(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、例えば灌水(水やり)、施肥等を自動制御して、農作物の収量及び品質を向上する、農業の工業化が試行されている。灌水及び施肥を自動化する場合、土を用いず、灌漑水に肥料を混合した栽培液を用いる養液栽培が適している。養液栽培としては、固形培地を用いない水耕栽培、比較的小容量の容器内に例えば砂、ロックウール、やし殻等の培地を充填した制限培地を用いる固形培地耕栽培が挙げられる。固形培地耕栽培は、水耕栽培と比べて、作物の根に空気を供給できることから作物を健康に維持しやすいこと、作物の生育度合いに応じて培地の水分を調節できることや、微生物活性により水質を維持しやすいことから、より効率的に作物を栽培できると有望視されている。
【0003】
灌水及び施肥は、作物の生育度合いに応じて行うことが求められる。作物の生育度合いの指標としては、作物からの水の蒸発量が考えられる。作物は、主に葉から水を蒸発させるが、作物の生育に伴って葉の量が増え、これに比例して水の蒸発量が増大する。作物の生育により、作物内部に蓄えられる水の量も増大するが、作物からの水の蒸発量と比べると非常に小さいため、作物が根から吸収する水の量を検出することで、作物からの水の蒸発量を把握することができる。
【0004】
作物からの水の蒸発量は、作物の生育度合いだけでなく、気温、湿度、気流(風)、日照等の影響を受ける。このため、作物の根からの吸水量だけでは、作物の生育度合いを正確に把握することができない。そこで、気温、湿度、気流、日照等の影響を考慮した作物からの水の蒸発しやすさ(蒸発ポテンシャルと呼ぶ)を数値化することが求められる。気温、湿度、風速、日照量等を個別にセンサで検出することは可能であるが、葉面には(流体力学における)境界層があり、実際に蒸発に関与している葉面近傍の空気の気温、湿度、風速を正確に測定することは容易ではない。また、蒸発ポテンシャルは、これらが複雑に絡み合う多重共線性を有するため、各センサの測定値から容易に数値化することができない。
【0005】
作物の葉からの蒸散量(蒸発量)を直接測定する装置として、作物の葉の裏側に水蒸気センサを取り付けて、葉から蒸発する水蒸気の量を直接検出するセンサが提案されている(特開2006−214858号公報参照)。この公報に記載の水蒸気センサは、蒸散量への影響を低減するために、多孔質の薄膜の孔壁に半導体材料を吸着させて形成される。このような蒸発量センサは、作物がしおれると、測定値がしおれによる影響を受けて変化するため、気温等の環境が作物からの水の蒸発量に影響を与える度合いを示す蒸発ポテンシャルを計測できるものではない。
【0006】
また、蒸発ポテンシャルを測定する装置としては、気候学の分野において用いられる蒸発皿(evaporation pan)がある。蒸発皿は、日・月単位の地域の気候の変化を測定対象とするものであり、作物の生育度合いを把握するために作物が根から吸収する水の量における日照等の環境の影響を補正するために用いるには、測定単位時間が長過ぎる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る蒸発ポテンシャル測定装置は、水を貯留する水槽と、上記水槽に貯留する水に浸漬される浸漬部及び空中に張り渡される蒸発部を有する多孔質体と、上記水槽に出入りする水の量を検出する水量検出機構とを備える。
【0014】
当該蒸発ポテンシャル測定装置は、上記多孔質体が、浸漬部から水槽内の水を吸い上げて蒸発部から植物の葉と同様に環境に応じて空気中に水を蒸発させるので、水量検出機構により水槽に出入りする水の量を検出することで、蒸発ポテンシャルを比較的正確に測定することができる。
【0015】
当該蒸発ポテンシャル測定装置は、上記多孔質体が、シート状であり、かつ上記浸漬部及び蒸発部間を接続する接続部を有し、上記水槽の上に配設され、上記接続部の両面を覆うと共に上記蒸発部の端部を支持する保持部材をさらに備えることが好ましい。このように、上記多孔質体が、シート状であり、かつ上記浸漬部及び蒸発部間を接続する接続部を有し、当該蒸発ポテンシャル測定装置が上記水槽の上に配設され、上記接続部の両面を覆うと共に上記蒸発部の端部を支持する保持部材をさらに備えることによって、上記浸漬部と蒸発部との間隔を任意に設定することができる。これにより、当該蒸発ポテンシャル測定装置は、蒸発部からの水の蒸発量が栽培する作物の葉からの蒸発量により近くなるよう設計することができるので、栽培する作物に対する環境の蒸発ポテンシャルを正確に測定することができる。
