特許第6854620号(P6854620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854620
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】走行経路生成装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20210329BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20210329BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   G05D1/02 N
   G08G1/00 X
   A01B69/00 303Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-209968(P2016-209968)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2018-73008(P2018-73008A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】阪口 和央
(72)【発明者】
【氏名】鈴川 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】冨田 さくら
(72)【発明者】
【氏名】奥山 裕二
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−016010(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0091340(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103699135(CN,A)
【文献】 特開平06−337716(JP,A)
【文献】 特開2012−110996(JP,A)
【文献】 特開2011−128758(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0199525(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
A01B 69/00
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業地を走行しながら作業する作業車のための走行経路を生成する走行経路生成装置であって、
前記作業地の地形図を所定間隔でメッシュ分割することで得られる多数のセルを管理するセル管理部と、
各前記セルに対して、当該セルに隣接する隣接セルから当該セルに進入する方向と当該セルから抜け出す方向との組み合わせによってそれぞれ算出された複数の進入抜け出し確率である複数の進入抜け出し重みを走行重み群として割り当てる走行重み群割当部と、
前記セルに割り当てられている前記複数の進入抜け出し重みに基づいて当該セルを通過するセル通過経路を決定するセル通過経路決定部と、
前記セルの通過によって影響を受けるセルに割り当てられている前記走行重み群の重みを変更する重み変更部と、
前記セル通過経路決定部によって順次決定された前記セル通過経路をつなぎ合わせることで前記走行経路を生成する走行経路生成部と、を備え、
前記セル管理部により管理されるセルは、前記作業地における枕地領域のセルと、前記作業地における前記枕地領域以外の領域のセルとを含み、
前記重み変更部は、前記作業車が前記枕地領域以外の領域のセルを通過した際には、通過済のセルを再度通過することを防止するように当該通過済のセルに進入する通過経路のセルに割り当てられている前記走行重み群の重みを変更し、且つ、前記作業車が前記枕地領域のセルを通過した際には、当該通過済のセルを再度通過することを許容する走行経路生成装置。
【請求項2】
前記セル管理部は、未通過セルを残した状態で行き止まりになった場合は、バックトラッキングを実行する請求項1に記載の走行経路生成装置。
【請求項3】
前記走行重み群割当部によって割り当てられる前記走行重み群には、前記作業地の外に進入することや前記作業地内に存在する障害物に進入することを禁止する重みが含まれている請求項1または2に記載の走行経路生成装置。
【請求項4】
前記走行重み群割当部によって割り当てられる前記走行重み群には、直進走行を優先する重みが含まれている請求項1から3のいずれか一項に記載の走行経路生成装置。
【請求項5】
前記重み変更部は、通過済のセルに進入するセル通過走行を禁止するように前記走行重み群の重みを変更する請求項1から4のいずれか一項に記載の走行経路生成装置。
【請求項6】
前記重み変更部は、前記セルに到達するまでに連続的に通過した複数のセルに対する走行軌跡に応じて、当該セルに割り当てられている前記走行重み群の重みを変更する請求項1から5のいずれか一項に記載の走行経路生成装置。
【請求項7】
