特許第6853880号(P6853880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853880
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】細胞移動方法及び細胞移動装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20210322BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C12M1/26
   C12N5/00
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-517472(P2019-517472)
(86)(22)【出願日】2018年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2018009104
(87)【国際公開番号】WO2018207450
(87)【国際公開日】20181115
【審査請求日】2019年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2017-93026(P2017-93026)
(32)【優先日】2017年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】井爪 洋平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大
【審査官】 坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第15/193970(WO,A1)
【文献】 特開平04−142441(JP,A)
【文献】 特開2013−141456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 − 3/10
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイズの異なる複数の細胞を含む集合体から、細胞のピッキング手段を備えた細胞移動装置を用いて所要の細胞をピッキングさせ、所定の移動先へ移動させる際の前処理と、この前処理の後に細胞を移動する移動処理とを含む細胞移動方法であって、
前記前処理は、
フィルターを用いて、前記集合体に含まれる前記複数の細胞のうち、前記所要の細胞をサイズに応じて少なくとも2つに区分する区分工程と、
前記ピッキング手段によりピッキングが可能な位置へ、前記区分された細胞を各々区分された状態で供給する供給工程と、を含み、
前記移動処理は、
前記供給工程により供給された前記細胞から、移動対象とする細胞を選別する選別工程と、
前記フィルターのメッシュサイズの入力を受け付ける入力工程と、
前記ピッキング手段を用いて細胞をピッキングする工程と、
前記ピッキング手段を所定方向へ移動させる移動工程と、を含み、
前記入力工程では、移動対象とする細胞のサイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付け、
前記選別工程は、前記サイズの上限又は下限を前記選別の基準要素として扱うものであって、
前記入力工程では、前記サイズの上限又は下限が前記メッシュサイズに対して矛盾するときは、前記サイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付けない、
細胞移動方法。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞移動方法において、
前記所要の細胞が、予め定められた最小サイズを超過するサイズを有する細胞であって、前記集合体から前記最小サイズ以下の細胞を除去する第1除去工程をさらに備える、細胞移動方法
【請求項3】
請求項2に記載の細胞移動方法において、
前記所要の細胞が、予め定められた最大サイズ未満のサイズを有する細胞であって、前記集合体から前記最大サイズ以上の細胞を除去する第2除去工程をさらに備える、細胞移動方法
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞移動方法において、
前記集合体は、サイズの異なる複数の細胞が分散された細胞懸濁液であり、
前記区分工程において、第1サイズの細胞を通過させる一方で前記第1サイズよりも大きい第2サイズの細胞を通過させないフィルターが用いられる、細胞移動方法
【請求項5】
請求項3を引用する請求項4に記載の細胞移動方法において、
前記第2除去工程において、メッシュサイズが100μmのフィルターが用いられ、
前記区分工程において、メッシュサイズが70μmのフィルターが用いられる、細胞移動方法
【請求項6】
請求項3を引用する請求項4に記載の細胞移動方法において、
前記第1除去工程において、メッシュサイズが40μmのフィルターが用いられ、
前記第2除去工程において、メッシュサイズが100μmのフィルターが用いられ、
前記区分工程において、メッシュサイズが70μmのフィルターが用いられる、細胞移動方法
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞移動方法に使用される細胞移動装置であって、
前記細胞のピッキング手段と、
前記ピッキング手段を所定方向へ移動させる移動手段と、
前記供給工程により供給された前記細胞から、移動対象とする細胞を選別する選別手段と、
用いられた前記フィルターのメッシュサイズの入力を受け付ける入力部と、を備え、
前記選別手段は、入力された前記メッシュサイズに応じたサイズを有する細胞について予め定められた選別基準に基づいて前記選別を行い、
前記ピッキング手段は、前記選別手段が選別した細胞をピッキングし、
前記移動手段は、前記細胞をピッキングした前記ピッキング手段を所定の移動先へ移動させるものであって、
前記入力部は、さらに移動対象とする細胞のサイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付け、
前記選別手段は、前記サイズの上限又は下限を前記選別基準の要素として扱うものであって、
前記入力部は、前記サイズの上限又は下限が前記メッシュサイズに対して矛盾するときは、前記サイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付けない、細胞移動装置。
【請求項8】
請求項7に記載の細胞移動装置において、
前記供給工程では、細胞を保持可能な複数のディッシュが準備され、区分された細胞別に各々前記ディッシュで細胞が保持され、
前記所定の移動先には、細胞を受け入れる複数のウェルを有するマイクロプレートが配置され、
前記ピッキング手段は、前記細胞の吸引及び吐出を行うチップを含み、
前記チップにより前記ディッシュ毎に細胞が吸引され、前記マイクロプレートまで移動された後、前記複数のウェルのうち割り当てられたウェルへ前記チップから前記細胞が吐出される、細胞移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞のピッキング手段を備えた細胞移動装置を用いて所要の細胞をピッキングさせ、所定の移動先へ移動させる細胞移動方法、及び該方法が適用される細胞移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば医療や生物学的な研究の用途では、単細胞、或いは細胞が三次元的に凝集してなる細胞凝集塊、或いは細胞の断片から塊化培養した細胞塊(以下、これらを本明細書では単に細胞という)が、観察、薬効確認、検査若しくは培養等の処理作業のために、マトリクス配列されたウェルを有するマイクロプレートの、前記ウェルに収容されることがある。前記ウェルに収容される細胞は、細胞を収容可能な保持凹部を有するディッシュ上において選別される。
