【文献】
ISHIKAWA, H., et al.,Gelatin nanospheres incorporating siRNA for controlled intracellular release,Biomaterials,2012年,Vol.33,pp.9097-9104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)で測定して得られるスペクトルにおけるCOOHとCONHとのピーク強度比が、0.46以上1.0以下である、請求項1に記載のゼラチン粒子。
請求項1に記載のゼラチン粒子と細胞とを液体に添加して前記細胞の活動により前記ゼラチン粒子を前記細胞の細胞膜の内側に取り込ませる、ゼラチン粒子内包細胞の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記の課題を解決すべく、本発明者らは細胞自らによって細胞内に取り込まれやすいゼラチン粒子の条件について鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、粒子径が0.010μm以上5.0μm以下であり、かつ、粒子を構成するゼラチンが自己架橋しているゼラチン粒子は、細胞自らの活動による細胞内への取り込みがなされやすいことを見出し、もって本発明を完成させた。
【0015】
以下、本発明の代表的な実施形態を詳細に説明する。
【0016】
1.ゼラチン粒子およびその製造方法
本実施形態は、ゼラチン粒子およびゼラチン粒子の製造方法に係る。
【0017】
1−1.ゼラチン粒子
本実施形態に係るゼラチン粒子は、粒子径が5.0μm以下であり、かつ、粒子を構成するゼラチンが自己架橋しているゼラチン粒子である。上記構成を有するゼラチン粒子は、後述するように細胞に取り込まれやすいという特徴を有しているため、本明細書においては、「易取込性ゼラチン粒子」ともいう。上記易取込性ゼラチン粒子は、単一の粒子でもよく、複数のゼラチン粒子からなる集合体でもよい。
【0018】
なお、本明細書において、ゼラチン粒子の粒子径、長径および短径は、80℃の大気中に24時間静置した後の、乾燥時のゼラチン粒子の粒子径、長径および短径を意味する。
【0019】
易取込性ゼラチン粒子の短径および長径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した画像を解析して得られる値とすることができる。ゼラチン粒子が上記集合体であるとき、ゼラチン粒子の長径、短径、粒子径およびアスペクト比は、上記集合体から任意に選択した複数の乾燥処理後のゼラチン粒子(たとえば、20個のゼラチン粒子)の長径、短径、粒子径およびアスペクト比を加算平均した値とすることができる。
【0020】
上記易取込性ゼラチン粒子の粒子径は、0.010μm以上5.0μm以下である。上記粒子径が5.0μm以下であるゼラチン粒子は、細胞自らの活動による細胞内への取り込みがなされやすい。これは、加熱等によってゼラチンの自己架橋を形成させる際に、ゼラチン粒子の内部まで熱が浸透しやすく、ゼラチンの変性が生じにくいためと考えられる。逆に、上記粒子径が5.0μmを超えるゼラチン粒子を加熱等によって自己架橋させると、ゼラチンの膜厚が大きいため、内部のゼラチンを架橋させるためには長時間の加熱等が必要となり、粒子表面の近傍に位置するゼラチンが変性してしまう。表面近傍のゼラチンが変性したゼラチン粒子は、細胞によって異物と認識されやすくなり、細胞自らの活動による細胞内への取り込みがなされにくくなる。上記観点からは、上記易取込性ゼラチン粒子の粒子径は、2.0μm以下であることが好ましく、1.8μm以下であることがより好ましい。一方で、上記粒子径が0.010μm以上であるゼラチン粒子は、粒子内に試薬等を担持させやすく、かつ自己架橋をさせやすい。上記観点からは、ゼラチン粒子の粒子径は、0.010μm以上であることが好ましく、0.020μm以上であることが好ましい。また、ゼラチン粒子の粒子径を0.50μm以上とすることで、ハンドリング性がよく、また、試薬等の収容量を大きくすることができる。なお、上記易取込性ゼラチン粒子の粒子径は、ゼラチン粒子の長径と短径とを加算平均した値とすることができる。
【0021】
