特許第6853732号(P6853732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三井ハイテックの特許一覧

<>
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000002
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000003
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000004
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000005
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000006
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000007
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000008
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000009
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000010
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000011
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000012
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000013
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000014
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000015
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000016
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000017
  • 特許6853732-熱処理用治具及び積層体の製造方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853732
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】熱処理用治具及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20210322BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   H02K15/02 F
   H01F41/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-104873(P2017-104873)
(22)【出願日】2017年5月26日
(65)【公開番号】特開2018-201300(P2018-201300A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小園 武明
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 裕介
【審査官】 末續 礼子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−241701(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/013683(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/188447(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板の積層体を保持する第一治具と、
前記第一治具を支持する第二治具とを備え、
前記第二治具は、複数の前記第一治具を並べて配置可能な配置面と、前記配置面に開口する複数の位置決め孔とを有し、
前記第一治具は、前記積層体を支持するプレートと、前記プレートに支持された前記積層体を外周側から保持する保持部と、前記プレートから下方に突出し、前記位置決め孔に挿入される凸部と、を有する熱処理用治具。
【請求項2】
前記第二治具は、前記配置面に開口する複数の通気孔を更に有し、
前記複数の位置決め孔は、前記配置面上に前記第一治具が最密配置された状態においても、隣り合う他の前記プレートとの間に前記配置面を覆わない開放領域が形成されるように位置し、
前記複数の通気孔の少なくとも一部は、前記開放領域に開口するように位置している、請求項1記載の熱処理用治具。
【請求項3】
