特許第6854639号(P6854639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6854639ラパマイシン誘導体を含有する医薬組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854639
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】ラパマイシン誘導体を含有する医薬組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20210329BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210329BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210329BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20210329BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210329BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210329BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   A61K31/436
   A61K47/26
   A61K47/38
   A61K47/30
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   A61P37/06
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-248834(P2016-248834)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-122083(P2017-122083A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2019年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-766(P2016-766)
(32)【優先日】2016年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 大
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/099029(WO,A1)
【文献】 特表2014−528431(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/128910(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/135580(WO,A2)
【文献】 国際公開第2014/118696(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液を、25℃における臨界相対湿度が95%以上の固体状態の糖類に添加する工程、次いで溶液の溶媒を除去する工程、を含む、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物の製造方法であって、
前記ラパマイシン誘導体は、エベロリムス又はテムシロリムスであり、
ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、25℃における臨界相対湿度が95%以上の糖類を〜50質量部用いる、
医薬組成物の製造方法。
【請求項2】
ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液が、安定化剤を含有する請求項1に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項3】
ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液が、水溶性高分子担体を含有する請求項1又は2に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項4】
ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液が、水溶性セルロース誘導体を含有する請求項1〜3の何れか一項に記載の医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を向上させた医薬製剤組成物に関する。ラパマイシン又はその誘導体は、酸素、光及び水分に対して非常に不安定であり、保存安定性に課題がある。そのような化合物に対する保存安定性を、医薬組成物の成分及び製造方法を最適化することにより、現在報告されているあらゆる製造方法で得られる医薬組成物よりも、長期安定性に優れた医薬製剤組成物を提供する技術である。
【背景技術】
【0002】
ラパマイシン(シロリムス)は、放線菌の代謝産物から見出されたマクロライド系抗生物質であり、免疫抑制作用を有することが知られている。ラパマイシンは細胞の分裂や増殖、生存などを調節する哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mammalian target of rapamycin;mTOR)の阻害作用を有する。このmTORは、増殖因子や栄養素などによる刺激により蛋白質の合成を調節する主要なセリン・スレオニンキナーゼであり、細胞の成長、増殖、生存及び血管新生を調節することが知られている。そこで、ラパマイシンのmTOR阻害作用に着目して、その誘導体合成が試みられ、エベロリムスとテムシロリムスが抗腫瘍剤として見出されている。
【0003】
ラパマイシン又はその誘導体を含む医薬品を提供するための、医薬製剤が報告されている。特許文献1は、ラパマイシン類、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び乳糖等の混合物を含む溶液を調製し、溶媒溜去することで得られる固体分散体を製剤化することを記載している。また、特許文献2には、ラパマイシン類であるエベロリムス、崩壊剤であるクロスポビドン、コロイド状二酸化ケイ素及び乳糖を含有する錠剤が記載されている。
