171と、強度算出部171によって算出された受光強度INT(INTa,INTb,INTc)の時間変化に基づいて吸光度Aの変化量ΔAを算出する吸光度変化量算出部172と、各波長λ(λa,λb,λc)について吸光度変化量算出部172によって算出された吸光度変化量ΔA(ΔAa,ΔAb,ΔAc)に基づいてSpO2を算出する血中酸素飽和度算出部(SpO2算出部)173とを有する。
【0020】
図7A〜7Cは、図1に示す測定対象200の上顎に着脱可能に装着されるマウスピース20の製造工程を示す斜視図、図8は、マウスピース20の要部断面図である。マウスピース20は、例えば、透明な熱可塑性の樹脂で構成され、厚さ0.5〜0.8mm程度の歯列矯正用マウスピースを用いることができる。マウスピース20は、上唇側に反射フィルム21を有する。
【0021】
マウスピース20を製造するにあたっては、まず、図7Aに示すように、マウスピース20の第1層(内側の層)20aを樹脂で成形する。次いで、図7Bに示すように、第1層20aの上唇側に反射フィルム21を反射面が上唇側となるように貼り付ける。最後に、図7Cに示すように、第1層20aの上に第2層(外側の層)20bを樹脂で成形し、これにより、樹脂の第1層20aと第2層20bとの間に反射フィルム21を介挿する。
【0022】
反射フィルム21としては、例えば、厚さ50μm程度の、フィルムシールに金属を蒸着したものを用いることができる。反射フィルム21の厚さは薄く、例えば、一般的な歯列矯正用マウスピースの厚さと比較しても、10分の1程度である。このため、過度に厚さを増大することなくマウスピース20に介挿することができ、装着感を損なうことがない。従って、睡眠時に測定対象200が違和感を感じることなく装着することができ、睡眠を妨げることなく安定した測定を行うことが可能となる。また、マウスピース20が脱落して測定を継続できなくなったりする可能性を低減することができる。
【0023】
図9は、上唇部を説明するための図である。本明細書では、図9に斜線で示すように、上唇と鼻との間の部分を「上唇部」と称する。図8に示すように、上唇部の裏側には上顎の歯や歯茎があり、上唇部は指などと比べて薄い。このため、上唇部には容易に光を透過させることができる。また、上唇部には、上唇動脈や毛細血管などの血管が走行している。測定対象200の上唇部の口腔側には、測定対象200の上顎に装着されたマウスピース20の反射フィルム21の反射面が位置する。
【0024】
本体10の赤外線LED14によって照射された赤外光は、測定対象200の上唇部を透過して、マウスピース20の反射フィルム21の表面で反射する。マウスピース20の反射フィルム21の反射面で反射した赤外光は、再び測定対象200の上唇部を透過して、本体10の赤外線カメラ15によって受光される。なお、本体10は、可動部303(図1)を介して、赤外線LED14が赤外光を照射する方向が測定対象200の上唇部、すなわち、マウスピース20の反射フィルム21の反射面となるように、向きを調整される。
【0025】
より具体的には、本体10の赤外線LED14によって照射されて測定対象200の上唇部まで到達した赤外光は、一部が測定対象200の皮膚表面で正反射し、正反射しなかった一部の赤外光が測定対象200の上唇部に入射する。測定対象200の上唇部に入射した赤外光は、測定対象200の体内で散乱するとともに、血液中の酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHb、血液以外の組織によって吸収されながら、測定対象200の上唇部を透過して、散乱や吸収によって失われなかった一部の赤外光がマウスピース20の反射フィルム21の反射面に到達して反射する。
【0026】
マウスピース20の反射フィルム21の反射面で反射した赤外光は、反射の角度に応じて測定対象200の上唇部に再び入射し、体内で散乱、吸収されながら上唇部を透過して、散乱、吸収によって失われなかった一部の赤外光が本体10の赤外線カメラ15に到達して受光される。なお、粘膜は角質層がない、あるいは角質層が極薄いため、粘膜表面では正反射が起こりにくい。このため、口腔側から到達する赤外光の大部分は粘膜表面で正反射することなく上唇部に入射する。
【0027】
