(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態を列記して説明する。本願の難燃性樹脂組成物は、低密度ポリエチレン(LDPE:Low Density Polyethylene)及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE:Linear Low Density Polyethylene)のうち少なくとも1つを含む第1の樹脂成分と、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA:Etylene Vinyl acetate copolymer)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA:Etylene−Vinyl acetata copolymer)及び超低密度ポリエチレン(VLDPE:Very Low Density Polyethylene)からなる群より選択される少なくとも1つを含む第2の樹脂成分と、ホスフィン酸金属塩と、を含む難燃性樹脂組成物である。難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、ホスフィン酸金属塩の含有量が10質量%以下であり、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの合計含有量が1質量%以下であり、マレイン酸変性ポリエチレンの含有量が1質量%以下であり、高密度ポリエチレンの含有量が5質量%以下である。
【0010】
最外被覆層の経時劣化の代表的なものとしては、絶縁抵抗の低下、経時による収縮、及び白化の発生がある。本発明者らは、このうち最外被覆層の絶縁抵抗の低下及び白化が難燃剤である金属水酸化物が原因で生じ得ることを明らかにした。本発明者らの検討によると、最外被覆層の絶縁抵抗の低下は、最外被覆層に含まれる金属水酸化物が吸湿し、最外被覆層の内部に水分が含まれることにより発生するものと考えられる。さらに、最外被覆層の白化は、最外被覆層に含まれる金属水酸化物が空気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩として析出することにより発生する。本願の難燃性樹脂組成物においては、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの合計含有量が1質量%以下である。この特徴により布設環境下における水分の吸収を防ぎ絶縁抵抗の低下が抑制される。また最外被覆層の白化を抑制することができる。
【0011】
また本発明者らは、経時変化による最外被覆層の収縮を防ぐには、比較的低い温度でも成形可能な難燃性樹脂組成物の配合を選択し、比較的低い温度でも成形温度で成形することが重要であることを明らかにした。またそのためには、上述の配合を有する難燃性樹脂組成物が好適であることも明らかにした。
【0012】
本願の難燃性樹脂組成物は、難燃性を付与する物質として、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムの代替物としてホスフィン酸金属塩を含有する。これにより充分な難燃性を確保することができる。一方、リン系化合物であるホスフィン酸金属塩は、難燃性樹脂組成物中の配合量が一定量を超えると難燃性樹脂組成物の主剤であるポリオレフィン系の樹脂に対して分散されにくい特性を有する。そのため、マレイン酸変性ポリエチレンなどの分散助剤を添加する必要がある。しかしながら、マレイン酸変性ポリエチレンを所定量以上含有する難燃性樹脂組成物は成形温度を高くする必要がある。そのため、経時変化による最外被覆層の収縮量を小さくするには、マレイン酸変性ポリエチレンをできる限り含まないことが好ましい。
【0013】
本発明者らの検討によれば、10質量%以下のホスフィン酸金属塩を含有すること、及びマレイン酸変性ポリエチレンの含有量を1質量%以下とすることで、比較的低い成形温度での成形を可能としつつ、難燃性を保持できることが明らかとなった。
【0014】
さらに本願の難燃性樹脂組成物は、LDPE及びLLDPEのうち少なくとも1つを含む第1の樹脂成分と、EVA、EEA及びVLDPEからなる群より少なくとも1つを含む第2の樹脂成分と、を含有する。第1の樹脂成分を含む難燃性樹脂組成物からなる成形物は、機械的強度及び剛性が高く、耐外傷性に優れる。これに対し、第2の樹脂成分は成形物に柔軟性を付与し引張弾性率を低下させる。そのため第1の樹脂成分と第2の樹脂成分との両方を含有することにより、成形物の機械的強度及び剛性を維持しつつ引張弾性率を低下させることが可能となり、比較的低い成形温度でも成形することが可能となる。その結果、最外被覆層として必要な物性は維持しつつ、経時変化による最外被覆層の収縮が抑制される絶縁電線及びケーブルを形成できる難燃性樹脂組成物を提供することが可能となる。
【0015】
上記難燃性樹脂組成物のホスフィン酸金属塩の含有量は1質量%以上であるのが好ましい。ホスフィン酸金属塩を1質量%以上含むことにより、必要な難燃性を備えた最外被覆層を有する絶縁電線及びケーブルを形成できる難燃性樹脂組成物を提供することが容易となる。
【0016】