メッシュ分割の間隔は、前記作業車の作業幅または当該作業幅に所定オーバーラップ量を考慮した作業幅である請求項1から6のいずれか一項に記載の走行経路生成装置。
【請求項8】
前記走行経路の出発点セルと終点セルとは、前記作業地の出入口に対応するセルである請求項1から7のいずれか一項に記載の走行経路生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業地を走行しながら作業する作業車のための走行経路を生成する走行経路生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ティーチング開始時の車体位置である開始点と、ティーチング終了時の車体位置である終了点とを結ぶ直線状のティーチング経路を生成し、この直線状のティーチング経路に対して平行で、作業幅だけ離間したN本の直線状の走行経路を生成する農用作業車が開示されている。この農用作業車で生成される走行経路は、直線状のティーチング経路に対して平行な複数本の直線経路だけである。実際の圃場でのティーチング走行を行わない限り、走行経路を生成することができない。また、生成される走行経路には、作業地の外周領域で行われる方向転換のための旋回走行も含まれていない。このため、この走行経路生成技術は、かなり限定された条件でのみ適用される技術である。
【0003】
特許文献2には、エネルギ消費を最小化する走行経路を生成する走行経路生成システムが開示されている。このシステムでは、最初に、作業地をメッシュ分割することで得られるセルを通過する際に必要なエネルギレベルが当該セルの標高に基づいて推定され、推定されたエネルギレベルを示す数値が各セルに割り当てられる。次いで、作業地における作業車の走行経路が複数計画され、この走行経路にセルをあてはめ、計画された各走行経路の走行のために必要なエネルギレベルの総和を比較して、最もエネルギレベルの総和が低い走行経路が、実際に走行する走行経路として採用される。この走行経路生成システムでは、計画した走行経路を走行した場合のエネルギレベルの総和を算定することによって、異なる走行経路の比較は可能であるが、このシステムは、走行経路そのものを計画するものではない。なお、この特許文献2では、東西、または南北に延びる複数の互いに平行な直線経路と、隣接する直線経路を接続するUターン経路とからなる2種類の走行経路が示唆されているだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−67617号公報
【特許文献2】米国特許第6728607号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した実情から、作業地をメッシュ分割することで得られる多数のセルを適切に通過する走行経路を生成する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
作業地を走行しながら作業する作業車のための走行経路を生成する、本発明による走行経路生成装置は、前記作業地の地形図を所定間隔でメッシュ分割することで得られる多数のセルを管理するセル管理部と、各前記セルに対して、当該セルに隣接する隣接セルから当該セルに進入する方向と当該セルから抜け出す方向との組み合わせによってそれぞれ算出された複数の進入抜け出し確率である複数の進入抜け出し重みを走行重み群として割り当てる走行重み群割当部と、前記セルに割り当てられている前記複数の進入抜け出し重みに基づいて当該セルを通過するセル通過経路を決定するセル通過経路決定部と、前記セルの通過によって影響を受けるセルに割り当てられている前記走行重み群の重みを変更する重み変更部と、前記セル通過経路決定部によって順次決定された前記セル通過経路をつなぎ合わせることで前記走行経路を生成する走行経路生成部とを備え、前記セル管理部により管理されるセルは、前記作業地における枕地領域のセルと、前記作業地における前記枕地領域以外の領域のセルとを含み、前記重み変更部は、前記作業車が前記枕地領域以外の領域のセルを通過した際には、通過済のセルを再度通過することを防止するように当該通過済のセルに進入する通過経路のセルに割り当てられている前記走行重み群の重みを変更し、且つ、前記作業車が前記枕地領域のセルを通過した際には、当該通過済のセルを再度通過することを許容する。
【0007】
この構成によれば、メッシュ分割によって得られたセルを通過する方法(左折で通過、直進で通過、右折で通過)によって、重みが割り当てられる。セルにおける左折、直進、右折は、セルへの進入位置によって異なるので、セルへの進入方向毎に、それらの重みが割り当てられる。例えば、西から東への進入方向を第1進入方向、東から西への進入方向を第2進入方向、北から南への進入方向を第3進入方向、南から北への進入方向を第4進入方向とすれば、4つの進入方向毎に、左折の重み、直進の重み、右折の重みが割り当てられるので、1つのセルには、最大12個の重みが割り当てられることになる。セル通過経路決定部は、順次、進入したセルに割り当てられている重みを評価して、当該セルを通過する経路(左折、直進、右折)を決定していく。セル通過経路決定部によって順次決定されたセル通過経路をつなぎ合わせていくことで、作業地を走行する作業車の目標となる走行経路が生成される。予め、所望する走行経路を規定するような走行重み群を設定しておけば、所望の走行経路が生成される。作業車はこの目標作業経路に沿って、有人または無人で走行する。つまり、この走行経路生成装置では、走行経路の計画者が、前もって、作業車が作業地をどのように通過すべきかを示す基準情報(例えば、東西または南北に長い直線経路群、主に旋回走行から構成される渦巻経路など)として、メッシュ分割によって得られたセルに適切な走行重み群を設定すれば、希望に沿った走行経路が生成される。