【0004】
ラパマイシン又はその誘導体は、酸化に対して非常に不安定な物性であることが知られている。そこで、ラパマイシン類を有効成分とする医薬品製剤には、抗酸化剤が添加されている。例えば、ラパマイシン製剤(ラパリムス(登録商標)錠)及びテムシロリムス製剤(トーリセル(登録商標)点滴静注液)ではトコフェロールが添加されている。また、エベロリムス製剤(アフィニト−ル(登録商標)錠及びサーティカン(登録商標)錠)には、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が使用されている。
ラパマイシン誘導体の安定化方法について、特許文献3では、エベロリムスと抗酸化剤であるBHTを含む混合溶液を調製し、その後溶媒を除去することで、安定化されたエベロリムス固体が得られることが報告されている。
一方、特許文献4は、エベロリムスのエタノール溶液をヒプロメロース等の水溶性高分子に添加し造粒して調製した固体分散体をエベロリムス製剤に適用することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11−509223号公報
【特許文献2】特表2005−507897号公報
【特許文献3】特表2002−531527号公報
【特許文献4】国際公開WO2013/022201号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤に用いる、ラパマイシン又はその誘導体の酸化や分解に伴う有効成分含量の低減を抑制し、長期安定性が確保できる医薬組成物の製造方法を提供することである。また、医薬品として流通保存条件下における長期安定性が確保できるラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ラパマイシン又はその誘導体の溶液を、25℃における臨界相対湿度が95%以上の糖類に滴下して、その後、溶媒を除去することで製造されたラパマイシン又はその誘導体含有医薬組成物が、ラパマイシン又はその誘導体の安定化効果を長期間示すことを見出し、発明を完成させるに至った。すなわち、本願は以下[1]〜[7]の発明を要旨とする。
【0008】
[1] ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液を、25℃における臨界相対湿度が95%以上の糖類に添加する工程を含む、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物の製造方法。
本発明では、医薬品の有効成分であるラパマイシン等を含む溶液を、固体状態にある吸湿性をほとんど示さない糖類へ添加して混合することにより調製される医薬組成物の製造方法に関する。本製造方法により得られる医薬組成物は、有効成分であるラパマイシン又はその誘導体の分解を抑制し、保存安定性に優れた医薬組成物を提供することができる。
[2] ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、25℃における臨界相対湿度が95%以上の糖類が0.5〜50質量部である前記[1]に記載の医薬組成物の製造方法。
【0009】
[3] ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液が、安定化剤を含有する前記[1]又は[2]に記載の医薬組成物の製造方法。
[4] ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液が、水溶性高分子担体を含有する前記[1]〜[3]の何れか一項に記載の医薬組成物の製造方法。
[5] ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液が、水溶性セルロース誘導体を含有する前記[1]〜[4]の何れか一項に記載の医薬組成物の製造方法。
本発明の製造方法において、ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液に、安定化剤や水溶性セルロース誘導体等の水溶性高分子担体を添加することにより、ラパマイシン等の分解抑制効果を一層向上させることができ、安定性に優れた医薬組成物を提供することを可能とする。
【0010】
[6] ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液を、25℃における臨界相対湿度が95%以上の糖類に添加することにより調製されるラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物。
本発明はラパマイシン又はその誘導体と前記糖類を含有する医薬組成物であるが、該ラパマイシン等を溶液として、該糖類に添加して調製される組成物が、極めて高い安定性を奏する。これは該ラパマイシン等と該糖類を物理的に混合した医薬組成物や、これらを共に含有した溶液から調製される医薬組成物とは異なる物性である。このような本発明に係る医薬組成物のより詳細な態様を、化学構造体や特性等により示すことが困難である。そこで、本発明で得られる医薬組成物は、前記[6]で示される製造方法により特定されるラパマイシン又はその誘導体と前記糖類を含有する医薬組成物として表すことが適当であり、発明の明確性の要件を充足しているものと考える。
[7] 遮光下60℃、相対湿度約49%にて14日保存した後において、ラパマイシン又はその誘導体の含有量が初期値に対して少なくとも80%を含有する前記[6]に記載の医薬組成物。
本発明の医薬組成物は保存安定性に優れるものであり、より好ましい態様においては、前記保存安定性により特定される医薬組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ラパマイシン又はその誘導体の酸化や分解に伴う有効成分含量の低減を抑制し、長期安定性が確保できるラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の医薬組成物は、ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液を、25℃における臨界相対湿度が95%以上の糖類に添加する工程を含む、ラパマイシン又はその誘導体を含有する医薬組成物の製造方法、並びに該製造方法により調製される医薬組成物に関する。以下にその詳細を説明する。
