特許第6853725号(P6853725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853725
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】免震支持装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20210322BHJP
   F16F 1/40 20060101ALI20210322BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   F16F15/04 P
   F16F1/40
   F16F15/02 Z
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-83783(P2017-83783)
(22)【出願日】2017年4月20日
(65)【公開番号】特開2018-179255(P2018-179255A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河内山 修
(72)【発明者】
【氏名】細野 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】長弘 健太
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−315884(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3205393(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
F16F 1/40
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた複数の中空部にそれぞれ配置された複数の振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと振動減衰体が未配置であって積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように振動減衰体が中空部に配されており、前記複数の振動減衰体は、比Pr/P0と、比Vp/Veとの少なくとも何れか一方が他と異なる振動減衰体を1つ以上含んでいる免震支持装置。
【請求項2】
交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた複数の中空部に当該弾性層及び剛性層並びに上板及び下板に対して隙間なしにそれぞれ配置された複数の振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと振動減衰体が未配置であって積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように振動減衰体が中空部に配されており、前記複数の振動減衰体は、比Pr/P0と、比Vp/Veとの少なくとも何れか一方が他と異なる振動減衰体を1つ以上含んでいる免震支持装置。
【請求項3】
交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた複数の中空部にそれぞれ配置された複数の振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持すると共に下板に対しての上板の積層方向に直交する方向の振動を振動減衰体の塑性変形で減衰させる一方、下板の積層方向に直交する方向の振動の上板への伝達を積層体の剪断弾性変形で抑制するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと振動減衰体が未配置であって積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように振動減衰体が中空部に配されており、前記複数の振動減衰体は、比Pr/P0と、比Vp/Veとの少なくとも何れか一方が他と異なる振動減衰体を1つ以上含んでいる免震支持装置。
【請求項4】
交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた複数の中空部に当該弾性層及び剛性層並びに上板及び下板に対して隙間なしにそれぞれ配置された複数の振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持すると共に下板に対しての上板の積層方向に直交する方向の振動を振動減衰体の塑性変形で減衰させる一方、下板の積層方向に直交する方向の振動の上板への伝達を積層体の剪断弾性変形で抑制するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと、振動減衰体が未配置であって、積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように振動減衰体が中空部に配されており、前記複数の振動減衰体は、比Pr/P0と、比Vp/Veとの少なくとも何れか一方が他と異なる振動減衰体を1つ以上含んでいる免震支持装置。