【0008】
作業車によって行われる作業種類によっては、作業車は作業地の全面をくまなく走行する必要がある。そのような作業車のための走行経路の作成では、未通過セルをできるだけ残さないことが重要である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記セル管理部は、未通過セルを残した状態で行き止まりになった場合は、バックトラッキングを実行する。つまり、セル管理部は、行き止まりとなったセルに進入する前のセルを再指定し、当該セルの通過経路として、前回決定したセル通過経路以外の通過経路を選ぶように設定する。このバックトラッキングを新たに通過可能なセルが見つかるまで行う。
【0009】
作業地の周囲は、柵や畦などによって境界付けられているので、作業地から外に出る走行は禁止される。また、作業地内に、岩石や樹木や電柱などの障害物が存在する場合、そのような障害物に接近する走行は禁止される。このような走行禁止は、そのような走行禁止区域のセルに進入するようなセル通過経路を選択しないようにすること、例えばそのようなセル通過経路の重みを「ゼロ」(選択禁止)にすることで、実現する。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行重み群割当部によって割り当てられる前記走行重み群には、前記作業地の外に進入することや前記作業地内に存在する障害物に進入することを禁止する重みが含まれている。
【0010】
農作業を行う作業車では、できるだけ長い直線走行を繰り返しで作業地である圃場を走行することが効率的であること多い。これは、例えば、周辺領域以外のセルでは、左折や右折に比べて直進の重みを高くすることで実現する。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行重み群割当部によって割り当てられる前記走行重み群には、直進走行を優先する重みが含まれている。
【0011】
作業車による作業によっては、一度作業走行した領域を再び走行することが禁止されるか、または、できる限り避けることが要求される。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記重み変更部は、通過済のセルに進入するセル通過走行を禁止するように前記走行重み群の重みを変更する。場合によっては、通過済のセルに進入するセル通過経路を禁止する代わりに、そのセル通過経路の重みを、他のセル通過経路に比べて非常に小さいものとしてもよい。
【0012】
作業車の走行では、進入したセルにおけるセル通過経路を決定する際に、それ以前に通過したセル、さらにそれ以前に通過したセルにおけるセル通過経路が重要となる場合がある。例えば、U旋回走行や90°旋回走行が多用される領域では、そのような旋回走行が優先するように、進入したセルにおける重みを、進入直前の走行軌跡に基づいて変更すると好都合である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記重み変更部は、前記セルに到達するまでに連続的に通過した複数のセルに対する走行軌跡に応じて、当該セルに割り当てられている前記走行重み群の重みを変更する。
【0013】
作業車による走行作業によっては、装備された作業装置の作業幅で、作業地の前面をカバーすることが要求される。このような作業仕様を満たすため、本発明の好適な実施形態の1つでは、メッシュ分割の間隔は、前記作業車の作業幅または当該作業幅に所定オーバーラップ量を考慮した作業幅に設定される。これにより、セルを全て走行する走行経路を作成し、この走行経路に沿って走行することにより、作業車は、作業地の全面をくまなく作業することができる。
【0014】
作業地によっては、作業車の作業地への入口及び作業地からの出口が厳格に決められている。このような場合、入口に対応するセルを出発点とし、出口に対応するセルを終点とする走行経路が生成されなければならない。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行経路の出発点セルと終点セルとは、前記作業地の出入口に対応するセルである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】経路生成装置の一例を示す構成図である。
