(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量%で、C:0.005〜0.15%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜8.0%、Cr:16〜18%、Cu:0.1〜4.0%、N:0.005〜0.2%、Mo:0.01〜0.2%、残りはFeおよび不可避不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼を含み、
下記式(1)で定義されるNiの表面負偏析度が0.6〜0.9の範囲であり、
下記式(2)で定義される表面硬度比が1.1〜1.6の範囲であり、
マルテンサイト面積分率が10〜30%であることを特徴とする表面特性が優秀なオーステナイト系ステンレス鋼加工品。
(CNi−Min)/(CNi−Ave)・・・式(1)
A/B ・・・式(2)
式(1)で、CNi−Minは表面でのNiの最小濃度であり、CNi−Aveは表面でのNiの平均濃度であり、CNi−Min、CNi−Aveは、ステンレス鋼加工品の表面で、500*500μm2以上の面積で各軸で、等間隔で50個以上の位置で、エネルギー分散型分光分析(energy dispersive spectroscopy、EDS)あるいは電子プローブ微小分析(electron probe micro analysis、EPMA)によって測定される。
式(2)で、Aは前記加工品の表面硬度の上位10%の平均値であり、Bは前記加工品の表面硬度の下位10%の平均値であり、十字方向に各方向当たり10mm範囲で50個以上の位置で測定される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施例に係る表面特性が優秀なオーステナイト系ステンレス鋼加工品は、重量%で、C:0.005〜0.15%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜8.0%、Cr:16〜18%、Cu:0.1〜4.0%、N:0.005〜0.2%、Mo:0.01〜0.2%、残りはFeおよび不可避不純物を含むオーステナイト系ステンレス鋼を含み、下記式(1)で定義されるNiの表面負偏析度が0.6〜0.9の範囲であり、マルテンサイト分率が10〜30%である。
【0021】
(C
Ni−Min)/(C
Ni−Ave)・・・式(1)
ここで、C
Ni−Minは表面でのNiの最小濃度であり、C
Ni−Aveは表面でのNiの平均濃度である。
【0022】
以下、本発明の実施例を、添付図面を参照して、詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の思想を伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。
【0023】
本発明の一実施例に係る表面特性が優秀なオーステナイト系ステンレス鋼加工品は、重量%で、C:0.005〜0.15%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜8.0%、Cr:16〜18%、Cu:0.1〜4.0%、N:0.005〜0.2%、Mo:0.01〜0.2%、残りはFeおよび不可避不純物を含むオーステナイト系ステンレス鋼を含む。すなわち、前記加工品は前記ステンレス鋼を加工して製造され、前記加工品は例えば、シンクボウル(sink bowl)である。
【0024】
以下では本発明の加工性および表面特性が優秀なオーステナイト系ステンレス鋼を構成する成分の数値限定の理由について説明する。
【0025】
Cは0.005〜0.15重量%範囲内で調節して添加する。
【0026】
Cはオーステナイト相安定化元素であって、多く添加するほどオーステナイト相が安定化するため0.005%以上含有するが、過度に含有すると強度が過度に高くなって加工が困難であるため0.15%以下に制限する。
【0027】
Siは0.1〜1.0重量%範囲内で調節して添加する。
【0028】
Siは添加するほど一定水準の加工硬化および耐食性の効果を提供するため0.1%以上含有するが、過度に多く添加すると靭性を阻害する恐れがあるため1.0%以下に制限する。
【0029】
Mnは0.1〜2.0重量%範囲内で調節して添加する。
【0030】
Mnはオーステナイト相安定化元素であって、多く添加するほどオーステナイト相が安定化し、加工硬化の速度を下げる効果があるため、0.1%以上含有するが、過度に添加すると耐食性を阻害するため、2.0%以下に制限する。
【0031】
Niは6.0〜8.0重量%範囲内で調節して添加する。
【0032】
Niはオーステナイト相安定化元素であって、多く添加するほどオーステナイト相が安定化し、添加量が増加するとオーステナイト鋼の軟質化および加工硬化速度を下げる効果があり、本発明で偏析帯を形成する元素であるため6.0%以上添加するが、多く添加すると費用の上昇を招くため8.0%に制限する。
【0033】
Crは16〜18重量%範囲内で調節して添加する。
