特許第6853712号(P6853712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853712
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】血中酸素飽和度測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   A61B5/1455
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-64066(P2017-64066)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-164706(P2018-164706A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】515290343
【氏名又は名称】医療法人社団皓有会
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】小山 和泉
【審査官】 ▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0006098(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/100577(WO,A1)
【文献】 特表2016−514992(JP,A)
【文献】 特開2004−194908(JP,A)
【文献】 特開2006−326153(JP,A)
【文献】 特開平07−246191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145 − 5/1495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の血液中の酸素飽和度を測定する血中酸素飽和度測定装置であって、
前記生体の上顎に着脱可能に装着される上顎用マウスピースと、
前記上顎用マウスピースに取り付けられ、互いに異なる第1および第2の波長の光を照射する照射部と、
前記照射部によって照射され、前記生体の上唇部を透過した前記光を受光する、赤外線カットフィルタが除去されたRGBカメラの受光部と、
前記受光部によって受光された前記光の波長を判定する波長判定部と、
前記受光部によって受光された前記光の受光強度を算出する強度算出部と、
前記強度算出部によって算出された前記受光強度の時間変化に基づいて前記生体による吸光度の変化量を算出する吸光度変化量算出部と、
前記波長判定部によって判定された前記光の波長と、前記吸光度変化量算出部によって算出された前記吸光度の変化量と、に基づいて、前記生体の血液中の酸素飽和度を算出する血中酸素飽和度算出部と、
前記受光部、前記波長判定部、前記強度算出部、前記吸光度変化量算出部および前記血中酸素飽和度算出部を格納する筐体と、を備え
前記筐体は、室内に固定的に配置された部材に、前記受光部が前記生体に面するように取り付けられることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記筐体は、室内で就寝中の前記生体の頭上に配置され、室内の壁に支持されることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記照射部が所定の点消灯パターンで前記第1および第2の波長の光を照射するように制御する照射制御部をさらに備え、
前記波長判定部は、前記所定の点消灯パターンに基づいて、前記受光部によって受光された前記光の波長を判定することを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記生体の下顎に着脱可能に装着される下顎用マウスピースをさらに備え、
前記下顎用マウスピースは、左右両側に、前記下顎用マウスピースが前記生体の下顎に装着されたとき、前記生体の上顎側に突出する1対の突起を有し、
前記上顎用マウスピースは、左右両側に、前記下顎用マウスピースが前記生体の下顎に装着され、前記上顎用マウスピースが前記生体の上顎に装着されたとき、前記生体の上顎に対する下顎の動きに沿って前記1対の突起が摺接すべき1対の突起受けを有し、
前記1対の突起と前記1対の突起受けとは、前記下顎用マウスピースが前記生体の下顎に装着され、前記上顎用マウスピースが前記生体の上顎に装着されたとき、前記生体の下顎を前進位置に規制するように配置されることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記第1および第2の波長は、近赤外領域にあることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の血中酸素飽和度測定装置において、