図2】メッシュ分割されたセルへの走行重み群の割り当てを説明する説明図である。
図3】経路生成装置によって生成された走行経路に基づいて、有人または無人で走行する作業車の一例であるトラクタの側面図である。
図4】経路生成装置として機能する携帯通信端末とトラクタとにおける基本的な制御機能を示す機能ブロックである。
図5】走行経路作成の処理手順の一例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、作業地を走行しながら作業する作業車のための走行経路を生成する走行経路生成装置の一例を示す構成図である。この走行経路生成装置は、まず、作業地をメッシュによって多数のセルに分割する。分割された各セルを通過するためのセル通過経路、つまり、左折経路、直進経路、右折経路にそれぞれ重みが与えられ、その重みに基づいて、セルを通過するセル通過経路を順次決定する。決定されたセル通過経路を順次つなぎ合わせることで、作業車のための走行経路が生成される。その際、最初に与えられた重みは、セル通過経路が決定していくことで影響される場合、変更される。したがって、走行経路生成装置の基本的な機能部は、セル管理部61と、走行重み群割当部62と、セル通過経路決定部63と、重み変更部64と、走行経路生成部65とである。走行経路生成装置は、実質的にはコンピュータシミュレーションを実行するコンピュータシステムによって構成され、各機能部は、プログラムの実行によって特定の機能を実現するが、少なくとも部分的にはハードウエアで構築することも可能である。
【0017】
図1の例では、作業地の外形形状を含む地形図データを外部から入力する作業地データ入力部67が、走行経路生成装置のデータ入力部として備えられている。メッシュ分割部66は、作業地データ入力部67から与えられた作業地の外形を外接長方形で近似し、例えば、作業車の作業幅にオーバーラップを考慮した一辺長さ(所定間隔)でメッシュ分割する。作業地の境界となる外端セルは、外端セルを超えて作業地の外に出る通過が禁止される特別なセルとして取り扱われる。セル管理部61は、メッシュ分割することで得られる多数のセルを順次通過していくセル通過シミュレーションを管理する。
【0018】
セル管理部61は、作業地の地形図や作業地の属性情報(地面傾斜や作業種類など)に基づいて、優先すべき走行パターン(例えば、東西方向の直線走行の繰り返しや渦巻き走行など)が存在すれば、その走行パターンが優先されるようなセルへの重みづけを指令する。属性情報に走行の障害になる障害物の位置情報が含まれておれば、そのような障害物への進入を禁止するようなセルへの重みづけを指令する。セル管理部61は、走行経路の出発点となる出発点セルも指定する。
【0019】
走行重み群割当部62は、セル管理部61からの指令に基づき、1つのセルから当該セルに隣接するセルの1つに走行する際のセル通過方向毎の走行有効度である、左折走行の重みと直進走行の重みと右折走行の重みとを、走行重み群として、各セルに割り当てる。この重みは、数値でも、記号でもよいが、確率値として取り扱う場合は、0から1までの数値となる。進入したセルをどのように通過するかは、当該セルに割り当てられている重みに基づいて、セル通過経路決定部63が決定する。セル通過経路決定部63によるセル通過経路の決定の最も簡単な方法は、値の大きい重みを有するセル通過経路を選択する方法である。この決定に確率的な手法を用いる場合には、各セル通過経路に割り当てられた確率値としての重みに基づいて、確率的にセル通過経路が決定される。その際、高い確率値を有するセル通過経路が選択される可能性が高くなるが、必ずしも選択されるとは限らない。
【0020】
図2では、各セルへの重みの割り当てが図解されている。図2で示されているように、セルを構成する各辺は、記号:W1、W2、W3、W4で識別されており、ここでの例では、W1は左または西、W2は右または東、W3は上または北、W4は下または南に対応している。セルを通過する経路は、左折と直進と右折である。例えば、W1から進入した場合、左折ではW3を通過し、直進ではW2を通過し、右折ではW4を通過する。したがって、各セルには、その4つの進入する辺毎に、左折と直進と右折との3つの通過経路のために重みが、走行重み群として与えられる。
【0021】
図2では、走行重み群の例として、外部との境界に接している外端セルの1つと、障害物が存在する障害セルに隣接する障害物隣接セルの1つと、一般的なセルの1つとに割り当てられた走行重み群が表(マトリックス)の形で示されている。メッシュ分割によって得られたセルはm×nのマトリックス:Cmnで表されるので、各セルの走行重み群を示すマトリックス:W(Cmn)は、図2の表から明らかなように、W(Cmn)=〔Wij〕mn、1≦i≦4、1≦j≦4で表すことができる。
【0022】