【請求項5】
比Pr/P0が、1.00を超える(比Pr/P0>1.00)ように又は1.09以上(比Pr/P0≧1.09)、2.02以上(比Pr/P0≧2.02)若しくは2.50以上(比Pr/P0≧2.50)となるように、振動減衰体が中空部に配されている請求項1から4のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項6】
比Pr/P0が、5.90以下(比Pr/P0≦5.90)となるように、振動減衰体が中空部に配されている請求項1から5のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項7】
比Vp/Veが1.07以下(比Vp/Ve≦1.07)となるように、振動減衰体が中空部に配されている請求項1から6のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項8】
振動減衰体は、塑性変形で振動エネルギを吸収する減衰材料からなる請求項1から7のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項9】
減衰材料は、鉛、錫又は非鉛系低融点合金からなる請求項8に記載の免震支持装置。
【請求項10】
中空部を規定する積層体の内周面は、振動減衰体が弾性層に食い込んで、当該弾性層の位置で凹面になっている請求項1から9のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項11】
中空部を規定する積層体の内周面は、振動減衰体が弾性層に食い込んで、剛性層の位置で凸面になっている請求項1から10のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項12】
積層方向において最上位の剛性層は、その上面で開口していると共に中空部の上部の径よりも大きな径をもって当該中空部の上部に連通した第一の凹所を有しており、上板は、第一の凹所の径と同一の径をもって積層方向において第一の凹所に対面した第二の凹所を下面に有した上部フランジ板と、この第二の凹所において上部フランジ板に嵌着されている一方、第一の凹所において最上位の剛性層に嵌着されている上部剪断キーとを具備しており、振動減衰体の上端部の外周面は、中空部の上部を規定する最上位の剛性層の内周面に隙間なしに接触している請求項1から11のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項13】
積層方向において最下位の剛性層は、その下面で開口していると共に中空部の下部の径よりも大きな径をもって当該中空部の下部に連通した第三の凹所を有しており、下板は、第三の凹所の径と同一の径をもって積層方向において第三の凹所に対面した第四の凹所を上面に有した下部フランジ板と、この第四の凹所において下部フランジ板に嵌着されている一方、第三の凹所において最下位の剛性層に嵌着されている下部剪断キーとを具備しており、振動減衰体の下端部の外周面は、中空部の下部を規定する最下位の剛性層の内周面に隙間なしに接触している請求項1から12のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【請求項14】
剛性層は、積層体におけるその各端面側にそれぞれ配置された厚肉剛性板を具備しており、振動減衰体の一端部は、一方の厚肉剛性板の内周面によって規定された中空部の一端部に密に配されており、振動減衰体の他端部は、他方の厚肉剛性板の内周面によって規定された中空部の他端部に密に配されている請求項1から1のいずれか一項に記載の免震支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの構造物間に配されて両構造物間の相対的な水平振動のエネルギを吸収し、構造物への振動加速度を低減するための装置、特に地震エネルギを減衰して地震入力加速度を低減し、建築物、橋梁等の構造物の損壊を防止する免震支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交互に積層された弾性層及び剛性層並びにこれら弾性層及び剛性層の内周面で規定された中空部を有する積層体と、この積層体の中空部に配置された鉛プラグとを具備した免震支持装置は、知られている。
【0003】
斯かる免震支持装置は、構造物の鉛直荷重を積層体及び鉛プラグで支持すると共に地震に起因する積層体の積層方向の一端に対しての構造物の水平方向の振動を鉛プラグの塑性変形(剪断変形)で減衰させる一方、同じく地震に起因する積層体の積層方向の一端の水平方向の振動の構造物への伝達を積層体の弾性変形(剪断変形)で抑制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−105441号公報
【特許文献2】特開2009−8181号公報
【特許文献3】特開2013−217483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の免震支持装置では、鉛プラグを得るべく積層体の中空部に鉛が圧入、充填されるが、圧入、充填されて積層体の剛性層及び弾性層の内周面に取り囲まれた鉛プラグは、弾性層の弾性により部分的に押し戻されることになるが、この押し戻により鉛プラグには内圧が発生する。
