(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854583
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】着座補助具
(51)【国際特許分類】
A47C 7/42 20060101AFI20210329BHJP
A47C 7/62 20060101ALI20210329BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20210329BHJP
A61G 5/00 20060101ALI20210329BHJP
A61G 5/02 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
A47C7/42
A47C7/62 Z
A61F5/01 E
A61G5/00 503
A61G5/02 506
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-198974(P2015-198974)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-70465(P2017-70465A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年10月4日
【審判番号】不服2020-11553(P2020-11553/J1)
【審判請求日】2020年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】512036487
【氏名又は名称】村上 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】村上 潤
【合議体】
【審判長】
一ノ瀬 覚
【審判官】
出口 昌哉
【審判官】
島田 信一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/012321(WO,A1)
【文献】
実開平6−79348(JP,U)
【文献】
特開2004−329812(JP,A)
【文献】
特開2006−75257(JP,A)
【文献】
特開2007−307347(JP,A)
【文献】
特開2010−158282(JP,A)
【文献】
特開2010−99453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/40 - 7/48
A47C 27/00
B60N 2/00 - 2/90
A61G 1/00 - 7/16
A61F 5/00 - 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に第1の平面ファスナー(4)を備えた係止部材(2)と、
第1の平面ファスナー(4)に密着係止される背面部(6)及びこの背面部の下端に設けられた着座面(7)で構成された吊下げ部材(3)とからなる、椅子又は車椅子の榻背部(20)から吊り下げて使用するための着座補助器具であって、
この係止部材(2)には榻背部(20)に固定するための装着紐体(5)が備わっており、
この吊下げ部材(3)には、その背面部(6)の裏面全体に第1の平面ファスナー(4)と脱着自在に密着しうる第2の平面ファスナー(8)が配されており、
さらに着座面(7)の中央には、先端を座面後方に向けた断面楔型の座骨支承用突起状弾性体(9)が配されていること、
を特徴とする着座補助器具(1)。
【請求項2】
前記第2の平面ファスナー(8)はニット編地からなり、吊下げ部材(3)の背面部(6)の裏面全体がこのニット編地で構成されていること、を特徴とする請求項1に記載の着座補助器具(1)。
【請求項3】
前記吊下げ部材(3)は、表面素材(10)と裏面の第2の平面ファスナー(8)との間に非伸縮性の生地からなる芯材(11)を備える一方で、
座骨支承用突起状弾性体(9)のほかに着座面(7)用の内部クッションを備えていないこと、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の着座補助器具(1)。
【請求項4】
前記表面素材(10)は、経編二重構造であること、を特徴とする請求項3に記載の着座補助器具(1)。
【請求項5】
前記吊下げ部材(3)の着座面(7)は、その前端中央部が前方に突出した引出部位(12)を備えており、着座面(7)の後端中央は後方に膨らむように弧状に湾曲しており、さらに背面部(6)の下方は着座面の後端の湾曲形状に沿って曲面状に形成されていること、を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の着座補助具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車の座席をはじめとする背もたれの備わった椅子(榻背部を有する椅子)もしくは車椅子等への着座補助具に関するものであり、着座時の身体負荷を低減させ、着座姿勢を快適なままに長期に保持しうる着座補助器具の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前提となる本発明にいう適切な着座姿勢について以下に記載する。人の体幹と下肢とは、骨盤を介して連結されており、骨盤の上方は仙骨底により第5腰椎と、下方は寛骨臼により大腿骨頭と関節で連結している。そして、骨盤をつくっている骨は仙骨、尾骨および左右の寛骨である。寛骨はさらに腸骨、恥骨、坐骨の3部から成っている。
【0003】
そして、人が真っ直ぐに直立した姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)のときには、骨盤は坐骨が一番下側に位置する状態で垂直に安定した形になる。そして、耳の穴、肩(肩峰)、大転子(股関節の付け根の骨)、膝のやや前方、外果(外くるぶし)が一直線になった状態が、背筋の伸びた美しい姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)とされている。
【0004】