【0034】
Crは耐食性を向上させる元素であって16%以上を含有するが、過度な添加は費用の上昇を招くため18%に制限する。
【0035】
Cuは0.1〜4.0重量%範囲内で調節して添加する。
【0036】
Cuはオーステナイト相安定化元素であって、多く添加するほどオーステナイト相が安定化し、オーステナイト鋼の軟質化および加工硬化速度を下げる効果があるため0.1%以上含有し、添加量が増加するほどオーステナイト相が安定化して本発明で追求する特性が得られるため4.0%までも添加することができる。しかし、Cuの過度な添加は費用の上昇を招くため2.0%に制限することが好ましい。
【0037】
Nは0.005〜0.2重量%範囲内で調節して添加する。
【0038】
Nはオーステナイト相安定化元素であって、多く添加するほどオーステナイト相が安定化し、耐食性を向上させるため0.005%以上含有するが、過度に含有すると強度が過度に高くなって加工が困難であるため0.2%以下に制限する。
【0039】
Moは0.01〜0.2重量%範囲内で調節して添加する。
【0040】
Moは耐食性と加工性を向上させる効果があるため0.01%以上含有するが、過度な添加は費用の上昇を招くため0.2%以下に制限する。
【0041】
図1は、本発明の一実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面に形成されたNi偏析部および負偏析部を撮影した写真である。
図2は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面を撮影した写真である。
図3は、本発明の一実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面を撮影した写真である。
【0042】
図1を参照すると、本発明の一実施例に係る加工性および表面特性が優秀なオーステナイト系ステンレス鋼加工品は、鋼表面にNi表面偏析部およびNi表面負偏析部を含む。
【0043】
すなわち、本発明の一実施例に係る前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品は、下記式(1)で定義されるNiの表面負偏析度が0.6〜0.9の範囲を有する。
【0044】
(C
Ni−Min)/(C
Ni−Ave)・・・式(1)
ここで、C
Ni−Minは表面でのNiの最小濃度であり、C
Ni−Aveは表面でのNiの平均濃度である。
【0045】
Niの表面負偏析度は前記式(1)で定義され、鋼表面のNiの最小濃度をNiの平均濃度で割った値であり、Niの最小濃度は前記Ni負偏析部で測定された値である。
【0046】
ここで、偏析度はステンレス鋼加工品の表面で測定される。統計的に意味を有するためには、500*500μm
2以上の面積で測定し、各軸で、等間隔で50個以上の位置で測定することが好ましい。
【0047】
測定方法はエネルギー分散型分光分析(energy dispersive spectroscopy、EDS)あるいは電子プローブ微小分析(electron probe micro analysis、EPMA)等を活用することができる。
【0048】
本発明では800*800μm
2の面積でステンレス鋼の元の表面でEPMAを活用してNiの元素分布を測定したし、これを
図1に示した。
図1で明るい色がNi負偏析部を意味し、暗い色がNi偏析部を意味し、偏析帯が形成されたことが分かる。
【0049】
図2を参照すると、従来のオーステナイト系ステンレス鋼を利用した加工品であるSTS 301鋼加工品の表面を撮影した写真である。これはオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面にNi偏析部および負偏析部が形成されていない鋼であり、この加工品の表面に突起が発生して表面が粗くなり表面特性が低下することが分かる。
【0050】
これとは異なり、
図3を参照すると、本発明の一実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面を撮影した写真である。これはオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面にNi表面偏析部およびNi表面負偏析部が形成されており、加工しても表面に縞または突起が発生せず秀麗な表面品質を有することが分かる。
【0051】
このような効果について本発明者は、Ni表面偏析部が形成されたステンレス鋼を加工すると、同量のNiを含有しているにもかかわらず、偏析部を形成していない素材に比べて加工時に負偏析部でマルテンサイト変態が多量なされるため突起の形成が抑制されるものと推定している。
【0052】
図4は、本発明の比較例に係るオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面を撮影した写真である。
【0053】
前記Niの表面負偏析度が0.6未満の場合、表面に偏析帯が過度に形成されて加工後の表面に圧延方向に沿って激しい縞が現れる問題点がある。