前記保持部は、前記プレートから上方に突出して前記積層体を包囲する複数の保持ピンを含む、請求項1又は2記載の熱処理用治具。
【請求項4】
前記第一治具は、前記プレートの下部において、前記プレートと前記保持ピンとを接合する接合部を更に含む、請求項3記載の熱処理用治具。
【請求項5】
プレートと、前記プレートの上に設けられた保持部と、前記プレートから下方に突出する凸部と、を有する第一治具を用い、前記保持部により電磁鋼板の積層体を外周側から保持しながら、前記積層体を前記プレートの上に配置することと、
複数の前記第一治具を並べて配置可能な配置面と、前記配置面に開口する複数の位置決め孔とを有する第二治具を用い、前記積層体を保持した前記第一治具を前記配置面上に配置し、前記凸部を前記位置決め孔に挿入することと、
前記第一治具により保持された前記積層体を、前記第一治具及び前記第二治具と共に熱処理装置に配置することと、を含む積層体の製造方法。
【請求項6】
前記電磁鋼板を積層する積層装置を用いて前記積層体を形成することと、
前記積層装置側から前記熱処理装置側に前記積層体を搬送することと、を更に含み、
前記積層体を前記プレートの上に配置することを、当該積層体を前記積層装置側から前記熱処理装置側に搬送する前に行い、当該積層体を前記第一治具と共に前記積層装置側から前記熱処理装置側に搬送する、請求項5記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記積層体を保持した前記第一治具を前記配置面上に配置し、前記凸部を前記位置決め孔に挿入することも、当該積層体を前記積層装置側から前記熱処理装置側に搬送する前に行い、当該積層体を前記第一治具及び前記第二治具と共に前記積層装置側から前記熱処理装置側に搬送する、請求項6記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱処理用治具及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピニオン及びチューブを熱処理するための熱処理用治具が開示されている。この治具は、筒状の側壁部と、側壁部の軸方向中央部に形成された底壁部とを備え、底壁部の上面には、ピニオンを支持するための円柱状の支持部が設けられ、底壁部の下面には、チューブを支持するための円柱状の支持部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−38194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電磁鋼板の積層体の製造効率及び品質の両立を図るのに有効な熱処理用治具及びこれを用いた積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る熱処理用治具は、電磁鋼板の積層体を保持する第一治具と、第一治具を支持する第二治具とを備え、第二治具は、複数の第一治具を並べて配置可能な配置面と、配置面に開口する複数の位置決め孔とを有し、第一治具は、積層体を支持するプレートと、プレートに支持された積層体を外周側から保持する保持部と、プレートから下方に突出し、位置決め孔に挿入される凸部と、を有する。
【0006】
本開示の他の側面に係る積層体の製造方法は、プレートと、プレートの上に設けられた保持部と、プレートから下方に突出する凸部と、を有する第一治具を用い、保持部により電磁鋼板の積層体を外周側から保持しながら、積層体をプレートの上に配置することと、複数の第一治具を並べて配置可能な配置面と、配置面に開口する複数の位置決め孔とを有する第二治具を用い、積層体を保持した第一治具を配置面上に配置し、凸部を位置決め孔に挿入することと、第一治具により保持された積層体を、第一治具及び第二治具と共に熱処理装置に配置することと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電磁鋼板の積層体の製造効率及び品質安定性の両立を図るのに有効な熱処理用治具及びこれを用いた積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ステータコアの平面図である。
図2】分割コアの断面図である。
図3】積層体の製造システムの構成を示す模式図である。
図4】積層装置の概略構成を示す模式図である。
図5】熱処理用治具の斜視図である。
図6】第二治具上に第一治具を最密配置した状態を示す平面図である。
図7】第一治具の変形例を示す平面図である。
図8】プレートと保持ピンとの接合部の断面図である。
図9】積層体の製造手順を示す模式図である。
図10】積層体の製造手順を示す模式図である。
図11】積層体の製造手順を示す模式図である。
図12】積層装置の変形例を示す模式図である。
図13】積層体の製造手順を示す模式図である。
図14】積層体の製造手順を示す模式図である。
図15】積層体の製造手順を示す模式図である。
図16】積層体の製造手順を示す模式図である。
図17】積層体の製造手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本実施形態に係る積層体製造システムは、電磁鋼板の積層体を製造するためのシステムである。