【0006】
この発生した鉛プラグの内圧が弾性層の剛性との関連で充分でないと、免震支持装置の免震動作において、鉛プラグの外周面と剛性層及び弾性層の内周面との間に隙間が生じて、鉛プラグで効果的に振動を減衰させることができなくなる虞が生じる。
【0007】
斯かる問題は、鉛プラグにおいて顕著に生じるのであるが、斯かる鉛プラグに限らず、塑性変形で振動エネルギを吸収する鉛、錫又は非鉛系低融点合金等の減衰材料からなる振動減衰体でも生じ得る。
【0008】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、従来の免震支持装置と比較して、積層体の中空部に配置された振動減衰体をより隙間なしに拘束し得る結果、より安定な免震特性を得ることができ、加えて積層体の弾性層及び振動減衰体の疲労、損壊を回避することができ、耐久性及び免震効果並びに製造性により優れた免震支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による免震支持装置は、交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた中空部に配置された振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと振動減衰体が未配置であって積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように振動減衰体が中空部に配されているである。
【0010】
本発明による免震支持装置は、また、交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた中空部に当該弾性層及び剛性層並びに上板及び下板に対して隙間なしに配置された振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと振動減衰体が未配置であって積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように振動減衰体が中空部に配されている。
【0011】
本発明による免震支持装置は、更にまた、交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた中空部に配置された振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持すると共に下板に対しての上板の積層方向に直交する方向の振動を振動減衰体の塑性変形で減衰させる一方、下板の積層方向に直交する方向の振動の上板への伝達を積層体の剪断弾性変形で抑制するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと振動減衰体が未配置であって積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/VPe≧1.02)以上となるように振動減衰体が中空部に配されている。
【0012】
加えて、本発明による免震支持装置は、交互に積層された弾性層及び剛性層を有する積層体と、積層体の上端面及び下端面に取付けられた上板及び下板と、弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で取り囲まれていると共に上板の下面から下板の上面まで積層方向に伸びた中空部に当該弾性層及び剛性層並びに上板及び下板に対して隙間なしに配置された振動減衰体とを具備していると共に上板に加わる積層方向の荷重を積層体及び振動減衰体で支持すると共に下板に対しての上板の積層方向に直交する方向の振動を振動減衰体の塑性変形で減衰させる一方、下板の積層方向に直交する方向の振動の上板への伝達を積層体の剪断弾性変形で抑制するようになっており、支持する積層方向の荷重に基づく振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)となり、且つ、中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと振動減衰体が未配置であって、積層体に積層方向の荷重が加えられた状態での中空部の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように振動減衰体が中空部に配されている。
【0013】
本発明は、支持する構造物から上板に加えられた荷重(鉛直荷重)で弾性層が積層方向(鉛直方向)において圧縮されて中空部の高さ(積層方向の長さ)が低く(短く)なると、振動減衰体が弾性層の内周面を押圧して部分的に弾性層に積層方向に直交する方向(水平方向、即ち、剪断方向)に張り出し、この張り出しに基づいて、言い換えると、振動減衰体による弾性層の内周面への押圧に起因する弾性層の弾性反力に基づいて振動減衰体に生じる内圧であって振動減衰体からの上板への面圧Prと当該荷重に基づく積層体の荷重に対する受圧面での面圧P0との比Pr/P0及び中空部に配置された振動減衰体の体積Vpと中空部に振動減衰体を配置する前であって積層体に積層方向の荷重を加えた状態での中空部(以下、縮小中空部という)の容積Veとの比Vp/Veが夫々一定の関係になって振動減衰体が中空部に配される免震支持装置では、振動減衰体が積層体に対してより隙間なしに拘束され得、しかも、耐久性及び免震効果並びに製造性が特に優れるという知見に基づいてなされたものである。
