(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外部から作用する磁気のうち、少なくとも、予め定められた検出面に沿う成分の作用方向を検出する磁気センサと、該磁気センサに磁気を作用する磁石と、を有し、互いに直交するシフト方向及びセレクト方向に操作可能な操作部を備える車両用のシフト装置であって、
前記磁石は、N極とS極との組み合わせよりなると共に前記検出面における磁気の作用方向が異なる磁極対を少なくとも2対含んでおり、
前記シフト方向及び前記セレクト方向のうちの一方の方向に沿って前記操作部が操作されたとき、前記磁石に属するいずれか一の磁極対から前記磁気センサに作用する磁気の作用方向が変化するように前記磁気センサに対して相対的に前記磁石を回転させる第1の駆動部と、
前記シフト方向及び前記セレクト方向のうちの他方の方向に沿って前記操作部が操作されたとき、前記磁石に属する磁極対のうち前記磁気センサに磁気を作用する磁極対の切り替えにより前記磁気センサに作用する磁気の作用方向が変化するように前記磁気センサに対して相対的に磁石を進退させる第2の駆動部と、を備え、
当該第2の駆動部は、前記操作部側の変位を増幅し、当該操作部側の変位よりも大きな変位を前記磁石に生じさせる増幅機構を含んで構成されているシフト装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、シフトバイワイヤの変速システムに対応するシフト装置1に関する例である。この内容について、
図1〜
図10を参照して説明する。
図1のシフト装置1は、車両に搭載される図示しない自動変速機で設定されるシフトレンジを選択するための操作装置であり、運転者の持ち手をなすシフトノブ(操作部)111を備えている。シフト装置1は、自動変速機を制御するECU(図示しない車載コンピュータユニット)と信号線を介して接続されており、運転者によるシフトノブ111の操作情報を電気信号に変換してECUに入力する。
【0013】
例示するシフト装置1では、エンジンブレーキが必要なときのBレンジ、前進時のD(ドライブ)レンジ、後退時のR(リバース)レンジ、N(ニュートラル)レンジを選択できる。シフト装置1では、
図1のごとく、各シフトレンジに対応するシフトノブ111の操作位置であるシフト位置が設定されており、いずれかのシフト位置にシフトノブ111を操作することで、対応するシフトレンジを選択的に設定できる。なお、以下の説明では、例えばDレンジに対応するシフト位置をDポジションと言う。
【0014】
図1のシフト装置1では、初期位置となるH(ホーム)ポジションを操作の起点として、車両の進行方向に沿うシフト方向、及び車幅方向に沿うセレクト方向にシフトノブ111を操作可能である。このシフト装置1の例では、右ハンドルの運転者側から見て、Hポジションに対してBポジションがシフト方向手前側(進行方向逆側、車両後部側)、Nポジションがセレクト方向に引き寄せる側(右側)に配置され、Nポジションに対してRポジションがシフト方向奥側(進行方向側、車両前側)、Dポジションがシフト方向手前側に当たる位置に配置されている。
【0015】
図1に示すHポジションを起点として、運転者がシフト方向手前側にあるBポジションにシフトノブ111を操作すれば、Bレンジを選択できる。Dレンジは、Hポジションからセレクト方向に沿ってシフトノブ111を移動させて一旦Nポジションに操作し、そのままシフト方向手前側のDポジションにシフトノブ111を操作することで選択できる。Rレンジは、Hポジションからセレクト方向に沿ってシフトノブ111を移動させて一旦Nポジションに操作した後、そのままシフト方向奥側のRポジションにシフトノブ111を操作することで選択できる。なお、このシフト装置1では、操作の起点であるHポジションに向けてシフトノブ111が付勢されている。例えばDポジションにシフトノブ111を操作した後、運転者がシフトノブ111から手を離すと、シフトノブ111は自動的にHポジションに復帰する。
【0016】
シフト装置1は、
図1のごとく、先端にシフトノブ111が取り付けられた棒状のシフトレバー11(操作部)と、シフトレバー11を回動可能に支持する箱状の筐体13と、を含んで構成されている。筐体13の上面には、シフトレバー11の移動経路をなすゲート溝130が設けられたシフトパネル131が取り付けられる。また、筐体13の内部空間に面する内底面13Bには、シフトレバー11の操作位置を磁気的に検出する検出部2Dが設けられている。以下、シフト装置1の各部について詳しく説明する。
【0017】
シフトレバー11は、
図2及び
