特許第6853845号(P6853845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853845
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】減圧管理システム及び減圧管理方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 23/06 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   E02D23/06 A
   E02D23/06 Z
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-41860(P2019-41860)
(22)【出願日】2019年3月7日
(65)【公開番号】特開2020-143529(P2020-143529A)
(43)【公開日】2020年9月10日
【審査請求日】2019年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207780
【氏名又は名称】大豊建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】特許業務法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】大久保 健治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 春生
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−132179(JP,A)
【文献】 特開2013−191051(JP,A)
【文献】 特開2010−007265(JP,A)
【文献】 特開2013−177039(JP,A)
【文献】 特開2004−227464(JP,A)
【文献】 特開2019−218875(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/187561(WO,A1)
【文献】 特開2016−156193(JP,A)
【文献】 特開2017−008524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 23/06
E02F 3/42−3/43
3/84−3/85
9/20−9/22
G21C 17/00−17/003
17/013
17/02
17/025
17/032−17/10
17/108
17/12−17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業室の圧力を検出する作業室圧力検出手段と、減圧室の圧力を検出する減圧室圧力検出手段と、減圧室に設置されて作業者に減圧方法を指示する減圧管理情報を表示する表示手段と、管理装置であって、電子的識別手段に基づいて作業者を識別し、識別された作業者ごとの過去の高気圧作業履歴情報と、作業室の圧力と、に基づいて減圧管理情報を生成し、生成された減圧管理情報を前記表示手段に表示させる、管理装置と、を備える、減圧管理システムであって、前記減圧室が、第1減圧室と、該第1減圧室に直列に接続される第2減圧室と、を少なくとも有する、減圧管理システム、を使用する減圧管理方法であって、
前記第1減圧室に前記作業室から作業者が入室して作業者が識別されるとともに、前記第2減圧室に地上から作業者が入室して作業者が識別されるステップと、
前記第1減圧室を減圧するとともに前記第2減圧室を加圧するステップと、
前記第1減圧室内の圧力と前記第2減圧室内の圧力とを略同一に調整するステップと、
前記第1減圧室に前記第2減圧室から作業者が入室して作業者が識別されるとともに、前記第2減圧室に前記第1減圧室から作業者が入室して作業者が識別されるステップと、
前記第1減圧室を加圧するとともに前記第2減圧室を減圧するステップと、
を備える、減圧管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューマチックケーソン工法において高圧環境下で作業する作業員を減圧症等の健康障害から守り、安全を確保するための減圧管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニューマチックケーソン工法では、ケーソン下部に設けた作業室に圧縮空気を送り込むことにより、空気の圧力で地下水を排除した状態で掘削作業を行っている。従来は、作業員が高気圧下の作業室内に入って掘削作業を行っていたが、近年は、作業員の健康面を考慮して、地上から遠隔操作できる掘削機を用いた無人化掘削が一般的となっている。
【0003】