【0013】
本発明は、有効成分としてラパマイシン又はその誘導体を含有する。
ラパマイシン(一般名 シロリムス)は、イースター島の土壌から分離された放線菌Streptomyces Hygroscopicusの代謝産物から単離されたマクロライド骨格を有する化合物である。
ラパマイシン誘導体とは、ラパマイシンを母格として化学修飾を施したものを指す。ラパマイシン誘導体としては、例えば、16−O−置換ラパマイシン(例えばWO94/022136を参照)、40−O−置換ラパマイシン(例えばUS5258389、WO94/09010を参照)、カルボン酸エステル置換ラパマイシン(例えばWO92/05179を参照)、アミド置換ラパマイシン(例えばUS5118677を参照)、フッ素置換ラパマイシン(例えばUS5100883を参照)、アセタール置換ラパマイシン(例えばUS5151413を参照)等が挙げられる。本発明のラパマイシン又はその誘導体は、これらの化合物に限定されるものではないが、適用する好ましい化合物として挙げることができる。
ラパマイシン誘導体としては、ラパマイシンのシクロヘキシル基の40位ヒドロキシル基がヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシアルキル基、アシルアミノアルキル基及びアミノアルキル基、ヒロドキシ置換アシル基で置換されている40−O−置換ラパマイシン誘導体が好ましい。
より好ましいラパマイシン誘導体としては、40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシン(エベロリムス)であり、40−O−[3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート]ラパマイシン(テムシロリムス)である。
【0014】
本発明のラパマイシン又はその誘導体としては、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、テムシロリムスを用いることが好ましい。
ラパマイシン又はその誘導体は、医薬品として用いることができる品質レベルの化合物を用いることが好ましい。
【0015】
本発明において、ラパマイシン又はその誘導体の溶液を調製するための溶媒は、ラパマイシンを溶解できれば特に限定されることなく適用することができる。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、エチレングリコール、グリセリン、ギ酸、酢酸、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、アセトニトリル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム等が挙げられる。
これらの溶媒は単独で用いても良く、2種類以上の溶媒を用いた混合溶媒でもよい。本発明は上記の溶媒の使用に限定されるものではないが、適用する好ましい溶媒として挙げることができる。
【0016】
該溶媒は後に除去することを考慮すると、温和な条件で溜去することが可能である沸点が120℃以下の溶媒を用いることが好ましい。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ペンタン、へプタン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルが好ましい。
また、本発明で用いる溶媒は、後述する25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類が不溶性又は難溶性の溶媒を用いることが好ましい。したがって、上記の好ましい溶媒において、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、酢酸イソプロピル、酢酸エチルを用いることが特に好ましい。これらの溶媒をそれぞれ単独で用いても良く、併用して用いても良い。
【0017】
該溶媒の使用量は、ラパマイシン又はその誘導体が完全に溶解すれば良く、適宜、使用量を調整することができる。好ましくはラパマイシン又はその誘導体含有濃度として、1〜1000mg/mL以下の溶液を調製することであり、好ましくは、10〜500mg/mLの溶液である。
また溶液調製において、適宜加温を行いラパマイシン又はその誘導体の溶解を促しても良い。溶液調製時の溶液温度は、特に限定されるものではないが、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を考慮して0〜80℃で溶液を調製することが好ましい。
【0018】
本発明は、医薬組成物の担体として25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類を用いる。「25℃における臨界相対湿度が95%以上である」とは、25℃における相対湿度が95%以下の保存環境において、ほとんど吸湿しない物性であることを示す。臨界相対湿度は、例えば文献、European Journal of Pharmaceutical Sciences 41 (2010)383−387記載の方法で測定することができる。
本発明は、25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類であれば特に限定されずに適用することができる。このような物性の糖類は単糖類、オリゴ糖等において見出すことができ、当業者において低吸湿性の糖類として通常認知されている。
当該25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類としては、糖アルコール又は二糖類が好ましく、マンニトール、乳糖、トレハロース及びマルトースからなる群から選択される1種以上の糖類が好ましい。これらの糖類はそれぞれ単独で用いても良く、2種類以上を併用して用いても良い。乳糖を用いることが特に好ましい。
【0019】