前記照射部は、前記第1および第2の波長と異なる第3の波長の光をさらに照射することを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の血中酸素飽和度を測定する血中酸素飽和度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血中酸素飽和度測定装置としては、赤色から近赤外の異なる2つの波長の光を生体に投影して検出し、それに基づいて、生体を拘束することなく、生体情報を検出するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−000743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、光を生体に投影して測定を行うため、暗所で睡眠中の生体に光を投影することで、生体に眩しさなどの違和感を与えて睡眠を妨げるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、生体の血液中の酸素飽和度を測定する血中酸素飽和度測定装置であって、生体の上顎に着脱可能に装着される上顎用マウスピースと、上顎用マウスピースに取り付けられ、互いに異なる第1および第2の波長の光を照射する照射部と、照射部によって照射され、生体の上唇部を透過した光を受光する、赤外線カットフィルタが除去されたRGBカメラの受光部と、受光部によって受光された光の波長を判定する波長判定部と、受光部によって受光された光の受光強度を算出する強度算出部と、強度算出部によって算出された受光強度の時間変化に基づいて生体による吸光度の変化量を算出する吸光度変化量算出部と、波長判定部によって判定された光の波長と、吸光度変化量算出部によって算出された吸光度の変化量と、に基づいて、生体の血液中の酸素飽和度を算出する血中酸素飽和度算出部と、受光部、波長判定部、強度算出部、吸光度変化量算出部および血中酸素飽和度算出部を格納する筐体と、を備える。筐体は、室内に固定的に配置された部材に、受光部が生体に面するように取り付けられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上顎用マウスピースに取り付けられた照射部によって照射されて生体を透過した光に基づいて血中酸素飽和度を測定するので、睡眠時の生体に違和感を与えることなく、生体の血液中の酸素飽和度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置の全体構成を示す概略図。
図2】ヘモグロビンによる近赤外光の吸収スペクトルを示す図。
図3図1に示す本体の斜視図。
図4図1に示す本体の断面図。
図5図1に示すマウスピースの斜視図。
図6図1に示すマウスピースの部分断面図。
図7図5に示すマウスピースに類似する、治療用マウスピースの斜視図。
図8図7に示す治療用上顎用マウスピースの部分断面図。
図9】上唇部を説明するための図。
図10】上唇部を説明するための断面図。
図11図5に示す照射ユニットの回路図。
図12図5に示す照射ユニットの照射パターンを示す図。
図13図4に示す制御ユニットの構成を示すブロック図。
図14図4に示す制御ユニットで実行される処理の一例を示すフローチャート。
図15図14のステップS1の処理をより具体化したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図15を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置(以下、装置という)100の概略構成を示す図である。装置100は、生体(人間)、特に就寝中の生体の血液中の酸素飽和度(SpO2)を測定し、睡眠時無呼吸によって起こり得るSpO2の低下を監視するために用いられる。装置100は、測定対象(生体)200から離間して設置される本体10と、生体の上顎および下顎に着脱可能に装着されるマウスピース20とを備え、装置100全体として、パルスオキシメータとして機能する。マウスピース20は、睡眠時無呼吸状態の発生を抑制するための治療用マウスピースとしても機能する。
【0009】
図2は、ヘモグロビンによる近赤外光の吸収スペクトルを示す図である。パルスオキシメータは、血液中のヘモグロビンが酸素を含むとき(酸化ヘモグロビンHbO2)と酸素を含まないとき(還元ヘモグロビンHb)とで光の吸収特性が異なることを利用し、異なる2つ以上の波長の光についての生体を透過させたときの透過率からSpO2を測定する装置である。装置100は、生体を透過しやすい波長領域(生体の窓)の光から、異なる2つ以上の波長の光を利用する。
【0010】
従来、パルスオキシメータでは、図2に示すような780nm、805nm、830nmなどの、近赤外領域の波長の光が使用されている。ところで、一般的なRGBカメラに使用される撮像センサは1100nm程度までの波長の光を検出することができるが、可視光と赤外光とが混在することでカラーバランスが崩れるのを防ぐために、通常のRGBカメラには赤外線カットフィルタが使用されている。従って、赤外線カットフィルタを除去したRGBカメラを使用することで、近赤外領域の波長の光を検出することができる。
【0011】
図3は、本体10の斜視図である。本体10は、略電球形状の筐体11を備える。筐体11は、一端部において、ねじ部12aが形成された導電性の口金部12を有する。ねじ部12aは、例えば壁面300に取り付けられたスタンド301の先端部のソケット302に螺合され、口金部12を介して本体10に電力が供給される。スタンド301は屈曲自在な可動部303を有し、可動部303を介して本体10の向きを調整することができる。スタンド301は、壁面取り付け式以外にも、天井取付け式や自立式、クランプ式などでもよく、ベッドサイドに設置しやすい形状が適する。筐体11の他端部には、透光性を有する樹脂材により構成されるカバー13が取り付けられる。
