(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6853919
(24)【登録日】2021年3月17日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】シリコーンゴム基材へのインクジェット印刷
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20210329BHJP
C09D 11/36 20140101ALI20210329BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 112
B41M5/00 120
C09D11/36
B41J2/01 101
B41J2/01 501
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-150862(P2020-150862)
(22)【出願日】2020年8月20日
【審査請求日】2020年8月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502398492
【氏名又は名称】株式会社サンリュウ
(72)【発明者】
【氏名】飛田 常司
【審査官】
野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−214101(JP,A)
【文献】
特開平5−224008(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/134887(WO,A1)
【文献】
国際公開第2018/235301(WO,A1)
【文献】
特許第6074563(JP,B1)
【文献】
特許第6001222(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
B41J 2/01 − 2/215
C09D 11/00 − 11/54
B41M 1/00 − 1/42
B44C 1/165 − 1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥硬化後にシリカハイブリッド硬化膜が得られる有機・無機ハイブリッド組成物を含有した有機溶媒をインクとして用いて、表面改質処理を施したシリコーンゴム基材表面を一定温度以上に保ちながらインクジェットプリンタで画像層を印刷形成すること、
を特徴とするシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法。
【請求項2】
乾燥硬化後にシリカハイブリッド硬化膜が得られる有機・無機ハイブリッド組成物を含有した有機溶媒をインクとして用いて、表面を一定温度以上に保った転写シートにインクジェットプリンタで画像層を印刷形成した後に、該画像層に液状シリコーンを被せて、該画像層とその転写対象であるシリコーンゴム基材との間の接着層として働くシリコーンゴム皮膜層を形成して前記画像を転写すること、
を特徴とするシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法。
【請求項3】
シリコーンゴム基材に形成された画像層を液状シリコーンで覆い、シリコーンゴム皮膜層を形成すること、
を特徴とする請求項1、又は2のいずれかに記載のシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法。
【請求項4】
前記有機・無機ハイブリッド組成物の有機ポリマーとして、熱硬化型の不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂の単独、又は二種以上の樹脂が含まれていること、
を特徴とする請求項1〜3記載のいずれかのシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法。
【請求項5】
熱硬化型の不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂の単独、又は二種以上の樹脂を有機ポリマーとして含有するシリカハイブリッド硬化膜から成る画像層の表側、又は裏側の少なくとも一方の側にシリコーンゴムが接着していることを特徴とする画像印刷物。
【請求項6】
前記シリカハイブリッド硬化膜に単一粒子径が1〜100nmの範囲のシリカが10重量%〜50重量%の濃度で分散されていることを特徴とする請求項5の画像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機・無機のシリカハイブリッドインクで印刷した画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法と画像形成基材に関する。
【背景技術】
【0002】
