【文献】
北陸におけるナノファイバー製品開発の取り組み,繊維学会誌,2013年 6月10日,Vol.69 No.6,p.189-191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、上述の高機能性極細ファイバーを利用し、防虫効果を持つ高機能性衣料材料や各種資材等に応用可能な害虫忌避効果を有する極細ファイバーシートをもたらすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明では、原料となる紡糸原料液に害虫忌避剤を含有させる際に、当該紡糸原料液の溶媒として害虫忌避剤と共通する分子骨格を有する成分を含む溶媒を使用することで、害虫忌避剤の紡糸原料液中への分散性又は溶解性を向上させ、紡糸能力に影響を与える紡糸原料液の物性の変化を低減させるようにした。
【0008】
すなわち、ここに開示する第1の技術に係る害虫忌避極細ファイバーシートは、分子構造内に所定の骨格を有する成分を含む溶媒と、該溶媒に可溶な樹脂と、分子構造内に前記所定の骨格を有する物質からなる害虫忌避剤と、を含有する紡糸原料液を、エレクトロスピニング法により紡糸して形成された不織布からな
り、前記所定の骨格は、以下の分子式で示す、カルボン酸アミド骨格、ベンゼン環骨格、カンファー骨格、イソプロピルアルコール骨格、カルボン酸エステル骨格及びジエチルエーテル骨格の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
【化5】
【0014】
【化6】
【0015】
(但し、前記分子式中Rは、H基、ハロゲン基、アルキル基、OH基、SH基、エーテル基、アルコキシド基、アリール基、アリル基、アミノ基、ニトロ基及びスルホン酸基の群から選ばれる少なくとも1種の互いに同一又は異なる置換基であり、2以上のRが繋がって環を形成しているものを含む。)
害虫忌避剤を紡糸原料液中に添加したときに、害虫忌避剤が均一に溶解・分散していない状態で、エレクトロスピニング法により紡糸原料液を紡糸すると、一様な繊維形状が形成されず、不織布が形成されない虞がある。また、エレクトロスピニング法において、紡糸原料液の導電性、粘度、表面張力等の物性は紡糸能力に大きな影響を与えるものであり、それらの物性の紡糸に適する範囲は狭いため、害虫忌避剤のような異物をわずかに混入させただけでも、紡糸ノズルの詰まりや、不織布のフィルム化、繊維のビーズ化を引起す虞がある。
【0016】
第1の技術によれば、紡糸原料液の溶媒中に、害虫忌避剤の物質の分子構造と共通する所定の骨格を有する成分を含有させることで、溶媒と害虫忌避剤との親和性を高め、紡糸原料液中における害虫忌避剤の溶解性・分散性を向上させて、導電性、粘度、表面張力等の紡糸能力に影響を与える物性の変化を最小限に抑えることができる。そうして、微細且つ均一な繊維形状を有する不織布を形成することができ、延いては優れた害虫忌避能を有する害虫忌避極細ファイバーシートを得ることができる。
【0017】
第2の技術では、第1の技術において、前記所定の骨格は、
前記カルボン酸アミド骨格である構成とすることができる。
【0018】
例えば、N,N−ジエチル−3−メチルベンズアミド、1−メチルプロピル2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシレート、エチル3−[アセチル(ブチル)アミノ]プロパノエート等のカルボン酸アミド骨格を有する害虫忌避剤は、蚊やダニに対して優れた忌避効果を示す傾向がある。
【0019】
第2の技術によれば、上記害虫忌避剤を用いた害虫忌避極細ファイバーシートを製造するにあたり、害虫忌避剤と共通するカルボン酸アミド骨格を有する溶媒成分として、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の成分を含む紡糸原料液を用いることで、紡糸原料液中における害虫忌避剤の溶解性・分散性を効果的に向上させて、微細且つ均一な繊維形状を有する極細ファイバーからなる不織布を形成することができる。そうして、特に蚊やダニに対して優れた害虫忌避能を有する害虫忌避極細ファイバーシートを得ることができる。
【0020】
第3の技術では、第1又は第2の技術において、前記紡糸原料液中の前記害虫忌避剤の含有量が、前記紡糸原料液中の樹脂の質量に対して、1質量%以上20質量%以下である構成とすることができる。
【0021】
第3の技術によれば、紡糸原料液中における害虫忌避剤の溶解性・分散性を効果的に向上させて、優れた害虫忌避能を有する害虫忌避極細ファイバーシートを得ることができる。また、例えば人体に長時間接触した状態であっても十分な安全性を確保することが可能な害虫忌避極細ファイバーシートを得ることができる。