一方で、掘削機の点検やメンテナンス、修理、解体等の作業を行うためには、依然として作業室内に作業員が立ち入る必要がある。また、硬質な岩盤の場合等では、無人化掘削では対応できず、作業室内に作業員が入って発破の作業等を行う場合がある。
【0004】
作業室における作業開始前には、作業員は地上からケーソンに設置されたマンロックに入り、作業室と同じ圧力まで加圧した後、マンロックの作業室側のハッチを開けて作業室に移動して作業を行う。作業終了後には、作業室からマンロックに入り、作業室側のハッチを閉めた後に、大気圧まで時間をかけて減圧してから、地上に帰還するようになっている。
【0005】
このとき、減圧を急激に行うと、体内の不活性ガス(窒素ガス)が体外に排出しきれずに気泡となって様々な障害が発生する。これを一般に減圧症という。減圧症を発生させないためには、作業室内の圧力や作業時間等に応じて、減圧速度や停止圧力、停止時間等の減圧管理情報を決定・管理する必要がある。
【0006】
減圧管理を実施する減圧管理システムとして、例えば特許文献1には、作業者が携帯型端末を携帯することによって携帯型端末に圧力の経時変化を記録し、記録と減圧管理情報とを照合するようにした技術が記載されている。この特許文献1の構成によれば、管理ミスを防止して作業者の安全性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−284145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の減圧管理システムを含む従来の管理システムは、作業者がタッチパネルで入室者を入力(選択)して特定するようになっている。そのため、入室者の入力作業に時間がかかるうえ、入室者を誤って入力する可能性があった。
【0009】
そこで、本発明は、入室者を迅速かつ正確に特定することのできる減圧管理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の減圧管理システムは、作業室の圧力を検出する作業室圧力検出手段と、減圧室の圧力を検出する減圧室圧力検出手段と、減圧室に設置されて作業者に減圧方法を指示する減圧管理情報を表示する表示手段と、作業者に個別に付加される電子タグと、減圧室に設置されて前記電子タグを読み取る電子タグリーダと、管理装置であって、読み取られた前記電子タグに基づいて作業者を識別し、作業者ごとの過去の高気圧作業履歴情報と、作業室の圧力と、に基づいて減圧管理情報を生成し、生成された減圧管理情報を前記表示手段に表示させる、管理装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明の減圧管理システムは、作業室圧力検出手段と、減圧室圧力検出手段と、減圧室に設置されて減圧管理情報を表示する表示手段と、作業者に個別に付加される電子タグと、減圧室に設置されて電子タグを読み取る電子タグリーダと、管理装置であって、読み取られた電子タグに基づいて作業者を識別し、作業者ごとの過去の高気圧作業履歴情報と、作業室の圧力と、に基づいて減圧管理情報を生成し、生成された減圧管理情報を表示手段に表示させる、管理装置と、を備えている。このような構成であれば、従来のようなタッチパネルを使用した入室者の入力作業(選択作業)は不要となり、減圧室に入ることで自動的に入室者が特定されるようになる。このため、入力作業に要する時間を短縮するとともに、入力の誤りを防止することでいっそう安全に減圧管理できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ニューマチックケーソンの全体構成を示す断面図である。
図2】減圧管理システムの制御系の構成を示すブロック図である。
図3】減圧管理システムの処理の流れを示すフローチャートである。
図4】マンロック内のタッチパネルの表示例であり、入室者の確認画面である。
図5】マンロック内のタッチパネルの表示例である。(a)は加圧と減圧の選択の表示画面、(b)は加圧中に示される表示画面、(c)は減圧中に示されるグラフ表示画面である。
図6】モニタの表示例であり、(a)はマンロック内のタッチパネルに減圧中に示される数値表の表示画面、(b)は第1管理装置のモニタに表示される計測値一覧表の表示画面、(c)は第1管理装置のモニタに表示される入退場者情報の表示画面である。
図7】第1管理装置のモニタの表示例である。(a)はマンロック内の圧力の経時変化をグラフ表示した表示画面、(b)及び(c)は計測情報の表示画面、(d)は減圧表のデータの表示画面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0014】
(ニューマチックケーソンの構成)