【0003】
すなわち、前記ディッシュには、分注チップを用いて細胞懸濁液に分散された細胞群が撒かれる。ここで撒かれる細胞群は、多様なサイズ、形状の細胞を含む。これらの細胞から、前記ディッシュを撮像して画像処理を施す等して、前記処理作業に適した細胞が選別される。選ばれた細胞は、当該細胞の吸引及び吐出が可能なチップにて前記ディッシュからピッキングされると共に、前記マイクロプレートまで移動され、前記ウェルに吐出される。前記細胞懸濁液は、前記ディッシュに撒かれる前に、前記処理作業に明らかに適さない過大なサイズ及び過小なサイズの細胞を除去するフィルタリングを行うことが望ましい。特許文献1には、癌細胞のフィルタリングについて言及されている。
【0004】
細胞は、そのサイズによって、例えば検査対象物に対する感応性等、素性が大きく異なる場合がある。このため、類似したサイズの単位で前記処理作業を行うことが望ましく、前記ピッキングに際してはサイズ選別が求められることが多い。この場合、過大及び過小なサイズを除去するフィルタリングだけが施された前記細胞懸濁液が前記ディッシュに撒かれると、前記選別の作業に手間を要する。すなわち、過大及び過小なサイズは除去されているとはいえ、前記細胞懸濁液内に含有されている細胞のサイズのバラツキが大きく、例えば画像処理によりサイズ選別を行うにしても選別処理に時間を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5652809号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、細胞のピッキング手段を備えた細胞移動装置を用いて所要の細胞を効率的に移動できるようにする細胞移動方法、及びこれが適用される細胞移動装置を提供することにある。
【0007】
本発明の一局面に係る細胞移動方法は、サイズの異なる複数の細胞を含む集合体から、細胞のピッキング手段を備えた細胞移動装置を用いて所要の細胞をピッキングさせ、所定の移動先へ移動させる際の前処理と、この前処理の後に細胞を移動する移動処理とを含む細胞移動方法であって、前記前処理は、フィルターを用いて、前記集合体に含まれる前記複数の細胞のうち、前記所要の細胞をサイズに応じて少なくとも2つに区分する区分工程と、前記ピッキング手段によりピッキングが可能な位置へ、前記区分された細胞を各々区分された状態で供給する供給工程と、を含み、前記移動処理は、前記供給工程により供給された前記細胞から、移動対象とする細胞を選別する選別工程と、前記フィルターのメッシュサイズの入力を受け付ける入力工程と、前記ピッキング手段を用いて細胞をピッキングする工程と、前記ピッキング手段を所定方向へ移動させる移動工程と、を含み、前記入力工程では、移動対象とする細胞のサイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付け、前記選別工程は、前記サイズの上限又は下限を前記選別の基準要素として扱うものであって、前記入力工程では、前記サイズの上限又は下限が前記メッシュサイズに対して矛盾するときは、前記サイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付けない
【0008】
本発明の他の局面に係る細胞移動装置は、前記細胞のピッキング手段と、前記ピッキング手段を所定方向へ移動させる移動手段と、前記供給工程により供給された前記細胞から、移動対象とする細胞を選別する選別手段と、用いられた前記フィルターのメッシュサイズの入力を受け付ける入力部と、を備え、前記選別手段は、入力された前記メッシュサイズに応じたサイズを有する細胞について予め定められた選別基準に基づいて前記選別を行い、前記ピッキング手段は、前記選別手段が選別した細胞をピッキングし、前記移動手段は、前記細胞をピッキングした前記ピッキング手段を所定の移動先へ移動させるものであって、前記入力部は、さらに移動対象とする細胞のサイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付け、前記選別手段は、前記サイズの上限又は下限を前記選別基準の要素として扱うものであって、前記入力部は、前記サイズの上限又は下限が前記メッシュサイズに対して矛盾するときは、前記サイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付けない
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る細胞移動装置を概略的に示す図である。
図2図2は、前記細胞移動装置による細胞移動作業が行われる前に実行される細胞分注動作を示す図である。
図3図3(A)は、前記細胞移動装置に使用される選別容器が備えるディッシュの上面図、図3(B)は、図3(A)のIIIB−IIIB線断面図である。
図4図4(A)は、前記細胞移動装置に使用されるマイクロプレートの斜視図、図4(B)は、マイクロプレートの断面図である。
図5図5は、前記細胞移動装置の電気的構成を示すブロック図である。
図6図6(A)は、セルフィルターの側面図、図6(B)はセルフィルターの上面視の平面図である。
図7図7は、前記セルフィルターを用いた細胞のフィルタリング作業を説明するための図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る細胞移動時の前処理方法の手順を示す図である。
図9図9は、従来の細胞ピッキング作業を示す模式図である。
図10図10は、本実施形態の細胞ピッキング作業を示す模式図である。
図11図11は、変形例に係る細胞移動時の前処理方法の手順を示す図である。
図12図12は、細胞移動時の前処理から細胞ピッキングの作業の好ましい例を示す図である。
図13図13は、細胞移動時の前処理から細胞ピッキングの作業の好ましい他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る細胞移動時の前処理方法並びに細胞移動装置では、生体由来の細胞、細胞塊或いは細胞凝集塊(スフェロイド;spheroid)等が移動対象物とされる。例えば生体由来の細胞凝集塊は、細胞が数個〜数十万個凝集して形成されている。そのため、細胞凝集塊の大きさは様々である。生きた細胞が形成する細胞凝集塊は略球形であるが、細胞凝集塊を構成する細胞の一部が変質したり、死細胞となっていたりすると、細胞凝集塊の形状は歪になる、あるいは密度が不均一となる場合がある。バイオ関連技術や医薬の分野における試験において、選別ステージ上のディッシュに担持された種々の形状を呈する複数の細胞凝集塊の中から、使用可能な細胞凝集塊をチップでピッキッングし、これをマイクロプレートまで移動する細胞移動装置が用いられる。マイクロプレートでは、細胞凝集塊に対して、観察、薬効確認、検査、培養等の各種の処理が実行される。以下の説明では、上記のような細胞凝集塊を含む意味で、簡略的に細胞Cと表現する。
【0011】
[細胞移動装置の全体構成]
図1及び図2は、細胞移動装置Sの全体構成を概略的に示す図である。ここでは、細胞Cを3つの容器間で移動させる細胞移動装置Sを例示している。細胞移動装置Sは、水平な載置面(上面)を有する透光性の基台1と、基台1の下方側に配置されたカメラユニット5と、基台1の上方側に配置されたヘッドユニット6とを含む。基台1の第1載置位置P1には、ディッシュ2を備えた選別容器11が載置され、第2載置位置P2にはマイクロプレート4が載置されている(図1)。また、基台1の第3載置位置P3には分注容器14が載置されている(図2)。カメラユニット5及びヘッドユニット6は、X方向と、Y方向(図1及び図2の紙面と直交する方向)とに移動可能である。ヘッドユニット6は、細胞移動のために細胞Cの吸引及び吐出を行うチップ12(ピッキング手段)が装着される複数のヘッド61と、細胞分注のために細胞Cの吸引及び吐出を行う分注チップ13が装着される分注ヘッド63とを備える。ヘッド61及び分注ヘッド63は、Z方向に移動可能である。
