特許第6854657号(P6854657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6854657セラミックバネの製造方法及びセラミックバネ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854657
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】セラミックバネの製造方法及びセラミックバネ
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20210329BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20210329BHJP
   C04B 35/83 20060101ALI20210329BHJP
   C04B 35/528 20060101ALI20210329BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20210329BHJP
   F16B 43/00 20060101ALN20210329BHJP
【FI】
   C04B35/80
   F16F1/06 A
   C04B35/83
   C04B35/528
   C23C16/26
   !F16B43/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-16052(P2017-16052)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-123023(P2018-123023A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将隆
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−135776(JP,A)
【文献】 特開2016−216333(JP,A)
【文献】 特開2016−141585(JP,A)
【文献】 特開平06−264947(JP,A)
【文献】 特開平09−079248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C23C 16/00−16/56
F16F 1/00− 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維からなる紐をマンドレルにヘリカル巻きし、組み体を得る巻回工程と、
前記組み体をCVD炉にいれ、前記紐に熱分解炭素からなるセラミック層を気相成長させるCVI工程と、
前記組み体から前記マンドレルを取り外し、セラミックバネを得る分離工程と、
を含むセラミックバネの製造方法。
【請求項2】
前記紐は、セラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体である請求項1に記載のセラミックバネの製造方法。
【請求項3】
前記セラミック繊維は、炭素繊維またはSiC繊維である請求項1または2に記載のセラミックバネの製造方法。
【請求項4】
前記分離工程の後に、前記セラミックバネに破壊荷重を超える荷重を加え、バネ定数を調整する調整工程を有する請求項1からのいずれか1項に記載のセラミックバネの製造方法。
【請求項5】
前記調整工程は、前記セラミックバネに加える荷重と変位との関係を確認しながら、所定のバネ定数になるように調整する請求項に記載のセラミックバネの製造方法。
【請求項6】
セラミック繊維からなる紐と、前記セラミック繊維をつなぐ架橋を形成するとともに前記紐の形状を固定する気相成長した熱分解炭素からなるセラミック層と、を備えるセラミックバネ。
【請求項7】
前記紐は、前記セラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体である請求項に記載のセラミックバネ。
【請求項8】
前記セラミック繊維は、炭素繊維またはSiC繊維である請求項またはに記載のセラミックバネ。
【請求項9】
前記セラミック層は、マイクロクラックを有する請求項6〜8のいずれか1項に記載のセラミックバネ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックバネの製造方法及びセラミックバネに関する。
【背景技術】
【0002】
高い耐熱性を備え、変形しても壊れにくいスプリング材料として炭素繊維強化炭素複合材料が知られている。炭素繊維強化炭素複合材料からなるスプリングは、板状または棒状の素材から切削加工によって製造される。
【0003】