図3のごとく、シフトノブ111とは反対側の後端近くに、ボールジョイント構造を構成する球状部110を備えている。シフト装置1では、筐体13の内壁面に立設固定されたボール受け部15に球状部110が収容されてボールジョイント構造が実現され、シフトレバー11の回動操作が可能になっている。なお、
図2では、筐体13やボール受け部15やシフトノブ111等の図示を省略している。また、
図3では、筐体13やシフトノブ111等の図示を省略している。
【0018】
シフトノブ111とは反対側のシフトレバー11の後端では、シフトレバー11の軸方向に沿う断面円形状の脚部115が球状部110から延設されている。この脚部115は、上記の検出部2Dを構成する磁石21を駆動するための第1及び第2駆動ピン116、117の付け根となっている。
【0019】
第1駆動ピン116は、
図1〜
図3のごとく、シフトレバー11がシフト方向に操作されたときに磁石21を回転駆動するための駆動ピンであり、第1の駆動部の一例をなしている。第1駆動ピン116は、脚部115の円形状の端面において、中心からセレクト方向にオフセットした位置を根元とし、シフトレバー11の軸方向に沿って突出するように設けられている。第1駆動ピン116の先端には、球状の第1摺動ボール116Aが設けられている。この第1の摺動ボール116Aは、シフトレバー11の軸芯に対して、セレクト方向にオフセットして位置している。
【0020】
第2駆動ピン117は、シフトレバー11がセレクト方向に操作されたときに磁石21を進退駆動するための駆動ピンである。第2駆動ピン117は、脚部115の外周側面から斜め下方に向けて突出するように設けられ、その先端には、球状の第2摺動ボール117Aが設けられている。この第2の摺動ボール117Aは、シフトレバー11の軸芯に対してシフト方向にオフセットして位置している。なお、第2駆動ピン117は、後述する増幅リンク27と共に第2の駆動部の一例をなしている。
【0021】
さらに、球状部110の外周面には、シフトレバー11の回動方向をシフト方向及びセレクト方向に規制するための規制ピン118が立設されている。この規制ピン118は、シフト方向に沿う軸方向が球状部110の略中心を通過するように設けられている。この規制ピン118は、シフトレバー11がセレクト方向に操作されたとき、回動方向の変動を伴わずに軸回りに回転シャフトのように回転する。また、シフトレバー11がシフト方向に操作されたとき、
図1〜
図3中の上下方向に回動する。
【0022】
箱状の筐体13の内壁面に固定されたボール受け部15は、
図1及び
図3のごとく、半割の2分割構造の部品15A・Bを組み合わせて形成されている。2分割構造の部品15A・Bを組み合わせたとき、その内部に、球状部110を収容するための球状の内部空間が形成される。この球状の内部空間は、完全な密閉空間ではなく、少なくとも3箇所の開口部150A〜Cを介して外部に開口している。
【0023】
開口部150としては、シフトレバー11が貫通する開口部150A、脚部115が貫通する開口部150B、及び規制ピン118が貫通する開口部150Cがある。シフトレバー11及び脚部115に対応する開口部150A・Bは、シフトレバー11あるいは脚部115の回動を許容できるように大きく形成されている。
【0024】
一方、規制ピン118に対応する開口部150Cは、シフトレバー11のシフト方向の操作に従動して規制ピン118が上下方向に移動する経路に対応するスリット状に設けられている。このようなスリット状の開口部150Cによれば、シフトレバー11の操作方向を、シフト方向とセレクト方向とに規制できる。さらに、スリット状の開口部150Cによれば、規制ピン118のセレクト方向の回動変位を伴うシフトレバー11の軸回りの回転を規制でき、シフトノブ111を回り止めできる。
【0025】
上記の検出部2Dは、
図1〜
図3のごとく、磁気センサIC201が実装された基板2と、磁気センサIC201の検出面201Sに相対して磁石21を変位(回転、進退)させる変位機構と、により構成されている。さらに、変位機構は、第2摺動ボール117Aの変位を増幅して磁石21を変位させる増幅機構をなす増幅リンク27を含んで構成されている。
【0026】
基板2(
図3)は、磁気センサIC(磁気センサ)201のほか、シフトノブ111の操作により選択されたシフト位置を表す電気信号を生成し出力するための図示しないマイコンチップなどが実装された電子基板である。両面実装に対応する基板2では、筐体13の内部空間に面して磁気センサIC201が配置され、その裏面にマイコンチップなど他の電子部品が配置されている。
【0027】
磁気センサIC201(