難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分の合計量が85質量%以上であってもよい。第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分を上記割合で含有することで、難燃性に優れ、耐経時劣化性に優れた絶縁電線及びケーブルの最外被覆層を形成できる難燃性樹脂組成物を安定的に提供することができる。
【0017】
上記難燃性樹脂組成物において、高密度ポリエチレンの含有量は5質量%以下である。高密度ポリエチレンは難燃性樹脂組成物の粘度を上昇させ、加工性を低下させる。そのため高密度ポリエチレンの含有量が5質量%以下であることで、充分な粘度を有し、押出成形時などにおける加工性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することができる。好ましくは、難燃性樹脂組成物中の高密度ポリエチレンの含有量は1質量%以下であり、難燃性樹脂組成物が実質的に高密度ポリエチレンを含まない(例えば、0.1質量%以下である)のが好ましい。
【0018】
第1の樹脂成分と第2の樹脂成分との合計に占める第1の樹脂成分の割合は10質量%以上90質量%以下であってもよい。すなわち、第2の樹脂成分の割合は90質量%以上10質量%以下であってもよい。このような割合で上記2成分を含むことで、機械的強度や耐外傷性などの絶縁電線及びケーブル用材料として必要な基本的特性と、耐経時劣化性とのバランスに優れた絶縁電線及びケーブルを形成できる難燃性樹脂組成物を提供することが容易となる。
【0019】
難燃性樹脂組成物に含まれる全樹脂成分は、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分とを含み、残部が不可避的樹脂不純物からなるものであってもよい。難燃性樹脂組成物に含まれる全樹脂成分がこれらの2つの成分及び不可避的樹脂不純物のみを含むことで、上記基本的物性と耐経時劣化性とのバランス優れた絶縁電線及びケーブルを形成できる難燃性樹脂組成物をより安定的に提供することができる。
【0020】
難燃性樹脂組成物の不可避的樹脂不純物の含有量は1質量%以下であるのが好ましい。不可避的樹脂不純物の含有量が上記のように少ないことにより、難燃性に優れ、耐経時劣化性に優れた絶縁電線及びケーブルの最外被覆層を形成できる難燃性樹脂組成物を安定的に提供することができる。
【0021】
本願発明は、線状の導体部と、導体部の外周側を取り囲むように配置される、上記難燃性樹脂組成物から形成された絶縁被覆層とを有する絶縁電線にも関する。このような絶縁被覆層を有する絶縁電線は、耐経時劣化性に優れる。そのため耐用年数の長い絶縁電線となる。
【0022】
本願発明は、線状の導体部と、導体部の外周側を取り囲むように配置される、上記難燃性樹脂組成物から形成された最外被覆層とを有するケーブルにも関する。このような最外被覆層を有するケーブルは、耐経時劣化性に優れる。そのため耐用年数の長いケーブルとなる。
【0023】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本願の難燃性樹脂組成物、及びその製造方法の一実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一又は相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0024】
[難燃性樹脂組成物の構成]
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンのうち少なくとも1つを含む第1の樹脂成分と、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体及び超低密度ポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む第2の樹脂成分と、ホスフィン酸金属塩と、を含む。
【0025】
[第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分]
上述の通り、第1の樹脂成分は、低密度ポリエチレン(LDPE)及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のうち少なくとも1つを含む。
【0026】
LDPEは、例えば高圧法と呼ばれる、重合時の圧力を高圧にする方法でエチレンモノマーを重合する方法などにより得られるエチレンホモポリマーである。またLLDPEは、エチレンモノマーと、コモノマーと呼ばれるブテン−1などの少量のα−オレフィンとを共重合することにより得られるコポリマーである。第1の樹脂成分に含まれる上記LDPE及びLLDPEの密度は0.910g/mL超で0.940g/mL以下である。なお本願明細書において、密度はJIS K 6922−2に準拠して測定した密度である。
【0027】
第1の樹脂成分は、絶縁電線やケーブルの最外被覆層(絶縁被覆やシース等)の硬度を高め、優れた耐外傷性を付与する。また最外被覆層に優れた機械的特性(引張特性など)を付与する。
【0028】
