【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:平成28年10月5日、http://ajpregu.physiology.org/content/early/2016/10/03/ajpregu.00292.2016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に係る発明では、電気刺激を与える部位は、唾液腺そのものに限られている。しかしながら、患者の状態によっては、唾液腺に対して直接的に電気刺激を付与するのが困難な場合もあり、このような場合には、上記特許文献1に開示された装置をその患者に適用することはできない。これは、涙腺についても同様である。
【0007】
我々は、迷走神経への電気刺激が、唾液又は涙液の分泌の促進に有効であることを発見した。また、我々は、実験の結果、迷走神経の枝が分布する耳介を電気的に刺激すると、唾液の分泌が促進することを発見した。さらに、我々は、ブラキシズムの抑制に、迷走神経への電気刺激による唾液の分泌が有効であることを発見した。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、より多様な方法で唾液又は涙液の分泌を促進することができる分泌促進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る分泌促進装置は、
被検体の唾液又は涙液の分泌を促進する分泌促進装置であって、
唾液又は涙液の分泌に関する支配神経又はその近傍の部位に取り付けられる一対の電極と、
前記一対の電極を介して唾液又は涙液の分泌に関する支配神経に電気刺激を付与して、唾液又は涙液の分泌を促進する電気刺激付与部と、
側頭筋活動に関する筋肉の筋電位を計測する筋電位計と、
を備え
、
前記電気刺激付与部は、
前記筋電位計で計測された側頭筋活動に関する筋肉の筋電位が閾値を超えた場合に、前記一対の電極を介して、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経に電気刺激を付与する。
【0010】
この場合、体内に埋め込まれ、
前記一対の電極は、頸部を通る迷走神経に巻き付けられており、
前記電気刺激付与部は、前記一対の電極を介して、前記迷走神経に直接的に電気刺激を付与する、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記一対の電極は、前記被検体の耳部に取り付けられ、
前記電気刺激付与部は、前記一対の電極を介して、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経のうち、耳部付近を通る神経に電気刺激を経皮的に付与する、
こととしてもよい。
【0012】
前記一対の電極は、前記被検体の顔面・頸部に取り付けられ、
前記電気刺激付与部は、前記一対の電極を介して、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経のうち、顔面・頸部付近を通る神経に電気刺激を経皮的に付与する、
こととしてもよい。
【0013】
唾液又は涙液の分泌量を計測する計測部を備え、
前記電気刺激付与部は、
前記計測部で計測された唾液又は涙液の分泌量が低下した場合に、前記一対の電極を介して、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経に電気刺激を付与する、
こととしてもよい。
【0015】
前記一対の電極として、
唾液又は涙液の分泌に関する支配神経のうち、前記被検体の複数の異なる部位を通る神経に対してそれぞれ同時に電気刺激を付与する電極を複数組備える、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、唾液腺(小唾液腺を含む)、涙腺に対して直接的に電気刺激を付与することなく、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経を刺激することによって間接的に唾液又は涙液の分泌を促進することができる。唾液又は涙液の分泌に関する支配神経は、耳部、頸部など様々な部位を通っているため、電気刺激を付与する部位を様々な場所に設定することができる。この結果、より多様な方法で唾液又は涙液の分泌を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1に係る分泌促進装置について説明する。本実施の形態に係る分泌促進装置は、被検体の唾液又は涙液の分泌を促進する。分泌促進装置は、迷走神経に対して電気刺激を付与する。迷走神経は、12対ある脳神経の1つであり、第X脳神経とも呼ばれる。迷走神経は、脳神経の中で延髄の後外側溝から出て頸部を通過し腹部まで達する求心性の神経であり、咽頭や喉頭の筋の運動支配と知覚、頸部から胸部・腹部の内臓を支配する副交感神経である。
