特許第6854310号(P6854310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854310
(24)【登録日】2021年3月17日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】車両スライド扉の動力スライド装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/662 20150101AFI20210329BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20210329BHJP
   B60J 5/06 20060101ALI20210329BHJP
   E05F 15/643 20150101ALI20210329BHJP
【FI】
   E05F15/662
   B60J5/04 C
   B60J5/06 A
   E05F15/643
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-44330(P2019-44330)
(22)【出願日】2019年3月11日
(65)【公開番号】特開2020-147932(P2020-147932A)
(43)【公開日】2020年9月17日
【審査請求日】2020年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089934
【弁理士】
【氏名又は名称】新関 淳一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092945
【弁理士】
【氏名又は名称】新関 千秋
(72)【発明者】
【氏名】北 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】蕪木 誠
【審査官】 砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−113205(JP,A)
【文献】 特開2016−108797(JP,A)
【文献】 特開2015−40423(JP,A)
【文献】 特開2010−236243(JP,A)
【文献】 特開2002−327576(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0216383(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/04− 5/06
E05F 11/54
E05F 15/00−15/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(10)に対して閉扉方向と開扉方向にスライド自在に取付けられたスライド扉(11)と、前記スライド扉(11)と前記車体(10)との間に設けられるワイヤーケーブルと、前記ワイヤーケーブルをモータ動力で移動させることにより前記スライド扉(11)を前記閉扉方向及びの前記開扉方向にスライドさせる動力ユニット(20)とを有する動力スライド装置において:
前記動力ユニット(20)は前記スライド扉(11)に配置し;
前記動力ユニット(20)はモータ(29)と、一対の開扉ドラム(21A)及び閉扉ドラム(21B)とを備え;
前記ワイヤーケーブルは、前記開扉ドラム(21A)に一端が連結される開扉ケーブル(22A)と前記閉扉ドラム(21B)に一端が連結される閉扉ケーブル(22B)とを備え;
前記開扉ドラム(21A)の開扉ドラム軸(28A)と、前記閉扉ドラム(21B)の閉扉ドラム軸(28B)と前記モータ(29)のモータ軸(29A)とは、互いに軸芯の異なる平行軸とし;
前記開扉ケーブル(22A)は前記開扉ドラム(21A)から、また、前記閉扉ケーブル(22B)は前記閉扉ドラム(21B)から水平に後方に延伸させて前記スライド扉(11)の後端から前記スライド扉(11)の外部に引き出した車両スライド扉の動力スライド装置。
【請求項2】
請求項1において、前記開扉ドラム(21A)と前記閉扉ドラム(21B)とは前記モータ(29)の同一方向の回転により互いに反対回転させる構成とした車両スライド扉の動力スライド装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記開扉ドラム(21A)は開扉ドラムギヤ(31A)と同軸で一体回転する構成とし、前記閉扉ドラム(21B)は閉扉ドラムギヤ(31B)と同軸で一体回転する構成とし、前記開扉ドラムギヤ(31A)と前記閉扉ドラムギヤ(31B)とを互いに噛合させた車両スライド扉の動力スライド装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記車体(10)のクオータパネル(15