まず、図1を用いて本発明の減圧管理システムSを備えるニューマチックケーソン1の全体構成について説明する。図1に示すように、ニューマチックケーソン1の下部には、先端が細くなった刃口2が形成されており、この刃口2の内面と作業室スラブ4の下面とに囲まれて作業室3が形成されている。作業室3内には、少なくとも1台以上の掘削機51、52が配置されており、遠隔操作される掘削機51、52によって地盤を掘削してニューマチックケーソン1を沈下させていくようになっている。
【0015】
作業室3からは、地上に向かってマテリアルシャフト7が延びており、上部にマテリアルロック8が設置されている。同様に、作業室3からは、地上に向かって少なくとも1以上のマンシャフト9A、9Bが延びており、上部にそれぞれマンロック10A、10Bが設置されている。この他、図示を省略するが、作業室3やマンロック10A、10B内に圧縮空気を送り込んだり排気したりするための圧気設備が配置されている。
【0016】
ニューマチックケーソン1に近接する地上には、中央監視室6が設置されている。中央監視室6では、掘削機51、52、マテリアルシャフト7及びマテリアルロック8を介した資材の搬入と掘削した土砂の搬出、マンシャフト9A、9B及びマンロック10A、10Bを介した作業員の入退室、マンロック10A、10B内での加圧、減圧等の圧力管理、ケーソンの沈下量、傾斜等の姿勢表示等、全体の監視や管理が行われる。
【0017】
(減圧管理システムの構成)
次に、図2を用いて、本実施例の減圧管理システムSの構成について説明する。減圧管理システムSは、作業室3の圧力を検出する作業室圧力検出手段としての圧力計41と、減圧室であるマンロック10A(10B)の圧力を検出する減圧室圧力検出手段としての圧力計42と、作業者に個別に付加される電子タグであるICタグ61と、減圧室であるマンロック10A(10B)に設置されて電子タグであるICタグ61を読み取る電子タグリーダとしてのICタグリーダ(44A、44B)と、減圧室であるマンロック10A(10B)に設置されて作業者に減圧方法を指示する減圧管理情報を表示する表示手段かつ第2管理装置としてのタッチパネル43であって、読み取られたICタグ61に基づいて作業者を識別(特定)し、識別(特定)された作業者ごとの過去の高気圧作業履歴情報と、作業室3の圧力と、に基づいて減圧管理情報を生成し、生成された減圧管理情報を表示するタッチパネル43と、第1管理装置として高気圧作業履歴情報と減圧管理情報を管理するPC30、から構成されている。
【0018】
このように、本実施例の減圧管理システムSは、管理装置として、第1管理装置であるPC30と、第2管理装置であるタッチパネル43と、を備えている。なお、ここでは説明の便宜上、「第1」及び「第2」という表現を用いたが、これらは両者の主従関係を規定するものではなく、両者は並列関係にある。さらに言えば、いずれか一方のみで高気圧作業履歴情報と減圧管理情報を管理するように構成することもできる。
【0019】
すなわち、作業室3には、作業室圧力検出手段としての圧力計41が設置されている。同様に、マンロック10A(10B)には、減圧室圧力検出手段としての圧力計42が設置されている。そして、圧力計41、42によって計測された圧力は、シーケンサやデータロガー等を介して第1管理装置であるPC30へ入力されるとともに、第2管理装置であるタッチパネル43にも当日の管理に必要十分なデータが共有される。
【0020】
また、マンロック10A(10B)には、作業者に減圧方法を指示するとともに各種の情報を表示する表示手段としてのタッチパネル43と、ICタグ61を読み取る電子タグリーダとしてのICタグリーダ(44A、44B)と、が設置されている。ICタグリーダ(44)は、マンロック10A(10B)内の所定位置に配置されたIC読み取りアンテナ44Aと、ICタグリーダ制御装置44Bと、から構成される。そして、読み取られたICタグ61に基づく作業者ごとの識別情報はタッチパネル43(第2管理装置)およびPC30(第1管理装置)へ入力される。
【0021】
さらに、第2管理装置としてのタッチパネル43で生成された減圧管理情報は、表示手段かつ第2管理装置としてのタッチパネル43及び第1管理装置としてのPC30と共有され、そのモニタ上でも表示される。なお、ここでは、表示手段としてタッチパネル43を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、表示手段としては通常のモニタ(出力・表示のみ)を使用することもできる。
【0022】
さらに、中央監視室6には、第1管理装置としてのパーソナルコンピュータ30(以下、「PC30」と称する)が配置されている。PC30は、減圧方法を管理するための種々の管理情報や制御情報を入力するための入力装置と、管理者に情報を報知、あるいは用紙に印刷して記録に残すための出力装置と、減圧方法を管理するための制御を行う制御プログラム、及び、種々の管理情報や制御情報を記憶する記憶装置と、各情報を処理する処理装置と、から構成されている。