【0014】
斯かる知見に基づく本発明の免震支持装置では、比Pr/P0が1.00以上(比Pr/P0≧1.00)、好ましくは、1.00を超える(比Pr/P0>1.00)ように、より好ましくは、1.09以上(比Pr/P0≧1.09)、更により好ましくは、2.02以上(比Pr/P0≧2.02)、最も好ましくは、2.50以上(比Pr/P0≧2.50)となるように、しかも、比Vp/Veが1.02以上(比Vp/Ve≧1.02)となるように、好ましくは、1.07以下(比Pr/P0≦1.07)となるように、振動減衰体が中空部に配されていると、比Pr/P0が1.00よりも小さい一方、比Vp/Veが1.02以上又は比Vp/Veが1.02よりも小さい一方、比Pr/P0が1.00以上となるように振動減衰体が中空部に配されている場合と比較して、積層方向に直交する方向の積層体の剪断弾性変形においても、中空部に配置された振動減衰体をより隙間なしに弾性層及び剛性層並びに上板及び下板で拘束し得る結果、より安定な免震特性を得ることができ、加えて弾性層及び振動減衰体の疲労、損壊をより回避することができ、耐久性及び免震効果並びに製造性により優れた免震支持装置を提供することができる。
【0015】
縮小中空部の容積Veは、積層体に加えられる鉛直方向荷重である弾性層と剛性層との積層方向の荷重によって、換言すれば、免震支持装置が支持する構造物の重量によって増減し、また、縮小中空部の容積Veに対して1.00倍を越える体積の振動減衰体が配置された状態における中空部の容積とも異なる。
【0016】
ところで、比Pr/P0が1.00よりも小さく(比Pr/P0<1.00)、且つ、比Vp/Veが1.02よりも小さく(Vp/Ve<1.02)なるように振動減衰体を中空部に配した場合には、比Pr/P0が1.00よりも小さい一方、比Vp/Veが1.02以上又は比Vp/Veが1.02よりも小さい一方、比Pr/P0が1.00以上となるように振動減衰体を中空部に配した場合と比較して、中空部を規定する弾性層及び剛性層並びに上板及び下板と、これらに接する振動減衰体の外周面との間に隙間がより生じ易くなり、したがって免震支持装置の作動中に、すなわち免震支持装置に繰り返し横方向力が加わっている間に、容易に積層体の内周面と振動減衰体の外周面との間に隙間が生じ、不安定な免震特性を示すことになる。これは、振動減衰体が積層体に少なくとも剪断方向(水平方向)において隙間なく拘束されず、振動減衰体に剪断変形以外の変形を生じることによるものと推測される。
【0017】
一方、振動減衰体を縮小中空部の容積Veの1.12倍よりも多く(比Vp/Ve>1.12)配した場合又は比Pr/P0が5.90よりも大きい(比Pr/P0>5.90)場合には、振動減衰体が大きく弾性層に食い込んで、弾性層での積層体の内周面が過度に凹面になり、この部位の近傍での弾性層と剛性層との間の剪断応力が大きくなり過ぎ、このように過度に剪断応力が生じた状態であると、弾性層の劣化を早め、耐久性が劣ることになる上に、振動減衰体を縮小中空部の容積の1.12倍より多く圧入するには又は比Pr/P0が5.90よりも大きい免震支持装置を製造するには、振動減衰体の中空部への圧入力を極めて大きくしなければならない上に、圧入により積層体の弾性層を損壊してしまう虞があり、免震支持装置の製造が困難であることも判った。
【0018】
本発明において、振動減衰体は、好ましい例では、塑性変形で振動エネルギを吸収する減衰材料からなり、斯かる減衰材料は、鉛、錫又は非鉛系低融点合金(例えば、錫−亜鉛系合金、錫−ビスマス系合金及び錫−インジウム系合金より選ばれる錫含有合金であって、具体的には、錫42〜43重量%及びビスマス57〜58重量%を含む錫−ビスマス合金等)からなっていてもよい。
【0019】
本発明において、上板及び積層方向において最上位の剛性層に関して、好ましい例では、上板は、上部貫通孔を有した上部フランジ板と、この上部貫通孔において上部フランジ板に固着された上部閉塞板とを具備しており、振動減衰体の積層方向の上端面は、上部閉塞板の積層方向の下端面に隙間なしに接触しており、振動減衰体の積層方向の上端部の外周面は、上部貫通孔を規定する上部フランジ板の内周面に隙間なしに接触しており、他の好ましい例では、積層方向において最上位の剛性層は、その上面で開口していると共に積層方向における中空部の上部の径よりも大きな径をもって当該中空部の上部に連通した第一の凹所を有しており、上板は、その下面で開口していると共に第一の凹所の径と同一の径をもって積層方向において第一の凹所に対面した第二の凹所を有した上部フランジ板と、この第二の凹所において上部フランジ板に嵌着されている一方、第一の凹所において最上位の剛性層に嵌着されている上部剪断キーとを具備しており、振動減衰体の積層方向の上端部の外周面は、中空部の上部を規定する最上位の剛性層の内周面に隙間なしに接触している。