図3)は、直交する2方向の磁気の大きさを検知可能な2軸の磁気センサである。この磁気センサIC201は、この直交する2方向により規定される検出面201Sを有し、この検出面201Sが基板2の表面に沿うように取り付けられている。磁気センサIC201は、この検出面201Sにおける磁気の作用方向を検出し、その作用方向を表すセンサ信号を出力する。つまり、この磁気センサIC201は、検出面201Sに直交する軸回りの回転角を検出する1軸の回転センサとして機能する。
マイコンチップは、磁気センサIC201が出力するセンサ信号を処理することで、シフトノブ111が操作されたシフト位置を検出し、そのシフト位置を表す操作信号を電気的に出力する。
【0028】
基板2には、
図1〜
図3のごとく、磁気センサIC201等の電子部品のほかに、磁石21の変位機構が取り付けられている。変位機構は、磁石21が進退可能なレール250を含むマグネットガイド25と、回転台でもあるマグネットホルダ25を保持するホルダガイド23と、の組合せ等を含んで構成されている。
【0029】
ホルダガイド23は、マグネットガイド25を回転可能に保持する略円環状のガイド部材である。このホルダガイド23は、周方向において対向する2箇所にマグネットホルダ25を回転可能に保持するための係合部23B(
図3)を備えている。対向配置された一対の係合部23Bは、いずれも断面カギ状を呈し、周方向における約40度に亘って形成されている。
【0030】
略円環状を呈するホルダガイド23は、
図3において基板2の表面に示す破線の二重円を取付領域として基板2に固定されている。したがって、この二重円の内側に位置する磁気センサIC201は、略円環状のホルダガイド23の内側に位置することになる。ホルダガイド23における円環状をなす部分の板厚は、磁気センサIC201の実装高さを僅かに超える寸法に設定されている。このような寸法設定によれば、ホルダガイド23に保持されたマグネットホルダ25の下面が、磁気センサ201に対して僅かな隙間を空けて非接触で対面する状態を実現できる。
【0031】
マグネットホルダ25(
図3)は、磁石21を進退可能に保持する回転台である。このマグネットホルダ25は、樹脂等の非磁性材料により形成されている。マグネットホルダ25は、略円形平板状をなす円板部252の表面に、磁石21を進退させるレール250を設けて構成されている。
【0032】
レール250は、断面カギ状を呈する一対の係合部25Aを対向配置することで形成される溝状の空間である。レール250の長さは、磁石21の長手方向の長さと略一致している。各係合部25Aでは、断面カギ状にならない切欠き25Bが長手方向の2箇所に設けられている。詳しくは後述するが、この切欠き25Bを利用して、マグネットホルダ25の正面側からの磁石21の脱着が可能になっている。
【0033】
レール250の両側には、円板部252が円弧状をなして外側に張り出す周縁部25Cが形成されている。回転台であるマグネットホルダ25は、この周縁部25Cがホルダガイド23の係合部23Bに係合する状態で回転可能である。
円板部252は、レール250の長手方向両側の開口部に当たる外周部分が直線的に切り落とされて不完全な円形状をなしている。約90度回転させた状態のマグネットホルダ25であれば、一対の係合部23Bの間隙を通過でき、これにより、ホルダガイド23の正面側からマグネットホルダ25の脱着が可能になる。
【0034】
筐体13の内底面13Bでは、
図1〜
図3のごとく、基板2に隣接する位置に支点台18が立設されている。さらに、基板2に対してシフト方向側に隣接するこの支点台18には、さらに、支点ピン180が立設されている。この支点ピン180は、増幅機構を構成する増幅リンク27を回動可能に軸支している。この増幅リンク27は、マグネットホルダ25に保持された磁石21の長手方向に対して、直角に近く交差する状態にある。
【0035】
増幅リンク27は、
図1〜
図3のごとく、細長い平板状部材の表面側に、立体ガイド孔270を設けた部材である。この増幅リンク27は、第2駆動ピン117との組合せにより第2の駆動部の一例をなしている。増幅リンク27の一方の端部には、支点孔273が設けられ、他方の端部には、長孔275が設けられている。支点孔273は、上記の支点ピン180を貫通させるための丸孔である。長孔275は、磁石21に設けられた後述の作用ピン213を貫通配置するためのスリット孔である。
【0036】
立体ガイド孔270は、支点孔273と長孔275との中間的な位置に設けられている。この立体ガイド孔270は、第2駆動ピン117の第2摺動ボール117Aが収容される案内溝である。この立体ガイド孔270の上面視したときの正面形状は、増幅リンク27の長手方向に沿う長孔形状を呈している(