ところで、装置100は、血液中のヘモグロビンによる吸光量に注目してSpO2を測定するものであるため、測定精度を向上させるには、赤外線カメラ15による受光量を十分に確保することや、赤外線カメラ15による受光量全体に対する皮膚表面で正反射する赤外光の割合を低減してSN比を向上させることが望ましい。測定対象200の皮膚表面に着脱可能に貼り付けられる反射低減シート、あるいは塗布可能な反射低減剤を用いることで、皮膚表面での正反射による赤外光の損失を低減し、より多くの赤外光を上唇部に入射させることができる。
【0028】
図10は、マウスピース20の反射フィルム21の変形例を示す断面図である。赤外線LED14によって照射された赤外光は、反射フィルム21の反射面に対して垂直に入射するとは限らない。反射フィルム21の反射面は金属蒸着により鏡面となっているため、L1,L2に示すように、反射面に入射した赤外光(1点鎖線で示す)は、反射面に対して入射角度と同じ角度で正反射する。このため、L1に示すように、反射光が赤外線カメラ15の受光(撮影)領域外に出てしまうおそれがある。この点を考慮し、図10の変形例では、反射フィルム21の反射面に半球状の凹部21dが設けられる。これにより、L2に示すように、赤外光の大部分が反射面(凹部21d)に対して垂直に入射するようになり、このため、反射フィルム21に対する入射角度によらず、入射した方向に反射するように反射方向を規制することができる。
【0029】
図11は、赤外線LED14および赤外線カメラ15の変形例を示す図である。図11では、赤外線LED14の照射面および赤外線カメラ15の受光面に、それぞれ赤外光を偏光する偏光フィルタ14p,15pが設置される。偏光フィルタ14pと偏光フィルタ15pとは、偏光方向が直交するように設置される。赤外線LED14によって照射された赤外光は、偏光フィルタ14pによって一の方向に偏光され、その偏光方向のまま測定対象200の皮膚表面で正反射される。このため、測定対象200の皮膚表面で正反射された赤外光は、偏光方向が偏光フィルタ14pと直交する偏光フィルタ15pを透過することはできない。すなわち、偏光フィルタ15pによって測定対象200の皮膚表面で反射した赤外光を遮光することができる。
【0030】
偏光フィルタ15pとしては、赤外光を偏光可能な偏光フィルム、例えば、ワイヤグリッド偏光フィルムWGF(登録商標)を利用することができる。なお、赤外線LED14(の照射光)自体が特定の方向に偏光している場合は、偏光フィルタ14pを設置する必要はない。この場合は、偏光フィルタ15pを、赤外線LED14と偏光フィルタ15pとの偏光方向が直交するように設置する。
【0031】
いずれにしても、脈動周期のようなごく短い時間では、反射や散乱、血液以外の組織による吸収によって失われる赤外光の割合はほぼ一定である。すなわち、1秒程度の脈動周期で測定される吸光度Aの変化量ΔAは、測定対象200の上唇部を流れる血液中のヘモグロビン(酸化ヘモグロビンHbO2および還元ヘモグロビンHb)による吸光量の変化に相当する。酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの吸光係数をそれぞれεHbO2,εHbとすると、ランベルト・ベールの法則により、吸光度Aの変化量ΔAは、次式(i)で表される。
ΔA=εHbO2×[HbO2]+εHb×[Hb] ・・・(i)
【0032】
本体10の赤外線LED14による各波長λ(λa,λb,λc)の赤外光の照射時間Tを、脈動周期に相当する1秒程度として、各波長λの赤外光の照射中に本体10の赤外線カメラ15によって受光される赤外光の最大受光強度INTMAX、最小受光強度INTMINを測定することで、次式(ii)により吸光度Aの変化量ΔAを算出することができる。
ΔA=log(INTMIN/INTMAX) ・・・(ii)
【0033】
従って、各波長λa,λb,λcでの測定結果から得られる3つ(またはいずれか2つ)の連立方程式に基づいて酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの濃度[HbO2],[Hb]を算出し、次式(iii)により測定対象200のSpO2を算出することができる。
SpO2=[HbO2]/([HbO2]+[Hb]) ・・・(iii)