具体例を挙げると、外端セルの1つであるセルは、進入位置がW1の場合、抜け出し位置がW2の直進の重みは「0.8」、抜け出し位置がW3の左折の重みは「0.2」、抜け出し位置がW4の右折の重みは「0」となっている。ここでは、直進走行での作業効率が良いとされているので、直進の重みが高くなっている。このセルでの右折は作業車を境界の外に出してしまうので、重みを「0」として右折を禁止している。進入位置がW2の場合は、進入位置がW1の場合に準じる。進入位置がW3の場合、直進は禁止されるので、右折及び左折の重みが等しく「0.5」となっている。重みが等しい場合、予め設定された優先順位や乱数に基づく決定を採用することができる。進入位置がW4は、不可能であり、無視されるので、「−」で示される。全てのセルに適用されるが、進入位置を抜け出し位置が同一であることも、無視されるので、「−」で示されている。
【0023】
障害物隣接セルの1つであるセルは、上述した外端セルに類似した走行重み群を有し、障害物セルに突入するセル通過経路の重みは「0」である。さらに、作業地内に存在する障害物は、これを迂回するように走行することが原則であるので、障害物セルを囲い込むような走行につながるセル通過経路の重みが大きくなる。図2の例では、進入位置がW1の場合、抜け出し位置がW2の直進は、障害物セルを囲い込む走行になるので、その重みは「0.8」と大きくなっている。これとは逆に、抜け出し位置がW4の右折は、障害物セルから離れる走行になるので、その重みは「0.2」と小さくなっている。進入位置がW3は、不可能であり、無視されるので、「−」で示されている。
【0024】
外端セルでもなく、障害物隣接セルでもない、自由なセルの走行重み群は同じ重みであってもよいが、ここでは、直進走行を優先させる前提条件があるので、左折や右折より、直進するセル通過経路の重みが大きくなっている。
【0025】
重み変更部64は、走行重み群割当部62によって割り当てられた走行重み群の重みを変更する。重み変更部64による走行重み群の重み変更の要因の一つは、通過済のセルに再度進入することを禁止、または、できるだけ避けるという走行条件である。つまり、隣接するセルが通過済となった場合、通過済のセルに進入するセル通過経路の重みは、「0」または「0」に近い値に変更される。他の要因の一つは、評価対象となっているセルに到達するまでに連続的に通過した複数のセルに対する走行軌跡を考慮するという走行条件である。例えば、直線走行が優先されるような領域では、直前の走行軌跡が直進であれば、できる限り直進を続行させるようなる走行重み群の重み変更が行われる。また、U旋回走行や90°旋回走行が多用される領域では、直前の走行軌跡が旋回走行であれば、できる限り旋回走行を続行させるようなる走行重み群の重み変更が行われる。
【0026】
走行経路生成部65は、セル通過経路決定部63によって順次決定された前記セル通過経路をつなぎ合わせることで、作業車が実際に作業地を走行するための走行経路を生成する。なお、セル管理部61は、各セルを左折通過する時間、直進通過する時間、右折通過する時間を、設定された車速に基づいて算出し、管理することができる。したがって、セル管理部61は、最終的に生成された走行経路を構成するセルを通過する時間を積算することにより、走行経路を走行する作業車の途中走行経過時間や走行終了時間を算出することも可能である。
【0027】
図3には、上述した経路生成装置によって生成された走行経路に基づいて、有人または無人で走行する作業車の一例であるトラクタが示されている。このトラクタは、畦によって境界づけられた圃場(作業地)に対して耕耘作業を行うロータリ耕耘装置を作業装置30として装備している。このトラクタは、前輪11と後輪12とによって支持された車体1の中央部に操縦部20が設けられている。車体1の後部には油圧式の昇降機構31を介して作業装置30を昇降可能に支持している。前輪11は操向輪として機能し、その操舵角を変更することでトラクタの走行方向が変更される。前輪11の操舵角は操舵機構13の動作によって変更される。操舵機構13には自動操舵のための操舵モータ14が含まれている。手動走行の際には、前輪11の操舵は操縦部20に配置されているステアリングホイール22の操作によって可能である。トラクタのキャビン21には、GNSSモジュールとして構成されている衛星測位モジュール80が設けられている。衛星測位モジュール80の構成要素として、GPS信号やGNSS信号を受信するための衛星用アンテナがキャビン21の天井領域に取り付けられている。なお、衛星測位モジュール80には、衛星航法を補完するために、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを含めることができる。もちろん、慣性航法モジュールは、衛星測位モジュール80とは別の場所に設けてもよい。
【0028】
図4には、このトラクタに構築されている制御系と、このトラクタの運転を監視する監視者(運転者)が携帯する携帯通信端末4の制御系が示されている。この実施形態では、この携帯通信端末4に、図1図2とを用いて説明された経路生成装置をモジュール化した経路生成モジュール6が組み込まれている。したがって、経路生成モジュール6は、その基本構成として、セル管理部61と、走行重み群割当部62と、セル通過経路決定部63と、重み変更部64と、走行経路生成部65、作業地データ入力部67と、メッシュ分割部66とを備えており、それらの基本機能は、上述した通りである。