図5参照。)。さらに、立体ガイド孔270の両側をなす側壁271は、支点孔273に近づくほど立設高さが高くなるように立体的に形成されている。このような立体ガイド孔270の立体形状は、シフトレバー11の回動に伴う第2摺動ボール117Aの上下方向の変位に対応するための形状である。
【0037】
磁石21は、直方体形状の
図4の本体21Bに対して、非磁性材料よりなるカバー210を被せたものである。
図1〜
図3に示す磁石21の外形状は、このカバー210の外形状である。磁石21では、本体21Bの露出面である下面が、磁気センサIC201の検出面201Sに対面する。なお、
図4では、磁石21の外形状であるカバー210の外形状を細線の破線により示している。
【0038】
以下、カバー210を含む磁石21の形状的な構成について主に
図3を参照して説明し、続いて本体21Bの磁気的な構成を
図4を参照して説明する。
磁石21では、マグネットホルダ25の係合部25Aに進退可能に係合するスライダ217が両側面に設けられている。また、磁石21の上面には、一対のガイド壁218と、軸状の作用ピン213と、が磁石21の長手方向の両端付近に立設されている。
【0039】
スライダ217は、磁石21の下面と面一をなすよう、磁石21の側面から張り出して形成されている。磁石21の長手方向に沿って延設されたスライダ217は、マグネットホルダ25の係合部25Aに係合し、レール250に沿う磁石21の進退を可能にする。なお、スライダ217には、その長手方向の2箇所に切欠きが設けられている。この切欠きは、マグネットホルダ25の係合部25Aの切欠き25Bに対応して設けられ、マグネットホルダ25の正面側からの磁石21の脱着を可能にする。
【0040】
作用ピン213は、磁石21を長手方向に進退駆動させるための力が作用するピンである。この作用ピン213は、筐体13の支点ピン180に回動可能に軸支された上記の増幅リンク27の長孔275に貫通配置される。
【0041】
ガイド壁218は、磁石21の長手方向に平行をなすように立設された壁である。一対のガイド壁218は、間隙を空けて互いに対面するように設けられ、第1駆動ピン116の第1摺動ボール116Aを収容するためのガイド溝214を形成している。このガイド溝214の溝幅は、第1摺動ボール116Aを収容できる程度に、その直径と略一致している。
【0042】
なお、組立状態のシフト装置1では、増幅リンク27の長手方向と、磁石21の長手方向と、がほぼ直交する状態にある。増幅リンク27によれば、立体ガイド孔270に収容された第2摺動ボール117Aのセレクト方向の変位を増幅して磁石21をその長手方向に変位できる。
【0043】
次に、磁石21の本体21Bの構成について
図4を参照して説明する。
図4(a)は、本体21Bを上面側から見込む斜視図であり、
図4(b)は、本体21Bを下面側から見込む斜視図である。なお、同図中の細線の破線は、磁石21の外形状(カバー210の外形状)を示している。
【0044】
本体21Bは、磁極対をなすN極とS極とを対面させたブロック状の磁石21H、M、Lを3つ並べた直方体形状の磁石である。3つの磁石21H、M、Lのうち、両端の2つの磁石21H、LはN極が面する側(
図4(b)で図示される下面側)が同じである一方、中央の磁石21Mは裏返されて他の2つの磁石21H、LのN極が面する側にS極が面している。
【0045】
この本体21Bでは、各磁石21H、M、Lの磁極対によってN極とS極とが対面する方向の磁界が形成されるのに加えて、磁石21H、M、Lのうちの異なる2つに属して隣接するN極とS極との組み合わせによる磁極対によっても磁界が形成される。このような磁極対には、磁石21HのN極と磁石21MのS極との組み合わせによる磁極対215Aと、磁石21MのS極と磁石21LのN極との組み合わせによる磁極対215Bと、が含まれている。
【0046】
磁極対215A・Bは、磁石21Hと磁石21Mと磁石21Lとが隣り合う方向、すなわち直方体形状の本体21B(磁石21)の長手方向に沿う磁界を形成する。ここで、本体21Bにカバー210を被せた磁石21は、上記の通り、基板2に対面するマグネットホルダ25のレール250に収容されている。磁石21は、その長手方向が基板2の表面に沿う状態で保持されている。そのため、磁極対215A・Bが形成する磁界は、基板2の表面に沿う方向に磁気を作用することになる。
【0047】
なお、以下の説明では、磁石21の長手方向において作用ピン213側に配置された磁石21Hのうち基板2に面するN極を第1N極211Nといい、磁石21の長手方向においてガイド壁218側に配置された磁石21Lのうち基板2に面するN極を第2N極212Nという。また、中央の磁石21Mのうち基板2に面するS極をS極21Sという。