【0034】
図12は、制御ユニット17で実行される処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、図示しないスイッチをオンにすると開始され、所定時間毎に繰り返し実行される。まず、ステップS1で、各波長λa,λb,λcの赤外光を照射したときの、吸光度Aa,Ab,Acの変化量ΔAa,ΔAb,ΔAcを算出する。
【0035】
図13は、ステップS1の処理をより具体化したフローチャートである。図13に示すように、ステップS11で、照射制御部170での処理により、赤外線LED14aをオンして、照射強度INT0,波長λaの赤外光の照射を開始する。次いで、ステップS12で、強度算出部171での処理により、赤外線カメラ15からの光量に応じた信号に基づいて受光強度INTaを算出する。次いで、ステップS13で、赤外線LED14aをオンしてから照射時間Tが経過したか否か判断し、否定されるときはステップS12に戻る。ステップS13で肯定されるときはステップS14に進み、照射制御部170での処理により、赤外線LED14aをオフして波長λaの赤外光の照射を終了する。
【0036】
次いで、ステップS15で、強度算出部171での処理により、照射時間Tにおける最大受光強度INTaMAX、最小受光強度INTaMINを決定する。次いで、ステップS16で、吸光度変化量算出部172での処理により、吸光度Aaの変化量ΔAaを算出する。波長λb,λcについても、波長λaと同様に、図13のフローチャートの処理を順次実行し、次いで図12のステップS2に進み、SpO2算出部173での処理により、各波長λa,λb,λcの吸光度Aa,Ab,Acの変化量ΔAa,ΔAb,ΔAcに基づいて、測定対象200のSpO2を算出する。次いで、ステップS3で、SpO2の測定結果を時系列で制御ユニット17のメモリに保存する。
【0037】
なお、図12のステップS1の処理を行うのに要する時間、すなわち、3種類の波長λa,λb,λcについて、図13のステップS11〜S16の処理を行うのに要する合計時間は、1〜2秒程度とする。また、図12のステップS2〜S3の処理を行うのに要する時間は、1秒程度とする。すなわち、赤外線LED14a,14b,14cが等しい時間間隔(例えば、0.5秒程度)で1度ずつ順次点消灯した後、すべての赤外線LED14a,14b,14cが1秒程度消灯する。これにより、強度算出部171での処理により赤外線カメラ15からの光量に応じた信号に基づいて受光強度INTを算出するとき、赤外線LED14の点消灯パターンから、どの波長の赤外光が照射されているかを把握することが可能となり、赤外線カメラ15にバンドパスフィルタなどを設ける必要がない。
【0038】
第1の実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)第1の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置(装置)100は、測定対象200の血液中の酸素飽和度SpO2を測定する血中酸素飽和度測定装置であって、互いに異なる第1および第2の波長λa,λc(一例として780nm,830nm)の赤外光を照射する赤外線LED14a,14c(照射手段)と、赤外線LED14a,14cによって照射され、測定対象200の上唇部(生体)を透過した赤外光を反射する反射フィルム21(反射手段)と、反射フィルム21によって反射され、測定対象200の上唇部を透過した赤外光を受光する赤外線カメラ15(受光手段)と、赤外線カメラ15によって受光された赤外光の受光強度INT(INTa,INTc)を算出する強度算出部171と、強度算出部171によって算出された受光強度INT(INTa,INTc)の時間変化に基づいて測定対象200の上唇部による吸光度A(Aa,Ac)の変化量ΔA(ΔAa,ΔAc)を算出する吸光度変化量算出部172と、第1および第2の波長λa,λcについて吸光度変化量算出部172によって算出された吸光度変化量ΔA(ΔAa,ΔAc)に基づいて、測定対象200の血液中の酸素飽和度SpO2を算出する血中酸素飽和度算出部(SpO2算出部)173とを備える(図1,3〜8)。
【0039】
