特許第6853913号(P6853913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アウディ アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧 ▶ フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフトの特許一覧

特許6853913外部の試験ガス供給部への接続用の組み込まれたガス接続部を有した燃料電池システム
<>
  • 特許6853913-外部の試験ガス供給部への接続用の組み込まれたガス接続部を有した燃料電池システム 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853913
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】外部の試験ガス供給部への接続用の組み込まれたガス接続部を有した燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20210322BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20210322BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20210322BHJP
   H01M 8/008 20160101ALI20210322BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20210322BHJP
【FI】
   H01M8/04 J
   H01M8/00 Z
   H01M8/04664
   H01M8/008
   !H01M8/10 101
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-522298(P2020-522298)
(86)(22)【出願日】2018年10月31日
(65)【公表番号】特表2021-500706(P2021-500706A)
(43)【公表日】2021年1月7日
(86)【国際出願番号】EP2018079787
(87)【国際公開番号】WO2019105673
(87)【国際公開日】20190606
【審査請求日】2020年4月20日
(31)【優先権主張番号】102017221741.3
(32)【優先日】2017年12月3日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(73)【特許権者】
【識別番号】591037096
【氏名又は名称】フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】デネッケ,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】キルヒホッフ,マレン ラモナ
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−164730(JP,A)
【文献】 特開2004−342389(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/129581(WO,A1)
【文献】 特開昭61−88463(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/070587(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタック(10)と、
前記燃料電池スタック(10)にアノード作動ガスを供給するアノード供給通路(21)、および前記燃料電池スタック(10)からアノード排気ガスを排出するアノード排気ガス通路(22)を有したアノード供給部(20)と、
前記燃料電池スタック(10)にカソード作動ガスを供給するカソード供給通路(31)、および前記燃料電池スタック(10)からカソード排気ガスを排出するカソード排気ガス通路(32)を有したカソード供給部(30)と、
を備え、
前記アノード供給通路(21)および前記アノード排気ガス通路(22)の各々において、遮断エレメント(29,421,422)が配置され、各遮断エレメント(29,421,422)と前記燃料電池スタック(10)との間に、ガス接続部(423,424,425)が、外部の試験ガス供給部に接続されるように配置され、および/または
前記カソード供給通路(31)および前記カソード排気ガス通路(32)の各々において、遮断エレメント(431,432)が配置され、各遮断エレメント(431,432)と前記燃料電池スタック(10)との間に、ガス接続部(433,434)が、外部の試験ガス供給部に接続されるように配置されていることを特徴とする燃料電池システム(1)。
