特許第6853987号(P6853987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6853987
(24)【登録日】2021年3月17日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】複合制振材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20210329BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20210329BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20210329BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210329BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20210329BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20210329BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K7/02
   C08L71/02
   C08K3/22
   C08K7/00
   C09K3/00 P
   F16F15/02 Q
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-87170(P2020-87170)
(22)【出願日】2020年5月19日
【審査請求日】2021年1月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502369687
【氏名又は名称】株式会社タイテックスジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】000244660
【氏名又は名称】木曽興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】住田 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】金子 核
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 和孝
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−228097(JP,A)
【文献】 特開2014−109023(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104151636(CN,A)
【文献】 国際公開第2011/108515(WO,A1)
【文献】 特開2017−105942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
C09K 3/00
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスとなる高分子材料中に、針状の二酸化チタン粒子と、ナノセルロースからなる圧電性繊維と、ロタキサン構造を有する高分子樹脂とが混合されている複合制振材料。
【請求項2】
マトリックスとなる高分子材料中に、無機材料からなる扁平状のフィラーと、導電性微粒子とが更に混合されている請求項1記載の複合制振材料。
【請求項3】
前記ナノセルロースからなる圧電性繊維が、セルロースナノファイバーである請求項1又は2のいずれか1項記載の複合制振材料。
【請求項4】
前記ロタキサン構造を有する高分子樹脂は、その構成分子が、ポリエチレングリコールからなる直鎖状分子がαーシクロデキストリンからなる環状分子の環を貫通し、当該直鎖状分子の両末端にアダマンタンからなる封鎖基が配置されたものである請求項1乃至3のいずれか1項記載の複合制振材料。
【請求項5】
前記針状の二酸化チタン粒子の配合量が1.0重量%以上10.0重量%以下で、前記ナノセルロースからなる圧電性繊維の配合量が0.1重量%以上10.0重量%以下で、前記ロタキサン構造を有する高分子樹脂の配合量が0.1重量%以上10.0重量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項記載の複合制振材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換して振動を減衰させる制振材料に関し、特に、低周波の振動の減衰に好適な複合制振材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機械、輸送機関の発達、家電用品の普及により、各種機器より発生する振動、騒音が健康管理または環境保全の観点から問題視されるに至っている。例えば、輸送機関、とりわけ鉄道の高速化による振動・騒音、高速道路、橋梁での自動車等の車輌による振動・騒音、また、オーディオ機器、パーソナルコンピュータ等の各種精密機械の普及に伴なう振動、特に低周波の振動が社会問題として取り上げられるようになり、その防止低減対策が今後の社会生活にとって不可欠な状況となっている。