従来、着座時も直立時のように背筋の伸びた姿勢が理想的な美しい姿として指向されてきた。それゆえに座面や背もたれの位置、角度を工夫することで着座時にも直立姿勢のような背筋の伸びた状態を維持する椅子が製作されてきた。
【0005】
しかしながら、この姿勢のまま着座すれば、坐骨に大きな荷重がかかり、座面に接する臀部の一部に偏った荷重がかかることとなる。また長時間同じ姿勢を保持するには、無理な姿勢ゆえに余計な筋力を要するものであった。
【0006】
そこで、快適な着座姿勢を保持できるようにするために、着座面のクッションに工夫をして、体圧分散に適するようにするべく、たとえば、低反発ウレタン樹脂を用いたり(たとえば特許文献1、段落0024参照。)した椅子の上に載せ置くクッション材が知られている。
しかしながら、体圧を分散させるといっても、単に低反発なクッションを用いただけでは、着座者の身体の凹凸に合わせてゆっくり沈み込むものの、沈み込むだけであれば追従するのみであるから、望ましい姿勢を保持するというには十分とはいえない。また沈み込んでしまった状態での局所的にかかる荷重が軽減されるわけではないので、長時間着座すると姿勢保持に筋力を要したり、臀部や腰部が疲労するようになるといった点の解消には十分ではなかった。
【0007】
たとえば、姿勢に合わせるものとして、人の脊柱の腰部のS字状の湾曲や、頸椎部のS字状の湾曲に沿わせるように、背もたれ部の形状を湾曲させた椅子がある(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、直立姿勢の脊柱を座った状態でも保持させるための椅子であるため、骨盤が直立時と同じく坐骨を真下に位置せしめ垂直に保持された状態で座ることとなるので、坐骨に荷重が集中し、臀部が局所的に疲労する点では、いまだ十分なものではなかった。
【0008】
そこで、本発明者は、さらに人間工学的に直立時と着座時の姿勢の違いについて、骨格と筋肉の張力バランスを考察することで、以下のように、着座時には弛緩した状態では、背中が丸くなるのが自然であることを見出している。
【0009】
まず、人は立位の直立姿勢をとっているとき、
図10(a)に示すように、下腹部側の「腸腰筋群」27と臀部側の「殿筋群」28の二つの筋肉が拮抗筋として作用することから、股関節という不安定な関節を跨いでお互いに引っ張り合う張力によって骨盤22は坐骨を真下に位置させた「立った位置」でしっかりと安定保持されている。すなわち、真っ直ぐ立っているときには、前後の拮抗筋の張力でバランスがはかられるので、さほど筋力を使うことなくとも、そのまま楽に姿勢を維持することができる。
【0010】
ところで、人が座位の姿勢をとり、股関節が90度近く曲がることとなると、
図10(b)に示すように、一方では下腹部側の「腸腰筋群」27は筋の付着部である腰椎と大腿骨の位置が近くなり、伸びていた筋肉が緩むので張力が弱まることとなる。他方、臀部側の「殿筋群」28は骨盤22から股関節を中心に大腿骨まで、外側を回り込むようにして引き延ばされるので、張力が強くかかることとなる。
【0011】
そこで、座位姿勢時に、骨盤22を支えているこれらの腸腰筋群と殿筋群といった拮抗筋が張力のバランスをとろうとすると、立位では坐骨を下に位置させて垂直に「立った位置」にあった骨盤22が、坐骨を前方に押し出すように傾倒し、「傾斜した位置」となる。すなわち、骨盤を垂直に立った位置で安定させていた立位姿勢での筋肉の張力が、座位姿勢では、股関節を中心に骨盤を傾倒させる筋肉の張力として作用するのである。
【0012】
すると、土台となる骨盤が傾倒しているので、その上方に位置する腰椎をはじめとする脊柱が、S字状に真っ直ぐ伸びた姿勢を維持するには、かえって余計な筋力を要することとなる。すなわち、
図9(a)に示すように、骨盤22や腰椎の位置が坐骨23を下にして坐骨底面の向き17が直立時のような水平の向きになると、かえって余計な筋力を要するのである。
【0013】
そこで、健常者でも身障者でも、あえて弛緩して座ったときには、骨盤が自然と傾倒し、それに応じて背中も丸くなる。以上のことから、着座姿勢は直立時の姿勢に近いものを理想とうするべきではなく、むしろ、
図9(b)のように、骨盤22が坐骨23を少し前に倒したようにして坐骨底面の向き17が「傾斜した位置」をとることのほうが安楽なのである。ずっこけたような、背中が丸く湾曲した姿勢のままに安楽に着座できるほうが余計な力が入っておらず、自然で楽だから長時間の着座でも疲れないのである。
【0014】
そして、本願発明者は、こうした着想に基づいて、背筋の湾曲に沿うようにして背面を支える種々の椅子を発明してきた(たとえば特許文献3参照。)。こうした椅子を提供することができれば、姿勢を保持しやすく筋力を要しないものとなるものの、しかしながら、自然座位姿勢を誘導するために、個々人に最適な着座姿勢となる椅子の位置形状を具体的には模索しなければならず、各人が使用するに際して、適用なものを直ちに得ることが必ずしも容易ではなかった。また、本願発明者が考案しているような椅子を当初から入手するのでなければならず、市販の車椅子など、現在使用している着座具を使用するときには、対応できないものであった。
【0015】
また、着座者が腰部から腹部にかけて装着するコルセットを添設した金属プレートの上部を折り曲げてフックとして背もれに掛止めるとともに、膝裏付近に着座者を支持するクッションを設けた、腰痛予防軽減用の補助具がある(たとえば特許文献4参照。)。これは、臀部の直下は空洞であって座骨等を支えるものがなく、吊り下げられたコルセットによって体重の70%を支え、膝裏のクッションで残りの30%を支持するというものである。コルセットを巻いた腰部と腹部が共に拘束されるものであること、腰痛予防・軽減目的であって背骨がS字状に伸びるなどしており、着座姿勢に対するアプローチの方向性を大きく異にしている。また、臀部の直下が空洞であるといった特殊な椅子であることから、補助具ではなく、実質的には、専用の椅子に等しい構造であった。
【0016】