【請求項2】
前記ガス接続部(423,424,425,433,434)は、自動で閉じるように適合されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項3】
前記ガス接続部(423,424,425,433,434)は、前記燃料電池システム(1)が車両に設置された状態で、前記外部の試験ガス供給部に接続するように配置され、適合されることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項4】
前記アノード供給部(20)の前記遮断エレメント(29,421,422)および前記ガス接続部(423,424,425)および/または前記カソード供給部(30)の前記遮断エレメント(431,432)および前記ガス接続部(433,434)を制御するように構成された診断モジュール(50)をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項5】
前記試験ガス供給部が前記アノード供給部(20)の前記ガス接続部(423,424,425)に接続されているときに、および/または前記試験ガス供給部が前記カソード供給部(30)の前記ガス接続部(433,434)に接続されているときに、前記燃料電池システム(1)を確認する診断機能および/または前記燃料電池システム(1)を補修する補修機能を実行するように構成された診断モジュール(50)をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項6】
前記診断モジュール(50)は、前記燃料電池スタック(10)、前記アノード供給部(20)および/または前記カソード供給部(30)の漏れ試験を実行するように適合されることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項7】
前記診断モジュール(50)は膜(14)を通した水素流れを決定する診断機能を実行するように適合されることを特徴とする請求項5または6に記載の燃料電池システム(1)。
【請求項8】
前記診断モジュール(50)は、前記燃料電池スタック(10)の触媒電極の状態を決定する診断機能を実行するように適合されることを特徴とする請求項3に従う請求項5〜7のいずれか一つに記載の燃料電池システム(1)。
【請求項9】
前記診断モジュール(50)は、前記燃料電池スタック(10)の触媒電極の触媒機能を回復する再生機能を実行するように適合されることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一つに記載の燃料電池システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部の試験ガス供給部に接続されるように構成された燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、酸素を用いた燃料の水への化学変化を利用して電気エネルギを生成する。この目的のために、燃料電池は、核となる構成要素として、イオン伝導(大抵はプロトン伝導)膜から構成される構造である所謂膜電極アッセンブリ(MEA)と、膜の両側にそれぞれ配置された触媒電極(アノードおよびカソード)とを備えている。燃料電池は、スタックに配置された複数のMEAによって一般に形成されており、これらMEAの電力は合算される。個々の膜電極アッセンブリの間には、個々のセルに作動媒体、つまり反応物を確実に供給し、また冷却のためにも使用されることが多いバイポーラプレート(流れ場またはセパレータプレートとも呼ばれる)がある。さらに、バイポーラプレートは、膜電極アッセンブリとの電気伝導性接触を規定する。
【0003】
燃料電池の作動中には、燃料(アノード作動媒体)、特に水素H2または水素含有ガス混合物がアノード側のパイポーラプレートの流れ場を通してアノードに供給され、アノード側では、H2のH+プロトンへの電気化学的な酸化が、電子の提供と共に生じる(H2→2H++2e-)。気密でかつ電気的に絶縁された態様で、反応コンパートメントを互いに分離する電解質または膜によって、プロトンがアノードコンパートメントからカソードコンパートメントへと(水上輸送または水無しで)移動する。アノードで提供された電子は、電線路を介してカソードへ供給される。カソード側のバイポーラプレートの流れ場によって、酸素または酸素含有ガス混合物(例えば、空気)がカソード作動媒体としてカソードに供給され、O2からO2-への還元が、電子の授受と共に生じる(1/2O2+2e-→O2-)。同時に、カソードコンパートメントの酸素陰イオンが、膜を介して運搬されたプロトンと反応し、水を生成する(O2-+2H+→H2O)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在では、車両搭載型の燃料電池システムは、確立された診断および補修の概念を有していない。しかし、燃料電池システムの種々の構成要素、例えば本明細書では膜、電極、シール等の燃料電池スタック自体が、経時劣化の現象に晒され、これにより、補修が必要であると思われる。補修のために、燃料電池システムは、間もなく車両から引き離され、システム試験ベンチに組み込まれ、これにより、多くの時間と基盤設備を要している。さらに、燃料電池スタック自体、例えば該スタックの膜または電極の検査または再生手順のために、スタックは燃料電池システムから取り除かれ、スタック試験ベンチで試験されなければならない。これにより、時間および基盤設備の要求がより一層増加する。