【0020】
本発明において、下板及び積層方向において最下位の剛性層に関して、好ましい例では、下板は、下部貫通孔を有した下部フランジ板と、この下部貫通孔において下部フランジ板に固着された下部閉塞板とを具備しており、振動減衰体の積層方向の下端面は、下部閉塞板の積層方向の上端面に隙間なしに接触しており、振動減衰体の積層方向の下端部の外周面は、下部貫通孔を規定する下部フランジ板の内周面に隙間なしに接触しており、他の好ましい例では、積層方向において最下位の剛性層は、その下面で開口していると共に積層方向における中空部の下部の径よりも大きな径をもって当該中空部の下部に連通した第三の凹所を有しており、下板は、その上面で開口していると共に第三の凹所の径と同一の径をもって積層方向において第三の凹所に対面した第四の凹所を有した下部フランジ板と、この第四の凹所において下部フランジ板に嵌着されている一方、第三の凹所において最下位の剛性層に嵌着されている下部剪断キーとを具備しており、振動減衰体の積層方向の下端部の外周面は、中空部の下部を規定する最下位の剛性層の内周面に隙間なしに接触している。
【0021】
上部フランジ板及び下部フランジ板は、外縁が円形若しくは楕円形であっても、これに代えて、外縁が矩形若しくは方形であってもよい。
【0022】
本発明では、弾性層の素材としては、天然ゴム、シリコンゴム、高減衰ゴム、ウレタンゴム又はクロロプレンゴム等を挙げることができるが、好ましくは天然ゴムであり、弾性層の各層は、好ましくは、無負荷状態(支持する積層方向の荷重が上板に加えられていない状態)において1mm〜30mm程度の厚みを有しているが、これに限定されず、また、剛性層の素材としては、鋼板、炭素繊維、ガラス繊維若しくはアラミド繊維等の繊維補強合成樹脂板又は繊維補強硬質ゴム板等を挙げることができ、剛性層の各層は、1mm〜6mm程度の厚みを有していても、また、最上位及び最下位の剛性層は、10mm〜50mm程度の厚みを有していてもよいが、これらに限定されず、加えて、弾性層及び剛性層は、その枚数においても特に限定されず、支持する構造物の荷重、剪断変形量(水平方向歪量)、弾性層の弾性率、予測される構造物への振動加速度及び振動周期の大きさの観点から、安定な免震特性を得るべく、弾性層及び剛性層の材質及び枚数を決定すればよい。
【0023】
また、本発明では、弾性体及び振動減衰体は、円環状体及び円柱状体が好ましいが、他の形状のもの、例えば楕円若しくは方形体及び楕円若しくは方形体のものであってもよく、中空部は、一つでもよいが、これに代えて、免震支持装置は、複数の中空部を有していてもよく、この複数の中空部にそれぞれ振動減衰体を配して免震支持装置を構成してもよく、これら複数の中空部の夫々に関して、比Pr/P0及び比Vp/Veが同一である必要はなく、比Pr/P0及び比Vp/Veがそれぞれ異なっていてもよく、また、これら複数の中空部の夫々に関して比Pr/P0及び比Vp/Veが上記の通り、1.00以上及び1.02以上であることが好ましいが、複数の中空部の一部に関してのみ比Pr/P0及び比Vp/Veが1.00以上及び1.02以上であってもよい。
【0024】
本発明の好ましい例では、剛性層は、積層体におけるその各端面側にそれぞれ配置された厚肉剛性板を具備しており、振動減衰体の一端部は、一方の厚肉剛性板の内周面によって規定された中空部の一端部に密に配されており、振動減衰体の他端部は、他方の厚肉剛性板の内周面によって規定された中空部の他端部に密に配されている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、積層体の中空部に配置された振動減衰体を所定に隙間なしに拘束し得る結果、安定な免震特性を得ることができ、加えて積層体の弾性層及び振動減衰体の疲労、損壊を回避することができ、耐久性及び免震効果並びに製造性に特に優れた免震支持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の好ましい実施の形態の例の図2のI−I線矢視断面説明図である。
図2図2は、図1に示す例の一部断面平面説明図である。
図3図3は、図1に示す例の一部拡大断面説明図である。
図4図4は、本発明の好ましい実施例1の水平変位と水平応力との履歴特性の試験結果説明図である。
図5図5は、本発明の好ましい実施例2の水平変位と水平応力との履歴特性の試験結果説明図である。
図6図6は、本発明の好ましい実施例3の水平変位と水平応力との履歴特性の試験結果説明図である。
図7図7は、比較例1の水平変位と水平応力との履歴特性の試験結果説明図である。
図8図8は、比較例2の水平変位と水平応力との履歴特性の試験結果説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明及びその実施の形態を、図に示す好ましい具体例に基づいて説明する。なお、本発明は本具体例に何等限定されないのである。
【0028】