【0016】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、上記水槽が水面の上方を覆う蓋板を有し、上記保持部材が上記蓋板から突出することが好ましい。このように、上記水槽が水面の上方を覆う蓋板を有し、上記保持部材が上記蓋板から突出することによって、水槽の水面から空気中に直接水が蒸発することを抑制して蒸発ポテンシャルの測定精度を向上することができる。
【0017】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、上記蒸発部が上記水槽の水面に平行に保持され、上記蒸発部と上記蓋板との平均間隔が0.1cm以上50cm以下であることが好ましい。このように、上記蒸発部が上記水槽の水面に平行に保持され、上記蒸発部と上記蓋板との平均間隔が上記範囲内であることによって、上記蒸発部の環境を作物の葉の環境により近づけることができる。
【0018】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、上記水槽及び保持部材が光反射性を有することが好ましい。このように、上記水槽及び保持部材が光反射性を有することによって、上記水槽からの水の蒸発をより確実に防止すると共に、上記水槽及び保持部材が日光により加熱されて過度に蒸発量が増大することを防止できる。
【0019】
当該蒸発ポテンシャル測定装置は、上記水槽の水位を一定に保持するよう上記水槽に水を補給する給水機構をさらに備え、上記水量検出機構が上記給水機構から上記水槽への給水量を検出することが好ましい。このように、上記水槽の水位を一定に保持するよう上記水槽に水を補給する給水機構をさらに備えることによって、接続部の蒸発部への給水能力の変動を防止することができ、かつ上記水量検出機構が上記給水機構から上記水槽への給水量を検出することによって、比較的正確に水量を検出することができるので、蒸発ポテンシャルをより正確に測定することができる。
【0020】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、上記多孔質体が上記蒸発部の含水率を50質量%以上に保持可能な吸水性を有することが好ましい。このように、上記多孔質体が上記蒸発部の含水率を50質量%以上に保持可能な吸水性を有することによって、蒸発部からの蒸発量を作物の葉からの蒸発量に近似させることができる。
【0021】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、上記多孔質体の比熱が2000J/kg/K以上5500J/kg/K以下であることが好ましい。このように、上記多孔質体の比熱が上記範囲内であることによって、蒸発部の温度を作物の葉の温度に近づけることができるので、蒸発部からの蒸発量を作物の葉からの蒸発量により近づけることができる。
【0022】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、上記多孔質体の厚さが0.01mm以上3mm以下であることが好ましい。このように、上記多孔質体の厚さが上記範囲内であることによって、蒸発部からの蒸発量を作物の葉からの蒸発量により近づけることができる。
【0023】
ここで、「光反射性を有する」とは、それぞれJIS−K5602(2008)に準拠して測定される日射反射率が50%以上であることを意味するものとする。
【0024】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る蒸発ポテンシャル測定装置の実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0025】
図1に、本発明の一実施形態に係る蒸発ポテンシャル測定装置を示す。当該蒸発ポテンシャル測定装置は、水を貯留する水槽1と、この水槽1に貯留する水に浸漬される浸漬部2、空中に張り渡される蒸発部3及び浸漬部2及び蒸発部3間を接続する接続部4を有する多孔質体5と、上記水槽の上に配設され、接続部4の両面を覆うと共に蒸発部3の端部を支持する保持部材6と、水槽1の水位を一定に保持するよう水槽1に水を補給する給水機構7と、水槽1に出入りする水の量を検出する水量検出機構8とを備える。
【0026】
<水槽1>