【0012】
大略的に細胞移動装置Sは、分注容器14から細胞Cを多数含む細胞懸濁液LAを吸引し、該細胞懸濁液LAを選別容器11のディッシュ2上に撒き(以上、分注動作)、ディッシュ2上から使用可能な細胞Cを選別し、使用可能な細胞Cを吸引すると共にこれをマイクロプレート4(ウェル41)に吐出する(以上、細胞移動動作)。図1は、細胞移動装置Sにおいて、前記細胞移動動作の実行部分を示している。図2は、図1の細胞移動動作が行われる前に実行される分注動作を示す図である。この分注動作の際に、本発明に係る細胞移動時の前処理方法が適用される。なお、図1において、図示簡略化のため、分注チップ13の記載は省いている。以下、細胞移動装置Sの各部を説明する。
【0013】
基台1は、所定の剛性を有し、その一部又は全部が透光性の材料で形成される長方形の平板である。好ましい基台1は、ガラスプレートである。基台1をガラスプレートのような透光性材料によって形成することで、基台1の下方に配置されたカメラユニット5にて、基台1の上面に配置された選別容器11(ディッシュ2)及びマイクロプレート4を、当該基台1を通して撮像させることが可能となる。
【0014】
分注容器14は、細胞Cを多数含む細胞懸濁液LAを貯留する、上面開口の容器である。この細胞懸濁液LAには、選別容器11において選別対象となる細胞Cと不可避的に混在する夾雑物とが含まれている。
【0015】
選別容器11は、細胞Cの移動元となる容器であり、培地Lを貯留し、細胞選別用のディッシュ2を培地Lに浸漬される状態で保持している。ディッシュ2は、細胞Cを保持するプレートであり、細胞Cを個別に収容して保持することが可能な保持凹部3を上面に複数有している。培地Lは、細胞Cの性状を劣化させないものであれば特に限定されず、細胞Cの種類により適宜選定することができる。
【0016】
選別容器11は、その上面側に矩形の上部開口11Hを備えている。上部開口11Hは、細胞Cの投入、並びに、選別された細胞Cをピックアップするための開口である。ディッシュ2は、上部開口11Hの下方に配置されている。選別容器11及びディッシュ2は、透光性の樹脂材料やガラスで作製されたものが用いられる。これは、選別容器11の下方に配置されたカメラユニット5により、ディッシュ2に担持された細胞Cを観察可能とするためである。
【0017】
選別容器11には、分注チップ13から細胞懸濁液LAに分散された状態の複数の細胞Cが注入される。分注チップ13は、第3載置位置P3において、多量の細胞Cを含む細胞懸濁液LAを貯留する分注容器14から細胞懸濁液LAを吸引し、当該分注チップ13内に保持する。その後、分注チップ13は、選別容器11の上空位置(第1載置位置P1)へ移動され、上部開口11Hを通してディッシュ2の上面にアクセスする。そして、分注チップ13の先端開口部tが選別容器11の培地Lに浸漬された状態で、分注チップ13内に保持された細胞懸濁液LAに分散された細胞Cがディッシュ2の上へ吐出される。ここで細胞懸濁液LAは、ディッシュ2に撒かれる前に、検査等の用途に明らかに適さない過大なサイズ及び過小なサイズの細胞Cを除去するフィルタリング(前処理)が行われる。この点については、後記で詳述する。
【0018】
ディッシュ2の詳細構造を説明する。図3(A)は、ディッシュ2の上面図、図3(B)3は、図3(A)のIIIB−IIIB線断面図である。ディッシュ2は、ディッシュ本体20と、該ディッシュ本体20に形成される複数の保持凹部3とを備えている。ディッシュ本体20は、所定の厚みを有する平板状の部材からなり、上面21と下面22とを有する。保持凹部3は、上面21の側に細胞Cの受け入れ開口(開口部31)を有する。ディッシュ2は、選別容器11内の培地L中に浸漬される。詳しくは、ディッシュ本体20の上面21が選別容器11内の培地L中に浸漬される一方、下面22が選別容器11の底板に対して間隔を置いた状態で、選別容器11内で保持される(図1参照)。
【0019】
保持凹部3の各々は、開口部31、底部32、筒状の壁面33、孔部34及び境界部35を含む。本実施形態では、上面視で正方形の保持凹部3がマトリクス状に配列されている例を示している。開口部31は、上面21に設けられた正方形の開口であり、選別用のチップ12の先端開口部tの進入を許容するサイズを有する。底部32は、ディッシュ本体20の内部であって、下面22の近くに位置している。底部32は、中心(前記正方形の中心)に向けて緩く下り傾斜する傾斜面である。筒状の壁面33は、開口部31から底部32に向けて鉛直下方に延びる壁面である。孔部34は、底部32の前記中心と下面22との間を鉛直に貫通する貫通孔である。境界部35は、上面21に位置し、各保持凹部3の開口縁となる部分であって、保持凹部3同士を区画する稜線である。
【0020】
各保持凹部3の底部32及び筒状の壁面33は、細胞Cを収容する収容空間3Hを区画している。収容空間3Hには、一般的には1個の細胞Cが収容されることが企図されている。孔部34は、所望のサイズ以外の小さな細胞や夾雑物を収容空間3Hから逃がすために設けられている。従って、孔部34のサイズは、所望のサイズの細胞Cは通過できず、所望のサイズ以外の小さな細胞や夾雑物を通過させるサイズに選ばれている。これにより、選別対象となる細胞Cは保持凹部3にトラップされる一方で、夾雑物等は孔部34から選別容器11の底板に落下する。
【0021】
図1に戻って、マイクロプレート4は、細胞Cの移動先となる容器であり、細胞Cが吐出される複数のウェル41を有する。ウェル41は、マイクロプレート4の上面に開口した有底の孔である。1つのウェル41には、培地Lと共に必要個数(通常は1個)の細胞Cが収容される。マイクロプレート4もまた、透光性の樹脂材料やガラスで作製されたものが用いられる。これは、マイクロプレート4の下方に配置されたカメラユニット5により、ウェル41に担持された細胞Cを観察可能とするためである。
【0022】
図4(A)は、マイクロプレート4の一例を示す斜視図である。マイクロプレート4は、プレート本体40と、このプレート本体40にマトリクス状に配列された複数のウェル41とを含む。細胞Cの吐出時、ウェル41にはチップ12の先端開口部tが進入するので、各ウェル41は余裕を持ってチップ12の進入を許容する開口径を有している。
【0023】
市販されているマイクロプレートには基準サイズが存在する。基準マイクロプレートは、所定の縦×横サイズ(縦85.48mm×横127.76mm)を備え、所定数のウェルを有する。一般的なウェル数は、24×16個(384ウェル)であり、これらウェルが所定のピッチでマトリクス配列されている。図4(B)は、384ウェルのマイクロプレート4の断面図である。図示する通り、マイクロプレート4の長手方向には、24個のウェル41が均等なウェルピッチで配列されている(短手方向には16個)。
【0024】
カメラユニット5は、選別容器11又はマイクロプレート4に保持されている細胞Cの画像を、これらの下面側から撮像するもので、レンズ部51及びカメラ本体52を備える。レンズ部51は、光学顕微鏡に用いられている対物レンズであり、所定倍率の光像を結像させるレンズ群と、このレンズ群を収容するレンズ鏡筒とを含む。カメラ本体52は、CCDイメージセンサのような撮像素子を備える。レンズ部51は、前記撮像素子の受光面に撮像対象物の光像を結像させる。