【0020】
迷走神経の求心性線維の一部は消化器系刺激を迷走神経背側核に伝え、上唾液核と下唾液核を介して唾液および涙液の分泌に関与する。そこで、本実施の形態に係る分泌促進装置は、一定の手技で装置を装着するために頸部の迷走神経に電気刺激を付与する。
【0021】
図1に示すように、分泌促進装置1Aは、被検体Pの体内に埋め込まれて使用される。分泌促進装置1Aは、その構成要素として、一対の電極2A、2Bと、電気刺激付与部としてのパルスジェネレータ3と、を備える。
【0022】
一対の電極2A,2Bは、電気刺激を与えるために迷走神経N1に取り付けられる。被検体Pの頸部H1の皮膚が5cm程度切開され、被検体Pの頸部H1の迷走神経N1を露出した状態で、一対の電極2A,2Bが、迷走神経N1に間隔を空けて巻き付けられる。
【0023】
パルスジェネレータ3は、一対の電極2A,2Bを介して、迷走神経N1に電気刺激を付与して、唾液又は涙液の分泌を促進する。刺激となる電気信号は、周期的に変化するパルス状の電気信号である。その周期は、例えば200Hz程度であり、電流は、0.1mA程度であり、付与時間は5分程度となるが、この値に限定されない。パルスジェネレータ3は、被検体Pの胸部H2の皮膚を5cm程度切開して、その胸部H2に埋め込まれる。リード線4も被検体Pの体内に埋め込まれている。
【0024】
パルスジェネレータ3は、リード線4を介して、周期的に変動するパルス状の電気信号を一対の電極2A,2Bに加える。このパルス状の電気信号は、一対の電極2A,2Bの間に加えられ、迷走神経N1に電気刺激として伝えられる。
【0025】
図2に示すように、迷走神経N1は、腹部内臓からの消化器刺激を迷走神経背側核N2に伝える。迷走神経背側核N2に伝わった刺激は孤束核N3に伝わる。孤束核N3は、迷走神経N1からの求心性線維の終止核である。孤束核N3は、この刺激を、唾液中枢を経て、上唾液核N11、下唾液核N12に伝える。
【0026】
上唾液核N11は、中間神経N21、鼓索神経N22、舌神経N23、顎下神経節N24を経て、顎下腺S1、舌下腺S2を刺激して唾液を分泌するとともに、中間神経N21、大錐体神経N31、翼口蓋神経節N32、頬骨神経N33を経て、涙腺S3を刺激して涙液を分泌する。上唾液核N11は、橋に存在し、顎下腺S1・舌下腺S2の分泌線維の起始核とされる。中間神経N21は、脳神経の1つで広義の第VII脳神経(顔面神経)を構成し、上唾液核N11から顎下腺S1・舌下腺S2と涙腺S3を支配する遠心性神経線維を含む。鼓索神経N22は、中間神経N21から分岐して、中耳の鼓室を通って前方に達し、側頭下窩で舌神経N23に合流する。舌神経N23は、三叉神経第三枝である下顎神経の枝であるが、舌神経N23では、鼓索神経N22等の三叉神経由来でない神経も走行しており、顎下神経節N24に達している。顎下神経節N24は、副交感性の神経節で、舌骨舌筋の前縁付近で舌神経の下方、顎下腺S1の上方に位置する。顎下腺S1は、大唾液腺の1つであり、顎舌骨筋の下に位置する。舌下腺S2も、大唾液腺の1つであり、口腔底の粘膜下で顎下骨筋の上にある。
【0027】
上唾液核N11からは顎下腺S1、舌下腺S2の分泌を促進する分泌線維が中間神経N21を通って出て行く。この分泌線維は、中間神経N21、鼓索神経N22、舌神経N23と走行して、顎下神経節N24で節後線維と交代したのち、顎下腺S1及び舌下腺S2に分布する。顎下神経節N24から出る節後線維は血管運動神経と分泌神経であって、腺の分泌を促進する。中間神経N21の損傷は同側において舌の前方2/3の領域の味覚の消失と唾液分泌の減退を起こす。
【0028】
大錐体神経N31は顔面神経膝で顔面神経から分かれ、大錐体神経管を通って側頭骨錐体の前面に出た後、破裂孔の軟骨を貫いて外頭蓋底に出て、翼口蓋神経節N32に終わる。翼口蓋神経節N32は、翼口蓋窩にある神経節である。頬骨神経N33は、頬骨に沿って走る神経であり、翼口蓋神経節N32からの副交感性節後線維を涙腺S3へと運ぶ。翼口蓋神経節N32から出る節後線維は血管運動神経と分泌神経であって、腺の分泌を促進する。涙腺S3は、眼窩外側上部に存在する眼球付属腺の1つであり、上述の神経刺激により、涙液を分泌する。
