(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854329
(24)【登録日】2021年3月17日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】操作が電子装置によって制御される機械式ムーブメントを含む計時器
(51)【国際特許分類】
G04C 3/06 20060101AFI20210329BHJP
G04B 17/06 20060101ALI20210329BHJP
G04B 17/20 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
G04C3/06 B
G04B17/06
G04B17/20
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-171186(P2019-171186)
(22)【出願日】2019年9月20日
(65)【公開番号】特開2020-56784(P2020-56784A)
(43)【公開日】2020年4月9日
【審査請求日】2019年9月20日
(31)【優先権主張番号】18197529.3
(32)【優先日】2018年9月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・トンベ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ナジ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・エメリ
【審査官】
清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−228774(JP,A)
【文献】
特開2000−121756(JP,A)
【文献】
特開昭58−179379(JP,A)
【文献】
特開2015−152603(JP,A)
【文献】
国際公開第01/001204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 1/00 − 99/00
G04G 3/00 − 99/00
G04B 1/00 − 99/00
G04D 1/00 − 99/00
G04F 1/00 − 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式振動子を備える機械式ムーブメントを含む計時器であって、前記機械式振動子はテンプ(4)とヒゲゼンマイ(8:70)とによって形成され、前記機械式振動子は規定の所望する周波数F0cを有し、前記機械式ムーブメントの操作を計時するように構成され、前記計時器はまた、前記機械式振動子の中心周波数を制御可能なように構成される制御装置(52、62)と、補助タイムベース(42、44)とを含み、前記補助タイムベース(42、44)は補助電子振動子によって形成され、基準信号(SRef)を提供し、前記ヒゲゼンマイは少なくとも部分的に圧電素材と、少なくとも2つの電極(20、22;20a、22a)とによって形成され、前記機械式振動子の発振中に前記圧電素材が機械的応力を受けるとき、前記少なくとも2つの電極(20、22;20a、22a)は、その間に前記圧電素材によって誘発される電圧U(t)を有することが可能なように構成され、前記2つの電極は前記制御装置に電気的に接続され、前記制御装置は、前記圧電素材と、前記少なくとも2つの電極と、前記制御装置とによって形成される前記制御システムのインピーダンスを変動可能なように構成され、前記制御装置(62)は、前記2つの電極間に前記制御装置によって生成される電気抵抗を瞬時に変動可能なように構成され、それによって、少なくとも時には、識別可能であり、かつ、一定の期間(TP)を有する複数の制御パルスを生成し、各制御パルスは、前記識別可能な制御パルス外で前記2つの電極間に前記制御装置によって生成される公称電気抵抗に対する前記電気抵抗を順次に低減することからなり、前記制御装置は複数の前記制御パルスを各時間中に印加可能なように構成され、それによって、各複数の制御パルス中の任意の2つの連続制御パルスの開始の間に時間的距離DTが生じ、前記時間的距離DTは、前記時間に対して決定した制御周期Tregの半分を乗じた数Nに等しく、つまり、数学的関係DT=N・Treg/2が成り立ち、式中、Nは0より大きい正の整数であり、前記制御周期Tregおよび前記数Nは、前記各時間中に、前記制御周波数Freg=1/Tregにおいて前記機械式振動子の同期が可能なように選択され、前記制御装置は、前記基準タイムベースによって、前記各制御パルスの開始を決定し、前記時間的距離DTと前記制御周期Tregとの間の前記数学的関係を満たし、したがって前記制御周波数を決定するように構成されることを特徴とする、計時器。
【請求項2】
請求項1に記載の計時器であって、前記計時器はさらに、所望する周波数F0cに関連して、前記機械式振動子の機能において、時間的ずれを測定するための装置(54、CB)を含むこと、前記制御装置(62)は前記各時間以前に、前記制御周期Tregに対して、少なくとも一定の正または負の時間的ずれが前記制御装置によって検出されるかどうかに基づいて、それぞれ第1の修正周期Tcor1または第2の修正周期Tcor2を選択するように構成され、前記第1の修正周期Tcor1は所望する周期T0cより長く、前記所望する周期は前記所望する周波数の逆数と等しく、前記第2の修正周期Tcor2は前記所望する周期より短いことおよび、前記各時間には同期段階を確立するための充分な期間が備えられ、前記同期段階において、前記機械式振動子の周波数は、関連する前記時間以前に前記少なくとも1つの一定の正の時間的ドリフトが検出されるとき、第1の修正周波数Fcor1=1/Tcor1で同期され、または、関連する前記時間以前に前記少なくとも1つの一定の負の時間的ドリフトが検出されるとき、第2の修正周波数Fcor2=1/Tcor2で同期されることを特徴とする、計時器。
【請求項3】
請求項2に記載の計時器であって、前記時間的距離DTは前記各時間に対して決定した前記制御周期Tregの半分を乗じた奇数2M−1と等しく、つまり、数学的関係DT=(2M−1)・Treg/2となり、式中Mはゼロより大きい正の整数であり、前記制御周期Tregおよび前記数Mは、前記各時間中に、制御周波数Freg=1/Tregにおいて前記機械式振動子の同期が可能なように選択されることを特徴とする、計時器。