水槽1は、水を貯留する水槽本体9と、水面の上方を覆うよう、水槽本体9の上部開口を封止する蓋板10とを有する。水槽1が蓋板10を有することによって、水槽1内で水が蒸発して雰囲気中に散逸することを防止して当該蒸発ポテンシャル測定装置の測定誤差を抑制することができる。
【0027】
水槽1に貯留する水としては、純水を用いることが好ましい。水槽1に純水を貯留することによって、多孔質体5の蒸発部3における水の蒸発によって水中の溶存成分が濃縮されて蒸発部3の蒸発特性を変化させることを防止することができるため、作物の生育期間を通して蒸発ポテンシャルを比較的正確に測定することができる。
【0028】
なお、蒸発ポテンシャルは、温度、湿度、風、日照等のそのときの環境条件において、単位面積の葉から単位時間当たりに蒸発する水の量であり、単位を[L/m
2/h]として表すことができる。
【0029】
水槽1の容量(貯水量)としては、多孔質体5の浸漬部2を浸漬できる量の水を貯留できればよい。具体的には、水槽1の容量の下限としては、50mLが好ましく、100mLがより好ましい。一方、水槽1の容量の上限としては、1000mLが好ましく、500mLがより好ましい。水槽1の容量が上記下限に満たない場合、多孔質体に十分に水を供給できないおそれがある。逆に、水槽1の容量が上記上限を超える場合、水槽1から直接蒸発する水量が増大して蒸発ポテンシャルの測定誤差が大きくなるおそれがある。
【0030】
水槽1(水槽本体9及び蓋板10)は、光を吸収して内部の水を暖めることにより水を過度に蒸発させて測定誤差を生じさせないよう、例えば、被覆、表面処理、塗装等によって光反射性を有することが好ましい。
【0031】
水槽1の光反射率の下限としては、日射反射率で50%が好ましく、70%がより好ましい。水槽1の光反射率が上記下限に満たない場合、水槽1内の水が直接蒸発して散逸することにより測定誤差を生じるおそれがある。
【0032】
<多孔質体>
多孔質体5は、水槽1に貯留される水を浸漬部2から給水し、毛管現象によって接続部4を介して水を蒸発部3に供給し、蒸発部3を湿潤状態に維持する。つまり、浸漬部2、接続部4及び蒸発部3は、植物の根による給水、茎(幹)による送水及び葉における水の蒸発を再現する。
【0033】
この多孔質体5は、浸漬部2、蒸発部3及び接続部4がそれぞれ異なる材料から形成されてもよく、全体が単一の多孔質シートから形成されてもよい。多孔質体5の全体を単一の多孔質シートによって形成することで、多孔質体5を安価且つ容易に提供することができ、栽培する作物の種類に合わせて多孔質体5を交換することも容易となる。多孔質体5を形成する多孔質シートは、例えばエンボス加工、曲げ加工(しわ加工、プリーツ加工等)などが施されているものであってもよい。
【0034】
シート状の多孔質体5は、1つの浸漬部2と1つの蒸発部3との間を1つの接続部4で接続した帯状のものであってもよいが、蒸発部3への給水を容易にするために、蒸発部3の両側に接続部4及び浸漬部2が連設された長尺帯状のものであってもよく、対向する浸漬部2及び蒸発部3の端部をそれぞれ接続する一対の接続部4を有する無端ベルト状のものであってもよい。
【0035】
多孔質体5は、測定中の蒸発部3の含水率を十分に大きい状態に保持できるよう、十分な吸水率を有する多孔質材料から形成される。具体的には、測定中の蒸発部3の含水率の下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましい。一方、測定中の蒸発部3の含水率の上限としては、97質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。測定中の蒸発部3の含水率が上記下限に満たない場合、蒸発部の蒸発特性と作物の葉の蒸発特性との差が大きくなることで測定誤差が大きくなるおそれがある。逆に、測定中の蒸発部3の含水率が上記上限を超える場合、蒸発部3の強度が不十分となるおそれがある。
【0036】
この多孔質体5の浸漬部2、蒸発部3及び接続部4を構成する材料としては、例えば織布、不織布、セラミックス等を用いることができる。多孔質体5の中でも、特に蒸発部3は、シート状の材料から形成されることが好ましい。蒸発部3が厚さが小さいシート状であることによって、作物の葉と同様の蒸発特性が得られ、当該蒸発ポテンシャル測定装置の精度を向上できる。
【0037】