また、車椅子の座面に載せて、使用者が車椅子からずり落ちるのを防ぐ補助具として、使用者の背面側の骨盤部に当接しうるよう骨盤サポートを背もたれ下部と骨盤との間の隙間の間を傾動可能とするべく、骨盤サポートを下方で支持する左右のスライド杆を左右の側部フレームの後端部上を前後にスライド移動せしめるものとし、また、座面の前端からはみ出す膝裏側の大腿部を大腿部サポートにより支持し、臀部のあたりを窪ませて前方へずれるのを防止するとともに、車椅子の座面の後端側に係止される係止片もしくは係止バーで補助具全体が前方へ移動しないようにした車椅子用補助具である(たとえば特許文献5参照。)。
【0017】
上記の車椅子用補助具は、膝裏を高くして臀部をくぼませたクッションを用いており、膝裏を高めたことで使用者が前方へずり落ちるのを防止するものであって、かつ背面側に生じる隙間を背面側の角度調整によってサポートしようとしている。もっとも、補助具自身が側部に湾曲したフレームを備えており、車椅子の座面のフレームの上にさらに屋上屋を重ねたような二重構造となるものであるから、骨組みの分だけ補助具自身の荷重も増して、重く複雑なものとなっている。さらに、フレームは、予め湾曲させた角度をもたせたうえで、骨盤サポートなる傾動部は、下方の付け根が前後に移動することで角度を可変とするものであることからすると、傾動角度と前後にスライド移動させる動きはリンクしており、両者を切り離して角度と前後位置を個別に調整する余地はない。そこで、椅子の背面と腰部との隙間を埋めるといっても、必ずしもジャストフィットするわけではなく、その効果には限界があった。
【0018】
また、補助具全体が前方に移動することを係止具で座面後端に係止固定することで防止している点で、補助具の座面を椅子や車椅子の座面とはフリーで直接固定していない本発明とでは、自由度が異なっており、着座者の体勢への適応させやすさの点では必ずしも十分とはいえなかった。着座者が使用中に体勢を修正することが容易にできないからである。さらに、弧状に曲がったフレームが角度可変となっても、体型が異なると骨盤のサポートとしては十分なフィット感やサポートを提供するには必ずしも十分とはいいがたかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004−329812号公報
【特許文献2】特開2006−075257号公報
【特許文献3】特開2007−307347号公報
【特許文献4】特開2010−158282号公報
【特許文献5】特開2010−099453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
着座時に弛緩しうるよう筋力のバランスを考慮して骨盤が傾斜するように座ろうとするときには、臀部が前方へと移動する、いわばずっこけた姿勢となることが望ましい。ところが、椅子の手前側に着座するようになるので、通常の榻背部(背もたれ部)を有する椅子にそのまま着座すると、かえって背面側の荷重までが座面側に大きくかかってしまうこととなる。そして、座面の一部に大きな荷重がかかることとなることは、長時間の使用に耐えない着座姿勢となることから、弛緩させた姿勢で長時間着座すること自体がそもそも困難であった。
【0021】
しかし、専用の椅子を予め用意しているとは限らないばかりか、自動車のようにそもそも座席が備えつけで選択の余地が乏しい場面も多い。そこで、着座姿勢をとる際に安楽な姿勢を保持しうるよう補助する着座補助器具が要請されている。そして、骨盤が傾斜した状態では、脊柱がS字状だった直立時とは異なる姿勢となるので、直立時とは変化したことによる荷重のかかり方となるので、その違いにみあった背面のサポートを付与することが要請されている。
【0022】
そこで、着座時に骨盤が傾斜した位置にありながら長期に安楽に維持させることができる、健常者にも身障者にも適した着座補助具を提供することを志向して、本願発明者は、PCT/JP2014/69480に記載の着座補助具を新規に発明するに至った。これは、榻背部を有する椅子又は車椅子に該外装体の座面部を載置して使用する着座補助具であって、該クッションは、座面部後方から座面部中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面を備えており、該外装体はその背面部を椅子又は車椅子の榻背部上方から吊り下げられることで着座者の背面と座面を支持することを特徴とする、着座補助具である。なお、このPCT出願については、国際調査報告において、その発明の特別な技術的特徴は、背面のY字状の補強部材を用いた構成であるとされている。
【0023】
たしかに上記の発明によって、臀部がやや前方に移動した位置で腰掛けて、体を背面に持たせかかったときに、背面側を全体的に支承することで偏りなく体圧を分散せしめ、坐骨近辺にかかる荷重も分散して局所的に集中しにくいものとすることで、着用者が弛緩した姿勢のままに長時間安楽に着座可能となる着座補助具が提供されることとなった。また、椅子(たとえば、自動車の前席シート等も含む。)や車椅子といった種々の背面を有する着座具上に載置しうる簡易な構造の着座補助具であるから、種々の椅子にも適用しうる着座補助具である。
【0024】
もっとも、上記発明の着座補助具を用いても、一回の着座動作で適切な位置に深く腰掛けることができるとは限らず、着座後に自分で再度座り直す動作をしたり、介助者に適切に補助してもらうことが必要となることが多い。このように、一般的に、椅子に着座する場合、一旦腰を降ろして座面に荷重をかけたあとで、再度腰を浮かせるようにして身体を適切な位置へと移動させる、座り直しの動作をすることが多い。座り直す理由は、着座する際には椅子を注視するのではなく、前方を向いていることが多いこともあって、適切な着座位置を視認できず、また感覚的にも確認しづらいからである。前方を向いたままに腰掛けるときには、膝裏などに座面の先端が触る感覚をもって、後ろに荷重を移動させていくものの、どこに座面があるのか、荷重をかけ始めるきっかけが把握しにくいので、なかなか思い切って深く腰掛ける動作をしにくいものである。
【0025】
