(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加速度センサは、前記回転軸の周面が鉛直方向下方から上方へ向けて回転する側に配置されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のディーゼルエンジンのすべり軸受の診断装置。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態を示す、すべり軸受の診断装置の概略構成図である。
【
図2】回転数検出センサおよび加速度センサを利用して得られる加速度波形データの一例を示す図である。
【
図3】
図2の加速度波形データをフーリエ変換した周波数領域の波形データ(パワースペクトル)である。
【
図4】加速度スペクトルから得られる(A)ケプトラム、(B)自己相関、(C)相互相関の各特性値である。
【
図6】特性値の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図7】本発明の検証に用いた供試メタルからなるすべり軸受の一例を示す(A)平面図と(B)正面図である。
【
図8】ギャップと加速度O/A値の関係を示すグラフである。
【
図9】回転数1200[rpm]における加速度スペクトルを示すグラフである。
【
図10】回転数1200[rpm]におけるズーミングスペクトルを示すグラフである。
【
図11】回転数1200[rpm]時の無次元兆候パラメータとギャップの関係を示すグラフである。
【
図12】回転数1200[rpm]、ギャップ1/100[mm]時の加速度波形および加速度スペクトルを示すグラフである。
【
図13】回転数1200[rpm]、ギャップ1/100[mm]時のズーミングスペクトルを示すグラフである。
【
図14】回転数1200[rpm]、ギャップ15/100[mm]時の(A)ケプストラム、(B)自己相関および(C)相互相関を示すグラフである。
【
図15】回転数1200[rpm]、ギャップ3/100[mm]時の(A)ケプストラム、(B)自己相関および(C)相互相関を示すグラフである。
【
図16】回転数1200[rpm]、ギャップ1/100[mm]時の(A)ケプストラム、(B)自己相関および(C)相互相関を示すグラフである。
【
図17】回転数1200[rpm]、ギャップ0/100[mm]時の(A)ケプストラム、(B)自己相関および(C)相互相関を示すグラフである。
【
図18】回転数1200[rpm]時の無次元兆候パラメータと出力比(異常時における出力レベルと正常時における出力レベルとの比)との関係を示す、a)ケフレンシーレベルと従来法の比較を表すグラフ、b)各特性値の比較を表すグラフである。
【
図19】回転数2800[rpm]時の無次元兆候パラメータと出力比(異常時における出力レベルと正常時における出力レベルとの比)との関係を示す、a)ケフレンシーレベルと従来法の比較を表すグラフ、b)各特性値の比較を表すグラフである。
【
図20】各ギャップ時におけるケフレンシートレンドとケプストラムとを示すグラフである。
【
図21】正常時における加速度時間軸波形の一例(回転数79.6rpm)を示すグラフである。
【
図22】正常時における加速度エンベロープスペクトルの一例(回転数79.6rpm)を示すグラフである。
【
図23】正常時におけるケプストラム、自己相関および相互相関解析結果の一例を示す、(A)回転周期ケフレンシー値トレンドと、所定時における(B)ケプストラム、(C)自己相関および(D)相互相関の図である。
【
図24】軽微なラビング発生時(回転数85rpm)におけるケプストラム、自己相関および相互相関解析結果の一例を示す、(A)回転周期ケフレンシー値トレンドと、所定時間における(B)ケプストラム、(C)自己相関および、(D)相互相関の図である。
【
図25】軽微なラビング発生時における加速度時間軸波形の一例(回転数85rpm)を示すグラフである。
【
図26】軽微なラビング発生時における加速度エンベロープスペクトルの一例(回転数85rpm)を示すグラフである。
【