【0048】
また、磁極対215Aにおける第1N極211NとS極21Sとの境目を第1境界B1といい、磁極対215Bにおける第2N極212NとS極21Sとの境目を第2境界B2という。本例の構成では、磁石21Hの第1N極211N、磁石21MのS極21S、磁石21Lの第2N極212Nにより形成される本体21Bの表面が、カバー210によって覆われずに磁石21の下面として露出している。
【0049】
次に、シフトレバー11が初期位置であるHポジションにあるときの各部品の配置や姿勢を説明し、続いてシフト位置の具体的な検出方法について説明する。
(1)Hポジション時の各部品の配置・姿勢について
本例のシフト装置1では、
図1〜
図3を参照して示した通り、シフトレバー11の球状部110のほぼ直下に、磁石21を進退可能に保持するマグネットホルダ25の回転中心が位置している。そして、マグネットホルダ25では、長手方向がセレクト方向に沿う姿勢で磁石21が保持されている。
【0050】
また上記のごとく、シフト装置1では、第1駆動ピン116の第1摺動ボール116Aが、磁石21のガイド溝214に収容されている。磁石21のガイド溝214は、磁石21の長手方向と同様、セレクト方向に沿っているため、第1摺動ボール116Aのセレクト方向の変位を許容する。
【0051】
第2駆動ピン117の第2摺動ボール117Aは、磁石21に対して直角に近く交差している増幅リンク27の立体ガイド孔270に収容されている。増幅リンク27の立体ガイド孔270はシフト方向に沿っているため、第2摺動ボール117Aのシフト方向の変位を許容する。
【0052】
本例のシフト装置1では、
図5で示すように、磁石21を回転可能に保持するマグネットホルダ25の回転中心Cの位置と、マグネットホルダ25を回転駆動する第1摺動ボール116Aと、の第1の位置関係、及び磁石21を進退駆動するための作用ピン213と、増幅リンク27を介して磁石21を進退駆動する第2摺動ボール117Aと、の第2の位置関係が重要になっている。
【0053】
第1の位置関係については、回転中心Cに対して第1摺動ボール116Aがセレクト方向にずれて位置している必要がある。なお、このずれ量が大きいほど、第1摺動ボール116Aのシフト方向の変位に伴う磁石21の回転角が大きくなる。
第2の位置関係については、磁石21の作用ピン213に対して第2摺動ボール117Aがシフト方向にずれている必要がある。
【0054】
なお、上記の位置関係は、シフト方向のシフトレバー11の操作に応じて磁石21が回転し、セレクト方向の操作に応じて磁石21が進退する構成の場合の位置関係である。シフト方向の操作に応じて磁石21が進退し、セレクト方向の操作に応じて磁石21が回転する構成を採用しても良い。この構成の場合には、ずれを設ける方向が、シフト方向とセレクト方向とで入れ替わる。
【0055】
(2)シフト位置の検出方法
次に、
図6及び
図7を参照しながらシフト位置の検出方法を説明する。
図6は、各ポジションにおける磁石21の回転位置及び進退位置を示している。
図7は、各ポジションにおける磁石21と検出面201Sとの位置関係を示している。なお、
図6中のポジション毎に付記された平行四辺形は、基板2に面する磁石21の下面形状を表し、この平行四辺形の内側に重ねて示す小さな太枠の平行四辺形は、磁気センサIC201の検出面201Sを表している。磁石21の下面形状を表す平行四辺形と、検出面201Sを表す太枠の平行四辺形と、の
図6中の相対的な位置関係を、わかり易く正面視に書き換えたものが
図7である。
【0056】
図6の通り、磁石21がセレクト方向に沿うと共に、マグネットホルダ25のレール250に磁石21が完全に近く収容された状態となるHポジションのとき、磁気センサIC201の検出面201Sは、磁石21の第2境界B2に対面する状態にある。このとき、検出面201Sには、
図7に示すように、第2N極212NからS極21Sに至る磁気、つまり図中の上方に向かう磁気が作用する。
【0057】
Hポジションを起点としてシフトレバー11が(運転者側から見て)シフト方向手前側のBポジションに操作されると、第1摺動ボール116Aが
図6中の左斜め上方に向かうシフト方向奥側の逆向きに移動し、ガイド溝214の側壁であるガイド壁218に対して当接荷重を作用する。このガイド壁218は、マグネットホルダ25の回転中心から偏心しているため、第1摺動ボール116Aの当接荷重は、マグネットホルダ25に作用する回転モーメントに変換される。マグネットホルダ25は、この回転モーメントにより
図6中の時計回りP1に回転する。
【0058】
マグネットホルダ25の