このような製造方法では、強化材の炭素繊維の連続性が損なわれ剛性が低くなる。また切削加工のため、素材から製品の利用効率が低くなり、製造コストが高くなる。素材の利用効率を高め、強化材である炭素繊維の連続性を保持し、剛性の高いスプリングワッシャーを得るため、特許文献1には、以下のスプリングの製造方法が記載されている。
【0004】
引張り強さ200kg/mm以上、引張り弾性率24000kg/mm以上の炭素繊維の束又はスリーブ状に編んだプリプレグを治具のスパイラルな溝に巻き付けて加熱し、半硬化させる。この状態で、半硬化のコイル状成形体を治具から外し、更に加熱し、完全に硬化させてコイル状成形体を得る。次に、成形体を炭化、必要に応じてピッチ等を含浸、焼成、黒鉛化し炭素繊維強化炭素複合材料のコイル状材を得る。更に一巻き毎に分離し、炭素繊維強化炭素複合材料からなるスプリングワッシャーが得られる。このような製造方法により切削ロスの量は、大幅にロスを減少できる。また炭素繊維は炭素繊維強化炭素複合材料の中で連続しており、剛性の高いスプリングワッシャーが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−79248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたスプリングワッシャーの発明は、複数の工程を経て最終的に加熱硬化、あるいは黒鉛化して得られている。このような製造方法を弦巻バネに適用すると、樹脂が焼成される過程で寸法収縮を伴う上、治具(マンドレル)を外して焼成されるため寸法精度が悪くなる。さらに多くの工程を経て製造されるので製造段階でバネ定数の調整が難しく、許容差の狭いバネを得るためには最終段階で検査、選別が必要となる。このため上記方法で得られるバネはコストアップの原因となっている。
【0007】
前記課題に鑑み、本発明は、精度よく目的の形状と所定のバネ定数の得られるセラミックバネの製造方法及びセラミックバネを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明のセラミックバネの製造方法は、
(1)セラミック繊維からなる紐をマンドレルにヘリカル巻きし、組み体を得る巻回工程と、前記組み体をCVD炉にいれ、前記紐にセラミック層を気相成長させるCVI工程と、前記組み体から前記マンドレルを取り外し、セラミックバネを得る分離工程と、を含む。
【0009】
本発明のセラミックバネの製造方法によれば、セラミック繊維からなる紐と、セラミック繊維の繊維間に含浸された気相成長したセラミック層とからなるセラミックバネを得ることができる。セラミック繊維どうしが近接する箇所をセラミック層が架橋し、紐の形状を固定し、硬いセラミックバネを得ることができる。また、セラミック層は、CVI法で気相成長して得られている。気相成長して得られたセラミック層は、緻密な材料であるため、少量であっても強固に架橋箇所を接着することができる。また、気相成長で得られるセラミック層は、セラミック繊維の表面に沈積しただけであるので、セラミックバネの内部に多くの空間を残しつつ、架橋によってセラミック繊維どうしを強固に接着している。
【0010】
また、本発明のセラミックバネの製造方法によれば、セラミック繊維からなる紐を、マンドレルにヘリカル巻きし、組み体を得る巻回工程と、前記組み体をCVD炉にいれ、前記紐にセラミック層を気相成長させるCVI工程と、前記組み体から、マンドレルを取り外し、セラミックバネを得る分離工程と、を有している。セラミック繊維どうしの接着はCVI工程のみで行われるのでばらつきの発生要因が少なく、目的の形状、所定のバネ定数のセラミックバネを精度よく得ることができる。
【0011】
(2)前記紐は、セラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体である。
【0012】
紐がセラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体であると、セラミック繊維どうしが近接し交差する箇所を多数内部に形成することができる。セラミック繊維どうしが交差する箇所が多いと、少量のセラミック層であってもセラミックバネを強固に固定することができる。また、少量のセラミック層で、セラミックバネの形状を保持できるので、内部に多くの空間を残すことができ、内部に接着された架橋部分を破壊するクラックが形成されても、マトリックスに連続性がないので、亀裂伝播を抑制し、疲労によるバネ定数の低下を防止することができる。
【0013】
(3)前記セラミック繊維は、炭素繊維またはSiC繊維である。
【0014】
セラミック繊維が炭素繊維またはSiC繊維であると、高温でも安定して強度を確保することができる。
【0015】
(4)前記セラミック層は、熱分解炭素である。
【0016】