図28】ディーゼルエンジンのすべり軸受を診断する装置の構成の概略を示すブロック図である。
【
図29】ディーゼルエンジンのすべり軸受とその診断装置の一例を示す当該ディーゼルエンジンの内部の正面図である。
【
図30】ディーゼルエンジンのすべり軸受とその診断装置の一例を示す当該ディーゼルエンジンの内部の側面図である。
【
図31】ディーゼルエンジンのピストン、クロスヘッド等の構成例を示す正面図である。
【
図32】ディーゼルエンジンのピストン、クロスヘッド等の構成例を示す側面図である。
【
図33】ディーゼルエンジンのピストン、クロスヘッド等の構成例を示す平面図である。
【
図34】ディーゼルエンジンの回転軸(クランクシャフト)の回転方向と加速センサの配置との関係について説明する図である。
【
図35】回転軸と主メタル(すべり軸受)との間で作用する荷重が静荷重である場合のくさび膜圧力について説明する図である。
【
図36】回転軸と主メタル(すべり軸受)との間で作用する荷重が変動荷重である場合の絞り膜圧力について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。以下では、まず、すべり軸受の診断装置およびこれによる診断方法について詳細に説明し、その後、ディーゼルエンジンのすべり軸受を診断する装置について説明する。
【0022】
図1〜
図6に、すべり軸受の診断方法および診断装置の実施形態を示す。すべり軸受1は、タービンをはじめとする大型の重要回転設備や、圧縮機をはじめとする高速の回転設備などにおいて適用可能な、回転軸2の軸受装置である。本発明にかかるすべり軸受1の診断装置10は、回転数検出センサ11と、加速度センサ12と、モニタリング装置13と、通報装置14を備えている。以下においてはまずこの診断装置10の構成について説明する(
図1、
図2等参照)。
【0023】
回転数検出センサ11は、回転軸2の回転数を検出するためのセンサである。例えば本実施形態では、回転軸2の表面に設けられて該回転軸2とともに回転する例えば反射テープからなる被検出部材11bと、該被検出部材11bを介して回転軸2の回転パルスを検出するパルス検出器11aとでこの回転数検出センサ11を構成している(
図1参照)。パルス検出器11aにより検出されたデータは、モニタリング装置13へと送信される。実機における回転軸2は、回転数が制御されているものの、実際には電圧変動などの影響を受けて回転数が変動していることが多い。このような回転数検出センサ11によれば、回転軸2の回転数が刻一刻と変動している場合にもパルスを利用して回転数を精度よく検出することが可能である。または、船舶エンジンなどに装備されている回転計の出力電圧から回転数を検出することも可能である。
【0024】
加速度センサ12は、ラビング現象などが生じたときの振動に基づき回転軸2の振動時の加速度を検出するためのセンサである。例えば本実施形態ではピエゾ素子を有する圧電型の加速度センサを用いる。当該加速度センサ12をすべり軸受1の軸受箱や、すべり軸受1を含むエンジンの筐体などに取り付け、当該軸受箱等の振動に基づき加速度を検出することとしている(
図1参照)。この加速度センサ12による検出データは、モニタリング装置13へと送信される。
【0025】
モニタリング装置13は、上述の回転数検出センサ11からの送信データおよび加速度センサ12からの送信データに基づきすべり軸受1の診断を行い、尚かつ異常が発生していると判断した際にはその結果を通報装置14に送信する装置である。具体的には、本実施形態のモニタリング装置13は、加速度センサ12によって検出された振動の加速度を表す波形データをフーリエ変換することによって周波数領域のパワースペクトルに変換し、該スペクトルにおける軸の回転周波数間隔で発生する複数のピーク情報を、該軸の回転周波数情報と組み合わせた所定の信号処理を実施することで定量化し、特性値を得、得られた該特性値が所定のしきい値を超えたかどうかモニタリングし、前記特性値が当該しきい値を超えたとき、すべり軸受1に異常が発生していると判断する。また、本実施形態のモニタリング装置13には、演算処理装置(例えばパーソナルコンピュータ)が接続されている。
