【実施例1】
【0017】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、
図1から
図5を参照して説明する。実施例1では中間環40の外径側を高圧側H、内径側を低圧側Lとして説明する。
【0018】
メカニカルシール20は、回転環21と静止環30との間に中間環40を介在させた中間環介在タイプのメカニカルシールであり、同心に配置される回転環21、静止環30及び中間環40から主に構成されている。回転環21の摺動面24と中間環40の摺動面42から構成される実効シール部S1(回転環側の第1環状実効シール部)による密封、及び静止環30の側面である密封面34と中間環40の密封面44から構成される実効シール部S2(静止環側の第2環状実効シール部)による密封により、機内の被密封領域Mである高圧側Hと機外の大気領域Aである低圧側Lとの間を密封している。
【0019】
ここで、実効シール部S1は、摺動面24と摺動面42とが面接触する部分、実効シール部S2は、密封面34と密封面44とが面接触する部分を意味する。荷重受け部50は中間環40から静止環30に向かって突出するように中間環と一体的に形成され、静止環30と中間環40との軸方向距離を保つことにより、中間環40に加わるモーメントから生じる変形応力を規制することにより中間環40の径方向に対する傾きを抑制する機能を有する。
【0020】
回転環21、静止環30及び中間環40は、SiC(炭化珪素)等のセラミックス、カーボン、超硬合金等から形成されており、密封用の摺動部材として一般的に要求される機械的強度、自己潤滑性、耐摩耗性を有するものであればよい。また、荷重受け部50は、被密封流体による入熱や摺動発熱等による温度変化に起因する摺動面の傾き(変形)を考慮し、中間環40と同一材料であることが好ましい。以下、回転環21、静止環30、中間環40、荷重受け部50について詳細に説明する。
【0021】
回転環21は、その基部22において、押さえ部材3によりスリーブ2に回転不能に取り付けられている。スリーブ2は回転軸1に固定的に取り付けられており、回転環21は回転軸1とともに回転する構成とされている。スリーブ2と押さえ部材3との間にはOリング4が配置されて密封性が高められている。密封の必要性に応じて、スリーブ2と回転環21の間にOリングを介在させてもよい。回転環21の中間環40側の側面は摺動面24とされている。
【0022】
静止環30は、図示しない流体機器のハウジングに固定されるシールハウジング5に収容されて取り付けられている。静止環30は大気領域A側のベローズ接続部31においてベローズ32の一端が液密に溶接固定されている。このベローズ32の他端に溶接固定されたアダプタ33がシールハウジング5に液密に固定されている。また、静止環30は、その径方向外側に延出して設けられたスプリング受け36にシールハウジング5に等配されたスプリング13が当接し、軸方向に付勢される。また、静止環30は、その径方向に延出して設けられた断面略U字形のピン受け37がシールハウジング5に固定的に取り付けられ軸方向に延設して設けられたピン11と遊嵌し、軸線方向及び径方向に所定範囲での相対変位が許容された状態で、相対回転不能に保持されている。静止環30の中間環40側の側面は密封面34とされている。
【0023】
中間環40は、その外周面46が、周方向に等配されたUスプリング10により内径方向の付勢力を受け、径方向の移動が抑制されている。Uスプリング10は、その基端がシールハウジング5から軸方向に延出する支持片6と断面L字形の保持金具8とにより挟持された状態で支持片6と保持金具8により保持されている。断面L字形の保持金具8はボルト9により支持片6及びピン11に固定されている。
【0024】
また、中間環40は、その径方向に延出して設けられた断面略U字形のピン受け47が上述したピン11と遊嵌し、軸線方向及び径方向に所定範囲での相対変位が許容された状態で、相対回転不能に保持されている。すなわち、中間環40は、静止環30と同様に、スプリング13により軸方向に付勢され、軸方向に移動可能かつ回転不能に取り付けられている。
【0025】