上述の通り、第2の樹脂成分は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)及び超低密度ポリエチレン(VLDPE)からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0029】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、ラジカル重合などの重合法によりエチレンと酢酸ビニルとを共重合することにより得られる。エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)は、ラジカル重合などの重合法により、エチレンとアクリル酸エチルとを共重合することにより得られる。超低密度ポリエチレン(VLDPE)は、LDPE、LLDPEと比べて密度が低く、柔軟性を有する樹脂である。具体的には、VLDPEは0.880g/cm
3〜0.909g/cm
3の密度を有する。VLDPEはエチレンとオクテン−1とを共重合することにより得られる。
【0030】
なお、EVAを配合する場合、EVAにおけるエチレン単量体単位と酢酸ビニル単量体単位との比は特に限定されない。しかしながら酢酸ビニル単量体単位の量が高くなると、難燃性は向上するものの融点が低下し、加熱により変形しやすくなる。そのため、EVAの全単量体単位に占める酢酸ビニル単量体単位の割合が、質量換算で30質量%以下であるのが好ましい。加熱変形を小さくできることから、酢酸ビニル単量体単位の割合が28質量%以下(EVAの融点が71℃以上)であることが好ましい。
【0031】
第2の樹脂成分に含まれるEVA、EEA及びVLDPEは、いずれもLDPEやLLDPEと比べて柔軟性が高いという性質を有する。これらの成分を配合した難燃性樹脂組成物から得られる絶縁電線及びケーブルの最外被覆層は比較的低い成形温度でも成形が可能となる。その結果、経時変化による最外被覆層の収縮を低減することができる。
【0032】
難燃性樹脂組成物中の第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分の含有量に関し、難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分の合計量が85質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましい。これにより、難燃性と耐経時劣化性とに優れた絶縁電線及びケーブルの最外被覆層を形成できる難燃性樹脂組成物を安定的に提供することができる。
【0033】
第1の樹脂成分と第2の樹脂成分の合計に占める第1の樹脂成分の割合は、10質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、20質量%以上90質量%以下であるのが好ましい。なかでも40質量%以上90質量%以下であるのが特に好ましい。残部は第2の樹脂成分の割合である。すなわち、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分の合計に占める第2の樹脂成分の割合は90質量%以下でかつ10質量%以上であるのが好ましく、80質量%以下でかつ10質量%以上であるのが好ましく、60質量%以下でかつ10質量%以上であるのが特に好ましい。このような配合とすることにより、耐外傷性及び機械的特性を充分に維持しつつ、弾性率が充分に低い(例えば200MPa未満の)、絶縁電線又はケーブルの最外被覆層を形成できる難燃性樹脂組成物を安定的に提供することができる。
【0034】
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、効果を損なわない範囲で上記第1の樹脂成分と第2の樹脂成分以外の樹脂成分を含んでもよい。但し、安定した特性の難燃性樹脂組成物を得るためには、難燃性樹脂組成物に含まれる全樹脂成分のうち、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分とが占める割合が90質量%以上であるのが好ましく、難燃性樹脂組成物に含まれる全樹脂成分が第1の樹脂成分と第2の樹脂成分とから実質的になるのが好ましく、第1の樹脂成分と第2の樹脂成分とを含み、残部が不可避的樹脂不純物からなるのが好ましい。不可避的樹脂不純物の含有量が1質量%以下であるのが特に好ましい。第1の樹脂成分と第2の樹脂成分とが占める割合が90質量%以上であることで、優れた耐外傷性や機械的強度を有し、収縮の少ない、絶縁電線やケーブル用の材料として好適な難燃性樹脂組成物を提供することができる。なお、「全樹脂成分」とは、ホスフィン酸金属塩と、その他の無機物質と、物性の調整のために添加される種々の添加剤とを除く、高分子樹脂からなる成分をいう。「全樹脂成分」には第1の樹脂成分と第2の樹脂成分も含まれる。
【0035】
[ホスフィン酸金属塩]
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物に含まれるホスフィン酸金属塩とは、下記式(1)で表される化合物である。なお、式中R
1、R
2は、それぞれ、水素又は炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数12以下のアリール基であり、M