また、臀部や背中などの人体は丸みを帯びているところから、座った位置が適切な部位になるように自然と寄り添うように導ければよいが、そうしたフィット感に注力したものではなかった。そこで、深く腰掛けやすいことに加えて、より姿勢が保持しやすい体制が自然と形成されやすいフィット感の高い着座補助具が望まれている。
【0026】
さらに、人の日常生活は多くの移動を伴うので、種々の場所で着座することとなる。1箇所に快適な着座補助器具を設置しても、それでは生活を補助する一助にしかならず万全とはいえない。ところが、現状の着座補助器具は、食堂の椅子ならその椅子、自動車の座席なら座席、車椅子なら車椅子と、それぞれに見合った補助具を個別に用意する必要があるところ、こうした着座補助器具は素材等にも特徴があり高額なものとなりやすく、各所に着けっぱなしにするのは現実的ではない。また、こうした現状の着座器具は、汎用性が必ずしも考慮されておらず、取り外して着座前に別な椅子に付け替えることも事実上困難である。
【0027】
そして、一般に、椅子は背もたれの高さも大きさも違えば、座面の形状も大きさも様々である。そして、椅子は、それ自体で安楽性を確保しようとすることから、座面が厚みのあるクッション性を備えているものも多い。特に自動車の座席などは、長時間のドライブに適用しうるように厚みのあるクッションである以外に、横荷重によってずれないように、座面や腰回りの周囲が盛り上がっているなど、立体的な形状をしている。そこで、着座補助器具自体にも厚みのあるクッションを用いてしまうと、過剰なクッションとなり、座面が高くなりすぎるなどの不都合が生じてかえって着座に支障が生じることもある。また、車両の座面の形状にクッションが盛り上がるなどしてしまうと、着座補助器具の座面が湾曲しすぎてしまい、座骨を支障して安楽な姿勢を形成することが困難となる場合が生じるなどしてしまい、適用しにくいものとなってしまっていた。
【0028】
そこで、個人個人の生活範囲全般を広くカバーしうるような汎用性の高い着座補助器具が提供されることが望まれており、とりわけ、こうした着座補助器具を日頃から必要とする人々から切実に望まれている状況にある。
【0029】
したがって、本発明が解決する課題は、使用中に骨盤が傾斜した位置にありながら長期に安楽に維持させることができる健常者にも身障者にも適した着座補助具を提供することであって、さらに、自動車の座面のような立体的なクッション椅子においても安楽な姿勢を提供しうる機能を阻害されずに十分に発揮できるものであり、簡単に深くしっかりと着座でき、そして、種々の自動車等のシート形状にも適用しうるのみならず、着座面の高さを当初の椅子の座面高さから大きく変えることがなく、さらに種々の椅子や車椅子などに適用可能な高い汎用性を備え、1つの着座補助器具を多様なシーンで用いることができる高い兼用性を備えた、脱着可能で可搬性に富んだ着座補助器具を提供することである。
【0030】
すなわち、椅子を使用中に、臀部がやや前方に移動した位置で腰掛けて、体を背面に持たせかかったときに、背面側を全体的に支承することで偏りなく体圧を分散せしめ、坐骨近辺にかかる荷重も分散して局所的に集中しにくいものとすることで、着用者が弛緩した姿勢のままに長時間安楽に着座可能となる着座補助具であって、かつ、椅子(たとえば、自動車の前席シート等も含む。)や車椅子といった種々の背面を有する着座具上に載置しうる簡易な構造の着座補助具であること、そして、さらに、着座補助具の使用に際して適切な姿勢がとれるように、着座補助具への着座動作が適切に行えるものであって、種々の椅子に付け替えて使用することが可能な、余計な厚みあるクッションで座面を必要以上に持ち上げないものを提供することである。
【0031】
適切な位置に座りやすくすれば、一人で腰掛け動作をする場合でも、座り直しを少なくできるなど、使用中に効果的な適切な姿勢をとることが容易となるし、介助者が着座動作を手伝う場合であっても、身障者が着座位置を把握して荷重移動を適切にしうることになれば、それだけ介助しやすくなる。そこで、着座動作時に深く適切な位置に導くようにすることが望まれている。
【0032】
また、身障者は健常者のように真っ直ぐ着座すること自体が容易とは限らず、左右に傾いたりして、バランスのよい位置取りが維持できないこともある。そこで、さらなる課題としては、椅子からずり落ちずに長時間腰掛けられるように、安定した姿勢状態を簡易に実現しうる着座補助具が望まれていることから、上記の着座補助具において、さらに使用中の姿勢保持にも適して適切な着座が容易となる機構を備えた着座補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の課題を解決するための手段は、第1の手段では、表面に第1の平面ファスナーを備えた係止部材と、第1の平面ファスナーに密着係止される背面部及びこの背面部の下端に設けられた着座面で構成された吊下げ部材とからなる、椅子又は車椅子の榻背部から吊り下げて使用するための着座補助器具であって、この係止部材には榻背部に固定するための装着紐体が備わっており、この吊下げ部材には、その背面部の裏面に第1の平面ファスナーと脱着自在に密着しうる第2の平面ファスナーが配されており、さらに着座面の中央には、先端を座面後方に向けた断面楔型の座骨支承用突起状弾性体が配されていること、を特徴とする着座補助器具である。
【0034】
係止部材と吊下げ部材の2パーツに分かれており、吊下げ部材は着座者の背面を支える背面部と背面部の下方に着座者の臀部を支承する着座部を備えて一体となったものである。係止部材は、表面に平面ファスナーがあり、吊り下げ部材の背面部の裏面に備わる平面ファスナーと密着して吊下げ部材を係止する。すなわち、一方の平面ファスナーがフック面であり、他方の平面ファスナーがループ面である。
【0035】