【0005】
独国特許出願公開第10 2007 002 426 A1号明細書は、燃料電池ユニット用の診断方法および診断装置を開示している。この場合、燃料電池には、水素が、外部供給部から供給され、窒素が、空気供給ラインへ開口するラインを通して供給される。サイクリックボルタンメトリー(CV)が膜または電極の経時劣化条件を決定するように、診断装置によって実施される。
【0006】
独国特許出願公開第10 2013 213 101 A1号明細書は、電圧監視を実施するように診断接続部を介して燃料電池スタックに電気的に接続された診断装置を開示している。
【0007】
独国特許出願公開第10 2015 210 836 A1号明細書は、燃料電池スタックの条件を決定する診断方法および装置を記載している。この目的のために、燃料電池スタックは、診断装置に接続され、定義されたガス条件および/または電圧または電流条件に晒され、そして、燃料電池スタックのデータが評価される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、本発明の目的は、好ましくは、設置された(搭載された)状態で、少ない労力で、燃料電池スタックを診断および/または再生する燃料電池システムを提供することである。
【0009】
この目的は、独立請求項の特徴を有した燃料電池システムによって達成される。
【0010】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池スタックと、燃料電池スタックにアノード作動ガスを供給するアノード供給通路、および燃料電池スタックからアノード排気ガスを排出するアノード排気ガス通路を有したアノード供給部と、燃料電池スタックにカソード作動ガスを供給するカソード供給通路、および燃料電池スタックからカソード排気ガスを排出するカソード排気ガス通路を有したカソード供給部と、を備え、アノード供給通路およびアノード排気ガス通路の各々において、遮断エレメントが配置され、各遮断エレメントと燃料電池スタックとの間に、ガス接続部が、外部の試験ガス供給部に接続されるように配置され、および/またはカソード供給通路およびカソード排気ガス通路の各々において、遮断エレメントが配置され、各遮断エレメントと燃料電池スタックとの間に、ガス接続部が、外部の試験ガス供給部に接続されるように配置されている。
【0011】
従って、本発明では、遮断エレメントおよびガス接続部の組み合わせが、供給通路および排気ガス通路の双方において、アノード側および/またはカソード側に配置されている。これにより、アノード側またはカソード側で燃料電池スタックに外部のガス供給部を適用し、燃料電池スタックの種々の診断および/または回復手順を実行することができる。特に、これは、車両から燃料電池システムを取り除く、または燃料電池システムのアノードおよびカソード供給部から燃料電池スタックを取り除くことなく可能である。従って、燃料電池システムは、内蔵の補修インタフェースを有し、燃料電池のスタックの検査および補修を容易に行うことができる。
【0012】
遮断エレメントは、独立して、作動ガスまたは排気ガスの通常の流路の中断を許容するエレメントとしても良い。弁またはダンパが、一例として考えられても良い。上記遮断エレメントは、例えばスタックへの作動ガスの供給を制限する、またはスタックの停止後に環境からスタックを分離するように、既存の燃料電池システムに少なくとも部分的に既に存在していることが多い。
【0013】
ガス接続部は、遮断エレメントとスタックとの間にそれぞれは配置されている。従って、外部の試験ガス供給部の接続を許容するために、遮断エレメントは閉じられることができ、各場合において外部の試験ガス供給部との接続が形成される。
【0014】