熱分解炭素は、元素が炭素のみからなる。このため、どのような方法で製造しても、元素バランスが崩れることがなく、幅広い条件で安定的に気相成長させることができる。一方、セラミックバネの内部までセラミック層を形成するよう、原料ガスの平均自由工程を長くできるよう希薄な条件、または表面に偏って沈積しないよう低温の条件を選定して形成することができる。このため熱分解炭素からなるセラミック層は、セラミックバネの内部まで浸入することができ、セラミックバネのかかる応力を内部まで分散することができ、折れにくいセラミックバネを提供することができる。
【0017】
(5)前記分離工程の後に、前記セラミックバネに破壊荷重を超える荷重を加え、バネ定数を調整する調整工程を有する。
【0018】
本発明のセラミックバネは、分離工程までで完成させてもよいが、さらにバネ定数を調整する調整工程を有していてもよい。本発明のセラミックバネは、セラミック繊維間に気相成長したセラミック層が含浸され、形状が保持されている。気相成長で得られるセラミック層は内部を完全に充填することがなく、架橋によって部分的な接着を形成しているので、セラミックバネに破壊荷重を超える荷重を加えることによって架橋部分を壊しセラミックバネを所定のバネ定数に調整することができる。
【0019】
(6)前記調整工程は、前記セラミックバネに加える荷重と変位との関係を確認しながら、所定のバネ定数になるように調整する。
【0020】
本発明のセラミックバネの製造方法は、最後の工程でセラミックバネのバネ定数を簡便な方法で調整することができ、さらに高い精度で所定のバネ定数のセラミックバネを得ることができる。これは以下の作用による。本発明のセラミックバネは、セラミック繊維と、セラミック繊維の繊維間に含浸されたセラミック層とからなり、セラミック繊維間に含浸されたセラミック層は、近接するセラミック繊維を接着する架橋を形成する。このため、セラミックバネに荷重を加えると、セラミック層に形成された架橋が部分的に破壊されることによりバネ定数が調整される。すなわち、調整工程では、セラミック繊維に損傷を加えるわけではないので、セラミックバネ自体を破壊するものではない。
【0021】
前記課題を解決するための本発明のセラミックバネは、
(7)セラミック繊維からなる紐と、前記セラミック繊維をつなぐ架橋を形成するとともに前記紐の形状を固定する気相成長のセラミック層と、を備える。
【0022】
本発明のセラミックバネによれば、セラミック層は、セラミック繊維どうしが近接する箇所を接着する架橋を構成するので、セラミック繊維からなる紐の形状を固定して硬いセラミックバネを得ることができる。また、セラミック層は、CVI法で気相成長して得られている。気相成長して得られたセラミック層は、緻密な材料であるため、少量であっても強固にセラミック繊維どうしを接着することができる。また、気相成長で得られるセラミック層は、セラミック繊維の表面から順に沈積し、後工程で焼成など寸法変化を伴う工程がないので、高い形状精度のセラミックバネを得ることができる。また、少ない工程でセラミックバネが得られているので、精度よく目的のバネ定数のセラミックバネを得ることができる。
【0023】
(8)前記紐は、セラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体である。
【0024】
紐がセラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体であると、セラミック繊維どうしの交差する箇所を多数内部に形成することができる。セラミック繊維どうしが交差する箇所が多いと、少量のセラミック層であってもセラミックバネを強固に固定することができる。また、少量のセラミック層で、セラミックバネの形状を保持できるので、内部に多くの空間を残すことができ、マトリックスの連続性がないので、セラミックバネの内部にクラックが形成されても、先端が空間部分で止まって、亀裂伝播を抑制し、バネ定数の低下を防止することができる。
【0025】
(9)前記セラミック繊維は、炭素繊維またはSiC繊維である。
【0026】
セラミック繊維が炭素繊維またはSiC繊維であると、高温でも安定して強度を確保することができる。
【0027】
(10)前記セラミック層は、熱分解炭素である。
【0028】
セラミック層が、熱分解炭素からなると、高温でも安定して強度を発揮することができる。また、熱分解炭素は、黒鉛と同一の結晶構造を有しファンデルワールス力によるc軸方向の結合を有し弾性率が低く柔軟性を発揮する。このため、セラミックバネを構成するセラミック繊維の接着成分として好適に利用することができる。
【0029】
(11)前記セラミック層は、マイクロクラックを有する。
【0030】