【請求項4】
請求項2に記載の計時器であって、前記少なくとも1つの一定の正または負の時間的ドリフトが検出されるとき、前記制御装置(62)は、前記時間の次の時間中に、それぞれ第1のトリガ周波数FINF=2・Fcor1/Nまたは第2のトリガ周波数FSUP=2・Fcor2/Nを有する対応する複数の前記制御パルスを周期的に印加するように構成され、前記数Nは前記各時間中定数であり、事前に決定されるかまたは関連する前記次の時間以前に決定される、計時器。
【請求項5】
請求項3に記載の計時器であって、前記少なくとも1つの一定の正または負の時間的ドリフトが検出されるとき、前記制御装置(62)は、前記時間の次の時間中に、それぞれ第1のトリガ周波数FINF=2・Fcor1/(2M−1)または第2のトリガ周波数FSUP=2・Fcor2/(2M−1)を有する前記対応する複数の前記制御パルスを周期的に印加するように構成され、前記数Mは前記各時間中定数であり、事前に決定されるかまたは関連する前記次の時間以前に決定されることを特徴とする、計時器。
【請求項6】
請求項4に記載の計時器であって、前記第1のトリガ周波数FINFが発生する前記各時間に対して、前記第1のトリガ周波数FINFは第1の限界周波数FL1(N、K)=[(K−1)/K]・2・F0c/Nよりも高く、式中K>40・Nであり、前記第2のトリガ周波数FINFが発生する前記各時間に対して、前記第2のトリガ周波数FINFは第2の限界周波数FL2(N、K)=[(K+1)K]・2・F0c/Nより低く、式中K>40・Nであることを特徴とする、計時器。
【請求項7】
請求項5に記載の計時器であって、前記第1のトリガ周波数FINFが発生する各時間に対して、前記第1のトリガ周波数FINFは第1の限界周波数FL1(M、K)=[(K−1)/K]・2・F0c/(2M−1)よりも高く、式中K>40・(2M−1)であり、前記第2のトリガ周波数FSUPが発生する各時間に対して、前記第2のトリガ周波数FSUPは第2の限界周波数FL2(M、K)=[(K+1)/K]・2・F0c/(2M−1)より低く、式中K>40・(2M−1)であることを特徴とする、計時器。
【請求項8】
請求項1に記載の計時器であって、前記時間は連続的であり、合わさって連続した時間窓を形成すること、前記制御装置(52)は、前記制御パルスを前記連続した時間窓の間に印加するように構成され、それによって、前記連続した時間窓で発生する任意の2つの連続制御パルスが、それらの開始の間に、前記時間的距離DTを有することおよび、任意の初期移行段階後に、前記連続した時間窓の間、前記所望する周波数F0cで前記機械式振動子の周波数を連続して同期するために、前記制御周期Tregは、前記所望する周波数F0cの逆数である所望する周期T0cに等しいことを特徴とする、計時器。
【請求項9】
請求項8に記載の計時器であって、前記時間的距離DTは前記所望する周期T0cの半分を乗じた奇数2M−1と等しく、つまり、数学的関係DT=(2M−1)・T0c/2となり、式中Mはゼロより大きい正の整数であり、前記数Mは前記機械式振動子が前記所望する周波数F0c=1/T0cで、任意の初期移行段階後に前記連続した時間窓の間に同期可能なように選択されることを特徴とする、計時器。
【請求項10】
請求項8に記載の計時器であって、前記制御装置(52)は、前記連続した時間窓の間に、トリガ周波数FD(N)=2・F0c/Nを有する前記制御パルスを周期的に印加するように構成され、前記数Nは、前記機械式振動子の機能として最大ずれ周波数と、前記所望する周波数との比率が(K−1)/Kと(K+1)/Kとの間になるように選択され、数N<K/40であることを特徴とする、計時器。
【請求項11】
請求項9に記載の計時器であって、前記制御装置(52)は、前記連続した時間窓の間に、トリガ周波数FD(N)=2・F0c/(2M−1)を有する前記制御パルスを周期的に印加するように構成され、前記数Mは、前記機械式振動子の機能として最大ずれ周波数と、前記所望する周波数との比率が(K−1)/Kと(K+1)/Kとの間になるように選択され、2M−1<K/40であることを特徴とする、計時器。
【請求項12】
請求項10に記載の計時器であって、前記数Nは定数であり、前記連続した時間窓に対して事前に規定されていることを特徴とする、計時器。
【請求項13】
請求項11に記載の計時器であって、前記数Mは定数であり、前記連続した時間窓に対して事前に規定されていることを特徴とする、計時器。
【請求項14】
請求項2から請求項13のいずれかに記載の計時器であって、各前記制御パルスは、前記所望する周期T0cの4分の1未満の期間(TR)を有することを特徴とする、計時器。
【請求項15】
請求項2から請求項13のいずれかに記載の計時器であって、前記制御パルスの前記期間(TR)は、前記所望する周期T0cの10分の1未満、または前記所望する周期T0cに等しいことを特徴とする、計時器。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれかに記載の計時器であって、前記制御装置(52、62)は前記圧電ヒゲゼンマイの前記2つの電極(2022)間に配置されるスイッチ(60)を含み、前記スイッチは制御回路(56、64)によって制御され、前記制御回路(56、64)は、前記スイッチの電源を入れる/前記スイッチを導電性にするために、前記制御パルス中に前記スイッチを瞬時に閉じるように構成され、前記制御パルスは次に短絡パルスを画成することを特徴とする、計時器。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれかに記載の計時器であって、前記ヒゲゼンマイ(70)は中央のシリコン本体(72)と、前記ヒゲゼンマイの温度補正のために前記中央の本体の表面に蒸着される酸化ケイ素層(74)と、前記酸化ケイ素層に蒸着される導電層(76)と、圧電層(78)の形で前記導電層(76)に蒸着される前記圧電素材とを含み、前記2つの電極(20a、20b)は前記圧電層上に、それぞれ前記ヒゲゼンマイの2つの側面に配置されることを特徴とする、計時器。
【請求項18】
請求項17に記載の計時器であって、前記圧電層の第1および第2の部分(80a、80b)は、それぞれ中央の本体(72)の2つの側面上に延在し、それぞれ結晶構造を有し、前記2つの側面に平行である正中面(84)に対して対称であることおよび、前記導電層(76)は、前記中央の本体の前記2つの側面上に延在する単一で同一の内部電極を形成し、前記内部電極はそれ自体では前記制御装置と電気接触は持たないことを特徴とする、計時器。