易取込性ゼラチン粒子のアスペクト比は、1.0以上1.4以下であることが好ましい。上記アスペクト比が1.4以下であると、ゼラチン粒子は水中で膨潤した後もより球形に近い形状を保ちやすく、ゼラチン粒子および細胞を含む溶液において、ゼラチン粒子と細胞とがより均一な形状および大きさの接触面で接しやすくなるため、ゼラチン粒子間での取り込まれやすさの差が生じにくいと考えられる。そのため、上記アスペクト比を有する易取込性ゼラチン粒子は、細胞へ取り込まれるゼラチン粒子の量、およびゼラチン粒子を取り込む細胞の量、をより制御しやすいと考えられる。易取込性ゼラチン粒子のアスペクト比は、ゼラチン粒子の長径をゼラチン粒子の短径で除算して求めた値とすることができる。
【0022】
易取込性ゼラチン粒子は、その主成分がゼラチンからなる粒子であり、具体的には、アミノ酸測定装置で分析した際、アミノ酸1000残基の内、グリシンが300以上含まれており、アラニン、プロリン両方を含む粒子である。易取込性ゼラチン粒子を構成するゼラチンは、粒子を形成することができればよく、牛骨、牛皮、豚皮、豚腱、魚鱗および魚肉などに由来するコラーゲンを変性して得られる、公知のいかなるゼラチンを用いてもよい。ゼラチンは、以前から食用や医療用に使用されており、体内に摂取しても人体に害を与えることが少ない。また、ゼラチンは生体内で分散消失するため、生体内から除去する必要がないという利点を有する。なお、上記易取込性ゼラチン粒子は、細胞内へのゼラチン粒子取り込みが可能な限りにおいて、ゼラチン以外の成分を含有してもよい。なお、上記ゼラチン以外の成分の量は、体内に摂取したときに人体に与える害が無視できる範囲であることが好ましい。また、上記ゼラチン以外の成分は、生体内に蓄積せず排出されやすい物質からなることが好ましい。
【0023】
上記易取込性ゼラチン粒子を構成するゼラチンの重量平均分子量は、上記粒子径および膨潤度の条件を満たすゼラチン粒子を形成しやすくする観点から、1000以上100000以下であることが好ましい。上記重量平均分子量は、たとえばパギイ法第10版(2006年)に準じて測定された値とすることができる。
【0024】
易取込性ゼラチン粒子を構成するゼラチンは、自己架橋している。上記自己架橋の例には、加熱または電子線もしくは紫外線の照射による架橋が含まれる。粒子径が0.010μm以上5.0μm以下である上記易取込性ゼラチン粒子は、粒子内部全体のゼラチンを十分に架橋させることができるため、徐放性より高めることができる。また、粒子表面のゼラチンの変性を抑制しつつゼラチンに自己架橋を形成させることができるため、細胞自らの活動による自己架橋したゼラチン粒子の取り込ませやすさをより高めることができる。
【0025】
なお、本明細書において、ゼラチン粒子を構成するゼラチンが自己架橋しているとは、ゼラチン粒子をフーリエ変換型の赤外分光光度計(FT−IR)で測定して得られる、横軸に波数、縦軸に吸光度をプロットしたスペクトルにおける、COOHとCONHとのピーク強度比(COOHのピーク強度/CONHのピーク強度)が0.46以上であることを意味する。架橋していないゼラチン粒子の上記ピーク強度比は、0.40以上0.44以下の範囲に含まれる。これに対し、ゼラチンが自己架橋すると、COOHが多く生成するため、上記ピーク強度比は上昇して、0.46以上となる。
【0026】
ゼラチンの自己架橋によってCOOHとCONHとのピーク強度比が上昇する理由は、次のように考えられる。
ゼラチンの自己架橋は、次の2つの反応により進行する。
反応(1): −COOH+−NH
2 → −CONH+H
2O
反応(2): 構成アミノ酸側鎖の酸化による−COOHの生成
反応(1)では、COOH基が消費されて、CONH基が生成されるため、上記ピーク強度比は小さくなる。しかしながら、反応(2)の反応速度の方が反応(1)よりも速いため、−COOHの生成が−COOHの消費を上回り、結果として、上記ピーク強度比は上昇する。
【0027】