蒸発部3の平均厚さの下限としては、0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。一方、蒸発部3の平均厚さの上限としては、3mmが好ましく、1mmがより好ましい。蒸発部3の平均厚さが上記下限に満たない場合、蒸発部3の接続部4から遠い部分に十分な水を供給できないおそれがある。逆に、蒸発部3の平均厚さが上記上限を超える場合、蒸発部3からの蒸発特性と作物の葉の蒸発特性との差が大きくなるおそれがある。
【0038】
蒸発部3の面積の下限としては、1cm
2が好ましく、10cm
2がより好ましい。一方、蒸発部3の面積の上限としては、300cm
2が好ましく、200cm
2がより好ましい。蒸発部3の面積が上記下限に満たない場合、蒸発部3からの蒸発量が小さくなりすぎて蒸発ポテンシャルを容易に測定できなくなるおそれがある。逆に、蒸発部3の面積が上記上限を超える場合、蒸発部3からの蒸発量が大きくなることで、水の補給が煩雑となるおそれや、水槽1が大きくなることで水槽1からの直接の蒸発による誤差が大きくなるおそれがある。
【0039】
蒸発部3の比熱の下限としては、2000J/kg/Kが好ましく、3000J/kg/Kがより好ましい。一方、蒸発部3の比熱の上限としては、5500J/kg/Kが好ましく、4500J/kg/Kがより好ましい。蒸発部3の比熱が上記下限に満たない場合、蒸発部の温度が上がり過ぎて蒸発部3からの蒸発特性と作物の葉の蒸発特性との差が大きくなるおそれがある。逆に、蒸発部3の比熱が上記上限を超える場合、蒸発部の温度が変化しにくくなりすぎて、蒸発部3からの蒸発特性と作物の葉の蒸発特性との差が大きくなるおそれがある。
【0040】
蒸発部3は、水槽1の水面に平行、つまり水平に保持されることが好ましい。これにより、風や日照等の指向性を有する環境条件に対して作物の葉の平均的な蒸発量を測定することができる。
【0041】
蒸発部3は、特に風の影響を正確に反映した蒸発ポテンシャルを測定可能とするために、下方に、例えば蓋板10との間に十分な空間を有するよう配置されることが好ましい。具体的には、蒸発部3の下方の空間の平均高さ(蒸発部3と蓋板10との平均間隔)の下限としては、0.1cmが好ましく、1cmがより好ましい。一方、蒸発部3の下方の空間の平均高さの上限としては、50cmが好ましく、10cmがより好ましい。蒸発部3の下方の空間の平均高さが上記下限に満たない場合、蒸発部3と蓋板10と間に自然に風を通すことができないことで測定誤差が生じるおそれがある。逆に、蒸発部3の下方の空間の平均高さが上記上限を超える場合、蒸発ポテンシャルが大きいときに接続部4から蒸発部3への給水が不十分となって測定誤差が生じるおそれや、当該蒸発ポテンシャル測定装置が不必要に大きくなることで作物の栽培スペースを不必要に制限するおそれがある。
【0042】
浸漬部2と蒸発部3との距離は、蒸発部3から水が蒸発する以上の速度で接続部4を介して蒸発部3に水を供給できるよう選択される。具体的には、蒸発部3からの蒸発特性は、蒸発部3の表面積、厚さ、空孔形状及び気孔率、比熱、色、表面加工等によって定められる。一方、接続部4の給水能力は、接続部4の材質、空孔形状、気孔率等によって定められる毛管現象の強さと、接続部4の断面積、長さ、水平に対する傾斜角度等によって定められる。
【0043】
蒸発部3は、一般的な葉と同様に、比較的高い光吸収率を有することが好ましい。具体的には、蒸発部3の全光線吸収率の下限としては、60%が好ましく、70%がより好ましい。逆に、蒸発部3の全光線吸収率の上限としては、95%が好ましく、90%がより好ましい。蒸発部3の全光線吸収率が上記下限に満たない場合、作物の葉と比べて日射による蒸発部3の蒸発促進が不十分となることで測定誤差が大きくなるおそれがある。逆に、蒸発部3の全光線吸収率が上記上限を超える場合、蒸発部3の他の物性が不適切となるおそれや、多孔質体5が不必要に高価となるおそれがある。なお、「全光線吸収率」JIS−K7361−1(1997)に準拠して測定される値を意味するものとする。
【0044】
<保持部材>
保持部材6は、少なくとも多孔質部材5の接続部4の両面を覆う一対の壁部を有するよう形成され、接続部4の側縁も覆う扁平筒状に形成されてもよい。この保持部材6は、多孔質部材5の接続部4を覆って接続部4から水が蒸発することを防止する。
【0045】
また、この保持部材6は、水槽1の蓋板10から上方に突出するよう配設される。保持部材6は、多孔質部材5の蒸発部3の両端を保持して蒸発部3を空気中に張り渡すための支柱となる。このため、保持部材6が蓋板10から上方に突出することで、蒸発部3を水槽1から離間して風の影響を反映できるよう張り渡すことができる。
【0046】