これにより、例えば、反射フィルム21を有するマウスピース20などを利用して、反射フィルム21のみを測定対象200に装着し、それ以外の赤外線LED14、赤外線カメラ15および強度、吸光度変化量、SpO2算出部171〜173は筐体(例えば、本体10など)に格納して、測定対象200から離間して設置することができる。これにより、簡易な構成で、睡眠時の測定対象200に違和感を与えることなく、測定対象200の血液中の酸素飽和度SpO2を測定することができる。また、マイクロ波などを利用しないため、装置自体の構成が簡易なものになる。
【0040】
(2)測定対象200の上顎に着脱可能に装着されるマウスピース20(例えば、透明な樹脂製の歯列矯正用マウスピース)をさらに備え、反射フィルム21は、マウスピース20の上唇側に取り付けられる(図1図8)。反射フィルム21の厚さは薄くすることができるため、測定対象200に装着させたときの装着感は一般的な歯列矯正用マウスピースと同等であり、従って、睡眠時の測定対象200に違和感を与えて睡眠を妨げることがなく、指先などの測定部位に装着する従来のパルスオキシメータに比べて、反射フィルム21を有するマウスピース20の脱落のおそれがなく、安定して測定を継続することができる。
【0041】
(3)反射フィルム21は、反射面に半球状の凹部21dを有するので(図10)、赤外線LED14によって照射された赤外光の大部分が反射面に対して垂直に入射する。これにより、反射フィルム21に対する入射角度によらず、入射した方向に反射するように、赤外光の反射方向を規制することができる。
【0042】
(4)赤外線カメラ15は、測定対象200の皮膚表面によって反射された赤外光を遮光する偏光フィルタ15p(遮光手段)を有するので(図11)、赤外線カメラ15による受光量全体に対する測定対象200の皮膚表面での反射光の割合を低減してSN比を向上させ、血液中のヘモグロビンによる吸光量に基づくSpO2の測定精度を向上させることができる。
【0043】
(5)赤外線LED14と、赤外線カメラ15と、強度算出部171と、吸光度変化量算出部172と、SpO2算出部173とは、測定対象200から離間して設置されるため(図1,3〜6)、測定対象200は反射フィルム21を有するマウスピース20のみを装着すればよく、よって違和感を感じることがない。また、電源が必要となるこれらの構成に対し、容易に電力を供給することができる。すなわち、電池や電源コードが不要となり、装置の構成を簡易にすることができる。
【0044】
(6)測定対象200から離間して設置される本体10(筐体)をさらに備え、赤外線LED14と、赤外線カメラ15と、強度算出部171と、吸光度変化量算出部172と、SpO2算出部173とは、本体10に格納される(図1,3〜6)。例えば、本体10を、口金部12を有する略電球形状とすれば、一般的な電球用のソケットから口金部12を介して容易に電力の供給を受けることができる。また、屈曲自在な可動部を有する電気スタンドを利用すれば、本体10を測定に適した向きに容易に調整することができる。さらに、電気スタンドとして、壁面取り付け式や天井取付け式、自立式、クランプ式など、ベッドサイドに設置しやすい形状のものを利用することで、本体10を測定に適した位置に容易に配置することができる。
【0045】
(7)測定対象200の上唇部の皮膚表面に着脱可能に貼り付けられる反射低減シート、または塗布可能な表面反射低減膜をさらに用いることで、皮膚表面での反射による赤外光の損失を低減し、より多くの赤外光を測定対象200の上唇部に入射させ、SpO2の測定精度を向上させることができる。
【0046】
(8)第1および第2の波長λa,λcは、近赤外領域にあり、可視光領域ではないため、測定対象200の睡眠を妨げることなく赤外光を照射してSpO2を測定することができる。
【0047】
(9)赤外線LED14は、第1および第2の波長λa,λcと異なる第3の波長λbの赤外光をさらに照射するため、赤外線LED14が照射する赤外光の波長を波長λa,λb,λcの3波長となる。これにより、波長ごとの測定結果から得られる関係式が増えて、酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの濃度[HbO2],[Hb]を算出するときの精度を高めることで、SpO2の測定精度を向上させることができる。