COOHとCONHとのピーク強度比は、大きければ大きいほど架橋度が高いことを意味する。架橋度が高いほど、易取込性ゼラチン粒子の細胞内での酵素による分解速度が低下し、粒子内部に存在する物質の徐放性が高まると考えられる。しかしながら、易取込性ゼラチン粒子の表面に存在するCOOHが多くなりすぎると、易取込性ゼラチン粒子と細胞との親和性が低下し、その結果、細胞による易取込性ゼラチン粒子の取り込み効率が低下すると考えられる。よって、細胞による易取込性ゼラチン粒子の取り込み効率および易取込性ゼラチン粒子の徐放性の両方を鑑みると、易取込性ゼラチン粒子をFT−IRで測定して得られるスペクトルにおけるCOOHとCONHとのピーク強度比は、0.46以上1.0以下であることが好ましい。この範囲内であれば、細胞による易取込性ゼラチン粒子の取り込み効率が向上し、且つ、細胞内で易取込性ゼラチン粒子が優れた除放性を発揮することができると考えられる。上記ピーク強度比は、より好ましくは0.46以上0.50以下である。
【0028】
一方で、生細胞に対する毒性をより低減する観点からは、易取込性ゼラチン粒子は、グルタルアルデヒド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド−メト−p−トルエンスルホナート等の水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリン等の架橋剤に由来する分子量の小さい成分の含有量が少ないことが好ましい。
【0029】
易取込性ゼラチン粒子は、試薬等を担持してもよい。ゼラチン粒子が試薬等を担持するとは、試薬等がゼラチン粒子の表面または内部に存在することを意味する。試薬等をより長い時間細胞内に留める観点からは、試薬等は、易取込性ゼラチン粒子の内部に存在することが好ましい。
【0030】
試薬等の例には、生体の活性などの検査、生体内の物質の測定および生体内の物質の定量などの用途に用いられる試薬、ならびに薬剤が含まれる。上記試薬の例には、造影剤が含まれる。
【0031】
上記造影剤の例には、MRI用の造影剤として用いられる磁性物質が含まれる。MRI用の造影剤の例には、ガドリニウム(Gd)ならびに鉄(Fe
3O
4およびγ−Fe
2O
3など)を含む造影剤が含まれる。
【0032】
上記薬剤は、ゼラチン粒子が担持できるものであればよい。このような薬剤の例には、医薬活性を有するタンパク質、プラスミド、アプタマー、アンチセンス核酸、リボザイム、tRNA、snRNA、siRNA、shRNA、ncRNAおよび凝縮型DNAを含む医薬用途に用いられる核酸、ならびに医薬用途に用いられる抗原が含まれる。
【0033】
上記医薬活性を有するタンパク質の例には、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ビタミンA(レチノイド)、ビタミンD3およびビタミンD3類似体、抗生物質、抗ウィルス性薬剤、ならびに抗細菌性薬剤が含まれる。
【0034】
1−2.ゼラチン粒子の製造方法
上記易取込性ゼラチン粒子は、ゼラチンを粒子状に形成し、その後自己架橋させる公知の方法で製造することができる。
【0035】
ゼラチンを粒子状に形成する方法の例には、溶融したゼラチンを含む液体(以下、単に「ゼラチン溶液」ともいう。)の液滴を加熱管または乾燥室の雰囲気中に吐出して乾燥させる方法(気中滴下法)、ゼラチン溶液の液滴を疎水性溶媒内に吐出して分散させる方法(液中滴下法)、およびゼラチン溶液をエマルジョン化してゼラチンを含む微小液滴を分散させる方法(液中分散法)が含まれる。気中滴下法の例には、インクジェット法およびスプレードライ法が含まれる。液中分散法の例には、エマルション法およびコアセルベーション法が含まれる。製造されるゼラチン粒子の粒子径をより均一にし、かつ、アスペクト比をより小さくする観点からは、気中滴下法が好ましく、インクジェット法がより好ましい。
【0036】
本発明者らの新たな知見によれば、気中滴下法において、温度変化が少ない条件で上記液滴を乾燥させることが特に好ましい。このようにすることで、温度変化によるゼラチン粒子の変形または崩壊が防がれるため、粒子径が0.010μm以上5.0μm以下であるゼラチン粒子が製造される割合をより高め、かつ、製造されるゼラチン粒子の粒子径をさらに均一にできると考えられる。
【0037】
たとえば、インクジェット法において、加熱された加熱管の内部に設けたインクジェットのノズルからゼラチン溶液の液滴を吐出して、同じ加熱管の内部に設けたフィルタで捕集することができる。ゼラチン粒子の変形または崩壊をより抑制する観点からは、上記加熱管の加熱は、加熱管の内部に、液滴の滴下方向と同じ方向(鉛直方向上方から下方に向かう方向)に熱風を通過させて行うことが好ましい。
【0038】