本発明における25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類の添加量は、ラパマイシン又はその誘導体が1質量部に対し、0.5質量部以上を用いれば良い。好ましくは、1質量部以上を用いれば良く、更に好ましくは2質量部以上の使用である。5質量部以上を用いれば十分量である。本発明において、25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類は安全上特に問題ないことから、その使用量の上限は特になく、医薬品として実用可能な使用量において設定されるべきである。
ラパマイシン又はその誘導体の安定性確保と、医薬品添加剤の現実的な使用量を考慮すると、ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、当該糖類は0.5〜100質量部で用いることが好ましい。好ましくは0.5〜50質量部であり、より好ましくは1〜50質量部であり、更に好ましくは2〜50質量部である。
【0020】
本発明のより好ましい態様として、ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液は、更に安定化剤が含有した溶液を用いることが挙げられる。
安定化剤とは、ラパマイシン又はその誘導体に添加することでラパマイシン又はその誘導体の酸化や光分解、加水分解を抑制して、安定性を持続させるものであれば特に限定されない。このような安定化剤としては、ラパマイシン及びその誘導体の安定化効果を示す公知の抗酸化剤や安定化剤を用いることができる。
例えば、亜硝酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、亜硫酸、アルファチオグリセリン、エデト酸、エリソルビン酸、塩酸システイン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、ジクロルイソシアヌール酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、トコフェロール、トレハロース、ピロ亜硫酸、ブチルヒドロキシアニソール、1,3−ブチレングリコール、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]ベンゾトリアゾール、没食子酸イソプロピル、2−メルカプトベンズイミダゾール、レシチン等が挙げられる。該安定化剤としては、これらの化合物に限定されるものではないが、本発明に適用することが好ましい安定化剤として挙げることができる。前記安定化剤をそれぞれ単独で用いても良く、併用して用いても良い。
安定化剤としてより好ましくは、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール、トレハロース、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸イソプロピル、レシチンが挙げられる。最も好ましくはアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、クエン酸水素二ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール、トレハロース、レシチンが挙げられる。
【0021】
前記安定化剤は、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を損なわない程度の量で適宜用いることができる。前記安定化剤の添加量としては、ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、安定化剤は0.0001〜10質量部で用いることが好ましい。より好ましくは0.0005〜1.0質量部であり、更に好ましくは0.001〜1.0質量部である。
なお、前記安定化剤はラパマイシン又はその誘導体溶液に加えられ、完全に溶解した状態で適用することが好ましい。
【0022】
本発明のより好ましい態様として、ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液に、更に水溶性高分子担体を含有した溶液を用いることが挙げられる。
水溶性高分子担体とは、医薬品の添加剤として適用な可能な水溶性高分子担体であれば特に限定されるものではなく、適用することができる。該水溶性高分子担体としては、例えば水溶性合成高分子誘導体担体、水溶性セルロース誘導体担体、等が挙げられる。
水溶性合成高分子誘導体担体としては、ポビドン、マクロゴール、ポリビニルアルコール、メタクリル酸コポリマー等が挙げられる。これらの水溶性合成高分子誘導体担体は、それぞれ単独で用いても良く、併用して用いても良い。
【0023】
本発明における前記水溶性高分子担体は、水溶性セルロース誘導体を用いることが好ましい。前記水溶性セルロース誘導体とは、セルロースの水酸基の水素原子の一部を、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシメチル基等の置換基で置換した水溶性高分子である。
本発明で使用される水溶性セルロース誘導体としては、医薬品添加剤として許容されるものであることが好ましく、具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、セラセフェート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒプロメロースアセテートスクシネート、ヒプロメロースフタル酸エステル、カルボキシメチルセルロース、及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステルが挙げられ、最も好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0024】
本発明における水溶性高分子担体の添加量は、ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、0.1質量部以上を用いることが好ましい。より好ましくは、0.5質量部以上を用いることが良い。すなわち、前記水溶性高分子担体は、ラパマイシン又はその誘導体の安定性を損なわない程度の量で適宜用いることができる。前記安定化剤の添加量としては、ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、該水溶性高分子担体は0.1〜10質量部で用いることが好ましい。より好ましくは0.1〜5.0質量部であり、更に好ましくは0.5〜5.0質量部である。