【0025】
ヘッドユニット6は、細胞懸濁液LAを分注容器14から選別容器11へ、また、細胞Cをディッシュ2からマイクロプレート4へ移動させるために設けられ、複数本のヘッド61及び1本の分注ヘッド63と、これらが組み付けられるヘッド本体62とを含む。各ヘッド61の先端には、細胞Cの吸引及び吐出を行うチップ12(ピッキング手段)が装着されている。分注ヘッド63の先端には、上述の分注チップ13が装着されている。ヘッド本体62は、ヘッド61及び分注ヘッド63を+Z及び−Z方向に昇降可能に保持している。上述の通りヘッドユニット6は、XY方向に移動可能であることから、チップ12及び分注チップ13を所定方向へ移動させる移動手段として機能する。
【0026】
ヘッド61及び分注ヘッド63は、負圧発生機構が付設された中空のロッドからなる。ヘッド61及び分注ヘッド63の中空部内には例えばピストン機構が搭載され、該ピストン機構の動作によってチップ12の先端開口部t、若しくは分注チップ13の先端開口部tに吸引力及び吐出力が与えられる。ヘッド本体62には、前記ピストン機構の動力部と、ヘッド61及び分注ヘッド63を上下方向に移動させる昇降機構及びその動力部(次述のヘッド駆動部65)が内蔵されている。
【0027】
[細胞移動装置の電気的構成]
図5は、細胞移動装置Sの電気的構成を示すブロック図である。細胞移動装置Sは、ヘッドユニット6の移動、ヘッド61及び分注ヘッド63の昇降、細胞Cの吸引及び吐出動作、並びにカメラユニット5の移動及び撮像動作等を制御する制御部7を備える。また、細胞移動装置Sは、カメラユニット5を水平移動させる機構としてカメラ軸駆動部53、ヘッドユニット6を水平移動させる機構としてヘッドユニット軸駆動部64(移動手段)、ヘッド61及び分注ヘッド63を昇降させる機構並びに吸引及び吐出動作を行わせる機構としてヘッド駆動部65を備え、さらに、表示部54及び入力部55を備えている。
【0028】
カメラ軸駆動部53は、ガイドレール5Gに沿ってカメラユニット5を水平移動させる駆動モータを含む。好ましい態様は、ガイドレール5Gに沿ってボールねじが敷設され、該ボールねじに螺合されたナット部材にカメラユニット5が取り付けられ、前記駆動モータが前記ボールねじを正回転又は逆回転させることにより、カメラユニット5を目標位置へ移動させる態様である。
【0029】
ヘッドユニット軸駆動部64は、ガイドレール6Gに沿ってヘッドユニット6(ヘッド本体62)を移動させる駆動モータを含む。好ましい態様は、ボールねじ及びナット部材を具備し、前記駆動モータが前記ボールねじを正回転又は逆回転させる態様である。なお、ヘッド本体62をXYの2方向に移動させる場合は、ガイドレール6Gに沿った第1ボールねじ(X方向)と、第1ボールねじに螺合された第1ナット部材に装着された移動板に搭載された第2ボールねじ(Y方向)とを用いる。この場合、ヘッド本体62は第2ボールねじに螺合された第2ナット部材に装着される(カメラ軸駆動部53も同様)。
【0030】
ヘッド駆動部65は、前記昇降機構のための動力部、前記ピストン機構を駆動するための動力部(例えばモータ)であって、ヘッド本体62に内蔵されている。前記昇降機構はヘッド本体62からヘッド61又は分注ヘッド63が下方に延び出した下降位置と、これらの大部分がヘッド本体62の収容された上昇位置との間で、ヘッド61又は分注ヘッド63を上下移動させる。ピストン機構の動力部は、ヘッド61又は分注ヘッド63内に配置されたピストン部材を昇降させることで、チップ12又は分注チップ13の先端開口部tに、吸引力及び吐出力を発生させる。
【0031】
表示部54は、液晶ディスプレイ等からなり、カメラユニット5により撮影された画像や、制御部7によって画像処理等がなされた画像などを表示する。
【0032】
入力部55は、キーボードやタッチパネル、或いは他の通信機器とデータ通信を行う通信部等からなり、ユーザーから操作情報や各種データの入力を受け付ける。本実施形態において入力部55は、分注動作を行う際に、所要の細胞Cをサイズに応じて区分する区分工程において用いられたフィルターの、メッシュサイズの入力を受け付ける入力部としても機能する。
【0033】
制御部7は、マイクロコンピュータ等からなり、所定のプログラムが実行されることで、軸制御部71(移動手段の一部)、ヘッド制御部72(ピッキング手段の一部)、撮像制御部73、画像メモリ74、画像処理部75(選別手段の一部)、選別部76(選別手段の一部)、及び記憶部77を備えるように機能する。
【0034】
軸制御部71は、ヘッドユニット軸駆動部64の動作を制御する。すなわち、軸制御部71は、ヘッドユニット軸駆動部64を制御することで、ヘッドユニット6を水平方向の所定の目標位置へ移動させる。分注ヘッド63(分注チップ13)の、分注容器14と選別容器11との間の移動、ヘッド61(チップ12)の選別容器11とマイクロプレート4との間の移動、ディッシュ2の保持凹部3に対する鉛直上空での位置決め、並びに吐出対象となるマイクロプレート4のウェル41に対する鉛直上空での位置決め等は、軸制御部71によるヘッドユニット軸駆動部64の制御によって実現される。
【0035】
ヘッド制御部72は、ヘッド駆動部65を制御する。ヘッド制御部72は、ヘッド駆動部65の前記昇降機構のための動力部を制御することにより、制御対象とするヘッド61又は分注ヘッド63を所定の目標位置に向けて昇降させる。また、ヘッド制御部72は、制御対象とするヘッド61又は分注ヘッド63についての前記ピストン機構の動力部を制御することにより、所定のタイミングでチップ12又は分注チップ13の先端開口部tに吸引力又は吐出力を発生させる。
【0036】
撮像制御部73は、カメラ軸駆動部53を制御して、カメラユニット5をガイドレール5Gに沿って移動させる動作を制御する。また、撮像制御部73は、カメラユニット5によるディッシュ2又はマイクロプレート4の撮像動作を制御する。
【0037】
画像メモリ74は、前記マイクロコンピュータに具備されている記憶領域や外部ストレージ等からなり、カメラユニット5により取得された画像データを一時的に格納する。
【0038】
画像処理部75は、カメラユニット5が撮像し、画像メモリ74に格納された画像データを画像処理する。画像処理部75は、細胞Cが分注された後のディッシュ2の画像に基づき、ディッシュ2上における細胞Cの存在を画像上で認識する処理、細胞Cの分布を認識する処理、認識された細胞Cのサイズ、形状、色調等を認識する処理などを、画像処理技術を用いて実行する。
【0039】
選別部76は、予め定められた選別基準に基づいて、移動対象とする細胞Cの選別、すなわちディッシュ2からマイクロプレート4へ移動させる細胞Cの選別を行う。選別対象は、画像処理部75によってサイズ、形状、色調等が特定された、ディッシュ2上に存在する細胞Cである。上記選別に際して、入力部55に受け付けられた、後述するセルフィルター8のメッシュサイズを参照することが望ましい。
【0040】
記憶部77は、細胞移動装置Sにおける各種設定値やデータを記憶する。この他、記憶部77は、細胞Cのサイズ毎の選別基準に関するデータも記憶する。細胞Cは、そのサイズによって良否判定の基準が異なる場合があり、サイズ毎に例えば機械学習の結果から得られる選別基準を具備することが望ましい。選別部76は、上記の選別に際して、記憶部77に格納されている選別基準を読み出し、所定の判定処理を行う。この読み出しの契機として、前記メッシュサイズを利用することができる。
【0041】
[細胞移動装置の動作]