【0022】
第4の技術は、第1〜第3の技術のいずれか1つにおいて、ヒトスジシマカに対する忌避率が70%以上である構成とすることができる。
【0023】
第4の技術によれば、蚊等の害虫に対する忌避率の高い害虫忌避極細ファイバーシートをもたらすことができる。
【0024】
第5の技術は、第4の技術において、前記忌避率の持続期間が3週間以上である構成とすることができる。
【0025】
第5の技術によれば、微細な繊維径を有し、比表面積の高い極細ファイバー中に害虫忌避剤を含有させることで、極細ファイバー内部の害虫忌避剤まで徐々に時間をかけて蒸散するため、優れた害虫忌避能を長期間維持可能な害虫忌避極細ファイバーシートをもたらすことができる。
【0026】
第6の技術は、第1〜第5の技術において、前記害虫忌避剤の平均徐放速度は、0.05質量%/日以上0.3質量%/日以下である構成とすることができる。
【0027】
第6の技術によれば、少しずつ害虫忌避剤が徐放するため、長期間優れた害虫忌避能を維持する害虫忌避極細ファイバーシートをもたらすことができる。
【0028】
第7の技術は、第1〜第6のいずれか1つにおいて、前記所定の骨格は、
前記カルボン酸アミド骨格であり、前記溶媒は、前記カルボン酸アミド骨格を有する成分としてジメチルホルムアミドを含有しており、前記害虫忌避剤はN,N−ジエチル−3−メチルベンズアミド、1−メチルプロピル2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシレート、エチル3−[アセチル(ブチル)アミノ]プロパノエートから選択される少なくとも1種以上である構成とすることができる。
【0029】
第7の技術によれば、上述のごとく、優れた害虫忌避能を有する害虫忌避極細ファイバーシートを効果的に得ることができる。
【0030】
ここに開示する第8の技術に係る害虫忌避極細ファイバーシートの製造方法は、害虫忌避剤を含有する害虫忌避極細ファイバーシートを製造する方法であって、樹脂を溶媒に溶解させて樹脂溶液を調製する工程と、前記樹脂溶液に害虫忌避剤を混合して紡糸原料液を調製する工程と、前記紡糸原料液を、エレクトロスピニング法を用いて紡糸し、不織布を得る工程とを備え、前記溶媒は、分子構造内にカルボン酸アミド骨格を有する成分を含んでおり、前記害虫忌避剤は、分子構造内に前記カルボン酸アミド骨格を有する物質であることを特徴とする。
【0031】
第8の技術によれば、カルボン酸アミド骨格を有する害虫忌避剤を含有させる場合に、溶媒中に、害虫忌避剤の分子構造と共通するカルボン酸アミド骨格を有する成分を含有させることで、溶媒と害虫忌避剤との親和性を高め、紡糸原料液中における害虫忌避剤の溶解性・分散性を向上させて、微細且つ均一な繊維形状を有する不織布を形成することができる。そうして、優れた害虫忌避能を有する害虫忌避極細ファイバーシートを得ることができる。
【0032】
第9の技術は、第8の技術において、前記紡糸原料液中の前記樹脂の濃度は5質量%以上50質量%以下であり、前記紡糸原料液中の前記害虫忌避剤の含有量は、前記紡糸原料液中の前記樹脂の質量に対して、1質量%以上20質量%以下である構成とすることができる。
【0033】
第9の技術によれば、樹脂の濃度を調整することで、紡糸原料液の粘度を調整してエレクトロスピニング法による紡糸工程で微細且つ均一な繊維形状の不織布を得ることができる。また、害虫忌避剤の含有量を上記範囲とすることにより、紡糸原料液中の害虫忌避剤の溶解性・分散性を確保しつつ、優れた害虫忌避能を有するとともに安全性の高い害虫忌避極細ファイバーシートを得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上述べたように、本発明によると、紡糸原料液の溶媒中に、害虫忌避剤の物質の分子構造と共通する所定の骨格を有する成分を含有させることで、溶媒と害虫忌避剤との親和性を高め、紡糸原料液中における害虫忌避剤の溶解性・分散性を向上させて、導電性、粘度、表面張力等の紡糸能力に影響を与える物性の変化を最小限に抑えることができる。そうして、微細且つ均一な繊維形状を有する不織布を形成することができ、延いては優れた害虫忌避能を有する害虫忌避極細ファイバーシートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0037】
まず、本実施形態に係るDNFS1(害虫忌避極細ファイバーシート)の製造方法について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
【0038】
−DNFSの製造方法−