【0029】
すなわち、上唾液核N11からは涙腺S3による涙液の分泌を促進する分泌線維も中間神経N21を通って出て行く。この分泌線維は、中間神経N21、大錐体神経N31と走行して、翼口蓋神経節N32で節後線維と交代し、頬骨に沿って走る頬骨神経N33を経て、涙腺S3に分布する。以上から、唾液腺のうち、顎下腺S1、舌下腺S2と涙腺S3は副交感性の一次中枢である上神経核から副交感性の神経支配を受ける。
【0030】
一方、下唾液核N12は、舌咽神経N41、鼓室神経N42、小錐体神経N43、耳神経節N44、耳介側頭神経N45を経て最大の唾液腺である耳下腺S4を刺激して唾液を分泌する。下唾液核N12は、延髄に存在し、耳下腺分泌線維の起始核とされる。舌咽神経N41は、脳神経の1つであり、第IX脳神経とも呼ばれる。鼓室神経N42は、舌咽神経N41から分岐し、鼓室の壁を貫いて内頭蓋底に達して小錐体神経N43となる。小錐体神経N43は、小錐体神経溝を前内側に進み、卵円孔から三叉神経の下顎枝とともにもしくは蝶錐体裂から側頭下窩に出て耳神経節N44に入っている。耳神経節N44は、耳介側頭神経N45を介して耳下腺分泌線維を耳下腺S4に送っている。耳下腺S4は、最大の唾液腺であり、三角形を呈し外耳道の前下方にある。
【0031】
下唾液核N12からは耳下腺S4による唾液の分泌を促進する分泌線維が舌咽神経N41を通って出ていく。この分泌線維は、鼓室神経N42、小錐体神経N43と走行して、耳神経節N44で節後線維と交代し、耳介側頭神経N45を経て、耳下腺S4に分布する。
【0032】
上述した神経は、唾液又は涙液分泌に関する副交感神経伝達路における求心性神経又は遠心性神経である。迷走神経N1が求心性神経であり、その他の神経が遠心性神経である。これらの神経は、唾液、涙液の反射弓を形成する。分泌促進装置1Aは、この反射弓を利用し、反射弓中の迷走神経N1に電気刺激、すなわちパルス状の電気信号を印加する。求心性神経線維は、副交感性の一次中枢である上唾液核N11に投射し、上唾液核N11から遠心性に顎下腺S1・舌下腺S2および涙腺S3に投射し、各分泌を促進する。
【0033】
本実施の形態に係る分泌促進装置1Aによって迷走神経N1に電気刺激が付与されると、その刺激は、上述のように迷走神経背側核N2、孤束核N3に伝えられる。上・下唾液核N11,N12は、遠心性の神経を介して、顎下腺S1、舌下腺S2、耳下腺S4を刺激して唾液の分泌を促進し、涙腺S3を刺激して涙液の分泌を促進する。
【0034】
このように、上記実施の形態に係る分泌促進装置1Aによれば、被検体Pが顔面のケガなどで、顎下腺S1、舌下腺S2、涙腺S3、耳下腺S4を直接刺激することができなくても、迷走神経N1を刺激することによって顎下腺S1、舌下腺S2、涙腺S3、耳下腺S4を刺激して、間接的に、唾液又は涙液の分泌を促進することができる。
【0035】
実施の形態2.
まず、本発明の実施の形態2に係る分泌促進装置について説明する。
図3に示すように、本実施の形態に係る分泌促進装置1Bは、被検体Pの耳部Eに装着されるイヤホン型の装置である。
【0036】
図3(A)に示すように、分泌促進装置1Bは、被検体Pの耳部Eに装着されるイヤホン5を有している。イヤホン5は、パルスジェネレータ3と、リード線4を介して接続されている。
【0037】
イヤホン5には、一対の電極2C,2Dが取り付けられている。イヤホン5が被検体の耳に装着されると、一対の電極2C,2Dが、
図3(B)に示す耳甲介舟Fに当接するようになっている。耳甲介舟Fとは、対輪、対輪脚と耳輪脚との間のくぼみであり、耳部Eの皮下を通る各種神経に最も近い部分である。
【0038】
パルスジェネレータ3は、一対の電極2C,2Dを介して唾液又は涙液の分泌に関する支配神経のうち、耳部E付近を通る神経に電気刺激を経皮的に付与して、唾液又は涙液の分泌を促進する。本実施の形態でも、電気刺激は、周期的に変動するパルス状の電気信号である。
【0039】
例えば、耳甲介舟Fの皮下には、迷走神経N1の枝である迷走神経耳介枝が通っており、一対の電極2C,2Dにパルス状の電気信号が加えられると、その電気信号は、耳部Eの皮膚を介して、迷走神経耳介枝に伝えられる。
【0040】
本実施の形態に係る分泌促進装置1Bによって迷走神経耳介枝に電気刺激が付与されると、その刺激は、