【0012】
図4は、本体10の断面図である。図示のように、筐体11内には、後述するLED(発光ダイオード)から照射される光を受光するカメラ15と、白色LED16と、カメラ15の動作などを制御する制御ユニット17とが配置され、口金部12および図示しないケーブルなどを介してこれらに外部から電力が供給される。カメラ15は、図示しないケーブルなどを介して制御ユニット17に接続される。
【0013】
カメラ15は、受光した光の光量を検出し、光量に応じた信号を制御ユニット17に送信する。また、カメラ15は、測定対象200の顔を認識して上顎の位置(向き)を特定し、その情報を制御ユニット17に送信する。カメラ15としては、例えば5〜10倍程度の光学ズーム機能を有する通常のRGBカメラを、赤外線カットフィルタを除去して使用する。カメラ15は、図4に示すように、レンズ部(受光面)がカバー13の表面と平行となるように、本体10の中央に配置される。カメラ15は、図4に示すように、受光面がカバー13に固定され、本体部15aが筐体11に設けられたレール11aに沿って筐体11の長さ方向(矢印で示す)に移動可能であり、これにより、倍率を適宜調整することができる。
【0014】
白色LED16は、例えば、高輝度白色LEDにより構成される。白色LED16は、照射面がカバー13の表面と平行となるように、筐体11の周方向に配置される。なお、白色LED16は、SpO2の測定には直接関係しないため、本体10は必ずしも白色LED16を備える必要はない。従って、照明としての機能は不要であり、本体10の形状も略電球形状に限定されるものではない。
【0015】
図5は、図1のマウスピース20の斜視図である。マウスピース20は、測定対象200の上顎に着脱可能に装着される上顎用マウスピース20Uと、測定対象200の下顎に着脱可能に装着される下顎用マウスピース20Lとで構成される。下顎用マウスピース20Lは、左右両側から上顎側に突出する山型の突起22を有する。上顎用マウスピース20Uは、測定対象200の上顎に対する下顎の動きに沿って下顎用マウスピース20Lの突起22が摺接するための、突起受け23を有する。図5に示すように、突起受け23は、上面視において略等脚台形状を呈する筒状壁で構成される。
【0016】
図5に示すように、突起22と突起受け23とは、測定対象200の下顎を前進位置に規制するように配置される。突起22および突起受け23は、マウスピース本体よりも強度の高い樹脂で構成される。マウスピース20を上下顎に装着した場合は、睡眠中も常に下顎が前進位置に規制されることで気道が確保されるため、マウスピース20は睡眠時無呼吸状態の発生を抑制するための治療用マウスピースとしても機能する。なお、治療用マウスピースとしての機能はSpO2の測定には直接関係しないため、マウスピース20は必ずしも下顎用マウスピース20Lを備える必要はない。
【0017】
図6は、上顎用マウスピース20Uの部分断面図である。上顎用マウスピース20Uの本体は、例えば、透明な熱可塑性の樹脂で構成され、厚さ0.5〜0.8mm程度の歯列矯正用マウスピースを用いることができる。上顎用マウスピース20Uを製造するにあたっては、まず、上顎用マウスピース20Uの第1層(内側の層)20aを透明な熱可塑性の樹脂で成形する。次いで、第1層20aの上唇側に、突起受け23と照射ユニット24UNTとを取り付ける。最後に、第1層20aの上に第2層(外側の層)20bを樹脂で成形し、これにより、図6に示すように、樹脂の第1層20aと第2層20bとの間に突起受け23および照射ユニット24UNTを介挿する。なお、突起受け23および照射ユニット24UNTは、一体化した第1層20aと第2層20bとによって完全に防水される。
【0018】
図5,6に示すように、照射ユニット24UNTは、ボタン型電池24BBと、プリント基板24PCBと、LED24と、LED24のオンオフを切り替えるスイッチ24SWと、LED24の点消灯を制御する照射制御装置24CTLとを有する。プリント基板24PCBは、ボタン型電池24BBと同じ大きさの円形であり、図示しないケーブルなどを介してボタン型電池24BBに接続されるとともに、ボタン型電池24BBの上(上唇側)に配置される。プリント基板24PCB上には、スイッチ24SWおよび照射制御装置24CTLが搭載される。ボタン型電池24BBおよびプリント基板24PCBは、突起受け23の内側に配置される。LED24は、上顎用マウスピース20Uの上唇側前方に配置され、リード線24LWによってプリント基板24PCBに接続される。スイッチ24SWは、可撓性を有する樹脂(上顎用マウスピース20Uの第2層20b)を介して押圧される。
【0019】