【0026】
通報装置14は、すべり軸受1に異常が発生しているとモニタリング装置13が判断した際に当該判断結果を出力し、ユーザや関係者らに通報するための装置である。通報装置14は、例えば光を点滅させたり、警報音を鳴動させたりすることによって外部に通報するものでもよいし、演算処理装置15の画面を利用して関係者らに通報するもの等であってもよい。
【0027】
続いて、このような診断装置10を用いたすべり軸受1の診断方法およびその原理等について説明する(
図4等参照)。
【0028】
上述した診断装置10の回転数検出センサ11および加速度センサ12を利用すれば、従来と同様、時間が横軸の加速度波形データを検出することができる(
図2参照)。当該すべり軸受1に異常が発生している場合、当該異常により発生する振動の加速度がよほど大きければ別だが、例えば軽微なラビングが生じているときの当該加速度波形データ中での加速度振幅の変化は微小であり、この波形データのみから異常の有無を検出することはきわめて困難である。
【0029】
ここで、本実施形態では、この加速度波形データをフーリエ変換して周波数分析し、周波数領域の波形データを得る(
図3参照)。これにより、周波数が横軸のパワースペクトルが得られる。
【0030】
該スペクトルにおける軸の回転周波数間隔で発生する複数のピーク情報を、該軸の回転周波数情報と組み合わせた所定の信号処理を実施することで定量化し、特性値を得る。
【0031】
該特性値のより具体的な検出方法として、該周波数領域のスペクトルの対数スペクトルを計算し、該対数スペクトルを逆フーリエ変換(ケプストラム演算)し、当該ケプストラム演算後の波形データから得られるケフレンシー値を用いる(
図4(A)参照)。ケフレンシーは、軸の回転周期の倍数の位置でピークを有するため、複数のピークを加算して特性値にしてもよい。
【0032】
また、特性値として、次のような加速度スペクトルの自己相関の値を用いることが可能である(
図4(B)参照)。すなわち、サンプリング周波数Z[Hz](本実施形態では51200[Hz])でN個(本実施形態では524288個)の加速度データを収集した場合、波数領域の加速度スペクトルは、Z/N[Hz]からZ[Hz]までのN個の周波数領域に分解できる。但し、一般に有効な周波数領域は、Z[Hz]の1/2以下である。そこで、該スペクトルを長さN'までのデータ列(ベクトル)をXで表す。このXに対し、上述の数式1のような自己相関を計算し、mが0からN'-1まで計算する。軽微なラビングが発生している場合、軸の回転数間隔で複数のピークが存在するため、Rxx(m)のm(周波数換算ではm*Z/N[Hz])が回転周期の倍数に対応する値となるときに大きなピークとして現れる。倍数ゼロ以外のピーク、例えば1番目のピーク値を特性値とすることができる。
【0033】
この処理における加速度スペクトルの周波数領域を有効周波数の1000[Hz]〜20000[Hz]の中から以下のように限定している。回転周波数間隔でピークを持つ矩形波(
図5参照)を準備する。本実施形態では、ピーク幅が軸の回転周期の1/10の長さで、10個のピークをもつ矩形波を用意し、この矩形波と加速度スペクトルの数式2の相互相関の値が最大となるmの値を求める。矩形波の平均データ長さwをもとめる。周波数(m+w)×Z/N[Hz]の値R[Hz]が、該矩形波と最も相関の高くなる加速度スペクトルの中心周波数である。本例ではこの値R[Hz]の±1000[Hz]の範囲を指定している。尚、この計算の際に、範囲の最小値が有効周波数の最小値(本例では1000[Hz])を下回る場合は、1000[Hz]〜3000[Hz]を指定している。また、有効範囲の上限(本例では20000[Hz])を超える場合は、18000[Hz]〜20000[Hz]としている。
【0034】
但し、前記の周波数の決定に使う前記矩形波の代わりにガウス分布等の他の波形を用いることもできる。また、ピーク幅や長さは上記に限定されるものではない。
【0035】
また、自己相関の演算に使用する加速度スペクトルの周波数の特定は、加速度スペクトルから、使用者らがその範囲を決定することも可能である。