)の上下中間位置には前記スライド扉(11)がスライド自在に係合する前後方向に伸びたセンターレール(16)を設け、前記開扉ケーブル(22A)および前記閉扉ケーブル(22B)は、前記センターレール(16)と同じ高さ位置で前記開扉ドラム(21A)および前記閉扉ドラム(21B)から延伸する構成とした車両スライド扉の動力スライド装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、前記開扉ケーブル(22A)および前記閉扉ケーブル(22B)は、前記開扉ドラム(21A)および前記閉扉ドラム(21B)の外周から上下に一定の間隔を置いて平行に延伸させた車両スライド扉の動力スライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両スライド扉の動力スライド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車体に設けたガイドレールにスライド自在に取付けたスライド扉と、スライド扉若しくは車体に連結させた一対のワイヤーケーブルと、モータ動力によりワイヤーケーブルを開扉方向または閉扉方向に牽引しうるワイヤードラムとを備えた動力スライド装置は、公知である。
【0003】
動力スライド装置は、車体のクオータパネルの裏側(室内側)の車内空間に設置する場合と(特許文献1)、スライド扉の内部空間に設置する場合(特許文献2)とに大別される。動力スライド装置をどちらに設置するにしても、大きな課題となるのが動力スライド装置の嵩であり、特に、車体を基準とた場合の幅方向の厚さが課題となる。例えば、車体側に設置する場合では、車内空間が狭くなる。スライド扉に設置する場合は、車内空間への影響は回避できるが、昇降式ドアガラスとの干渉問題等によりスライド扉への取付作業性に難が生じ、小型で幅の薄いスライド扉の場合は、より顕著な取付作業性の問題が生じると共に、取付場所の確保もより困難となる。
【0004】
特許文献3には、ワイヤードラムを一対に分割形成し、一対のワイヤードラムに一対のワイヤーケーブルの各端部をそれぞれ連結した動力スライド装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−142410号公報
【特許文献2】特開2018−103887号公報
【特許文献3】特開2007−113205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
動力スライド装置の幅方向の厚さ問題は、モータの回転軸方向の厚さと、ワイヤーケーブルの端部が連結されるワイヤードラムの回転軸方向の厚さが主因となる。例えば、特許文献2に記載された構成では、動力スライド装置の幅方向の厚さは、その図3の内容から、モータの回転軸方向の厚さにワイヤードラムの回転軸方向の厚さを加算した厚さに等しく、このような特許文献2の装置を設置できるスライド扉は限られることになる。
【0007】
この対策として、特許文献2では、動力スライド装置を、スライド扉の下側半分の中間位置、つまり、下方の四半分位置に配置している。下方の四半分位置が、厚さに優れているからである。
【0008】
他方、車体に設けられるガイドレールは、車体の上部に受けられるアッパーレールと、車体の下部に設けられるロワーレールと、車体のクオータパネルに設けられるセンターレールの3本で構成される。センターレールには、動力スライド装置のワイヤードラムからスライド扉の外方に引き出されるワイヤーケーブルが沿うように配策される。ワイヤーケーブルをセンターレールに沿わせるのは、スライド扉を移動させる力を、スライド扉の上下の中央に作用させることで、効率よく力の伝達を行い、スライド移動を安定させるためである。このため、従来のセンターレールはクオータパネルの上下の中央に配置されいた。
【0009】
しかしながら、特許文献2では、動力スライド装置(ワイヤードラム)をスライド扉の下方位置に移動させるのに合わせて、センターレールも下方にずらしてしまっている。このため、スライド扉のスライド移動の安定性が損なわれ、スライド扉の支持強度にも偏りが生じかねない。
【0010】
また、特許文献3の構成では、ワイヤードラムを一対に分割形成しているが、これらのワイヤードラムは同一軸に軸止されており、互いに重合する構成である。従って、回転軸方向の厚さは、従前の単体式のワイヤードラムの厚さより厚くなっている(特許文献3の図5図7は展開図で、2つのワイヤードラムは図4のように同一軸に支持されている)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