m+は、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム、アンモニウム、バリウム、ストロンチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、3価の金属及び1価〜3価の遷移金属、並びにアンモニウムから選択される1種である。mは1〜3の整数である。Mとしては、カルシウム、アルミニウム、亜鉛が好ましく、より好ましくはアルミニウムである。
【0037】
ホスフィン酸金属塩のリン含有率は、15質量%以上であることが好ましく、より好ましくは18質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。ホスフィン酸金属塩の具体例としては、有機ホスフィン酸のアルミニウム塩等を挙げることができる。
【0038】
ホスフィン酸金属塩の含有量は、難燃性樹脂組成物の総量に対して10質量%以下である。10質量%を超えると、分散助剤であるマレイン酸変性ポリエチレンを1質量%を超えて添加することなくホスフィン酸金属塩を充分に分散することが難しくなる。またホスフィン酸金属塩の含有量は難燃性樹脂組成物の総量に対し1質量%以上であるのが好ましく、4質量%以上であるのがより好ましい。
【0039】
[その他の成分]
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの合計含有量が1質量%以下である。難燃性樹脂組成物は、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムを実質的に含有しない(例えば、0.1質量%以下である)のが好ましい。水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの合計含有量が1質量%以下であることにより、成形物の経時による絶縁抵抗の低下及び成形物の白化を抑制することができる。
【0040】
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、マレイン酸変性ポリエチレンの含有量が1質量%以下である。難燃性樹脂組成物はマレイン酸変性ポリエチレンを実質的に含有しない(例えば、0.1質量%以下である)のが好ましい。マレイン酸変性ポリエチレンの含有量が1質量%以下であることにより、押出成形時の温度を高くする必要性がない。その結果、成形物の経時変化による収縮量を低減することができる。
【0041】
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、高密度ポリエチレンの含有量が5質量%以下である。高密度ポリエチレンの含有量が5質量%を超えると難燃性樹脂組成物の粘度が上昇し、加工性が低下する。そのため、難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、高密度ポリエチレンの含有量が5質量%以下であるのが好ましい。難燃性樹脂組成物中の高密度ポリエチレンの含有量は1質量%以下であるのがより好ましく、難燃性樹脂組成物が実質的に高密度ポリエチレンを含まない(例えば、0.1質量%以下である)のが好ましい。
【0042】
[添加成分]
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、必要に応じて上述した成分以外の他の添加成分を、発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。特に限定されないが、例えば、適量の酸化防止剤(フェノール構造又はアミン構造を有するものや、リンや硫黄原子を有する低分子量体など)、滑剤(高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アマイドやフッ素系の材料からなる滑剤など)、補強材(タルクなど)を含んでもよい。
【0043】
さらに物性の調整のために、エチレン−プロピレン共重合ゴム等の他の樹脂成分やゴム成分を含んでもよい。但し、その量は上記第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分の含有量より少ないことが好ましく、難燃性樹脂組成物の5質量%以下であるのが好ましい。
【0044】
[難燃性樹脂組成物]
上述のように、本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンのうち少なくとも1つを含む第1の樹脂成分と、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体及び超低密度ポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む第2の樹脂成分と、ホスフィン酸金属塩と、必要に応じて他の添加剤とを含む。但し、難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、ホスフィン酸金属塩の含有量が10質量%以下であり、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの合計含有量が1質量%以下であり、マレイン酸変性ポリエチレンの含有量が1質量%以下であり、高密度ポリエチレンの含有量が5質量%以下である。
【0045】