加硫済みシリコーンゴム基材(以下シリコーンゴム基材)は難接着性であるため、その表面加飾には、液状シリコーンに着色顔料を分散させたシリコーンインクが用いられる。液状シリコーンなどの硬化性シリコーン組成物は、シリコーンゴム基材表面に対してレベリング性と接着性に優れているからである。印刷はスクリーン印刷なので、シリコーンインク画像を一色印刷毎に加硫硬化して定着させながら多色印刷画像を完成させる。
【0003】
特許文献1は、シリコーンインク層から成る転写目的の加飾層をスクリーン印刷で転写用平面基材に形成して、この加飾層を加飾対象物となるシリコーンゴムなどのゴム状弾性体へ転写する手法である。加飾層と加飾対象物の双方に接着性向上目的の表面改質処理を施して両者を接合させて転写する。加飾層を印刷形成する平面基材側は表面改質処理無しなので、加飾層が容易に剥がれ、加飾対象物に転移する。平面基材側にシリコーンインク層を形成して剥離層とし、その上に接着層を形成した後、箔層の転写、又はインクジェット印刷で画像層を重ねて形成し、さらに最上層に転写接着目的のシリコーンインク層を形成して転写する手法も提案されている。
【0004】
シリコーンインクでなく、ポリビニル系やポリアミド系などの伝統的なアナログプリンター用インクから成る画像を転写材に形成し、液状シリコーンゴムを射出成形して転写材を除去することで、画像をシリコーンゴム基材に成形同時絵付けするインサートシート成形方法が特許文献2に記されている。この発明において用いる転写材の代表例は、剥離性を有する基体シート上に、剥離層、図柄層、接着層などを順次積層したものである。
【0005】
画像転写用の接着剤として、乾燥硬化後にシリカハイブリッド硬化膜が得られる有機・無機ハイブリッド組成物を含有した有機溶媒から成る転写用インクジェットインクが、特許文献3(出願人は本出願人と同一人)に記されている。水転写シート上に形成されたトナー画像などの上に、この接着剤インクをインクジェット印刷して接着膜層を形成し、被印刷物上に該接着膜層を介して画像を形成する転写印刷方法の提案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特第6001222号
【特許文献2】特開平8−294938号
【特許文献3】特第6074563号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に述べたように、液状シリコーンなどの硬化性シリコーンインクを用いたシリコーンゴム基材表面への加飾は可能だが、スクリーン印刷は一色印刷毎に加熱加硫硬化を必要とするので手間がかる上、製版が必要などのアナログ印刷の問題を回避できない。又、細やかなあるいは多色の図柄を形成することが困難という問題点も残る。
【0008】
特許文献1記載のインクジェットインク画像は、転写材に形成された加硫硬化済みシリコーンゴム層上に直接でなく、ウレタン系インクのスクリーン印刷などで形成する接着層を介して印刷する必要がある。加飾対象物へシリコーンゴム層に上下挟まれたインクジェットインク画像層を転写接着させるためには、加飾対象物と転写用平面基材の両方に表面改質処理をしなければならない。エキシマランプなどによる紫外線を照射し、両者が接する方向に加重をかけて保持する。記されている室温下での保持時間例は24時間程度と、非常に長時間の工程になっている。又、どのようなインクジェットインクかについては不明である。
【0009】
特許文献2には、オフセット印刷などで用いられるポリビニル系、ポリアミド系等のインクバインダー樹脂種類について記されているが、特許文献1同様に、形成された画像をシリコーンゴム基材表面に接着させるには接着層を介している。インサートシート成形方法なので、成型済みのシリコーンゴム基材の印刷には適用できない。
【0010】
シリカハイブリッド硬化膜は有機ポリマーと無機物の両方に対して親和性が得られるので広範囲な材料に接着するとされ、特許文献3に記載されている転写対象基材範囲は、各種プラスチック、ガラス、金属からゴムのような柔軟材までという記載である。難接着性であるシリコーンゴムへの接着適性言及は無い。当該接着剤インクで実際にトナー画像転写をシリコーンゴムへ試みたが、付着はしても、強接着は出来なかった。セロテープ剥離で画像が簡単に脱落する程度である。接着剤層自体は付着しても、接着剤層以上に厚みのあるトナー画像層の保持は不可能なようである。従って、特許記載のゴムのような柔軟材への画像転写は、シリコーンゴムが想定外になっているものと結論できる。又、特許文献3は転写印刷手法の提案であって、シリコンゴムへの直接印刷に関する言及も無い。当該接着剤インクに顔料を混合して実際に直接印刷を試みたが、シリコンゴム表面の濡れ性が低いため付着インクは無数の小さな水玉状に分離凝縮し、正常な画像濃度は得られなかった。水玉状になったインクの間から基材表面が見えるので、基材が白色なら画像色は薄く見えることになる。転写目的の場合は、印刷対象基材が水転写紙なので接着剤インクが水玉状に分離凝縮することは無く表面処理は不要である。滲まないようにするための印刷しながらの加熱処理も考慮されていない。