【請求項19】
請求項18に記載の計時器であって、前記圧電層(78)は、前記導電層(76)に垂直で、前記導電層からの結晶成長から形成される窒化アルミニウム結晶からなることを特徴とする、計時器。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれかに記載の計時器であって、前記制御装置は、電力回路(66)を含むか、または電力回路(66)と組み合わされ、前記電力回路(66)は機械式振動子が発振するとき、前記ヒゲゼンマイの2つの電極間に誘起される電圧U(t)の整流器(68)から形成され、前記制御装置に電力を提供するように構成され、それによって、前記制御装置および前記電力回路は自律ユニットを形成することおよび、前記自律ユニットは、前記、自律ユニットが固定される前記テンプによって保持されることを特徴とする、計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式振動子を備える機械式ムーブメントを含む計時器に関する。機械式振動子は、テンプと、ヒゲゼンマイと、電子制御装置によって形成される。電子制御装置は機械式振動子の周波数を制御する。機械式振動子は機械式ムーブメントの操作を制御する。
【0002】
具体的には、電子制御装置は電子型の補助振動子を含む。電子型の補助振動子は一般に、機械式振動子、具体的には水晶振動子よりも正確である。
【背景技術】
【0003】
複数の文献が計時器内の機械式振動子の電子制御に関与する。具体的には、特許文献1は、テンプ/ヒゲゼンマイと、このテンプ/ヒゲゼンマイの発振周波数を制御するための電子回路とを含む計時器に関する。ヒゲゼンマイは圧電素材から形成されるか、またはシリコンのコア上に圧電素材の2つの側部層と、ヒゲゼンマイの側面上に配置される2つの外側部電極とを含む。これらの2つの電極は電子制御回路に接続される。電子制御回路は、並列に配置され、ヒゲゼンマイの2つの電極に接続される複数の切り替え可能な静電容量を含む。
【0004】
図1から4を参照して、前述の特許文献1に開示される型の計時器を説明する。図を簡略化するために、
図1は計時器の機械式ムーブメントの機械式共振器2のみを示す。この共振器はテンプ4を備える。テンプ4は幾何学的軸6およびヒゲゼンマイ8の周りを振動する。ヒゲゼンマイ8の末端の曲線10は従来の様式で機械式ムーブメントのテンプ受け(不図示)と一体化されたスタッド12を貫通して通過する。
図2は概略的にヒゲゼンマイ8の一部を示す。このヒゲゼンマイは、中央のシリコン本体14と、具体的には窒化アルミニウム(AIN)である圧電素材の2つの側部層16、18と、2つの外部金属電極20、22によって形成される。2つの電極は、導線26、28(概略的に示す)によって電子制御回路24に接続される。
【0005】
図3(関連する従前の文献の
図1に、
図2および7からの追加情報を加えた)は、問題の計時器に組み込まれた制御装置32、特に、電子制御回路24の一般的な構成を示す。この回路24は、圧電ヒゲゼンマイの2つの電極に接続される第1のコンデンサ34と、第1のコンデンサと並列に配置される複数の切り替え可能なコンデンサ36aから36dとを含み、それによって、ヒゲゼンマイの電極に接続される静電容量値を変動させ、したがって、同文献の教示によりヒゲゼンマイの剛性を変動させるための可変静電容量C
Vを形成する。回路24はさらに比較器38を含む。比較器38の2つの入力はそれぞれ、ヒゲゼンマイ8の2つの電極に接続される。この比較器は論理信号を提供し、この論理信号の連続論理状態の変化によって、ヒゲゼンマイの2つの電極間の誘起電圧のゼロ交差を決定するように構成される。論理信号は論理回路40に提供される。論理回路40は、水晶共振器44に関連するクロック回路42からも基準信号を受信する。基準信号と、比較器38から提供される論理信号との比較に基づき、論理回路40は切り替え可能なコンデンサ36aから36dのスイッチを制御する。
【0006】
さらに、切り替え可能なコンデンサ回路の後に、ダイオード4個のブリッジから従来形成される全波整流回路46が配置され、連続使用電圧V
DCを提供し、蓄積コンデンサ48を充填する。圧電ヒゲゼンマイから提供されるこの電気エネルギは装置32に電力を提供する。したがって、このシステムは自律電気システムであり、電気エネルギが機械式共振器2に提供される機械エネルギに由来するという点で自己動力型である。機械式共振器2の圧電ヒゲゼンマイ8は、機械式共振器が発振するとき、電気機械変換器(発電機)を形成する。
【0007】
特許文献1の0052段落に記載するように、電子制御回路24は可変静電容量C
Vの値を増加することによって、機械式共振器2の発振周波数を低減することのみができる。この所見は
図4のグラフから確認される。
図4のグラフは、可変静電容量C
Vの値に関して毎日の時間の誤差を示す曲線50を表す。実際に、得られた毎日の時間の誤差は常にゼロ未満であり、可変静電容量の値が増加すると、絶対値で増加する。したがって、制御システムでは機械式振動子の固有周波数(規制がない場合の周波数)が機械式振動子の公称周波数(所望する周波数)より高いことが必要となる。つまり、固有周波数が所望する周波数より高い周波数に対応するように機械式振動子を調整することが意図される。制御回路の機能は、所望する周波数に対応するように、この固有周波数をある程度減少させることである。このように、このシステムの大きな欠点は、機械式ムーブメントの歩度が、電子調節がない場合に最適ではないことである。高精度の計時器ムーブメントでは、固有の機械式特徴を最適ではない設定で低下させることが実際に必要となる。このような電子制御システムは、標準的な品質の機械式ムーブメント、またはさらに、低品質な機械式ムーブメントにとってのみ意味を成すものと結論することができる。なぜならこれらの機械式ムーブメントの精度は電子制御システムに依存するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願第2013/0051191号