【0036】
また、前記の特性値である自己相関のピーク値は、ベースライン(
図4(B)参照)の影響を受ける場合があり、ベースライン分を差し引く事、またはピーク値をベースラインの平均値で割る事が望ましい。本例では、基本周波数の0.7-0.8周期の部分をベースとしてその平均値で差し引いている。
【0037】
また、自己相関は、軸の回転周期の倍数の位置でピークを有するため、複数のピークを加算して特性値にしてもよい。
【0039】
更に、特性値として、次のような加速度スペクトルの相互相関を用いる事が可能である(
図4(C)参照)。すなわち、軸の回転周期間隔で矩形やガウス分布等の所定のピークをもつ人工的なスペクトル(テンプレート波形と呼ぶ)Yと、前記の加速度スペクトルXとの相互相関により特性値を得ることも可能である。テンプレート波形のYのデータ長さとしては、加速度スペクトルXと同じか、より短い波形から構成できる。Y波形の長さをMとし、Mが加速度スペクトルXの長さN'より短い場合は、Xと同じ長さになるようにゼロを加えて、上述の数式2で計算する。軽微なラビングが発生している場合、軸の回転数間隔で複数のピークが存在するため、Rxy(m)のmが回転周期の倍数に対応する値のときに大きなピークとして現れる。但し、数式2のままの計算では最初に得られるピークの先頭位置が軸の回転周波数よりずれ、その後のピーク位置も同等分ずれる場合がある。そこで、Rxy(m)において、m=0からmが回転周波数になる間にRxyが最大となるmを求め、そのmをm=0とすることで、このずれ分を補正する事が可能である。
【0041】
この時、本実施形態では、相互相関を計算する加速度スペクトルの周波数およびベースラインによるピークの補正は、前記自己相関の場合と同じ方法を採用している。
【0042】
また、相互相関を求めるテンプレートは、軸の回転周波数の1/10の幅を持ち、加速度スペクトルの指定した範囲に対し、軸の回転周波数の2.5周期分短いものを使用した。
【0043】
但し、テンプレートは、軸の回転周波数間隔でピークをもつものであれば、矩形波に限定されるものではない。また、ピークの幅や長さも、本実施形態に限定されるものではない。また、相互相関は、軸の回転周期の倍数の位置でピークを有するため、複数のピークを加算して特性値にしてもよい。
【0044】
本実施形態では、このようにして軸の回転周波数間隔でのピークの値を定量化して得られる特性値の時系列データを得たら、該特性値が所定しきい値を超えたかどうかモニタリングする。一般に、この特性値は、当該すべり軸受1においてラビングなどの異常が生じると顕著に増加する傾向がある(
図6中の二点鎖線参照)。これに対し、本実施形態では、この特性値に対してあらかじめ所定のしきい値を設定しておき、経時変化する特性値Lが当該しきい値を超えた時点ですべり軸受1に異常が発生していると判断する。一例として、本実施形態では、ケフレンシートレンドレベルの正常時平均値+3σ(標準偏差)を超えた場合にすべり軸受1に異常(接触)が発生していると判断することとして、当該値を所定のしきい値としている。いうまでもないが、以上のごときしきい値についての考え方は、特性値として加速度スペクトルの自己相関の値を用いた場合(
図4(B)参照)、特性値として加速度スペクトルの相互相関を用いた場合(
図4(C)参照)についても同様である。
【0045】
ここで、
図27に示す具体例に基づき、しきい値についてさらに説明しておく。
図27中、正常な状態である(1)の領域において、実データから計算により求められるケフレンシートレンドレベルの平均値は0.0343、標準偏差σは0.0071である。この場合、平均値+3σは、0.0556となる(
図27中においてしきい値を表す破線を参照)。
【0046】
あるいは、上記の別例として、ケフレンシートレンドレベルの平均値の2倍を所定のしきい値とすることもできる。こうした場合、平均値+3σよりもやや大きな値となる場合があるが、実用上の問題はない。
【0047】
