特許第6854412号(P6854412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854412
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】中空糸膜及び中空糸膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20210329BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20210329BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20210329BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20210329BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   B01D69/08
   B01D71/36
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D69/00
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-135366(P2017-135366)
(22)【出願日】2017年7月11日
(65)【公開番号】特開2019-13914(P2019-13914A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(72)【発明者】
【氏名】宮田 大輝
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−042329(JP,A)
【文献】 特開平06−106037(JP,A)
【文献】 実開昭52−128646(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体と、
上記支持体の外表面に積層され、少なくとも一部が上記支持体に溶着する多孔性の接合層と、
上記接合層の上記支持体側とは逆側に積層され、上記接合層の少なくとも一部が溶着する多孔性の濾過シートと
を備え
上記紐体が8本以上32本以下の樹脂細線で編成され、
上記支持体が、平均厚さ0.1mm以上2mm以下であり、
上記濾過シートの平均厚さが12μm以上100μm以下であり、
上記濾過シートの平均孔径が0.01μm以上0.45μm以下である中空糸膜。
【請求項2】
上記支持体が筒状に形成されており、
上記濾過シートが帯状に形成されており、
上記濾過シートが、上記接合層を介し、上記支持体の外表面に対して螺旋状かつストライプ状に巻回されている請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
上記接合層が不織布又は多孔性樹脂である請求項1又は請求項2に記載の中空糸膜。
【請求項4】
上記濾過シートの主成分がポリテトラフルオロエチレンである請求項1、請求項2又は請求項3に記載の中空糸膜。
【請求項5】
バブルポイントが80kPa以上200kPa以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項6】
中空糸膜を製造する方法であって、
多孔性の接合層及び多孔性の濾過シートを熱ラミネートする工程と、
1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体における外表面及び上記熱ラミネート工程後のシートの上記接合層側を接触させ、上記支持体及び上記熱ラミネート工程後のシートを熱ラミネートする工程と
を有し、
上記紐体が8本以上32本以下の樹脂細線で編成され、
上記支持体が、平均厚さ0.1mm以上2mm以下であり、
上記濾過シートの平均厚さが12μm以上100μm以下であり、
上記濾過シートの平均孔径が0.01μm以上0.45μm以下である中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜及び中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理用の濾過膜として中空糸膜が知られている。中空糸膜は、一端が閉止された細長い管状の濾過膜であり、外側から接触する被処理水を濾過し、内側に濾過水を得るものである。
【0003】
中空糸膜としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質延伸チューブを支持体とし、この支持層の外表面に濾過層を備えるもの(特許文献1)、複数の樹脂細線からなる糸で編成された中空状組紐を支持体とし、この支持体の外表面に多孔質膜層を備えるもの(特許文献2)が提案されている。
【0004】
特許文献1の中空糸膜は、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質延伸チューブ(支持体)の外表面に帯状の多孔質樹脂シート(濾過層)を螺旋状に巻回し、支持体及び濾過層をこれらの融点以上の温度(350℃)で溶着して両者を一体化するものであり、機械的耐久性及び耐薬品性を向上させたものである。