【0003】
従来、振動、騒音を防止するためには、(1)質量を増加させ、剛性を高めること、(2)共振を回避すること、(3)振動を減衰させることの三点が重要であるとされている(新素材ハンドブックp235(丸善)参照)。
【0004】
前記(1)、(2)の振動を起こさせないようにするための剛構造設計に対し、前記(3)は、柔構造というべきものであり、自由に振動を起こさせてその後速やかに減衰させるのがよいとする考え方であり、かかる振動減衰には、振動体の有する振動エネルギーを熱に変えて消費することにより振幅を急速に減少させ振動を止める手法が提案され、また、実施にも移されている。特に、材料自体が有する減衰能を利用する制振材料が各種開発されてきている。
【0005】
これらのうち、例えば、非圧電性の有機高分子マトリックスに圧電性、誘電性、導電性を有する低分子化合物を分散させた有機高分子系制振材料が提案されている。このような制振材料の作用は、従来の制振作用の原理とは異なる原理によるもので、振動エネルギーを一旦電気エネルギーに変換し、次いで、熱エネルギーに変換して消費することにより振動を減衰させるとするものであり、圧電・導電効果に基づく電気エネルギー損失が加わるため、より効率的な振動減衰が可能になるとされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
一方、例えば半導体製造装置等において微細な加工を行う場合等において、より効果的な制振作用が求められており、種々の技術分野において制振材料の研究開発が進展している(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、近年では、地震の際に制振を行う手段として、簡素な構成で且つ少ない材料でより効果的な制振作用が得られるものも求められている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
また、制振能力を一層向上させることができる制振材料が求められている。
さらに、大きな荷重の衝撃が加わる場所等において使用できるようにするため、高強度及び高弾性率を保ちながら、靱性を高めることができる制振材料も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−85346号公報
【特許文献2】特開平11−68190号公報
【特許文献3】特開2011−99497号公報
【特許文献4】特開2013ー228097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の技術の課題を考慮してなされたもので、その目的とするところは、制振能力を向上させるとともに、高強度及び高弾性率を保ちながら、靱性を高めることができる複合制振材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を解決するためになされた本発明は、マトリックスとなる高分子材料中に、針状の二酸化チタン粒子と、ナノセルロースからなる圧電性繊維と、ロタキサン構造を有する高分子樹脂とが混合されている複合制振材料である。
本発明では、マトリックスとなる高分子材料中に、無機材料からなる扁平状のフィラーと、導電性微粒子とが更に混合されている場合にも効果的である。
本発明では、前記ナノセルロースからなる圧電性繊維が、セルロースナノファイバーである場合にも効果的である。
本発明では、前記ロタキサン構造を有する高分子樹脂は、その構成分子が、ポリエチレングリコールからなる直鎖状分子がαーシクロデキストリンからなる環状分子の環を貫通し、当該直鎖状分子の両末端にアダマンタンからなる封鎖基が配置されたものである場合にも効果的である。
本発明では、前記針状の二酸化チタン粒子の配合量が1.0重量%以上10.0重量%以下で、前記ナノセルロースからなる圧電性繊維の配合量が0.1重量%以上10.0重量%以下で、前記ロタキサン構造を有する高分子樹脂の配合量が0.1重量%以上10.0重量%以下である場合にも効果的である。
【発明の効果】
【0012】
本発明にあっては、マトリックスとなる高分子材料中に、従来のセルロースファイバーに比べてアスペクト比が極めて大きいナノセルロースからなる圧電性繊維(例えばセルロースナノファイバー)が混合されていることから、圧電性繊維に発生する電気双極子を増加させることができ、これにより従来技術と比較して制振能力を向上させることができる。
【0013】
また、本発明では、上述したアスペクト比が極めて大きいナノセルロースからなる圧電性繊維を混合することによって、複合材料の強度や剛性(弾性率)を高めることができるとともに、ロタキサン構造を有する高分子樹脂を混合することによって靱性を高めることができる。
【0014】
その結果、本発明によれば、高強度及び高弾性率を保ちながら、高靱性の複合制振材料を提供することができ、また靱性を高めることによって制振能力を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の複合制振材料の概略構成を示す断面模式図