【0029】
携帯通信端末4は、経路生成モジュール6以外に、通信制御部40や表示部など、一般的なコンピュータシステムの諸機能を備えている。携帯通信端末4は、無線通信または有線通信によってデータ交換可能に、トラクタの制御系の中核要素である制御ユニット5と接続可能である。さらに、携帯通信端末4は、遠隔地の管理センタKSに構築された管理コンピュータ100とも、無線回線やインターネットを通じて、データ交換可能である。この実施形態では、経路生成モジュール6における走行経路の生成に必要となる、作業地としての圃場の地形図や圃場の属性情報などを含む圃場情報は、管理コンピュータ100の圃場情報格納部101に格納されている。圃場情報には、圃場の出入口、圃場面の傾斜、圃場内の障害物位置などが含まれている。管理コンピュータ100は、指定された圃場での走行作業を記述した作業計画書を管理している作業計画管理部102も備えている。携帯通信端末4は、管理コンピュータ100にアクセスし、圃場情報格納部101から作業対象となる圃場の圃場情報を抽出し、ダウンロードする。ダウンロードされた圃場の外形図は作業地データ入力部67に与えられる。
【0030】
トラクタの制御系の中核要素である制御ユニット5には、入出力インタフェースとして機能する、出力処理部7、入力処理部8、通信処理部70が備えられている。出力処理部7は、トラクタに装備されている、車両走行機器群71、作業装置機器群72、報知デバイス73などと接続している。車両走行機器群71には、操舵モータ14をはじめ、図示されていないが変速機構やエンジンユニットなど車両走行のために制御される機器が含まれている。作業装置機器群72には、作業装置30の駆動機構や、作業装置を昇降させる昇降機構31などが含まれている。報知デバイス73には、ディスプレイやランプやスピーカが含まれている。特に、ディスプレイには、圃場の外形とともに、通過済の走行経路(走行軌跡)やこれから走行すべき走行経路など、種々の報知情報が表示される。ランプやスピーカは、走行注意事項や自動操舵走行での目標走行経路からの外れなど、注意情報や警告情報を運転者や監視者に報知するために用いられる。通信処理部70は、制御ユニット5で処理されたデータを管理コンピュータ100に送信するとともに、管理コンピュータ100から種々のデータを受信する機能を有する。
【0031】
入力処理部8は、衛星測位モジュール80、走行系検出センサ群81、作業系検出センサ群82、自動/手動切替操作具83などと接続している。走行系検出センサ群81には、エンジン回転数や変速状態などの走行状態を検出するセンサが含まれている。作業系検出センサ群82には、作業装置30の位置や傾きを検出するセンサ、作業負荷などを検出するセンサなどが含まれている。自動/手動切替操作具83は、自動操舵で走行する自動走行モードと手動操舵で走行する手動操舵モードとのいずれかを選択するスイッチである。
【0032】
さらに、制御ユニット5には、走行制御部50、作業制御部54、自車位置算出部53、走行経路設定部55、報知部56が備えられている。自車位置算出部53は、衛星測位モジュール80から送られてくる測位データに基づいて、自車位置を算出する。車両走行機器群71を制御する走行制御部50には、このトラクタが自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能に構成されているため、手動走行制御部51と自動走行制御部52とが含まれている。手動走行制御部51は、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71を制御する。自動走行制御部52は、走行経路設定部55で設定された走行経路と自車位置との間の方位ずれ及び位置ずれを算出し、自動操舵指令を生成し、出力処理部7を介して操舵モータ14に出力する。作業制御部54は、作業装置30の動きを制御するために、作業装置機器群72に制御信号を与える。報知部56は、ディスプレイなどの報知デバイス73を通じて運転者や監視者に必要な情報を報知するための報知信号(表示データや音声データ)を生成する。
【0033】
走行経路設定部55は、経路生成モジュール6によって生成された走行経路を携帯通信端末4から通信処理部70を介して受け取り、目標走行経路として設定する。走行経路には、出発点が示されているので、作業の開始時には、トラクタを出発点まで運転する。その後は、自動走行または手動走行で、設定された走行経路に沿った走行が行われる。
【0034】
次に、図5を用いて、圃場をメッシュ分割し、これによって得られた各セルに走行重み群を割り付け、その走行重み群に基づいて走行経路を探索していく走行経路生成処理の一例を説明する。
(#01)圃場外形入力
作業地データ入力部67は、入力された圃場の地形図から外形を抽出して、メッシュ分割部66のワーキングエリアに展開する。
(#02)長方形近似