【0010】
〔モータコア〕
まず、電磁鋼板の積層体の具体例を示す。図1に示すモータコア80は、モータのステータ用のコアであり、円環状のヨーク81と、ヨーク81の内周面から突出した複数のティース82とを有する。複数(例えば12個)のティース82は、ヨーク81の円周方向に沿って等間隔に並んでいる。ティース82には、モータの電機子コイルが巻きつけられる。
【0011】
モータコア80は、ヨーク81の円周方向に沿って並ぶ複数(例えば12個)の部分(以下、「分割コア90」という。)に分割可能である。分割コア90は、上記円周方向に沿う円弧状の分割ヨーク91と、分割ヨーク91の内周面(ヨーク81の内周面となる面)から突出した突出部92と、突出部92の先端部(分割ヨーク91の逆側の端部)に設けられた鍔部93とを有する。分割ヨーク91はヨーク81を構成し、突出部92及び鍔部93はティース82を構成する。突出部92は、円周方向(ヨーク81の円周方向)において分割ヨーク91の両端部間に位置している。換言すると、分割ヨーク91は、突出部92の基端部から円周方向の両側に延出している。
【0012】
図2に示すように、分割コア90は、分割ヨーク91の中心軸線CL(ヨーク81の中心軸線CL)に直交する電磁鋼板94を、当該中心軸線CLに沿って積層した積層体である。すなわち、モータコア80も電磁鋼板の積層体である。電磁鋼板94同士は、カシメ又は溶接等により接合されている。
【0013】
〔積層体製造システム〕
図3に示す積層体製造システム1は、電磁鋼板の積層体の一例として、分割コア90を製造するシステムである。積層体製造システム1は、積層部2と、熱処理部3と、熱処理用治具100とを備える。
【0014】
(積層部)
積層部2は、分割コア90を形成する積層装置10と、積層装置10により形成された分割コア90を熱処理用治具100にセットするための詰込エリアA1とを有する。図4に示すように、積層装置10は、打抜金型11と、シリンダ12と、排出ステージ13と、プッシャ14とを有する。
【0015】
打抜金型11は、電磁鋼板の素材(以下、「素材鋼板MS」という。)から電磁鋼板94を打ち抜き、これを順次積層させて分割コア90を形成する。例えば打抜金型11は、ダイ15と、パンチ16とを含む。
【0016】
ダイ15は、素材鋼板MSを支持する支持面15aと、支持面15aに開口する収容孔15bとを有する。収容孔15bは、素材鋼板MSから打ち抜かれた電磁鋼板94を収容する。
【0017】
パンチ16は、例えば油圧式のプレス機(不図示)により上下に駆動され、素材鋼板MSから電磁鋼板94を打ち抜いて収容孔15b内に押し込み、既に収容孔15b内に収容されている電磁鋼板94と、新たに打ち抜いた電磁鋼板94とをカシメ等により接合する。このように、電磁鋼板94を打ち抜いて積層することの繰り返しにより、分割コア90が形成される。
【0018】
排出ステージ13は、打抜金型11の下方に設けられ、打抜金型11により形成された分割コア90の排出に用いられる。
【0019】
シリンダ12は、例えばリニアアクチュエータ等(不図示)により駆動され、収容孔15b内の電磁鋼板94を支持するための第一高さと、分割コア90を排出ステージ13に排出するための第二高さとの間で昇降する。第一高さは、例えばシリンダ12の上面がダイ15の下面(収容孔15bの下端)に位置する高さである。第二高さは、例えばシリンダ12の上面が排出ステージ13の上面と面一になる高さである。
【0020】
プッシャ14は、シリンダ12が第二高さにある状態で、シリンダ12上から排出ステージ13上に分割コア90を移動させる。
【0021】
なお、以上に示した積層装置10の構成はあくまで一例であり、積層装置10は、電磁鋼板94の積層体を形成可能である限りどのように構成されていてもよい。例えば積層装置10は、必ずしも電磁鋼板94をダイ15及びパンチ16により積層・接合するように構成されていなくてよく、収容孔15bから電磁鋼板94を取り出した後に、ダイ15及びパンチ16とは別の構成によって積層・接合するように構成されていてもよい。
【0022】
(熱処理部)
図3に戻り、熱処理部3は、分割コア90の熱処理を行う熱処理装置20と、熱処理後の分割コア90を熱処理用治具100から取り出すための取出エリアA2とを有する。熱処理装置20は、脱油炉21と、焼鈍炉22と、冷却部23と、ブルーイング炉24と、冷却部25と、コンベヤ30とを有する。
【0023】
脱油炉21(熱処理炉)は、分割コア90の電磁鋼板94等に付着した油分を蒸発させるための加熱炉である。焼鈍炉22(熱処理炉)は、分割コア90の電磁鋼板94を焼鈍するための加熱炉である。冷却部23は、分割コア90をブルーイングに適した温度まで冷却するための部分である。ブルーイング炉24(熱処理炉)は、分割コア90の表面に酸化被膜を形成するための加熱炉である。冷却部25は、分割コア90を常温近傍まで冷却するための部分である。
【0024】