【0023】
入力装置は、例えば、操作パネルや入力ポート、受信装置等で構成されている。また、出力装置は、例えば、モニタやプリンタ、出力ポート、送信装置等で構成されている。また、記憶装置は、例えば、HDDやSSD等で構成されている。記憶装置には、現在行われている作業での圧力と加圧時間、作業者の会社名、作業者名、高気圧下作業履歴、減圧履歴、酸素暴露履歴等の作業者毎の管理情報と、これらの管理情報に基づいて減圧プログラムを作成するための計算式、減圧テーブル(減圧表)、及び、酸素暴露限界の数値データ等が記憶されている。
【0024】
そして、本実施例の第1管理装置としてのPC30は、識別・特定された作業者ごとの過去の高気圧作業履歴情報のうち当日の管理に必要なデータと、減圧テーブル等の数値データを第2管理装置であるタッチパネル43と共有する。第2管理装置であるタッチパネル43は、作業室3の圧力(の経時変化、履歴)と、に基づいて減圧管理情報を生成し、生成された減圧管理情報を表示手段としてのタッチパネル43に表示させるようになっている。この高気圧作業履歴情報は、例えば、現在行われている作業での圧力と加圧時間又は作業時間、作業者の会社名、作業者名、高気圧下作業履歴、減圧履歴、酸素暴露履歴等を含む、作業者毎の管理情報である。減圧管理情報は、停止圧力と停止時間を定めた、いわゆる減圧用タイムテーブルである。なお、高圧則改定後は、減圧用タイムテーブルは、混合ガスや酸素減圧にも対応した計算方法や条件が提示されて、事業者が設定できるようになっている。
【0025】
そして、本実施例では、作業者Hが作業者毎に用意されたヘルメット60を装着するようになっており、各自のヘルメット60(の後頭部に対応する位置)には、作業者H個人を識別・特定するための電子タグとしてのICタグ61が装着されている。なお、ICタグ61は、ヘルメット60に装着することが好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば、腕に装着してもよいし、カード等に付加して首から下げるようにしてもよい。
【0026】
そして、ICタグ61をICタグリーダ(44A、44B)で読み取ることで特定された識別情報に基づいて、第2管理装置であるタッチパネル43において、この識別情報に紐付けられた個人の管理情報−例えば、会社名、氏名、高気圧下作業履歴、減圧履歴、酸素暴露履歴等の管理情報−が読み込まれるようになっている。上述したように、その後にタッチパネル43では、現在行われている作業での圧力と加圧時間と、この作業者毎の管理情報と、に基づいて減圧管理情報が生成される。
【0027】
なお、複数の作業者H、・・・が、一度に減圧室であるマンロック10A(10B)に入室して減圧する場合には、タッチパネル43は、識別された複数の作業者H、・・・のうち、過去の高気圧作業履歴情報が最も高位となっている作業者の減圧管理情報を生成するようになっている。ここにおいて、作業者の高気圧作業履歴情報が最も高位となる、とは、作業気圧が高い、又は、作業時間が長いなど、より減圧停止時間の長いタイムテーブルを必要とすることを意味している。
【0028】
(減圧管理システムの処理フロー)
次に、減圧管理システムSの処理の流れについて、図3のフローチャートを用いて説明する。はじめに、作業者Hは、ICタグ61が付加されたヘルメット60を装着して、マンロック10A(10B)に入室する(STEP1)。
【0029】
作業者Hがマンロック10A(10B)に入室すると、作業者Hのヘルメット60に付加されたICタグ61が、マンロック10A(10B)内に配置されたIC読取アンテナ44Aによって読み取られ、ICタグリーダ制御装置44Bによって識別情報が一時的に記録される。この識別情報は、直ちにタッチパネル43に伝送されて、タッチパネル43では識別情報に関連付けられている作業者の会社名及び氏名が読み込まれて、図4に示すように、タッチパネル43の表示面に会社名と氏名の確認画面が表示される。作業者Hが「OK」を選択すると、タッチパネル43及びこのことが伝送されたPC30は、高気圧下の作業開始時刻と作業者の識別情報である会社名及び氏名とを記録する(STEP2)。
【0030】
続いて、タッチパネル43の表示面には、図5(a)に示すように加圧か減圧かの選択画面が表示される。作業者H(または管理者)が加圧を選択すると、加圧が開始される(STEP3)。その後、マンロック10A(10B)の圧力が作業室3内と同じ圧力になるまで加圧される。加圧中は、タッチパネル43の表示面には、図5(b)に示すようにマンロック内の圧力、作業室内の圧力(函内圧力)、及び、加圧開始からの経過時間等が表示されている。
