特許第6853864号(P6853864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853864樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853864
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   E21D11/10 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-184219(P2019-184219)
(22)【出願日】2019年10月7日
(62)【分割の表示】特願2016-47992(P2016-47992)の分割
【原出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2019-218859(P2019-218859A)
(43)【公開日】2019年12月26日
【審査請求日】2019年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000175021
【氏名又は名称】三井化学産資株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 敬介
(72)【発明者】
【氏名】野城 一栄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】輿石 正己
(72)【発明者】
【氏名】井出 一直
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−167512(JP,A)
【文献】 特開2006−274629(JP,A)
【文献】 特開2004−218352(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0330467(US,A1)
【文献】 輿石正己,構造物の機能保持技術(タフネスコート)によるトンネル覆工の剥落防止効果,土木学会第70回年次学術講演会 講演概要集,2015年 8月 1日,pp.647-648
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00−11/40
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタル又はコンクリート面にプライマーを塗布し、ゼブラ配置でポリウレア樹脂を吹付ける樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法であって、
前記ゼブラ配置は、ポリウレア樹脂の塗膜が、上下方向にのみ連続して形成された所定の間隔をおいて設けられ、ひび割れが必ずポリウレア樹脂の塗膜を通る配置であることを特徴とする樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法において、前記モルタル又はコンクリート面はトンネル覆工内面であることを特徴とする樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥落が懸念されるトンネル覆工をはじめ、橋脚、橋桁等にも適用できるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ひび割れ等の変状があるコンクリート製トンネル覆工に対して、繊維シート等を貼り付け、覆工コンクリートの補強および剥落対策を図る技術は既に開発されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
また、コンクリート構造物であるトンネル全面にプライマー塗装後ポリウレア樹脂を吹き付けて塗膜を形成させることは知られている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−218352号公報
【特許文献2】特開2014−152584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のトンネル覆工の剥落対策工法では、繊維を織り込んだシート等をトンネル内面に、一定の面積で貼り付け、コンクリートの剥落塊を全体的に覆うことにより効果を得ていた。この剥落対策工法では、貼付けたシートが経年劣化により剥がれて落下したり、垂れ下がって架線に接触する恐れがある。アンカーで端部を固定した場合でも、アンカーの緩みによりアンカー自体が落下する恐れがあり、アンカーのメンテナンスに多大な労力が必要である。
【0006】
また、一般的な剥落対策工法では、覆工内面の変状範囲全面をシートで覆ってしまうため、対策後のコンクリート覆工の変状点検、変状進展の確認は不可能である。
【0007】
また、ひび割れを覆ってしまうので、ひび割れ部から流れ出る漏水が剥落対策工法によってせき止められ、剥落対策工法やトンネル覆工全体に水圧が作用してしまう恐れがある。さらに、繊維シート等により過剰に引張補強を行った場合には、せん断破壊先行型の破壊モードとなってしまう。せん断破壊は、曲げ破壊と比べ、脆性的であるため、せん断破壊先行となることは望ましくない。なお、高強度、高剛性の薄い材料で内面だけに曲げ補強をしても、耐荷性能はあまり改善しないことも実験で確認されており、剥落対策工法は必ずしも高強度、高剛性の材料を使うべきであるとは言えない。
【0008】
従来公知のポリウレア樹脂の塗膜をトンネル全面に形成させた場合、塗膜が垂れ下がったときには、架線に接触したりする不都合が生じる恐れがあった。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、剥落対策工の落下や垂れ下がりの心配がなく、剥落対策後のモルタル又はコンクリート面の変状点検、変状進展の確認が容易であり、しかも、剥落対策工の背面に滞水しない、樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法であって、モルタル又はコンクリート面にプライマーを塗布し、ゼブラ配置でポリウレア樹脂を吹付け、前記ゼブラ配置は、ポリウレア樹脂の塗膜が、上下方向にのみ連続して形成された所定の間隔をおいて設けられ、ひび割れが必ずポリウレア樹脂の塗膜を通る配置であることを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法において、前記モルタル又はコンクリート面はトンネル覆工内面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)吹付けにより大面積のモルタル又はコンクリート面に容易にかつ素早く千鳥配置またはゼブラ配置のポリウレア樹脂の補強パターンを形成することができる。
(2)ポリウレア樹脂は素材自体が軽いため、1枚当たりの吹付け面積を適切に設定することで、落下による列車への影響をなくすことができる。
(3)千鳥配置として、最大長さを短くした場合、垂れ下がり架線へ接触する心配がない。
(4)経年劣化による剥がれの心配が不要なため、アンカーを必要とせず、メンテナンスコストの低い剥落対策工を提供することができる。
(5)補強後のモルタル又はコンクリート面のひび割れ等の変状や変形の進展を目視にて確認できるため、点検性能に優れ、補強背面に滞水しないことが大きな利点となる。