コンベヤ30は、脱油炉21、焼鈍炉22、冷却部23、ブルーイング炉24、冷却部25を順に通過する搬送経路に沿って熱処理用治具100を有する。例えばコンベヤ30は、無端チェーン等の循環体33と、循環体33を循環駆動する駆動ホイール31及び従動ホイール32とを有する。循環体33の各部は、上記搬送経路に沿って移動した後、当該搬送経路の開始位置に戻る。
【0025】
なお、以上に示した熱処理装置20の構成はあくまで一例であり、熱処理装置20は、電磁鋼板94の積層体の熱処理を行う限りどのように構成されていてもよい。例えば熱処理装置20は、脱油炉21、焼鈍炉22及びブルーイング炉24のいずれかを有していなくてもよい。
【0026】
(熱処理用治具)
図5に示すように、熱処理用治具100は、分割コア90を保持する第一治具110と、第一治具110を支持する第二治具120と、分割コア90を上方から保持する第三治具130と、第三治具130を第二治具120上に保持する第四治具140とを有する。
【0027】
第一治具110は、プレート111と、保持部112と、凸部113とを有する。プレート111は、少なくとも一つの分割コア90を支持する。一例として、プレート111は重なった複数の分割コア90を支持する。プレート111は、円形、楕円形又は多角形等の外形を有し、最下層に配置される分割コア90の下面全域に対向するように広がっている。
【0028】
以下、第一治具110の説明における「上下」は、プレート111が複数の分割コア90を支持した状態における上下を意味する。後述のように、プレート111上に重ねて配置される複数の分割コア90のそれぞれは、電磁鋼板94がプレート111に沿うように配置される。以下、この配置を前提として説明を進める。
【0029】
保持部112は、プレート111に支持された複数の分割コア90を外周側から保持する。ここでの保持とは、複数の分割コア90の重なりを維持しつつ、これらをプレート111上に拘束することを意味する。外周側から保持とは、分割コア90の外縁よりも外側に配置された部材によって保持することを意味する。保持部112は、最下層に配置される分割コア90の下面全域をプレート111の外縁よりも内側に拘束するように構成されていてもよい。
【0030】
例えば保持部112は、プレート111から上方に突出して複数の分割コア90を包囲する複数の保持ピンを含む。保持部112は、三本以上の保持ピンを有していてもよい。一例として、保持部112は、三本の保持ピン112A,112B,112Cを有する。
【0031】
図5及び図6に示すように、保持ピン112A,112Bは、分割ヨーク91及び鍔部93の間において突出部92を挟むように配置されている。これにより、保持ピン112A,112Bが並ぶ方向(以下、「第一方向」という。)における分割コア90の移動が規制される。保持ピン112Cは、第一方向において保持ピン112A,112Bの間に位置し、保持ピン112A,112Bとの間に分割ヨーク91を挟むように位置している。これにより、第一方向に直交する方向(以下、「第二方向」という。)における分割コア90の移動も規制される。
【0032】
なお、保持ピン112Cは、図7(a)に示すように、保持ピン112A,112Bとの間に鍔部93を挟むように配置されていてもよい。これによっても、第二方向における分割コア90の移動が規制される。また、図7(b)に示すように、保持ピン112Cを省略し、保持ピン112A,112Bと分割ヨーク91との引っ掛かり、及び保持ピン112A,112Bと鍔部93との引っ掛かりによって、上記第二方向における分割コア90の移動を規制し得るように保持ピン112A,112Bを太くしてもよい。更に、図7(c)に例示するように、分割コア90の外形の凹部に保持ピンの外周面を嵌め込むことによって分割コア90の移動を規制してもよい。図7(c)の保持部112は、上記第二方向において分割コア90を挟むように配置された保持ピン112C,112D を含んでいる。分割ヨーク91の外周面にはV字型の凹部95が形成されており、当該凹部95に保持ピン112Cが嵌まり込む。また、突出部92の先端面が凹状に湾曲して凹部96を形成しており、当該凹部96に保持ピン112Dが嵌まり込む。保持ピン112Cが凹部95に嵌まり込み、保持ピン112Dが凹部96に嵌まり込むことによって、第一方向における分割コア90の移動が規制されるので、図7(c)の構成によれば保持ピン112A,112Bを省略可能である。
【0033】
更に、保持部112は、必ずしも複数の保持ピンにより分割コア90の移動を規制するように構成されなくてもよい。例えば保持部112は、プレート111から上方に突出して複数の分割コア90を包囲する壁部を含んでいてもよい。当該壁部は、網状であってもよい。
【0034】
図8に示すように、保持ピン112A,112B,112Cの下端部は、プレート111に形成された接続孔111a,111b,111cにそれぞれ挿入され、プレート111の下部においてプレート111に溶接されている。この例に示されるように、第一治具110は、プレート111の下部において、プレート111と保持ピン112A,112B,112Cとを接合する接合部114を更に含んでいてもよい。
【0035】