ガス接続部の各々は、供給部または排気ガス通路からの流体案内枝分かれ部を表し、例えば「T」形または「Y」形の気密な部品として形成されることができる。供給通路または排気ガス通路から枝分かれするサービスラインに加えて、ガス接続部自体は、外部の試験ガス供給部との接続を形成するために、枝分かれしているサービスラインを閉じて気密にするか、または該サービスラインを開いて流体を案内するように適合された遮断エレメントを有している。さらに、ガス接続部は、外部のガス供給部のパイプシステムへの気密な機械的接続を可能にする接続部品を有している。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、ガス接続部は自動で閉じる。従って、外部のガス供給部を機械的に連結しないことで、ガス接続部が自動的に閉じられ、また、外部のガス供給部をガス接続部の接続部品に機械的に連結することで、ガス接続部が自動的に開く。よって、自動で閉じるガス接続部により、正確な取り付け(高電圧電気システムのパイロットラインに類似する)の信頼性のある検出が確実となり、これにより、正確な取り付けの後にのみ、外部のガス供給部の解放が確実となる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、ガス接続部は、燃料電池システムが車両に設置された状態で、外部の試験ガス供給部に接続するように配置され、適合される。換言すれば、ガス接続部は、システムの補修により燃料電池スタックの除去が必要とならないように、燃料電池システムが設置された状態でアクセス可能となっている。
【0017】
有利な実施形態では、燃料電池システムは、アノード供給部の遮断エレメントおよびガス接続部および/またはカソード供給部の遮断エレメントおよびガス接続部を制御するように構成された診断モジュールをさらに備えている。例えば、診断モジュールは、該診断モジュールがガス接続部への外部のガス供給部の正確な取り付けを検出した場合に、遮断エレメントを開いても良い。さらに、診断モジュールは、外部のガス供給部を開始、停止および調節するように構成されても良い。最も好ましいことには、外部のガス供給部が診断モジュールに組み込まれる。この目的のために、診断モジュールは、例えば、ガスタンク、ガスライン、運搬手段、追加の遮断装置などを備えている。
【0018】
さらに好ましい実施形態では、燃料電池システムは、試験ガス供給部がアノード供給部のガス接続部に接続されているときに、および/または試験ガス供給部がカソード供給部のガス接続部に接続されているときに、燃料電池システムを確認する診断機能、燃料電池システムを補修する補修機能、またはこれらの機能の組み合わせを実行するように構成された診断モジュールをさらに備えている。この目的のために、診断モジュールは、燃料電池システム、特に燃料電池スタックの電気的および/または熱力学的状態パラメータを受け取り、評価する通信インタフェースを備えていても良い。これらは、例えば、燃料電池スタックの電流量と、合計の電圧または単一のセル電圧を含み得る燃料電池スタックの電圧と、圧力と、温度などとを含む。
【0019】
さらに、診断機能および/または補修機能を実行する目的のために、診断モジュールは、対応する機能を実行するために、対応する制御アルゴリズムおよび評価アルゴリズムを備えていても良い。この目的のために、特性ダイアグラムが、コンピュータ可読形態で診断モジュールに格納されることができる。
【0020】
例えば、診断モジュールは、燃料電池スタック、アノード供給部および/またはカソード供給部の漏れ試験を実行するように適合される。漏れ試験によって、例えば経時劣化に起因して生じ得るシステムの漏れを検出し、評価することができる。
【0021】
さらに、診断モジュールは、燃料電池スタックの膜の状態を決定する診断機能を実行するように適合されても良い。これにより、電力密度の減少を生じさせる、経時劣化に関連したプロセスの検出が可能となる。これらは、例えば、触媒材料のカーボン基体腐食、触媒貴金属の凝集または浸出、もしくは触媒上の不純物の堆積(被毒)を含む。
【0022】
さらに、診断モジュールは、燃料電池スタックへの検出された可逆の損傷を無くす再生機能を実行するように適合されても良い。この再生機能は、例えば触媒電極の異物を無くすことにより、燃料電池スタックの触媒電極の触媒機能を回復することを目指すような再生機能にとって特に有利である。
【0023】
個々の場合で他に述べられていなければ、本願で説明された種々の実施形態が有利に互いに結合可能である。
【0024】
以下に、本発明は、添付の図面を参照して、例示的な実施形態によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の好ましい実施形態に従う燃料電池システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、「1」で全体的に表す、本発明の好ましい実施形態に従う燃料電池システムを示している。燃料電池システム1は、該燃料電池システム1から電気エネルギが供給される電気牽引式モータを有する、詳細に図示しない車両、特に、電気車両の一部である。
【0027】