本実施形態に係るDNFS1は、害虫忌避剤12を樹脂溶液11に溶解させてなる紡糸原料液13を、エレクトロスピニング法を用いて紡糸することにより製造される。具体的には、
図1に示すように、DNFS1は、樹脂溶液調製工程S1、紡糸原料液調製工程S2、及び紡糸工程S3を経て製造される。
【0039】
<樹脂溶液調製工程>
樹脂溶液調製工程S1は、樹脂を溶媒に溶解させて樹脂溶液11を調製する工程である。樹脂溶液11の調製は、例えば、
図2に示すように、容器31に樹脂を秤量し、溶媒、添加剤を加え、撹拌機等の公知の撹拌手段(図示せず。)により撹拌して、溶媒中に樹脂、添加剤を溶解・分散させることにより行う。撹拌に際し、同時に加熱や超音波等を印加してもよい。
【0040】
<樹脂>
樹脂溶液11に含有される樹脂は、DNFS1の極細ファイバーの繊維形状を形成する母材としての役割を有する。
【0041】
樹脂は、後述する溶媒に可溶であり、具体的には例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルカーボネート、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリ(エチレンビニルアルコール)コポリマー、ポリアニリン、ポリエチレンオキサイド、ナイロン6、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、及びこれらの共重合体等が挙げられる。なお、優れた紡糸速度及び優れた害虫忌避成分の徐放性を得る観点から、ポリウレタンが好ましい。
【0042】
<溶媒>
溶媒は、上記樹脂を溶解させ、紡糸原料液13の粘度を調整して、後述するエレクトロスピニング法による紡糸を可能とするものである。なお、溶媒はエレクトロスピニング法による紡糸工程S3において蒸発するため、最終製品であるDNSF1にはほとんど含有されない。
【0043】
ここに、溶媒は、分子構造内に所定の骨格を有する成分を含むことを特徴とする。なお、本明細書において、「所定の骨格」とは、官能基のことをいい、好ましくは原子数3以上の官能基、より好ましくは炭素原子(C)と、酸素原子(O)、水素原子(H)及び窒素原子(N)の群から選ばれた少なくとも1つの元素と、により構成され且つ原子数3以上の官能基のことをいう。「所定の骨格」とは、具体的には例えば、所定の骨格は、以下に示す、カルボン酸アミド骨格、ベンゼン環骨格、カンファー骨格、イソプロピルアルコール骨格、カルボン酸エステル骨格、ジエチルエーテル骨格等である。
【0050】
但し、上記分子式中Rは、任意の置換基であり、互いに同一の置換基でも異なる置換基でもよい。任意の置換基Rは、具体的には例えば、H基、ハロゲン基、アルキル基、OH基、SH基、エーテル基、アルコキシド基、アリール基、アリル基、アミノ基、ニトロ基、スルホン酸基等であり、2以上のRが繋がって環状のシクロアルカン環、ベンゼン環等を形成しているものを含む。
【0051】
そして、「所定の骨格を有する」とは、所定の骨格が分子構造内に完全に含まれている状態のことをいい、その所定の骨格に例えば上述の任意の置換基Rが結合している状態のものを含む。
【0052】
所定の骨格を有する成分の具体例は以下の通りである。例えば、カルボン酸アミド骨格を有する成分としては、以下に示すジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。
【0055】
また、ベンゼン環骨格を有する成分としては、例えば、トルエン等が挙げられる。
【0057】
カンファー骨格を有する成分としては、例えば、10−カンファースルホン酸等が挙げられる。
【0059】
イソプロピルアルコール骨格を含む成分としては、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)等が挙げられる。
【0062】
カルボン酸エステル骨格を含む成分としては、例えば、酢酸エチル等が挙げられる。
【0064】
ジエチルエーテル骨格を含む成分としては、例えば、ジエチルエーテル等が挙げられる。
【0066】
上記所定の骨格を有する成分は、添加する害虫忌避剤に応じて適宜選択することができ、1種のみ、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
上記所定の骨格を有する成分の他に、溶媒として樹脂溶液11に添加される追加成分としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、エタノール、ギ酸、塩酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。これらの追加成分は、樹脂溶液11の粘度調整、乾燥性の向上、溶解性の向上等を目的として添加され得る。上記追加成分は、1種でもよいし、2種以上を添加してもよい。