以上のような軸の回転周波数間隔でのピークの値を定量化して得られる特性値の解析によれば、スペクトル中に埋もれている周期性を検出し、基本周波数(もしくは基本周期の逆数)を求めることができる。これによれば、軽微なラビング等であっても精度よく検出、その兆候を早期に見出すことが可能となる。しかも、本実施形態では、従来用いられている加速度センサをそのまま利用しての異常診断を可能としている。
【0048】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態では、本発明にかかるすべり軸受1が、大型の重要回転設備や、圧縮機をはじめとする高速の回転設備などにおいて適用可能なものであると説明したが、この場合の適用分野ないし範囲には、石油化学、原子力発電所、石油精製、鉄鋼などのプラントにおける回転機器のすべり軸受が含まれることはいうまでもない。また、これらの他に、従来検出の困難であった、船舶のディーゼルエンジンやディーゼル発電機等のピストン運動や爆発による振動や音響ノイズのある軸受にも適用可能である。
【0049】
例えばディーゼル発電機に使用されている4ストロークサイクルの場合、正常時においてもディーゼル機関では爆発により2回転に1回の周波数変調を受けた振動が発生する。ラビングが発生すると振動波形は、主軸の偏心による接触圧力の強弱により、回転周波数の規則性で周波数変調を受ける。周波数変調を受けると振動加速度スペクトルに回転周期の側帯波が発生する。つまり、ケフレンシーの発生周期により爆発による信号とラビングによる信号は分離可能である。
【0050】
また、大型船舶のディーゼルエンジンに用いられる2ストロークサイクルの場合は、ラビング時と同様、1回転に1回のケフレンシーがシリンダーヘッド部に発生するが、クロスヘッドピン軸受26とクランクピン軸受27(
図29、
図30参照。なお、
図30では、複数のピストン23、クロスヘッドピン軸受26、クランクピン軸受27等のうちの一部のみを図示している。)で爆発の振動を吸収する構造上の影響と大型による距離減衰の影響からと考えられるが、正常時には軸受部に爆発振動の影響を受けていないことを確認した。つまり、ディーゼル発電機と同様、回転周期のケフレンシーに着目することで、ラビング異常を検出することが可能である。
【0051】
続いて、以下に、ディーゼルエンジン20のすべり軸受(以下、主メタルともいう)1を診断する診断装置10について説明する。なお、
図31〜
図33における符号23はディーゼルエンジン20のピストン、符号24はクロスヘッド、符号25はメタルキャップをそれぞれ示す。
【0052】
この診断装置10は、ディーゼルエンジン20の表面に外付けした加速度センサ12によって回転軸2の振動時の加速度を検出し、診断する(
図28等参照)。加速度センサ12の個数は特に限定されないが、本実施形態では、ディーゼルエンジン20の主メタル1が複数である場合に、該主メタル1と同数の加速度センサ12を用いて診断する。なお、一般的なディーゼルエンジンであれば、気筒数+1個の数の主メタル1が設けられている。もちろん、診断対象となる主メタル1がすべての主メタル1のうちの一部である場合は、すべての主メタル1の個数よりも少ない加速度センサ12を用いて診断することもできる。
【0053】
なお、回転軸2とは、具体的にはディーゼルエンジン20の主軸たるクランクシャフトであるが(
図29、
図30参照)、その他、カムシャフトといった軸なども回転軸2に該当しうる。
【0054】
加速度センサ12の設置位置は、ディーゼルエンジン20の表面であって診断が可能な位置であれば特に限定されないが、例えば、主メタル1の径方向外側に形成された中実部材の表面に取り付けられていれば、当該中実部材から伝わる振動の加速度をより精度よく検出しやすいという点で好適である。ここでいう中実部材とは、ディーゼルエンジン20のクランクケース、オイルパン、補強リブ22といった、振動を伝達可能な筐体の一部などの各種部材をいう。
【0055】
また、加速度センサ12が、ディーゼルエンジン20の表面のうち主メタル1から直近となる位置に取り付けられていれば、診断対象たる主メタル1からもっとも近い位置でより精度よく振動を検出することができる。