なお、前記水溶性高分子担体はラパマイシン又はその誘導体溶液に加えられ、完全に溶解した状態であっても良く、該水溶性高分子担体が懸濁した状態であっても良く、何れの態様で用いても良い。
【0025】
本発明は、ラパマイシン又はその誘導体溶液に、本発明の効果を妨げない範囲で医薬品製剤を調製するために通常用いられる他の添加剤を含んでいても良い。例えば、pH調整剤、無機塩類等を適用しても良い。
pH調整剤としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、メシル酸、トシル酸、ベシル酸等を挙げることができる。これらの酸性添加剤を主成分として、これにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を含んだ緩衝剤を用いても良い。
無機塩類としては塩化カルシウム、塩化ナトリウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
前記他の添加剤を用いる場合は、ラパマイシン又はその誘導体1質量部に対し、0.01〜10質量部で用いることが好ましい。
なお、前記他の添加剤はラパマイシン又はその誘導体溶液に加えられ、完全に溶解した状態であっても良く、懸濁した状態であっても良く、何れの態様で用いても良い。
【0026】
本発明の医薬組成物は、前記ラパマイシン又はその誘導体等を含有する溶液を、固体状態にある25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類へ添加して、混合することにより調製される。
前記固体状態の25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類は、該糖類のみであることが好ましいが、本発明の効果を妨げない範囲で医薬品製剤を調製するために通常用いられる他の添加剤を含んでいても良い。すなわち、本発明は25℃における臨界相対湿度が95%以上である糖類を含有する固体担体に対して、ラパマイシン又はその誘導体を含有する溶液を添加することを要旨として含む。
【0027】
他の添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、pH調整剤、無機塩類等を適用しても良い。
賦形剤としては、スクロース、エリスリトール、ソルビトール、フコース、キシリトール、フルクトース、イノシトール、デンプン等の糖類を挙げることができる。
崩壊剤としては、カルメロース、クロスポビドン、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム等を挙げることができる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ピプロメロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
pH調整剤としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、メシル酸、トシル酸、ベシル酸等を挙げることができる。これらの酸性添加剤を主成分として、これにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を含んだ緩衝剤を用いても良い。
無機塩類としては塩化カルシウム、塩化ナトリウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
これらの添加剤は、医薬品製剤用途で許容される純度であれば特に制限されることなく用いることができる。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬組成物又は医薬製剤を調製する際に、任意に使用される。
【0028】
前記ラパマイシン又はその誘導体等を含有する溶液を、固体状態にある前記糖類へ添加する方法としては、特に限定されるものではないが、前記ラパマイシン等溶液と前記糖類が均一に混合する添加方法を用いることが好ましく、該溶液を該糖類へ滴下する方法が好ましい。より好ましくは、該溶液を噴霧状に滴下することが好ましい。該糖類を混合しながら該溶液を滴下する方法がより好ましい。
【0029】
本発明の医薬組成物は、前記ラパマイシン又はその誘導体等を含有する溶液を、固体状態にある前記糖類へ添加した後、溶媒を除去することが好ましい。例えば、前記溶液を加熱することで溶媒除去することができるが、その際、減圧条件とすることで温和な温度条件で溶媒を除去することができることから好ましい。また、乾燥機の中に空気や窒素等の不活性ガスを送風し乾燥させる、通風乾燥によっても固体混合物を得ることができる。
【0030】
本発明の医薬組成物は、有効成分であるラパマイシン又はその誘導体の酸化や分解を抑制し、これに伴う有効成分含量の低減を防止することができるため、保存安定性に優れた医薬組成物を調製することができる。本発明の保存安定性は、医薬品開発における物理化学的安定性に係る試験方法を用いて評価することができる。例えば、加速試験である、遮光下60℃で、飽和塩化コバルト水溶液で相対湿度約49%に調整した保存庫で、14日保存した場合、ラパマイシン又はその誘導体の含有量が初期値に対して少なくとも80%を含有する物性である。
【0031】
上述した方法により調製される本発明の医薬組成物は、これを用いて医薬製剤を調製することができる。すなわち、本発明の医薬組成物に、医薬品製剤を調製するために通常用いられる添加剤を併せて、医薬製剤を調製することができる。他の添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、pH調整剤、無機塩類、溶剤等を適用しても良い。
賦形剤としては、ラクトース、マルトース、マンニトール、スクロース、エリスリトール、ソルビトール、フコース、キシリトール、フルクトース、イノシトール、デンプン等の糖類を挙げることができる。
崩壊剤としては、カルメロース、クロスポビドン、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム等を挙げることができる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ピプロメロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