【0068】
<樹脂溶液>
樹脂溶液11には、樹脂及び溶媒に加えて、各種添加剤を加えてもよい。添加剤は、樹脂や後述する害虫忌避剤の溶解性・分散性の向上、微細な繊維形状の均一形成促進の観点から、具体的には例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化リチウム等の塩が挙げられる。これらの添加剤は、1種のみ添加してもよいし、2種以上を添加してもよい。
【0069】
<紡糸原料液調製工程>
紡糸原料液調製工程S2は、樹脂溶液11に害虫忌避剤12を混合して紡糸原料液13を調製する工程である。
図2に示すように、容器31内に調製された樹脂溶液11に対して、スパチュラ32で害虫忌避剤12を添加し、撹拌機等の公知の撹拌手段により撹拌して、害虫忌避剤12が樹脂溶液11に均一に溶解・分散するように調製する。
【0070】
なお、害虫忌避剤12は、一般に揮発性の高い低沸点の物質であるため、紡糸原料液13からの害虫忌避剤12の蒸散を防ぐ観点から、撹拌時の温度は、例えば室温、好ましくは10℃〜30℃、より好ましくは15℃〜25℃とすることができる。
【0071】
<害虫忌避剤>
害虫忌避剤12は、DNFS1に害虫忌避機能を付与するためのものである。害虫忌避剤12は、概して低沸点の物質であり、大気にさらすことで蒸散する徐放性が高い。極細ファイバー内に害虫忌避剤12を含有させることで、極細ファイバーの繊維内部から少しずつ徐放させることができるため、優れた害虫忌避能を長期間維持可能なDNFS1を得ることができる。
【0072】
ここに、害虫忌避剤12は、分子構造内に上述の所定の骨格を有する物質である。
【0073】
すなわち、所定の骨格が上述のカルボン酸アミド骨格である場合には、害虫忌避剤12は、例えば、以下に示す、N,N−ジエチル−3−メチルベンズアミド(DEET)、1−メチルプロピル2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシレート(Icaridin)、エチル3−[アセチル(ブチル)アミノ]プロパノエート(IR3535)から選択される少なくとも1種以上を用いることができる。
【0077】
また、所定の骨格が上述のベンゼン環骨格である場合には、害虫忌避剤12は、例えば、以下に示す、ナフタレン等を用いることができる。
【0079】
所定の骨格が上述のカンファー骨格である場合には、害虫忌避剤12は、例えば、以下に示す、樟脳等を用いることができる。
【0081】
所定の骨格が上述のイソプロピルアルコール骨格である場合には、害虫忌避剤12は、例えば、以下に示す、612、p−メンタン−3,8−ジオール等を用いることができる。
【0084】
所定の骨格が上述のカルボン酸エステル骨格である場合には、害虫忌避剤12は、例えば、以下に示す、DMP等を用いることができる。
【0086】
所定の骨格が上述のジエチルエーテル骨格である場合には、害虫忌避剤12は、例えば、以下に示す、SRI−C6等を用いることができる。
【0088】
上記害虫忌避剤12は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いる構成としてもよい。複数種類の害虫忌避剤12を混合して用いる場合は、溶媒の所定の骨格を有する成分についても害虫忌避剤12と共通する所定の骨格を有する成分を含有させればよい。
【0089】
なお、蚊やダニに対する害虫忌避能に優れ且つ均一な繊維形状の極細ファイバーからなるDNFS1を得る観点から、所定の骨格としてカルボン酸アミド骨格を有する害虫忌避剤12及び溶媒の成分を用いることが望ましい。特に、害虫忌避剤12としてDEETを用い、溶媒中のカルボン酸アミド骨格を有する成分としてDMFを用いることが望ましい。
【0090】
例えば、DEETは、蚊やダニに対して高い忌避効果を示すとともに、蒸気圧が高く気化しやすいため、虫除けスプレーの忌避成分として世界中で広く使用されている害虫忌避剤である。日本における一般医薬品中のDEET濃度は12質量%とされており、12質量%以下は医薬部外品である。
【0091】
<紡糸原料液>
紡糸原料液13中における樹脂の濃度は、均一且つ微細な繊維形状のDNFS1を得る観点から、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは7質量%以上40質量%以下、特に好ましくは10質量%以上30質量%以下である。
【0092】