【0011】
本発明は、シリカハイブリッドインクを用いたシリコーンゴムに強接着するインクジェット印刷層の形成方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明第一の課題解決手段は、上記目的を達成するために乾燥硬化後にシリカハイブリッド硬化膜が得られる有機・無機ハイブリッド組成物を含有した有機溶媒をインクとして用いて、表面改質処理を施したシリコーンゴム基材表面を一定温度以上に保ちながらインクジェットプリンタで画像層を印刷形成すること、を特徴とするシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法である。
【0013】
また、第二の課題解決手段は、乾燥硬化後にシリカハイブリッド硬化膜が得られる有機・無機ハイブリッド組成物を含有した有機溶媒をインクとして用いて、表面を一定温度以上に保った転写シートにインクジェットプリンタで画像層を印刷形成した後に、該画像層に液状シリコーンを被せて、該画像層とその転写対象であるシリコーンゴム基材との間の接着層として働くシリコーンゴム皮膜層を形成して前記画像を転写すること、を特徴とするシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法である。
【0014】
また、第三の課題解決手段は、第一、又は第二のいずれかの課題解決手段において、画像層を印刷形成した後の該画像層を液状シリコーンで覆い、シリコーンゴム皮膜層を形成すること、を特徴とするシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法である。
【0015】
また、第四の課題解決手段は、前記第一〜第三の課題解決手段において、前記有機・無機ハイブリッド組成物の有機ポリマーとして、熱硬化型の不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂の単独、又は二種以上の樹脂が含まれていること、を特徴とするシリカハイブリッドインク画像層をシリコーンゴム基材に形成する方法である。
【0016】
また、上記第五の課題解決手段は、熱硬化型の不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂の単独、又は二種以上の樹脂を有機ポリマーとして含有するシリカハイブリッド硬化膜から成る画像層の表側、又は裏側の少なくとも一方の側にシリコーンゴムが接着していることを特徴とする画像印刷物である。
【0017】
また、上記第六の課題解決手段は、第五の課題解決手段において、前記シリカハイブリッド硬化膜に単一粒子径が1〜100nmの範囲のシリカが10重量%〜50重量%の濃度で分散されていることを特徴とする画像印刷物である。
【0018】
上記第一の課題解決手段による作用は、難接着性であるシリコーンゴム基材に対して接着層無しに高い接着力が得られること、デジタル印刷方式のインクジェット印刷なのでシリコーンインクを用いたスクリーン印刷より印刷作業ががはるかに容易になること、シリコーンゴム基材表面改質処理と基材表面を一定温度以上に保ちながらの印刷で高品質の画像が得られること、従来のシリコーンゴムへのインクジェット加飾方式よりも表面改質処理回数を少なく出来ること、フラットベッドタイププリンターを用いれば立体物にも直接印刷ができるのでインサートシート成型をしなくてもシリコーンゴム基材へ画像付与が可能になること、シリコン層で画像層に被せて硬化させる場合でも荷重をかけて保持する必要は無く短時間で硬化させられること、などが挙げられる。
シリコーンゴム基材に対する高い接着力は、シリカハイブリッドインクを用いることで得られる。シリカハイブリッド硬化膜には、親水性であるシラノール基を有するシリカが含まれるからである。産業界では、シリコーンゴム組成物を樹脂成形体表面に十分に接着させるために接着付与剤が用いられているが、接着付与剤の中で結合のために働く官能基が、アルコキシシリル基、ヒドロシリル基、シラノール基などである。本発明のインクが、他の種類のインクを超える強接着力が得られる理由である。シリカハイブリッドインクを用いた直接印刷なら、従来手法で必要とされたシリコーンゴム組成物と画像層を接着させるための接着層を不要に出来る。ただし、シリコーンゴムの表面改質処理も、高い接着性を得るためには必須である。
表面改質処理で得られる高い濡れ性は、画像品質向上にも有効である。表面改質処理面上では付着後のインクの分離凝縮が起こり難くなり、さらに基材表面を一定温度以上に保ちながら印刷を行なってインク中の溶剤を急速に蒸発させるなら、シリコーンゴムであっても、正常な画像濃度が得られるようになる。一定温度以上とは、生産性を考えた標準的なインクジェット印刷速度なら、好ましくは55℃以上、より好ましくは70℃以上である。印刷速度を極端に落として基材表面付着インクに乾燥する時間を与えられるなら、この温度はさらに下げることも可能である。基材表面を一定温度以上に保つ方法としては、基材をプリンタ載置前に十分高い温度に温めておく方法、プリンタ載置後に温める目的のプリンタテーブル加熱装置や基材加熱用熱線照射装置、熱風送風装置などを用いて印刷しながら加熱する方法、のいずれか、又はそれらを合わせた方法が採れる。