pH調整剤としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、メシル酸、トシル酸、ベシル酸等を挙げることができる。これらの酸性添加剤を主成分として、これにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を含んだ緩衝剤を用いても良い。
無機塩類としては塩化カルシウム、塩化ナトリウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
溶剤としては、通常、水、生理食塩水、5%ブドウ糖又はマンニトール水溶液、水溶性有機溶媒(例えば、グリセロール、エタノール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ポリエチレングリコール、クレモフォア等の単一溶媒又はこれらの混合溶媒)、ポリエチレングリコール類(例えば、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール4000等)が挙げられる。
これらの添加剤は、医薬品製剤用途で許容される純度であれば特に制限されることなく用いることができる。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬組成物又は医薬製剤を調製する際に、任意に使用される。
【0032】
本発明の医薬組成物は、該医薬組成物を含む医薬品として製造することができる。
この医薬品としての製剤形は、錠剤、分散錠、チュアブル錠、発泡錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤・煎剤、舐剤、シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、口腔内崩壊錠、ゼリー剤、等の内用剤、坐剤、パップ剤、プラスター剤、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤液、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤等の外用剤が挙げることができる。これらの製剤形に限定されるものではないが、適用する好ましい製剤形として挙げることができる。
また、本発明の医薬組成物を注射剤として用いる場合、水性注射剤、非水性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時溶解又は懸濁して用いる製剤形として、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、中心静脈内注射、動脈内注射、脊髄腔内注射等が挙げられる。これらに限定されるものではないが、適用する好ましい製剤形、投与経路として挙げることができる。
【0033】
本発明の医薬組成物を用いた医薬品は、疾患の治療に適用することができる。適用できる疾患としては、例えば、心臓、肺、複合心肺、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚、角膜等の移植における拒絶反応の抑制、例えば、関節炎、リウマチ疾患、全身性エリテマトーデス、多軟骨炎、硬皮症、ウェゲナー肉芽腫、皮膚筋炎、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、乾癬、スティーブン− ジョンソン症候群、特発性スプルー、自己免疫炎症性大腸炎、内分泌性眼病、グレーブス病、結節炎、多発性硬化症、原発性胆汁性肝炎、若年性糖尿病(I型糖尿病)、ブドウ膜炎、乾燥性角結膜炎、春季角結膜炎、間質性肺線維症、乾癬性関節炎、糸球体腎炎、若年性皮膚筋炎等の自己免疫疾患及び炎症性疾患、喘息、例えば乳癌、腎癌、神経内分泌腫瘍、リンパ増殖性疾患、B細胞リンパ腺癌、結節性硬化症、増殖性皮膚疾患等の癌や過増殖性疾患等が挙げられる。これらの疾患に限定されるものではないが、適用する好ましい疾患として挙げることができる。
【0034】
本発明の医薬組成物を用いた医薬品の投与量は、患者の性別、年齢、生理的状態、病態等により当然変更されうるが、例えば成人1日当たり、ラパマイシン又はその誘導体として0.01〜100mg/m(体表面積)を投与する。この投与量に限定されるものではないが、適用する好ましい投与量として挙げることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本試験例における液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた分析においては、以下の条件にて測定した。
測定カラム:Zorbax Eclipse XDB-C18, Rapid resolution HT, 100mm × 4.6mm, 1.8μm
検出器:紫外吸光光度計(測定波長 278nm)
カラム温度
移動相A: 0.1%ギ酸,移動相B:メタノール/アセトニトリル = 50/50
移動相の濃度勾配:
時間(分) ; 0, 5, 17, 22, 24, 25, 28
移動相A(vol%); 46, 46, 25, 10, 10, 46, 46
移動相B(vol%); 64, 64, 75, 90, 90, 64, 64
流量:1.5 mL/min
注入量:10μL
【0036】
[実施例1]
試験管にエベロリムス 150mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(30mg/mL)10μL及び無水エタノール 750μLを加えた後、超音波を5分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。その後、この混合溶液中にヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)150mgを加え超音波を5分間照射した。この混合溶液を、無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)1350mgを乳鉢に秤量したところへパスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して実施例1に係る医薬組成物を調製した。なお、乳糖の25℃における臨界相対湿度は95%以上である。
【0037】
[比較例1]