【0005】
また、特許文献2の中空糸膜は、複数の樹脂細線からなる糸で編成された中空状組紐(支持体)の外表面に多孔質膜層の製膜原液を塗布し、支持体内に製膜原液が進入した状態で製膜原液を凝固させて多孔質膜層を形成するものであり、支持体及び多孔質膜層の接着強度を向上させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−141753号公報
【特許文献2】特許第5341760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水処理用の中空糸膜には、一定の透水性能とともに機械的耐久性及び耐薬品性が求められる。特許文献1の中空糸膜は、引張強度があまり高くない延伸多孔質体を支持体として用い、この支持体に濾過層を直接接合した構成であるため、中空糸膜が曲げ変形する場合の機械的耐久性を向上させるにはさらなる工夫が必要である。また、特許文献2の中空糸膜は、凝固させることが可能な製膜原液を多孔質膜層の材料として選択する必要があるので、耐薬品性の高いポリテトラフルオロエチレン等を多孔質膜層に用いることができず、多孔質膜層の材料が制限される。
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、耐薬品性と機械的耐久性とを両立可能な中空糸膜及びこの中空糸膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る中空糸膜は、1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体と、上記支持体の外表面に積層され、少なくとも一部が上記支持体に溶着する多孔性の接合層と、上記接合層の上記支持体側とは逆側に積層され、上記接合層の少なくとも一部が溶着する多孔性の濾過シートとを備える。
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様に係る中空糸膜の製造方法は、多孔性の接合層及び多孔性の濾過シートを熱ラミネートする工程と、1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体における外表面及び上記熱ラミネート工程後のシートの上記接合層側を接触させ、上記支持体及び上記熱ラミネート工程後のシートを熱ラミネートする工程とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、耐薬品性と機械的耐久性とを両立可能な中空糸膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る中空糸膜を長手方向に沿って切断した断面の一部を示す模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る中空糸膜を示す模式的斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0014】
本発明の一態様に係る中空糸膜は、1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体と、上記支持体の外表面に積層され、少なくとも一部が上記支持体に溶着する多孔性の接合層と、上記接合層の上記支持体側とは逆側に積層され、上記接合層の少なくとも一部が溶着する多孔性の濾過シートとを備える。
【0015】
当該中空糸膜は、支持体及び濾過シート間に接合層を備え、この接合層が支持体及び濾過シートに溶着してこれらを接合するので、支持体及び濾過シートを強く接合できるとともに、支持体及び濾過シートの材料を比較的自由に選択できる。また、当該中空糸膜の支持体は、1又は複数の紐体で編成されているので、高い引張強度と適度な柔軟性とを有する。このため、当該中空糸膜は、高い引張強度を有する支持体を基体とし、この支持体に接合層を介して濾過シートを接合するので、曲げ変形する際にも濾過シートが支持体から剥離し難く、濾過時又は逆洗時の耐圧性が高い。つまり、当該中空糸膜は、支持体及び濾過シートの材料として耐薬品性の高いものを選択可能であり、かつ構造的に機械的耐久性を向上させるものであるので、耐薬品性と機械的耐久性とを両立できる。
【0016】
上記支持体が筒状に形成されており、上記濾過シートが帯状に形成されており、上記濾過シートが、上記接合層を介し、上記支持体の外表面に対して螺旋状かつストライプ状に巻回されているとよい。これにより、支持体と濾過シートとが接合層を介して容易かつ確実に接合される。
【0017】
上記紐体が8本以上32本以下の樹脂細線で編成されているとよい。支持体を編成する紐体が、8本以上32本以下の樹脂細線で編成されていることで、支持体の機械的強度が一層向上する。
【0018】
上記接合層が不織布又は多孔性樹脂であるとよい。これにより、当該中空糸膜が曲げ変形する際に接合層が適度に変形して応力を分散させるので、濾過シートが支持体から一層剥離し難くなる。
【0019】