【0056】
一例として、本実施形態では、各々の主メタル1の位置に対応して形成されている補強リブ22に各々の加速度センサ12を取り付ける(
図29、
図30、
図33参照)。強度を確保するべくある程度の剛性を備えた構造の補強リブ22は、振動を伝えやすい部材でもある。本実施形態では、当該ディーゼルエンジン20の外壁21上であって、尚かつ、主メタル1と該主メタル1に対応して構成されている補強リブ22とを結ぶ線の延長線上となる位置に加速度センサ12を取り付けることにより、軸方向の隣に位置する主メタル1が発する信号の影響を受けにくくしている(
図33等参照)。
【0057】
また、本実施形態における加速度センサ12は、主メタル1の水平方向に配置され、すべての主メタル1が同じ高さに位置するようになっている(
図29、
図31、
図32参照)。さらに、加速度センサ12は、各々が、検出対象とする主メタル1から等距離に配置されている(
図29、
図30参照)。これにより、各加速度センサ12と各主メタル1との振動伝搬距離を等しくすることで信号(振動)の距離減衰程度が等しくなり、各加速度センサ12からの信号を等しく評価できるようになる。
【0058】
さらに、本実施形態における加速度センサ12は、回転軸(クランクシャフト)2の軸方向に沿って等間隔に配置されており、これにより、軸方向に等間隔に配置されている主メタル1に対応した配置となっている(
図30、
図32参照)。ただしこれは一例にすぎず、主メタル1の配置が等間隔になっていなければ加速度センサ12の配置も等間隔である必要がないことはいうまでもない。
【0059】
なお、上述したごとく加速度センサ12を配置するにあたっては、回転軸2の右側および左側のいずれにも配置することができるが、より好ましいのは、回転軸2の周面が鉛直方向下方から上方へ向けて回転する側に配置されていることである(
図31参照)。例えば、回転軸2の回転方向が反時計回りであるなら、向かって右側に加速度センサ12を配置することが好ましい(
図34参照)。これについて詳細に説明すると以下のとおりである。
【0060】
回転軸2と主メタル1との間で作用する荷重が静荷重である場合、一定の「くさび膜圧力」(
図35参照)が作用する一方で、当該荷重が変動荷重である場合、軸心の振れ回り角速度に伴って「くさび膜圧力」が変化するだけでなく、軸心の半径方向の速度に伴って「絞り膜圧力」(
図36参照)が発生する。この点、ディーゼルエンジン20の主メタル1には、静荷重だけでなく、シリンダ部の燃焼による変動荷重が大きく作用することから、回転軸2の周面が鉛直方向下方から上方へ向けて回転する側において、油膜が十分でなくなり金属接触の起こりうる範囲が生じ得る(「内燃機関の潤滑」、桜井俊男監修、幸書房、1.1節 染谷常雄著、“
図1・4 ジャーナル軸受における油膜圧力発生の2形態”、“
図1・24 6シリンダディーゼルエンジン20の軸受における軸心軌跡の計算例”等参照)。したがって、当該金属接触の起こりうる側に加速度センサ12を配置して測定点を形成することが好適である。
【0061】
上述したように、ディーゼルエンジン20の表面(外壁21など)に加速度センサ12を外付けするこの診断装置10によれば、当然ながら、エンジン内部に加速度センサ12を取り付ける必要がない。したがって、エンジン内部に加速度センサを取り付ける場合に行わざるを得ないエンジン分解やエンジン改造をする必要と手間が省ける。
【実施例1】
【0062】
実験装置を製作し、上述したすべり軸受1の診断方法を検証するための実験を行った。以下、実施例として説明する。
【0063】
実験装置においては、供試メタル(軸受合金としてのホワイトメタル)からなるすべり軸受1により、回転軸2の主軸を軸支した状態で、当該回転軸2を数種類の速度で回転させて行った(
図7参照)。特に詳しく図示していないが、本実施例では、回転軸2の両端付近を支持軸受(転がり軸受)で軸支するとともに、モーターを利用して当該回転軸2を回転させた。
【0064】
回転軸2の主軸の外径を100[mm]とした。また、該回転軸2とすべり軸受(メタルケーシング)1の内周との間に形成される隙間(ギャップ)のうちの一方をA、他方をBとして表した場合(