図2】(a):本発明に用いる針状誘電体の寸法関係を示す模式図、(b):針状の二酸化チタン粒子の表面に導電体層を設けた構成を示す断面図、(c):本発明に用いるナノセルロースからなる圧電性繊維の寸法関係を示す模式図
図3】(a):ロタキサン構造を有する高分子樹脂の構成分子を模式的に示す説明図、(b):ロタキサン構造を有する高分子樹脂を模式的に示す説明図
図4】本発明の実施例1〜3及び比較例1における周波数と損失係数との関係を示すグラフ
図5】本発明の実施例4〜6及び比較例2における周波数と損失係数との関係を示すグラフ
図6】本発明の実施例1及び比較例3の応力−ひずみ曲線を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の複合制振材料の概略構成を示す断面模式図である。また、図2(a)は、本発明に用いる針状誘電体の寸法関係を示す模式図、図2(b)は、二酸化チタンの表面に導電体層を設けた針状誘電体の構成を示す断面図、図2(c)は、本発明に用いる圧電性繊維の寸法関係を示す模式図である。
【0017】
また、図3(a)は、ロタキサン構造を有する高分子樹脂の構成分子を模式的に示す説明図、図3(b)は、ロタキサン構造を有する高分子樹脂を模式的に示す説明図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の複合制振材料1は、マトリックスとなる高分子材料2中に、針状の二酸化チタン粒子3と、ナノセルロースからなる圧電性繊維4と、ロタキサン構造を有する高分子樹脂5とが混合されているものであり、好ましくは、さらに、無機材料からなる扁平状のフィラー9と、導電性微粒子10とが混合されているものである。
【0019】
以下、これら各構成材料について詳細に説明する。
<マトリックスとなる高分子材料2>
本発明の場合、マトリックス(母材)となる高分子材料は特に限定されることはなく、種々のエラストマーや高分子樹脂を用いることができる(以下、「マトリックス材料」という。)。
【0020】
本発明に用いることができるエラストマーとしては、例えば、アクリルゴム(ACR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、塩化ビニル樹脂をブレンドしたアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR/PVC)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、クロロプレンゴム(CR)等があげられる。
【0021】
これらのうちでも、耐候性及び耐摩耗性を向上させる観点からは、塩化ビニル樹脂をブレンドしたアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR/PVC)を用いることが好ましい。
【0022】
一方、本発明に用いることができる高分子樹脂としては、例えば、ポリ乳酸樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−メタアクリレート共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリスチレン−ビニルポリジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリブチレン等があげられる。
【0023】
<針状の二酸化チタン粒子3>
本発明に用いる針状の二酸化チタン粒子3は、二酸化チタン(TiO2)からなる針状の粒子である。なお、二酸化チタンの結晶形態としては、ルチル型のものを好適に用いることができる。
【0024】
本明細書において、「針状」とは、例えば図2(a)に示すように、長軸の長さL1が、短軸の径L2より大きい形状を意味するものとし、紡錘状、棒状と同じ意味である。
【0025】
ここで、針状の二酸化チタン粒子3としては、アスペクト比、すなわち、長軸の長さL1と短軸の径L2の比(L1/L2)を、10〜30とすることが好ましい。
【0026】
針状の二酸化チタン粒子3のアスペクト比は、発生する電気エネルギーを大きくする観点及び低周波領域においてより効果的な制振作用を発揮させる観点からは、できるだけ大きい(細長い)ことが好ましい。
【0027】
ただし、アスペクト比が30を超えるものを製造することは実際上困難である。
他方、針状の二酸化チタン粒子3のアスペクト比が10未満の場合には、十分な電気エネルギーを発生させることができない。
【0028】
この針状の二酸化チタン粒子3は、詳細は明らかではないが、例えば、粒子製造時の圧力や、高分子材料2中に混合(混練)する際の圧力に起因する応力によって、分子配列が一方向に向くいわゆるモノドメイン構造となっていると考えられる。
【0029】
そして、このような針状の二酸化チタン粒子3は、圧電効果を発現し、しかも発生した電気エネルギーが粒子の長手方向に沿って流れやすい分子の配列構造となっていると考えられる。
【0030】
本発明においては、図2(b)に示すように、上述した針状の二酸化チタン粒子3の二酸化チタンを核体としてその表面に導電体層30を設けることもできる。