燃料電池システム1は、核となる構成要素として、積層の態様で配置された複数の個々のセル11を有した燃料電池スタック10を備えており、セル11は、交互に積層された膜電極アッセンブリ(MEAs)14およびパイポーラプレート15(詳細を参照)によって形成されている。従って、各個々のセル11は、本明細書では詳細に示されていないイオン伝導性ポリマ電解質膜または他の固体電解質を有したMEA14と、両側、つまりアノードおよびカソードに配置され、燃料電池反応の個別の部分的な反応に触媒作用を及ぼし、特に、膜のコーティングとして形成され得る触媒電極と、を備えている。アノード電極およびカソード電極は、触媒材料、例えば白金を有しており、この触媒材料は、大きな特定の表面積を有した電気伝導性の基質、例えば炭素基材料上で支持されている。よって、アノードコンパートメント12がバイポーラプレート15とアノードとの間に形成されており、カソードコンパートメント13がカソードと隣のバイポーラプレート15との間に形成されている。バイポーラプレート15は、作動媒体をアノードコンパートメント12およびカソードコンパートメント13へ供給するように用いられ、また、個々の燃料セル11間の電気的接続を形成する。任意選択的に、ガス拡散層が、膜電極アッセンブリ14とバイポーラプレート15との間に配置されても良い。
【0028】
燃料電池スタック10に作動媒体を供給するために、燃料電池システム1は、一方ではアノード供給部20を有し、他方ではカソード供給部30を有している。
【0029】
アノード供給部20は、アノード作動媒体、例えば水素を燃料電池スタック10のアノードコンパートメント12へ供給するように用いられるアノード供給通路21を備えている。この目的のために、アノード供給通路21は、圧力タンク23を燃料電池スタック10のアノード入口に接続する。燃料電池スタック10のアノード側12のアノード作動圧力は、アノード供給通路21において圧力制御弁29によって調整可能となっている。アノード供給部20は、燃料電池スタック10のアノード出口を介してアノードコンパートメント12からアノード排気ガスを排出するアノード排気ガス通路22をさらに備えている。さらに、アノード供給部20は、アノード排気ガス通路22をアノード供給通路21に接続する再循環ライン24を備えている。燃料の再循環は、化学量論的過剰で通常用いられる燃料をスタックに戻して利用するという一般的なものである。再循環ライン24では、運搬手段25、本明細書ではターボマシン、例えばブロワまたはポンプが配置されており、この運搬手段25によって、再循環される体積流れが調整可能となる。さらに、再循環ライン24のアノード供給通路21との交差部には、ジェットポンプ26が配置されている。ジェットポンプ26は、圧力側で圧力タンク23に接続され、吸い込み側で循環ライン24に接続され、および出口側で燃料電池スタック10に接続されている。さらに、アノード排気ガス通路22では、凝縮された水を除去させる水分離器27が配置されている。さらに、アノード排気ガス通路22は、パージライン28に接続されており、該パージライン28は、この例で示されるカソード排気ガス通路32へ開口し、これにより、アノード排気ガスおよびカソード排気ガスが、共通の排気ガスシステムによって排出されることができる。代替的な実施形態では、パージライン28は環境に開口しても良い。パージ弁29は、水分離器27と代替的に組み合わされ得るものであり、パージライン28を介したアノード排気ガスの排出を可能にする。
【0030】
カソード供給部30は、酸素含有カソード作動媒体、特に環境から引き出された空気を燃料電池スタック10のカソードコンパートメント13へ供給するカソード供給通路31を備えている。カソード供給部30は、燃料電池スタック10のカソードコンパートメント13からカソード排気ガス(特に排気空気)を排出し、該カソード排気ガスを図示せぬ排気ガスシステムへ任意選択的に供給するカソード排気ガス通路32をさらに備えている。カソード作動媒体を運搬および圧縮するために、圧縮機33がカソード供給通路31に配置されている。図示した例示的な実施形態では、圧縮機33は、電気モータによって駆動される、主に電動で作動される圧縮機として設計されている。圧縮機33の駆動は、共通のシャフト(図示せぬ)を介して、カソード排気ガス通路32に配置されたタービン34(任意選択的に可変タービンジオメトリを有する)によってさらに補助されても良い。
【0031】
図示した例示的な実施形態では、カソード供給部30は、カソード供給通路31をカソード排気ガス通路32に接続する、つまり燃料電池スタック10のバイパスを表すウェストゲートライン35をさらに備えている。ウェストゲートライン35は、圧縮機33を停止することなく、超過した質量空気流量が燃料電池スタック10をバイパスすることを可能にする。ウェストゲートライン35に配置された制御弁36が、燃料電池スタック10をバイパスするカソード作動媒体の量を制御するように用いられる。
【0032】