図1から図3に示す本例の免震支持装置1は、交互に積層された複数の弾性層2及び剛性層3に加えて、弾性層2及び剛性層3の円筒状の外周面4及び5を被覆した円筒状の被覆層6を有する円筒状の積層体7と、積層体7の積層方向(本例では、鉛直方向でもある)Vの円環状の上端面8及び下端面9に取付けられた上板10及び下板11と、弾性層2及び剛性層3並びに上板10及び下板11で取り囲まれていると共に上板10の下面12から下板11の上面13まで積層方向Vに伸びた中空部14に、当該弾性層2の内周面15及び剛性層3の円筒状の内周面16並びに上板10の下面12及び下板11の上面13に対して隙間なしに配置された振動減衰体としての鉛プラグ17とを具備している。
【0029】
厚さt1=2.5mmの天然ゴム製の円環状のゴム板からなる弾性層2の夫々は、積層方向Vにおいて対面する剛性層3の積層方向Vの上面及び下面に加硫接着されている。
【0030】
剛性層3において、積層方向Vにおいて最上位及び最下位の剛性層3の夫々は、厚さt2=20mmの円環状の互いに同一の鋼板からなり、最上位の剛性層3は、その上面21で開口していると共に円筒状の内周面22で規定された凹所23と、同じく上面21で開口していると共に円周方向Rにおいて等角度間隔に配置された複数個の螺子穴24とを有しており、積層方向Vにおける中空部14の上部25を規定する最上位の剛性層3の内周面16の径よりも大きな径をもった内周面22で規定された凹所23は、当該中空部14の上部25に連通しており、最下位の剛性層3は、その下面26で開口していると共に内周面22と同径の円筒状の内周面27で規定された凹所28と、同じく下面26で開口していると共に円周方向Rにおいて等角度間隔に配置された複数個の螺子穴29とを有しており、積層方向Vにおける中空部14の下部30を規定する最下位の剛性層3の内周面16の径よりも大きな径をもった内周面27で規定された凹所28は、当該中空部14の下部30に連通しており、積層方向Vにおいて最上位の剛性層3と最下位の剛性層3と間に配置された剛性層3の夫々は、最上位及び最下位の剛性層3よりも薄い厚さt3=1.6mmの円環状の互いに同一の鋼板からなる。
【0031】
厚さ5mm程度であって弾性層2と同一の天然ゴムからなると共に円筒状の外周面31並びに円環状の上端面32及び下端面33を有した被覆層6は、その円筒状の内周面34で外周面4及び5に加硫接着されている。
【0032】
上板10は、凹所23の径と同一の径をもって積層方向Vにおいて凹所23に対面した凹所41を下面42に有した円板状の上部フランジ板43と、凹所41において上部フランジ板43に嵌着されている一方、凹所23において最上位の剛性層3に嵌着されていると共に円形の下面44を有した上部剪断キー45とを具備しており、円筒状の外周面46を有した上部フランジ板43は、凹所41に加えて、積層方向Vにおいて複数個の螺子穴24に対応して円周方向Rにおいて等角度間隔に配置された複数個の貫通孔47と、外周面46の近傍に円周方向Rにおいて等角度間隔に配置された複数個の貫通孔48とを有しており、貫通孔47の夫々に挿入されて螺子穴24の夫々において最上位の剛性層3に螺合されたボルト49を介して最上位の剛性層3に固定される一方、支持する上部の構造物に貫通孔48に挿入されるアンカーボルトを介して固定されるようになっている。
【0033】
而して、上部フランジ板43と上部剪断キー45とを具備した上板10の下面12は、下面42と下面44とからなり、上面21と上端面32とからなる上端面8は、下面12における下面42に隙間なしに接触しており、鉛プラグ17は、その円形の上端面51で下面12における下面44に隙間なしに接触しており、上部25に配置された鉛プラグ17の積層方向Vの上端部52の外周面53は、最上位の剛性層3の内周面16に隙間なしに接触している。
【0034】
下板11は、凹所28の径と同一の径をもって積層方向Vにおいて凹所28に対面した凹所61を上面62に有した円板状の下部フランジ板63と、凹所61において下部フランジ板63に嵌着されている一方、凹所28において最下位の剛性層3に嵌着されていると共に円形の上面64を有した下部剪断キー65とを具備しており、円筒状の外周面66を有した下部フランジ板63は、凹所61に加えて、積層方向Vにおいて複数個の螺子穴29に対応して円周方向Rにおいて等角度間隔に配置された複数個の貫通孔67と、外周面66の近傍に円周方向Rにおいて等角度間隔に配置された複数個の貫通孔68とを有しており、貫通孔67の夫々に挿入されて螺子穴29の夫々において最下位の剛性層3に螺合されたボルト69を介して最下位の剛性層3に固定される一方、載置される下部の構造物に貫通孔68に挿入されるアンカーボルトを介して固定されるようになっている。
【0035】
而して、下部フランジ板63と下部剪断キー65とを具備した下板11の上面13は、
上面62と上面64とからなり、下面26と下端面33とからなる下端面9は、上面13における上面62に隙間なしに接触しており、鉛プラグ17は、その円形の下端面71で上面13における上面64に隙間なしに接触しており、下部30に配置された鉛プラグ17の積層方向Vの下端部72の外周面73は、最下位の剛性層3の内周面16に隙間なしに接触している。
【0036】