図4を参照すると、前記Niの表面負偏析度が0.5を有するオーステナイト系ステンレス鋼を加工した後に表面を撮影した写真であって、圧延方向に縞が観察されることが分かり、このような縞による表面不良は表面の研磨などの追加の工程が必要となるため生産費用を増加させることになる。
【0054】
また、前記Niの表面負偏析度が0.9超過である場合、本発明で目的とする偏析部および負偏析部が形成されないかその形成量が小さいため負偏析部でのマルテンサイト変態がなされない。
【0055】
また、本発明の一実施例に係る前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品のマルテンサイト分率が10〜30%である。
【0056】
前記加工品のマルテンサイト分率が30%超過である場合、追加加工時にクラックが発生する問題点があり、前記加工品のマルテンサイト分率が10〜30%の範囲である場合、追加加工時にもクラック乃至表面にシワが発生しない。
【0057】
例えば、前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品の前記Ni表面偏析部は面積分率で60%未満であり、前記Ni表面負偏析部は面積分率で5%超過である。
【0058】
前記Ni表面偏析部は表面でのNiの平均濃度より大きいNi濃化領域であり、前記Ni表面負偏析部は表面でのNiの平均濃度より小さいNi欠乏領域である。例えば、前記Ni濃化領域は表面でのNiの平均濃度より1.2倍以上のNi濃度を有し、前記Ni欠乏領域は表面でのNiの平均濃度より0.8倍以下のNi濃度を有することができる。
【0059】
このような前記Ni表面負偏析部が前記オーステナイト系ステンレス鋼表面上に面積分率で5%以下に形成されるか、前記Ni表面偏析部が面積分率で60%以上に形成される場合、加工時に前記Ni表面負偏析部でマルテンサイト変態が十分になされないため、加工後の表面上の突起を抑制し難い。
【0060】
例えば、前記Ni表面負偏析部は長径が100μm以下である偏析を60%以上含むことができる。これに伴い、前記Ni表面負偏析部内の偏析を微細化することによって、偏析の大きさ増加によって加工後の表面に圧延方向に沿って縞が発生することを防止することができるため表面特性を改善することができる。
【0061】
例えば、本発明の一実施例に係る前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品は、下記式(2)で定義される表面硬度比が1.1〜1.6の範囲である。
【0062】
A/B ・・・式(2)
ここで、Aは前記加工品の表面硬度の上位10%の平均値であり、Bは前記加工品の表面硬度の下位10%の平均値である。
【0063】
表面硬度の測定時、統計的に意味を有するためには、十字方向に各方向当たり10mm範囲で50個以上の位置で測定することが好ましい。例えば、表面硬度の上位5個の平均値を下位5個の平均値で割った値が表面硬度比である。
【0064】
前記表面硬度比が1.1未満の場合、加工品の表面上に偏析部および負偏析部が形成されないかその形成量が小さいため負偏析部でのマルテンサイト変態量が相対的に小さく、これに伴い、前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面に突起が存在し、この追加加工時に表面にシワが発生する問題点がある。
【0065】
前記表面硬度比が1.6超過である場合、加工品の表面上に偏析帯が過度に形成されて加工品の表面にオーステナイトステンレス鋼の圧延方向に沿って激しい縞が現れ、この追加加工時にクラックが発生する問題点がある。
【0066】
図5は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼でシンク加工した加工品の加工面を撮影した写真である。
図6は、本発明の一実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼でシンク加工した加工品の加工面を撮影した写真である。
図7は、本発明の比較例に係るオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面クラックを撮影した写真である。
【0067】
例えば、本発明の一実施例に係る前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品は、表面からの深さが20μm以上であるクラックが10個以下である。前記加工品の表面からの深さが20μm以上であるクラックが10個を超過する場合、前記加工品の不良と判断されて使用が制限される。
【0068】
図5および
図7を参照すると、従来のオーステナイト系ステンレス鋼を利用した加工品であるSTS 301鋼加工品の表面を観察したものであって、オーステナイト系ステンレス鋼の加工時に表面クラックがひどく発生することが分かり、したがって、本発明が提示するオーステナイト系ステンレス鋼加工品は
図6の例のようにシンク加工性が良好であることが分かる。