また、スプレードライ法において、アトマイザーまたはノズルからゼラチン溶液を噴霧する乾燥室の内部を加熱してもよい。
【0039】
上記効果をより高める観点からは、上記加熱管または乾燥室の中の雰囲気の温度と、滴下されるゼラチン溶液との温度差は、235℃以下であることが好ましく、効率よく安定してゼラチン粒子を得る観点からは、20℃以上200℃以下、さらに20℃以上100℃以下であることが望ましく、特に、加熱管又は乾燥室内の雰囲気温度を液滴温度よりも高くして、温度差20℃以上80℃以下とすることが望ましい。液滴の温度は、15℃以上80℃以下、より好ましくは20℃以上50℃以下とするのがよく、加熱管または乾燥室内の雰囲気温度は、40℃以上250℃以下、より好ましくは40℃以上150℃以下とするのがよい。
【0040】
粒子径が0.010μm以上5.0μm以下であるゼラチン粒子が形成される割合をより高める観点からは、上記ゼラチン溶液が含有するゼラチンの濃度は、1.00×10
−8体積%以上60体積%以下であることが好ましく、1.00×10
−7体積%以上50体積%以下であることがより好ましく、1.00×10
−7体積%以上20体積%以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
ゼラチンを自己架橋させる方法の例には、ゼラチン粒子を加熱する方法、およびゼラチン粒子に電子線または紫外線を照射する方法が含まれる。電子線や紫外線の照射では、ゼラチンの架橋と分解の両方の反応が起こり、どちらの反応が優先するかは、雰囲気や温度などの照射条件に大きく依存することから、架橋度のコントロールが難しい。従って、上述したCOOHとCONHとのピーク強度比が0.46以上1.0以下となるような架橋度のゼラチン粒子を製造する上では、架橋度のコントロールが比較的容易な加熱による架橋が好ましい。
【0042】
ゼラチン粒子を加熱してゼラチンを自己架橋させる方法の例には、粒子径が0.010μm以上5.0μm以下であるゼラチン粒子を60℃以上250℃以下、好ましくは100℃以上200℃以下で0.5時間以上100時間以下加熱する方法が含まれる。
【0043】
ゼラチン粒子に電子線を照射してゼラチンを自己架橋させる方法の例には、粒子径が0.010μm以上5.0μm以下であるゼラチン粒子に、加速電圧を100kV以上3MV以上、照射線量を2kGy以上3000kGyとして電子線を照射する方法が含まれる。
【0044】
ゼラチン粒子に紫外線を照射してゼラチンを自己架橋させる方法の例には、粒子径が0.010μm以上5.0μm以下であるゼラチン粒子に、波長が250nm以上260nm以下の紫外線を1J/cm
2以上6J/cm
2以下の積算照度で照射する方法が含まれる。
【0045】
2.細胞
本実施形態は、易取込性ゼラチン粒子を細胞膜の内側に有する細胞、およびそのような細胞の製造方法に係る。
【0046】
2−1.細胞
本実施形態に係る細胞(以下、単に「ゼラチン粒子内包細胞」ともいう。)は、易取込性ゼラチン粒子を細胞膜の内側に有する細胞である。
【0047】
ゼラチン粒子を細胞膜の内側に有するとは、細胞をTEMで撮像した画像において、ゼラチン粒子が細胞膜の内側に確認されることを意味する。細胞へのゼラチン粒子の取り込みは、例えば、ゼラチン粒子が造影剤を含有している場合は、造影剤を染色し顕微鏡観察することにより、造影剤を含むゼラチン粒子が細胞内に取りこまれているか否かを確認することができる。また、造影剤を含有していないゼラチン粒子の場合は、予めゼラチン粒子を蛍光標識しておき、共焦点顕微鏡を用いて蛍光標識されたゼラチン粒子が細胞内に取り込まれているか否かを確認することができる。ゼラチン粒子の蛍光標識は、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)で標識した溶液(例えば、コスモ・バイオ社製FITC−コラーゲンの10mM酢酸溶液)、0.4M塩化ナトリウム、0.04%(W/V)アジ化ナトリウム、10mM塩化カルシウム含有50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5) を等量混合した後、60℃で30分間加熱処理することにより調製したFITC−ゼラチンを基質として用いることで行うことができる。
【0048】