【0031】
マンロック10A(10B)内の圧力が作業室3内と同じ圧力になると、作業者Hは、マンロック10A(10B)の下部のハッチを開けて作業室3へ入って、所定の作業を行う(STEP4)。
【0032】
作業終了後、作業者Hは、マンロック10A(10B)に移動し(STEP5)、入室時と略同様に、作業者の識別情報と高気圧下の作業終了時刻とがPC30に記録される(STEP6)。すなわち、作業者Hのヘルメット60に付加されたICタグ61が、IC読取アンテナ44Aによって読み取られ、ICタグリーダ制御装置44Bによって識別情報が特定・記録される。この識別情報は、タッチパネル43及びPC30に伝送されて、識別情報に関連付けられている作業者の会社名及び氏名が読み込まれて、図4に示すように、タッチパネル43の表示面に会社名と氏名の確認画面が表示される。作業者Hが「OK」を選択すると高気圧下の作業終了時刻と作業者の識別情報である会社名と氏名がタッチパネル43及びPC30に記録される。
【0033】
そして、タッチパネル43では、減圧時の減圧方法を含む減圧管理情報が作成され(STEP7)、作業者に最適な減圧プログラムがタッチパネル43の表示面を通じて指示される(STEP8)。この減圧プログラムの作成にあたっては、作業者の加圧時間、作業中に圧力計41で計測した最高圧力と作業時間、予め記録されている作業者の高気圧下作業履歴、減圧履歴および酸素暴露履歴に基づいて減圧時の減圧方法を含む減圧管理情報が生成され、生成された減圧管理情報に基づく減圧プロクラムに従ってマンロック10A(10B)内の減圧方法が減圧管理図等を用いて作業者に指示される。加えて、作業者の高気圧下作業履歴、減圧履歴および酸素暴露履歴等の減圧管理情報が更新して記録される。
【0034】
この減圧管理情報を生成する際には、体内に溶け込んでいる窒素ガス圧を考慮し、1日の作業回数や作業日数等の高気圧下作業履歴と減圧履歴に基づいて減圧プログラムを補正する。また、酸素暴露限界も考慮に入れ、1日当たりの許容量や1週間の合計許容量等も考慮して酸素吸入時間を設定並びに管理する。これによって、酸素暴露許容量(UPTD)の管理もできる。
【0035】
続いて、タッチパネル43の表示面には、図5(a)に示したように加圧か減圧かの選択画面が表示され、作業者H(または管理者)が減圧を選択すると、減圧が開始される(STEP9)。マンロック10A(10B)内の圧力と減圧方法等は中央監視室6の管理者によって、当該マンロック10A(10B)内の圧力計42の圧力を測定しつつ制御される。この際、中央監視室6のモニタには、例えば図7(a)に示すようにマンロック圧力の経時変化を示すグラフ(減圧表のデータを破線24で示し、マンロック内の圧力実測値を実線25で示す)、図7(b)、(c)に示すような計測情報、図7(d)に示すような減圧表などが表示される。
【0036】
マンロック圧力の経時変化は、減圧表のデータが破線24で、マンロック内の圧力が実線25でそれぞれ示されるように、理論値と実測値を対比して表示することにより、容易に異常を認識できるようになっている。また、計測情報としては、計測時間(最新データの計測時間)、マンロックNo(表示している経時図のマンロックの番号)、現在の状況(待機中、加圧中、減圧中等)、マンロックの圧力、函内圧力等を表示することで、管理者に減圧時の減圧方法だけでなく作業全体の状況を把握できるように各種の情報を報知し、かつ注意を喚起するようになっている。さらに、減圧表を表示することで、管理者の状況の把握を補助するようになっている。
【0037】
この減圧中、タッチパネル43の表示面には、図5(c)に示すような減圧プログラムのグラフ表示、又は、図6(a)に示すように減圧プログラムの数値表示が行われ、作業者によっていずれか一方の表示が選択可能になっている。
【0038】
また、酸素呼吸を併用する場合には、タッチパネル43の表示面に酸素吸入開始時刻、酸素吸入時間、休止時間および酸素吸入終了時刻等の情報が表示され、作業者はこの情報に従ってマンロック10A(10B)内のマスクを用いて酸素吸入を行う。酸素吸入を行った場合、酸素暴露履歴は管理装置としてのタッチパネル43及びPC30に記録並びに更新され、減圧管理情報の生成の際に用いられる。
【0039】
減圧が終了すると、終了したことがタッチパネル43の表示面に表示される(STEP10)。減圧終了後、作業者Hはマンロック10A(10B)から退室する(STEP11)。
【0040】
なお、本実施例では作業者Hが同一のマンロック10Aから入退室する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、大規模なニューマチックケーソンでは多数の作業員が複数のマンロックから出入りするため、複数のマンロックを異なる減圧プログラムに従って減圧方法を制御し、管理装置としてのタッチパネル43及びPC30で各減圧プログラムに適する作業者または同時に同一作業を行うパーティーを選択して各マンロックへ振り分ける指示を行うようにすれば、より効率的に減圧ができる。