難燃性樹脂組成物の好ましい一実施形態は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンのうち少なくとも1つを含む第1の樹脂成分と、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体及び超低密度ポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む第2の樹脂成分と、ホスフィン酸金属塩とを含む。難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対し、第1の樹脂成分及び第2の樹脂成分の合計量は85質量%以上、好ましくは90質量%である。第1の樹脂成分と第2の樹脂成分の合計に占める第1の樹脂成分の割合は10質量%以上90質量%以下、好ましくは20質量%以上90質量%以下、より好ましくは40質量%以上80質量%以下である。ホスフィン酸金属塩の含有量は1質量%以上10質量%以下である。また水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの合計含有量が1質量%以下であり、マレイン酸変性ポリエチレンの含有量が1質量%以下であり、高密度ポリエチレンの含有量が5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。この難燃性樹脂組成物は、必要に応じて無機フィラーや酸化防止剤、滑剤、カーボンブラックなどの添加剤を含んでもよい。
【0046】
[難燃性樹脂組成物の製法]
本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、上記必須の成分及び必要によりその他の成分を、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等の溶融混練装置を用いて混練することにより製造することができる。その際、室温で各成分を混練した後、加熱してさらに混練してもよい。
【0047】
[難燃性樹脂組成物の用途]
上記難燃性樹脂組成物は、絶縁電線の絶縁被覆や、絶縁ケーブルの外被(シース)の形成に好適に用いることができる。但し、用途はこれらに限定されない。なお、単に「絶縁被覆」と言うときは、絶縁電線の絶縁被覆とともに絶縁ケーブルの外被(シース)等の絶縁材を含む意味で用いられる。
【0048】
[絶縁電線及びケーブルの構成]
次に上記難燃性樹脂組成物から形成された最外被覆層を有する絶縁電線及びケーブルの構成について図を参照しつつ、以下に説明する。
【0049】
図1は本願の一実施形態に係る単心ケーブルの一例を示す断面模式図である。
図1を参照して、単心ケーブル1は、線状で、長手方向に垂直な断面において円形の形状を有する導体部10を備える。その円形の導体部10を中心に、半径方向外側に向かって同心円状に、内部半導電層20、絶縁体30、外部半導電層40、遮蔽部50、押えテープ60、及びシース70がこの順に配置される。
【0050】
内部半導電層20及び外部半導電層40は、それぞれ半導電性樹脂や半導電性テープなどの半導電性物質から構成される。絶縁体30は、例えば架橋ポリエチレンからなる。遮蔽部50は、例えば銅製のテープなどからなる。押えテープ60は、各部材を固定するために設けられるものであって、絶縁性樹脂などの絶縁性材料からなる。
【0051】
シース70は、本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物から形成された最外被覆層である。シース70は、導体部10の外周側を取り囲むように配置されており、単心ケーブル1の最外被覆層を構成する。シース70は、例えば、導体部10を中心に、半径方向外側に向かって同心円状に、内部半導電層20、絶縁体30、外部半導電層40、遮蔽部50、押えテープ60がこの順に配置された線状複合体に対し、その外周側の面を被覆するように上記難燃性樹脂組成物を加熱しながら押出被覆することにより形成することができる。
【0052】
図2は、別の実施形態に係る、3心ケーブルの一例を示す断面模式図である。3心ケーブル2は、一つのシース70で覆われる領域内に3条のケーブル3を含む。個々のケーブル3は、押えテープ60及びシース70がない以外は上記単心ケーブル1と同様の構造を有する。3条のケーブル3は、断面が円形となるように介在80で取り囲まれ、押えテープ60により固定されている。介在80は、樹脂、紙、繊維などから構成される。押えテープ60の半径方向外側には上記難燃性樹脂組成物から形成されるシース70が設けられている。
【0053】
シース70は、本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物から形成された被覆層である。シース70は、導体部10の外周側を取り囲むように配置されており、3心ケーブル2の最外被覆層を構成する。シース70は、上記3条のケーブル3と、その周りを取り囲む介在80とを設けた後、押えテープ60により固定した線状複合体に対し、その外周側の面を被覆するように上記難燃性樹脂組成物を加熱しながら押出被覆することにより形成することができる。
【0054】
図3は、別の実施形態に係る、トリプレックス型ケーブルの一例を示す断面模式図である。トリプレックス型ケーブル4は単心ケーブル5を3条撚り合わせた構造を有する。各単心ケーブル5は、