細胞に含まれる易取込性ゼラチン粒子は、造影剤、特には特にはMRI用の造影剤を担持していることが好ましい。このような細胞は、後述する、細胞自らの活動によって取り込ませる方法によって製造した後、細胞内の造影剤の有無を観察することで、非破壊で細胞の活性を検査することができる。
【0049】
ゼラチン粒子を細胞膜の内側に含み得る細胞としては、骨髄、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、腸管、小腸、心臓弁、皮膚、血管、角膜、眼球、硬膜、骨、気管および耳小骨を含む各種臓器から摘出された生体試料または検体に由来する細胞、市販の株化細胞、ならびに皮膚幹細胞、表皮角化幹細胞、網膜幹細胞、網膜上皮幹細胞、軟骨幹細胞、毛包幹細胞、筋幹細胞、骨前駆細胞、脂肪前駆細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、外胚葉系幹細胞、中胚葉系幹細胞、内胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、ES細胞およびiPS細胞を含む幹細胞ならびにこれらの幹細胞から分化した細胞を含む公知の細胞を用いることができる。
【0050】
これらの細胞のうち、再生医療で患者に移植される細胞、特には幹細胞または幹細胞から分化した細胞は、造影剤、特にはMRI用の造影剤を担持する易取込性ゼラチン粒子を有することで、患者への移植後、移植部位の造影剤を観察することで、再手術をすることなく、ゼラチン粒子内包細胞が移植部位に定着したか否かを観測することができる。そのため、MRI用の造影剤を担持するゼラチン粒子を含ませた、これらの細胞は、再生医療の治療を受ける患者の身体的、精神的、金銭的および時間的な負担を低減し、患者の生活の質(QOL)を高めることができると考えられる。
【0051】
2−2.細胞の製造方法
ゼラチン粒子内包細胞は、易取込性ゼラチン粒子を上記細胞に導入して、製造することができる。ゼラチン粒子を細胞に導入する方法の例には、液体中にゼラチン粒子と細胞とを添加して、エンドサイトーシスによる取り込みなどの細胞自らの活動によって取り込ませる方法、および外部からの操作によって導入する方法が含まれる。細胞自らの活動によって取り込ませる方法の例には、ゼラチン粒子と細胞とを液中で撹拌する方法や、ゼラチン粒子が含まれる細胞培養液中で細胞を培養する方法が含まれる。なお、上記易取込性ゼラチン粒子は、細胞自らによる取り込み効率が高いため、細胞への取り込みを促進するために他の成分との複合体を形成させる操作は特に必要ない。細胞の活性の低下を最小限に抑える観点からは、上記のうち、易取込性ゼラチン粒子と細胞とを液中で混合し培養する方法が好ましい。上記外部からの操作によって導入する方法の例には、エレクトロポレーション法およびマイクロインジェクション法が含まれる。これらのうち、ゼラチン粒子を導入させる際に細胞の活性を低下させにくくする観点からは、細胞自らの活動によって導入する方法が好ましく、上記複合体を形成せずに細胞に取り込ませる方法がより好ましい。
【0052】
ゼラチン粒子及び細胞が添加される液体としては、細胞培養液を用いることができる。上記細胞培養溶液としては、たとえばHanks培養液およびHEPES培養液を用いることができる。上記細胞培養溶液は、公知の緩衝液または生理食塩水であってもよく、例えば、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonic acid(HEPES)およびその他の公知のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることができる。
【0053】
細胞の活性を高めて細胞自らの活動によってゼラチン粒子を細胞内に取り込ませやすくする観点からは、上記撹拌時の上記細胞培養溶液の温度は、15℃以上50℃以下であることが好ましく、35℃以上45℃以下であることがより好ましい。
【0054】
細胞自らの活動によってゼラチン粒子を細胞膜の内側へ導入するとき、たとえば、ゼラチン粒子と上記細胞とを含む細胞培養液を振とうして、導入を促進するようにしてもよい。
【0055】
なお、細胞自らの活動によってゼラチン粒子を細胞膜の内側に取り込ませるとき、活性が高い細胞はゼラチン粒子をより取り込みやすく、活性が低い細胞はゼラチン粒子を取り込みにくいと考えられる。そのため、造影剤を担持するゼラチン粒子と細胞とを液体に添加し必要に応じて振とうした後、細胞の内部に造影剤があるか否かを観察することで、非破壊で細胞の活性を検査することができる。