係止部材そのものは、椅子や車椅子の榻背部(背もたれ)に装着紐体で固定されている。装着紐体の先端にバックルなどを設けて、背もたれに紐体を張力をかけて固定してもよいし、たとえば自動車の座席であれば、ヘッドレストの下部に装着紐体をひっかけたり、結んだりすることができる。係止部材は、あらかじめ榻背部に取り付けておくことができるが、吊下げ部材を取り付けない状態では、係止部材を背もたれの裏側に回しておき、吊り下げ部材を取り付けるときに吊り下げ位置に固定するなどできる。そこで、吊下げ部材が平面ファスナーで脱着できることによって、使用しないときは背もたれに付いていても差し障ることがなく、吊り下げ部材を取り付けたいときに自在に取り付けて使用ができる。そこで、係止部材のみを複数用意して生活範囲の種々の椅子の高さや形状の異なる榻背部に予め取り付けておくことができ、1つの吊り下げ部材を着座者が持ち歩いて、これらに取り付けて着座補助器具として利用することができる。
【0036】
座骨支承用突起状弾性体は、硬質発泡ウレタン樹脂や、低反発ウレタン樹脂などのクッション性のある弾性の素材であれば適用でき、ゴムなどでもよい。着座者の座骨に対向してこれを下方から支承することで、いわばずっこけたような安楽な姿勢を支持することができる。座骨の位置が前方に移動しないように断面楔形のクッションを着座面の中央に配しているにすぎず、座骨付近で上方からの荷重を1点で支えるといった従来の立ち姿勢を再現するような椅子とは異なっている。あくまで座面や腰部が全体で面として受け止めて支承することとなっているのであって、体圧は着座補助器具の着座面や腰部付近の背面部に適切に広く分散されることとなる。
【0037】
第2の手段は、前記第2の平面ファスナーはニット編地からなり、吊下げ部材の背面部の裏面全体がこのニット編地で構成されていること、を特徴とする第1の手段に記載の着座補助器具である。
【0038】
第1の平面ファスナーとこれに対向する第2の平面ファスナーとは、全体としては面接触で密着係止することとなる。すると、個々の接触箇所それぞれにかかる力は小さくなるので、平面ファスナーが密着と脱離が自在な状態で、さらにニット編地のような柔らかい第2の平面ファスナーの表面性状であっても、人の荷重を支承して吊り下げることができる。
【0039】
第2の平面ファスナーは柔らかいニット編地であって、これが吊下げ部材の背面部の裏面全面に配されているので、係止部材の第1の平面ファスナーと高さを変えて密着係止することが自在に可能である。椅子によって榻背部の高さが種々に異なるが、座面上に適切な高さで係止しうるように、平面ファスナーの密着部位を簡易に調整しうるものとなっている。
【0040】
第3の手段は、前記吊下げ部材は、表面素材と裏面の第2の平面ファスナーとの間に非伸縮性の生地からなる芯材を備える一方で、座骨支承用突起状弾性体のほかに着座面用の内部クッションを備えていないこと、を特徴とする第1又は第2の手段に記載の着座補助器具である。
【0041】
非伸縮性の芯材とは、帆布やテント生地といった、丈夫で伸縮性に富んでいない通常の織地や編地、不織布等の布帛のほか、カーボン繊維やプラスチック樹脂フィルムといった素材をいう。芯材により吊り下げ荷重に耐える一方で、着座面には、中央の座骨支承用突起状弾性体を除き、特段、内部にクッション素材を備えておらず、厚みの薄い座面を形成しているものである。そこで、座面が厚みのあるクッション性の椅子などのうえに設置しても、着座面の高さを大きく変更することにならず、踵がつかず、着座姿勢が不安定になるといったことも招来しない。
【0042】
第4の手段は、前記表面素材は、経編二重構造であること、を特徴とする第3の手段に記載の着座補助器具である。
【0043】
本発明の手段では、吊下げ部材の表面の素材は、レザーやファブリックなど種々に適用可能であるが、第4の手段にあるように、ダブルラッセルなどの経編二重編みの素材であるときには、通気性とクッション性が表面に付与されるので、蒸れにくく、長時間の着座でも体圧が分散できて好適である。
【0044】
第5の手段は、前記吊下げ部材の着座面は、その前端中央部が前方に突出した引出部位を備えており、着座面の後端中央は後方に膨らむように弧状に湾曲しており、さらに背面部の下方は着座面の後端の湾曲形状に沿って曲面状に形成されていること、を特徴とする第1から第4のいずれかの手段に記載の着座補助具である。
【0045】
この手段では、着座部は、自転車のサドルを平面視したような形状であり、着座部の前方中央にはサドルノーズのように前方に突出した引出部位が備わっており、着座部の後方は中央が奥行き深くなるように弧状に湾曲している。この着座部は着座者の臀部を包む程度のサイズであればよく、臀部の湾曲にあわせて、中央が深く両端が浅くなるように前方に湾曲しているものであって、さらに、自転車のサドルのように両足の付け根から先の脚の動きを拘束しないようになっており、着座部はその中央部の股下の部分のみを前方に突出させているものである。
【0046】
さらに、この引出し部位は、着座者が着座時に股下に片手を入れて把持して前方に引っ張ることでができるようになっている。片手で引っ張ることで、着座者は容易に深く腰掛けることができ、腰部や臀部に背面部表面や着座面が十分に密着するようになる。予めあたりをつけて深く一気に腰掛けずともよい。また、簡単に前方に座面補助器具を引っ張り出すことができるので、椅子に座る場合と異なり、自分が後方に移動するのではなく、前方に引っ張りだした座面部に座ってから、着座者は吊り下がった状態で移動することができるので、呼び込むようにして無理なく深く腰掛けることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の着座補助具を椅子もしくは車椅子に設置すると、使用する健常者もしくは身障者は、骨盤を坐骨を前方に押し出すように傾倒させて坐る安楽な弛緩した姿勢をとることが簡易にできるので、着座姿勢を長期に維持できることとなる。そして、背面部から座面後方にかけて外装体が着座者の背中から腰部にかけてを包み込むように当接するので、着座者の荷重を広く分散でき、局所に荷重が集中することを避けることができるので、長時間着座をしても疲れにくいものとなる。
【0048】
骨盤を坐骨を前方に傾倒させた状態(弛緩した姿勢)で着座するとき、本発明の着座補助具の座面部上平面の傾斜面が傾倒させた坐骨を下から正対するように受けとめる。すると、座面のクッションは、傾斜面が斜めになった坐骨(坐骨底面の向き)に対応して正体するように当接して支持することができるので、ずっこけたような楽な姿勢のままで坐骨の下から適切に十分に荷重を支承することができる。その際、背面側を包むように伸縮性の素材がサポートするので、坐骨の下で受けとめるクッション材の一点に荷重が集中することはなく、さらに体圧が適度に分散されることになる。そして、座面の傾斜面を坐骨部を支えることで機能を十分に果すので、座面を膝下まで長く延長する必要はなく、コンパクトなものとすることができる。