図1に示す単心ケーブル1と同様の構造を有する。すなわち、単心ケーブル5は、それぞれの最外層に上記難燃性樹脂組成物から形成されるシース70を備える。トリプレックス型ケーブル4は、3本の導体部10が独立して絶縁・保護されているため、
図2に示す3心ケーブル2と比較して許容電流が高いという特徴を有する。トリプレックス型ケーブル4は、例えば単心ケーブル1と同様の方法で形成した3本の単心ケーブル5のシース70を熱溶着などで接着することにより製造することができる。
【0055】
図4は、別の実施形態に係る、絶縁電線の一例を示す断面模式図である。絶縁電線6は、線状で、長手方向の断面において円形の形状を有する導体部10と、導体部10の外周側を取り囲むように配置される、絶縁被覆層90とを備える。絶縁被覆層90は、上記難燃性樹脂組成物からなる。絶縁被覆層90は、押出成形や、導体部10の外周表面への難燃性樹脂組成物の塗布により形成することができる。絶縁被覆層90は、絶縁電線6の最外被覆層を構成する。また絶縁被覆層90は、導体部10の外周面に接触してその外周面を覆う。
【0056】
なお本願明細書において、絶縁電線とは、
図4に示すように、銅などの線状の導体部と、絶縁材料からなり、上記導体部の外表面を被覆する絶縁層とを含む電線をいう。線状の導体部は単線であってもよく、撚り線などの複数の線状体からなってもよい。
【0057】
またケーブルとは、
図1〜
図3に示すように、上記絶縁電線の1本、又は複数本の収束体の最も外側の面が絶縁性の被覆層(シース)で覆われた線状体をいう。
【0058】
本願明細書において、最外被覆層とは、上記絶縁電線6においては絶縁被覆層90を、ケーブル1,2,4においては、シース70を意味する。
【0059】
図1〜
図3に示すケーブル及び
図4に示す絶縁電線は、耐外傷性及び耐経時劣化性が高い最外被覆層を有する。そのため耐用年数の長い絶縁電線やケーブルが求められる分野において有利に利用される。
【実施例】
【0060】
次に、発明の効果を確認するために以下の実験を行い、特性を評価した。結果を以下に示す。
【0061】
(使用した材料)
先ず、下記の実験例(実施例、比較例)で使用した材料について述べる。各実験において使用した配合を表1〜表3に示す。表1及び表2に示す実験No.1〜No.11は実施例である。また表3に示す実験No.12,13は比較例である。表1〜表3における各成分の数値の単位は質量部である。またホスフィン酸金属塩比率とは難燃性樹脂組成物の総量100質量%に対する、難燃性樹脂組成物中に含まれるホスフィン酸金属塩の割合(単位:質量%)を示す。表1及び表2に示す実験No.1から11のうち、ホスフィン酸金属塩比率は最大で8.8質量%である(実験No.6及び実験No.8)。一方、比較例(実験No.12,13)においては、ホスフィン酸金属塩比率は15.7質量%である。
【0062】
[第1の樹脂成分]
・LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン):密度0.92g/mL、MFR0.6g/10min(MFRは、190℃・21.6kgの測定条件で測定した。以下同じである。)
【0063】
[第2の樹脂成分]
(i)エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂
EVA(酢酸ビニル含量:25質量%、融点:77℃)
(ii)エチレン−アクリル酸エチル共重合樹脂
EEA(アクリル酸エチル含量:15質量%、融点:100℃)
(iii)超低密度ポリエチレン
VLDPE(密度0.868g/mL、融点55℃、デュローメーター硬度(ショアA)70)
【0064】
[比較用の樹脂成分]
(1)HDPE(高密度ポリエチレン):密度 0.951g/mL、MFR 0.8g/10min
(2)MAH−LLDPE(マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン):密度 0.928g/mL、MFR 1.5g/10min、融点 122℃、マレイン酸含有量 0.8質量%。
【0065】
[ホスフィン酸金属塩]
密度1.35g/cm
3、リン含有量23−24質量%、平均粒径20−40μmのホスフィン酸金属塩を用いた。
【0066】
[他の添加成分]
(i)酸化防止剤
分子量1178、融点110−125℃のフェノール系酸化防止剤を用いた。
(ii)滑剤
ステアリン酸亜鉛を用いた。
(iii)カーボンブラック
算術平均粒子径38nm、窒素吸着比表面積49m
2/gのカーボンブラックを用いた。
【0067】
[評価1]
[特性評価]
(評価用シートの作製)
表1及び表2に示す配合(質量比)の各成分を、加圧ニーダーにて180℃で混練した。その後、混練物を160℃でプレス成形することにより、厚さ1mm、2mm、3mmの各シートを作製した。
【0068】
(物性の評価)
下記の実験例(実施例、比較例)で行った物性等の測定方法について述べる。各評価果を表1及び表2に示す。
【0069】
(酸素指数)
160℃でプレス成形した厚さ3mmのシートから試験片を作製し、JIS K7201に準拠して酸素指数を測定した。
【0070】
(D硬度)