【実施例】
【0056】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0057】
1.ゼラチン粒子の作製
1−1.原料溶液の調製
ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製、G−2613P)、純水、Fe
2O
3粉末(コアフロント社製3310DX(α−Fe
2O
3))を混合し、ゼラチンとFe
2O
3粉末との体積比が(ゼラチン:Fe
2O
3粉末=10:1)の原料溶液を調製した。ゼラチンおよびFe
2O
3粉末の量は、上記原料溶液中の濃度がそれぞれ表1に記載した数値になるよう調整し、純水に対する固形分の含有比率が異なる複数種類の原料溶液を得た。
【0058】
1−2.インクジェット法によるゼラチン粒子の作製
100℃に加熱した加熱管の内部に、鉛直方向上方から下方に向けて3L/minの空気流を送流した。インクジェットヘッド(コニカミノルタ社製、512S)から、40℃に加熱した上記各原料溶液の4pLまたは42pLの液滴を吐出周波数5KHzで上記空気流の中に滴下し、インクジェットヘッドの200cm下方に設けた親水化処理された四フッ化エチレン樹脂(PTFE)のフィルタ(メルク(日本ミリポア)社製ミリポア、0.45メッシュ)に上記滴下した液滴を着弾させた。上記滴下を5時間行ったのち、フィルタ上に捕集されたゼラチン粒子を回収した。
【0059】
1−3.スプレードライ法によるゼラチン粒子の作製
スプレードライヤー(株式会社プリス製、スプレーボーイ)を用いて、上記各原料溶液のうち所定のものを二流体ノズル方式のノズルから1kg/hで200℃に加熱した乾燥室内に噴霧し、乾燥室の下部でゼラチン粒子を捕集し、回収した。
【0060】
1−4.架橋形成
上記作製された未架橋の各ゼラチン粒子を、真空状態にした加熱炉(ヤマト科学株式会社社製、真空角型乾燥機ADP200)内で表1に記載の時間160℃で加熱し、自己架橋したゼラチン粒子1〜9およびゼラチン粒子12〜18を得た。
【0061】
また、上記作製された未架橋の各ゼラチン粒子のうち所定のものを、イソプロパノールにグルタルアルデヒドを分散させたエマルション中に投入し12時間撹拌して、グルタルアルデヒドで架橋させて、架橋されたゼラチン粒子10およびゼラチン粒子11を得た。
【0062】
表1に、ゼラチン粒子1〜18の作製に用いた原料溶液中のゼラチンおよびFe
2O
3の体積%、粒子作製方法、およびインクジェット法で粒子を作製したときの液滴量、ならびに架橋方法、自己架橋させたときの加熱時間、および上記添加した架橋剤の濃度を示す。なお、表1の「架橋方法」の欄において、自己架橋とは上記加熱により自己架橋させたことを示し、架橋剤とはグルタルアルデヒドによって架橋させたことを示す。
【0063】
【表1】
【0064】
2.ゼラチン粒子の測定
2−1.平均粒子径およびアスペクト比
上記作製したゼラチン粒子1〜18を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像し、撮像された画像をMountech社製画像解析式粒度分布ソフトウェアMac−Viewを用いて解析することにより、任意に選択した20個のゼラチン粒子の短径および長径を測定し、その平均値をそれぞれのゼラチン粒子の短径および長径とした。上記ゼラチン粒子の短径と長径との平均値をそれぞれのゼラチン粒子の平均粒子径とした。また、任意に選択した10個のゼラチン粒子のアスペクト比を測定し、その平均値をそれぞれのゼラチン粒子のアスペクト比とした。
【0065】
表2に、ゼラチン粒子1〜18の平均粒子径およびアスペクト比を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
2−2.COOHとCONHとのピーク強度比
上記作製したゼラチン粒子13〜18をフーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)で測定し、横軸に波数、縦軸に吸光度をプロットしたスペクトルを得た。尚、以下の測定条件を使用した。