抽出された圃場の外形を外接する近似長方形が生成される。
(#03)メッシュ分割
近似長方形の辺に平行で、かつ、作業装置30の作業幅から所定オーバーラップ量を減算した値(走行作業幅)を一辺とするメッシュによって、近似長方形が多数のセルに分割される。
(#04)外周走行経路(枕地)決定
トラクタによる耕耘作業では、外周から所定幅(走行作業幅の整数倍)を、トラクタの旋回エリアや駐機エリアなどとして用いられる枕地を決定する。この枕地形成のための走行経路は、外形に沿う、一般的には反時計回りとなる外周走行経路である。走行済みとなった外周走行経路への複数回の進入及び走行は、例外的に許可される。この外周走行経路の形成を考慮しない作業の場合、このステップは省略される。
(#05)走行出発点の決定
管理コンピュータ100からダウンロードされる圃場情報には、圃場に対する出入口の位置データが含まれているので、この出入口から入ったトラクタの位置に対応するセルを出発点セル及び終点セルとする。
【0035】
(#06)走行重み群の割り当て
この実施形態では、外周走行経路(枕地)の内側に存在するセルに対して、図2で説明したような走行重み群が割り当てられる。その際、圃場情報に障害物などの走行不能箇所の位置を示す障害物データが含まれている場合、その走行不能箇所に属しているセルは障害物セル(走行不能セル)として、走行重み群が割り当てられない。圃場全体を構成するセルは、行列要素、つまり、〔C11・・・C1n、・・・Cm1・・・Cmn〕として取り扱うことで、特定のセルを容易に指定することができる。各セルに割りつけられる走行重み群も、上述したように、行列(ベクトル)で取り扱うことができる。ここでは、図2での走行重み群の構成を採用すると、特定のセルの走行重み群は、W(Cmn)=〔Wij〕mn、1≦i≦4、1≦j≦4で表される。各セルにおける走行重み群は、障害物セルとの位置関係、外周走行経路との位置関係、基本的な走行パターン(長い直線走行の優先、渦巻走行の優先、特定旋回方向の優先など)などに基づいて算定され、割り当てられる。
【0036】
(#07)セル通過経路の決定
全てのセルに、走行重み群が割り当てられると、出発点のセルから順次、走行重み群を参照しながら、セル通過経路を決定していく。その際、重み変更部64がセルの通過によって影響を受けるセルの特定セルの走行重み群の重みを変更する。未通過セルが残っているにもかかわらず行き止まりに陥った場合、バックトラッキングの手法で、直前に通過したセルを戻って、他の通過経路を選択し、異なる経路を探索する。
(#08)走行経路の生成
通過対象となる全てのセルの通過経路が決定すれば、決定順にセル通過経路を繋ぎ、走行経路を生成する。生成された走行経路を走行する時間を、途中経過時間も含めて算出する。
【0037】
この走行経路の生成は1回だけでなく、複数回行うことも可能である。基本的な走行パターンを変えて、各セルの走行重み群を再度算定し、新たに得られた走行重み群で、セル通過経路の決定処理をやり直す。走行経路が複数生成された場合には、最も走行時間が短い走行経路を採用すれば、作業の効率化が図れる。
【0038】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、一台の作業車(トラクタ)で作業地(圃場)の作業が行われることが前提であったが、複数台の作業車によって作業する走行経路の生成にも用いることができる。その際、各作業車の各セルを通過する時間を管理することで、複数台の作業車が入り混じった形態での協調走行の走行経路生成も可能となる。
(2)図4で示された機能ブロック図における各機能部は、主に説明目的で区分けされている。実際には、各機能部は他の機能部と統合または複数の機能部に分けることができる。例えば、経路生成モジュール6を管理コンピュータ100に構築し、生成された走行経路を作業車の制御ユニット5にダウンロードする構成を採用してもよい。また、経路生成モジュール6を作業車の制御ユニット5に構築してもよい。
(3)上述した実施形態では、作業車として、ロータリ耕耘機を作業装置30として装備したトラクタを、作業車として取り上げたが、そのようなトラクタ以外にも、例えば、田植機、施肥機、コンバインなどの農作業車も、実施形態として採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、設定された走行経路に沿って作業地を作業する作業車のために適用可能である。走行経路に沿った走行は、手動走行であってもよいし、自動走行であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 :車体
4 :携帯通信端末
5 :制御ユニット
51 :手動走行制御部
52 :自動走行制御部
54 :作業制御部
55 :走行経路設定部
6 :経路生成モジュール
61 :セル管理部
62 :走行重み群割当部
63 :セル通過経路決定部
64 :重み変更部
65 :走行経路生成部
66 :メッシュ分割部
67 :作業地データ入力部
70 :通信処理部
図1
図2
図3
図4
図5