試験管にエベロリムス 150mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(30mg/mL)10μL及び無水エタノール 75mLを加えた後、ホモジナイザー(ULTRA−TURRAX(登録商標) T25 digital、IKA社製)を用い10,000rpmにて1分間撹拌し、エベロリムスの溶解を確認した。この混合溶液中にヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)1350mg及び無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)150mgを添加し、ホモジナイザー(ULTRA−TURRAX(登録商標) T25 digital、IKA社製)を用い10,000rpmにてさらに60分間撹拌した。この混合液をスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B−290、BUCHI社製)にて噴霧乾燥し比較例1に係る医薬組成物を調製した。
【0038】
[比較例2]
試験管にエベロリムス 150mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(30mg/mL)10μL及び無水エタノール 750μLを加えた後、超音波を5分間照射しエベロリムスの溶解を確認した。この混合溶液をヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)1500mgを乳鉢に秤量したところへパスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して比較例2に係る医薬組成物を調製した。
【0039】
[比較例3]
試験管にヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)75mgを秤量し、水 300μLを加えヒプロメロースを溶解させた。この溶液をエベロリムス 150mgと無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)1425mgを乳鉢に秤量し乳棒で撹拌し混合したところへ、パスツールピペットにて滴下し乳棒を用いて撹拌した。さらに、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(30mg/mL)10μLを加え、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して比較例3に係る医薬組成物を調製した。
【0040】
[比較例4]
乳鉢にエベロリムス 150mg、無水乳糖(Super Tab(登録商標) 21 AN、 DFE Pharma社製)150mg、ヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)1350mg及びジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)0.3mgを秤量し、乳棒にて撹拌した。この混合紛体を単発打錠機にて成形後、粉砕して比較例4に係る医薬組成物を調製した。
【0041】
[試験例1]
実施例1及び比較例1〜4の方法で得られた医薬組成物約1g及びエベロリムス原薬 100mgをそれぞれ褐色サンプル瓶に採取し蓋をしないで、遮光下60℃/飽和塩化コバルト水溶液(相対湿度約49%)にて調湿したデシケータ内に保存した。
保存試験10日後及び14日後のエベロリムスの残存量を液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定し、各時点におけるエベロリムスの残存率を算出した。なお残存率は以下の式に従い算出した。結果を表1に示した。

エベロリムス残存率(%)=(各時点におけるHPLC測定エベロリムスピーク面積/粉体秤量値)/(保存前(イニシャル)におけるHPLC測定エベロリムスピーク面積/粉体秤量値)×100
【0042】
[表1]
【0043】
エベロリムス原薬は、遮光下60℃/飽和塩化コバルト水溶液(相対湿度約49%)保存条件で、酸化等の分解反応が急速に進む物性であった。このような事情から、現在流通しているエベロリムス製剤(アフィニトール(登録商標)錠及びサーティカン(登録商標)錠)は、エベロリムスにヒプロメロース、乳糖及びジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を処方した医薬組成物として製造している。
比較例1は、特許文献1(特表平11−509223号公報)に記載の医薬組成物を模して調製した組成物である。また、比較例2は、特許文献4(国際公開WO2013/022201号)に記載のエベロリムスの安定性を考慮した医薬組成物である。
【0044】
実施例1は、公知の医薬組成物と比較してエベロリムスの酸化等を抑制して、高い安定性を奏することが示された。このことは、エベロリムスの安定性は、添加剤の処方組成のみならず、その調製方法に大きく影響を受けることを示すものである。すなわち、エベロリムス溶液を乳糖に添加する方法により調製された医薬組成物が、エベロリムスの安定性向上をもたらすことが明らかとなった。すなわち、本発明に係る実施例1の医薬組成物は、遮光下60℃で飽和塩化コバルト溶液により相対湿度約49%調湿した保存条件において、14日後に有効成分であるエベロリムスが80%以上で含有する安定性を有することが示された。
したがって、本発明に係る実施例1は、薬効発現に基づく有効成分含量が担保され、また分解物に起因すると懸念される副作用の発現を防止することができる。本発明によってエベロリムス等の有効成分の安定性が高く、さらに安全性が高い医薬製剤を提供することができることが示された。
【0045】
[実施例2]
試験管にエベロリムス 30mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(6mg/mL)10μL及び無水エタノール 120μLを加えた後、超音波を5分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。その後、この混合溶液中にヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)30mgを加え超音波を5分間照射した。この混合溶液を、トレハロース(林原社製)270mgを乳鉢に秤量したところへパスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して実施例2に係る医薬組成物を調製した。なお、トレハロースの25℃における臨界相対湿度は95%以上である。