図7(A)参照)、トータルギャップ(AとBとの和)を30/100[mm]に設定した(したがって隙間A、隙間Bにおけるギャップが15/100[mm]のとき、回転軸2はすべり軸受1の中央に位置する)。さらに、押しボルトを利用した移動機構(ボルトの先端を移動対象にあてがい押して移動させる機構)によりすべり軸受1を回転軸2の中心軸とは垂直な方向に水平移動させ、ギャップBを変化させた。このような実験装置を用い、回転軸2の回転速度を1200[rpm]、1800[rpm]、2800[rpm]として実験を行った。この結果、ラビングが発生すると加速度値の上昇が見られるが、軽微なラビングの場合には加速度O/A値の差異は0.01G程度でしかないので、加速度レベルでの評価は困難であると考えられた(
図8参照)。なお、加速度O/A値の単位のG(ジー)は振動加速度の単位で、1G=9800mm/s
2=9.8m/s
2である。
【0065】
次に、回転軸2の回転数が1200[rpm]である場合において、ギャップ15/100のとき、ギャップ3/100のとき、ギャップ1/100のとき(軽微なラビング状態)、ギャップ0/100のとき(ラビング状態)のそれぞれについて加速度スペクトルを検出した(
図9(A)〜(D)参照)。さらに、それぞれの加速度スペクトルの一部を拡大してズーミングスペクトルを得た(
図10(A)〜(D)参照)。
【0066】
これら各スペクトル等の結果から、回転数が1200[rpm]である場合の加速度波形の形状変化を示す種々の無次元兆候パラメータとギャップとの関係を得た(
図11参照)。この結果から、ラビング発生により尖度と波高率、歪度の上昇が見られるが、軽微なラビングの場合にはこれらの変化が小さいことが確認された。なお、歪度β
1、尖度β
2、波高率CF(Crest Factor)、波形率SF(Shaped Factor)、変動率C.V(以上、無次元兆候パラメータ)、さらにはこれら無次元兆候パラメータに関係する標準偏差s、k次のモーメントμ
kのそれぞれは、以下の数式によって求めることができる。
【0067】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0068】
[数7]
波高率CF=最大値/実効値
[数8]
波形率SF=実効値/平均値
【数9】
【0069】
ここで、本発明者らは、回転数1200[rpm]、ギャップ1/100[mm](軽微なラビング状態)のときの加速度波形と加速度スペクトルの各波形についても検討した(
図12参照)。この結果から、軽微なラビングの場合は、加速度スペクトルの上昇レベルが僅かであることが確認された。
【0070】
さらに、本発明者は、回転数1200[rpm]、ギャップ1/100[mm](軽微なラビング状態)のときのズーミングスペクトルの波形についても検討した(
図13参照)。この結果から、ラビングが発生していると、加速度スペクトルが回転周波数によって変調されていることが確認された。
【0071】
また、本発明者らは、回転数1200[rpm]、ギャップ15/100[mm](接触していない状態)のときケプストラムの波形、自己相関波形および相互相関波形(
図14参照)、回転数1200[rpm]、ギャップ3/100[mm](接触していない状態)のときケプストラムの波形自己相関波形および相互相関波形(
図15参照)、回転数1200[rpm]、ギャップ1/100[mm](軽微なラビング状態)のときのケプストラムの波形自己相関波形および相互相関波形(
図16参照)、回転数1200[rpm]、ギャップ0/100[mm](ラビング発生状態)のときのケプストラムの波形自己相関波形および相互相関波形(
図17参照)のそれぞれについても検討した。回転軸2の回転数1200[rpm]としたことから、回転周波数は20Hzであり、したがって回転周期は50[ms]である。軽微なラビング及びラビングが発生した状態下でのケプストラム波形におけるケフレンシー値、自己相関値および相互相関値において、回転周波数fr(本実施例の場合、20Hz)に相当する部分にピーク確認された(