図2に示すように、孤束核N3に伝えられ、上・下唾液核N11,N12は、各種神経核を介して、遠心性に顎下腺S1、舌下腺S2、涙腺S3、耳下腺S4を刺激して唾液、涙液の分泌を促進する。
【0041】
このように、上記実施の形態に係る分泌促進装置1Bによれば、被検体Pがケガなどで、唾液腺S1,S2,S4、涙腺S3等を直接刺激することができなくても、迷走神経N1の枝を刺激することによって唾液又は涙液の分泌を促進することができる。
【0042】
また、一対の電極2C,2Dにパルス状の電気信号が加えられると、その電気信号は、迷走神経N1の枝を介して中枢内の孤束核N3や上唾液核N11に伝えられた後、鼓索神経N22に伝えられる。
【0043】
本実施の形態に係る分泌促進装置1Bによって付与された電気刺激は、迷走神経N1の枝を介して中枢内の孤束核N3や上唾液核N11に伝えられた後、鼓索神経N22に伝えられ、その刺激は、舌神経N23、顎下神経節N24を介して、顎下腺S1、舌下腺S2を刺激する。この刺激により、唾液が分泌される。
【0044】
このように、上記実施の形態に係る分泌促進装置1Bによれば、被検体Pがケガなどで、唾液腺S1,S2,S4、涙腺S3等を直接刺激することができなくても、迷走神経N1の枝を介して中枢内の孤束核N3や上唾液核N11に伝えられた後、鼓索神経N22を刺激することによって顎下腺S1・舌下腺S2の分泌を促進することができる。このように、求心性に迷走神経N1の枝を介して涙液分泌を促進したり、顔面神経を構成する中間神経を遠心性に刺激したりすることによって涙腺分泌を促すことが出来る。
【0045】
また、本実施の形態によれば、非観血的(非侵襲)に迷走神経N1を電気刺激することができるので、被検体Pの身体的な負担を軽減することができる。また、装置の使用コストも低減することもできる。
【0046】
なお、電極2C,2Dが当接する位置は、耳甲介舟Fには限られず、耳部Eの他の部位であってもよい。例えば、外耳に挿入されるイヤホン5の部分に一対の電極を設け、外耳に電気刺激を与えるようにしてもよい。
【0047】
実施の形態3.
まず、本発明の実施の形態3に係る分泌促進装置について説明する。本実施の形態に係る分泌促進装置は、経皮的に電気刺激を付与する装置である。
図4に示すように、本実施の形態に係る分泌促進装置1Cは、被検体Pの顔面・頸部Bに装着される装置である。
【0048】
分泌促進装置1Cは、被検体Pの顔面・頸部Bに取り付けられるパッド6を備えている。パッド6には、一対の電極2E,2Fが設けられている。パッド6が被検体Pの顔面・頸部Bに装着されると、一対の電極2E,2Fが、被検体Pの顔面・頸部Bに接触するようになっている。
【0049】
パルスジェネレータ3は、リード線4を介して一対の電極2E,2Fに周期的に変動するパルス状の電気信号を出力する。一対の電極2E、2Fは、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経のうち、顔面・頸部B付近を通る神経に電気刺激を付与する。すなわち、迷走神経N1の枝を刺激することにより、頬骨神経N33を介して涙腺の分泌を促す。
【0050】
被検体Pの顔面・頸部Bの皮下には、迷走神経N1の枝が通っている。一対の電極2E,2Fにパルス状の電気信号が加えられると、その電気信号は、皮膚を介して、迷走神経N1の枝に伝えられる。
【0051】
本実施の形態に係る分泌促進装置1Cによって迷走神経N1の枝に電気刺激が付与されると、その刺激は、上述のように、孤束核N3に伝えられる。さらに、上・下唾液核N11,N12は、各種神経核を介して遠心性に投射し、顎下腺S1、舌下腺S2、耳下腺S4および涙腺S3を刺激する。この刺激により、唾液及び涙液の分泌が促進される。すなわち、求心性・遠心性に顎下腺S1、舌下腺S2、涙腺S3、耳下腺S4を刺激して、唾液、涙液の分泌が促進される。
【0052】
このように、上記実施の形態に係る分泌促進装置1Cによれば、被検体Pがケガなどで、唾液腺S1,S2,S4、涙腺S3を直接刺激することができなくても、迷走神経N1を刺激することによって間接的に唾液又は涙液の分泌を促進することができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、非観血的(非侵襲)に迷走神経N1を電気刺激することができるので、被検体Pの身体的な負担を軽減することができる。また、装置の使用コストも低減することもできる。
【0054】