【0031】
針状の二酸化チタン粒子3の二酸化チタンの表面に導電体層30を設けることにより、針状の二酸化チタン粒子3の表面に流れる電流の大きさを大きくすることができるので、より少ない量の針状の二酸化チタン粒子3によって効果的な制振を行うことができる。
【0032】
本発明の場合、導電体層30の材料としては特に限定されることはないが、製造のしやすさ及びより少ない量で導電性を向上させる観点からは、アンチモン(Sb)をドープした二酸化スズ(SnO2)を好適に用いることができる。
【0033】
この場合、導電体層30の厚さは、プリントによる場合には、1〜20μmに設定することが好ましい。
他方、導電体層30の厚さは、蒸着による場合には、0.1〜100μmまで設定することができる。
【0034】
一方、本発明の針状の二酸化チタン粒子3の抵抗率(導電体層30を形成したものも含む)は、2〜80Ω・cmのものが好ましく、より好ましくは10〜60Ω・cmである。
【0035】
<ナノセルロースからなる圧電性繊維4>
本明細書において、「ナノセルロース」とは、ナノサイズ(ナノレベル)のセルロース系材料をいうものとする。
【0036】
ナノセルロースは解繊状態によって呼称が異なり、繊維径4〜100nm、かつ、長さ5μm以上の高アスペクト比のナノセルロースはセルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維)、繊維径10〜50nm、かつ、長さ100〜500nmの低アスペクト比のナノセルロースはセルロースナノクリスタル(CNC)と呼称されている。
【0037】
いずれの解繊状態であっても、ミクロフィブリル構造を維持しており、高強度、高靭性を有する。
【0038】
本発明の場合、特に限定されることはないが、複合材料の靭性をより向上させる観点からは、アスペクト比の大きいセルロースナノファイバーが好適である。
【0039】
本発明のナノセルロースからなる圧電性繊維4は、上述した各ナノセルロースを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
なお、ナノセルロースは、原料や製法などに応じて分類しうる。
例えば、CNFは、植物由来のセルロースのミクロフィブリル(又はその構成繊維)を原料とするものであってもよく、バクテリアセルロース(BC)(バクテリアセルロースナノファイバー(バクテリアCNF))、リグノセルロースナノファイバー(LCNF)、電界紡糸法により得られるCNFなども含まれる。
【0041】
バクテリアセルロースは、微生物が作るCNF(バクテリア由来のCNF)であり、通常、植物由来のセルロースとは、純度や構造(径や網目構造)において異なる。
【0042】
リグノセルロースナノファイバーは、リグニンを含有するCNF(リグニン被覆CNF)である。
【0043】
また、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)により得られるCNFは、電圧を印加しつつ、セルロース系材料の溶液を紡糸することで得られるCNFである。この方法では、溶液を使用するため、セルロース誘導体(例えば、セルロースアセテートなど)のナノファイバーを得ることもできる。
【0044】
本発明の圧電性繊維4に用いるナノセルロースは、変性(改質、修飾)されていてもよい。
変性の態様は、その目的に応じて選択でき、例えば、疎水化、官能基の導入などが挙げられる。具体的な変性としては、酸変性[例えば、カルボキシル化(カルボキシメチル化など)、リン酸化、硫酸又はスルホン化など]、エステル又はアシル変性(アセチル化など)、アミン変性、アミド変性、エポキシ変性、フルオレン変性などが挙げられる。なお、酸基やアミン基は塩を形成していてもよい。
【0045】
なお、変性方法は、変性の態様などに応じて適宜選択でき、特に限定されない。例えば、セルロースの骨格が有するヒドロキシル基を利用して変性(例えば、ハロゲン化カルボン酸と反応させるなど)してもよい。
【0046】
本発明の圧電性繊維4に用いるナノセルロースの径(繊維径)は、その種類等に応じて選択でき、例えば図2(c)に示すように、平均径(平均繊維径)l2で、例えば、1〜800nm、2〜500nm、3〜300nm、4〜200nmなどであってもよく、4〜100nm、10〜50nmなどであってもよい。
【0047】
このナノセルロースの長さもまた、その種類等に応じて選択でき、特に限定されない。例えば、CNFの長さ(繊維長)は、平均繊維長l1で、100nm以上、300nm以上、500nm以上、1000nm以上、3000nm以上、5000nm以上などであってもよい。
【0048】
なお、本発明の圧電性繊維4に用いるナノセルロースの径や長さは、慣用の方法、例えば、顕微鏡(電子顕微鏡など)などで測定することができる。
【0049】
また、このナノセルロースは、市販品を利用してもよく、慣用の方法により合成したものを使用してもよい。
【0050】
ナノセルロースの原料となる天然セルロースは、セルロースミクロフィブリルの表面とヘミセルロースやリグニンが強固に結合しており、容易に分散させることができないが、ミクロフィブリル表面の化学的な処理、または機械的にせん断をかけて解繊することによって、ミクロフィブリル構造を維持した状態で表面の結合を乖離させ微細化する方法が提案されている。