続いて、本実施形態に係る細胞移動装置Sを用いた細胞移動方法を、図1及び図2を参照して説明する。先ず、必要な設備を準備する工程が実行される。ヘッドユニット6の移動可能範囲内であって予め定められた第1〜第3載置位置P1〜P3にそれぞれ、選別容器11、マイクロプレート4及び分注容器14が載置される。分注容器14には、培養容器等で培養された細胞を含む細胞懸濁液から、所要のサイズの細胞Cをフィルタリングする前処理(後記で詳述する)が施された細胞懸濁液LAが注入される。
【0042】
まず、細胞Cの分注動作が実行される。軸制御部71がヘッドユニット軸駆動部64を制御して、図2に示すように、分注チップ13が分注ヘッド63に装着されたヘッドユニット6が、分注容器14の上空へ移動される。続いて、ヘッド制御部72がヘッド駆動部65を制御して、分注ヘッド63が下降され、分注チップ13の先端開口部tが分注容器14の細胞懸濁液LAへ浸漬される。この状態で、ヘッド駆動部65が分注ヘッド63に吸引力を発生させ、細胞懸濁液LAが分注チップ60内に吸引される。
【0043】
その後、分注ヘッド63が上昇されると共に、ヘッドユニット6が選別容器11の上空位置へ移動される。分注ヘッド63が再び下降され、分注チップ13の先端開口部tが選別容器11の上部開口11Hを通してディッシュ2の上面21にアクセスする。そして、先端開口部tが選別容器11内の培地Lに浸漬された状態で、分注チップ13内に保持された細胞懸濁液LAが吐出される。つまり、細胞Cがディッシュ2上に撒かれる。
【0044】
続いて、細胞Cの選別動作が実行される。撮像制御部73がカメラ軸駆動部53を制御して、カメラユニット5をガイドレール5Gに沿って選別容器11の下方へ移動させる。そして、撮像制御部73がカメラユニット5を制御して、ディッシュ2に担持された細胞Cを撮像する(図1)。取得された画像データは、画像メモリ74に一時的に格納されると共に、画像処理部75により所定の画像処理が施される。その後、選別部76により、移動対象とされる細胞C(良質の細胞C)を選別する判定が行われる。選別された細胞Cは、チップ12によるピッキング対象と扱われ、その座標位置が求められる。
【0045】
引き続き、細胞移動動作が実行される。軸制御部71は、ヘッドユニット軸駆動部64を制御して、チップ12がヘッド61に装着されたヘッドユニット6を、選別容器11の上空へ移動させる。そして、ヘッド制御部72がヘッド駆動部65を制御して、ヘッド61が下降され、チップ12の先端開口部tが上部開口1Hを通してディッシュ2の上面にアクセスする。この際、移動対象の細胞Cの位置を示すXYZ座標情報が軸制御部71及びヘッド制御部72に与えられ、その細胞Cが担持された保持凹部3に対してチップ12はアクセスする。
【0046】
しかる後、ヘッド駆動部65がヘッド61に吸引力を発生させる。これにより、ディッシュ2(保持凹部3)からターゲットの細胞Cが培地Lと共にチップ12内に吸引される(細胞Cのピッキング)。その後、ヘッド61が上昇されると共に、ヘッドユニット6がマイクロプレート4の上空位置へ移動される(ピッキング手段を所定の移動先へ移動)。
【0047】
マイクロプレート4の上空にヘッドユニット6が到達すると、チップ12の先端開口部tがマイクロプレート4のウェル41に進入するまで、ヘッド61が再び下降される。そして、ヘッド駆動部65がヘッド61に吐出力を発生させ、ウェル41内にチップ12内の細胞Cが吐出される。これら細胞Cの吐出状況は、カメラユニット5によるマイクロプレート4の撮像によって確認される。
【0048】
[細胞移動時の前処理方法]
続いて、上述のようなチップ12を備えた細胞移動装置Sを用いて所要の細胞Cをディッシュ2からピッキングさせ、マイクロプレート4へ移動させる際に行われる前処理方法について説明する。ここでの前処理は、サイズの異なる複数の細胞Cや夾雑物を含む集合体である細胞懸濁液LAから、所要のサイズを有する細胞Cだけを含む細胞懸濁液LAをフィルタリングし、これを分注容器14に供給する処理である。
【0049】
<セルフィルターについて>
前記フィルタリングには、例えば図6に示すようなセルフィルター8が用いられる。図6(A)は、セルフィルター8の側面図、図6(B)はセルフィルター8の上面視の平面図である。セルフィルター8は、円筒状のフレーム81と、このフレーム81に貼付されたフィルター膜82とを含む。
【0050】
フレーム81は、周方向に配列された縦リブである複数のサイドリブ811と、これらサイドリブ811の下端を繋ぐ円環状のベースリブ812とを備える。サイドリブ811の上端側には、フランジ部83が付設されている。サイドリブ811間には開口部813が存在する。ベースリブ812の内側にも開口部が存在する。フィルター膜82は、微小開口であるメッシュを有する膜であり、開口部813を塞ぐようにフレーム81に貼付されている。フィルター膜82のメッシュサイズは、フィルタリングする細胞Cのサイズに応じて選ばれる。作業者は、フランジ部83に突設されたグリップ部84で、当該セルフィルター8をハンドリングする。
【0051】
図7は、セルフィルター8を用いた細胞Cのフィルタリング作業を説明するための図である。フィルタリングに際しては、上端が開口した筒状の容器からなるチューブ85と、細胞培養器から取り出した細胞懸濁液LAを貯留するポット86とが準備される。セルフィルター8は、フランジ部83がチューブ85の上端に支持されるよう、チューブ85に嵌め込まれる。そして、ポット86から細胞懸濁液LAがセルフィルター8の上面開口から注がれる。
【0052】
すると、フィルター膜82のメッシュを通過できるサイズを有する細胞Cを含む細胞懸濁液LAが、チューブ85に貯留されることになる。セルフィルター8を、不要な細胞Cの除去用として用いるならば、チューブ85に貯留された細胞懸濁液LAが、そのまま分注容器14に供給される。一方、セルフィルター8を、必要な細胞Cのトラップ用として用いるならば、フィルター膜82を通過できずにセルフィルター8にトラップされた細胞Cが取り出され、細胞培養液に分散させて分注容器14に供給される。
【0053】
<前処理の具体例>
図8は、本発明の実施形態に係る細胞移動時の前処理方法の手順を示す図である。前処理方法は、第1除去工程、第2除去工程、区分工程及び供給工程を含む。図8においては、各工程における細胞懸濁液LAの状態を、ステージA1〜A4の白抜きのボックスで示している。各ボックスの縦方向の長さは、細胞懸濁液LAに含まれる細胞Cのサイズ(直径)のバラツキを表している。例えば、培養直後のステージA1の細胞懸濁液LAは、サイズが0μmを越え250μm以下の範囲のサイズを有する多数の細胞Cを含んでいることを、図8は示している。
【0054】
ステージA1の細胞懸濁液LAは、サイズのバラツキ範囲が広い細胞Cが分散され、また夾雑物等も含む細胞懸濁液である(本発明の「集合体」に相当)。このステージA1の細胞懸濁液LAから、所要のサイズを有する細胞(所要の細胞)を抽出するために、第1除去工程及び第2除去工程が実行される。所要の細胞は、マイクロプレート4において検査等の対象とされるサイズを有する細胞Cであって、予め定められた最小サイズ(ここでは40μmとする)を超過すると共に、予め定められた最大サイズ(ここでは100μmとする)未満のサイズを有する細胞Cである。
【0055】
第1除去工程では、ステージA1の細胞懸濁液LAから前記最小サイズ(40μm)以下の細胞および夾雑物等を除去するフィルタリングが行われる。従って、第1除去工程では、メッシュサイズが40μmのセルフィルター8が用いられる。具体的には、メッシュサイズ=40μmのセルフィルター8がチューブ85に嵌め込まれ、ポット86にはステージA1の細胞懸濁液LAが収容される。
【0056】