なお、保持ピン112A,112B,112Cとプレート111との接合手段は必ずしも溶接に限られない。例えば保持ピン112A,112B,112Cの下端部は、接続孔111a,111b,111cに圧入されていてもよい。また、保持ピン112A,112B,112Cの下端部に形成された雄ねじが、接続孔111a,111b,111cに形成された雌ねじにそれぞれねじ込まれていてもよい。更に、保持ピン112A,112B,112Cは、プレート111に一体的に形成されていてもよい。
【0036】
図5に戻り、凸部113は、プレート111から下方に突出している。凸部113は、第二治具120の位置決め孔(後述)に挿入される。第二治具120は、複数の第一治具110を並べて配置可能な配置面と、配置面に開口する複数の位置決め孔とを有する。位置決め孔は、上述した凸部113を挿入可能な孔である。第二治具120は、配置面に開口する複数の通気孔を更に有してもよい。
【0037】
一例として、第二治具120は板状のトレー121を有する。トレー121は、複数の第一治具110を並べて配置可能な長方形の配置面121aと、複数の貫通孔121bと、複数の貫通孔121cと、四つの貫通孔121dとを有する。貫通孔121b,121c,121dは、いずれも配置面121aに開口している。
【0038】
複数の貫通孔121bは、配置面121aの長辺方向及び短辺方向に沿ってマトリクス状に配列されている。貫通孔121bは例えば円形であり、その内面は凸部113と嵌合する。複数の貫通孔121bのうち、凸部113が挿入される孔は、上述した位置決め孔として機能する。複数の貫通孔121bのうち、凸部113が挿入されない孔は、上述した通気孔として機能する。
【0039】
複数の貫通孔121cは、配置面121aの長辺方向及び短辺方向のいずれにおいても、貫通孔121bと交互に並ぶように配列されている。貫通孔121cは、貫通孔121bと異なる形状(例えば十字形状)であり、いずれも上述した通気孔として機能する。
【0040】
四つの貫通孔121dは、配置面121aの四隅に位置している。貫通孔121dは、後述の第四治具140との接続に利用される。
【0041】
ここで、図6に示すように、複数の貫通孔121bは、配置面121a上に第一治具110が最密配置された状態においても、隣り合うプレート111との間に配置面121aを覆わない開放領域R1が形成されるように位置している。最密配置とは、各第一治具110の凸部113が貫通孔121bに挿入され、且つ隣り合うプレート111同士が重複しない条件下で、配置面121a上に最も多くの第一治具110を配置した状態を意味する。例えば、第二治具120は、配置面121a上に複数の第一治具110を最密配置する場合に、当該複数の第一治具110が多角形(例えば四角形又は三角形)の格子状に並ぶように構成されており、当該多角形の頂部をなす複数のプレート111の間に開放領域R1が形成される。複数の通気孔(貫通孔121c、及び凸部113が挿入されない貫通孔121b)の少なくとも一部は、配置面121a上に第一治具110が最密配置された状態において、上記開放領域R1に開口するように位置している。
【0042】
図6においては、複数の第一治具110が四角の格子状に配置されており、個々の四角をなす四つのプレート111の間に開放領域R1が形成されている。当該領域R1内では一つの貫通孔121bが完全に開口し、四つの貫通孔121b及び四つの貫通孔121cが部分的に開口している。
【0043】
図5に戻り、第三治具130は、第一治具110に支持された分割コア90を上方から保持する。第三治具130は、各第一治具110の最上層の分割コア90に対向する押え面と、押え面に開口する複数の保持孔とを有する。複数の保持孔は、保持ピン112A,112B,112Cの上端部を収容する。
【0044】
一例として、第三治具130は板状のカバー131を有する。カバー131は、配置面121aに対向する長方形の押え面131aと、複数の貫通孔131bと、四つの貫通孔131cとを有する。貫通孔131b,131cは、いずれも押え面131aに開口している。
【0045】
複数の貫通孔131bは、上述した保持孔として機能する。例えば複数の貫通孔131bは、配置面121a上に第一治具110が最密配置された状態において、全ての保持ピン112A,112B,112Cにそれぞれ対応するように位置している。なお、複数の貫通孔131bは、保持孔として機能し得る限りどのように配置されていてもよい。例えば、個々の貫通孔131bが、複数の保持ピン112A,112B,112Cの上端部を挿入可能となるように構成されていてもよい。例えば複数の貫通孔131bは、配置面121a上に第一治具110が最密配置された状態において、全ての第一治具110にそれぞれ対応するように位置し、各貫通孔131bが三つの保持ピン112A,112B,112Cを挿入可能な形状・大きさとなっていてもよい。
【0046】