ショアD硬度計を使用して、JIS K 7215 タイプDに準じて測定した。
【0071】
(引張特性)
160℃でプレス成形した厚さ1mmのシートから引張試験片を打ち抜き、株式会社島津製作所製オートグラフを使用して、JIS K 6251に準拠して、200mm/分の試験速度で引張試験を行った。引張試験においては、引張弾性率、引張強さ、及び引張伸びを測定した。引張弾性率は200MPa以下を合格とした。
【0072】
(低温脆化特性)
160℃でプレス成形した厚さ2mmのシートから引張試験片を打ち抜き、株式会社東洋精機製作所製の測定機を使用して、JIS K 7216に準じて測定した。−25℃以下を合格とした(−25℃で合格した場合それ以下の温度は未実施)。
【0073】
(加熱変形率)
株式会社安田精機製作所製の測定機を使用して、JIS C 3005に準じ、75℃、4kgf(約39N)の条件で、10mmφの鉄棒にて押込みを行って測定した。
【0074】
(比重)
株式会社エー・アンド・デイ製の測定機を使用して、エタノール法にて測定した。
【0075】
(体積抵抗、体積抵抗変化)
80℃の恒温槽中で乾燥させた厚さ1mmのシートについて、常温下で500Vの電圧で初期の体積抵抗を測定した。その後、75℃(実験No.12及びNo.13については80℃)の温水にこのシートを所定の期間(2週間、4週間、又は8週間)浸漬し、シート表面の水滴を拭き取った後、再度常温下で体積抵抗を測定した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
表1及び表2に示す実験No.1〜No.11は実施例である。また表3に示す実験No.12,13は比較例である。表1及び表2に示すように、実施例の難燃性樹脂組成物は酸素指数が19以上という充分な難燃性を備える。また、D硬度38以上という充分な硬度を備え、耐外傷性が高い。低温脆化特性及び比重についてもいずれも許容範囲であった。
【0080】
また弾性率はいずれも200MPa以下であり、最大で164MPa(実験No.7)である。弾性率が200MPa以下であることと、さらにマレイン酸変性ポリエチレンを実質的に含まないことにより、比較的低い温度での成形が可能であり、経時変化による収縮の少ない最外被覆層を有する絶縁電線又はケーブルを提供することができる。
【0081】
体積抵抗については、実験No.1〜No.11のいずれの試料においても、75℃に浸水してから8週間経過後の時点で一定レベル以上の抵抗値を保っており、経時により急激に変化するものは見られなかった。このことから、本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物から得られたシートは、いずれも高い耐経時劣化性を有することが実証された。
【0082】
これに対し、ホスフィン酸金属塩を15.7質量%、高密度ポリエチレンを15.7質量%含有する実験No.12の難燃性樹脂組成物においては、その難燃性樹脂組成物から得られるシート状試料の引張弾性率が220MPaと高い。また実験No.12と比較して、7.9質量%のマレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(MAH−LLDPE)をさらに含有する実験No.13の難燃性樹脂組成物においては、その難燃性樹脂組成物から得られるシート状試料の引張弾性率が230MPaとさらに高い。このように高い引張弾性率を有する比較用の難燃性樹脂組成物は押出加工温度を高くする必要があり、シート状試料の収縮量を低減する観点からは好ましくない。
【0083】
[評価2]
[体積抵抗の経時変化の評価]
実験No.7に示す難燃性樹脂組成物を成形することにより、厚さ1mmのシート状の評価用試料を2片準備した。さらに、既存のケーブルのシース用被覆材を準備し、厚さ1mmの比較用試料を作製した。それぞれの試料を75℃の恒温槽中で乾燥させた。各試料について、常温下で500Vの電圧で初期の体積抵抗を測定した。その後、シート状の評価用試料のうち1片は常温に静置し、所定の期間が経過するごとに常温下で体積抵抗を測定した。またシート状の評価用試料のうち1片、及び比較用試料は75℃の温水に浸漬し、所定の期間が経過するごとに試料を温水から取り出し、シート表面の水滴を拭き取った後、再度常温下で体積抵抗を測定した。結果を
図5に示す。
【0084】
図5は、体積抵抗の経時変化を評価した結果を示すグラフである。実線100は常温に静置した評価試料の体積抵抗の経時変化を表す。実線101は75℃の温水に浸漬した評価試料の体積抵抗の経時変化を表す。点線102は75℃の温水に浸漬した比較用試料(既存品)の体積抵抗の経時変化を表す。
【0085】
実線101に示すように、実験No.7に示す難燃性樹脂組成物から得られるシート状の評価用試料の体積抵抗の一定期間経過後における初期値からの低下率は、点線102に示す比較用試料(既存品)の体積抵抗の初期値からの低下率と比較して有意に小さい。このように、本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物から得られる成形体は体積抵抗の経時変化が小さく、絶縁電線やケーブルの最外被覆層を形成するための材料として適している。
【0086】
[評価3]
[収縮力及び収縮量の評価]