【0051】
天然セルロースは、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースである。
【0052】
具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどが挙げられ、天然セルロースを単離することができれば原料は限定されない。
【0053】
<ロタキサン構造を有する高分子樹脂5>
図3(a)は、ロタキサン構造を有する高分子樹脂の構成分子を模式的に示す説明図、図3(b)は、ロタキサン構造を有する高分子樹脂を模式的に示す説明図である。
【0054】
図3(a)に示すように、本発明のロタキサン構造を有する高分子樹脂(以下、適宜「ポリロタキサン樹脂」という。)の構成分子5aは、直鎖状分子6が環状分子7の環を貫通し、当該直鎖状分子6の両末端に封鎖基8が配置された構造を有しており、環動高分子とも称される。
【0055】
本発明において、直鎖状分子6の種類は特に限定されない。
直鎖状分子6としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等の親水性ポリマーが挙げられる。
【0056】
本発明において、環状分子7の種類は特に限定されない。
環状分子7としては、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等が挙げられる。
【0057】
環状分子7は、エポキシ基、グリシジル基、−OH、−SH、−NH2、−COOH、−SO3H、−PO4H等の反応基を有することが望ましい。
【0058】
例えば、α−シクロデキストリン等の−OHの一部を、他の反応基に置換してもよい。また、α−シクロデキストリン等が化学修飾されていても構わない。化学修飾としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ヘキサノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基、シクロヘキシル基、ブチルカルバモイル基、ヘキシルカルバモイル基、フェニル基、カプロラクトン基、アルコキシシラン基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シンナモイル基等の反応基を、環状分子7に結合させればよい。また、ポリカプロラクトンやポリカーボネート等のポリマー鎖を、直接あるいは上記反応基を介して結合させてもよい。
【0059】
直鎖状分子6の両末端には、直鎖状分子6から環状分子7が脱離しないように、封鎖基8が配置されている。
【0060】
封鎖基8としては、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、シルセスキオキサン類、ピレン類、置換ベンゼン類、置換されていてもよい多核芳香族類、およびステロイド類等が挙げられる。
【0061】
本発明のポリロタキサン樹脂5は、例えば図3(b)に示すように、上述した複数の構成分子5aの環状分子7同士が、架橋によって機械的に結合しているものである。
【0062】
このポリロタキサン樹脂5は、架橋部分の環状分子7cが直鎖状分子6に沿って自由に移動(環動)することが可能である。
【0063】
ただし、環状分子7は、その両端部に設けられた封鎖基8によって直鎖状分子6から抜け出せない構造を有している。
【0064】
このようなポリロタキサン樹脂5は、架橋部分における環状分子7cの運動性が架橋部分ではない環状分子7より高いため、外部からの応力や内部に残留した応力を緩和する機能を有している。
【0065】
<各構成材料の配合量>
本発明の場合、複合制振材料1における針状の二酸化チタン粒子3の配合量は、特に限定されることはないが、1.0重量%以上10.0重量以下に設定することが好ましい。
【0066】
針状の二酸化チタン粒子3の配合量が1.0重量%未満であると、十分な制振効果を奏することができず、他方、10.0重量%を超えると、成形後に脆くなるため好ましくない。
【0067】
一方、複合制振材料1におけるナノセルロースからなる圧電性繊維4の配合量は、特に限定されることはないが、0.1重量%以上10.0重量%以下に設定することが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上4.0重量%以下である。
【0068】
圧電性繊維4の配合量が0.1重量%未満であると、十分な制振効果を奏することができず、他方、10.0重量%を超えると、均一に分散させることが困難であるため好ましくない。
【0069】
さらに、複合制振材料1におけるロタキサン構造を有する高分子材料5の配合量は、特に限定されることはないが、0.1重量%以上10.0重量%以下に設定することが好ましい。
【0070】
ロタキサン構造を有する高分子材料5の配合量が0.1重量%未満であると、十分な制振効果とフィラーの分散効果を奏することができず、他方、10.0重量%を超えると、機械的強度(弾性率等)が低下するため好ましくない。