(6)本発明では、劣化により一部のポリウレアが剥がれてきても、その補修を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例を示す樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法の模式図である。
図2】本発明の実施例を示す千鳥配置のポリウレア樹脂形成を示す図面代用写真である。
図3】本発明の実施例を示す千鳥配置のポリウレア樹脂形成後の図面代用写真である。
図4】本発明の他の実施例を示す樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法は、モルタル又はコンクリート面にプライマーを塗布し、千鳥配置又はゼブラ配置でポリウレア樹脂を吹付ける。
【0015】
本発明において、千鳥配置とはポリウレア樹脂の塗膜が、横方向(水平方向)及び上下方向(鉛直方向)に所定の間隔において設けられており、この間隔は連続しており、相互に連結して網目状を構成しているが、ポリウレア樹脂の塗膜が形成する島の下端は、水平方向に隣り合う塗膜の島の下端とは上下方向の高さは同じではない配置状態をいう。したがって、千鳥配置では、ポリウレア樹脂の塗膜が形成する連続した間隔は、水平方向に一直線となることはない。ポリウレア樹脂の塗膜が形成する島の形状は、通常は四角形であるが、凸状曲線及び/又は凹状曲線で形成されるような不定形であってもよく、また円形もしくは楕円形のような形状をしていてもよい。島状態の好ましい形状は四角形である。
【0016】
また、本発明のゼブラ配置とは、上記ポリウレア樹脂の塗膜の間隔が一方向(図4の場合は上下方向)にのみ連続して形成されている状態をいう。この場合同間隔はポリウレア樹脂の塗膜との関係においては網目状を構成してはいない。いずれにしても、本発明ではポリウレア樹脂の塗膜は、連続した所定の間隔をおいて設けられていることが特徴である。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の実施例を示す樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法の模式図である。
【0019】
この図において、1はトンネル、2はトンネル覆工、3はモルタル又はコンクリート面、4はひび割れ、5は吹付けられた千鳥配置のポリウレア樹脂である。例えば、トンネル覆工の場合、土圧によるひび割れは基本的にトンネル延長方向に水平に伸びるが、本発明では、ポリウレア樹脂を千鳥配置としていることで、必ずひび割れがポリウレア樹脂5を通ることとなる。覆工の剥落は、目地や潜在的なひび割れ、外力的なひび割れ等が閉合して発生することが一般的であるため、これらのひび割れが千鳥配置のポリウレア樹脂を全て避けることは考えにくく、十分な剥落対策効果を有している(後述するゼブラ配置も同様である)。
【0020】
ポリウレア樹脂は剛性が小さく伸び性能が大きいため、標準設計厚さ (1.5mm) の吹付けを行った場合は過度の引張補強にはならず、大きな変形にも追随するため、変形を目視にて確認できる。
【0021】
さらに、補強後のひび割れ等の変状の進展をポリウレア樹脂の離間において目視にて確認できるため点検性能に優れ、内面補強工の背面に滞水しないことが大きな利点と考えられる。
【0022】
図2は本発明の実施例を示す千鳥配置のポリウレア樹脂形成を示す図面代用写真、図3は本発明の実施例を示す千鳥配置のポリウレア樹脂形成後の図面代用写真である。
【0023】
図2において、11はポリウレア樹脂の離間箇所形成のためのバッカー、12はポリウレア樹脂の形成箇所である。
【0024】
図3において、21はトンネル覆工、22は吹付けられた千鳥配置のポリウレア樹脂である。
【0025】
欠損部(ポリウレア樹脂を吹付けない部分)には覆工と縁切りできるバッカー11を設置してからポリウレア樹脂22を吹付けることにより、容易に大面積のモルタル又はコンクリート面に対して素早く、図3のような千鳥の補強パターンを形成できる(後述するゼブラ配置も同様である)。なお、図示されてはいないが、ポリウレア樹脂の吹き付けの前に、モルタル又はコンクリート面にプライマーを塗布している。
【0026】
ポリウレア樹脂の塗膜の間隔は、5mm〜100mm程度であって、好ましくは10mm〜50mmである。
【0027】
本発明では、千鳥配置の場合、ポリウレア樹脂1枚当たりのサイズは、幅が100mm以下、好ましくは100mm〜50mm、長さが500mm以下、好ましくは500mm〜300mm、厚さが1.5mm以下、好ましくは1.5mm〜1.3mmであることが望ましい。即ち最大で幅100mm×長さ500mm×厚さ1.5mmであることが望ましい。
【0028】
また、ポリウレア樹脂の吹付量としては、1.5kg/ m2 以下、好ましくは1.5〜1.3kg/ m2 であることが望ましい。吹付量が1.5kg/ m2 の場合、ポリウレア樹脂1枚当たりの重量は75gとなるので、1枚当たりの重量は75g以下、好ましくは75g〜65g程度が好ましい。
【0029】
ポリウレア樹脂は素材自体が軽く、1枚あたりの吹付け面積を、例えば上記の値に適切に設定することにより、万が一落下しても列車に影響はない。さらに、千鳥配置として、最大長さを短くした場合には、垂れ下がり架線に接触することもない。経年劣化による剥がれの心配が不要なため、アンカーを必要とせずに、剥落対策工としてのメンテナンスコストが低くなるように構成することができる。
【0030】
図4は本発明の他の実施例を示す樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法の模式図である。
【0031】
この図において、31はトンネル、32はトンネル覆工、33はモルタル又はコンクリート面、34はひび割れ、35は吹付けられたゼブラ配置のポリウレア樹脂である。
【0032】
この実施例では千鳥配置に代えてゼブラ配置のポリウレア樹脂を配置する。
【0033】
図1と同様に、トンネル延長方向に水平に伸びるひび割れが、必ずポリウレア樹脂を通ることとなり、十分な剥落対策効果を奏することができる。
【0034】
上記実施例では、トンネル覆工を例とした実施例を示したが、本発明の樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法は、橋脚、橋桁等、モルタル又はコンクリート面を有する他の構造物にも適用可能である。
【0035】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法は、アンカーを必要とせず、剥落対策後のモルタル又はコンクリート覆工の変状点検、変状進展の確認が容易であり、しかも、内面補強工の背面に滞水しない、樹脂吹付けによるモルタル又はコンクリート面の剥落対策工法として利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1、31 トンネル
2、21、32 トンネル覆工
3、33 モルタル又はコンクリート面
4、34 ひび割れ
5、22 千鳥配置のポリウレア樹脂
11 バッカー
12 ポリウレア樹脂の形成箇所
35 ゼブラ配置のポリウレア樹脂
図1
図2
図3
図4