よって、本発明は、車体10に対して閉扉方向と開扉方向にスライド自在に取付けられたスライド扉11と、前記スライド扉11と前記車体10との間に設けられるワイヤーケーブルと、前記ワイヤーケーブルをモータ動力で移動させることにより前記スライド扉11を前記閉扉方向及びの前記開扉方向にスライドさせる動力ユニット20とを有する動力スライド装置において:前記動力ユニット20は前記スライド扉11に配置し;前記動力ユニット20はモータ29と、一対の開扉ドラム21A及び閉扉ドラム21Bとを備え;前記ワイヤーケーブルは、前記開扉ドラム21Aに一端が連結される開扉ケーブル22Aと前記閉扉ドラム21Bに一端が連結される閉扉ケーブル22Bとを備え;前記開扉ドラム21Aの開扉ドラム軸28Aと、前記閉扉ドラム21Bの閉扉ドラム軸28Bと前記モータ29のモータ軸29Aとは、互いに軸芯の異なる平行軸とし;前記開扉ケーブル22Aは前記開扉ドラム21Aから、また、前記閉扉ケーブル22Bは前記閉扉ドラム21Bから水平に後方に延伸させて前記スライド扉11の後端から前記スライド扉11の外部に引き出した車両スライド扉の動力スライド装置との構成としたものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、動力ユニット20の幅方向の厚さを抑制できるため、スライド扉11への設置場所Xに対する制限が、ドアガラスとの干渉を生じさせることなく大幅に緩和され、その結果、開扉ケーブル22Aと閉扉ケーブル22Bとを水平に後方に延伸させることが出来る。
請求項2および請求項3に係る発明では、開扉ドラム21Aと閉扉ドラム21Bとは互いに反対回転するので、開扉ケーブル22Aと閉扉ケーブル22Bとを水平に後方に延伸させるのに適した構成となる。
請求項4および請求項5に係る発明では、開扉ケーブル22Aおよび閉扉ケーブル22Bは、上下中間位置に配設したセンターレール16と同じ高さにすることができるため、スライド扉11の安定性とスライド扉11の支持強度を良好に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による動力スライド装置を備えたスライド扉及び車体の側面図である。
図2】スライド扉の金属製インナーパネルの室内側の側面である。
図3】動力ユニットの室内側の斜視図である。
図4】動力ユニットの室外側の斜視図である。
図5】動力ユニットの内部構造の室内側の斜視図である。
図6】動力ユニットの内部構造の室外側の斜視図である。
図7】ガイド体の全体斜視図である。
図8】動力ユニットから開扉ケーブルおよび閉扉ケーブルが水平に後方に延伸する状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。図1は、車体10と、車体10にスライド自在に取付けられたスライド扉11と、スライド扉11により閉塞されうる出入口12とを示している。車体10の上部側にはアッパーレール13が固定され、下部側にはロワーレール14が固定され、車体10の上下の略中央にはセンターレール16が固定される。センターレール16は車体10のクオータパネル15の外面側に配置される。アッパーレール13、ロワーレール14及びセンターレール16は車両前後方向に伸びている。
【0015】
スライド扉11には、アッパーレール13、ロワーレール14及びセンターレール16にそれぞれスライド自在に係合するアッパーローラーブラケット17と、ロワーローラーブラケット18と、センターローラーブラケット19とが設けられる。3つのブラケット17、18、19は三角形の各頂点となるように配置され、これにより、スライド扉11は車体10にバランス良く支持されてスライド移動の安定性が確保され、また、スライド扉の支持強度も十分に確保される。
【0016】
スライド扉11の内部空間にはモータ動力を備えた動力ユニット20が設けられる。動力ユニット20には、モータ動力で回転するワイヤードラム21が設けられる。ワイヤードラム21には2本のワイヤーケーブル(図2以下参照)、即ち、スライド扉11を開扉移動させるときに巻き取られる開扉ケーブル22Aと、スライド扉11を閉扉移動させるときに巻き取られる閉扉ケーブル22Bの一端側がそれぞれ連結される。ワイヤードラム21が開扉回転すると、開扉ケーブル22Aの巻き取りと閉扉ケーブル22Bの繰り出しが行われて、スライド扉11は開扉スライドする。ワイヤードラム21が閉扉方向に回転すると、スライド扉11は閉扉スライドする。
【0017】
図2はスライド扉11の金属製のインナーパネル23の室内側を示している。インナーパネル23の上部半分には昇降式ドアガラス24(図1)用の窓開口部25が設けられ、下部半分には、複数のサービスホール26が設けられている。サービスホール26は窓開口部25に比して格段に小型である。サービスホール26は、車両ごとに若干の違いはあるが、略類似した場所に設けられている。
【0018】