図5に示すように、LED24は複数のLED24a,24b,24cを有する。LED24a,24b,24cが照射する光の波長λa,λb,λcは、例えば、780nm,805nm,830nmである(図2参照)。LED24a,24b,24cが照射する光の照射強度INT0は一定である。LED24が照射する光の波長として互いに異なる3種類の波長λa,λb,λcを設定することで、2種類の場合よりも波長ごとの測定結果から得られる関係式が増える。このため、酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの%濃度[HbO2],[Hb]を算出するときの精度を高めることができ、SpO2の測定精度を向上させることができる。なお、LED24が少なくとも2種類の波長の光を照射できればSpO2の測定は可能であるため、LED24a,24cの2つのみを使用するようにしてもよい。
【0020】
図7は、マウスピース20に類似する、治療用マウスピース20’の斜視図、図8は、治療用上顎用マウスピース20U’の部分断面図である。装置100(パルスオキシメータ)を長期間使用せず、治療用にマウスピースのみを継続的に使用する場合には、図7,8に示すような治療用マウスピース20’を使用する。図7,8に示すように、治療用マウスピース20’の治療用上顎用マウスピース20U’は、照射ユニット24UNTを有さない。突起受け23の内側には、照射ユニット24UNTのボタン型電池24BB、プリント基板24PCB、スイッチ24SW、照射制御装置24CTLに代えて、略台形柱状の治療用アタッチメント25が配置される。治療用アタッチメント25は、突起受け23と同様の、マウスピース本体よりも強度の高い樹脂で構成される。治療用上顎用マウスピース20U’は、治療用アタッチメント25を使用するため、電池などを口腔内に入れる必要がなく、突起受け23の強度を高めることができる。
【0021】
図9,10は、上唇部を説明するための図である。本明細書では、図9に斜線で示すように、上唇と鼻との間の部分を「上唇部」と称する。図10に示すように、上唇部の裏側には上顎の歯や歯茎があり、上唇部は指などと比べて薄い。このため、上唇部には容易に光を透過させることができる。また、上唇部には、上唇動脈や毛細血管などの血管が走行している。測定対象200の上唇部の口腔側には、測定対象200の上顎に装着された上顎用マウスピース20UのLED24の照射面が位置する。
【0022】
上顎用マウスピース20UのLED24によって照射された光は、測定対象200の上唇部を透過して、本体10のカメラ15によって受光される。なお、本体10は、可動部303(図1)を介して、本体10のカメラ15の受光面が上顎用マウスピース20UのLED24の照射面と向き合うように、すなわち、測定対象200の上唇部に向かうように、向きを調整される。
【0023】
測定対象200の口腔内において、上顎用マウスピース20UのLED24によって照射された光は、測定対象200の口腔側の粘膜から上唇部に入射する。測定対象200の上唇部に入射した光は、測定対象200の体内で散乱するとともに、血液中の酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHb、血液以外の組織によって吸収されながら、測定対象200の上唇部を透過して、散乱や吸収によって失われなかった一部の光が本体10(図1)のカメラ15に到達して受光される。粘膜は角質層がない、あるいは角質層が極薄いため、粘膜表面では正反射が起こりにくい。よって、口腔側から照射される光の大部分は粘膜表面で正反射することなく上唇部に入射するため、精度の高いSpO2測定が可能となる。
【0024】
脈動周期のようなごく短い時間では、反射や散乱、血液以外の組織による吸収によって失われる光の割合はほぼ一定である。すなわち、1秒程度の脈動周期で測定される吸光度Aの変化量ΔAは、測定対象200の上唇部を流れる血液中のヘモグロビン(酸化ヘモグロビンHbO2および還元ヘモグロビンHb)による吸光量の変化に相当する。酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの吸光係数をそれぞれεHbO2,εHbとすると、ランベルト・ベールの法則により、吸光度Aの変化量ΔAは、次式(i)で表される。
ΔA=εHbO2×[HbO2]+εHb×[Hb] ・・・(i)
【0025】
上顎用マウスピース20UのLED24による各波長λ(λa,λb,λc)の光の照射時間Tを、脈動周期に相当する1秒程度として、各波長λの光の照射中に本体10のカメラ15によって受光される光の最大受光強度INTMAX、最小受光強度INTMINを測定することで、次式(ii)により吸光度Aの変化量ΔAを算出することができる。
ΔA=log(INTMIN/INTMAX) ・・・(ii)
【0026】
従って、各波長λa,λb,λcでの測定結果から得られる3つ(またはいずれか2つ)の連立方程式に基づいて酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの濃度[HbO2],[Hb]を算出し、次式(iii)により測定対象200のSpO2を算出することができる。
SpO2=[HbO2]/([HbO2]+[Hb]) ・・・(iii)
【0027】