第四治具140は、配置面121a及び押え面131aの四隅にそれぞれ配置される四本の柱体141と、四本の柱体141の外周にそれぞれ装着される四本のカラー142とを有する。各隅部において、柱体141は貫通孔121d及び貫通孔131cに挿入される。カラー142の下端は配置面121aに接し、カラー142の上端は押え面131aに接する。これにより、カバー131がトレー121上に保持される。
【0047】
なお、以上に示した熱処理用治具100の構成はあくまで一例であり、熱処理用治具100は、第一治具110及び第二治具120を備える限りどのように構成されていてもよい。例えば熱処理用治具100は、第二治具120及び第三治具130の間の空間を包囲する壁部を更に備えてもよく、当該壁部は第四治具140のカラー142に固定されていてもよい。また、熱処理用治具100は、第三治具130及び第四治具140を備えていなくてもよい。
【0048】
〔積層体の製造方法〕
続いて、積層体の製造方法の一例として、分割コア90の製造手順を説明する。この製造手順は、保持部112により分割コア90を外周側から保持しながら、複数の分割コア90をプレート111の上に重ねて配置することと、複数の分割コア90を保持した第一治具110を配置面121a上に配置し、凸部113を貫通孔121bに挿入することと、第一治具110により保持された複数の分割コア90を、第一治具110及び第二治具120と共に熱処理装置20に配置することと、を含む。
【0049】
この製造手順は、積層装置10を用いて分割コア90を形成することと、積層装置10側から熱処理装置20側に分割コア90を搬送することと、を更に含んでもよく。複数の分割コア90をプレート111の上に重ねて配置することを、当該複数の分割コア90を積層装置10側から熱処理装置20側に搬送する前に行い、当該複数の分割コア90を第一治具110と共に積層装置10側から熱処理装置20側に搬送してもよい。
【0050】
複数の分割コア90を保持した第一治具110を配置面121a上に配置し、凸部113を貫通孔121bに挿入することも、当該複数の分割コア90を積層装置10側から熱処理装置20側に搬送する前に行い、当該複数の分割コア90を第一治具110及び第二治具120と共に積層装置10側から熱処理装置20側に搬送してもよい。
【0051】
以下、分割コア90の製造手順をより具体的に例示する。まず、図9に示すように、積層装置10を用いて分割コア90を形成する。例えば、シリンダ12が上記第一高さ(シリンダ12の上面がダイ15の下面に位置する高さ)にある状態にて、パンチ16により素材鋼板MSから電磁鋼板94を打ち抜くことを繰り返し、収容孔15b内に分割コア90を形成する。
【0052】
次に、図10に示すように、シリンダ12を上記第二高さ(シリンダ12の上面が排出ステージ13の上面と面一になる高さ)まで下降させ、プッシャ14により、シリンダ12上から排出ステージ13上に分割コア90を移動させる。
【0053】
次に、図11に示すように、電磁鋼板94がプレート111に沿った状態にて、保持部112により分割コア90を外周側から保持しながら、当該分割コア90をプレート111の上に配置する。以後、プレート111上への分割コア90の配置を繰り返し、プレート111の上に複数の分割コア90を重ねて配置する。
【0054】
なお、プレート111の上への分割コア90の配置は、詰込エリアA1において手作業により実行してもよいし、積層装置10において自動的に実行してもよい。プレート111の上への分割コア90の配置を自動的に実行する場合、積層装置10は、図12に示すように、分割コア90を排出する排出孔17と、排出孔17の下方に第一治具110を保持するホルダ18とを更に備えてもよい。排出孔17は、例えば排出ステージ13に設けられる。
【0055】
第一治具110に所定数の分割コア90がセットされると、図13に示すように、当該第一治具110を詰込エリアA1においてトレー121上にセットする。具体的には、当該第一治具110を配置面121a上に配置し、凸部113を貫通孔121bに挿入する。以後、分割コア90の形成、排出、プレート111上への配置、及び配置面121a上への第一治具110の配置を繰り返す。
【0056】
配置面121a上に所定数の第一治具110がセットされると、図14に示すように第三治具130を被せる。具体的には、各第一治具110の最上層の分割コア90に押え面131aが対向し、全ての保持ピン112A,112B,112Cの上端部が貫通孔131bに入るように第三治具130を配置し、当該第三治具130を第四治具140により第二治具120上に保持する。
【0057】
次に、図15に示すように、熱処理用治具100にセットされた複数の分割コア90を、第一治具110、第二治具120、第三治具130及び第四治具140と共に積層装置10側から熱処理装置20側に搬送する。この搬送は、コンベヤ又は搬送台車を用いて行われてもよいし、トラックなどの車両を用いて行われてもよい。
【0058】
次に、図16に示すように、第二治具120から第三治具130及び第四治具140を取り外し、複数の分割コア90を第一治具110及び第二治具120と共に熱処理装置20に配置する。複数の分割コア90は、第一治具110及び第二治具120と共に、コンベヤ30によって脱油炉21、焼鈍炉22、冷却部23、ブルーイング炉24、及び冷却部25に順次搬送され、熱処理される。その後、熱処理後の分割コア90を取出エリアA2において第一治具110及び第二治具120から取り出す。