本発明のセラミックバネのセラミック層にマイクロクラックを有していると、マイクロクラックの量によってセラミックバネの柔軟性を調整することができる。マイクロクラックとは、セラミック繊維どうしを接着する架橋が破壊されて形成されたものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明のセラミックバネの製造方法によれば、セラミック繊維からなる紐と、セラミック繊維の繊維間に含浸された気相成長したセラミック層とからなるセラミックバネを得ることができる。セラミック繊維どうしが近接する箇所をセラミック層が架橋し、紐の形状を固定し、硬いセラミックバネを得ることができる。また、セラミック層は、CVI法で気相成長して得られている。気相成長して得られたセラミック層は、緻密な材料であるため、少量であっても強固に架橋箇所を接着することができる。また、気相成長で得られるセラミック層は、セラミック繊維の表面に沈積しただけであるので、セラミックバネの内部に多くの空間を残しつつ、架橋によってセラミック繊維どうしを強固に接着している。
【0032】
また、本発明のセラミックバネの製造方法によれば、セラミック繊維からなる紐を、マンドレルにヘリカル巻きし、組み体を得る巻回工程と、前記組み体をCVD炉にいれ、前記紐にセラミック層を気相成長させるCVI工程と、前記組み体から、マンドレルを取り外し、セラミックバネを得る分離工程と、を有している。セラミック繊維どうしの接着はCVI工程のみで行われるのでばらつきの発生要因が少なく、目的の形状、所定のバネ定数のセラミックバネを精度よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施の形態のセラミックバネの説明図であり、(a)はセラミックバネの全体図、(b)はセラミックバネを構成する線のB部拡大図、(c)は、線を構成するストランドの交差部分(A−A’)の部分拡大図である。
図2】本発明のセラミックバネの製造方法の工程フロー図である。
図3】本発明の実施の形態であるセラミックバネの製造工程を示す説明図である。
図4】本発明の実施の形態の調整工程を、荷重−変位曲線から示す説明図である。
図5】本発明の実施例のセラミックバネの外観写真である。
図6図5のセラミックバネの線の拡大写真である。
図7】本発明の実施の形態のセラミックバネの製造方法におけるストランドの交差部分を拡大した説明図であり、(a)は巻回工程後の断面、(b)はCVI工程後の断面、(c)は調整工程後の断面である。
図8】本発明の実施の形態のセラミックバネの変形例を示す概念図であり、(a)はスプリングワッシャー、(b)ねじりコイルバネ、(c)円錐コイルバネ、(d)はフック付きのコイル状のバネである。
図9】本発明の実施の形態のマンドレルの斜視図であり、(a)はスリーブと中芯の組み合わされたマンドレルであり、(b)は螺旋状のスリットのあるスリーブ、(b)は中芯である。
【0034】
(発明の詳細な説明)
本発明のセラミックバネの製造方法は、セラミック繊維からなる紐をマンドレルにヘリカル巻きし、組み体を得る巻回工程と、前記組み体をCVD炉にいれ、前記紐にセラミック層を気相成長させるCVI工程と、前記組み体から前記マンドレルを取り外し、セラミックバネを得る分離工程と、を含む。
【0035】
本発明のセラミックバネの製造方法によれば、セラミック繊維からなる紐と、セラミック繊維の繊維間に含浸された気相成長したセラミック層とからなるセラミックバネを得ることができる。セラミック繊維どうしが近接する箇所をセラミック層が架橋し、紐の形状を固定し、硬いセラミックバネを得ることができる。また、セラミック層は、CVI法で気相成長して得られている。気相成長して得られたセラミック層は、緻密な材料であるため、少量であっても強固に架橋箇所を接着することができる。また、気相成長で得られるセラミック層は、セラミック繊維の表面に沈積しただけであるので、セラミックバネの内部に多くの空間を残しつつ、架橋によってセラミック繊維どうしを強固に接着している。
【0036】
また、本発明のセラミックバネの製造方法によれば、セラミック繊維からなる紐を、マンドレルにヘリカル巻きし、組み体を得る巻回工程と、前記組み体をCVD炉にいれ、前記紐にセラミック層を気相成長させるCVI工程と、前記組み体から、マンドレルを取り外し、セラミックバネを得る分離工程と、を有している。セラミック繊維どうしの接着はCVI工程のみで行われるのでばらつきの発生要因が少なく、目的の形状、所定のバネ定数のセラミックバネを精度よく得ることができる。
【0037】
前記紐は、セラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体である。
【0038】