表面改質処理としては、フレーム処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸化ケイ素微粉を付着させるイトロ処理などが有効である。なお、本発明で言うシリコーンゴム基材とは、シリコーンゴム基材そのものだけでなく、表面にシリコーンゴム層がコートされた部材も含んだ意味である。
【0019】
上記第二の課題解決手段による作用は、転写印刷なので直接印刷が難しい形状のシリコーンゴム基材であっても画像形成し易くなり、画像層に接着層として働く液状シリコーンを被せて転写すれば、表面改質処理無しに画像をシリコーンゴム基材に強く接着させることが出来ることである。
転写シートは、水溶性層を形成した水転写紙、水溶性層から成る水圧転写フィルム、フッ素樹脂などの非シリコーン系剥離層を形成した剥離フィルム、ポリエチレン樹脂などの基材自体が剥離性を持つフィルム、を用いることが出来る。シリカハイブリッドインクは、一定温度以上に保ってインク中の溶剤を急速に蒸発させながら印刷するなら、これらの転写シートへ鮮明な画像を印刷できる。この一定温度については、第一の課題解決手段に記したので、ここでは省略する。
シリカハイブリッドインク印刷画像がシリコーンゴム基材へ強く接着する理由についても第一の課題解決手段に記したが、第二の課題解決手段のシリコーンゴム皮膜層形成は、画像層の乾燥硬化完了前に行なうことが好ましい。理由は、乾燥硬化後のシリカハイブリッド硬化膜は疎水性で表面濡れ性が低くなる傾向があり、シリコーンゴム皮膜層の画像層への接着力を低下させるからである。
なお、第一の課題解決手段に記した表面改質処理は、難接着性の加硫済みシリコーンゴム基材表面の改質目的である。第二の課題解決手段においては、画像層に触れるのはシリコーンゴム基材に十分な接着力を持つ液状シリコーンからなる接着層なので、シリコーンゴム基材の表面改質処理が不要になる。転写時に、あるいは転写後に加硫硬化される皮膜層は、画像と基材双方に強接着する。
【0020】
上記第三の課題解決手段による作用は、画像の耐摩耗性、耐薬品性、基材伸縮追随性、審美性などを高めることが出来ることである。
画像の視認性のためにはシリコーンゴム皮膜層は透明が良い。ただし、下地のシリコーンゴム基材を透明にして下地側から画像を見る場合なら、シリコーンゴム皮膜層を白色にすれば画像背景に出来る。第二の課題解決手段に理由を記したが、シリコーンゴム皮膜層形成は、画像層乾燥硬化完了前に行なうのが好ましい。皮膜層は、液状シリコーンを用いてスクリーン印刷、塗装、転写などの手法で形成出来、形成後の加熱処理で皮膜層が加硫硬化される。
【0021】
上記第四の課題解決手段による作用は、液状シリコーンの架橋タイミングに気を配らなくても良くなることである。即ち、第二の課題解決手段に記された手順で作業を進められるようになることである。
この理由を記述する。ハイブリッド溶媒の有機ポリマーとしては、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、ケトン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、エポキシ樹脂など、熱硬化性、熱可塑性の多くの樹脂が使用可能である。ただし、第二の課題解決手段の作業手順では、画像を覆う皮膜層となる液状シリコーンは、ハイブリッドインクの完全硬化前に塗布される。塗布される液状シリコーンは、架橋触媒になる硬化剤との混合状態になっている。即ちこの作業手順は、ハイブリッドインクから成る画像層の硬化が、液状シリコーン架橋触媒の存在下で進められることを意味する。ハイブリッドインクの有機ポリマーは、架橋触媒の存在下で、確実に硬化出来る樹脂でなければならない。架橋触媒の存在下で、熱硬化する熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、液状シリコーン側への影響を考えれば、シリコーンゴム硬化を阻害しない樹脂が好ましい。この両方の条件を満たす有機ポリマーとして、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂の三種を選択できる。これらは、樹脂として1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記第五の課題解決手段による作用は、第四の課題解決手段に詳しく記したので、ここでは省略する。
【0023】