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、機械式共振器を備える計時器を提案することである。本計時器は少なくとも部分的に圧電素材から形成されるヒゲゼンマイと、圧電ヒゲゼンマイに関連する電子制御システムとを備え、前述の従来技術の計時器の欠点は有さない。本計時器は、具体的には、機械式ムーブメントに関連可能であって、その機能が最初に最適な方法で、つまり能力の最高値で設定される計時器である。したがって、本発明の目的は、電子制御システムを提供することである。電子制御システムは、圧電ヒゲゼンマイを用いることによって、別個の自律したシステムであり、機械式ムーブメントの最適な初期設定を損なうことなく、その精度を向上させるため、純粋に機械式ムーブメントを補完する。
【0010】
そのため、本発明は、制御装置を含む計時器に関する。制御装置は機械式振動子の中心周波数を制御可能なように構成され、テンプと、ヒゲゼンマイとによって形成される。制御装置は計時器の動作を計時する。本制御装置は、補助電子振動子によって形成される補助タイムベースを含み、制御プロセス用の基準周波数信号を提供する。ヒゲゼンマイは少なくとも部分的に圧電素材と、少なくとも2つの電極によって形成される。少なくとも2つの電極は、機械的応力を受ける圧電素材によって誘起される電圧をその間に有するように構成され、制御装置に電気的に接続される。制御装置は、制御システムのインピーダンスを変動可能なように構成される。制御システムは圧電素材と、少なくとも2つの電極と、制御装置とによって形成される。制御装置は、少なくとも時には、識別可能でそれぞれ一定の期間T
Pを有する制御パルスを生成するために、制御装置によって生成される少なくとも2つの電極間の電気抵抗を瞬時に変動可能なように構成される。各制御パルスは、識別可能な制御パルス外部の2つの電極間に制御装置によって生成される、公称電気抵抗に対する前述の電気抵抗を瞬時に減少することからなる。制御装置は前述の時間のそれぞれの間、複数の制御パルスを適用可能なように構成される。それによって、各複数の制御パルスの中の任意の2つの連続制御パルスは、それぞれの開始の間に時間的距離D
Tを有する。時間的距離D
Tは、各時間に対して決定した制御周期Tregの半分を乗じた数Nに等しい。つまり、数学的関係D
T=N・Treg/2が成り立つ。式中、Nは0より大きい正の整数である。制御周期Tregおよび数Nは、各時間中に、制御周波数Freg=1/Tregにおいて機械式振動子の同期が可能なように選択される。制御装置は、基準タイムベースによって、各制御パルスの開始を決定し、時間的距離と制御周期との間の前述の数学的関係を満たし、したがって制御周波数を決定するように構成される。
【0011】
有利な変形によれば、時間的距離D
Tは各時間に対して決定される制御周期Tregの半分を乗じた奇数2M−1と等しい。つまり数学的関係D
T=(2M−1)・Treg/2となり、式中Mはゼロより大きい正の整数である。制御周期Tregおよび数Mは各時間中に、制御周波数Freg=1/Tregにおいて機械式振動子の同期が可能なように選択される。
【0012】
第1の主要な実施形態では、時間は連続的であり、あわせて連続した時間窓を形成する。制御装置は制御パルスを連続した時間窓の間に印加するように構成される。それによって、連続した時間窓で発生する任意の2つの連続制御パルスは、それらの開始の間に、時間的距離D
Tを有する。時間的距離D
Tでは、任意の初期移行段階後に、連続した時間窓の間、所望する周波数F0cで機械式振動子の周波数を連続して同期するために、制御周期Tregは所望する周波数F0cの逆数である所望する周期T0cに等しい。
【0013】
具体的な変形では、制御装置は、前述の一般的な変形において、連続した時間窓の間に、トリガ周波数F
D(N)=2・F0c/Nを有する制御パルスを周期的に印加するように構成され、または同様に前述した有利な変形においてF
D(M)=2・F0c/(2M−1)を有する制御パルスを周期的に印加するように構成される。好ましい変形では、数NまたはMは定数であり、連続した時間窓に対して規定である。
【0014】
第2の主要な実施形態によれば、計時器はさらに、機械式振動子の操作において、所望する周波数F0cに対して時間的ずれを測定するための装置を含む。制御装置は各時間以前に、制御周期Tregに対して、少なくとも一定の正または負の時間的ずれが前記制御装置によって検出されるかに基づいて、それぞれ第1の修正周期Tcor1または第2の修正周期Tcor2を選択するように構成される。第1の修正周期Tcor1は所望する周期T0cより長く、所望する周波数の逆数と等しく、第2の修正周期Tcor2は前記所望する周期より短い。各時間には同期段階を確立するための充分な期間が提供される。同期段階において、機械式振動子の周波数は、関連する時間以前に、少なくとも1つの一定の正の時間的ずれが検出されるとき、第1の修正周波数Fcor1=1/Tcor1で同期され、または、関連する時間以前に、少なくとも1つの一定の負の時間的ずれが検出されるとき、第2の修正周波数Fcor2=1/Tcor2で同期される。
【0015】
好ましい変形によれば、少なくとも1つの一定の正または負の時間的ずれが検出されるとき、制御装置は、前述の時間の次の時間中に、それぞれ第1の周波数F
INFを有する対応する複数の制御パルスを周期的に印加するように構成され、前述の変形では、F
INF=2・Fcor1/NまたはF
INF=2・Fcor1/(2M−1)であり、または第2の周波数F
SUPを有する対応する複数の制御パルスを周期的に印加するように構成され、前述の変形では、F
SUP=2・Fcor2/NまたはF
SUP=2・Fcor2/(2M−1)である。具体的には、数NまたはMは各時間中定数であり、事前に決定されるか、または関連する次の時間以前に決定される。
【0016】
本発明による計時器の特徴の結果として、このように、制御パルスを通じて動作することによって、機械式ムーブメントの固有動作/操作における時間利得および時間損失を修正することが可能である。各制御パルスは限定された期間を有し、少なくとも部分的に圧電素材から形成される、ヒゲゼンマイの少なくとも2つの電極間の抵抗を変動させる。
【0017】
第1の主要な実施形態では、識別可能な制御パルスが中断なく印加される。制御パルスがトリガされる時間は、機械式振動子の周波数が所望する周波数で永久に同期されるように決定される。それによって初期段階後に時間的ずれがなく、所望する同期が得られるようになる。この第1の実施形態は、電子回路の簡潔さから非常に有利である。