塑性変形で振動エネルギを吸収する減衰材料であって純度99.9%以上の純粋度をもった鉛からなる鉛プラグ17は、下面44、内周面15及び16並びに上面64によって規定された中空部14に圧入、充填されており、斯かる圧入、充填で鉛プラグ17は、支持する上部の構造物からの積層方向Vの荷重Wが上板10に加えられていない状態(無荷重下)でも、当該下面44、外周面4及び5並びに上面64に対して隙間なしに配されていると共に弾性層2の弾性力に抗して弾性層2に向って水平方向(剪断方向)Hに張り出して弾性層2に若干食い込み、弾性層2の内周面15を凹面81にする結果、内周面15及び16からなる積層体7の内周面82は、当該弾性層2の内周面15の位置で凹面81になっている一方、剛性層3の位置で凸面83になっており、支持する上部の構造物からの積層方向Vの荷重Wが上板10に加えられた状態(荷重下)では、弾性層2が積層方向Vにおいて圧縮されて弾性層2の厚みt1が2.5mmよりも小さくなって免震支持装置1の高さhが低くなる結果、中空部14に圧入、充填された鉛プラグ17は、弾性層2の弾性力に抗して当該弾性層2により水平方向Hに張り出して弾性層2に食い込み、弾性層2の内周面15をより大きく水平方向(剪断方向)Hに凹んだ凹面81にする。
【0037】
鉛プラグ17は、支持する上部の構造物からの積層方向Vの荷重(積層方向Vの下向きの力)Wが上板10に加えられた状態での鉛プラグ17からの上板10の上部剪断キー45への反力(積層方向Vの上向きの力)Frによる面圧Pr(=Fr/Sr(鉛プラグ17の上端面51の面積):N/m、但しNはニュートン、以下、同じ)と当該荷重Wによる積層体7の受圧面での面圧P0(=W/S0(積層体7の荷重Wに対する受圧面積):N/m)との比Pr/P0が1.00以上となり、且つ、鉛プラグ17の体積Vpと鉛プラグ17が未配置であって積層体7に積層方向Vの荷重Wが加えられた状態での中空部14の容積Veとの比Vp/Veが1.02以上になるように、中空部14に密に配されている。
【0038】
以上の免震支持装置1は、下部フランジ板63が貫通孔68に挿入されたアンカーボルトを介して下部の構造物に、上部フランジ板43が貫通孔48に挿入されたアンカーボルトを介して上部の構造物に夫々固定されて下部及び上部の構造物間に配され、上部の構造物の荷重Wを受けて、上板10に加わる積層方向Vの荷重Wを積層体7及び鉛プラグ17で支持すると共に下板11に対しての上板10の水平方向Hの振動を鉛プラグ17の塑性変形で減衰させる一方、下板11の水平方向Hの振動の上板10への伝達を積層体7の水平方向Hの剪断弾性変形で抑制するようになっている。
【0039】
免震支持装置1を製造する場合には、まず、弾性層2となる円環状の厚さt1=2.5mmの複数枚のゴム板と最上位及び最下位の剛性層3間の剛性層3となる円環状の厚さt3=1.6mmの複数枚の鋼板とを交互に積層して、その下面及び上面に最上位及び最下位の剛性層3となる円環状の厚さt2=20mmの鋼板を配置し、型内における加圧下での加硫接着等によりこれらを相互に固定してなる積層体7を形成し、その後、ボルト69を介して下部剪断キー65及び下部フランジ板63からなる下板11を最下位の剛性層3に固定し、次に、鉛プラグ17が未配置であって積層体7に積層方向Vの荷重Wが加えられた状態での中空部14の容積Veを計量し、この計量後、鉛プラグ17を中空部14に形成すべく、1.02×Ve以上の体積Vpをもった純度99.9%以上の鉛を中空部14に圧入する。鉛の圧入は、鉛プラグ17が積層体7により中空部14において隙間なしに拘束されるように、鉛を中空部14に油圧ラム等により押し込んで行い、鉛の圧入後、ボルト49を介して上部フランジ板43と上部剪断キー45とからなる上板10を最上位の剛性層3に固定する。なお、型内における加圧下での加硫接着による積層体7の形成において、弾性層2及び剛性層3の外周面4及び5を覆って被覆層6となるゴムシートを外周面4及び5に捲き付け、該加硫接着と同時に、弾性層2及び剛性層3の外周面4及び5に加硫接着された被覆層6を形成してもよい。また斯かる形成において、弾性層2となるゴム板の内周側の一部が流動して、剛性層3の内周面16を覆って、被覆層6の厚さ2mmよりも充分に薄い被覆層が形成されてもよい。
【0040】
製造された免震支持装置1が面圧Prと面圧P0との比Pr/P0が1.00以上であることを確認するために、言い換えると、面圧Prと面圧P0との比Pr/P0が1.00以上である免震支持装置1を製造するために、上部フランジ板43と上部剪断キー45に相当すると共に凹所41及び凹所23に嵌着された上部剪断キー45よりも薄い仮の上部剪断キーとの間にロードセル(圧力センサ)を介在させ、ロードセルからのリード線を上部フランジ板43に形成された細孔から導出して、上板10に本免震支持装置1で支持する予定の荷重Wを加えた状態でこの導出されたリード線の電気信号を測定して、この測定した電気信号から面圧Prを検出し、この検出した面圧Prと面圧P0とから比Pr/P0を求め、比Pr/P0が1.00以上である場合には、上板10への荷重Wの負荷を解除して上部フランジ板43を取り外し、仮の上部剪断キーを上部剪断キー45に取り換え、再び、上部フランジ板43を最上位の剛性層3にボルト49を介して固定し、比Pr/P0が1.00よりも小さい場合には、上板10への本免震支持装置1で支持する予定の荷重Wの負荷を解除して上部フランジ板43及び仮の上部剪断キーを取り外し、中空部14に追加の鉛を圧入する。