本願発明の動力ユニット20は、図2において太い点線枠で示した所定の設置場所Xに設置・固定する。動力ユニット20はインナーパネル23に室内側からボルトナットなどの連結具で固定でき、かつ、開扉ケーブル22Aおよび閉扉ケーブル22Bはインナーパネル23の室外側を通って、スライド扉11の外方に引き出される。開扉ケーブル22Aおよび閉扉ケーブル22Bは水平方向で車両後方に向かって引き出される共に、センターレール16と同じ高さ関係となるように設置場所Xを設定する。換言すれば、クオータパネル15の上下の中間に設けられるセンターレール16を基準に、動力ユニット20の設置場所Xは定められる。これは、本願発明の動力ユニット20が小型でとても厚さを薄く形成できことによりもたらされる設計上の自由度である。
【0019】
図3、4には、動力ユニット20の外観が示されている。図3、4においては、動力ユニット20から伸びている一対のケーブル22A、22Bが水平方向となる。
【0020】
動力ユニット20は、全体を分割可能なハウジング27で囲われている。ハウジング27内の上部には、ワイヤードラムと減速機構とが設けられ、ハウジング27内の下部には、モータと、制御用のECUとが配置される。
【0021】
図5、6には、動力ユニット20の内部構造が示されている。内部構造における特徴はワイヤードラム21の構成である。本願のワイヤードラム21は、図6のように、別軸で軸止された一対の開扉ドラム21Aと閉扉ドラム21Bとに分割構成している。
【0022】
開扉ドラム21Aと閉扉ドラム21Bとは、互いに平行な開扉ドラム軸28Aと閉扉ドラム軸28Bとにそれぞれ軸止されている。開扉ドラム21Aと閉扉ドラム21Bとは、同じ回転平面上に配置するが、互いに重合しない距離だけ離間させる。
【0023】
開扉ドラム21Aには開扉ケーブル22Aの端部が連結され、閉扉ドラム21Bには閉扉ケーブル22Bの端部が連結される。開扉ドラム21Aと閉扉ドラム21Bとは、互いに等速で逆回転する構成とする。
【0024】
開扉ドラム軸28Aと閉扉ドラム軸28Bとは、横並びであるが、正確には、上下に多少に段差・間隔を設け、開扉ドラム21Aの外周から水平に伸びる開扉ケーブル22Aと、閉扉ドラム21Bの外周から水平に伸びる閉扉ケーブル22Bとに段差を設定する。この段差は極僅かな量であり、開扉ケーブル22Aと閉扉ケーブル22Bとが互いに干渉しない程度に間隔が保たれればよい。
【0025】
開扉ドラム21Aおよび閉扉ドラム21Bの下方にはモータ29を設ける。モータ29は、極力、開扉ドラム21Aおよび閉扉ドラム21Bと同じ回転平面に配置する。モータ29のモータ軸29Aには、モータ歯車29Bを固定する。モータ歯車29Bは好適にはヘリカルギヤである。
【0026】
モータ歯車29Bには、2段ギヤ30の大径ギヤ30Aを噛合させる。2段ギヤ30のギア軸30Bは、モータ軸29A並びに開扉ドラム軸28Aおよび閉扉ドラム軸28Bと平行とする。2段ギヤ30の小径ギヤ30Cは、開扉ドラムギヤ31Aに噛合させ、開扉ドラムギヤ31Aを閉扉ドラムギヤ31Bに噛合させる。
【0027】
開扉ドラムギヤ31Aは開扉ドラム21Aと一体的に回転させ、閉扉ドラムギヤ31Bは閉扉ドラム21Bと一体的に回転させる。モータ29の回転力を開扉ドラムギヤ31Aを介して閉扉ドラムギヤ31Bに伝達することで、開扉ドラム21Aと閉扉ドラム21Bとは等速で反対方向に回転する。
【0028】
図5、6においては、ケーブル22A、22Bを水平方向とした場合、開扉ドラム軸28Aが閉扉ドラム軸28Bより若干上方に位置していることになるが、これは例示した実施例の場合であって、閉扉ドラム軸28Bを開扉ドラム軸28Aより上方にするように、全体を設計変更することは極めて容易であり、本発明の応用例の範疇となる。
【0029】
本願では、ワイヤードラム21を別軸で軸止された一対の開扉ドラム21Aと閉扉ドラム21Bとに分割している。分割することで、従来の単体形式のワイヤードラムに比べて、ワイヤードラムの軸方向の厚さを有意に短縮することが可能になる。
【0030】
開扉ドラム軸28A、閉扉ドラム軸28B、およびモータ軸29Aは軸芯の異なる互いに平行な軸としてある。このため、開扉ドラム21Aと、閉扉ドラム21Bと、モータ29とのそれぞれの厚さの合算による厚みの増加を抑制している。
【0031】
本願のモータ29はインナーロータ型でネオジム磁石を用いた12極8相、扁平薄型のブラシレスモータを採用している。モータ29には図示省略のU相線とV相線とW相線とが120度間隔で設けられている。
【0032】
ブラシレスであるモータ29は、ブラシ省略により高寿命となり、さらに機械的効率も高くなる。ブラシレスであるモータ29は通電時の摺接がないことから摺動音が生じずに静音性に優れ、ブラシによるスパークの発生がないためEMCノイズ問題も回避できる。
【0033】