【0048】
−第2の実施形態−
図14〜23を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。以下では第1の実施形態との相違点を主に説明する。図14は、本発明の第2の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置(以下、装置という)100Aの概略構成を示す図である。装置100Aは、測定対象(生体)200から離間して設置される本体10Aと、生体の上顎に着脱可能に装着されるマウスピース20Aとを備え、装置100A全体として、パルスオキシメータとして機能する。第1の実施形態では本体10に赤外線LED14a〜14cを配置して赤外光を照射するように構成したが、第2の実施形態では、マウスピース20Aに赤外線LED14a〜14cを配置して赤外光を照射するように構成する。
【0049】
図15A〜15Cは、図14のマウスピース20Aの製造工程を示す斜視図、図16は、マウスピース20Aの要部断面図である。マウスピース20Aは、上唇側に左右2つの照射ユニット14UNTを有する。マウスピース20Aを製造するにあたっては、まず、図15Aに示すように、マウスピース20Aの第1層(内側の層)20aを透明な熱可塑性の樹脂で成形する。次いで、図15Bに示すように、第1層20aの上唇側に左右2つの照射ユニット14UNT(右側の照射ユニット14UNTのみ図示)を取り付ける。最後に、図15Cに示すように、第1層20aの上に第2層(外側の層)20bを樹脂で成形し、これにより、樹脂の第1層20aと第2層20bとの間に照射ユニット14UNTを介挿する。なお、照射ユニット14UNTは、一体化した第1層20aと第2層20bとによって完全に防水される。
【0050】
図15Bに示すように、照射ユニット14UNTは、ボタン型電池14BBと、プリント基板14PCBと、赤外線LED14と、スイッチ14SWと、照射制御装置14CTLとを有する。プリント基板14PCBは、ボタン型電池14BBと同じ大きさの円形であり、図示しないケーブルなどを介してボタン型電池14BBに接続されるとともに、ボタン型電池14BBの上(上唇側)に配置される。プリント基板14PCBには、赤外線LED14a,14b,14c(波長λa,λb,λc)と、赤外線LED14a〜14cのオンオフを切り替えるスイッチ14SWと、赤外線LED14a〜14cの点消灯を制御する照射制御装置14CTLとが配置される。スイッチ14SWは、可撓性を有する樹脂を介して押圧される。
【0051】
図16に示すように、測定対象200の口腔内において、照射ユニット14UNTから照射された赤外光は、測定対象200の口腔側の粘膜から上唇部に入射して透過し、その後、本体10A(図14)の赤外線カメラ15によって受光される。このため、上唇部に入射するときの反射による赤外光の損失が少なく、より精度の高いSpO2測定が可能となる。
【0052】
図17は、照射ユニット14UNTの回路図、図18は、照射ユニット14UNTの照射パターンを示す図である。照射ユニット14UNTのスイッチ14SWをオンにすると、赤外線LED14a〜14cの点消灯が開始される。図18に示すように、赤外線LED14a〜14cは、0.5秒間の点灯を順次行った後、すべての赤外線LED14a〜14cが1秒間消灯するように、照射制御装置14CTLによって制御される。
【0053】
図19は、本体10Aの斜視図、図20は、本体10Aの断面図である。図20に示すように、筐体11内には、赤外線カメラ15と、白色LED16と、制御ユニット17Aとが配置され、口金部12および図示しないケーブルなどを介してこれらに外部から電力が供給される。赤外線カメラ15は、図示しないケーブルなどを介して制御ユニット17Aに接続される。赤外線カメラ15は、マウスピース20Aの赤外線LED14a〜14cによって照射された赤外光を受光して光量を検出し、光量に応じた信号を制御ユニット17Aに送信する。
【0054】