上記第六の課題解決手段による作用は、画像層とシリコーンゴムとの間に高い接着力が得られるだけでなく、シリコーンゴムが伸縮変形しても脱落しない程度の柔軟性も得られることである。特許文献3の接着剤インクでは、シリカハイブリッド硬化膜に分散される単一粒子径が1〜100nmの範囲のシリカの濃度が5重量%〜80重量%と記されているが、本発明目的では柔軟性も重要である。高い接着力を得るのに重要な役割を果たすシリカだが、その量が多いほど膜が硬くなってしまう。本発明では好ましい範囲を10重量%〜50重量%とした。ここで言う重量%は、インクを着色する顔料成分の重量を除外して計算した重量%である。
【発明の効果】
【0024】
上述したように、本発明によれば、シリカハイブリッドインクを用いてシリコーンゴム基材に強く接着するインクジェット印刷層を形成出来る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0026】
熱硬化性樹脂を有機ポリマーとした直接印刷用のシリカハイブリッドインクジェットインク、シリコーンゴム用インクII(商標、サンリュウ社)を、フラットベッド型インクジェットプリンタNF−4850(商標、サンリュウ社)に搭載した。直接印刷したインクがシリコーンゴム基材表面ではじかれて無数の小さな水玉に分離凝縮しないよう、加熱乾燥装置を搭載させた。加熱乾燥装置は、インクを完全硬化させるものではなく、滲みなどの無い高品質なな画像品質を得るためのもので、印刷画像部を加熱する遠赤外線照射部と印刷対象基材を温めるテーブル付属のヒーターから成るものである。
コロナ放電表面改質処理を施した2mm厚さのシリコーンゴムシート基材を55℃に温めたテーブルに載せ、印刷表面温度が70℃になる程度に遠赤外線照射しながら4色画像を印刷した。画像は滲み無く印刷され、正常な濃度が得られた。印刷後は130℃設定の乾燥炉に1時間入れて硬化処理を行なった。乾燥炉から取り出したシリコーンゴムシートの基材長さを二倍にする引き延ばし変形を10回加えた後に碁盤目セロテープ剥離を試した。剥がれて脱落した画像部分は無かった。爪での耐摩耗性はシリコーンインク画像には及ばないが、商品用途によっては、オーバーコート無しで実用できるレベルであった。さらに、画像層の上にスクリーン印刷でシリコーンゴム皮膜層を形成して加硫硬化させた。この場合は、シリコーンインク画像と同レベルの耐摩耗レベルに達した。
【実施例2】
【0027】
実施例1で用いた同じ印刷・加熱条件を適用して、水浸透性のある基材上に水溶性層を形成した水転写紙B(商標・サンリュウ社)の受像シートを、55℃に温めたテーブルに載せ、印刷表面温度が70℃になる程度に遠赤外線照射しながら4色画像を印刷した。画像は滲み無く印刷され、正常な濃度が得られた。次に、印刷後の乾燥炉での硬化処理を行なわず、液状シリコーンを用いてスクリーン印刷方式で画像の上に転写用の接着層を印刷形成した。続いて、この接着層を画像に被せた水転写紙Bをシリコーンゴム基材表面に押圧して貼り付けた。背面から水分を与えると浸透した水が水溶性層を溶かすので、遊離した画像が接着層とともにシリコーンゴム基材に転移した。これを130℃設定の乾燥炉に1時間入れて硬化処理を行なった。実施例1同様の画像のシリコーンゴム基材への接着強度が得られた。ただし画像の上に転写用の液状シリコーン接着層を印刷形成する前に水転写紙Bを乾燥炉に入れて画像の硬化処理を行なった場合は、基材を引き伸ばすと、画像に数本の亀裂が入った。シリカハイブリッドインク画像層の横方向の耐破断力に対して、基材との接着力が低下した結果と推測できる。
【0028】
実施例1で用いたコロナ放電表面改質処理を施した2mm厚さのシリコーンゴムシート基材に、フラットベッド型UVプリンター VersaUV LEF2−200(商標、Roland DG社)にEUVインク(商標、Roland DG社)を搭載して4色画像を印刷した。紫外線硬化インクなので、印刷後の乾燥炉での硬化処理は行なわなかった。
EUVインクは、UVインクの中では柔軟性が高い方だが、爪での耐摩耗試験結果も不十分だったが、実施例1同様にシリコーンゴムシート基材引き延ばし変形を10回を加えた後の碁盤目セロテープ剥離では大部分が脱落した。基材との接着力が十分得られないようである。表面改質処理をイトロ処理に代えても結果は同じだった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、シリカハイブリッドインクを用いたシリコーンゴムに強接着するインクジェット印刷層の形成方法の提供であり、シリコーンゴム素材を用いた医療業界、食器業界、容器業界、運動用具業界など、様々な業界で耐久商品の加飾に広く活用され得る。
【要約】
【課題】 シリコーンゴム基材への耐久力ある印刷画像は、シリコーンインクを用いてのスクリーン印刷以外は採用されなかった。デジタル印刷で使用できるシリコーンインクは無く、一般的インクは簡単に表面から脱落してしまう問題があった。
【解決手段】 インクジェット印刷にシリカハイブリッドインクを用いて、印刷前の表面改質処理と、印刷中の画像加熱処理を施すことで、付着インクが水玉状に分離凝縮したり、にじんだりすることが無く、さらにはシリコーンゴム基材へ強接着した画像が得られるようにした。
【選択図】なし