【0018】
第2の主要な実施形態では、制御システムはヒゲゼンマイの2つの電極の間に誘起電圧を生成するという事実から有利である。それによって、機械式振動子の振動または周期を計測することが容易になり、そのため、計時器の操作における時間的ずれを計測することが容易になる。本事例では、制御パルスは、個別の時間でのみ、および一定の時間的ずれが検出されるときのみ、この時間的ずれが正または負かによって差別化した様式で印加され、時間的ずれを修正する。
【0019】
本発明は、非限定的な例として、添付図を参照して下記に詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】前述のように、従来技術の機械式共振器を含む計時器を示す図である。機械式共振器は、テンプと、圧電ヒゲゼンマイと、圧電ヒゲゼンマイの両電極に接続される電子制御回路とから形成される。
【
図2】
図1の圧電ヒゲゼンマイの一部の拡大図である。
【
図3】
図1の計時器制御装置の電気回路図の部分図を示す。
【
図4】圧電ヒゲゼンマイの2つの電極間に印加される可変静電容量に応じて、
図1〜3の計時器の毎日の時間の誤差を示す。
【
図5】制御パルスを様々なトリガ周波数で周期的に印加した際の機械式共振器の発振周波数の進化を示す。制御パルスのトリガ周波数は、計時器の機械式振動子の所望する周波数の2倍に等しい周波数の前後である。
【
図6】本発明による計時器の第1の主要な実施形態の変形に組み込まれた制御装置の電気回路図を示す。
【
図7】第1の主要な実施形態の好ましい変形に組み込まれた制御装置の電気回路図を示す。
【
図8】本発明による計時器の第2の主要な実施形態の変形に組み込まれた制御装置の電気回路図を示す。
【
図9】機械式共振器の角度位置に応じた圧電ヒゲゼンマイの2つの電極間の誘起電圧と、機械式共振器の発振周期を比較するために、ヒステリシス比較器から提供された信号のグラフを示す。
【
図10】本発明による計時器の機械式共振を形成する圧電ヒゲゼンマイの好ましい実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による計時器は、前述の従来技術の計時器と同様に、機械式振動子を含む機械式計時器ムーブメントを備える。機械式振動子は、テンプと、たとえば
図1および2に示す圧電ヒゲゼンマイとによって形成され、計時器ムーブメントの動作を計時するように構成される。本機械式振動子は、規定の所望する周波数F0cを有する。ヒゲゼンマイは少なくとも部分的に圧電素材から形成され、少なくとも2つの電極20、22を含む。機械式振動子の発振中に圧電素材が機械的応力を受けているとき、2つの電極20、22は、その間に圧電素材による電圧誘導を有することができるように構成される。計時器はまた制御装置を含む。制御装置は、機械式振動子の中心周波数を制御可能なように構成され、補助タイムベースを有し、補助電子振動子によって形成され、基準周波数信号を含む。ヒゲゼンマイの2つの電極は制御装置に電気的に接続される。制御装置は、制御システムのインピーダンスを変動可能なように構成される。制御システムは圧電素材と、2つの電極と、制御装置によって形成される。
【0022】
本発明によれば、制御装置は、制御装置によって生成されるヒゲゼンマイの2つの電極間の電気抵抗を瞬時に変動し、少なくとも時には、識別可能であり、それぞれ一定期間のT
Pを有する制御パルスを生成することを目的とするように構成される。各制御パルスは、制御パルス外部の2つの電極間に制御装置によって生成される、制御システムの電気抵抗、つまり公称電気抵抗に対する前述の電気抵抗を瞬時に減少することからなる。一般に、制御装置は少なくとも時には、前述の時間のそれぞれの間、複数の制御パルスを適用可能なように構成される。それによって、複数の制御パルスの中の任意の2つの連続制御パルスは、それぞれの開始の間に時間的距離D
Tを有する。時間的距離D
Tは、各時間に対して決定した制御周期Tregの半分を乗じた数Nに等しい。つまり、数学的関係D
T=N・Treg/2が成り立つ。式中、Nは0より大きい正の整数である。以下で詳細に説明するように、制御周期Tregおよび数Nは、各時間中に、制御周波数Freg=1/Tregにおいて機械式振動子の同期が可能なように選択される。制御装置は、基準タイムベースによって、各制御パルスの開始を決定し、時間的距離D
Tと制御周期Tregとの間の前述の数学的関係を満たし、したがって制御周波数を決定するように構成される。
【0023】
有利な変形では、時間的距離D
Tは各時間に対して決定される制御周期Tregの半分を乗じた奇数2M−1と等しい。つまり、数学的関係D
T=(2M−1)・Treg/2となり、式中Mはゼロより大きい正の整数である。この変形は、前述の一般的な変形の中から、前述の数Nに対して可能な数のうち、奇数を選択する。これは、本発明者の所見によると、奇数を選択することで、数Nに偶数を用いる場合と比較して大きな制御効率が得られるため有利である。
【0024】
好ましくは、複数の制御パルスが発生するたびに、制御装置は、トリガ周波数F
D(N)=2・Freg/Nを有する制御パルスを一般的な変形に適用し、F
D(M)=2・Freg/(2M−1)を前述の有利な変形に適用するように構成される。
【0025】
本発明に至る発展の観点から、本発明者らは、テンプと圧電ヒゲゼンマイによって形成される機械式振動子に関する非常に顕著な物理的現象を解明した。本物理的現象によって、本発明によれば、機械式ムーブメントに組み込まれた機械式振動子の中心周波数を、前述の電子制御装置によって調節することができる。次に、本発明者らは本物理的現象に基づいて2種類の制御を画成し、これらの制御はそれぞれ、以下で詳細に説明する2つの主要な実施形態に組み込まれる。本物理的現象を説明するために、
図5は、短い短絡パルスが周期的に印加される、前述した型の圧電ヒゲゼンマイを備える機械式振動子の挙動を示す。短絡パルスは、たとえば所望する周期T0cの10分の1未満である(図示した事例では、短絡パルスの周期は10msであり、つまり所望する周期T0c=200msの20分の1である)。機械式振動子と、機械式振動子を組み込んだ機械式ムーブメントは当然ながら、実質的に所望する周波数F0cで機能するように設計される。周波数F0cは本質的に、所望する周期の逆数に等しい。
【0026】