中間環40には、軸方向両側に周方向に切れ目なく連なる環状突起41、周方向に切れ目なく連なる環状突起43が一体成形により形成され、これら環状突起41、環状突起43の先端面がそれぞれ摺動面42、密封面44とされている。上述したように、摺動面24と摺動面42とが面摺接する部分が実効シール部S1であり、密封面34と密封面44とが面接触する部分が実効シール部S2である。
図2に示されるように、中間環40の中心軸Cから実効シール部S1の最内径(被密封流体の圧力がかかる領域の境界)までの半径距離R1は、中間環40の中心軸Cから実効シール部S2の最内径(被密封流体の圧力がかかる領域の境界)までの半径距離R2よりも短く形成されている(R1<R2)。すなわち、両実効シール部S1、S2は中間環40の中心軸Cから異なる距離に配置(径方向にずれて配置)されている。
【0026】
このような半径距離R1、R2(R1<R2)を設定することで、静止環30側の実効シール部S2は回転環21側の実効シール部S1よりも径方向外側に位置し、静止環30側の有効受圧面積は回転環21側の有効受圧面積よりも小さくなっており、回転環21、静止環30及び中間環40にかかる被密封流体の圧力の関係(
図4)から、半径距離R1を半径距離R2よりも大きくする場合(R1>R2)に比較し、各実効シール部S1、S2を閉じた状態に維持することが可能となる。また、中心軸Cからベローズの有効半径距離R3を半径距離R1よりも小さく(R1>R3)設定すると、各実効シール部S1、S2を閉じた状態に維持しやすい。
【0027】
次のような理由から、両実効シール部S1、S2が径方向にずれて配置されることが考えられる。例えば、摺動面圧を調整するために摺動面42の径方向幅を変更する場合である。また、実効シール部S1を構成する摺動面24又は摺動面42に周知の動圧発生溝を設ける場合である。この場合には、必然的に実効シール部S1として径方向に所定の長さが必要となる。さらに、メカニカルシール20は回転軸1とシールハウジング5の間の空間に収容して取り付けられており、当該空間は図示しない回転機械の構造により制約を受ける。静止環30の外径側にシールハウジング5が配置されるときには、回転環21よりも静止環30の外径を小さくせざるを得ず、中間環40の両側面に設けられる環状突起41、環状突起43を径方向にずらして配置する場合がある。
【0028】
荷重受け部50は、周方向に等配された三つの円弧状突部51(凸部材)からなり、環状突起43の低圧側(被密封流体とは逆側、
図1における内径側)に間隔を有し、環状に中間環40から静止環30に向かって突出するように一体成形により形成されている。周方向に隣接する円弧状突部51の間には径方向に延びる連通路52が形成されおり、連通路52は環状突起43と荷重受け部50とにより囲まれる環状空間Nを低圧側に連通している。連通路52が設けられているため、荷重受け部50は密封面として機能せず、荷重受け部50はバランス径として機能しない、つまり、荷重受け部50を配置しつつ中間環40のバランス径を一定に保つことができる。さらに、荷重受け部50は環状突起43から径方向に距離hだけ離れた箇所に配置されているため、環状突起43に接して配置される場合よりも小さな荷重に対向すればよいため、後述する中間環40の傾きを確実かつ簡単に規制することができる。
【0029】
また、荷重受け部50の軸方向の高さt(
図4)は側面である密封面45と密封面34との距離g(
図2)、すなわち環状突起43の高さと略同じであり、荷重受け部50の側面53は、側面である密封面34に当接している。中間環40の径方向に対する若干の傾きを許容する場合には、許容する範囲に対応する分だけ、軸方向の高さtを距離gよりも小さくするとよい。
【0030】
通常の使用状態において、実効シール部S1と実効シール部S2のずれにより、実効シール部S1、実効シール部S2から作用する押力により中間環40には左回りのモーメントが作用しこれにより生じる変形応力が生じ、中間環40が左方向(
図2の紙面)に僅かに傾き、この傾きにより実効シール部S1における接触荷重が大きくなり、シール性の向上に寄与する。なお、荷重受け部50を配置しているため、中間環40が過度に傾くことはなく、実効シール部S1は常時面接触を保つことができる。また、荷重受け部50を中間環40と静止環30との間に設けているため、回転環21の回転を妨げることもない。なお、荷重受け部50の軸方向の高さt、材質、構造を調整し、中間環40が実質的に傾かない構成としてもよいことは言うまでもない。