【0071】
本発明の複合制振材料1では、無機材料からなる扁平状のフィラー9と、導電性微粒子10を、必要に応じて配合させることができる。
【0072】
<無機材料からなる扁平状のフィラー9>
本発明に用いる無機材料からなる扁平状のフィラー9は、制振能力をより向上させるとともに、複合材料全体として所望の機械的特性(弾性率等)を得るためのものである。
【0073】
このような扁平状のフィラー9としては、例えば層状のマイカ(雲母)からなるものを好適に用いることができる。
【0074】
本発明の場合、無機材料からなるフィラー9の配合量は、特に限定されることはないが、上述した目的を考慮すると、10重量%〜30重量%に設定することが好ましい。
【0075】
本発明に用いる導電性微粒子10は、複合材料全体としての導伝率を向上・調整するためのものである。
【0076】
このような導電性微粒子10としては、例えばカーボンブラックからなるものを好適に用いることができる。
【0077】
なお、導電性微粒子としては、予め高分子材料に添加されているものを使用することができる。
【0078】
本発明の場合、複合制振材料1における導電性微粒子の配合量は、特に限定されることはないが、上述した目的を考慮すると、0.5重量%〜30重量%に設定することが好ましい。
【0079】
本発明に係る複合制振材料1及びその成形体を得るには通常の方法を用いればよい。
【0080】
すなわち、マトリックス材料2に、上述した針状の二酸化チタン粒子3と、ナノセルロースからなる圧電性繊維4と、ロタキサン構造を有する高分子樹脂5と、必要に応じて無機材料からなる扁平状のフィラー9と、導電性微粒子10とを所定量加えて所定温度で混練し、例えば熱ロールプレス成形後、所定の大きさに切断すればよい。
【0081】
本発明の複合制振材料1は、種々の形状の成形体として使用することができる。
例えば、フィルム状の成形体の他、円板形状や円柱形状、長方体形状、多面体形状、球形状等の種々の形状にして使用することができる。
【0082】
また、繊維状に形成して布として使用したり、不織布として使用することもできる。
【0083】
次に、本発明の原理及び作用効果について説明する。
【0084】
本発明の複合制振材料1に周期的な振動が加わると、その振動エネルギーにより、高分子材料2中の無機材料からなる扁平状のフィラー9において層間のずれが生じ、この機械的作用により熱が発生して振動を吸収する。
【0085】
さらに、本発明においては、高分子材料2中のナノセルロースからなる圧電性繊維4に、その圧電効果によって、両端部間に周期的に電位差が生ずる(電気双極子)。
【0086】
この場合、圧電性繊維4のアスペクト比が大きくなるに従い、上記圧電性繊維4に発生する電気双極子が増加するようになる。
【0087】
そして、多数の圧電性繊維4に発生した電気双極子に起因する交流電流が複合材料(コンパウンド)内の導電路を介して流れ、この交流電流による電気エネルギーがジュール熱として消費され、複合制振材料1における振動エネルギーが減衰する。
【0088】
一方、針状の二酸化チタン粒子3にも、その圧電効果によって、両端部間に周期的に電位差が生ずる(電気双極子)。
【0089】
加えて、本発明においては、針状の二酸化チタン粒子3の近傍に、上記圧電性繊維4において発生した電気双極子が存在することになるため、針状の二酸化チタン粒子3が、上述した電気双極子によって生じた電界内に配置される。
【0090】
これにより、針状の二酸化チタン粒子3とマトリックス材料2との界面に、界面分極に起因する電気双極子が発生する。
【0091】
そして、針状の二酸化チタン粒子3に発生した電気双極子によって、針状の二酸化チタン粒子3の表面に電気的回路が形成され、針状の二酸化チタン粒子3の表面に交流電流が流れる。
【0092】
その結果、この針状の二酸化チタン粒子3の表面の交流電流による電気エネルギーがジュール熱として消費され、複合制振材料1における振動エネルギーが減衰する。
【0093】
一般に、圧電効果を有する粒子を混合した圧電複合材料の抵抗をR、圧電粒子の容量をC、減衰させたい振動の振動数をωとすると、インピーダンスの整合条件として、R=1/ωCの条件が成立するときに、最も迅速に振動が減衰することが知られている。
【0094】
したがって、本発明において、複合制振材料1の固有振動数に対応する適切な導電率を設定することによって所望の制振効果を得ることができる。
【0095】
本発明では、マトリックス材料2中に、従来のセルロースファイバーに比べてアスペクト比が極めて大きいナノセルロースからなる圧電性繊維4(好ましくはセルロースナノファイバー)が混合されていることから、この圧電性繊維4に発生する電気双極子を増加させることができ、これにより従来技術と比較して制振能力を向上させることができる。
【0096】
さらに、本発明では、マトリックス材料2中に、ナノセルロースからなる圧電性繊維4に加えてポリロタキサン樹脂5が混合されていることによって、次のような作用効果が発揮される。
【0097】
一般に繊維分散系の複合材料において、分散された繊維のアスペクト比が大きくなれば複合材料の強度や剛性(弾性率)が大きくなることが知られている。