図5に示す例では、機械式振動子の固有周波数F0は、まさに所望する周波数F0c=5Hzと等しい。本発明による制御パルスを形成する短絡パルスは、本事例ではトリガ周波数F
Dと共に印加される。トリガ周波数F
Dが固有周波数の2倍、つまり、所望する周波数の2倍にまさに等しい特定の事例だけではなく、トリガ周波数F
Dは所望する周波数の2倍に近いが、2倍とは異なり、つまり、F
D≒2・F0cとなることもある。複数の周期的短絡パルスが印加される時間において、様々な曲線は、様々なトリガ周波数の機械式振動子の周波数の時間発展を示す(前述のトリガ周波数F
D(N)またはF
D(M)の式においてN=M=1)。
−曲線C
F0は短絡パルストリガ周波数F
D0=10.00Hzに対応し、発振周波数は所望する周波数F
S0=F0c=5.00Hzで安定することが観測される。
−曲線C
F1およびC
F2はF
D0より高い短絡パルストリガ周波数、つまり、それぞれF
D1=10.03HzおよびF
D2=10.08Hzに対応する。発振周波数は、各短絡パルス印加時間の開始時に発生する移行段階後に、それぞれ同期周波数F
S1=5.015HzおよびF
S2=5.04Hzで同期されることが観測される。
−曲線C
F3、C
F4およびC
F5は、F
D0より低い短絡パルストリガ周波数、つまり、それぞれF
D3=9.96Hz、F
D4=9.94HzおよびF
D5=9.88Hzに対応する。発振周波数は、各短絡パルス印加時間の開始時に発生する移行段階後に、それぞれ同期周波数F
S3=4.98HzおよびF
S5=4.94Hzで同期されることが観測される。
【0027】
注目すべきことに、同一の同期周波数が、それぞれ前述のトリガ周波数F
DXに等しい短絡パルストリガ周波数で得られている。トリガ周波数F
DXは、X=1から5であり、奇数2M−1によって除され、Mは0より大きい正の整数である。同期周波数と機械式振動子の固有周波数/所望する周波数との比率の範囲は、(K−1)/Kと(K+1)/Kとの間であり、K>40・(2M−1)である。同様の結果が偶数2Mでの除算と、KとMとの間の同様の条件によって得られたが、推測的に、短絡パルスの効果が少ないため、偶数の場合には同期は奇数の場合ほど効率的に確立されないように思われる。
【0028】
これまでの観察および考察から、本発明者らは、固有周波数に近いが、同一ではない周波数でこのヒゲゼンマイの2つの電極間に周期的に短絡パルスを印加することによって、前述の圧電ヒゲゼンマイを有する機械式振動子を同期することが可能であると結論付ける。
【0029】
このように、固有周波数が所望する周波数から通常の様式で逸脱する場合、つまり毎日1秒から約15秒ずれる場合、完全な開ループ制御によって、適切に選択されるトリガ周波数と共に識別可能な制御パルスを継続して印加することで、機械式振動子の周波数を所望する周波数で同期することは容易である。この印加は第1の主要な実施形態の主題である。ヒゲゼンマイ電極間で誘起される電圧を用いることによって、機械式共振器が発振するとき、発振周期を数え、時間的ずれを決定することは容易であり、具体的には、一定の正または負の時間的ずれが達成されるときを検出することは容易である。次に、一定の修正時間中に、複数の識別可能な制御パルスを、前述のように適切に選択されるトリガ周波数と共に印加して、機械式振動子の発振を同期することができる。機械式振動子の発振は、所望する周波数とは異なる修正周波数ではあるが、同期可能なように、したがって、時間的ずれを修正するように、十分に所望する周波数に近い周波数である。この印加は、半開または半閉ループと考えることができ、第2の主要な実施形態の主題である。
【0030】
図6は第1の主要な実施形態の第1の変形の電気回路図を示す。制御装置52全体を形成する電子回路は非常に簡潔である。水晶共振器44はクロック回路42によって励起される。クロック回路42は基準信号S
Refを供給する。基準信号S
Refは水晶周波数F
Qで提供され、好ましくは32.768Hzで設定された周波数か、または周波数F
Qの分数、たとえばF
Q/4および好ましくは当業者には既知の抑制回路によって設定された周波数の分数で供給される。基準信号S
Refは周波数分割器64に提供され、周波数分割器64は制御信号S
comをタイマ58に出力する。制御信号に応じて、タイマ58は短絡信号S
CCを制御信号を課された周波数でスイッチ60に提供する。スイッチ60は圧電ヒゲゼンマイ8の2つの電極20、22の間(
図6に概略的に示す)に配置される。このプロセスは、制御装置が作動している限り、つまり制御装置に電力が供給される限り継続する連続した時間窓内で中断なしに行われる。
【0031】
圧電ヒゲゼンマイ8は、少なくとも部分的に圧電素材によって形成され、少なくとも2つの電極20、22(
図2および10参照)によって形成される。機械式振動子の発振中に圧電素材が機械的応力を受けるとき、少なくとも2つの電極20、22は、その間に圧電素材によって誘起される電圧U(t)を有することが可能なように構成される(
図9参照)。
【0032】
制御信号S
comは基準信号であり、一般的な変形において、トリガ周波数F
D(N)=2・F0c/Nを有する。式中、数Nは0より大きい整数であり、機械式振動子の機能として最大ずれ周波数と、所望する周波数F0cとの間の比率は、(K−1)/Kと(K+1)/Kとの間となるように選択される。この数NはK/40より小さく、つまりN<K/40である。有利な変形では、制御信号S
comは周波数信号であり、トリガ周波数F
D(M)=2・F0c/(2M−1)を有する。数Mはゼロより大きい整数であり、機械式振動子の機能として最大ずれ周波数と、所望する周波数との間の比率は、(K−1)/Kおよび(K+1)/Kとの間となるように選択される。2M−1はK/40より小さく、つまり2M−1<K/40である。好ましくは、数NおよびMは定数であり、連続した時間窓に対して規定である。連続した時間窓の間に、制御パルスを画成する短絡パルスが印加される。
【0033】
制御信号の各パルスで、タイマ58は時間間隔T
Rの間、スイッチ60を閉鎖する(スイッチはオンになり、したがって導電性である)。それによって、各短絡パルスは期間T
Rを有する。期間T
Rは好ましくは、所望する周期T0cの4分の1未満である。有利な変形では、制御パルスの期間は、所望する周期T0cの10分の1未満か、または実質的に等しい。このように、前述の時間窓の間に、制御装置の作動中の任意の移行段階後に、所望する周波数F0cでの機械式振動子の周波数の連続同期が得られる。