測定装置:フーリエ変換型赤外分光光度計Nicolet380(Thermo Fisher Scientific社製)
FT−IR測定条件 :1点反射型ATR法
検出範囲 :4000−700cm−1
スキャン回数:32回
使用窓材 :Ge
分解能 :4
ビームスプリッタ:KBr
ゲイン :2
光源 :IR
検出器 :DTGS KBr
【0068】
得られたスペクトルにおける、COOHのピーク強度と、CONHのピーク強度との比を求め、COOHとCONHとのピーク強度比(COOH/CONH)とした。
表4に、ゼラチン粒子13〜18のCOOH/CONHを示す。
【0069】
3.細胞内への導入および評価
3−1.細胞内への導入
Life Technologies社製細胞培養液MEM Alpha basic(1X)500mlにウシ胎児血清(Fetal bovne serum)50mlを加えたものを細胞培養液として使用した。3mlの細胞培養液に、それぞれ1mgのゼラチン粒子1〜18を加え、マウス骨芽由来の細胞(MC3T3E1)を6000cells/mlになるように添加し、細胞添加後の細胞培養液を24時間40℃で保温して、18個の評価用サンプルを作製した。
更にゼラチン粒子1〜12については、細胞と共に保温する時間を48時間に延長した評価用サンプルを12個作製した。
【0070】
3−2.細胞による取り込みの評価
上記評価用サンプルから、それぞれの細胞分散液の一部を取り出し、以下の手順によって、細胞膜の内側に取り込まれたゼラチンが確認できるか否かを観察し、以下の基準によって判定した。
【0071】
(細胞及びFeの染色)
培養した細胞に1%パラホルムアルデヒド1mlを加えて細胞固定化処理を行った。次いで、下記組成のFe染色液1mlを加えてFeを染色した。さらに、下記の濃度に調整した核染色液1mlを加えて細胞を染色した。
【0072】
(Fe染色液の組成)
下記の2液を同体積混合してFe染色液を調製した。
・20体積% HCL(濃塩酸を5倍希釈したもの)
・10質量% K
4(Fe(CN
6))水溶液(100mg/ml)
【0073】
(核染色液の組成)
硫酸アンモニウム5質量部と、Nuclear fast red 0.1質量部とを、蒸留水100質量部に混合して核染色液を調製した。
【0074】
(Feを取り込んだ細胞数のカウント)
染色された細胞を光学顕微鏡で観察して、任意に選択された細胞20個の中に青く染色されたFeが含まれているかどうかを評価した。
【0075】
◎ 上記20個の細胞のうち、50%以上(10個以上)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
○ 上記20個の細胞のうち、10%以上50%未満(2個以上10個未満)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
△ 上記20個の細胞のうち、10%未満(2個未満)の細胞で、細胞膜の内側にゼラチンが取り込まれていることが確認できた
× 上記20個の細胞のうち、ゼラチンが取り込まれている細胞は確認できなかった
【0076】
3−3.細胞生死の評価
ゼラチン粒子1〜12の評価サンプルを用いて、各ゼラチン粒子を取り込んだ細胞の生死を評価した。
上記の各評価用サンプルを40℃に保ち、1週間後に一度細胞培養液を新しいものに交換して、2週間培養した。タカラバイオ社製Live/Dead Cell Staining Kit IIを用いて、上記培養後の培地に見られる細胞のうち任意に選択した20個の細胞の生死を観察し、以下の基準によって判定した。
【0077】
○ 上記20個の細胞のうち、70%以上(14個以上)の細胞が生きていた
× 上記20個の細胞のうち、生きている細胞は70%未満(14個未満)であった
【0078】
3−4.酵素による分解時間(分解試験)
ゼラチン粒子13〜18の評価サンプルを用いて、細胞内の酵素によってゼラチン粒子が分解されるのにかかる時間を、以下の方法で測定した。
12穴のマルチウェルプレート(Corning社)のウェル内に細胞分散培地を1mlずつ添加し、ウェル当たりの細胞数が5×10細胞となるように細胞を播種した。尚、細胞を播種するウェルの数は、各粒子当たり、17ウェルとした。
細胞を40℃で24時間インキュベートした後、培地を除去し、ゼラチン粒子を含有する培地(ゼラチン粒子が200μg/ml)を1mlずつ添加した。更に40℃で24時間インキュベートした後、培地を除去し、細胞をPBS(Gibco社)で3回洗浄した。