図16、
図17参照)。
【0072】
続いて、発明者らは、回転数1200[rpm]のときの、異常時における出力レベルと正常時における出力レベルとの比を検討した(
図18参照)。軽微なラビング状態、ラビング(接触)発生状態のいずれにおいても、ケフレンシーレベル、自己相関および相互相関における出力比(異常時における出力レベル/正常時における出力レベル)が他のパラメータによる出力比(O/A値の出力比など)と比べて大きくなることが確認された。同様に、回転数2800[rpm]のときの場合も、ケフレンシーレベルや自己相関、相互相関における出力比が、他の従来法に比較し、大きくなることが確認された(
図19参照)。
【0073】
続いて、発明者らは、(A)ギャップ2/100(軽微なラビング状態)、(B、C)ギャップ0/100(ラビング状態)、(D)ギャップ15/100(接触していない状態)のそれぞれについてケフレンシートレンドとケプストラムを検討した(
図20参照)。(A)〜(D)の各状態のケフレンシートレンド(
図20(A)〜(D)それぞれの上段参照)に示されるカーソル位置のケプストラムを
図20(A)〜(D)の下段にそれぞれ示している。これらは、(A)軽微なラビング状態からケーシングを回転軸に接近させて(B,C)ラビング状態を発生させた後、ケーシングを回転軸から離して(D)接触していない状態へと変化させた試験の結果である。回転軸の回転周期におけるケフレンシーのレベルが、回転軸とケーシングとの接触状態と相関を持って変化していることがわかる。以上から、ケプストラム演算後のケフレンシー値をモニタリングすることによって軽微なラビング状態を検出できることが確認された。自己相関解析、相互相関解析でも、同様の検出結果が得られている。
【実施例2】
【0074】
発明者らは、大型船舶ディーゼルエンジンにおける試運転における振動計測において、ケプストラム、自己相関、相互相関解析法の適用を試みた。
【0075】
一般に、ディーゼルエンジンなどのディーゼル機関の場合には、正常運転時においても吸気弁や排気弁の開閉、燃焼爆発などの運転にともなう振幅変調を受けた振動が発生する(
図21参照)。この時の振動はそれぞれが回転周期毎に周期的に発生する為に、エンベロープスペクトルは回転周波数及びその高次成分の発生が発生する(
図22参照)。
【0076】
一方、ケプストラム、自己相関、相互相関解析ではディーゼルエンジンにおいても運転時のノイズの影響も受けず、正常時には回転周期に相当する特性値のピークの発生は見られないか極めて小さい(
図23参照)。本試運転時の回転数を変化させている時の約85rpmにおいて、主軸受(すべり軸受)に軽微なラビングが発生した。この時のケプストラム、自己相関、相互相関解析結果では、ラビングの発生を示す回転周期で、特性値ピークが存在することが確認された(
図24参照)。
【0077】
この時の振動加速度波形においても振幅変調を受けた波形が得られており、正常時と判別が困難である(
図25参照)。エンベロープスペクトルにおいても正常時と同様、回転周波数及びその高次成分の発生が確認され、正常異常の差異が弁別困難である(
図26参照)。
【0078】
以上の実施例1、実施例2の結果から、発明者らは以下の知見を得、あるいは確認した。
(1)すべり軸受の軽微なラビング時に、加速度スペクトル上に発生する軸の回転周波数間隔で発生する複数のピーク情報と軸の回転数から所定の方法で定量化した特性値おいて、異常/正常出力比(異常時における出力レベルと正常時における出力レベルとの比)が、他のパラメータにより解析した場合の出力比に比べて大きいことが確認された。したがって、この特性値を利用することにより、すべり軸受1の診断精度を向上させることが可能である。また、該特性値をモニタリングすることで、従来は困難あるいは不可能であった軽微なラビング状態を、圧電型加速度センサのみを使用して早期に検出することができる。
(2)従来運転時のノイズによりラビング異常の検出が困難な機器、とりわけディーゼルエンジンにおいても、運転時のノイズの影響を受けずに軽微なラビング現象を精度良く検出する事ができる。