【0049】
係止部材と吊下げ部材に分かれており、着脱自在であることから、係止部材のみ椅子の榻背部に取り付けらている状態でも係止部材を榻背部の裏側に回して差し障りなく通常の椅子として使用することができ、吊下げ部材を平面ファスナーで密着係止すれば、すぐに着座補助器具としての機能を発揮しうるものとなる。
【0050】
係止部材を種々の椅子の榻背部に固定することができるので、高さや形状が異なる椅子であっても、吊下げ部材を適用して使用することができる汎用性の高い着座補助器具となる。すると、種々の椅子に係止部材をそれぞれ予め取り付けておけば、1つの吊下げ部材を持ち運んで使い回せるので、兼用できることとなる。そこで可搬性に富んだ使い方が実現できるものとなり、生活圏にいくつも着座補助器具を用意せずとも、持ち運んで使うことが現実的に可能となる。
【0051】
さらに、背面部裏面をニット編の素材とすることで、平面ファスナーのフック面と密着するループ面を広汎に備えることができ、面全体で荷重を支えるので十分に体重を支承することができる。そして、ニット素材であれば、背面部の裏面全体に適用できるので、係止部材の取り付け高さを自在に変更しうるものとなる。すると、種々の椅子の背もたれ形状にあわせて取り付けることができるので、汎用性、兼用性、可搬性が現実的に確保しうるものとなる。
【0052】
また、着座面の厚みが薄く、高さを必要としないので、着座者の座る高さが着座補助器具の使用によって高くなりすぎることがない。したがって、自動車の座席のような厚みのあるシートなどにおいても、邪魔になることがなく使用することが好適にできる。また、立体的に張り出している自動車のバケットシートのような膨らみに対しても、厚みの薄い着座補助器具であることから、着座面や背面部の側面が立体的に前に押し出されたりすることが生じにくく、こうした立体形状にも阻害されずに使用することができる。
【0053】
また、着座面の前方中央に座面引出部位となる突出部を設けたことで、着座後に着座者自身又は介助者が座面を前方に引き出すことが容易である。これにより背面側と背中との接触がより密接となり、体圧分散がより適切なものとなる。着座者は、予め深く腰掛けるのではなく、着座補助器具の着座面を前方に引っ張ることで、自分が移動するのではなく、着座補助器具側を移動させることが股下に手を突っ込んで簡易に片手でもできる。通常の椅子のように深く腰掛けるために自分の体重を後方に移動する必要がないので、姿勢を大きく変化させずに、深く腰かけることができるので、着座者に負担が少なく、かつ容易である。
【0054】
また、股下のみ中央が突出している形状であれば、大腿部まで着座面で覆われることがないので、臀部のサポートは十分得られる一方で、脚の動きを阻害することがなく、両足の付け根から先の脚の動きは拘束されない。そこで、自動車の運転など、脚の動きを伴う着座姿勢にも好適である。
【0055】
さらに、着座時に正常に姿勢を保持できない身障者の場合、左右に傾いたり、前方に突っ伏すように体が倒れてしまい、着座補助具の提供する安楽な姿勢を体感しにくい場面がある。ところが、本発明の場合、着座面の後方が丸く弧状になっており、これに沿うように背面も脇のあたりが前方に湾曲している。すると、荷重がかかって着座した場合、腰部の周辺をすっぽり包み込むようになるので、適切に体圧が分散されるほか、本来維持したい正常な姿勢にすっぽりと包まれることで自然と導かれることから、姿勢維持も容易となる。
【0056】
とりわけ、ハンドルを握る車両の運転では、左右に横Gがかかったりして振られやすく姿勢を崩しやすい。また、疲れてしまえば、前方のハンドルに体が前傾してしまったりすることとなるが、頭が下がることなく、しっかり保持されることで疲労が低減されるので、前方を向いたまま長時間姿勢を正しく保持することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】本発明の実施の形態に記載の着座補助器具の係止部材と吊下げ部材を着脱した状態を示した図である。
【
図2】本発明の実施の形態の着座補助器具を、係止部材と吊下げ部材とを密着させた状態を示した図であり、(a)と(b)とで、第1の平面ファスナーの取り付け高さが異なっている。
【
図3】本発明の実施の形態の吊り下げ部材の1つとして、(a)が表面のレザー素材を、(b)が裏面にニット編みのループ面(斜線で示す。)を第2の平面ファスナーを用いた場合の、背面部と着座面を縫着する前の状態を示す展開図である。
【
図4】本発明の実施の形態の吊下げ部材における、芯地の配置の一例を示す展開図である。
【
図5】本発明の実施の形態の吊下げ部材において、表面、芯地、裏面を重ねた配置状態を示す図である。背面部と着座面とを立体的に縫着する前の段階を裏面側から示した展開図である。
【
図6】本発明の着座補助器具の着座面を示した図である。(a)は着座面を平面視したものであり、(b)は横方向に切断したA−A断面を、(c)は、前後方向に切断したB−B断面を示す図である。
【
図7】本発明の着座補助具の係止部材を示す。(a)は裏面であり、(b)は表面であり、斜線は第1の平面ファスナーのフック面を意味する。
【
図8】本発明の着座補助具の背面中央に係止部材が密着する様子を、
図5の展開図上に模式的に配した図である。斜線は第2の平面ファスナーのループ面を示す。
【
図9】従来例として、(a)通常のハイバックの椅子に背中を沿わせるように着座した場合と、(b)弛緩させた場合の人体の腰椎と骨盤の向きを示した図である。
【
図10】(a)立位および(b)座位において、骨盤を坐骨を下方に位置させた状態での、腸腰筋群と殿筋群の様子を示した図である。
【