【0069】
本発明の一実施例に係る表面特性が優秀なオーステナイト系ステンレス鋼加工品の製造方法は、重量%で、C:0.005〜0.15%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜8.0%、Cr:16〜18%、Cu:0.1〜4.0%、N:0.005〜0.2%、Mo:0.01〜0.2%、残りはFeおよび不可避不純物を含むオーステナイト系ステンレス鋼を加工する段階、前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品を900〜1,150℃の温度で10分以下の間熱処理する段階および熱処理された前記オーステナイトステンレス鋼加工品を500℃まで30分以内に冷却する段階を含む。
【0070】
図8は,本発明の一実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼を製造する方法を説明するためのグラフである。
【0071】
図8を参照すると、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005〜0.15%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜8.0%、Cr:16〜18%、Cu:0.1〜4.0%、N:0.005〜0.2%、Mo:0.01〜0.2%、残りはFeおよび不可避不純物を含むオーステナイト系ステンレス鋼を連続鋳造して製造することができる。
【0072】
このとき、前記連続鋳造段階は、2次冷却帯において、1,150〜1,200℃である第1温度区間で鋳片を60℃/min以上の速度で冷却する段階、900〜1,150℃である第2温度区間で鋳片を10℃/min以下の速度で冷却する段階および900℃以下である第3温度区間で鋳片を20℃/min以上の速度で冷却する段階を含む。
【0073】
連続鋳造された鋳片は1,150〜1,200℃である第1温度区間で鋳片を60℃/min以上の速度で冷却する段階を経る。
【0074】
前記本発明の成分系を有する溶鋼から連続鋳造をしてスラブを製造するが、このとき、鋳片の表面にNi表面偏析部およびNi表面負偏析部を形成するために、前記第1温度区間では前記鋳片の急冷を遂行する。この時、例えば全面ノズル噴射を通じて鋳片の面全体が速い速度で冷却されるように遂行する。これとは異なり、前記鋳片が前記第1温度区間で60℃/min未満の速度で冷却される場合には表面にNi表面偏析部および負偏析部が形成されなくてもよい。
【0075】
通常的に連続鋳造によるNi偏析は鋳片の中心偏析が知られているが、本発明でのように一定の温度区間で急冷を遂行する場合、鋳片の表面にNi偏析を形成することができる。
【0076】
これに伴い、本発明の一実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼は前記式(1)で表示されるNiの表面負偏析度が0.6〜0.9の範囲を満足することができる。
【0077】
その後、900〜1,150℃である第2温度区間で鋳片を10℃/min以下の速度で冷却する段階を経る。
【0078】
前記第1温度区間で表面にNi偏析を形成した後、前記第2温度区間で前記鋳片の徐冷を遂行する。これにより、鋳片の表面のNi偏析のうちの一部が再固溶されることになる。
【0079】
これにより、前記オーステナイト系ステンレス鋼のNi表面偏析部は面積分率で60%未満であり、Ni表面負偏析部は面積分率で5%超過を満足することができる。
【0080】
以降、900℃以下である第3温度区間で鋳片を20℃/min以上の速度で冷却する段階を経る。
【0081】
前記第2温度区間で表面にNi偏析一部を再固溶した後、前記第3温度区間で前記鋳片の急冷を遂行する。これにより、鋳片の表面の前記Ni表面負偏析部内に偏析を微細化することができる。
【0082】
その後、前記2次冷却段階で冷却された鋳片を熱間圧延する段階および前記熱間圧延された鋳片を冷間圧延する段階を含む。
【0083】
このとき、熱間圧延時、連続鋳造されたオーステナイト系ステンレス鋼のスラブの5時間以内に再加熱を遂行する。スラブの再加熱時間が5時間を超過すると、表面に形成された前記Ni表面偏析部および負偏析部が分解し始まるため本発明で目的とする表面の前記Ni表面負偏析部および前記Ni表面偏析比を満足することができなくなる。
【0084】
また、熱延焼鈍または冷延焼鈍時、1,000〜1,200℃の焼鈍温度まで30秒以内に昇温させた後、維持時間は30秒以内で遂行する。熱延焼鈍または冷延焼鈍時の昇温時間および維持時間が増加するほど、表面に形成された前記Ni表面偏析部および負偏析部が分解し始まるため本発明で目的とする表面の前記Ni表面負偏析部および前記Ni表面偏析比を満足することができなくなる。
【0085】
以降、前記オーステナイト系ステンレス鋼を加工した後、前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品を900〜1,150℃の温度で10分以下の間熱処理する。前記加工品の表面偏析帯、硬度比およびマルテンサイト分率を制御するために加工品の熱処理過程を遂行する。