図6中の時計回りP1の回転と共に、磁石21の長手方向が時計回りに回転する。
図7では、この回転により磁石21の長手方向が傾くように変位している。このとき、磁石21の進退は生じないので、検出面201Sに対して磁石21の第2境界B2が対面する状態を維持しつつ、第2N極212NからS極21Sに至る磁界の向きが回転する。これにより検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する。このような磁気の作用方向の変化を検出することで、HポジションからBポジションへのシフトレバー11のシフト方向の操作を検出可能である。
【0059】
また、Hポジションを起点としてシフトレバー11がNポジションに向けてセレクト方向に操作されると、第2摺動ボール117Aが
図6中の左斜め下方に当たるセレクト方向逆向きに移動する。そうすると、第2摺動ボール117Aが立体ガイド孔270の側壁271に当接荷重を作用し、これにより増幅リンク27が反時計回りP4に回動する。この増幅リンク27の回動により、作用ピン213を介して磁石21が長手方向に駆動され、マグネットホルダ25のレール250に沿って
図6中左斜め下方P3に向けて前進する。
【0060】
このように磁石21が長手方向に前進すると、磁気センサIC201の検出面201Sに対面する磁石21の部位が、第2境界B2から第1境界B1に切り替わる(
図7)。この結果、検出面201Sにおける磁気の作用方向は、第2N極212NからS極21Sに至る方向(
図7中の上向き)から、第1N極211NからS極21Sに至る方向(
図7中の下向き)に反転する。このような磁気の作用方向の反転を検出すれば、HポジションからNポジションへのセレクト方向の操作を検出できる。
【0061】
さらに、NポジションからDポジションにシフトレバー11が操作されると、上記したHポジションからBポジションへの操作の場合と同様、マグネットホルダ25の時計回りP1の回転が生じ、磁石21の長手方向が回転する。このとき、検出面201Sが磁石21の第1境界B1と対面する状態を維持したまま、第1N極211NからS極21Sに至る磁界が回転し、これによって検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する(
図7)。このような磁気の作用方向を検出すれば、NポジションからDポジションへのシフト方向の操作を検出できる。
【0062】
シフトレバー11がNポジションからRポジションに操作されたときには、マグネットホルダ25の反時計回りP2の回転に伴い、NポジションからDポジションへの操作の場合とは逆向きに磁石21が回転する。このとき、磁気センサIC201の検出面201Sが第1境界B1と対面した状態を維持したまま、第1N極211NからS極21Sに至る磁界が回転し、検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する。このような磁気の作用方向の変化を検出すれば、NポジションからRポジションへのシフト方向の操作を検出できる。
【0063】
以上のように構成された本例のシフト装置1は、セレクト方向への操作に伴う第2摺動ボール117Aの変位量を増幅する増幅機構を備えている点に技術的特徴のひとつを備えている。
図8に示す通り、増幅機構を構成する増幅リンク27は、支点ピン180を支点として回動し、回動に応じて作用ピン213を介して磁石21を長手方向に変位させるように構成されている。この増幅リンク27は、立体ガイド孔270に収容された第2摺動ボール117Aのセレクト方向の変位に応じて回動する。
【0064】
この増幅機構では、支点ピン180が支点を形成し、長孔275に対する作用ピン213の挿入構造が磁石21を進退駆動する作用点を形成している。作用点を形成する作用ピン213の挿入構造により、増幅リンク27の回動変位が磁石21に伝達される。また、増幅機構では、立体ガイド孔270の側壁271に対する第2摺動ボール117Aの当接構造が増幅リンク27を回動変位させる力点を形成している。力点を形成する第2摺動ボール117Aの当接構造により、第2摺動ボール117Aのセレクト方向の変位が増幅リンク27に伝達される。そして、増幅リンク27では、回動中心をなす支点を基準として、力点よりも径方向外周側に作用点が位置している。
【0065】
図8の増幅機構において、支点−力点間の距離をD1とし、支点−作用点間の距離をD2としたとき、増幅リンク27はレバー比D2/D1のリンク部材として機能する。リンク部材としての増幅リンク27は、レバー比D2/D1(>1)により第2摺動ボール117Aの変位量S1を増幅して作用ピン213を変位させることができる。これにより磁石21の変位量S2は、S1×(D2/D1)となり、変位量S1よりも大きくなる。増幅機構をなす増幅リンク27によれば、磁石21に必要な変位量S2に対して、第2摺動ボール117Aの変位量S1を小さくできる。