【0041】
(入力作業が錯綜する例)
次に、マンロックに入室する作業者の入力作業(選択)が錯綜してミスが生じやすい(1)〜(3)の場合について説明する。
【0042】
(1)入退出の入れ替わり時
・ここでは、主室と副室の2つのマンロック(3、3)を、同一のマンシャフト(9A)上に直列に備える例について説明する。
・加減圧時間のタイムロスを無くすために、主室で減圧、副室で加圧を行い、同圧になった時点で、主室の入室者と副室の入室者が入れ替わる。その後、主室で加圧、副室で減圧を行う。
・高気圧下の情報は、PC(30)に伝送されて一括管理されているため、使用するタッチパネル(43)が変わっても継続管理が可能となっている。
・主室側
減圧 → 停止 → 人員の入替え → 加圧にセット → 加圧再開
→ 加圧終了 → 作業室に移動
・副室側
加圧 → 停止 → 人員の入替え → 減圧にセット → 減圧再開
→ 減圧終了 → 地上へ移動
【0043】
より詳細に言うと、本実施例の減圧管理システムSを使用する減圧管理方法は、減圧室3が、第1減圧室と、該第1減圧室の上方に接続される第2減圧室と、を少なくとも有していることが前提となっている。そして、時系列に沿って以下のステップS1からステップS5を順に実施している。
【0044】
(ステップ1)第1減圧室に作業室から作業者が入室して作業者が識別されるとともに、第2減圧室に地上から作業者が入室して作業者が識別される。
(ステップ2)第1減圧室を減圧するとともに第2減圧室を加圧する。
(ステップ3)第1減圧室内の圧力と第2減圧室内の圧力とを略同一に調整する。
(ステップ4)第1減圧室と第2減圧室の作業者が入れ替わる。すなわち、第1減圧室に第2減圧室から作業者が入室して作業者が識別されるとともに、第2減圧室に第1減圧室から作業者が入室して作業者が識別される。
(ステップ5)第1減圧室を加圧するとともに第2減圧室を減圧する。
(その後(ステップ6))第1減圧室から作業室へ作業者が移動して作業し、第2減圧室から地上へ作業者が移動する。
【0045】
この場合、主室(第1減圧室)と副室(第2減圧室)で2回ずつ、合計4回の入室者の入力(選択)及び確認作業が必要となるうえ、複数の作業者が入れ替わることで入力ミスを生じやすい状況となっている。このような場合であっても、本実施例の減圧管理システムSを使用すれば、入力作業の時間を大きく短縮し、かつ、入力ミスを防止することができる。
【0046】
(2)1人の作業員が複数のケーソンで作業する場合
・橋脚P1とP2で作業する例について説明する。
・橋脚P1は作業気圧pp1(MPa)で、橋脚P2は作業気圧pp2(MPa)で、両者ともに午前及び午後の2回、ケーソン内で作業可能な気圧範囲にあるものとする。
<午前橋脚P1、午後橋脚P2で作業>
・午前中、作業気圧pp1、作業時間t1で作業した場合、作業気圧pp1、作業時間t1に合致したタイムテーブルで減圧を行う。
・午後、作業気圧pp2,作業時間t2で作業した場合、午前中の高気圧下履歴情報を加味した上で最適なタイムテーブルで減圧を行う。
<午前橋脚P2、午後橋脚P1で作業>
・午前中、作業気圧pp2、作業時間t2で作業した場合、作業気圧pp2、作業時間t2に合致したタイムテーブルで減圧を行う。
・午後、作業気圧pp1,作業時間t1で作業した場合、午前中の高気圧下履歴情報を加味した上で最適なタイムテーブルで減圧を行う。
・作業員の一部が、両方の橋脚で作業した場合には、作業員の高気圧下履歴情報から一番高位のタイムテーブルを使用して減圧を行う。
【0047】
(3)加圧と減圧で異なるマンロックを使用する場合
・第1マンロックで加圧して作業室に入り、作業終了後に第2マンロックで減圧して外に出る例について説明する。
・第1マンロックで加圧する。
・作業室に入り作業を行う。
・第2マンロックで減圧する。高気圧下の履歴情報はPC(30)に保存されて一括管理されるとともに、個別のタッチパネル43にも共有されているので、加圧時の情報を参照し、最適なタイムテーブルを表示して、減圧を行う。
【0048】
(効果)
次に、本実施例の減圧管理システムSの奏する効果を列挙して説明する。
【0049】
