【文献】
SEIテクニカルレビュー,2014年,第185号,pp. 105-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
浸炭が可能な金属を主成分とする複数の基材を開裂及び離間することにより、開裂した基材間にそれぞれカーボンナノファイバーを成長させるカーボン構造体の製造方法であって、
開裂した基材の少なくとも一方を離間方向を中心として回転させ、
上記開裂した基材間の相対位置の軌跡が螺旋を描くよう上記離間方向を変化させるカーボン構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るカーボン構造体は、複数のカーボンナノファイバーが撚り合された繊維束を有し、上記繊維束が螺旋状に形成されているカーボン構造体である。
【0012】
当該カーボン構造体は、複数のカーボンナノファイバーを撚り合わせた繊維束を螺旋状にしたものであるため、線径(繊維束の太さ)並びに螺旋の径及びピッチが比較的自由に選択できる。
【0013】
上記繊維束の螺旋の平均径が0.1mm以上であることが好ましい。この構成によって、当該カーボン構造体を例えば機械的ばね等として利用することが可能となる。
【0014】
上記複数のカーボンナノファイバーが螺旋状の繊維束内で残留応力を有しないことが好ましい。この構成によって、当該カーボン構造体の形状安定性が向上する。
【0015】
上記カーボンナノファイバーがチューブ状のグラフェン層を有し、このグラフェン層が、上記カーボンナノファイバーの曲がり方向内側に五員環を含み、上記カーボンナノファイバーの曲がり方向外側に七員環を含むことが好ましい。この構成によっても、当該カーボン構造体の形状安定性が向上する。
【0016】
本発明の別の態様に係るカーボン構造体の製造方法は、浸炭が可能な金属を主成分とする複数の基材を開裂及び離間することにより、開裂した基材間にそれぞれカーボンナノファイバーを成長させるカーボン構造体の製造方法であって、開裂した基材の少なくとも一方を離間方向を中心として回転させるカーボン構造体の製造方法である。
【0017】
当該カーボン構造体の製造方法は、開裂した基材間にそれぞれカーボンナノファイバーを成長させる際、開裂した基材の少なくとも一方を離間方向を中心として回転させるので、複数のカーボンナノファイバーが撚り合わされた状態で成長する。このため、当該カーボン構造体の製造方法は、複数のカーボンナノファイバーが撚り合わされた繊維束を形成することができる。また、当該カーボン構造体の製造方法は、開裂した基材の離間方向を変化させることにより形成されるカーボン構造体の形状を自由に変化させられる。
【0018】
上記開裂した基材間の相対位置の軌跡が螺旋を描くよう上記離間方向を変化させることが好ましい。この構成によって、弦巻ばね状のカーボン構造体を形成することができる。
【0019】
ここで、「螺旋の平均径」とは、螺旋状のカーボン構造体の平均外径を意味するものとする。
【0020】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0021】
<カーボン構造体>
図1に、本発明の一実施形態に係るカーボン構造体を示す。当該カーボン構造体は、複数のカーボンナノファイバー1が撚り合された繊維束2を有する。当該カーボン構造体において、上記繊維束2は、螺旋状に形成されている。
【0022】
カーボンナノファイバー1は、1又は複数のチューブ状のグラフェン層を有する。このグラフェン層は、扁平なチューブ状であってもよい。また、このグラフェン層は、カーボンナノファイバー1の曲がり方向内側(複数のカーボンナノファイバー1の撚りによる曲がり及び繊維束2全体の曲がりによる各カーボンナノファイバー1の曲がりを含む)に格子欠陥としての五員環を含み、カーボンナノファイバー1の曲がり方向外側に格子欠陥としての七員環を含むことが好ましい。これにより、カーボンナノファイバー1は、自然と曲がりを有する形状となり、複数のカーボンナノファイバー1を所望のピッチで撚り合わせた繊維束2を形成することができる。
【0023】
これらのカーボンナノファイバー1は、当該カーボン構造体において、螺旋状の繊維束2内で残留応力を有しないことが好ましい。これによって、当該カーボン構造体の形状安定性が向上し、当該カーボン構造体が機械的なばねとしてリニアな特性を有するものとなる。
【0024】
繊維束2の螺旋の平均径の下限としては、0.1mmが好ましく、1.0mmがより好ましい。繊維束2の螺旋の平均径が上記下限に満たない場合、当該カーボン構造体の製造が容易でなくなるおそれがある。