【0066】
以上のような構成のシフト装置1は、磁石21を回転駆動する第1の駆動部として第1駆動ピン116を備えている。さらに、磁石21を進退駆動する第2の駆動部として、第2駆動ピン117と増幅リンク27との組合せを備えている。
【0067】
シフト装置1では、HポジションからBポジション、あるいはNポジションからRポジションやDポジションに至るシフト方向の操作が行われたとき、第1駆動ピン116のシフト方向の変位により磁石21が回転し、検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する。また、HポジションからNポジションに至るセレクト方向の操作が行われたときには、第2駆動ピン117のセレクト方向の変位に応じて増幅リンク27が回動し、これにより作用ピン213を介して磁石21が長手方向に駆動される。そして、磁石21の長手方向の前進に応じて、磁気センサ201に磁界を作用する磁極対が切り替わって検出面201Sにおける磁気の作用方向が反転する。
【0068】
このように本例のシフト装置1によれば、1つの磁気センサIC201に対する磁気の作用方向を検出することで、互いに直交するシフト方向及びセレクト方向に沿う2次元的なシフトレバー11の操作を検出可能である。したがって、本例のシフト装置1では、従来の構成とは異なり、複数の磁気センサICを2次元的に配置するために大きな設置スペースを確保する必要がなくなり、コンパクト設計が容易になっている。
【0069】
さらに、本例のシフト装置1は、セレクト方向の第2摺動ボール117Aの変位量を増幅する機構を備えている。増幅リンク27を含む増幅機構によれば、第2駆動ピン117の先端に設けられた第2摺動ボール117Aの変位量を増幅して磁石21を長手方向に駆動できる。換言すると、本例のシフト装置1では、磁石21に必要な長手方向の変位量に対して第2摺動ボール117Aに要求される変位量を小さくできる。シフトレバー11の操作に伴う第2摺動ボール117Aの変位量は、シフトレバー11の回動中心から第2摺動ボール117Aが離れるほど大きくなる。第2摺動ボール117Aの変位量が小さくても良いシフト装置1であれば、第2摺動ボール117Aを先端に設けた第2駆動ピン117の長さを短縮できるので、シフト装置1の小型設計に有利である。
【0070】
一般に、精度とコストとを両立する磁気センサは、チップサイズが比較的大きいという実情がある。そして、チップサイズの大きい磁気センサを採用する場合、磁石の変位量を大きくする必要が生じる。本例のシフト装置1の構成によれば、チップサイズの大きい磁気センサを採用する場合であっても、増幅リンク27のレバー比の最適設定により、磁石の変位量を大きくできる。シフト装置1では、チップサイズの大きい磁気センサを採用する場合であっても、装置の大型化を回避できる。
【0071】
なお、本例では、シフトレバー11の球状部110の下方に基板2や検出部2D等を設けている。基板2等の配置については、シフト方向及びセレクト方向に沿うシフトレバー11の操作を検出可能な位置であれば良く、球状部110の斜め下側、真横、斜め上側など適宜、変更可能である。
また、本例の構成では、シフトレバー11の操作に応じて磁石21を変位させている。これに代えて、磁石を基板等に固定する一方、シフトレバー11の操作に応じて磁気センサが変位する構成を採用しても良い。
【0072】
なお、本例では、基板2に面して、中央にS極21Sが位置すると共に、両側にN極211N、212Nが位置するように磁石21を構成している。これに代えて、両側にS極が位置し、中央にN極が位置するような磁石を採用しても良い。また、3つの磁石21H、M、Lが並列配置された磁石21に代えて、
図9のごとく、S極を内側にして対向配置された2つの磁石21A・Bの組み合わせよりなる磁石21を採用しても良い。この場合、磁石21A及び21BのN極とS極との組み合わせが、磁気センサIC201に磁気を作用する磁極対となる。Hポジションが属するシフト方向の列にシフトノブ111が操作されているときと、Nポジションが属するシフト方向の列にシフトノブ111が操作されているときと、で磁気センサIC201が対面する磁石21A、Bが切り替わるように構成すると良い。例えば、プラスチックマグネットを着磁することで、2つの磁石21A・Bが一体化された磁石21を形成できる。あるいは、例えば、この2つの磁石21A・Bの周りに溶融状態の樹脂材料を流し込み硬化させるインサート成形により、2つの磁石21A・Bが一体化された磁石21を形成することも良い。これら2つの磁石21A・Bについては、S極を内側にして対向配置するのに代えて、