【0098】
これは、繊維の長軸方向は長軸に対する直角方向に比べて強度や剛性が大きく異方性を示すことが知られており、繊維が長くなれば(つまりアスペクト比が大きくなれば)繊維の長軸方向と荷重方向が一致する確率が短繊維(アスペクト比の小さい繊維)より高くなって繊維で荷重を負担することになり、強度及び剛性が大きくなると考えられる。
【0099】
本発明における環動高分子であるポリロタキサン樹脂5の分散性は、マトリックス樹脂との相互作用、ナノセルロースからなる圧電性繊維4(セルロースナノファイバー)のピラノース環とポリロタキサン樹脂5のデキストリン構造の類似性、ポリロタキサン樹脂の環状分子間の水素結合の存在が寄与しているものと考えられる。
【0100】
このため、マトリックス材料2と相互作用をしているポリロタキサン樹脂5は、ナノセルロースからなる圧電性繊維4の表面に存在して変形時に受けた力を滑車のように滑らせることで、つまり「いなす」ことで、変形のエネルギーが複合制振材料1内に貯蔵されることなく散逸されるので、伸長度である靱性を高めるものと考えられる。
【0101】
その結果、本発明によれば、高強度及び高弾性率を保ちながら、高靱性の複合制振材料1を提供することができ、また靱性を高めることによって制振能力を一層向上させることができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0103】
<実施例1>
以下の各材料を用い、実施例1の複合制振材料の試料を作成した。
【0104】
マトリックス用の高分子材料として、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体と(ABS:商品名GR−2000 デンカ社製)を用いた。
【0105】
この高分子材料には、カーボンブラックからなる導電性粒子が添加されている。
【0106】
針状の二酸化チタン粒子として、導電体層を有する針状の二酸化チタン微細粒子(商品名 FT−4000 石原産業社製、長軸長さ:10μm、短軸径:0.5μm、アスペクト比:20)を用いた。
【0107】
ナノセルロースからなる圧電性繊維として、繊維径数nm〜数百nm、長さ1〜2μmのカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー(CM化CNF 商品名CS−01 日本製紙社製)を用いた。
【0108】
ロタキサン構造を有する高分子樹脂として、ポリロタキサン樹脂(商品名SH3400P ASM社製)を用いた。
【0109】
扁平状のフィラーとして、層状のマイカ(商品名マイカ600W キララ社製)を用いた。
【0110】
上記ABS60重量%(うち導電性微粒子1重量%)に、上記針状の二酸化チタン微細粒子3.4重量%と、上記セルロースナノファイバー0.5重量%と、上記ポリロタキサン樹脂0.5重量%と、上記層状のマイカ17.5重量%と、制振付与用の有機複合材料(ポリスチレン−ビニルポリジエン共重合体)15重量%と、改質・加工助剤3.1重量%を加えて温度170℃の熱ロールで混練成形後、厚さ1mmで大きさ80mm×250mmの試験用シートを得た。
【0111】
そして、この試験用シートを大きさ10mm×200mmに切断して厚さ1mmの測定用シートを得た。
【0112】
<実施例2>
ポリロタキサン樹脂の配合量を1.0重量%とするとともに、層状のマイカの配合量を17.0重量%とした他は実施例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0113】
<実施例3>
ポリロタキサン樹脂の配合量を2.0重量%とするとともに、層状のマイカの配合量を16.0重量%とした他は実施例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0114】
<実施例4>
ポリロタキサン樹脂の配合量を1.0重量%とするとともに、改質・加工助剤の配合量を2.6重量%とした他は実施例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0115】
<実施例5>
ポリロタキサン樹脂の配合量を1.0重量%とするとともに、セルロースナノファイバーの配合量を1.0重量%とした。また、層状のマイカの配合量を17.0重量%とするとともに、改質・加工助剤の配合量を2.6重量%とした。その他は実施例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0116】
<実施例6>
ポリロタキサン樹脂の配合量を1.0重量%とするとともに、セルロースナノファイバーの配合量を2.0重量%とした。また、層状のマイカの配合量を16.0重量%とするとともに、改質・加工助剤の配合量を2.6重量%とした。その他は実施例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0117】
<比較例1>
ポリロタキサン樹脂を配合せず、層状のマイカの配合量を18.0重量%とした他は実施例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0118】