【0031】
一方、荷重受け部50を設けない場合には、
図5に示されるように、実効シール部S1と実効シール部S2のずれにより、中間環40には左回りのモーメントが作用し、中間環40が左方向(
図5の紙面)に過度に傾く虞がある。過度の傾き(この状態を
図5の破線40’で示している。)により、環状突起41の外径側のエッジ48が回転環21の摺動面24により摺動することとなり、実効シール部S1は面接触を維持できなくなり、中間環40の環状突起41の摺動面42と回転環21の側面である摺動面24が過剰に摩耗し密封性が維持されなくなる。
【0032】
また、荷重受け部50は中間環40に一体成形され、同じ線熱膨張係数である。そのため、温度変化が生じても、荷重受け部50は中間環40との熱による変形の差が少ないため、安定して中間環40の傾きを防止することができる。
【0033】
さらに、連通路52を介して環状空間Nを低圧側Lに連通させているため、環状空間Nが密閉空間とはならず、環状空間Nの圧力が過度に高い状態や過度に低い状態となることがない。
【実施例2】
【0034】
次に、実施例2に係るメカニカルシールにつき、
図6及び
図7を参照して説明する。実施例2は荷重受け部54の形状及び荷重受け部54が中間環40とは別体になっている点で実施例1とは異なっている。なお、実施例1と同一構成で重複する構成・効果の説明を省略する。
【0035】
荷重受け部54は、環状の一部に切欠57(連通路)を有し略C字形状とされ、中間環40と同一材料、或いは同一の線熱膨張係数である材料からなる。温度変化が生じても中間環40と同様に変形を生じるため、温度変化が生じても中間環40に応力を生じさせることが無く、温度変化しても影響なく傾き防止の機能を発揮することができる。また、切欠57が連通路として機能し低圧側Lと環状空間Nが連通されるため、環状空間Nが密閉空間とはならない。更に、切欠57があるため、径方向の変化を防止し、径方向における荷重受け箇所が変化することを抑制できる。
【0036】
荷重受け部54は等配されたボルト孔55を通して皿ネジ56により中間環40に締結されている。中間環40に荷重受け部54を取り付けるため、荷重受け部54の径方向、周方向位置が安定し、精度よく中間環40の傾きを抑制できる。
なお、荷重受け部54の中間環40への取り付けは、皿ネジ56以外による取り付けであってもよく、荷重受け部54が中間環40に対して相対的に移動することを規制する手段であればよい。
また、荷重受け部54の取り付けについて、中間環40に軸方向から皿ネジ56取り付ける例について説明したが、他の方向から取り付けてもよい。
【実施例3】
【0037】
次に、実施例3に係るメカニカルシールにつき、
図8を参照して説明する。実施例3では中間環40の外径側を低圧側L、内径側を高圧側Hとして説明する。中間環40の環状突起41A、43Aを設ける位置及び荷重受け部50Aを設ける位置が実施例1とは異なっている。なお、実施例1と同一構成で重複する構成・効果の説明を省略する。
【0038】
図8に示されるように、中間環40の中心軸Cから実効シール部S1の最内径(被密封流体の圧力がかかる領域の境界)までの半径距離R1は、中間環40の中心軸Cから実効シール部S2の最内径(被密封流体の圧力がかかる領域の境界)までの半径距離R2よりも長く形成されている(R1>R2)。すなわち、両実効シール部S1、S2は中間環40の中心軸Cから異なる距離に配置(径方向にずれて配置)されている。また、荷重受け部50Aは、環状突起43Aよりも外径側に配置されている。
【0039】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0040】
例えば、環状突起41、41Aを中間環40に設ける例について説明したが、回転環21に設けてもよい。同様に、環状突起43、43Aを静止環30に設けてもよい。
【0041】
また、荷重受け部50が中間環40に設けられる場合について説明したが、静止環30に設けてもよい。