紡糸原料液13中の害虫忌避剤12の含有量は、当該紡糸原料液13中の樹脂の質量に対して、優れた害虫忌避能を長期間維持するとともに安全性の高いDNFS1を得る観点から、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0093】
<紡糸工程>
紡糸工程S3は、
図3に示すように、紡糸原料液13を、エレクトロスピニング法を用いて紡糸し、不織布14を得る工程である。こうして得られた不織布14は、裁断、加工等されて又はそのままDNFS1として使用される。
【0094】
<エレクトロスピニング法>
図3に示すように、エレクトロスピニング法による紡糸は、紡糸原料液13をシリンジ33等のノズル先端から例えば回転式ドラム等のコレクタ35上に吹付けることで行われる。シリンジ33内の紡糸原料液13とコレクタ35との間には、高電圧ポンプ34が接続されており、両者間には所定の高電圧が印加される。なお、シリンジ33の紡糸原料液13は、害虫忌避剤12の蒸散を防ぐ観点から、室温程度、例えば15℃〜30℃とすることができる。
【0095】
高電圧ポンプ34による印加電圧は、微小径の均一な繊維形状のDNSF1を得る観点から、例えば10kV以上50kV以下とすることができる。
【0096】
シリンジ33等のノズル先端からコレクタ35までの距離は、微小径の均一な繊維形状のDNSF1を得る観点から、例えば50mm以上200mm以下とすることができる。
【0097】
コレクタ35は、回転させてもよいし、回転させなくてもよい。回転させる場合は、コレクタ35の送り速度は、高密度のDNFS1を得る、あるいは生産速度を高める観点から、例えば0.5mm/分以上200mm/分以下とすることができる。
【0098】
不織布14の厚さは、特に限定されるものではないが、用途に応じて、例えば5μm以上50μm以下とすることができる。
【0099】
<DNFS>
本実施形態に係るDNFS1は、害虫忌避剤を樹脂中に内包するとともに、極細の繊維径によって、広い比表面積を有している。ゆえに、少ない害虫忌避剤含有量でも繊維内部の害虫忌避剤まで効率よく蒸散し、優れた害虫忌避効果を長期間に亘って示す。加えて、極細ファイバーを使用しているため、軽い、薄い、柔らかい、伸びる、透湿防水性等の特徴を備える。
【0100】
DNFS1の害虫忌避能は、例えば後述するヒトスジシマカに対する忌避率により評価することができる。DNFS1のヒトスジシマカに対する忌避率は、蚊等の害虫を効果的に忌避する観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
【0101】
また、忌避率の持続期間は、好ましくは3週間以上、より好ましくは24日以上、特に好ましくは30日以上である。
【0102】
なお、得られたDNFS1中の害虫忌避剤12の含有量については、害虫忌避剤12は揮発性が高く、製造途中から徐放し続けているため、正確な含有量を測定することは困難である。後述するように、DNFS1のアセトン抽出溶液中に含まれる害虫忌避剤12の含有量を測定し、経時変化を評価することで、平均徐放速度を算出することができる。害虫忌避剤12の平均徐放速度は、好ましくは0.05質量%/日以上0.3質量%/日以下、より好ましくは0.08質量%/日以上0.25質量%/日以下、好ましくは0.10質量%/日以上0.22質量%/日以下である。
【0103】
DNFSの用途としては、例えば、蚊等の害虫が活発化する夏季に使用する、パーカー、作業服、ベビーカー用フード、アームカバー、蚊帳、帽子、ペット用衣服等が挙げられる。
【実施例】
【0104】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0105】
(実施例1)
<DNFSの製造>
実施例1に係るDNFSのサンプルを以下の表1に示す条件で製造した。
【0106】
【表1】
【0107】
溶媒としてDMF/MEK(質量比6/4)中に、ポリウレタン樹脂を、紡糸原料液中の樹脂濃度が15質量%となるように添加し、撹拌して溶解させた。この樹脂溶液に、害虫忌避剤としてDEETを、ポリウレタン樹脂の質量に対する害虫忌避剤の割合が10質量%となるように、添加し、撹拌して溶解させた。さらに、添加剤として、塩化リチウムを、紡糸原料液中における濃度が0.1質量%となるように添加し、溶解又は分散させて、紡糸原料液とした。この紡糸原料液を、シングルノズル式エレクトロスピニング装置(自社製作
図3)を用い、印加電圧20kV、ノズル先端−コレクタ間距離100mmの条件で紡糸し、厚さ約20μmの不織布を得た。不織布を20cm×20cm程度のシート状に裁断し、DNFSを得た。
【0108】
(比較例1)
害虫忌避剤を添加しない以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1に係る極細ファイバーシート(以下、「NFS」と称する。)を製造した。