<比較例2>
セルロースナノファイバーを配合せず、ポリロタキサン樹脂の配合量を1.0重量%とした。また、層状のマイカの配合量を18.0重量%とするとともに、改質・加工助剤の配合量を2.6重量%とした。その他は実施例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0119】
<比較例3>
セルロースナノファイバーの代わりにセルロースファイバー(日本製紙社製 カルフロックW250)を0.5重量%配合した他は比較例1と同一の条件で複合制振材料の試料を作成した。
【0120】
<評価>
(1)損失係数
実施例1〜6及び比較例1、2の試料について、中央加振法(10×200×0.8mm 12.35g鋼板)によって損失係数(η)の周波数依存性を測定した。
【0121】
測定系としては、発振器はType 2825、増幅器はType 2718、加振器はType 4809、加速度センサはType 8001で構成されるシステムを用い(いずれもB&K社製)、各機器の制御はパーソナルコンピュータを用いた。
【0122】
この場合、共振周波数は、第1次〜第5次まで測定した。この損失係数(η)の測定結果を図4図5に示す。
【0123】
<評価結果>
図4に示すように、実施例1〜実施例3の複合制振材料は、約900Hz〜2000Hzの広い周波数領域において、比較例1の複合制振材料と同等あるいは高い損失係数が得られた。
【0124】
特にポリロタキサン樹脂の配合量を1.0重量%とした実施例2と、ポリロタキサン樹脂の配合量を2.0重量%とした実施例3のものでは、周波数約400Hzにおいて、それぞれ120%以上、200%以上の損失系数が得られ、また周波数約1000Hzにおいて、それぞれ115%以上、140%以上の損失系数が得られた。
【0125】
図5に示すように、実施例4〜実施例6の複合制振材料は、約900Hz〜2000Hzの広い周波数領域において、比較例2の複合制振材料に比べて高い損失係数が得られた。
【0126】
特にセルロースナノファイバーの配合量を0.5重量%とした実施例4と、セルロースナノファイバーの配合量を1.0重量%とした実施例5のものでは、周波数約400Hzにおいて、それぞれ145%以上、105%以上、周波数約1000Hzにおいて、それぞれ128%以上、138%以上の損失系数が得られた。
【0127】
(2)応力−ひずみ曲線
実施例1及び比較例3の試料について、引張試験装置(オリンテック社製 RTC−1350A)を用い、応力とひずみの関係を測定した。
【0128】
この場合、試験片として、厚さ1mm、幅2mmのものを用い、標点間距離は20mmとした。また、引張速度は5mm/分とした。
【0129】
その結果を図6に示す。
【0130】
図6に示す測定結果から、セルロースナノファイバーを添加した実施例1の複合制振材料は、セルロースファイバーを添加した比較例3の複合制振材料に比べ、破断伸度が2.9% 、破断強度が16.4%、降伏強度が6.8%の増大が観察された。
【0131】
また、初期ひずみと応力の勾配から得られる静的弾性率は、実施例1の複合制振材料が比較例3の複合制振材料に比べて約4%の増大が見られる。
【0132】
(3)まとめ
図4、5に示されている、実施例1〜6の損失係数が比較例1、2の複合制振材料に比べて同等かあるいは向上しているという結果は、セルロースナノファイバーのアスペクト比が極めて大きいことによる効果と、以下に述べる複合材料の靱性の向上による効果であると考えられる。
【0133】
また、図6に示されている、比較例3に比べて実施例1の複合制振材料の強度及び弾性率が向上しているという結果は、ポリロタキサン樹脂の存在が分散剤としてのセルロースナノファイバーの分散性及びポリロタキサン樹脂の滑車効果による複合材料の伸び(靭性)に効果的に作用した結果によるものと考えられる。
【0134】
このポリロタキサン樹脂の分散性は、セルロースナノファイバーのピラノース環とポリロタキサン樹脂のデキストリン構造の類似性と、環状分子に存在する官能基間の相互作用の存在とが寄与しているものと考えられる。
【符号の説明】
【0135】
1…複合制振材料、2…高分子材料、3…針状の二酸化チタン粒子、4…ナノセルロースからなる圧電性繊維、5…ロタキサン構造を有する高分子樹脂(ポリロタキサン樹脂)、5a…ロタキサン構造を有する高分子樹脂の構成分子、6…直鎖状分子、7…環状分子、8…封鎖基、9…無機材料からなる扁平状のフィラー、10…導電性微粒子
【要約】
【課題】制振能力を向上させるとともに、高強度及び高弾性率を保ちながら、靱性を高めることができる複合制振材料を提供する。
【解決手段】本発明の複合制振材料1は、マトリックスとなる高分子材料2中に、針状の二酸化チタン粒子3と、ナノセルロースからなる圧電性繊維4と、ロタキサン構造を有する高分子樹脂であるポリロタキサン樹脂5とが混合されている。本発明では、マトリックスとなる高分子材料2中に、無機材料からなる扁平状のフィラー9と、導電性微粒子10とが混合されていてもよい。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6