【0034】
図7は、制御装置の電子回路図を示す。制御装置は前述したものと同一であり、電力回路66と組み合わされる。電力回路66は、機械式振動子が発振するとき、ヒゲゼンマイ8の2つの電極20、22間に誘起される電圧U(t)の整流器68から形成され、制御装置62に電力を提供するように構成される。整流された電圧は蓄積コンデンサC
ALに蓄積され、それによって、制御装置および電力回路は自律ユニットを形成する。有利な変形では、この自律ユニットは、自律ユニットが固定されるテンプ4によって保持される(
図1参照)。
【0035】
図8は、第2の主要な実施形態の有利な変形の電子回路図を示す。計時器は、電子制御回路62aと、補助タイムベースによって形成される制御装置62を含む。補助タイムベースは補助振動子を含み、基準信号S
Refを電子制御回路に提供する。このタイムベースは、たとえば、水晶共振器44と、クロック回路42とを含む。クロック回路42は、第1の主要な実施形態に関して記載した基準信号S
Refを、少なくとも2つのステージDIV1とDIV2とを有する分割器に供給する。この分割器は回路62aに含有される。圧電ヒゲゼンマイ8は第1の主要な実施形態で記載したものと類似し、2つの電極20、22は電子制御回路62aに電気的に接続される。
【0036】
電子制御回路は、計時器ムーブメントの動作/操作において、機械式振動子の所望する周波数と比較して任意の時間的ずれを測定するための装置を含む。所望する周波数は補助タイムベース42、44によって決定される。測定装置はヒステリシス比較器54によって形成される。ヒステリシス比較器54の2つの入力は圧電ヒゲゼンマイ8の2つの電極20、22に接続される。図示される実施例において、電極20は比較器54の入力に、制御装置の塊を介して電気的に接続されることに留意されたい。ヒステリシス比較器は、デジタル信号「Comp」を提供する(
図9参照)。デジタル信号「Comp」の論理状態は、機械式振動子が中立位置(ゼロに等しい角度位置θ(t))を通過するたびに、その直後に変化し、したがって本機械式振動子を形成する機械式共振器の各ゼロ交差後に変化する。圧電ヒゲゼンマイによって生成される誘起電圧U(t)は、機械式共振器が中立位置(角度位置「ゼロ」)を通過する間はゼロである。一方、2つの電極間に加えられる一定の負荷に対して、
図9に示すように、機械式共振器が(中立位置の両側のそれぞれにおいて機械式振動子の振幅を画成する)2つの両極端な位置のいずれかにあるとき、誘起電圧U(t)は最大になる。
【0037】
信号「Comp」は、測定装置を形成する双方向カウンタCBの第1の入力「Up」に提供される。双方向カウンタは、したがって、機械式振動子の発振周期ごとに(具体的には信号の各立ち上がりエッジで)一単位ずつ増加する。したがって、双方向カウンタは機械式振動子の発振周波数の瞬時測定を連続して受信する。双方向カウンタは第2の入力「Down」で、周波数分割器DIV1&DIV2によって提供されるクロック信号S
horを受信する。このクロック信号は、機械式振動子の所望する周波数F0cに対応する。所望する周波数F0cは補助タイムベースの補助振動子で決定される。このように、双方向カウンタは制御論理回路56aに、機械式振動子の発振周波数と所望する周波数との間の経時累積誤差に対応する信号S
DTによって形成される前記制御システムを提供する。この累積誤差は、補助振動子に対する機械式振動子の時間的ずれを画成する。
【0038】
次に、制御装置62はスイッチ60を含む。スイッチ60は、トランジスタによって形成され、ヒゲゼンマイ8の2つの電極20、22間に配置される。このスイッチは制御論理回路56によって制御される。制御論理回路56は、タイマ58によって瞬時にスイッチを閉鎖可能なように構成される。それによってスイッチは制御パルスの間にオンになり/導電性を有する。制御パルスは次に、短絡パルスを画成する。制御回路は選択的に制御信号S
comをタイマ58に提供する。タイマ58は、この制御信号に応答して、信号S
CCを印加することによって瞬時にトランジスタ60を閉鎖する。より具体的には、制御回路は、タイマを開始または再設定することによって(「タイマ」)各短絡パルスの開始時間を決定する。それによって、各短絡パルスの期間T
Rを決定するタイマを用いて、直ちにトランジスタ60の電源を入れるか/導電性にする(スイッチ閉鎖)。各短絡パルスの終わりには、タイマはスイッチを再度解放し、トランジスタ60は電源が切られ、つまり再度非導電性になる。一般的な変形では、各制御パルスは所望する周期T0cの4分の1未満の期間を有する。所望する周期T0cは機械式振動子の所望する周波数の逆数に等しい。好ましい変形では、制御パルスの期間は所望する周期の10分の1未満か、実質的に等しい。
【0039】
電子回路62aはさらに、前述した制御装置用の電力回路66を含む。
【0040】
制御装置62によって実施され、制御論理回路56に実装される第2の主要な実施形態による制御方法を以下で説明する。制御論理回路は、測定装置によって測定される時間的ずれが少なくとも一定の利得(CB>N1)または少なくとも一定の損失(CB<−N2)のいずれかに対応するかを決定可能なように構成される。N1およびN2は正の整数である。制御装置、具体的にはその制御論理回路は、提供された各識別可能な修正時間以前に、前述のように画成された制御周期Tregに対して、少なくとも一定の正または負の時間的ずれが検出されるかに基づいて、それぞれ所望する周期T0cより長い第1の修正周期Tcor1、または所望する周期より短い第2の修正周期Tcor2を選択するように構成される。各修正時間には機械式振動子の周波数が同期される同期段階を確立するための充分な期間が提供される。同期段階において、検出された時間的ずれを修正するために、機械式振動子の周波数は、関連する時間以前に、少なくとも1つの一定の正の時間的ずれが検出されるとき、第1の修正周波数Fcor1=1/Tcor1で同期され、または、関連する時間以前に少なくとも1つの一定の負の時間的ずれが検出されるとき、第2の修正周波数Fcor2=1/Tcor2で同期される。
【0041】
有利な変形では、制御論理回路56は、各識別可能な修正時間における2つの短絡パルス間の時間的距離D
Tが、各時間に対して決定される制御周期Tregの半分を乗じた奇数2M−1に等しくなるように構成される。つまり、数学的関係D