【0109】
(評価試験)
<電子顕微鏡観察>
実施例1のDNFS及び比較例1のNFSについて、電子顕微鏡観察を行った。
図4及び
図5に、それぞれの電子顕微鏡像(SEM像)を示す。
【0110】
図4に示すように、害虫忌避剤としてDEETを含有しない比較例1のNFSでは、表1の条件による製造手順により、微細且つ均一な繊維形状のNFSが得られたことが判る。
【0111】
図5に示す、実施例1のDNFSのSEM写真から、害虫忌避剤としてDEETを加えた場合であっても、比較例1のNFSと同一の条件を用いて紡糸することにより、
図4のNFSに近い状態で、微細且つほぼ均一な繊維形状のDNFSが得られたことが判る。
【0112】
<DNFS中のDEET含有量及び徐放速度>
実施例1のDNFSのサンプル中に含まれるDEETの含有量を、GC/MSを用いた絶対検量線法により定量した。DNFSの0.1gを細かく裁断し、10mLのアセトンに24時間浸漬し、アセトン中に抽出されたDEET量を以下の条件で測定した。そうして、DNFS0.1g中に含有されるDEET含有量(質量%)を算出した。なお、DNFSの製造から0日(製造直後)、7日、14日、21日、28日後のサンプルで測定を行い、DEET含有量を求めた。
【0113】
装置:株式会社島津製作所製GC/MS−OP2010Plus
カラム:InertCap 1MS
0.25mmI.D×30mdf=0.25μm
カラム温度:50℃(1分)→17℃/分で昇温→300℃(5分)
キャリアガス:He 100.1kPa
インジェクション:Split 1:10 1.0μL
検出:MS Scan
DNFS中のDEET含有量の経時変化を表2及び
図8に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
図8のDEET含有量の線形近似曲線から算出されたDEETの平均徐放速度は0.2
1質量%/日であった。
【0116】
<忌避効果確認試験>
大きさ350×350×400mmのワークボックスに無菌の雌のヒトスジシマカを100匹放した系を用意し、
図6及び
図7に示すように、それぞれ比較例1に係るNFS及び実施例1に係るDNFSを巻き付けた腕を肘まで挿入してそのまま5分間放置し、その様子を動画で撮影した。比較例1のNFSでは、5分経過後、腕をワークボックスから引き抜いた。撮影した動画からNFS又はDNFSを巻き付けた部分に蚊が止まり、3秒以上NFS又はDNFS上にいた数をカウントした。忌避率は次式を用いて算出した。
【0117】
忌避率(%)=(NFSへの飛来数−DNFSへの飛来数)/NFSへの飛来数×100・・・(1)
製造から0日(製造直後)、4日、10日、18日、21日、30日後のサンプルで試験を行い、忌避率を求めた。
【0118】
忌避効果確認試験の試験結果を表3及び
図8に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
図6の実線内に示すように、比較例1のNFSでは、腕にヒトスジシマカが数多く飛来しているのに対し、
図7の実線内に示すように、実施例1のDNFSでは、腕にほとんどヒトスジシマカが飛来していないことが判る。
【0121】
また、製造から21日後までの忌避率は89〜100%、30日後の忌避率は30%であった。このことから、実施例1のDNFSは、ヒトスジシマカに対する忌避率が、製造から3週間(21日)以上に亘り、70%以上を維持することが判った。
【0122】
<市販虫除け製品を用いたヒトスジシマカに対する忌避試験>
実施例1のDNFSとの比較のため、350×350×400mmのワークボックスにヒトスジシマカを100匹封入した系を用意した。その系中に、比較例1のNFS、又は比較例2,3としてNFSを巻き付けた腕に虫除けメッシュパーカー又は虫除けリングを身につけた腕を挿入した。5分間その挿入した腕のNFS上に飛来した蚊の数をカウントし、下記式(2)を用いて忌避率を算出した。
【0123】
忌避率(%)=(「NFS(コントロール)への飛来数」−「NFS+種々の虫除け製品への飛来数」)/「NFS(コントロール)への飛来数」×100・・・(1)
結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
比較例2のNFSに加えて虫除けメッシュパーカーを装着した腕では、ヒトスジシマカの飛来数は比較例1のNFSのみの場合に比べて増加した。また、比較例3のNFSに加えて虫除けリングを装着した腕では、ヒトスジシマカの飛来数は低下したものの、忌避率は54%で、実施例1のDNFSに比べて低い値となった。