追加の鉛の中空部14への圧入は、追加の鉛を中空部14の上部に油圧ラム等により押し込んで行う。追加の鉛の中空部14への圧入後、上部フランジ板43と仮の上部剪断キーと、上部フランジ板43及び仮の上部剪断キー間のロードセル(圧力センサ)とを最上位の剛性層3にボルト49を介して固定し、ロードセルからの電気信号に基づく面圧Prと面圧P0とから比Pr/P0を求め、比Pr/P0が1.00以上である場合には、上記と同様にして仮の上部剪断キーに代えて上部剪断キー45と上部フランジ板43とを最上位の剛性層3にボルト49を介して固定する一方、比Pr/P0が1.00よりも小さい場合には、比Pr/P0が1.00以上になるまで、以上の追加の鉛の中空部14への圧入を繰り返す。
【0041】
なお、比Pr/P0が1.00以上になる場合には、無荷重(W=0)で弾性層2の内周面15が凹面81に変形しなくてもよい。
【0042】
こうして製造された免震支持装置1では、面圧Prと面圧P0との比Pr/P0が1.00以上であって、体積Vpと容積Veとの比Vp/Veが1.02以上であるために、比Pr/P0が1.00よりも小さく(比Pr/P0<1.00)、且つ、比Vp/Veが1.02よりも小さく(Vp/Ve<1.02)なるように振動減衰体を中空部に配した場合は勿論のこと、比Pr/P0が1.00よりも小さい一方、比Vp/Veが1.02以上又は比Vp/Veが1.02よりも小さい一方、比Pr/P0が1.00以上となるように鉛プラグ17を中空部14に配した場合と比較して、中空部14に配置された鉛プラグ17をより隙間なしに弾性層2及び剛性層3並びに上板10及び下板11で拘束し得る結果、より安定な免震特性を得ることができ、加えて弾性層2及び鉛プラグ17の疲労、損壊を回避することができ、特に優れた耐久性及び免震効果並びに製造性を得ることができる。
【0043】
実施例1、2及び3の免震支持装置1
弾性層2:厚さt1=2.5mm、外周面4の径(外径)=250mm、変形前の円筒状の内周面15の径(内径)=50mmであって、せん断弾性率=G4の天然ゴムからなる円環状のゴム板を20枚使用
最上位及び最下位の剛性層3:夫々厚さt2=20mm、外周面5の径(外径)=250mm、内周面16の径(内径)=50mmの鋼板を使用
凹所23及び28の夫々の深さ=10mm
最上位及び最下位の剛性層3間の剛性層3:厚さt3=1.6mm、外周面5の径(外径)=250mm、内周面16の径(内径)=50mmの鋼板を19枚使用
被覆層6:厚さ=5mm
鉛プラグ17:免震支持装置1において、支持する荷重W=801kNに対して、実施例1では、比Pr/P0=1.78及び比Vp/Ve=1.03となるように、実施例2では、比Pr/P0=2.03及び比Vp/Ve=1.04となるように、そして、実施例3では、比Pr/P0=2.40及び比Vp/Ve=1.06となるように、中空部14に鉛を夫々充填して鉛プラグ17を形成した。
【0044】
比較例1及び2の免震支持装置
支持する荷重W=801kNに対して、比較例1では、比Pr/P0=0.55及び比Vp/Ve=0.98となるように、そして、比較例2では、比Pr/P0=1.04及び比Vp/Ve=1.00となるように、中空部14に鉛を夫々充填して鉛プラグ17を形成した以外、実施例と同様の免震支持装置を製造した。
【0045】
実施例1、2及び3の免震支持装置1と比較例1及び2の免震支持装置との夫々の上板10に荷重W=801kNを加えた状態で、最大±5mmの水平変位(せん断歪10%)をもって上板10に対して下板11に水平方向Hに振動(加振周波数f=0.5Hz、加振周期T=1/f=2sec)を加えた場合の水平変位−水平力(水平応力)の履歴特性を測定した結果を、実施例1については図4に、実施例2については図5に、実施例3については図6に、比較例1については図7に、そして、比較例2については図8に夫々示す。図4から図6に示す履歴特性から明らかであるように、実施例1、2及び3の免震支持装置1では、安定な免震特性を得ることができ、トリガ機能を有し、大振幅の地震に対して好ましく対応し得、また、比較例1の免震支持装置では、図7の矢印で示すように凹みが生じて不安定な免震特性となり、トリガ機能を好ましく得ることができず、比較例2の免震支持装置でも、図8に示すように比較例1の免震支持装置と同等の特性を呈していることが判る。なお、比Pr/P0が5.90以下又は比Vp/Veが1.07以下であれば、製造において中空部14への鉛の圧入が容易であり、それほど困難を伴わないことが判明した。また、比Pr/P0が5.90を超えるように又は比Vp/Veが1.12以上になるように、中空部14へ鉛を圧入しようとしたが、弾性層2の内周面15の損壊なしに、これを行うことは困難であることも判明した。
【符号の説明】
【0046】
1 免震支持装置
2 弾性層
3 剛性層
4、5 外周面
6 被覆層
7 積層体
8 上端面
9 下端面
10 上板
11 下板
12 下面
13 上面
14 中空部
15 内周面
16 内周面
17 鉛プラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8