図11は、図5に示す照射ユニット24UNTの回路図、図12は、照射ユニット24UNTの照射パターンを示す図である。照射ユニット24UNTのスイッチ24SWをオンにすると、波長λa,λb,λcの光を照射するLED24a,24b,24cの点消灯が開始される。図12に示すように、LED24a,24b,24cは、0.5秒間の点灯を順次行った後、すべてのLED24a,24b,24cが1.0秒間消灯するように、照射制御装置24CTLによって制御される。
【0028】
図13は、制御ユニット17の構成を示すブロック図である。制御ユニット17には、図示しないケーブルなどを介してカメラ15が接続される。制御ユニット17は、カメラ15から受光量に応じた信号を受信する。また、制御ユニット17は、カメラ15から測定対象200の上顎の位置(向き)の情報を受信する。制御ユニット17は、CPU,ROM(メモリ),RAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含むコンピュータにより構成される。制御ユニット17は、機能的構成として、カメラ15が受光した光の波長を判定する波長判定部170と、カメラ15が受光した光量に応じた信号に基づき、各波長λ(λa,λb,λc)の受光強度INT(INTa,INTb,INTc)を算出する強度算出部171と、強度算出部171によって算出された受光強度INT(INTa,INTb,INTc)の時間変化に基づき、各波長λ(λa,λb,λc)の吸光度A(Aa,Ab,Ac)の変化量ΔA(ΔAa,ΔAb,ΔAc)を算出する吸光度変化量算出部172と、吸光度変化量算出部172によって算出された吸光度の変化量ΔA(ΔAa,ΔAb,ΔAc)に基づいてSpO2を算出する血中酸素飽和度算出部(SpO2算出部)173とを有する。
【0029】
波長判定部170は、カメラ15が受光した光の光量に応じた信号に基づいて、光の点消灯パターンから、カメラ15が受光した光の波長を判定する。波長λa,λb,λcの光を照射するLED24a,24b,24cは、照射制御装置24CTLにより、図12に示すように、0.5秒間の点灯を順次行った後、すべてのLED24a,24b,24cが1.0秒間消灯するように制御される。従って、1.0秒間の消灯後、0秒〜0.5秒は波長λa、0.5秒〜1.0秒は波長λb、1.0秒〜1.5秒は波長λcと判定することができる。LED24a,24b,24cの点消灯パターンから、どの波長の光が照射されているかを把握することが可能となるため、カメラ15にバンドパスフィルタなどを設ける必要がない。
【0030】
図14は、制御ユニット17で実行される処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、図示しないスイッチをオンにすると開始され、所定時間毎に繰り返し実行される。まず、ステップS1で、上顎用マウスピース20Uの照射ユニット24UNTから各波長λa,λb,λcの光を照射したときの、吸光度Aa,Ab,Acの変化量ΔAa,ΔAb,ΔAcを算出する。
【0031】
図15は、ステップS1の処理をより具体化したフローチャートである。図15に示すように、ステップS10で、波長判定部170での処理により、カメラ15が受光した光の波長が波長λaか否かを判定する。ステップS10は肯定されるまで繰り返される。ステップS10が肯定されるとステップS11に進み、強度算出部171での処理により、受光強度INTaを算出する。次いで、ステップS12で、強度算出部171での処理により、照射時間Tにおける最大受光強度INTaMAX、最小受光強度INTaMINを決定する。次いで、ステップS13で、吸光度変化量算出部172での処理により、吸光度Aaの変化量ΔAaを算出する。
【0032】
波長λb,λcについても、波長λaと同様に、図15のフローチャートと同様の処理を実行する。次いで図14のステップS2に進み、SpO2算出部173での処理により、各波長λa,λb,λcの吸光度Aa,Ab,Acの変化量ΔAa,ΔAb,ΔAcに基づいて、測定対象200のSpO2を算出する。次いで、ステップS3で、SpO2の測定結果を時系列で制御ユニット17のメモリに保存する。
【0033】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)血中酸素飽和度測定装置(装置)100は、測定対象200の血液中の酸素飽和度SpO2を測定する装置であって、測定対象200の上顎に着脱可能に装着される上顎用マウスピース20Uと、上顎用マウスピース20Uに取り付けられ、互いに異なる第1および第2の波長λa,λc(一例として780nm,830nm)の光を照射するLED24(24a,24c)と、LED24によって照射され、測定対象200の上唇部を透過した光を受光する、赤外線カットフィルタが除去されたRGBカメラ15と、カメラ15によって受光された光の波長を判定する波長判定部170と、カメラ15によって受光された光の受光強度INT(INTa,INTc)を算出する強度算出部171と、強度算出部171によって算出された受光強度INTの時間変化に基づいて測定対象200の上唇部による吸光度A(Aa,Ac)の変化量ΔA(ΔAa,ΔAc)を算出する吸光度変化量算出部172と、波長判定部170によって判定された光の波長λa,λcと、吸光度変化量算出部172によって算出された吸光度の変化量ΔAとに基づいて、測定対象200の血液中の酸素飽和度SpO2を算出する血中酸素飽和度算出部(SpO2算出部)173とを備える(図1図3図5図13)。