上記濾過シートの主成分がポリテトラフルオロエチレンであるとよい。当該中空糸膜は、耐薬品性の高いポリテトラフルオロエチレンが外表面に配設される濾過シートに用いられることで、耐薬品性が向上する。ここで、主成分とは、最も含有量の多い成分を示し、例えば含有量が50質量%以上の成分を示す。
【0020】
上記濾過シートの平均厚さが12μm以上100μm以下であり、上記濾過シートの平均孔径が0.01μm以上0.45μm以下であり、当該中空糸膜のバブルポイントが80kPa以上200kPa以下であるとよい。これにより、当該中空糸膜の透水性能と不純物除去性能とがバランスよく調整される。ここで、平均孔径とは、10以上の孔を顕微鏡観察し、孔の最大径とこの最大径に直交する方向の径との平均値をサンプル全体で平均した値を示す。また、バブルポイントとは、イソプロピルアルコールを用い、JIS−K3832(1990)に準拠して測定される値を示す。
【0021】
本発明の他の一態様に係る中空糸膜の製造方法は、中空糸膜を製造する方法であって、多孔性の接合層及び多孔性の濾過シートを熱ラミネートする工程と、1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体における外表面と上記熱ラミネート工程後のシートの上記接合層側とを接触させ、上記支持体及び上記熱ラミネート工程後のシートを熱ラミネートする工程とを有する。
【0022】
当該中空糸膜の製造方法は、接合層を濾過シートに対して溶着した後、このシートの接合層を支持体に対して溶着するので、接合層を介して支持体及び濾過シートを比較的容易に接合できる。つまり、当該中空糸膜の製造方法は、耐薬品性と機械的耐久性とを両立した中空糸膜を比較的容易に製造できる。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る中空糸膜及び中空糸膜の製造方法を説明する。
【0024】
[中空糸膜]
図1及び図2の中空糸膜1は、1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体2と、支持体2の外表面に積層され、少なくとも一部が支持体2に溶着する多孔性の接合層3と、接合層3の支持体2側とは逆側に積層され、接合層3の少なくとも一部が溶着する多孔性の濾過シート4とを備える。
【0025】
支持体2を編成する紐体は、8本以上32本以下の樹脂細線で編成されており、支持体2は筒状に形成されている。接合層3は不織布又は多孔性樹脂である。濾過シート4は、帯状に形成されている。濾過シート4の主成分はポリテトラフルオロエチレンであり、濾過シート4の平均厚さは12μm以上100μm以下であり、濾過シート4の平均孔径は0.01μm以上0.45μm以下である。濾過シート4は、接合層3を介し、支持体2の外表面に対して螺旋状かつストライプ状に巻回されている。中空糸膜1のバブルポイントは80kPa以上200kPa以下である。
【0026】
中空糸膜1は、水処理に用いられる中空糸膜であり、図1に示すように、支持体2の外表面に接合層3及び濾過シート4がこの順で重畳するように積層している。中空糸膜1は、図2に示すように、濾過シート4側から接触する被処理水を濾過し、支持体2の内側の中空部5に濾過水を得るように筒状に構成されている。
【0027】
中空糸膜1のバブルポイントの下限としては、80kPaが好ましく、100kPaがより好ましく、120kPaがさらに好ましい。一方、中空糸膜1のバブルポイントの上限としては、200kPaが好ましく、180kPaがより好ましく、160kPaがさらに好ましい。中空糸膜1のバブルポイントが上記下限に満たないと、被処理水が十分に濾過されないおそれがある。逆に、中空糸膜1のバブルポイントが上記上限を超えると、通水抵抗が増加し、濾過効率が低下するおそれがある。
【0028】
<支持体>
支持体2は、中空糸膜1の基体となる部材であり、筒状に形成されている。支持体2は、1又は複数の紐体で編成されており、濾過水が紐体の隙間を透過できる程度の多孔性を有している。また、支持体2の内側には中空部5が形成されている。
【0029】
支持体2の平均厚さ(平均肉厚)の下限としては、0.1mmが好ましく、0.3mmがより好ましく、0.5mmがさらに好ましい。一方、支持体2の平均厚さの上限としては、2mmが好ましく、1.7mmがより好ましく、1.5mmがさらに好ましい。支持体2の平均厚さが上記下限に満たないと、支持体2の機械的強度が不足するおそれがある。逆に、支持体2の平均厚さが上記上限を超えると、中空糸膜1が太くなり過ぎることで、複数の中空糸膜1が用いられる際に中空糸膜1の数密度が減少し、濾過効率が低下するおそれがある。
【0030】
(紐体)
支持体2を編成する紐体は、機械的強度を向上させるために、複数本の樹脂細線で編成されている。樹脂細線の材料としては、特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分とした樹脂が用いられる。
【0031】