図11】本発明の着座補助器具を自動車シートに設置した使用時と未使用時での体圧分散の計測結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の実施の形態の着座補助具を主に自動車のシートの座面に適用した場合を例にとって、図を参照しながら適宜説明する。なお、椅子であっても、車椅子であっても、榻背部に係止部材を取り付けて、これに吊下げ部材を平面ファスナーを介して密着係止する基本的な用法は変わらないので、背もたれのある着座しうる椅子であれば、基本的に本発明は適用可能である。
【0059】
なお、本発明の着座補助具1は、着座者21の着座姿勢が、骨盤22を直立時のように坐骨23が真っ直ぐ下にくる位置で坐るのではなく、坐骨23が斜めになるように骨盤22がやや傾いた姿勢で着座するような弛緩した姿勢で使用しうるものである。そして、着座時には、坐骨23の傾斜(坐骨底面の向き17)と正対するように座面奥から中央に向かって前方へ高くなった座面部の傾斜面9(傾斜角20度程度)に坐骨23をのせるようにして座ることができるので、本発明の着座補助具1の背面部6全体と着座面7とでしっかりとサポートされた状態で着座者21の身体が安楽に保持され、快適に体圧分散して長時間着座しうるようになっている。そして、本発明の手段は、以下のような実施例の構成などに具現化することができる。
【0060】
本発明の実施品の一形態の着座補助具1を
図1および
図8に示す。
図1は、着座補助器具の係止部材2と吊下げ部材3を密着させる前の状態を示している。係止部材2の中央に斜線で示す部分が第1の平面ファスナーのフック部であり、これが吊下げ部材3の裏面の第2の平面ファスナーのループ部と密着することで係止されることとなる。第2の平面ファスナー8が裏面に全面に配されているニット地であることから、
図2に示すように、係止部材2の取り付け高さは、上下に可変であり、椅子の榻背部20の背もたれ高さや、大きさの違いによって、吊り下げる高さを変えることが適宜可能となっている。
【0061】
係止部材2の装着紐体5は、先端に適宜バックル13等が設けられており、図示しないが、椅子の背もたれの上部にしっかりと留めることができるようになっている。自動車の座席であれば、ヘッドレストにひっかけることもできる。
【0062】
そして、
図1、2に示すように、吊下げ部材3は、着座者の背中を保持する背面部6と臀部をサポートする着座面7とからなり、着座面7後方の湾曲に沿って背面部6も立体的に曲面を形成しているので、結果として着座者の腰あたりの湾曲に適切に寄り添うものとなっている。
【0063】
着座者は、自身の座骨を座骨支承用突起状弾性体9に当接させるような位置で腰掛けるものであるが、前を向いたまま腰掛けても深く腰掛けて適切な位置に座ることができるわけではない。そこで、やや腰を浮かせた状態で、着座面7の前方中央の引出部位12を片手で把持して前方に引出し、適切な位置に着座面を移動させてから、深く荷重をかけて着座するようにする。こうすることで、前後に姿勢変化させる動きをせずとも、やや腰をうかせるだけで着座姿勢の修正が可能であり、負担がかからない。
【0064】
さて、吊下げ部材3の表面は、
図3(a)に示すように、レザー素材といった車のシートにも違和感のない素材を選ぶことができる。もちろんダブルラッセルのような通気性がよく体圧分散に優れる素材でもよいが、ファブリックやレザー素材といったカーシートに親和性の高い素材であっても、
図4に示す芯材11がサポートすることから、問題なく使用できる。そして、裏地は
図3(b)に示すように、第2の平面ファスナー8となるニット編地が全面に配されているものが適用できるので、縫製の手間が余計にかかることなく、さらに広範囲に平面ファスナーのループ部をを設けていることから、フック部の平面ファスナーを密着係止しうる高さ調整幅がとても大きく確保されている。
【0065】
さて、吊下げ部材3は、たとえば、背面部が、高さが680mm、下端幅が460mm、上端幅が110mmで、着座面の奥行は375mmで、後方80mmが湾曲した円弧となっており、左右端から前方中央に向かってやや膨らんだ3角形の座面は、自転車のサドルを平面視したようにその前方中央に引出部位12があり、引出部位は長さ90mm、幅60mmで、先端が丸くなったノーズ形状に形成されている。
【0066】
吊下げ部材3は、
図4に示す形状の芯材11が裏面の第2の平面ファスナー8のニット編地の上に配されており、この芯材は、テント地や帆布からなる伸びにくい素材である。着座面の中央には、芯地11の上に、さらに
図6に示すように座骨支承用突起状弾性体9として、硬質発泡ウレタン樹脂のクッションが配されている。断面が楔形のクッションは、先端寄りが高くなっていて、座骨に斜めに当接するようになっており、ずっこけた姿勢のときにぴったりと座骨と密着することとなる。
【0067】
そして、
図5に示すように、裏地、芯材、表地の3つの素材が一体に縫製され、さらに背面部と着座面とは、着座面7の後端側の左右の湾曲に沿うように、背面部が縫製されるので、背面側は腰の湾曲に沿うような自然なカーブを描くものとなっている。これらの縫製はミシン等で通常的に実施しうる。
【0068】
次に係止部材2について
図7を用いて説明すると、裏面側から左右上方に向けて左右の装着紐体5が伸びている。装着紐体は、ナイロンやポリプロピレンといったプラスチックでも、帆布のような生地でもよいが、伸縮しないほうが好適である。シートベルトにもちいられるベルトの材質のように荷重に耐えるものが望ましい。そして、紐の先端には、バックルを備えることで、簡便に脱着しうるものとしておくと、係止部材の装着が苦にならず、いろんな椅子に装着しておくことが容易に実施できる。
【0069】
係止部材のサイズであるが、たとえば、第1の平面ファスナー4の装着面は縦200mm、幅100mm、紐の幅は20mmとする。装着紐体5の長さは、椅子毎に決めておけば、取り付け高さ位置のつけ間違いが防げる。一方、汎用性に鑑みて、紐の長さは適宜調整可能としておいてもよい。
【0070】
係止部材2の表には第1の平面ファスナー4のフック面を全面に配している。面で密着させることで圧力を分散して、係止するので、ある程度の面積が確保されていることが望ましい。そして、椅子毎に係止部材2の位置が異なる場合もあるが、