【0059】
なお、複数の分割コア90を保持した第二治具120を複数段に重ねて熱処理装置20に配置してもよい。この場合、第四治具140を第二治具120から取り外さずに、上段の第二治具120との接続に用いてもよい。
【0060】
次に、図17に示すように、分割コア90が取り出された熱処理用治具100を熱処理装置20側から積層装置10側に搬送する。この搬送には、積層装置10側から熱処理装置20側への熱処理用治具100の搬送と同じ手段を用いることが可能である。以上で分割コア90の製造手順が完了する。なお、熱処理用治具100を積層装置10側に返送する際には、熱処理の前に第二治具120から取り外された第三治具130及び第四治具140を再度第二治具120に装着してもよいし、第三治具130及び第四治具140を装着することなく第一治具110及び第二治具120を積層装置10側に返送してもよい。また、第二治具120から取り外された第三治具130及び第四治具140とは別に、油分の付着の少ない第三治具130及び第四治具140を準備しておき、それらを第二治具120に装着して積層装置10側に返送してもよい。
【0061】
この製造手順は、第一治具110により保持された複数の分割コア90を、第一治具110及び第二治具120と共に熱処理装置20に配置することを含む限りにおいて、適宜変更可能である。
【0062】
例えば、複数の分割コア90をプレート111の上に重ねて配置することと、複数の分割コア90を保持した第一治具110を配置面121a上に配置することとを、複数の分割コア90を積層装置10側から熱処理装置20側に搬送した後に実行してもよい。この場合、積層装置10側から熱処理装置20側に分割コア90を搬送するために、第一治具110及び第二治具120とは別の治具が必要となる。
【0063】
また、複数の分割コア90をプレート111の上に重ねて配置することは、複数の分割コア90を積層装置10側から熱処理装置20側に搬送する前に行い、複数の分割コア90を保持した第一治具110を配置面121a上に配置することを、当該搬送後に実行してもよい。この場合、積層装置10側から熱処理装置20側に分割コア90を搬送するために、第二治具120とは別の治具が必要となる。
【0064】
積層装置10側から熱処理装置20側への分割コア90の搬送に第二治具120を用いない場合、第二治具120を熱処理装置20側に据え置くことが可能となるので、第二治具120の機能をコンベヤ30に組み込んでもよい。具体的には、上記位置決め孔及び上記通気孔等をコンベヤ30の循環体33に形成し、循環体33を第二治具として用いてもよい。
【0065】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、熱処理用治具100は、電磁鋼板94の積層体を保持する第一治具110と、第一治具110を支持する第二治具120とを備え、第二治具120は、複数の第一治具110を並べて配置可能な配置面121aと、配置面121aに開口する複数の位置決め孔(貫通孔121b)とを有し、第一治具110は、積層体を支持するプレート111と、プレート111に支持された積層体を外周側から保持する保持部112と、プレート111から下方に突出し、第二治具120の位置決め孔に挿入される凸部113と、を有する。
【0066】
熱処理用治具100によれば、積層体を保持した第一治具110が配置面121a上に並んで配置されることにより、多くの積層体を一まとめにして熱処理することができる。従って、積層体の製造効率を向上させることができる。
【0067】
プレート111上の積層体は、保持部112により保持される。このため、第一治具110を第二治具120上に配置する際、及び熱処理用治具100を熱処理装置20に配置する際等において積層体の位置ずれが抑制される。また、第一治具110の凸部113が第二治具120の位置決め孔に嵌合することで、第二治具120に対する第一治具110の位置ずれも抑制される。このため、熱処理用治具100における分割コア90の偏在に起因する熱処理状態のばらつきが抑制される。従って、積層体の品質を向上させることができる。
【0068】
なお、保持部112により保持可能な高さの範囲で、複数の積層体をプレート111の上に重ねて配置することも可能である。この場合、複数の積層体を一まとめにして第二治具120上に配置できるので、より多くの積層体を効率よく一まとめにして熱処理することができる。複数の積層体をプレート111の上に重ねて配置する場合、これらが保持部112によりまとめて保持されるので、複数の積層体の崩落に伴う不良の発生も抑制される。重なった積層体同士の位置ずれの抑制により、各積層体における圧力集中が抑制されるので、圧力集中に起因するスティッキング(電磁鋼板94間の電気的導通)等の不良の発生も抑制される。
【0069】