(1)上述してきたように、本実施例の減圧管理システムSは、作業室3の圧力を検出する作業室圧力検出手段としての圧力計41と、減圧室であるマンロック10A(10B)の圧力を検出する減圧室圧力検出手段としての圧力計42と、作業者に個別に付加される電子タグであるICタグ61と、減圧室であるマンロック10A(10B)に設置されて電子タグであるICタグ61を読み取る電子タグリーダとしてのICタグリーダ(44A、44B)と、減圧室であるマンロック10A(10B)に設置されて作業者に減圧方法を指示する減圧管理情報を表示する表示手段かつ第2管理装置としてのタッチパネル43であって、読み取られたICタグ61に基づいて作業者を識別(特定)し、識別(特定)された作業者ごとの過去の高気圧作業履歴情報と、作業室3の圧力と、に基づいて減圧管理情報を生成し、生成された減圧管理情報を表示するタッチパネル43と、第1管理装置として高気圧作業履歴情報と減圧管理情報を管理するPC30、を備えている。
【0050】
このような構成であれば、従来のようなタッチパネルを使用した手作業の入室者の入力作業(選択作業)は不要となり、マンロック10A(10B)に入ることで自動的に入室者が特定されるようになる。このため、入力作業に要する時間を短縮するとともに、入力の誤りを防止することでいっそう安全に減圧管理できる。
【0051】
(2)また、電子タグであるICタグ61は、作業者が装着するヘルメット60に付加されるようにすれば、ヘルメット60は作業者が必ず装着するものであるため、ICタグ61を装着し忘れることがなく、確実に減圧管理を実施することができる。
【0052】
(3)さらに、第2管理装置としてのタッチパネル43は、識別された複数の作業者のうち、過去の高気圧作業履歴情報が最も高位となっている作業者の減圧管理情報を生成するようになっているため、より安全側となるように減圧管理を実施することができる。
【0053】
(4)また、本実施例の減圧管理方法は、上述したいずれかの減圧管理システムSを使用する減圧管理方法であって、マンロックが、第1マンロックと、この第1マンロックの上方に接続される第2マンロックと、を少なくとも有することが前提となっている。そして、減圧管理方法は、第1マンロックに作業室3から作業者が入室して作業者が識別されるとともに、第2マンロックに地上から作業者が入室して作業者が識別されるステップと、第1マンロックを減圧するとともに第2マンロックを加圧するステップと、第1マンロック内の圧力と第2マンロック内の圧力とを略同一に調整するステップと、第1マンロックに第2マンロックから作業者が入室して作業者が識別されるとともに、第2マンロックに第1マンロックから作業者が入室して作業者が識別されるステップと、第1マンロックを加圧するとともに第2マンロックを減圧するステップと、を備えている。このように、入れ替え作業が発生して作業者の入力・特定作業が複雑に錯綜する場面であっても、本実施例の減圧管理システムSを使用することによって、入力作業の手間を抑制し、かつ、入力ミスを防止して確実な減圧管理が可能等なる。
【0054】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0055】
例えば、実施例では、ICタグ61に基づいて作業者の識別情報が特定された後に、タッチパネル43に確認画面が表示される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、確認画面は必須ではない。
【0056】
また、実施例では、電子的識別手段としてICタグ61を用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ICタグ61の代わりに他の電子的な個人認証手段(例えば顔認証等)の生体認証を使用することもできる。例えば、顔認証システムを用いる場合には、作業者の顔を撮像するための撮像部と、顔を認識して個人を特定するための判別部と、を備え、これにより個人を特定することが可能である。
【0057】
また、実施例では、マンロック3に設置されたタッチパネル43とPC30で高気圧作業履歴情報を共有し、タッチパネル43で減圧管理情報を生成するとともにタッチパネル43に表示しているが、中央監視室のPC30で減圧管理情報を生成し、マンロック3内のタッチパネル43ではそれを表示する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 :ニューマチックケーソン
3 :作業室
6 :中央監視室
7 :マテリアルシャフト
8 :マテリアルロック
9A、9B:マンシャフト
10A、10B:マンロック
30 :パーソナルコンピュータ(第1管理装置、PC)
41 :圧力計
42 :圧力計
43 :タッチパネル(第2管理装置、表示手段)
44 :ICタグリーダ
44A :IC読取アンテナ
44A :取りアンテナ
44B :ICタグリーダ制御装置
51、52:掘削機
60 :ヘルメット
61 :ICタグ
H :作業者
S :減圧管理システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7