保持部材6は、多孔質体5の着脱を容易にするために、接続部4の一方の面側を覆う壁部と、他方の面側を覆う壁部とが分離可能に設けられることが好ましい。例として、保持部材6は、一方の壁部を水槽本体9に固定し、他方の壁部を蓋板10に固定する構成とすることができる。
【0047】
保持部材6は、多孔質部材5の接続部4の毛管現象による蒸発部3への水の供給を阻害しないよう、接続部4との間に微小なクリアランスを有することが好ましい。具体的には、保持部材6の一対の壁部の平均間隔と接続部4の平均厚さとの差の下限としては、0.3mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、保持部材6の一対の壁部の平均間隔と接続部4の平均厚さとの差の上限としては、1.5mmが好ましく、1.0mmがより好ましい。保持部材6の一対の壁部の平均間隔と接続部4の平均厚さとの差が上記下限に満たない場合、接続部4を介した蒸発部3への水の供給量が不十分となるおそれがある。逆に、保持部材6の一対の壁部の平均間隔と接続部4の平均厚さとの差が上記上限を超える場合、接続部4から水が蒸発することで当該蒸発ポテンシャル測定装置の測定精度が低下するおそれがある。
【0048】
保持部材6は、接続部4からの水の蒸発をより確実に防止するために、上記水槽1と同様に光反射性を有することが好ましい。
【0049】
<給水機構>
給水機構7は、例えばセンサで水槽1の水位を検出してポンプやバルブを電子制御する構成としてもよいが、簡易には、水槽1の上方に配置され、水槽1に補給する水を貯留する給水タンク11と、水槽1の水位を一定に保つよう給水タンク11から水槽1へ給水する流路を開閉する弁機構12とを有する構成とすることができる。
【0050】
給水タンク11は、水槽1の上方に配置され、重力によって水槽1に水を供給できるよう構成することができる。また、給水タンク11は、水槽1等の他の構成要素から着脱可能に設けてもよい。給水タンク11を着脱可能にすることによって、当該蒸発ポテンシャルセンサを作物の近傍に固定した場合に、給水タンク11に水を補充することが容易となる。
【0051】
また、給水タンク11は、水槽1から分離して配置され、水槽1への給水をパイプ等を介して行ってもよい。給水タンク11を分離して配置することで、水槽1ひいては当該蒸発ポテンシャルセンサの給水タンク11を除く本体ユニットを小型化して、本体ユニットを作物の近傍に配置することができ、作物の環境の蒸発ポテンシャルをより正確に測定することができる。
【0052】
弁機構12としては、例えば、水槽1の水面に浮かべられるフロートによって弁を駆動する機構、密閉された給水タンク11が水槽1の補給した水と等しい体積の空気を吸込む空気流路の開口を水槽1の水面で封止することで給水タンク11からの水の流出を止める機構等を採用することができる。
【0053】
給水機構7によって、水槽1の水位を一定に維持することによって、浸漬部2から接続部4を介した蒸発部3への水の供給能力が一定となり、蒸発ポテンシャルの測定誤差を小さくすることができる。
【0054】
<水量検出機構>
は、給水機構7から水槽1への給水量を検出するよう構成することができる。このように、給水機構7によって水槽1の水位を一定にしつつ、水量検出機構8によって給水機構7から水槽1への給水量を検出することで、水槽1から蒸発部3に供給された水量、つまり蒸発部3から蒸発した水の量を確認することができる。
【0055】
給水機構7から水槽1への給水量は、例えば流量計等を用いて測定してもよいが、給水タンク11が貯留する水の減少量として測定することが簡便である。具体的には、水量検出機構8は、例えば給水タンク11の重量変化を検出するロードセル、給水タンク11の液面の変位を検出するセンサ等を用いることができる。
【0056】
中でも給水タンク11の液面の変位を検出するセンサとしては、給水タンク11の外壁に一対の線状又はリボン状の電極を螺旋状かつ互いに平行に貼着し、この電極間の静電容量を検出するセンサを用いることで、比較的正確に微小な水位変化を検出することができる。
【0057】
また、水槽1に貯留する水の重量は一定に保たれるので、水量検出機構8は、給水タンク11と、水槽1、多孔質体5、保持部材6等の当該蒸発ポテンシャル測定装置の他の構成要素との合計重量の変化を検出するよう構成してもよい。
【0058】
また、水量検出機構8は、給水タンク11の水量の減少を目視により確認するための目盛り等の指標であってもよく、例えばマノメータ等の水量変化を分りやすくする構造を有してもよい。