紐がセラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体であると、セラミック繊維どうしが近接し交差する箇所を多数内部に形成することができる。セラミック繊維どうしが交差する箇所が多いと、少量のセラミック層であってもセラミックバネを強固に固定することができる。また、少量のセラミック層で、セラミックバネの形状を保持できるので、内部に多くの空間を残すことができ、内部に接着された架橋部分を破壊するクラックが形成されても、マトリックスの連続性がないので、亀裂伝播を抑制し、疲労によるバネ定数の低下を防止することができる。
【0039】
前記セラミック繊維は、炭素繊維またはSiC繊維である。セラミック繊維が炭素繊維またはSiC繊維であると、高温でも安定して強度を確保することができる。
【0040】
前記セラミック層は、熱分解炭素である。
【0041】
熱分解炭素は、元素が炭素のみからなる。このため、どのような方法で製造しても、元素バランスが崩れることがなく、幅広い条件で安定的に気相成長させることができる。一方、セラミックバネの内部までセラミック層を形成するよう、原料ガスの平均自由工程を長くできるよう希薄な条件、または表面に偏って沈積しないよう低温の条件を選定して形成することができる。このため熱分解炭素からなるセラミック層は、セラミックバネの内部まで浸入することができ、セラミックバネにかかる応力を内部まで分散することができ、折れにくいセラミックバネを提供することができる。
【0042】
前記分離工程の後に、前記セラミックバネに破壊荷重を超える荷重を加え、バネ定数を調整する調整工程を有する。
【0043】
本発明のセラミックバネは、分離工程までで完成させてもよいが、さらにバネ定数を調整する調整工程を有していてもよい。本発明のセラミックバネは、セラミック繊維間に気相成長したセラミック層が含浸され、形状が保持されている。気相成長で得られるセラミック層は内部を完全に充填することがなく、架橋によって部分的な接着を形成しているので、セラミックバネに破壊荷重を超える荷重を加えることによって架橋部分を壊しセラミックバネを所定のバネ定数に調整することができる。
【0044】
前記調整工程は、前記セラミックバネに加える荷重と変位との関係を確認しながら、所定のバネ定数になるように調整する。
【0045】
本発明のセラミックバネの製造方法は、最後の工程でセラミックバネのバネ定数を簡便な方法で調整することができ、さらに高い精度で目的のバネ定数のセラミックバネを得ることができる。これは以下の作用による。本発明のセラミックバネは、セラミック繊維と、セラミック繊維の繊維間に含浸されたセラミック層とからなり、セラミック繊維間に含浸されたセラミック層は、近接するセラミック繊維を接着する架橋を形成する。このため、セラミックバネに荷重を加えると、セラミック層に形成された架橋が部分的に破壊されることによりバネ定数が調整される。すなわち、調整工程では、セラミック繊維に損傷を加えるわけではないので、セラミックバネ自体を破壊するものではない。
【0046】
前記課題を解決するための本発明のセラミックバネは、セラミック繊維からなる紐と、前記セラミック繊維をつなぐ架橋を形成するとともに前記紐の形状を固定する気相成長のセラミック層と、を備える。
【0047】
本発明のセラミックバネによれば、セラミック層は、セラミック繊維どうしが近接する箇所を接着する架橋を構成するので、セラミック繊維からなる紐の形状を固定して硬いセラミックバネを得ることができる。また、セラミック層は、CVI法で気相成長して得られている。気相成長して得られたセラミック層は、緻密な材料であるため、少量であっても強固にセラミック繊維どうしを接着することができる。また、気相成長で得られるセラミック層は、セラミック繊維の表面から順に沈積し、後工程で焼成など寸法変化を伴う工程がないので、高い形状精度のセラミックバネを得ることができる。また、少ない工程でセラミックバネが得られているので、精度よく所定のバネ定数のセラミックバネを得ることができる。
【0048】
前記紐は、セラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体である。
【0049】
紐がセラミック繊維のストランドを編んだブレーディング体であると、セラミック繊維どうしの交差する箇所を多数内部に形成することができる。セラミック繊維どうしが交差する箇所が多いと、少量のセラミック層であってもセラミックバネを強固に固定することができる。また、少量のセラミック層で、セラミックバネの形状を保持できるので、内部に多くの空間を残すことができ、マトリックスの連続性がないので、セラミックバネの内部にクラックが形成されても、先端が空間部分で止まって、亀裂伝播を抑制し、バネ定数の低下を防止することができる。
【0050】
前記セラミック繊維は、炭素繊維またはSiC繊維である。セラミック繊維が炭素繊維またはSiC繊維であると、高温でも安定して強度を確保することができる。
【0051】