燃料電池システム1は、加湿器37をさらに備えても良い。加湿器37は、該加湿器37が一方ではカソード作動ガスによって横切られ、他方ではカソード排気ガスによって横切られ、かつカソード作動ガスおよびカソード排気ガスが水蒸気透過性膜によって互いに分離されるように、カソード供給通路31に配置されている。水蒸気透過性膜は、比較的湿ったカソード排気ガス(排気空気)から比較的乾いたカソード作動ガス(空気)へ水蒸気を移動させる。
【0033】
燃料電池システム1は、アノード供給通路21においてジェットポンプ26と燃料電池スタック10との間に配置され、タンク23とスタック10との間のアノード作動媒体の流れを中断させる第1遮断エレメント421をさらに備えている。遮断エレメント421と燃料電池スタック10との間には、第1ガス接続部423が、外部の試験ガス供給部の接続のために配置されている。ガス接続部423は、アノード供給通路21から枝分かれし、例えば「T」形または「Y」形の部品として形成されたサービスラインを有している。サービスラインは、外部の試験ガス供給部の流体機械接続のために用いられる接続部品で終端している。例えば、接続部品は、サービスラインに配置された追加の遮断エレメントが、外部の試験ガス供給部が非接続のときに自動的に閉じる迅速解放部として形成されている。同様に、接続部品は、外部の試験ガス供給部の正確な設置によって、この遮断エレメントが自動的に開くように適合されても良い。代替的に、利点は少ないが、接続部品は、ねじ接続部または同等のものとして形成されても良い。第1遮断エレメント421および第1ガス接続部423に対して代替的にまたは付加的に、追加のガス接続部425が、アノード供給通路21において制御弁29の下流側および再循環ライン24の交差部の上流側に配置されても良い。遮断エレメント422と燃料電池スタック10との間に配置された第2遮断エレメント422および第2ガス接続部424が、アノード排気ガスライン22に配置されている。
【0034】
さらに、図示した例示的な実施形態では、遮断エレメントおよびガス接続部の対応する対がカソード供給部30にも設けられている。従って、カソード供給通路31において、加湿器37の下流側および燃料電池スタック10の上流側に、第3遮断エレメント431が設けられており、第3遮断エレメント431の下流側に、第3ガス接続部433が設けられている。スタック10の下流側および加湿器37の上流側において、第4遮断エレメント432がカソード排気ガス通路32に配置されており、第4ガス接続部434が燃料電池スタック10と遮断エレメント432との間に配置されている。遮断エレメント421,422,431,432の全ては、弁またはガスダンパーとなるように適合されても良い。ガス接続部423についてなされた説明は、ガス接続部424,425,433,434の設計に適用する。
【0035】
図1に示す実施形態は、遮断エレメントおよびガス接続部がアノード供給部20およびカソード供給部30の双方に存在する例を示している。しかし、実行すべき診断またはメンテナンス機能に基づいて、本発明の実施形態は、対応する遮断エレメントおよびガス接続部がアノード供給部20のみまたはカソード供給部30のみに存在する場合にも含まれる。さらに、圧縮機33と加湿器37との間またはアノード排気ガスライン32における加湿器37とタービン34との間の対応する遮断エレメントおよびガス接続部は、遮断エレメント431,432およびガス接続部433,434の代わりに、カソード側に配置されても良い。また、このような構成によって、加湿器37の特定の機能が確認される。
【0036】
燃料電池システム1は、診断モジュール50をさらに備えている。一方側では、診断モジュールは、遮断エレメント421,422,431,432および任意選択的に29を制御するように構成されている。診断モジュールは、ガス接続部423,424,433,434および任意選択的に425、特にこれらのガス接続部の遮断エレメントを制御するようにさらに適合されても良い。さらに、診断装置は、対応するガスタンク、パイプシステムおよび運搬手段を特に含む1つまたは複数の試験ガス供給部(図示せず)を備えている。試験ガスとして、一例では、水素H2、窒素N2、酸素O2、空気および/またはこれらのガスの混合物が供給される。
【0037】
さらに、診断モジュール50は、燃料電池システムを確認する少なくとも1つの診断機能、および/または燃料電池システム1を補修する少なくとも1つの補修機能を実行するように構成されている。好ましくは、これらの機能のいくつかまたは全てが、1つおよび同じ診断モジュール50へ統合される。これらの機能を実行するために、診断モジュール50は通信インタフェースを有しており、該通信インタフェースを介して、種々のセンサまたは計測装置からの信号が受信される。例えば、診断モジュールは、燃料電池システム1または診断モジュール50に取り付けられ得る圧力センサまたは温度センサからの信号を受信する。さらに、診断モジュール50は、燃料電池スタック10の電気パラメータ、特に生成された電流量Iまたは電圧Uを受信し、これは、スタック10の合計の電圧および/またはセル11の単一のセル電圧とされても良い。さらに、種々の機能のために、診断機能および補修機能を実行する、対応するアルゴリズムおよび特性ダイアグラムが診断モジュール50に格納される。