なお、上記各実施の形態に係る分泌促進装置1A,1B,1Cは、頸部H1、耳部E、顔面・頸部Bの電気刺激を付与した。このようにすれば、被検体Pの状況に応じて様々な部位にある神経を選択的に刺激して、効率のよい治療を行うことが可能となる。さらに、このように電気刺激を与える部位を変えたときの唾液又は涙液の分泌状態の違いに応じて、被検体Pにおける病変をある程度まで絞り込むことも可能となる。
【0055】
また、分泌促進装置1A,1B,1Cの少なくとも2つを同時に装着し、頸部H1、耳部E、顔面・頸部Bに同時に神経に電気刺激を付与するようにしてもよい。このようにすれば、各部位に付与する電気を大きくすることなく刺激を強くして唾液又は涙液の分泌を促進することができる。
【0056】
以上詳細に説明したように、上記各実施の形態によれば、唾液腺S1,S2,S4、涙腺S3に対して直接的に電気刺激を付与することなく、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経を刺激することによって間接的に唾液又は涙液の分泌を促進することができる。唾液又は涙液の分泌に関する支配神経は、頸部H1、耳部E、顔面・頸部Bなど様々な部位を通っているため、電気刺激を付与する場所を様々な場所に設定することができる。この結果、より多様な方法で唾液又は涙液の分泌を促進することができる。
【0057】
このような装置は、唾液の分泌を促進する神経への電気刺激により、唾液の分泌が促進される知見を得なければ容易に想到し得ないものである。
【0058】
また、上記各実施の形態によれば、被検体Pに対して薬物を投与することなく、唾液又は涙液の分泌を促進することができる。これにより、被検体P(患者)の負担を減らすことができる。
【0059】
また、上記各実施の形態に係る分泌促進装置1A,1B,1Cは、唾液又は涙液の分泌量を計測する計測部を備えていてもよい。測定部で唾液又は涙液の分泌が閾値より低下した場合に、パルスジェネレータ3が電極2A,2B等を介して、被検体Pに電気刺激を付与するようにしてもよい。また、分泌促進装置1A,1B,1Cに電気刺激を開始するスイッチを備え、被検者Pの意思で(被検者Pが眼や口が乾燥したと判断したときに)電気刺激を開始できるようにしてもよい。
【0060】
また、上記各実施の形態に係る分泌促進装置1A,1B,1Cを用いて電気刺激を付与する部位を変更した場合の唾液又は涙液の分泌状態を測定することによって、被検体Pにおける病変部位(異常部位)を特定することができる。例えば、唾液腺S1,S2,S4に対して直接電気刺激を行った場合、唾液がうまく分泌されるのに対し、迷走神経N1を刺激しても唾液がうまく分泌されない場合には、迷走神経N1の異常を疑うことができる。また、本発明は、ドライマウスやドライアイを生じる原因となった神経の特定に用いてもよい。
【0061】
さらに、我々は、唾液に関する支配神経への電気刺激はブラキシズムの抑制効果があることも見いだした。そこで、
図5に示すように、簡易型筋電位計10を睡眠中の被検体Pの耳部Eにセットして、簡易型筋電位計10の出力をトリガとして、すなわち簡易型筋電位計10で計測される側頭筋活動が活発になったこと、すなわち側頭筋活動に関する筋肉の筋電位が閾値を超えたことを検出した場合に、耳部Eに装着された分泌促進装置1Bが、唾液又は涙液に関する支配神経に対して電気刺激を付与するようにしてもよい。このようにすれば、唾液の分泌が促進され、嚥下と食道内の酸クリアランスにより、ブラキシズムが抑制される。すなわち、上記各実施の形態に係る分泌促進装置1A〜1Cを、ブラキシズムの抑制に用いることも可能となる。
【0062】
また、
図6に示すように、分泌促進装置1Dは、唾液又は涙液の分泌に関する支配神経のうち、被検体Pの複数の異なる部位を通る神経に対してそれぞれ同時に電気刺激を付与する複数組の一対の電極(2A,2B)、(2C,2D)、(2E,2F)を備えていてもよい。
【0063】
また、電気刺激を付与する神経は、上記各実施の形態のものには限られない。
図2に示す唾液又は涙液に関する反射弓を構成する神経であれば、
図2に示すいずれの神経に電気刺激を付与するようにしてもよい。例えば、被検体Pの腹部、胸部で迷走神経N1に電気刺激を与えるようにしてもよい。また、顎下腺S1、舌下腺S2、涙腺S3、耳下腺S4を個別に刺激することができる。例えば、大錐体神経N31を刺激すれば、涙腺S3のみ刺激することができ、鼓室神経N42を刺激すれば、耳下腺S4のみ刺激することができる。
【0064】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。