前記セラミック層は、熱分解炭素である。セラミック層が、熱分解炭素からなると、高温でも安定して強度を発揮することができる。また、熱分解炭素は、黒鉛と同一の結晶構造を有しファンデルワールス力によるc軸方向の結合を有し弾性率が低く柔軟性が発揮される。このため、セラミックバネを構成するセラミック繊維の接着成分として好適に利用することができる。
【0052】
前記セラミック層は、マイクロクラックを有する。本発明のセラミックバネのセラミック層にマイクロクラックを有していると、マイクロクラックの量によってセラミックバネの柔軟性を調整することができる。マイクロクラックとは、セラミック繊維どうしを接着する架橋が破壊されて形成されたものである。
【0053】
(発明を実施するための形態)
本発明の実施の形態のセラミックバネおよびセラミックバネの製造方法について、説明する。
【0054】
本発明のセラミックバネに用いるセラミック繊維は特に限定されず耐熱性さえあればどのようなものでも利用することができる。たとえば、SiC繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、炭素繊維、ムライト繊維などが挙げられる。中でも炭素繊維は、耐熱性を有する上に化学的に安定であり、単一の元素であるため、相分離、偏析が生じないので、表面に欠陥ができにくく、疲労破壊しにくいので好適に利用することができる。
【0055】
セラミック繊維の紐は、どのように形成してもよい。たとえば、セラミック繊維を複数本束ねてストランドを構成し、ストランドを編んだブレーディング体、ストランドを撚った撚糸など利用できる。中でもブレーディング体は、ストランドがほつれにくい構造になっているので、セラミックバネを強固にすることができる。
【0056】
セラミック繊維の太さは、特に限定されない。例えば、2〜30μmのセラミック繊維を利用することができる。セラミック繊維の太さが2μm以上であると、セラミック繊維間の空隙が大きいので、気相成長法により、セラミック繊維の内部まで原料ガスを浸透させることができ、セラミック繊維をつなぐ架橋を容易に形成することができる。さらに望ましいセラミック繊維の太さは、5μm以上である。また、セラミック繊維の太さが30μm以下であると、セラミック繊維に曲げ歪が加わっても表面に強い応力が加わらず、セラミック繊維の破断を防止することができる。さらに望ましいセラミック繊維の太さは20μm以下である。
【0057】
また、セラミック繊維の紐をヘリカル巻きするマンドレルは、どのようなものでもよく特に限定されない。マンドレルの外形は、セラミックバネのコイルの内径となる。マンドレルの材質は、CVI工程に耐えうるものであればよく特に限定されない。たとえば、黒鉛、SiC、アルミナなどのセラミックのほか、タングステンなどの高融点金属も利用することができる。
【0058】
マンドレルには、紐を巻きつける溝をあらかじめ加工しておいてもよい。溝の深さは、セラミック繊維からなる紐の太さの1/3以下であることが望ましい。深い溝を加工すると、CVI工程後のセラミックバネの取り外しが困難となるが、紐の太さの1/3以下であれば容易に取り外すことができる。この場合、溝の底部分がセラミックバネの内径を決定する。
【0059】
また、溝のないマンドレルを用いてもよい。マンドレルは、単一の部品ではなく、複数の部品を組み合わせて構成されていてもよい。複数の部品を組み合わせる場合には、円筒形状の中芯と、螺旋状のスリットを有するスリーブとを組み合わせて1つのマンドレルを構成してもよい。この場合、中芯とスリーブと組み合わさって溝を形成する。スリーブを用いてCVI工程を行うと、深い溝であっても中芯を取り外し、例えばスリーブを回転させることによりセラミックバネを大きく変形させることなく容易に取り外すことができる。
【0060】
マンドレルに溝を形成する場合、溝の断面は円弧であることが好ましい。溝の断面が円弧であると、セラミックバネを構成する線の断面が円形となるため、ねじり剛性が均一となり安定したバネ定数のセラミックバネを得ることができる。
【0061】
本発明のセラミックバネに形成するセラミック層は特に限定されないが、たとえば、SiC、SiN、熱分解炭素などが利用できる。中でも熱分解炭素は、耐熱性を有している上に、元素が炭素のみからなり、どのような方法で製造しても、元素バランスが崩れることがなく、幅広い条件で安定的に気相成長させることができる。このため、セラミックバネの内部までセラミック層を形成するよう、原料ガスの平均自由工程を長くできるよう希薄な条件、または表面に偏って沈積しないよう低温の条件を選定して形成することができる。
【0062】
このため熱分解炭素からなるセラミック層は、セラミックバネの内部まで浸入することができ、セラミックバネを構成する線の内部の弾性率ばらつきを抑制し、セラミックバネの内部にかかる応力を分散することができる。このため、折れにくいセラミックバネを提供することができる。