【0025】
(利点)
当該カーボン構造体は、複数のカーボンナノファイバー1を撚り合わせた繊維束2を螺旋状にしたものであるため、線径(繊維束2の太さ)並びに螺旋の径及びピッチが比較的自由に選択できる。このため、当該カーボン構造体は、機械的ばねとして様々な用途に使用することができる。特に、当該カーボン構造体は、熱に強いため、高温環境下で使用するばねとして好適に利用できる。また、当該カーボン構造体は、化学的に安定で磁性を有しないため、強酸等の薬品中や強磁場中でも使用することができる。
【0026】
<カーボン構造体の製造方法>
図1のカーボン構造体は、本発明の別の実施形態に係るカーボン構造体の製造方法によって製造することができる。
【0027】
当該カーボン構造体の製造方法は、浸炭が可能な金属を主成分とする複数の基材を開裂及び離間することにより、開裂した基材間にそれぞれカーボンナノファイバー1を成長させる。また、当該カーボン構造体の製造方法は、開裂した基材の少なくとも一方を離間方向を中心として回転させる。
【0028】
また、当該カーボン構造体の製造方法において、
図1のように弦巻ばね状のカーボン構造体を形成する場合、上記開裂した基材間の相対位置の軌跡が螺旋を描くよう上記基材の離間方向を変化させる。つまり、当該カーボン構造体の製造方法は、複数のカーボンナノファイバーを撚り合わせた繊維束を製造するものであって、繊維束の形状は
図1のような螺旋状のものに限定されない。
【0029】
(カーボン構造体製造装置)
当該カーボン構造体の製造方法は、
図2に示すカーボン構造体製造装置を用いて行うことができる。
【0030】
図2のカーボン構造体製造装置は、浸炭が可能な金属を主成分とする複数の基材Aを開裂及び離間することにより、開裂した基材A間にそれぞれカーボンナノファイバー1を成長させる装置である。
【0031】
このカーボン構造体製造装置は、密閉容器である反応室11と、反応室11の内部に配置されたヒーター12と、複数の基材Aを有する保持体(第一保持体B1及び第二保持体B2)の両端部を把持する一対の把持ブロック(第一把持ブロック13a及び第二把持ブロック13b)と、第二把持ブロック13bを回転可能に支持する回転部14と、回転部14を三次元的に移動させる駆動部15と、反応室11に炭素含有ガスなどを供給するためのガス供給部16と、反応室11からガスを排気するための排気部17とを備える。
【0032】
(基材)
基材Aの材質としては、炭素と固溶体を形成する金属が好ましいが、それ以外でも表面から浸炭可能な金属であればよい。炭素と固溶体を形成する金属として、鉄、ニッケル及びコバルトが好ましく、コストの面から鉄が好ましい。さらに、鉄の中でも純度が4N以上の純鉄が好ましい。なお、基材Aは、本発明の効果を損なわない範囲で上記金属以外の添加物等を含んでもよい。
【0033】
基材Aの形状は、せん断可能なものであれば特に限定されないが、針状乃至線状が好ましい。また、基材Aの平均径としては、例えば10nm以上500μm以下とすることができる。なお、基材Aの「平均径」は、基材Aの断面の円相当径を意味するものとする。
【0034】
カーボン構造体の成長個所である開裂場所を制御する観点から、基材Aは酸化されていないことが好ましい。基材Aが酸化されていると、基材Aが脆くなり意図しない位置で分断が発生するおそれがある。具体的には、基材Aは、酸化されていない同体積の基材に対して、酸化による体積増加率が15%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、0%であることがさらに好ましい。
【0035】
(保持体)
このような基材Aを有する保持体(第一保持体B1及び第二保持体B2)としては、例えばナノポーラスアルミニウム等の他の細孔にめっきにより基材Aを充填したものや、基材Aの材料から形成される複数の線材間に他の金属を充填した材料を延伸加工して得られる複数の基材Aに第一把持ブロック13a及び第二把持ブロック13bで保持可能な金属片を通電溶接したものなどを用いることができる。
【0036】
(反応室)
反応室11としては、気密性及び断熱性を有するチャンバーを用いることができる。
【0037】
(ヒーター)
ヒーター12としては、反応室内を加熱できるものであればよく、例えば電熱ヒーター等の任意の加熱装置を用いることができる。
【0038】
反応室11内の少なくとも基材Aの開裂面近傍における温度としては、800℃以上1200℃以下とすることが好ましい。