ウェル内の細胞に、0.25質量%のトリプシン−EDTA溶液(0.25%トリプシン−EDTA(1×),フェノールレッドを含む)(Gibco社)を1mlずつ添加し、ウェルから細胞を剥離した。剥離した細胞を次に新たな12穴のマルチウェルプレートに再播種し、40℃でインキュベートした。インキュベートの開始から、0、1、3、5、7、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、50、60日後に、細胞内のFe濃度を下記手法で測定した。
【0079】
(細胞中のFe濃度の測定)
細胞をインキュベートしたウェルから培地を取り除き、細胞をPBSで3回洗浄した。次に、1M塩酸(和光純薬工業社製)溶液を細胞に加え、5分間放置し、細胞を溶解させた。ウェル内の細胞溶解液をエッペンチューブに回収し、原子吸光光度計A4-6800(島津製作所製)でFeを定量した。
【0080】
(評価方法)
インキュベート後0日の細胞から得られたFe量を基準値(初期Fe量)とし、測定されるFe量が初期Fe量の10%以下になるまでに掛かった時間を、酵素による分解時間と定義した。
【0081】
ゼラチン粒子1〜12の上記判定結果を表3に示し、ゼラチン粒子13〜18の上記判定結果を表4に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
平均粒子径が0.010μm以上5.0μm以下であって、粒子を構成するゼラチンが自己架橋しているゼラチン粒子1〜9は、細胞自らの活動によって細胞内へ取り込まれやすかった。
【0084】
特に、アスペクト比が1.0以上1.4以下であるゼラチン粒子は概して短時間で細胞内へ取り込まれやすく、例えば、ゼラチン粒子2および6は、同程度の平均粒子径でアスペクト比が1.4より大きいゼラチン粒子9に比べて短時間で細胞内へ取り込まれやすかった。なお、インクジェット法で製造したゼラチン粒子は概してアスペクト比が小さく、特にゼラチン粒子2および6は、スプレードライ法で製造した同程度の平均粒子径を有するゼラチン粒子9よりもアスペクト比が小さかった。
【0085】
また、平均粒子径が0.010μm以上2.0μm以下であるゼラチン粒子1および2は、同程度のアスペクト比で平均粒子径が2.0μm以下より大きいゼラチン粒子3および4よりも短時間で細胞内へ取り込まれやすかった。同様に、平均粒子径が0.010μm以上2.0μm以下であるゼラチン粒子6は、同程度のアスペクト比で平均粒子径が2.0μmより大きいゼラチン粒子7および8よりも短時間で細胞内へ取り込まれやすかった。
【0086】
一方で、グルタルアルデヒドで架橋したゼラチン粒子10および11は、ゼラチン粒子を取り込んだ細胞の2週間後の生存率が低かった。これは、細胞に対する毒性を有しているグルタルアルデヒドによって細胞の活性が低下したためと考えられる。
【0087】
また、平均粒子径が5.0μmより大きいゼラチン粒子12は、細胞自らの活動による細胞内への取り込みがなされにくかった。
【0088】
【表4】
【0089】
COOHとCONHとのピーク強度比が0.46以上1.00以下であるゼラチン粒子13〜16は、細胞自らの活動によって細胞内へ取り込まれやすく、且つ酵素による分解時間も7日〜14日であった。これは、ゼラチン粒子が自己架橋しており、且つその架橋度が適度に高く、酵素によって容易には分解されないためと考えられる。
【0090】
一方、COOHとCONHとのピーク強度比が1.00を超えるゼラチン粒子17と18は、ゼラチン粒子13〜16と比べて、細胞自らの活動による細胞内への取り込みがなされにくかった。これは、架橋度の上昇に伴い、ゼラチン粒子表面に存在するCOOHが増加し、ゼラチン粒子と細胞との親和性が低下したためと考えられる。酵素による分解時間は40日以上と長く、より高い徐放性を示した。これは、ゼラチンの架橋度が高く、酵素によって分解されにくくなっていたためと考えられる。
【0091】
本出願は、2015年12月25日出願の特願2015−254954および2016年6月23日出願の特願2016−124507に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。