紐体を編成する樹脂細線の本数の下限としては、8本が好ましく、10本がより好ましく、12本がさらに好ましい。一方、紐体を編成する樹脂細線の本数の上限としては、32本が好ましく、28本がより好ましく、24本がさらに好ましい。紐体を編成する樹脂細線の本数が上記下限に満たないと、紐体の機械的強度が不足するおそれがある。逆に、紐体を編成する樹脂細線の本数が上記上限を超えると、紐体の製造コストが増加するおそれがある。
【0032】
<接合層>
接合層3は、支持体2と接触する面が支持体2に溶着し、濾過シート4と接触する面が濾過シート4に溶着することで、支持体2及び濾過シート4を接合する中間層であり、筒状の支持体2の外表面と濾過シート4の内側面との間に積層される。接合層3は、支持体2と接触する面から所定の厚み分だけ溶解し、この溶解した厚み領域で支持体2と接合され、濾過シート4と接触する面から所定の厚み分だけ溶解し、この溶解した厚み領域で濾過シート4と接合される。接合層3としては、樹脂粉末を熱処理して得られる多孔性樹脂又は不織布が用いられる。多孔性樹脂又は不織布の材料としては、特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分とした多孔性樹脂が用いられる。接合層3は、支持体2との接合における親和性を良好にする観点から、支持体2と同じ材料であると好ましい。
【0033】
接合層3の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましく、30μmがさらに好ましい。一方、接合層3の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、150μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。接合層3の平均厚さが上記下限に満たないと、支持体2及び濾過シート4に対する溶着が不十分となり、接合層3の接合力が不足するおそれがある。逆に、接合層3の平均厚さが上記上限を超えると、中空糸膜1が太くなり過ぎることで、複数の中空糸膜1が用いられる際に中空糸膜1の数密度が減少し、濾過効率が低下するおそれがある。
【0034】
接合層3は、中空糸膜1が製造される際に支持体2及び濾過シート4に溶着するため、融点が支持体2の融点以下かつ濾過シート4の融点以下であると好ましい。例えば濾過シート4としてポリテトラフルオロエチレン(融点約327℃)が用いられ、支持体2としてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン又はポリプロピレン(融点約110℃〜260℃)が用いられる場合、接合層3として支持体2と同じ材料のもの又は支持体2の融点以下のものが用いられるとよい。
【0035】
<濾過シート>
濾過シート4は、接合層3の外表面に配設され、被処理水を濾過する機能を有する帯状の多孔性シートである。濾過シート4としては、耐薬品性を有する多孔性樹脂が用いられると好ましく、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とした多孔性樹脂が用いられる。濾過シート4は、筒状の支持体2の外表面に対して螺旋状かつストライプ状に巻回されることにより、中空糸膜1の外表面を覆うように配設されている。また、濾過シート4は、側部が重畳するように支持体2の外表面に対して隙間なく巻回されている。つまり、中空糸膜1は、濾過シート4が螺旋状かつストライプ状に重畳した重畳部6を有している。なお、重畳部6では、支持体2、接合層3、濾過シート4、接合層3及び濾過シート4がこの順で接合されている。
【0036】
濾過シート4の平均厚さの下限としては、12μmが好ましく、15μmがより好ましく、18μmがさらに好ましい。一方、濾過シート4の平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、80μmがより好ましく、60μmがさらに好ましい。濾過シート4の平均厚さが上記下限に満たないと、被処理水が十分に濾過されないおそれがある。逆に、濾過シート4の平均厚さが上記上限を超えると、通水抵抗が増加し、濾過効率が低下するおそれがある。
【0037】
濾過シート4の平均孔径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.05μmがより好ましく、0.10μmがさらに好ましい。一方、濾過シート4の平均孔径の上限としては、0.45μmが好ましく、0.40μmがより好ましく、0.35μmがさらに好ましい。濾過シート4の平均孔径が上記下限に満たないと、通水抵抗が増加し、濾過効率が低下するおそれがある。逆に、濾過シート4の平均孔径が上記上限を超えると、被処理水が十分に濾過されないおそれがある。
【0038】
[中空糸膜の製造方法]
当該中空糸膜の製造方法は、中空糸膜1を製造する方法であって、多孔性の接合層3及び多孔性の濾過シート4を熱ラミネートする第1ラミネート工程と、1又は複数の紐体で編成され、多孔性を有する中空の支持体2における外表面と第1ラミネート工程後のシートの接合層3側とを接触させ、支持体2及び第1ラミネート工程後のシートを熱ラミネートする第2ラミネート工程とを有する。
【0039】
<第1ラミネート工程>