図10のように、磁界の向きが異なるように配置しても良い。さらに、磁界の向きが異なる磁石を3つ以上並べて配置して磁石21を形成しても良い。この場合には、例えば3列以上のシフト方向の各列に沿ってシフトノブを操作するシフト装置にも対応できるようになる。3列以上のシフト方向を含む2次元的なシフトノブの操作を、たった1つの磁気センサICによって検出できる。
【0073】
本例では、直交する2方向に作用する磁気を検出可能な2軸の磁気センサを採用しているが、これに代えて、互いに直交する3方向に作用する磁気を検出可能な3軸の磁気センサを採用することも良い。シフト装置1では、上記のごとく、シフトノブ111がセレクト方向に操作されると、磁気センサの検出面201Sに対して磁石21の第2境界B2が対面する状態から第1境界B1が対面する状態に切り替わり、これにより、検出面201Sにおける磁気の作用方向が180度回転する。このような切り替わりの途中では、検出面201Sに対して磁石21のS極21Sが対面する状態が生じ、この状態では、検出面201Sに対して直交する方向の磁気が作用する。そこで、検出面201Sにおける磁気の作用方向の180度回転を検出でき、かつ、180度回転の途中で、検出面201Sに対して直交する作用方向の磁気を検出できたとき、セレクト方向の操作を検出するように構成しても良い。この場合には、セレクト方向の操作を一層確実性高く検出できる。
【0074】
(実施例2)
本例は、実施例1のシフト装置1に基づき、検出信頼性を高めたシフト装置の例である。この内容について
図1、
図11を参照して説明する。同図は、実施例1における
図7に対応する図である。
本例のシフト装置1では、磁石21及び磁気センサICの配置構成が実施例1とは相違している。磁石21は、磁気センサICに面して、2箇所のN極と2箇所のS極とが長手方向に交互に配置されるように4つの磁石を組み合わせたものである。この磁石21では、磁気センサIC側の下面において、
図11中の上から順番に、N極、S極、N極、S極が配置され、これにより、3対の磁極対215A、B、Cが形成されている。この磁石21では、磁極のスパンS2に一致する間隔で、磁極の境目をなす境界B1(磁極対215Aの境界)、境界B2(磁極対215Bの境界)、及び境界B3(磁極対215Cの境界)が形成されている。
【0075】
この磁石21に対面する基板(図示略)では、2個の磁気センサICが間隔を空けて配置され、2箇所の検出面201A・Bが形成されている。2個の磁気センサICは、磁石21における磁極の間隔をなすスパンS2に対して、検出面201A・BのスパンS1が略一致するように配置されている。
【0076】
シフトノブ111がHポジションにあるとき、検出面201Aが磁極の境界B2に対面し、検出面201Bが境界B3に対面する状態にある。例えば、このHポジションを起点としてシフトノブ111がシフト方向手前側のBポジションに操作されると、シフトレバー11に従動して磁石21が回転する。この場合、検出面201A・Bが境界B2・B3に対面する状態を維持しつつ磁石21が傾いて磁界の向きが回転し、これにより検出面201A・Bにおける磁気の作用方向が変化する。
【0077】
また例えば、Hポジションを起点としてシフトノブ111がセレクト方向のNポジションに操作されると、シフトレバー11により磁石21が駆動されて
図11中の下方に移動する。この場合、検出面201Aに対して境界B2が対面する状態から境界B1が対面する状態に切り替わると共に、検出面201Bに対して境界B3が対面する状態から境界B2が対面する状態に切り替わる。境界B1とB2、境界B2とB3、では、磁界の向きが逆であるため、Nポジションへの操作に応じて、検出面201A・Bにおける磁気の作用方向が反転する。
【0078】
本例のシフト装置1によれば、検出面201A・Bを有する2つの磁気センサICを利用してシフトノブ111の操作位置を検出するため、検出の信頼性、確実性を向上できる。
なお、本例では、いずれかのポジションにシフトノブ111が操作されたとき、検出面201A・Bが異なる境界に対面する状態となるように構成している。この構成に代えて、いずれかのポジションにシフトノブ111が操作されたとき、一方の検出面のみがいずれかの境界に対面する状態となるように構成しても良い。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0079】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。