【0046】
[実施例3]
試験管にエベロリムス 30mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(6mg/mL)10μL及び無水エタノール 120μLを加えた後、超音波を5分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。その後、この混合溶液中にヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)30mgを加え超音波を5分間照射した。この混合溶液を、D−マンニトール(Roquette Pharma社製)270mgを乳鉢に秤量したところへパスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して実施例3に係る医薬組成物を調製した。なお、マンニトールの25℃における臨界相対湿度は95%以上である。
【0047】
[比較例5]
試験管にエベロリムス 30mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(6mg/mL)10μL及び無水エタノール 120μLを加えた後、超音波を5分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。その後、この混合溶液中にヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)30mgを加え超音波を5分間照射した。この混合溶液を、ソルビトール(メルクジャパン社製)270mgを乳鉢に秤量したところへパスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して比較例5に係る医薬組成物を調製した。なお、ソルビトールの25℃における臨界相対湿度は約70%である。
【0048】
[比較例6]
試験管にエベロリムス 30mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(6mg/mL)10μL及び無水エタノール 120μLを加えた後、超音波を5分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。その後、この混合溶液中にヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)30mgを加え超音波を5分間照射した。この混合溶液を、グルコース(サンエイ糖化社製)270mgを乳鉢に秤量したところへパスツールピペットにて滴下し、乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して比較例6に係る医薬組成物を調製した。なお、グルコースの25℃における臨界相対湿度は約90%である。
【0049】
[比較例7]
試験管にエベロリムス 30mgを秤量し、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、MERCK社製)無水エタノール 溶液(6mg/mL)10μL及び無水エタノール 120μLを加えた後、超音波を5分間照射し、エベロリムスの溶解を確認した。この混合溶液をヒプロメロース(TC−5 E Type、信越化学社製)300mgを乳鉢に秤量したところへ、パスツールピペットにて滴下し乳棒を用いて撹拌した。この粉体をナスフラスコに移し、エバポレーターにて3時間減圧乾燥して比較例7に係る医薬組成物を調製した。
【0050】
[試験例2]
実施例2,3及び比較例5〜7の方法で得られた医薬組成物約250mgをそれぞれ褐色サンプル瓶に採取し蓋をしないで、遮光下60℃/飽和塩化コバルト水溶液(相対湿度約49%)にて調湿したデシケータ内に保存した。
保存試験7日後及び14日後のエベロリムスの残存量を液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定し、各時点におけるエベロリムスの残存率を算出した。なお残存率は以下の式に従い算出した。結果を表1に示した。
【0051】
[表2]
【0052】
エベロリムス溶液を滴下する糖として、トレハロース及びマンニトールを用いた医薬組成物(実施例2及び3)も遮光下60℃/飽和塩化コバルト水溶液(相対湿度約49%)保存条件における14日目のエベロリムス残存率は、共に80%以上であった。一方、ソルビトール及びグルコースを用いた医薬組成物(比較例5及び6)、並びに水溶性セルロース誘導体であるヒロドキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)を用いた医薬組成物は、エベロリムスの分解は急速に進行し、14日後には約3〜5割が分解した。比較例7はある程度のエベロリムスの安定性は確保されたものの、本試験保存条件下で該医薬組成物の黄変色が認められた。
以上の結果から、エベロリムス溶液を添加する糖類として、トレハロース及びマンニトールも適用できることが明らかとなった。これらは25℃における相対臨界湿度が95%以上の糖類であり、吸湿性の少ない糖類を用いることが重要であることが示唆された。
【0053】
ラパマイシン又はその誘導体は酸化等の化学変化を受けやすい物性であり、医薬製剤として市場流通させるためには保存条件下における安定性を確保する必要がある。ラパマイシン又はその誘導体の化学的安定性において、BHT等の抗酸化剤を含めた添加剤組成のみならず、その処方調製方法が大きく影響することが明らかとなった。すなわち、エベロリムス溶液を、25℃における相対臨界湿度が95%以上の糖類へ添加する方法により調製された医薬組成物が、エベロリムスの安定性向上をもたらすことが判った。
本発明に係る医薬組成物は、薬効発現に基づく有効成分含量が担保され、また分解物に起因すると懸念される副作用の発現を防止することができる。したがって、本発明によってエベロリムス等の有効成分の安定性が高く、さらに安全性が高い医薬製剤を提供することができることが示された。