第1ラミネート工程では、濾過シート4の一方の面に接合層3を平面視で重畳するように積層した状態で接合層3及び濾過シート4を熱ラミネートすることにより、濾過シート4に接合層3を溶着する。接合層3としては、濾過シート4より融点が低いものが用いられる。
【0040】
熱ラミネートの方法としては、特に限定されないが、例えば接合層3の一方の面側を所定の厚み分だけ溶解した後、この溶解面に濾過シート4を接触させた状態で冷却することで濾過シート4に接合層3を溶着する方法や、接合層3及び濾過シート4を積層した状態で、濾過シート4側から加熱して濾過シート4近傍の接合層3を所定の厚み分だけ溶解した後、冷却することで濾過シート4に接合層3を溶着する方法が用いられる。なお、接合層3は、接合層3の融点より10℃から50℃程度高い温度で所定の厚み分が溶解されるとよい。
【0041】
第1ラミネート工程後の積層シートは、第2ラミネート工程の前に、例えば裁断等の方法を用いて帯状に加工される。なお、第1ラミネート工程後の積層シートの形状が帯状であればよいので、第1ラミネート工程後の積層シートを加工する方法に替えて、例えば帯状の濾過シート4を用いて第1ラミネート工程を実行することにより帯状の積層シートを得る方法が採用されてもよい。
【0042】
<第2ラミネート工程>
第2ラミネート工程では、第1ラミネート工程後の積層シートの接合層3側と筒状の支持体2の外表面とを接触させた状態で、積層シートと支持体2とを熱ラミネートする。これにより、支持体2に接合層3が溶着する。支持体2としては、接合層3と同じ材料が用いられてもよいし、接合層3の融点以上の材料が用いられてもよい。
【0043】
帯状の積層シートと支持体2とが積層される際には、図2に示すように、筒状の支持体2の外表面に対して帯状の積層シートが螺旋状かつストライプ状に巻回されることにより、支持体2の外表面に接合層3及び濾過シート4がこの順で積層される。製造された中空糸膜1の外表面は濾過シート4で隙間なく覆われている必要があるので、帯状の積層シートは、側部が重畳するように支持体2に対して螺旋状かつストライプ状に巻回される。
【0044】
熱ラミネートの方法としては、特に限定されないが、例えば帯状の積層シートの接合層3側を所定の厚み分だけ溶解した後、この溶解面に支持体2の外表面及び積層シートの側部上面を接触させつつ帯状の積層シートを支持体2に対して螺旋状かつストライプ状に巻回することで支持体2に接合層3を溶着する方法が用いられる。なお、接合層3は、接合層3の融点より10℃から50℃程度高い温度で所定の厚み分が溶解されるとよい。
【0045】
(利点)
当該中空糸膜1は、支持体2及び濾過シート4間に接合層3を備え、この接合層3が支持体2及び濾過シート4に溶着してこれらを接合するので、支持体2及び濾過シート4を強く接合する。当該中空糸膜1の支持体2は、8本以上32本以下の樹脂細線で編成された紐体によって編成されているので高い引張強度と適度な柔軟性を有している。当該中空糸膜1の接合層3は、不織布又は多孔性樹脂であるので、当該中空糸膜1が曲げ変形する際に適度に変形して応力を分散させる。このため、当該中空糸膜1は、高い引張強度を有する支持体2を基体とし、この支持体2に接合層3を介して濾過シート4を接合するので、曲げ変形する際にも濾過シート4及び接合層3が支持体2から剥離し難く、濾過時又は逆洗時の耐圧性が高い。また、当該中空糸膜1の濾過シート4には、耐薬品性の高いポリテトラフルオロエチレンが用いられているので、当該中空糸膜1は、耐薬品性と機械的耐久性とを両立する。さらに、当該中空糸膜1は、バブルポイントが80kPa以上200kPa以下であるので、透水性能と不純物除去性能とがバランスよく調整される。
【0046】
当該中空糸膜の製造方法は、接合層3を濾過シート4に対して溶着した後、このシートの接合層3を支持体2に対して溶着するので、接合層3を介して支持体2及び濾過シート4を比較的容易に接合できる。また、当該中空糸膜の製造方法は、筒状の支持体2の外表面に対して帯状の濾過シート4を側部が重畳するように螺旋状かつストライプ状に巻回するので、外表面が濾過シート4で隙間なく覆われた中空糸膜1を製造できるとともに、接合層3を介して支持体2及び濾過シート4を容易かつ確実に接合できる。
【0047】
[他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0048】
上記実施形態では、支持体2が筒状に形成されるものについて説明したが、支持体2は内側に中空部5が形成されていればよく、支持体2の形状は筒状に限定されない。
【0049】
上記実施形態では、帯状の濾過シート4が筒状の支持体2の外表面に対して螺旋状かつストライプ状に巻回されるものについて説明したが、濾過シート4が接合層3を介して支持体2の外表面に接合される積層構造であれば、他の手順で支持体2、接合層3及び濾過シート4が接合されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の中空糸膜及び本発明の中空糸膜の製造方法で製造された中空糸膜は、耐薬品性と機械的耐久性とを両立できる。
【符号の説明】
【0051】
1 中空糸膜
2 支持体
3 接合層
4 濾過シート
5 中空部
6 重畳部
図1
図2