【0038】
システムの診断および/または再生の目的のためのシステムの基本的な手順は、例えば作業場で実行され、以下に示される。
【0039】
燃料電池システム1が停止しているときに、外部の対応する試験ガス供給部(例えばH2、N2、O2、空気など)の接続部が、アノード供給部20の対応するガス接続部423(または425),424に、および/またはカソード供給部30の対応するガス接続部433,434に接続される。ガス接続部が適宜設計されていれば、これにより、ガス接続部の遮断エレメントが自動的に開く。好ましくは、診断モジュール50は、適切なセンサによって正確な接続を検出する。そして、燃料電池システムが停止されたときに既に閉じられていなければ、供給部および排気ガス通路に配置された対応する遮断エレメント421(または29),422および/または432が閉じられる。次に、燃料電池スタック10のアノードコンパートメント12および/またはカソードコンパートメント13に対応する試験ガスを適用するために、診断モジュール50は、対応する試験ガスを運搬し始める。実行される機能に基づいて、診断モジュール50は、要求される熱力学パラメータおよび/または電気パラメータを読み込み、評価する。診断機能に続いて、診断の対応する結果が格納され、出力される。診断モジュール50の種々の機能が、より詳細に以下に説明される。
アノードの漏れ試験
漏れの決定のために、燃料電池システム1は、対応する遮断エレメント421(または29),422および対応するガス接続部423(または425),424を備えて設けられなければならない。ガス接続部423(または425),424における媒体の接続の後に、ガス接続部の各遮断エレメントを開くとともに、遮断エレメント421(または29),422を閉じて、システムは、試験ガスを用いたシステムの同種の充填を確実にするように最初にパージされる。そして、所定の圧力が試験ガスに設定される。方法の静的な変形では、燃料電池スタック10への試験ガスの追加的な供給が中断され、圧力降下が時間にわたって記録される。代替的な手順では、燃料電池スタックへの試験ガスの体積流れは、一定の圧力が維持され、供給されるガスの必要な量が記録されるように制御される。診断モジュール50は、これらの計測データ(時間にわたる圧力降下または供給されるガスの量)を評価し、電子的に格納される、およびまたは印刷または画面によって出力される試験レポートを生成する。評価は、例えば、決定された計測値(例えば圧力降下)と、許容される限界値(工場での許容試験値)との比較を含んでも良い。必要であれば、退化の典型的な過程が、システムの年数または作動時間の関数として考慮されても良い。
カソードの漏れ試験
燃料電池スタック10のカソードの対応する漏れ計測のために、ガス接続部433,434が対応する試験ガス供給部に接続され、残りの計測が、アノードのために説明されたように実行される。しかし、カソード側での漏れが危険なガスの逃げを導かないので、燃料電池スタック10のカソード側の漏れは、重要性がより低い。
水素濃度センサの確認
燃料電池システム1、または燃料電池システム1が設置された車両が水素濃度センサを備えている場合には、診断モジュール50は、アノード側の漏れ計測と同時に特に実行されることができる、上記センサを確認する対応する機能を備えていても良い。水素計測のための関連した配置は、例えば、パージライン28または排気ガスライン32、燃料電池スタック10を囲むスタックハウジングまたは燃料電池スタック10の排気空気、エンジンコンパートメント、車両の内部または荷物空間、もしくは水素システムの漏れにより水素の蓄積が生じ得る他の特に密閉された空間である。不履行により、水素センサが上記配置で利用可能でない場合には、計測は、手持ち式の計測器具によって支持されても良い。診断モジュール50は、上記センサ(c_H2)からの信号を読み込み、これらの信号を評価する。これは、例えば、漏れ計測に関連する、計測された値の可能性確認によって実施されることができる。例えば、漏れがシステムで検出される場合には、水素が試験ガスとして使用されていれば、対応する水素センサは、漏れている水素を検出すべきである。さらに、車両において、濃度センサの自動ゼロ較正が実施されることができる。
【0040】
本発明の更なる発展では、システムは、ガスセンサの機能を確認するように試験ガスがガスセンサに特に適用されることができる手段をさらに備えていても良い。この手段は、例えば、センサの検出表面に、対応する特別な取付部またはアダプタを有していても良い。また、濃度センサの可能性確認、評価および自動較正は、診断モジュール50によって実施され得る。