図8のように全面に第2の平面ファスナー8が配されているので、適切に吊り下げられるように、吊下げ部材の取り付け高さを調整しうるので、吊り下げるような使用方法は広汎に確保しうる。したがって、吊下げ部材3を持ち運んで、車の座席、ダイニングの椅子、机の椅子といった場面ごとに使い回しても、兼用で用いることができる。
【0071】
本発明の座面補助具1は、以上のように、椅子の背もたれに係止部材2を取り付け、元々の椅子の座面の高さ近くに、着座面7が浮く程度の高さで吊下げ部材3を平面ファスナー4と8を密着させて係止するようにして用いる。座面の高さが高くならず、脚の動きが邪魔されないので、自動車の運転等の動作を伴う着座に好適であり、高さが変わらないので車両のような天井のある場面でも邪魔にならずに使用ができる。そして、降車時に吊下げ部材3を係止部材2から外して持ち歩き、室内の椅子の係止部材2に取り付けるなどできるので、可搬して兼用で1つの吊下げ部材3を使い回すことができる。
【0072】
(体圧分散の測定)
本発明の着座補助器具を自動車の運転席シートに用いた場合と、用いないで着座した場合の着座者(健常者)の荷重が体圧分散される様子について、計測器で測定して評価した。測定には株式会社ケープ社製の携帯型接触圧力測定器「パームQ CR−490」を用いることとし、センサーパットを座骨の当接するあたりに設置して、座骨周辺のa座骨中央、b座骨左側、c前、d座骨右側、e後ろ、の5点にかかる圧力をそれぞれ測定した。
図11にグラフにして計測結果を示す。
【0073】
測定の結果、着座補助器具を未使用の場合は、使用している場合に比して、中央、左、右、後方の各箇所での荷重が増していることが確認された。この測定具は座骨周辺の荷重を狭い範囲で計測しているものであるから、着座補助器具を未使用の場合には、座骨周辺に体荷重が集中していることが伺える。分散せずに集中していると、長時間の着座では疲労することとなるので、長い運転には向かなくなる。局所的な負荷によって身体の一部が緊張したままとなり、疲労が蓄積していくこととなるからである。
【0074】
他方、本発明品に着座した場合には、5箇所の測定箇所の値は、いずれも低い値を示しており、一点への偏りは認められなかったばかりか、全体として、着座した者の体圧がまんべんなく分散されており、さらに、分散された圧力は、5箇所の値を積算した場合でも、不使用の場合と比してその値が小さいことから、体圧がより広汎に分散されていることが示唆されている。
【0075】
具体的な数値を示すと、着座補助具を未使用のときの測定値は、a:56.1、b:117.1、c:33.3、d:77.3、e:9.3(単位はmmhg)であった。bとdの左右差が認められることから傾きやすいことがわかる。
【0076】
他方、着座補助具を使用したときの測定値は、a:44.4、b:56.5、c:33.3、d:54.1、e:5.6(単位はmmhg)であった。全体として数値が小さく、圧力が分散されていることを示している。また、bとdの左右の測定値がほぼ等しい。このことは、左右のバランスがとれており、左右差がないことを示す。余計な傾きがないので、上部体幹や頸部に余計な負荷が生じにくくなることとなる。その分だけ偏った筋活動が低減され、緩和状態が得られることとなるので、その結果として肩こりが予防されたり低減されたりするであろうこととなるといえる。
【0077】
(自動車の運転席シートに着座補助器具を用いた場合の着座姿勢の変化について)
着座補助器具を自動車の運転席シートに設置した場合と、用いなかった場合とで、長時間の運転で姿勢がどのように変化するかを検証した。実験は、脊髄を損傷している被験者と、健常者について行い、各自、着座補助器具を適用した場合となしの場合について、乗用車に2時間乗車した前後の姿勢の変化を観察し、比較した。
【0078】
(1.脊髄を損傷している被験者の場合)
被験者は、背骨の中間あたりで、屈曲するように前方に折れ曲がって突っ伏してしまう傾向にある20代の女性である。本発明の着座補助器具を使用しない場合は、座席の背面に背中をつけることはできず、背中の上方が斜めに前方に折れ曲がり、ハンドルの上に両腕を載せて、頭がハンドルの真上近くに突き出たようになり、そのままでは斜め下を向いてしまうので、首の力で無理に頭を起こして前方をみるような姿勢となる。前方を向いても、視線の位置が折れ曲がった分だけ低くなる。無理な姿勢であることから、15分も走行すると、腰が痛くなり、左右のカーブに耐えられないので、そろそろとゆっくり走行することしかできなくなった。
【0079】
座面補助器具を用いて着座すると、脊髄を損傷しているにもかかわらず、胸郭を起こして姿勢を維持することができ、前傾することなく、頭部も前方を自然と向くことができた。そこで、疲労が少なく、2時間の連続運転が実施できた。またカーブでも姿勢が振られにくくなり、スピードを過度に落さずとも、運転をそのまま継続することができた。
【0081】
健常者では、着座補助器具を用いずに運転を継続していくうちに、当初の姿勢が崩れ、肩が丸まり、頭部が前方に出てくるように傾いた。時間の経過に連れて、顎が出て、骨盤や腰椎のあたりに椅子との隙間が生じ、胸郭の上方が徐々に丸くなってつぶれたようになってきた。
【0082】
しかし、健常者が着座補助器具を用いると、骨盤や腰痛の部分がしっかり支持されて安楽な体制が維持できるので、胸郭が丸くつぶれたりせずに真っ直ぐなまま維持されて、背もたれにもたれた状態となり、その結果、頸部、頭部も胸部の上に真っ直ぐな位置となり、姿勢が崩れることがなかった。このように自然と前を向く姿勢が得られ、安楽に適切で安全なドライビングポジションが形成しうるものとなっている。
【符号の説明】
【0083】
1 着座補助器具
2 係止部材
3 吊下げ部材
4 第1の平面ファスナー
5 装着紐体
6 背面部
7 着座面
8 第2の平面ファスナー
9 座骨支承用突起状弾性体
10 表面素材
11 芯材
12 引出部位
13 バックル
17 坐骨底面の向き
20 榻背部(背もたれ)
21 着座者
22 骨盤
23 坐骨
27 腸腰筋群
28 殿筋群