続いて、ポット86から細胞懸濁液LAが、セルフィルター8(40μm)を装備したチューブ85に注液される。そして、当該セルフィルター8にトラップされた細胞を取り出し、これを細胞培養液に分散するなどして、ステージA2の細胞懸濁液LAを得る。セルフィルター8で濾過され、チューブ85に貯留された細胞懸濁液LAは廃棄される。
【0057】
第2除去工程では、ステージA2の細胞懸濁液LAから前記最大サイズ(100μm)以上の細胞Cを除去するフィルタリングが行われる。従って、第2除去工程では、メッシュサイズが100μmのセルフィルター8が用いられる。具体的には、メッシュサイズ=100μmのセルフィルター8がチューブ85に嵌め込まれ、ポット86にはステージA2の細胞懸濁液LAが収容される。
【0058】
続いて、ポット86から細胞懸濁液LAが、セルフィルター8(100μm)を装備したチューブ85に注液される。そして、当該セルフィルター8を通過し、チューブ85に貯留された細胞懸濁液LAを取り出して、ステージA3の細胞懸濁液LAを得る。セルフィルター8にトラップされた細胞Cは廃棄される。このステージA3の細胞懸濁液LAは、マイクロプレート4への移動対象となる所要の細胞Cだけ、本実施形態では40μm〜100μmのサイズの細胞Cだけを含む細胞懸濁液となる。なお、第1、第2除去工程の実行順序は任意であり、図8の例とは逆に、第2除去工程を第1除去工程に先行して実行してもよい。
【0059】
従来の細胞移動時の前処理方法では、このステージA3の細胞懸濁液LAが得られた段階で、前処理を終えていた。つまり、ステージA3の細胞懸濁液LAが、分注容器14に注液されていた。これに対し本実施形態では、ステージA3の細胞懸濁液LAに対して、さらに区分工程が実行される。区分工程では、ステージA3の細胞懸濁液LAに含まれる所要の細胞Cを、サイズに応じて2つに区分するフィルタリングが行われる。ここでは、40μm〜70μm(第1サイズ)の細胞Cと、70μm〜100μm(第2サイズ)の細胞Cとに区分される例を示す。
【0060】
上記の区分のため区分工程では、前記第1サイズの細胞Cを通過させる一方で、前記第2サイズの細胞Cを通過させないよう、メッシュサイズが70μmのセルフィルター8が用いられる。具体的には、メッシュサイズ=70μmのセルフィルター8がチューブ85に嵌め込まれ、ポット86にはステージA3の細胞懸濁液LAが収容される。次いで、ポット86から当該細胞懸濁液LAが、セルフィルター8(70μm)を装備したチューブ85に注液される。
【0061】
そして、当該セルフィルター8にトラップされた細胞Cを取り出し、これを細胞培養液に分散するなどして、70μm〜100μmのサイズの細胞Cだけを含んだステージA41の細胞懸濁液LAを得る。また、当該セルフィルター8を通過し、チューブ85に貯留された細胞懸濁液LAを取り出して、40μm〜70μmのサイズの細胞Cだけを含んだステージA42の細胞懸濁液LAを得る。
【0062】
その後、チップ12によりピッキングが可能な位置へ、ステージA41の細胞懸濁液LAと、ステージA42の細胞懸濁液LAとに区分された細胞Cを、各々区分された状態で供給する供給工程が行われる。この供給工程は、本実施形態では、ステージA41、A42の細胞懸濁液LAを各々別の分注容器14に注液する工程と、これら分注容器14から異なるディッシュ2A、2Bに各々分注する工程とからなる。
【0063】
ステージA41、A42の細胞懸濁液LAが注液された分注容器14は、基台1の第3載置位置P3に順次に載置されるか、或いは同時に並置される。そして、各分注容器14から分注チップ13によってステージA41、A42の細胞懸濁液LAが別個に吸引され、ディッシュ2A、2Bの上空(第1載置位置P1)まで移動された後、各々分注される。ディッシュ2A、2Bは、別個の選別容器11に装備された独立のディッシュであっても良いし、一つのディッシュ2において互いに隔離された領域をディッシュ2A、2Bとして利用するものであっても良い。
【0064】
[区分工程を実行する利点]
本実施形態では、ステージA3の細胞懸濁液LAに対して、さらに上記の区分工程が実行される。この区分工程を実行する利点について説明する。図9は、比較例の前処理方法を伴う細胞ピッキング作業を示す模式図である。比較例では、ステージA3の細胞懸濁液LAが分注容器14に分注される。従って、ディッシュ2には40μm〜100μmのサイズの細胞Cが撒かれており、チップ12によるピッキングの際には、これらの細胞Cの中から移動対象の細胞Cを選別する必要が生じる。
【0065】
例えば、ステージA3の細胞懸濁液LAから、80μm±5μmのサイズを有する良質な細胞Cをディッシュ2からピッキングしてマイクロプレート4Aへ、50μm±5μmのサイズを有する良質な細胞Cをディッシュ2からピッキングしてマイクロプレート4Bへ移動することを想定する(残りは廃棄)。この場合、比較例では、40μm〜100μmの広範なサイズの細胞Cが撒かれたディッシュ2から、80μmクラスの良質な細胞Cと、50μmクラスの良質な細胞Cとを選別する処理が必要となる。
【0066】
細胞Cの良否を自動選別する有効な手段の一つとして、機械学習の手法を挙げることができる。この機械学習では、例えば細胞Cの画像のサンプルデータを多量に解析し、良質の細胞であるか否かを判断するアルゴリズムが構築される。しかし、良質の細胞であるか否かの選別基準は、細胞Cのサイズによって異なる場合がある。例えば、上記の80μmクラスの細胞Cと50μmクラスの細胞Cとでは、前記選別基準が異なる。従って、広範なサイズの細胞と対象として機械学習を行わせようとすると、膨大なサンプルデータが必要となり、アルゴリズムの構築が困難、乃至は多くの処理時間を要する、といった不具合が生じる。比較例によれば、40μm〜100μmのサイズの細胞Cを対象としてサンプルデータの解析を行い、選別基準となるアルゴリズムを創出する必要があるので、機械学習の導入には困難性を伴う。
【0067】
図10は、本実施形態の前処理方法を伴う細胞ピッキング作業を模式的に示す図である。本実施形態では、前記区分工程によって、ステージA3の細胞懸濁液LAが、サイズに応じて少なくとも2つに区分される。すなわち、少なくとも大なるサイズを有する細胞群を含むステージA41の細胞懸濁液LAと、小なるサイズを有する細胞群を含むステージA42の細胞懸濁液LAとの2つに、ステージA3の細胞懸濁液LAが区分され、このように区分された状態で各々分注容器14を経て、マイクロプレート4A、4Bに供給される。
【0068】
従って、細胞移動装置Sによる、細胞選別作業を含むピッキング動作を、細胞サイズのバラツキが抑制された細胞群に対して実行できる。例えば、メッシュサイズが70μmのセルフィルター8でステージA3の細胞懸濁液LAに対して区分工程(フィルタリング)を行った場合、上掲の80μmクラスの細胞C及び50μmクラスの細胞Cの選別作業は格段に容易化する。すなわち、70μm〜100μmの細胞Cを含むステージA41の細胞懸濁液LAが分注されたディッシュ2Aから、80μmクラスの良質の細胞Cを選別し、40μm〜70μmの細胞Cを含むステージA42の細胞懸濁液LAが分注されたディッシュ2Bから、50μmクラスの良質の細胞Cを選別すれば良いことになる。従って、機械学習の手法を導入して細胞の選別を行う場合、細胞サイズのバラツキが小さいことから、比較的少ないサンプルデータ数にて的確な選別基準を得ることができ、処理を簡素化することができる。
【0069】
[他の実施形態の説明]
<区分工程の変形例>
図8では、区分工程において、ステージA3の細胞懸濁液LAが、ステージA41、A42の細胞懸濁液LAの2つに区分される例を示した。区分工程においては、3つ又はそれ以上にステージA3の細胞懸濁液LAを区分するようにしても良い。図11は、変形例に係る細胞移動時の前処理方法の手順を示す図である。