膜の漏れ試験
燃料電池スタック10のポリマ電解質膜の寿命にわたって、漏れ/穴が生じ、膜を通した水素のクロスオーバーが発生し得る。膜を通したこの水素の流れは、例えば所謂開電池電圧試験(OCV)を用いて検出されることができる。この診断ステップのために、外部のガス供給部は、アノード側のインタフェース423または425および424およびカソード側のインタフェース433,434の双方に接続される。そして、カソードコンパートメント13は空気で自動的に充填され、アノードコンパートメント12は水素で自動的に充填される。従って、電池電圧Uは、水素のクロスオーバーについて監視され、評価される。これは、例えば、計測された電池電圧と格納された公称電圧とを比較することによって実施されることができる。また、本試験の結果は、格納され、および/または出力される。
電極再生
好ましくは、診断モジュール50は、燃料電池スタック10の触媒電極の異物を除去する再生機能も有している。この場合、一方では、媒体経路または媒体供給部を介して電極へ導かれる異物、例えばCOが取り除かれ、他方では、形成された貴金属の酸化物、特に酸化白金が還元によって除去される。さらに、より一般的には、凝集現象によって還元された自由な触媒面が増加されることができる。
【0041】
この再生機能のために、アノード側の外部ガス接続部およびカソード側の外部ガス接続部の双方が試験ガス供給部に接続されている。燃料電池スタック10の触媒電極の損傷の形式に基づいて、スタック10の特定のガス条件および電圧条件が、特に、試験ガスとして使用される空気または酸素および水素を用いて、目標とされる態様で設定される。ガス接続部の取付時には、診断モジュール50は、定義されたガス条件および作動条件を自動的に設定し、これらの条件は、例えば、空気/空気条件、空気/空気始動、H2/H2条件、H2/H2始動、部分負荷範囲における湿気作動、H2/H2条件と交互となる湿気作動などを含む。必要であれば、条件付けは、追加のガス要素、例えば窒素を用いて実施されることができる。
【0042】
再生機能の後に、試験レポートの評価および出力と共に、性能試験を行うことができる。例えば、評価は、工場の許容性能試験との比較に基づいたものであり得る。この目的のために、作動時間に存在し得る、または運転動作(例えば、経路計画/GPS、空気−空気始動の数の評価など)中に記録され、評価される他のデータ上に存在し得る、非可逆または可逆の低下が、推定されることができる。
【0043】
更なる発展では、再生機能または該再生機能の個々のステップの効果の分析が、更なる運転動作中の制御に影響を与えるように実行される。例えば、地方の領域での運転が多く、肥料からのアンモニアによる電極の異物が増加する場合には、この異物を自発的に排出する作動条件を特に設定することができる。従って、このような適用性のある作動によって、電極の徐々の低下を減速することができる。
【0044】
さらに、診断モジュール50は、種々のデータを受け取り、評価しても良い。例えば、診断モジュール50は、周知の診断試験機のデータを読み込み、障害入力を評価し、車両の補助システムの介入、運転プロフィール、運転経路、周囲条件、並びに補修および診断に関連する他の運転データを読み込み、評価することができる。
【0045】
外部の試験ガス供給部を対応するガス接続部に接続した後に、診断モジュールは、実行される診断機能および再生機能全てを自動的に実施することが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
1・・・燃料電池システム

10・・・燃料電池スタック/燃料電池
11・・・個々のセル
12・・・アノードコンパートメント
13・・・カソードコンパートメント
14・・・膜電極アッセンブリ(MEA)
15・・・バイポーラプレート(セパレータプレート、流れ場プレート)

20・・・アノード供給部
21・・・アノード供給通路
22・・・アノード排気ガス通路
23・・・圧力タンク
24・・・再循環ライン
25・・・運搬手段/ターボマシン
26・・・ジェットポンプ
27・・・水分離器
28・・・パージライン
29・・・遮断エレメント/遮断弁/圧力制御弁

30・・・カソード供給部
31・・・カソード供給通路
32・・・カソード排気ガス通路
33・・・圧縮機
34・・・タービン
35・・・ウェストゲートライン
36・・・調整手段
37・・・加湿器

421・・・第1遮断エレメント
422・・・第2遮断エレメント
423・・・第1ガス接続部
424・・・第2ガス接続部
425・・・追加のガス接続部
431・・・第3遮断エレメント
432・・・第4遮断エレメント
433・・・第3ガス接続部
434・・・第4ガス接続部

50・・・診断モジュール
図1