【0034】
すなわち、SpO2測定用の光を測定対象200に向けて照射するのではなく、測定対象200が装着する上顎用マウスピース20UのLED24から照射するため、眩しさなどの違和感を与えるがことなく睡眠時の測定対象200のSpO2を測定することができる。また、赤外線カメラではなく、赤外線カットフィルタを除去した通常のRGBカメラを使用するため、赤外線カメラに比して安価で高精度のRGBカメラを使用することで装置100全体として低コストで高精度にすることができる。また、LED24によって照射された光は測定対象200の口腔側の粘膜から上唇部に入射するため、測定対象200の皮膚側から光を照射する場合に比して反射による光の損失が少なく、精度の高いSpO2測定が可能となる。
【0035】
(2)カメラ15と制御ユニット17(波長判定部170、強度算出部171、吸光度変化量算出部172、SpO2算出部173)とは、測定対象200から離間して設置される(図1図3図4)。測定対象200は大きさや重量のあるカメラ15や制御ユニットを装着する必要がないため、睡眠時の測定対象200に違和感を与えることなくSpO2を測定することができる。
【0036】
(3)装置100は、測定対象200から離間して設置される本体10に筐体11を備え、カメラ15と制御ユニット17(波長判定部170、強度算出部171、吸光度変化量算出部172、SpO2算出部173)とは、筐体11に格納される(図1図3図4)。例えば、筐体11を、口金部12を有する略電球形状とすれば、一般的な電球用のソケットから口金部12を介して容易に電力の供給を受けることができる。また、屈曲自在な可動部303を有するスタンド301を利用すれば、本体10を測定に適した向きに容易に調整することができる。さらに、スタンド301として、壁面取り付け式や天井取付け式、自立式、クランプ式など、ベッドサイドに設置しやすい形状のものを利用することで、本体10を睡眠時の測定対象200を測定するのに適した位置に容易に配置することができる。
【0037】
(4)装置100は、LED24a,24cが所定の点消灯パターンで第1および第2の波長λa,λcの光を照射するように制御する照射制御装置24CTLをさらに備え、波長判定部170は、所定のパターンに基づいて、カメラ15によって受光された光の波長を判定する(図5図11図12)。LED24a,24cの点消灯パターンから、どの波長の光が照射されているかを把握することが可能となるため、カメラ15にバンドパスフィルタなどを設ける必要がない。
【0038】
(5)装置100は、測定対象200の下顎に着脱可能に装着される下顎用マウスピース20Lをさらに備え、下顎用マウスピース20Lは、左右両側に、下顎用マウスピース20Lが測定対象200の下顎に装着されたとき、測定対象200の上顎側に突出する1対の突起22を有し、上顎用マウスピース20Uは、左右両側に、下顎用マウスピース20Lが測定対象200の下顎に装着され、上顎用マウスピース20Uが測定対象200の上顎に装着されたとき、測定対象200の上顎に対する下顎の動きに沿って1対の突起22が摺接すべき1対の突起受け23を有し、1対の突起22と1対の突起受け23とは、下顎用マウスピース20Lが測定対象200の下顎に装着され、上顎用マウスピース20Uが測定対象200の上顎に装着されたとき、測定対象200の下顎を前進位置に規制するように配置される。測定対象200がマウスピース20U,20Lを上下顎に装着することで、睡眠中も常に下顎が前進位置に規制されて気道が確保されるため、睡眠時無呼吸状態の発生を抑制することができる。
【0039】
(6)第1および第2の波長λa,λcは、近赤外領域にあり、可視光領域ではない。このため、測定対象200が上唇部を介してLED24の点消灯を視認することがなく、測定対象200の睡眠を妨げることなく光を照射してSpO2を測定することができる。
【0040】
(7)LED24は、第1および第2の波長λa,λcと異なる第3の波長λbの光をさらに照射する。これにより、LED24が照射する光の波長はλa,λb,λcの3波長となり、波長ごとの測定結果から得られる関係式が増えて、酸化ヘモグロビンHbO2、還元ヘモグロビンHbの濃度[HbO2],[Hb]を算出するときの精度を高めることで、SpO2の測定精度を向上させることができる。
【0041】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 本体、11 筐体、15 カメラ、17 制御ユニット、20 マウスピース、20L 下顎用マウスピース、20U 上顎用マウスピース、22 突起、23 突起受け、24(24a,24b,24c) LED(発光ダイオード)、24CTL 照射制御装置、170 波長判定部、171 強度算出部、172 吸光度変化量算出部、173 血中酸素飽和度算出部(SpO2算出部)、100 血中酸素飽和度測定装置(装置)、200 測定対象
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