【0059】
<使用方法>
当該蒸発ポテンシャル測定装置を使用する場合、水量検出機構8によって一定の時間間隔で水槽1に供給された水量を確認し、時間当たりの給水量、すなわち時間当たりの蒸発量を算出することで、蒸発ポテンシャルを算出する。
【0060】
しかし、特に風の影響は局所的に現れるため、各時刻における測定値は、局所的な蒸発ポテンシャルの値を表し、作物全体に対する平均的な蒸発ポテンシャルを表すものではなく、平均的な蒸発ポテンシャルに風等の局所的な影響によるノイズが重畳したものと言える。このため、各時刻における当該蒸発ポテンシャル測定装置の測定値を平滑化した値を蒸発ポテンシャルとして取り扱うことが好ましい。測定値の平滑化方法としては、例えば指数平滑法等の移動平均を算出する方法が好適に用いられる。
【0061】
<利点>
当該蒸発ポテンシャル測定装置を用いて測定される蒸発ポテンシャル(移動平均値)を用いることで、養液栽培での灌水量における蒸発ポテンシャルの影響を補正して、作物の生育度合いを比較的正確に把握することができる。このため、当該蒸発ポテンシャル測定装置を用いて、栽培システムにおける灌水量及び施肥量をより適切に制御することで、作物の品質向上及び収穫量増大が可能となる。
【0062】
当該蒸発ポテンシャル測定装置を用いて測定される蒸発ポテンシャルは、作物の生育環境の評価に有用な指標である。従来、温室やソーラーシェアリングのための太陽光発電設備等の光を遮蔽する建物が作物の上方に設置されたことによる水の蒸発量への影響を評価することは、例え専門家が多種類の個別センサと高度な分析機能を備えた高額な設備を用いても容易ではなかったが、当該蒸発ポテンシャル測定装置であれば比較的簡単に実施できる。このように当該蒸発ポテンシャル測定装置を利用することで、天然の作物の生育環境、あるいは人為的な作物の生育環境の変化を定量的に評価することができるようになり、農地に備わった性能に最適な土地利用計画を作成することが可能となる。
【0063】
当該蒸発ポテンシャルセンサの測定値を教師値とし、例えば個別センサの測定値、気象庁が公示する一般的な環境観測値等を参照する機械学習やビックデータ解析等によって、広域の蒸発ポテンシャルを予測しマッピングすることが可能である。つまり、既存のセンサ設備、外部データ等を活用することによって、小数の当該蒸発ポテンシャルセンサを設置するだけで広い範囲の生育環境を把握することができる。
【0064】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0065】
当該蒸発ポテンシャル測定装置は、十分に大きい水槽を使用して、給水機構を省略してもよい。この場合、水量検出機構は、水槽内に貯留される水の量を検出できるよう構成される。
【0066】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、水槽の蓋板は、水面に浮かべられるフロートであってもよい。また、水槽は蓋板を有しないものであってもよい。また、蓋板に換えて油膜等で水面を覆うことにより水槽からの蒸発を防止してもよい。
であってもよい。
【0067】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、保持部材と多孔質体の接続部とが一体化されたユニットであってもよい。例として、パイプ状の保持部材の中に、接続部として吸水性を有する綿等を詰め込んで形成される疑似茎を使用してもよい。
【0068】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、多孔質体の接続部を覆う保持部材に換えて、蒸発部を空中に張り渡すよう保持する堅固な部材と、接続部を覆う例えば不透過性のシート等の被覆部材とを用いてもよい。
【0069】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、多孔質体は、接続部を有しないものであってもよい。例えば、多孔質体は、水槽の側壁を貫通し、水槽の内側が浸漬部、外側が蒸発部とされるものであってもよい。
【0070】
当該蒸発ポテンシャル測定装置において、多孔質体の蒸発部は、鉛直に直立又は傾斜した状態で空気中に張り渡されてもよい。また、多孔質体の蒸発部は、片持ちで支持可能な剛性を有してもよい。このために、蒸発部が骨組み構造体又は枠体を有してもよい。
【0071】
当該蒸発ポテンシャル測定装置は、複数の蒸発部を有するものであってもよい。