【0070】
図11の前処理方法において、第1、第2除去工程は図8の例と同じであるが、区分工程では、ステージA3の細胞懸濁液LAに含まれる所要の細胞Cを、サイズに応じて3つに区分するフィルタリングが行われる。ここでは、80μm〜100μmの細胞C、60μm〜80μmの細胞C、及び40μm〜60μmの細胞Cの3つに区分される例を示している。この場合、セルフィルター8としては、メッシュサイズが60μm、80μmの2つが使用される。
【0071】
具体的な区分作業の一例を示すと、まず、メッシュサイズ=80μmのセルフィルター8がチューブ85に嵌め込まれ、ポット86にはステージA3の細胞懸濁液LAが収容される。次いで、ポット86から当該細胞懸濁液LAが、セルフィルター8(80μm)を装備したチューブ85に注液される。そして、当該セルフィルター8にトラップされた細胞Cを取り出し、これを細胞培養液に分散するなどして、80μm〜100μmのサイズの細胞Cだけを含んだステージA41の細胞懸濁液LAを得る。
【0072】
そして、当該セルフィルター8を通過し、チューブ85に貯留された細胞懸濁液LAを取り出して、40μm〜80μmのサイズの細胞Cだけを含んだ細胞懸濁液LAを得る。続いて、メッシュサイズ=60μmのセルフィルター8がチューブ85に嵌め込まれ、ポット86には40μm〜80μmのサイズの細胞Cを含む細胞懸濁液LAが収容される。ポット86から当該細胞懸濁液LAが、セルフィルター8(60μm)を装備したチューブ85に注液される。
【0073】
しかる後、当該セルフィルター8にトラップされた細胞Cを取り出し、これを細胞培養液に分散するなどして、60μm〜80μmのサイズの細胞Cだけを含んだステージA42の細胞懸濁液LAを得る。また、当該セルフィルター8を通過し、チューブ85に貯留された細胞懸濁液LAを取り出して、40μm〜60μmのサイズの細胞Cだけを含んだステージA43の細胞懸濁液LAを得る。得られたステージA41、A42、A43の細胞懸濁液LAは、それぞれ異なるディッシュ2A、2B、2Cに分注される。
【0074】
<メッシュサイズの制御への利用例>
本実施形態の細胞移動装置Sは、ユーザーから各種データの入力を受け付ける入力部55を備える(図5)。この入力部55を、前記区分工程において用いられたセルフィルター8のメッシュサイズの入力を受け付けるようにし、これを選別部76における細胞Cの選別基準として利用するようにしても良い。
【0075】
先の図8の例を用いれば、ステージA41の細胞懸濁液LAは、メッシュサイズが70μm及び100μmの2つのセルフィルター8によって得られた細胞懸濁液LAである。この場合、ユーザーは、入力部55へメッシュサイズ=70μm、100μmというデータを入力する。選別部76は、細胞Cの選別基準の一つとして、細胞サイズ(直径)=70μm〜100μmという条件を自動設定する。さらに選別部76は、記憶部77から、70μm〜100μmのサイズの細胞Cに関して設定されている他の選別基準(機械学習によるアルゴリズムなど)を読み出す。そして、ステージA41の細胞懸濁液LAがディッシュ2Aに分注されたならば、選別部76は、カメラユニット5が撮像した当該ディッシュ2Aに担持された細胞Cの画像の各々に、上記の選別基準を適用して各細胞Cの良否判定を行う。これにより、細胞移動作業の効率化を図ることができる。
【0076】
上記に加え、入力部55は、さらに移動対象とする細胞Cのサイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付け、選別部76が、入力された細胞Cのサイズの上限又は下限を前記選別基準の要素として扱うようにすることもできる。ここで、入力部55に入力された前記サイズの上限又は下限が、先に入力されたセルフィルター8のメッシュサイズに対して矛盾するときは、選別部76が前記サイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付けないようにすることが望ましい。
【0077】
図12を参照して具体例を説明する。図12は、細胞移動時の前処理から細胞ピッキングの作業の好ましい例を示す図である。図8の例と同様に、第1、第2除去工程でメッシュサイズ=40μm、100μmのセルフィルター8を用いてステージA3の細胞懸濁液LAを得、さらに区分工程でメッシュサイズ=70μmのセルフィルター8を用いてステージA41、A42の細胞懸濁液LAを得たとする。そして、ステージA41の細胞懸濁液LAを選別容器11のディッシュ2に分注されたとする。ここで、マイクロプレート4へ移動させたい細胞C、つまりピッキング対象となる細胞Cのサイズが80μm〜90μmであるとする。
【0078】
この場合、上掲の例の通り、入力部55はユーザーから、ステージA41の細胞懸濁液LAを得るために用いられたセルフィルター8のメッシュサイズ=70μm、100μmというデータの入力を受け付ける。さらに入力部55は、ピッキング対象となる細胞Cのサイズ=80μm〜90μmというデータの入力を受け付ける。そして選別部76は、細胞Cの選別基準の一つとして、細胞サイズ=80μm〜90μmという条件を自動設定し、また記憶部77から80μm〜90μmのサイズの細胞Cに関して設定されている他の選別基準を読み出して、所定の選定基準を設定する。
【0079】
ここで、ユーザーが、ピッキング対象の細胞サイズについて、先に入力されたメッシュサイズ(70μm、100μm)と矛盾する入力を行ってしまう場合が起こり得る。例えばユーザーが、入力部55へ、ピッキング対象の細胞サイズの上限=50μm、下限=40μmなどと入力してしまった場合である。この場合、選別部76は、そのような入力を受け付けず、例えば表示部54にエラーメッセージを表示するなどして、ユーザーに再入力を促すようにする。
【0080】
メッシュサイズ及びピッキング対象の細胞サイズが矛盾なく入力部55に入力されたなら、選別部76は、ピッキング対象の細胞サイズ(80μm〜90μm)に応じた選別基準にて、細胞Cの良否判定を行う。そして、移動対象として選別された細胞Cが、選別容器11からチップ12で吸引され、マイクロプレート4へ移動されるものである。
【0081】
<ディッシュ及びマイクロプレートの変形例>
図13は、細胞移動時の前処理から細胞ピッキングの作業の好ましい他の例を示す図である。ここでは、細胞Cが分注される複数のディッシュ2A〜2Dが準備され、マイクロプレート4では、ディッシュ2A〜2D毎にウェル41が割り当てられている例を示す。
【0082】
選別容器11には、4枚のディッシュ2A〜2Dが装着されている。これらディッシュ2A〜2Dは、選別容器11内の培地Lに浸漬されているが(図1参照)、区画壁等によって互いに隔離されている。ディッシュ2A〜2Dには、異なるサイズの細胞Cが分注されている。すなわち、各々メッシュサイズの異なるセルフィルター8A、8B、8C、8Dを適用して得られた細胞懸濁液LAが、ディッシュ2A、2B、2C、2Dが配置された区画に各々分注されている。
【0083】
マイクロプレート4が備える複数のウェル41は、各ディッシュ2A〜2Dからそれぞれピッキングされる細胞Cの移動先として、予め割り当てが定められている。すなわち、ディッシュ2Aからピッキングされる細胞Cは、マイクロプレート4の第1行目のウェル41へ、ディッシュ2Bからピッキングされる細胞Cは第2行目のウェル41へ、というように予め割り当てられている。
【0084】
そして、各ディッシュ2A〜2Dからチップ12によってピッキングされた細胞Cは、複数のウェル41のうちピッキングしたディッシュ2A〜2Dに各々割り当てられたウェル41へ吐出される。これにより、所要の細胞Cを、それらのサイズが区分された状態で、若しくは細胞Cのサイズの相違が認識可能な状態で、ウェル41へ移動させることができる。従って、その後のマイクロプレート4における各種の処理作業を、細胞サイズに応じて適切に実行させることができる。