【0086】
例えば、熱処理前、前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品のマルテンサイト分率は10〜50%である。
【0087】
前記熱処理は900〜1,150℃の温度で10分以下で遂行されるが、熱処理温度が900℃未満である場合、変形誘起マルテンサイト分率を減少させることが難く、熱処理温度が1,150℃超過であるか、熱処理時間が10分超過である場合、表面に形成された前記Ni表面偏析部および負偏析部が分解し始まるため本発明で目的とする表面の前記Ni表面負偏析度、前記表面硬度比を満足することができなくなる。
【0088】
以降、熱処理された前記オーステナイトステンレス鋼加工品を500℃まで30分以内に冷却する。前記加工品のNi表面負偏析部内に偏析を微細化するために加工品の急冷過程を遂行する。
【0089】
前記熱処理された前記オーステナイトステンレス鋼加工品を空冷または水冷して冷却することができ、これに伴い、加工品の表面の前記Ni表面負偏析部内に偏析を微細化することができる。
【0090】
例えば、前記Ni表面負偏析部は長径が100μm以下である偏析を60%以上含むことができる。これに伴い、前記Ni表面負偏析部内の偏析を微細化することによって、偏析の大きさ増加により追加的な加工後の表面に縞が発生することを防止することができるため表面特性を改善することができる。
【0091】
例えば、冷却後、前記オーステナイト系ステンレス鋼加工品のマルテンサイト分率は10〜30%である。
【0092】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
「実施例」
下記の表1の発明例1〜9、そして比較例1〜6の成分を含むオーステナイト系ステンレス鋼スラブを連続鋳造して製造した。その後、熱間圧延および、50%総圧下率で冷間圧延を経て、冷延鋼板を製造した。
【0093】
以降、前記発明例1〜9、そして比較例1〜6の冷延鋼板を直径150mmの球面ポンチを利用してマルテンサイト含量が40%となるように加工後、加工品の温度が1,100℃に到達後に30秒熱処理後、空冷して500℃まで2分で冷却した。その後追加加工をした後、加工性を観察した。
【0095】
これによって製造された加工品のNi表面負偏析度、マルテンサイト分率、表面硬度比、表面特性および追加加工後のクラック乃至シワ発生の有無を肉眼で観察して下記の表2に示した。
【0097】
ここで、Ni表面負偏析度および表面硬度比はオーステナイト系ステンレス鋼加工品の表面で測定される。
【0098】
統計的に意味を有するためには、500*500μm
2以上の面積で測定し、各軸で、等間隔で50個以上の位置で測定することが好ましい。
【0099】
測定面は元の表面にするか、研磨した表面にすることができ、研磨をする場合、研磨剤の粒度が2μm以下であることが好ましい。測定方法はエネルギー分散型分光分析(energy dispersive spectroscopy、EDS)あるいは電子プローブ微小分析(electron probe micro analysis、EPMA)等を活用することができる。
【0100】
本発明では、800μm*800μm面積で、EPMA方法でNiの元素分布を撮影した。ステンレス鋼は一般的に表面に酸化層を形成するため、元素を測定する装置が酸化層以下の領域を測定できる程反応体積が充分でない時には、酸化層を表面から1〜200μm研磨した面で測定した。また、異物は本発明の論外であり、Ni偏析は母材に対するものとした。
【0101】
前記表1および表2を参照すると、本発明の一実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼加工品の成分および範囲を満足する場合、表面特性および加工性が優秀であることが分かる。ただし、このような成分範囲を満足しても鋼表面のNi負偏析度および表面硬度を満足しない場合、表面特性乃至加工性が劣位であることが分かる。
【0102】
さらに、前記発明例1〜3、そして比較例1〜3の追加加工後の表面からの深さが20μm以上であるクラックの個数を観察した結果を下記の表3に示した。
【0104】
表3を参照すると、本発明の実施例に係るオーステナイト系ステンレス鋼加工品の追加加工時に発生する表面からの深さが20μm以上であるクラックの個数が10個以下と加工性が良好であることが分かり、比較例によると表面からの深さが20μm以上であるクラックの個数が10個を超過して多量に発生して加工性が劣位であることが分かる。
【0105】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、これに限定されず、多様な変更および変形が可能である。
【0106】
本発明の実施例に係る加工性および表面特性が優秀なオーステナイト系ステンレス鋼加工品は、台所用シンク台のシンクボウルなどの用途で適用可能である。