図21は、制御ユニット17Aの構成を示すブロック図である。制御ユニット17Aには、赤外線カメラ15が接続される。制御ユニット17Aは、CPU,ROM,RAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含むコンピュータにより構成される。制御ユニット17Aは、機能的構成として、赤外線カメラ15が受光した赤外光の波長を判定する波長判定部170Aと、受光強度INT(INTa,INTb,INTc)を算出する強度算出部171と、吸光度Aの変化量ΔAを算出する吸光度変化量算出部172と、SpO2を算出する血中酸素飽和度算出部(SpO2算出部)173とを有する。
【0055】
波長判定部170Aは、赤外線カメラ15が受光した赤外光の光量に応じた信号に基づいて、赤外光の点消灯パターンから、赤外線カメラ15が受光した赤外光の波長を判定する。波長λa〜λcの赤外光を照射する赤外線LED14a〜14cは、照射制御装置14CTLにより、図18に示すように、0.5秒間の点灯を順次行った後、すべての赤外線LED14a〜14cが1.0秒間消灯するように制御される。従って、消灯後0秒〜0.5秒は波長λa、消灯後0.5秒〜1.0秒は波長λb、消灯後1.0秒〜1.5秒は波長λcと判定することができる。すなわち、赤外線LED14a〜14cの点消灯パターンから、どの波長の赤外光が照射されているかを把握することが可能となり、赤外線カメラ15にバンドパスフィルタなどを設ける必要がない。
【0056】
図22は、制御ユニット17Aで実行される処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、図示しないスイッチをオンにすると開始され、所定時間毎に繰り返し実行される。まず、ステップS100で、マウスピース20Aの照射ユニット14UNTから各波長λa,λb,λcの赤外光を照射したときの、吸光度Aa,Ab,Acの変化量ΔAa,ΔAb,ΔAcを算出する。
【0057】
図23は、ステップS100の処理をより具体化したフローチャートである。図23に示すように、ステップS101で、波長判定部170Aでの処理により、赤外線カメラ15が受光した赤外光の波長が波長λaか否かを判定する。ステップS101は肯定されるまで繰り返される。ステップS101が肯定されるとステップS102に進み、受光強度INTaを算出する。次いで、ステップS103で、強度算出部171での処理により、照射時間Tにおける最大受光強度INTaMAX、最小受光強度INTaMINを決定する。次いで、ステップS104で、吸光度変化量算出部172での処理により、吸光度Aaの変化量ΔAaを算出する。
【0058】
波長λb,λcについても、波長λaと同様に、図23のフローチャートの処理を実行する。次いで図22のステップS200に進み、SpO2算出部173での処理により、各波長λa,λb,λcの吸光度Aa,Ab,Acの変化量ΔAa,ΔAb,ΔAcに基づいて、測定対象200のSpO2を算出する。次いで、ステップS300で、SpO2の測定結果を時系列で制御ユニット17Aのメモリに保存する。
【0059】
第2の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置(装置)100Aは、第1および第2の波長λa,λcの赤外光を照射する赤外線LED14a,14c(照射手段)が、マウスピース20Aに取り付けられる。これにより、測定対象200の口腔内において、マウスピース20Aに取り付けられた赤外線LED14a,14cによって照射された赤外光は、測定対象200の口腔側の粘膜から上唇部に入射して透過し、赤外線カメラ15によって受光されるため、上唇部に入射するときの反射による赤外光の損失が少なく、精度の高いSpO2測定が可能となる。
【0060】
−第3の実施形態−
図24〜28を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。以下では第2の実施形態との相違点を主に説明する。図24は、本発明の第3の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置(以下、装置という)100Bの概略構成を示す図である。装置100Bは、測定対象(生体)200から離間して設置される本体10Aと、生体の上顎および下顎に着脱可能に装着されるマウスピース20Bとを備え、装置100B全体として、パルスオキシメータとして機能する。第3の実施形態のマウスピース20Bは、睡眠時無呼吸状態の発生を抑制するための治療用マウスピースとしても機能する。