次に上記実施例のうち、実験No.7の難燃性樹脂組成物から形成されるシートを代表例とし、比較対象品との間でシース(ケーブル外皮)の収縮力及び収縮量を比較した。実験No.14及び15は、比較対象品の評価結果(比較例)である。実験No.14は、既存の製品であるケーブルのシースから試料片を採取し、その試料片について収縮力及び収縮量を測定した結果である。実験No.14のシースは、難燃剤として水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を1質量%超(約10〜15質量%)含む。実験No.15は、MAH−LLDPE(マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン)を1質量%超(約8質量%)含有する難燃性樹脂組成物を用いてケーブルを形成し、そのケーブルのシースから採取される試料片を採取し、採取した試料片の収縮力及び収縮量を測定した結果である。実験No.15で使用した難燃性樹脂組成物は、実験No.13に示す配合の難燃性樹脂組成物に相当する。
【0087】
実験No.7の難燃性樹脂組成物から形成されるケーブルのシースと、比較対象品である実験No.14及び15のシースについてそれぞれシースの収縮力及び収縮量を評価した。結果を表4及び
図6に示す。表4にシートの収縮力の測定結果を示す。また
図6はヒートサイクルの回数と収縮量の変化の関係を示すグラフである。
図6において、実線200は実験No.7に対応する。一点鎖線201は実験No.14に対応する。点線202は実験No.15に対応する。
【0088】
表4に示す収縮力は以下のような手順により測定した。まずシースを備えたケーブルから短冊状のシース片試料を採取した。そのシース片試料を引張試験機にセットし、試験試料温度を70℃まで昇温させ、その後常温まで冷却した。昇温の開始から常温への冷却までの間の試料の収縮する力を測定した。測定は3回行い、平均値を算出した。
【0089】
図6に示すヒートサイクルと収縮量の変化との関係を示すグラフは以下のようにして得た。まずケーブルの完成品を準備した。このケーブルは上記難燃性樹脂組成物から形成されたシース及び比較対象のシースをそれぞれ備えている。そのシースから評価用試料を採取した。採取した試料の表面に2本の標線を記し、その2本の標線間の距離を初期値として記録した。その後、その試料を70℃に加熱した後、常温まで冷却するヒートサイクルを1回のサイクルとして、そのサイクルを繰り返した。10サイクルごとに収縮量(%)の変化をプロットすることにより、
図6に示すグラフを得た。
【0090】
【表4】
【0091】
表4を参照して、本願の難燃性樹脂組成物の実施品である実験No.7から得られるシースの収縮力は実験No.14のシースの収縮力の約半分である。したがって、1質量%超の水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を難燃剤として含む難燃性樹脂組成物と比較して、得られるシースの収縮力を下げることができる。また
図6の実線200(実験No.7)と一点鎖線201(実験No.14)とを比較すると、本願の難燃性樹脂組成物の実施品である実験No.7から得られるシースの収縮量は実験No.14のシースの収縮量よりも小さい。このように、本願の難燃性樹脂組成物は、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物の含有量が1質量%以下であることで、加熱時の収縮力及び収縮量が低減した絶縁電線やケーブルの最外被覆層を形成することができる材料である。その結果、耐用年数の長い絶縁電線やケーブルを得ることが可能となる。また実験No.7における評価後のシートを目視で確認しても白化は確認できなかった。
【0092】
一方、表4を参照して、実験No.15のシースの収縮力の値は、実験No.7のシースの収縮力の値と同等である。しかしながら、
図6の点線202に示すように実験No.15のシースは、ヒートサイクルを繰り返すことによる収縮量は大きい。したがって、シースを形成した後、時間の経過とともにシースが収縮し、ケーブルの劣化を引き起こすことが予想される。これに対し実験No.7のシースの収縮量は、実験No.15のシースの収縮量よりも小さい。このように本願の難燃性樹脂組成物の実施品である実験No.7から得られるシースは、MAH−LLDPEを1質量%超含有する難燃性樹脂組成物から形成される実験No.15のシースと比較して、高温環境下に曝露された後の収縮量が小さい。このように、本願の難燃性樹脂組成物は、マレイン酸変性ポリエチレンの含有量が1質量%以下であることで、加熱時の収縮量が低減した絶縁電線やケーブルの最外被覆層を形成することができる材料である。その結果、耐用年数の長い絶縁電線やケーブルを得ることが可能となる。
【0093】
上記実施例に示すように、本願の難燃性樹脂組成物を用いることにより、絶縁抵抗の低下、経時による収縮、及び白化の発生が抑制された絶縁電線やケーブルの最外被覆層を形成することができる。最外被覆層の耐経時劣化性を向上させることにより、耐用年数の長い絶縁電線やケーブルを提供することが可能となる。
【0094】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。