【0085】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0086】
本発明の一局面に係る細胞移動時の前処理方法は、サイズの異なる複数の細胞を含む集合体から、細胞のピッキング手段を備えた細胞移動装置を用いて所要の細胞をピッキングさせ、所定の移動先へ移動させる際の前処理方法であって、前記集合体に含まれる前記複数の細胞のうち、前記所要の細胞をサイズに応じて少なくとも2つに区分する区分工程と、前記ピッキング手段によりピッキングが可能な位置へ、前記区分された細胞を各々区分された状態で供給する供給工程と、を備えることを特徴とする。
【0087】
この前処理方法によれば、所要の細胞がサイズに応じて少なくとも2つに区分される。これにより、大なるサイズを有する細胞群と、小なるサイズを有する細胞群との少なくとも2つに、前記所要の細胞が区分される。そして、このように区分された状態で前記ピッキングの位置に前記所要の細胞が供給される。従って、後段の前記細胞移動装置による、細胞選別作業を含むピッキング動作を、前記区分された状態の細胞群に対して実行させることができる。すなわち、細胞サイズのバラツキが抑制された細胞群に対してピッキング動作を実行できるので、作業時間を短縮させることができる。
【0088】
上記の前処理方法において、前記所要の細胞が、予め定められた最小サイズを超過するサイズを有する細胞であって、前記集合体から前記最小サイズ以下の細胞を除去する第1除去工程をさらに備えることが望ましい。
【0089】
また、前記所要の細胞が、予め定められた最大サイズ未満のサイズを有する細胞であって、前記集合体から前記最大サイズ以上の細胞を除去する第2除去工程をさらに備えることが望ましい。
【0090】
これらの前処理方法によれば、第1、第2除去工程によって、前記集合体から過大なサイズの細胞、過小なサイズの細胞が除去される。これにより、前記集合体から前記所要の細胞だけを抽出することができる。従って、前記区分工程の実行により、所要サイズの範囲内にある複数の細胞を、さらに少なくとも2つに確実に区分することができる。
【0091】
上記の前処理方法において、前記集合体は、サイズの異なる複数の細胞が分散された細胞懸濁液であり、前記区分工程において、第1サイズの細胞を通過させる一方で前記第1サイズよりも大きい第2サイズの細胞を通過させないフィルターが用いられることが望ましい。
【0092】
この前処理方法によれば、前記区分工程における前記所要の細胞のサイズに応じた区分の作業を、前記フィルターを用いて効率良く実行させることができる。
【0093】
上記の前処理方法において、前記第2除去工程において、メッシュサイズが100μmのフィルターが用いられ、前記区分工程において、メッシュサイズが70μmのフィルターが用いられることが望ましい。
【0094】
細胞の濾過用のフィルターとして、メッシュサイズが70μm、100μmのものが安価な汎用品として存在する。これらフィルターを用いることで、前記集合体に含まれる細胞から、前記第2除去工程において100μm以上のサイズの細胞を除去できると共に、100μm未満の細胞群を、70μm未満のサイズと70μm〜100μmのサイズとの2つのグループに区分することができる。
【0095】
上記の前処理方法において、前記第1除去工程において、メッシュサイズが40μmのフィルターが用いられ、前記第2除去工程において、メッシュサイズが100μmのフィルターが用いられ、前記区分工程において、メッシュサイズが70μmのフィルターが用いられることが望ましい。
【0096】
細胞の濾過用のフィルターとして、上記のメッシュサイズに加え、メッシュサイズが40μmのものも安価な汎用品として存在する。これらフィルターを用いることで、前記集合体に含まれる細胞から、前記第1除去工程において40μm未満のサイズの細胞を、前記第2除去工程において100μm以上のサイズの細胞を各々除去できる。さらに前記区分工程において、40μm〜100μmの細胞群を、40μm〜70μmのサイズと、70μm〜100μmのサイズとの2つのグループに区分することができる。
【0097】
本発明の他の局面に係る細胞移動装置は、上記の細胞移動時の前処理方法が適用された後に使用される細胞移動装置であって、前記細胞のピッキング手段と、前記ピッキング手段を所定方向へ移動させる移動手段と、前記供給工程により供給された前記細胞から、移動対象とする細胞を選別する選別手段と、用いられた前記フィルターのメッシュサイズの入力を受け付ける入力部と、を備え、前記選別手段は、入力された前記メッシュサイズに応じたサイズを有する細胞について予め定められた選別基準に基づいて前記選別を行い、前記ピッキング手段は、前記選別手段が選別した細胞をピッキングし、前記移動手段は、前記細胞をピッキングした前記ピッキング手段を所定の移動先へ移動させることを特徴とする。
【0098】
この細胞移動装置によれば、前記選別手段は、入力された前記メッシュサイズに応じたサイズを有する細胞について予め定められた選別基準に基づいて前記選別を行う。ここで、前記区分工程の実行によって細胞のサイズが揃えられているので、前記選別基準は広範なサイズの細胞と対象としたものでなくて済む。例えば、機械学習の手法を導入して細胞の選別を行う場合、細胞サイズのバラツキが小さいことから、比較的少ないサンプルデータ数にて的確な選別基準を得ることができ、処理を簡素化することができる。
【0099】
上記の細胞移動装置において、前記入力部は、さらに移動対象とする細胞のサイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付け、前記選別手段は、前記サイズの上限又は下限を前記選別基準の要素として扱うものであって、前記入力部は、前記サイズの上限又は下限が前記メッシュサイズに対して矛盾するときは、前記サイズの上限又は下限の少なくとも一方の入力を受け付けないことが望ましい。
【0100】
この細胞移動装置によれば、前記矛盾が存在する場合、前記入力部において前記サイズの上限又は下限の入力が受け付けられない。このため、入力された前記メッシュサイズによって細胞サイズのバラツキが制限されることに加えて、移動対象とされる細胞はさらに細胞サイズのバラツキが制限されるようになる。
【0101】
上記の細胞移動装置において、前記供給工程では、細胞を保持可能な複数のディッシュが準備され、区分された細胞別に各々前記ディッシュで細胞が保持され、前記所定の移動先には、細胞を受け入れる複数のウェルを有するマイクロプレートが配置され、前記ピッキング手段は、前記細胞の吸引及び吐出を行うチップを含み、前記チップにより前記ディッシュ毎に細胞が吸引され、前記マイクロプレートまで移動された後、前記複数のウェルのうち割り当てられたウェルへ前記チップから前記細胞が吐出されることが望ましい。
【0102】
この細胞移動装置によれば、前記所要の細胞を、それらのサイズが区分された状態で、若しくは細胞のサイズの相違が認識可能な状態で、前記マイクロプレートのウェルへ移動させることができる。従って、その後のマイクロプレートにおける処理作業を、細胞サイズに応じて適切に実行させることができる。
【0103】
以上説明した本発明によれば、細胞のピッキング手段を備えた細胞移動装置を用いて所要の細胞を効率的に移動できるようにする前処理方法、及びこれが適用される細胞移動装置を提供することができる。
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