このように、熱処理用治具100は、電磁鋼板の積層体の製造効率及び品質の両立を図るのに有効である。なお、保持部112は、積層体を外周側から保持するように構成されているので、位置決めに利用可能な孔を積層体が有しない場合であっても、積層体をプレート111の上に保持することができる。このため、環状のコアをその周方向に分割した分割コア90の製造に特に有効である。
【0070】
第二治具120は、配置面121aに開口する複数の通気孔(貫通孔121b及び貫通孔121c)を更に有しており、複数の位置決め孔は、配置面121a上に第一治具110が最密配置された状態においても、隣り合う他のプレート111との間に配置面121aを覆わない開放領域R1が形成されるように位置し、複数の通気孔の少なくとも一部は、開放領域R1に開口するように位置していてもよい。この場合、プレート111上に積層体の支持領域を確保しつつ、熱処理中における通気経路を確保することができる。
【0071】
保持部112は、プレート111から上方に突出して積層体を包囲する複数の保持ピンを含んでもよい。この場合、保持部112の熱容量を小さくし、保持部112が熱処理状態に及ぼす影響を抑制することができる。
【0072】
第一治具110は、プレート111の下部において、プレート111と保持部112とを接合する接合部114を更に含んでもよい。この場合、接合部114をプレート111の下部に配置することで、プレート111の上部の平滑性を高め、プレート111上の各積層体における圧力集中を更に抑制することができる。
【0073】
プレート111は、最下層に配置される分割コア90の下面全域に対向するように広がっていてもよい。この場合、より広い面で分割コア90を支持することで、上記圧力集中をより確実に抑制することができる。
【0074】
熱処理用治具100は、第一治具110に支持された積層体を上方から保持する第三治具130を更に有してもよい。第三治具130は、各第一治具110の最上層の分割コア90に対向する押え面131aと、押え面131aに開口して保持ピン112A,112B,112Cの上端部を受け入れる複数の保持孔(貫通孔131b)とを有する。この場合、積層体をより確実に保護できる。また、第一治具110の凸部113が第二治具120の位置決め孔に嵌合するのに加え、保持ピン112A,112B,112Cの上端部が保持孔に嵌合することで、配置面121aに対する傾きを含む第一治具110の位置ずれをより確実に抑制することができる。
【0075】
熱処理用治具100は、第三治具130を第二治具120上に保持する第四治具140を更に有してもよい。この場合、配置面121aに対する第一治具110の傾きをより確実に抑制することができる。
【0076】
熱処理用治具100を用いた積層体の製造手順においては、複数の積層体をプレート111の上に重ねて配置することを、当該複数の積層体を積層装置10側から熱処理装置20側に搬送する前に行い、当該複数の積層体を第一治具110と共に積層装置10側から熱処理装置20側に搬送してもよい。この場合、第一治具110を積層体の搬送にも活用することで、積層体の製造用の治具数を削減することができる。また、積層体の搬送用の治具から熱処理用治具100に積層体を詰め替える手間を削減することができる。更に、第一治具110に付着した油分等は、熱処理の度に除去されるので、積層体の搬送用の治具を洗浄する手間も削減することができる。従って、積層体の製造効率を更に向上させることができる。
【0077】
複数の積層体を保持した第一治具110を配置面121a上に配置し、凸部113を第二治具120の位置決め孔に挿入することも、当該複数の積層体を積層装置10側から熱処理装置20側に搬送する前に行い、当該複数の積層体を第一治具110及び第二治具120と共に積層装置10側から熱処理装置20側に搬送してもよい。この場合、第一治具110及び第二治具120の両方を積層体の搬送にも活用することで、積層体の製造用の治具数を更に削減することができる。また、積層体の搬送用の治具から熱処理用治具100に積層体を詰め替える手間を更に削減することができる。従って、積層体の製造効率を更に向上させることができる。
【0078】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。積層体製造システム1は、電磁鋼板の積層体であればいかなる物の製造にも適用可能である。例えば、積層体製造システム1は、複数の分割コア90に分離不可能な環状のモータコア80の製造にも適用可能であり、更にステータ用のみでなくロータ用のコアの製造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
90…分割コア(積層体)、94…電磁鋼板、100…熱処理用治具、10…積層装置、20…熱処理装置、110…第一治具、120…第二治具、111…プレート、112…保持部、113…凸部、112A,112B,112C…保持ピン、114…接合部、121a…配置面、121b…貫通孔(位置決め孔、通気孔)、121c…貫通孔(通気孔)、R1…開放領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17