T=(2M−1)・Treg/2となり、式中Mはゼロより大きい正の整数である。制御周期Tregおよび数Mは、各修正時間中に、制御周波数Freg=1/Tregにおいて機械式振動子の同期が可能なように選択される。
【0042】
特定の変形では、少なくとも1つの一定の正または負の時間的ずれが制御論理回路56によって検出されるとき、制御装置62は、次の修正時間中に、それぞれ第1のトリガ周波数F
INF=2・Fcor1/Nまたは第2のトリガ周波数F
SUP=2・Fcor2/Nを有する対応する複数の制御パルスを周期的に印加するように構成される。数Nは好ましくは各修正時間中定数であり、事前に決定されるかまたは関連する次の修正時間以前に決定される。
【0043】
各修正時間中に所望する同期が確実に得られるように、有利には、第1のトリガ周波数F
INFが発生する各修正時間に対して、第1のトリガ周波数F
INFは第1の限界周波数F
L1(N、K)=[(K−1)/K]・2・F0c/Nよりも高く、式中K>40・Nであり、第2のトリガ周波数が発生する各修正時間に対して、第2のトリガ周波数は第2の限界周波数F
L2(N、K)=[(K+1)/K]・2・F0c/Nより低く、式中K>40・Nである。
【0044】
特定の変形では、初期移行段階を最善に減少させるために、整数Nは各修正時間の初期段階の方が最終段階よりも低い。
【0045】
好ましい変形では、少なくとも1つの一定の正または負の時間的ずれが制御論理回路56によって検出されるとき、制御装置62は、次の修正時間中に、それぞれ第1のトリガ周波数F
INF=2・Fcor1/(2M−1)または第2のトリガ周波数F
SUP=2・Fcor2/(2M−1)を有する対応する複数の制御パルスを周期的に印加するように構成される。具体的には、数Mは各修正時間中定数であり、事前に決定されるかまたは関連する次の修正時間以前に決定される。
【0046】
各修正時間中に所望する同期が確実に得られるように、有利には、第1のトリガ周波数F
INFが発生する各修正時間に対して、第1のトリガ周波数F
INFは第1の限界周波数F
L1(M、K)=[(K−1)/K]・2・F0c/(2M−1)よりも高く、式中K>40・(2M−1)であり、第2のトリガ周波数が発生する各修正時間に対して、第2のトリガ周波数F
SUPは第2の限界周波数F
L2(M、K)=[(K+1)/K]・2・F0c/(2M−1)より低く、式中K>40・(2M−1)である。
【0047】
特定の変形では、各修正時間の初期移行段階を最善に減少させるために、第1の制御パルスの開始は、関連する修正時間に提供される複数の制御パルスの中から、機械式振動子の角度位置に対して決定される。そのために、信号「Comp」は制御論理回路56にも提供される。この特定の変形では、第1の制御パルスは信号「Comp」の立ち上がりエッジまたは立ち下りエッジによってトリガされる。
【0048】
図10を参照して、本発明による計時器の圧電ヒゲゼンマイ70の好ましい実施形態を説明する。本ヒゲゼンマイ70は断面図で示され、中央のシリコン本体72と、ヒゲゼンマイの温度補正のために中央の本体の表面に蒸着される酸化ケイ素層74と、酸化ケイ素層に蒸着される導電層76と、圧電層78の形で導電層76に蒸着される圧電素材とを含む。2つの電極20aおよび22aは圧電層78上に、それぞれヒゲゼンマイの2つの側面に配置される(2つの電極は部分的にヒゲゼンマイの上面または下面を覆ってもよいが、結合しない)。
【0049】
図10に示す具体的な変形では、圧電層の第1の部分80aと第2の部分80bは、それぞれ中央の本体72の2つの側面上に延在し、導電層76からの成長を通じてそれぞれ結晶構造を有する。結晶構造は、これらの2つの側面に平行である正中面84に対して対称である。このように、2つの側部部分80aおよび80bにおいて、圧電層は、圧電層に垂直であり、対向する方向にある2つの同一の各圧電軸82a、82bを有する。したがって同一の機械的応力に対する内部電極と、2つの外部の各側部電極との間の誘起電圧の符号の逆転がある。したがって、ヒゲゼンマイが休止位置から収縮または拡大するとき、第1の部分80aおよび第2の部分と80bとの間に機械的応力の逆転がある。つまり、これらの部分のうち1つは圧縮を受けるが、他方はけん引を受ける。また逆も同様である。最後に、これらの考察の結果として、第1および第2の部分の誘起電圧は、2つの側面に垂直な軸上で同一の極性を有する。それによって、導電層76は、中央の本体72の2つの側面から延在する単一で同一の内部電極を形成することができる。この内部電極はそれ自体では制御装置と電気接触はしない。具体的な変形では、圧電層は、導電層76(内部電極)からの結晶成長によって形成され、導電層76に垂直な窒化アルミニウム結晶からなる。
【符号の説明】
【0050】
2 :機械式共振器
4 :テンプ
6 :幾何学的軸
8 :ヒゲゼンマイ
12 :スタッド
14 :シリコン本体
16 :側部層
20 :電極
24 :電子制御回路
26 :導線
32 :制御装置
34 :第1のコンデンサ
38 :比較器
40 :論理回路
42 :クロック回路
44 :水晶共振器
46 :全波整流回路
48 :蓄積コンデンサ
52 :制御装置
54 :比較器
56 :制御論理回路
58 :タイマ
60 :トランジスタ
60 :スイッチ
62 :制御装置
62a :電子制御回路
64 :周波数分割器
66 :電力回路
68 :整流器
70 :ヒゲゼンマイ
72 :シリコン本体
74 :酸化ケイ素層
76 :導電層
78 :圧電層
80a :第2の部分
80a :第1の部分
80b :第2の部分
82a :圧電軸
82b :圧電軸
84 :正中面
C
AL :蓄積コンデンサ
CB :双方向カウンタ
C
V :可変静電容量
D
T :時間的距離
F0 :固有周波数
F0c :周波数
F
D :トリガ周波数
F
L1 :第1の限界周波数
F
L2 :第2の限界周波数
F
Q :水晶周波数
F
S0 :周波数
F
S1 :同期周波数
F
S3 :同期周波数
F
SUP :第2のトリガ周波数
Fcor1 :第1の修正周波数
Fcor2 :第2の修正周波数
Freg :制御周波数
N :整数
S
Ref :基準信号
S
CC :短絡信号
S
com :制御信号
S
hor :クロック信号
Tcor1 :第1の修正周期
Tcor2 :第2の修正周期
Treg :制御周期
U :誘起電圧
θ :角度位置