【0039】
(把持ブロック)
第一把持ブロック13a及び第二把持ブロック13bとしては、第一保持体B1及び第二保持体B2を把持することができるものであればよく、例えばチャック、クランプ等公知の機構を有するものを用いることができる。
【0040】
(回転部)
回転部14は、第二把持ブロック13bを回転する。この回転部14の回転方向としては、基材Aの開裂直後において第二保持体B2を開裂方向の軸を中心に回転する方向とされる。これにより、複数のカーボンナノファイバー1を残留応力なく撚り合わされた状態に成長させることができる。
【0041】
回転部14の回転速度としては、例えば0.01rpm以上10rpm以下とすることができる。
【0042】
(駆動部)
駆動部15は、第二保持体B2を第一開裂部材B1から離間する。この第二保持体B2の第一開裂部材B1に対する離間方向を徐々に変化させることによって、螺旋状等の曲がりを有する形状の繊維束2を形成することができる。
【0043】
この駆動部15としては、専用の駆動機構を用いてもよく、多関節ロボット等を用いてもよい。
【0044】
駆動部15による第二保持体B2の移動速度の下限としては、0.5μm/sが好ましく、1μm/sがより好ましい。一方、駆動部15による第二保持体B2の移動速度の上限としては、100μm/sが好ましく、10μm/sがより好ましい。駆動部15による第二保持体B2の移動速度が上記下限に満たない場合、カーボン構造体の製造効率が低下して製造コストが増大するおそれがある。逆に、駆動部15による第二保持体B2の移動速度が上記上限を超える場合、カーボンナノファイバー1の成長が追いつかず、カーボン構造体を形成できないおそれがある。
【0045】
(ガス供給部)
ガス供給部16は、反応室11内に炭素含有ガスを供給する。この炭素含有ガスとしては、炭化水素ガス等の還元性を有するガスが用いられ、例えばアセチレンと窒素又はアルゴンとの混合ガスあるいはメタンを用いることができる。
【0046】
アセチレンを含むガスを用いる場合、カーボン構造体の表面にアモルファスカーボンの付着を防止するため、アセチレン濃度は低い方が好ましい。上記混合ガス中のアセチレン濃度の下限としては、0.1体積%が好ましく、1体積%がより好ましい。一方、アセチレン濃度の上限としては、20体積%が好ましく、5体積%がより好ましい。アセチレン濃度が上記下限に満たない場合、長尺のカーボン構造体を効率的に得ることができなくなるおそれがある。逆に、アセチレン濃度が上記上限を超える場合、アモルファスカーボンが生成してカーボン構造体の強度が不十分となるおそれがある。
【0047】
一方、メタンは、アモルファスカーボンの付着を抑制する効果を有しており、反応性を上げ成長速度を上げるために濃度が高い方が好ましく、濃度が100%であることがより好ましい。
【0048】
(排気部)
排気部17は、反応室11内のガスを排気するものであり、ポンプ又はファンを有するものとされる。
【0049】
図2のカーボン構造体製造装置では、基材Aの開裂部分の端面間にカーボンナノファイバー1が成長する。具体的には、基材Aの開裂端面に浸炭し、この端面にカーボンナノファイバー1が形成される。そして、第一開裂部材B1と第二保持体B2とをゆっくりと離間することで、各基材Aの開裂部分間を繋ぐよう複数のカーボンナノファイバー1が連続的に成長する。
【0050】
このような、カーボンナノファイバー1の成長過程において、第二保持体B2を回転することよって、複数のカーボンナノファイバー1が残留応力なく撚り合わされた繊維束2が形成され、第二保持体B2を螺旋状に移動させることで、繊維束2が螺旋状に形成される。なお、カーボンナノファイバー1が「残留応力を有しない」ことは、当該カーボン構造体を破壊した場合にカーボンナノファイバー1がカーボン構造体内に組み込まれていた時の形状を維持することによって確認できる。
【0051】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0052】
当該カーボン構造体の製造方法において、カーボンナノファイバーの成長点、つまり第一保持体及び第二保持体の開裂面にレーザーを照射して反応を促進してもよい。
【0053】
当該カーボン構造体の製造方法において、第一保持体及び第二保持体の両方を移動してもよい。例えば第一保持体を直線移動し、第二保持体を円を描くよう回動させることで、開裂した基材間の相対位置の軌跡が螺旋を描き、繊維束が螺旋状に形成されたカーボン構造体を製造することができる。