ブラシレスモータ29は、ブラシを用いないため薄型となる。インナーロータ型のモータ29はコイルを外周側に配置できるので放熱性に優れ、回転イナーシャを低減できる。ブラシレスモータは多極化が容易であり、多極化することによりコギングの低減を図れる。
【0034】
モータ29はブラシレスの特性として停止状態においても保持トルクを発生させる停止保持制御を行うことができる。停止保持制御とは、別途のクラッチなしでモータ29をブレーキとして使用するもので、このため、スライド扉11を停止状態で保持することができ、また、所定角度の傾斜地においててもスライド扉11を停止状態で保持することができる。クラッチのないモータ29は動力ユニット20の小型化、薄型化に貢献する。
【0035】
モータ29は、ステッピングモータのようなステップ制御を行うことができて制御性や回転精度に優れる。また、モータ29は正弦波駆動することも可能であり、トルク変動を低減させることができる。
【0036】
モータ29の停止保持制御は、スライド扉11のスライド移動を急制動させることもできる。モータ29ではベクトル制御により永久磁石の磁力を変化させることができ、スライド扉11の種類やその他の仕様により、高トルク低回転運転や低トルク高回転運転を行うことができる。さらに、高電圧低回転制御によりステッピングモータのような動作が得られる。低電圧高回転制御では、スライド扉11の手動開閉モードにおいて人手による開閉操作のアシストをすることができる。
【0037】
モータ29にブラシレスモータを採用することにより、上記の特徴を生かしてスライド扉11の挙動を安定化できる。制御性の向上により低電流動作が可能となりハーネス径およびヒューズ容量を低減化し、コストダウンを図ることができる。
【0038】
図7は、開扉ケーブル22Aおよび閉扉ケーブル22Bを、センターレール16に沿わせて前後方向に方向転換させるガイド体32を示している。ケーブル22A、22Bは、動力ユニット20から水平に後方に延伸し、スライド扉11の後端部から外部に引き出され、ガイド体32に導かれる。
【0039】
ガイド体32のケース35は、好適には、センターローラーブラケット19に軸止される。ケース35には、一対のガイドプーリー36A、36Bが軸止される。ガイドプーリー36A、36Bは、それぞれ独立回転可能な二重プーリーであり、例えば、開扉ケーブル22Aはガイドプーリー36Aの上段プーリーおよびガイドプーリー36Bの上段プーリーをそれぞれ経由して、センターレール16の後端部に固定され、閉扉ケーブル22Bはガイドプーリー36Aの下段プーリーおよびガイドプーリー36Bの下段プーリーをそれぞれ経由して、センターレール16の前端部に固定される。
【0040】
図8は、ケーブル22A、22Bが動力ユニット20からセンターレール16と同じ高さ位置に置いて、センターレール16と平行に水平で後方に伸びた状態を示している。37は、スライド扉11の後端部のワイヤー貫通孔を閉塞するカバーである。
【0041】
図1のスライド扉11は説明のために例示したものに過ぎず、動力ユニット20は小型車のスライド扉11への取付も容易なものである。
【0042】
以上のように、本発明による動力ユニット20は、スライド扉11の幅方向の厚みを極力抑えることに成功しているため、スライド扉11の狭い内部空間内に従来に比べて容易に取り付けることができ、また、ドアガラス24の昇降の妨げとなることも良好に回避できる。また、従来困難であった、小型車のスライド扉に対しても対応可能性が高くなる。加えて、スライド扉11内での取付場所の自由度が高くなるため、各種多数のスライド扉への取付可能性が期待できる。また、開扉ケーブル22Aおよび閉扉ケーブル22Bは、水平状態でガイド体32に導かれるので、従来のように、スライド扉の内部において、ワイヤーケーブルの延伸方向を調節する中継プーリーを省くことも可能となる。
【符号の説明】
【0043】
10…車体、11…スライド扉、12…出入口、13…アッパーレール、14…ロワーレール、15…クオータパネル、16…センターレール、17…アッパーローラーブラケット、18…ロワーローラーブラケット、19…センターローラーブラケット、20…動力ユニット、21…ワイヤードラム、21A…開扉ドラム、21B…閉扉ドラム、22A…開扉ケーブル、22B…閉扉ケーブル、23…インナーパネル、24…ドアガラス、25…窓開口部、26…サービスホール、26A…サービスホール、27…ハウジング、28A…開扉ドラム軸、28B…閉扉ドラム軸、29…モータ、29A…モータ軸、29B…モータ歯車、30…2段ギヤ、30A…大径ギヤ、30B…ギア軸、30C…小径ギヤ、31A…開扉ドラムギヤ、31B…閉扉ドラムギヤ、32…ガイド体、35…ケース、36A…ガイドプーリー、36B…ガイドプーリー、37…カバー、X…設置場所。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8