【0061】
図25は、マウスピース20Bの斜視図である。マウスピース20Bは、測定対象200の上顎に着脱可能に装着される上顎用マウスピース20BUと、測定対象200の下顎に着脱可能に装着される下顎用マウスピース20BLとで構成される。下顎用マウスピース20BLは、左右両側から上顎側に突出する山型の突起22を有する。上顎用マウスピース20BUは、測定対象200の上顎に対する下顎の動きに沿って下顎用マウスピース20BLの突起22が摺接するための、突起受け23を有する。図25に示すように、突起受け23は、上面視において略等脚台形状を呈する筒状壁で構成される。
【0062】
図25に示すように、突起22と突起受け23とは、測定対象200の下顎を前進位置に規制するように配置される。突起22および突起受け23は、マウスピース本体(第1層20a、第2層20b)よりも強度の高い樹脂で構成される。マウスピース20Bを上下顎に装着した場合は、睡眠中も常に下顎が前進位置に規制されることで気道が確保されるため、マウスピース20Bは睡眠時無呼吸状態の発生を抑制するための治療用マウスピースとしても機能する。
【0063】
図26は、上顎用マウスピース20BUの部分断面図である。図25,26に示すように、上顎用マウスピース20BUの第1層20aと第2層20bとの間には、突起受け23と照射ユニット14UNTとが介挿される。照射ユニット14UNTのボタン型電池14BB、プリント基板14PCB、スイッチ14SW、照射制御装置14CTLは、突起受け23の内側に配置される。照射ユニット14UNTの赤外線LED14は、上顎用マウスピース20BUの前方上唇側に配置され、リード線14LWによってプリント基板14PCBに接続される。
【0064】
図27は、マウスピース20Bに類似する、治療用マウスピース20B’の斜視図、図28は、治療用上顎用マウスピース20BU’の部分断面図である。装置100B(パルスオキシメータ)を長期間使用せず、治療用にマウスピースのみを継続的に使用する場合には、図27,28に示すような治療用マウスピース20B’を使用する。図27,28に示すように、治療用マウスピース20B’の治療用上顎用マウスピース20BU’は、照射ユニット14UNTを有さない。突起受け23の内側には、照射ユニット14UNTのボタン型電池14BB、プリント基板14PCB、スイッチ14SW、照射制御装置14CTLに代えて、略台形柱状の治療用アタッチメント24が配置される。治療用アタッチメント24は、突起受け23と同様の、マウスピース本体よりも強度の高い樹脂で構成される。治療用上顎用マウスピース20BU’は、治療用アタッチメント24を使用するため、電池などを口腔内に入れる必要がなく、突起受け23の強度を高めることができる。
【0065】
第3の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置(装置)100Bは、上顎用マウスピース20BUに加え、下顎用マウスピース20BLをさらに備え、下顎用マウスピース20BLは上顎側に突出する突起22を有し、上顎用マウスピース20BUは上顎に対する下顎の動きに沿って突起22が摺接すべき突起受け23を有し、突起22と突起受け23とは、下顎を前進位置に規制するように配置される。測定対象200がマウスピース20Bを上下顎に装着することで、睡眠中も常に下顎が前進位置に規制されることで気道が確保されるため、睡眠時無呼吸状態の発生を抑制することができる。
【0066】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0067】
10,10A 本体、14(14a,14b,14c) 赤外線LED(発光ダイオード)、15 赤外線カメラ、17,17A 制御ユニット、20,20A,20B マウスピース、20BL 下顎用マウスピース、20BU 上顎用マウスピース、21 反射フィルム、22 突起、23 突起受け、170 照射制御部、170A 波長判定部、171 強度算出部、172 吸光度変化量算出部、173 SpO2算出部、100,100A,100B 血中酸素飽和度測定装置(装置)、200 測定対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28