【実施例】
【0063】
本発明の実施の形態のセラミックバネの製造方法について、図1のコイル状のセラミックバネ、図2の製造工程フロー図及び図3の製造工程説明図に従って詳述する。
【0064】
図1(a)は、コイル状のセラミックバネ1の全体図であり、セラミック繊維2を編んで形成したブレーディング体が螺旋状に巻かれ、セラミック繊維2間にセラミック層3による架橋が形成され形状が固定されている。コイルを構成する線の一部分であるB部を拡大したものが図1(b)である。セラミックバネ1の線は、セラミック繊維2を束ねたストランド4を編んだブレーディング体からなる。ブレーディング体は、セラミック繊維2を束ねたストランド4が左右両方に巻回しながら、互いに交差している。
【0065】
図1(c)は、ストランド4が交差する箇所(A−A’)の断面の格大図である。図1(c)では、それぞれ7本のセラミック繊維2で構成されるストランド4が交差している箇所である。
【0066】
セラミックバネ1の製造工程は、巻回工程S1と、CVI工程S2と、分離工程S3と、調整工程S4との順で行う。尚、調整工程S4は、導入するか否かは任意である。
【0067】
巻回工程S1は、セラミック繊維2からなる紐をマンドレル5にヘリカル巻きし、組み体を得る工程である。CVI工程S2は、組み体をCVD炉にいれ、紐にセラミック層3を気相成長させる工程である。分離工程S3は、組み体からマンドレル5を取り外し、セラミックバネ1を得る工程である。調整工程S4は、セラミックバネ1に破壊荷重を超える荷重を加え、セラミックバネ1に加える荷重と変位との関係を確認しながら、所定のバネ定数になるように調整する工程である。
【0068】
上述の製造工程を経て製造されたセラミックバネ1に関し、図5に外観写真を、図6にセラミックバネ1を構成する線の拡大写真を示している。
【0069】
図1(c)におけるCVI工程S2、調整工程S4について図7を用いながら説明する。
【0070】
図7(a)は巻回工程S1の完了した断面であり、図1(c)の位置に相当する。図7(b)はCVI工程S2が行われた後、図7(c)は、さらに調整工程S4が行われた後である。巻回工程S1後の断面は、セラミック繊維2の表面には何も形成されていない(図7(a))。CVI工程S2を経ると、セラミック繊維2の表面に薄くセラミック層3が形成される。同時に互いに近接するセラミック繊維2間をセラミック層3が架橋し、互いに接着する(図7(b))。さらに調整工程S4が行われる場合には、一旦接着したセラミック層3の架橋にマイクロクラックを生じさせ、セラミックバネ1のバネ定数を低下させ調整する。図7(c)では、矢印の箇所にマイクロクラックが発生し、架橋が分断されている。
【0071】
図4に従って調整工程S4を説明する。本発明においてセラミックバネ1の調整工程S4を行う場合には、例えば、以下のように行うことができる。
【0072】
セラミックバネ1は、あらかじめ目標値(所定のバネ定数)よりも大きなバネ定数となるように作製する。バネ定数は[荷重]/[変位]であるので荷重−変位曲線の傾きである(弾性変形領域内ではほぼ直線である)。調整工程S4前のセラミックバネ1は、O−Aの荷重−変位直線に従って変形する。調整工程S4では破壊荷重を超えるまでセラミックバネ1に歪を加える。破壊荷重を超えたセラミックバネ1は、セラミック繊維自体が折れておらず、CVI工程S2で形成されたセラミック層の架橋にマイクロクラックが入るだけであるので、全体の形状は変わらず、加わる荷重が小さくなる(B)。その後さらに歪を加えていくと、架橋が少しずつ破壊されて、加わる荷重が小さくなっていく(B−C)。最終的に目標値のバネ定数(O−C)と荷重変位曲線が交差した時点(C)で歪を加えることを停止する。すると、セラミックバネの変位は原点(O)に戻る。このようにして所定のバネ定数のセラミックバネ1を得ることができる。
【0073】
図8に、本発明の実施の形態のセラミックバネ1の変形例の一例を示す。本発明のセラミックバネ1は、単純なコイル状に限定されず、スプリングワッシャー(図8(a))、ねじりコイルバネ(図8(b))、円錐コイルバネ(図8(c))、フック付のコイル状のバネ(引張コイルバネ)(図8(d))など、どのような形のセラミックバネにも利用することができる。
【0074】
図9は組み合わせ構造のマンドレルを示し、(a)はマンドレル5、(b)は螺旋状のスリット7のあるスリーブ8、(b)は中芯9をそれぞれ示す。組み合わせ構造のマンドレル5は、螺旋状のスリット7を有するスリーブ8に中芯9を挿入することにより形成されている。完成品のマンドレル5の溝6は、螺旋状のスリット7によって形成されている。
【0075】
本発明の実施の形態のセラミックバネ1を得るために使用した条件等の一例を以下に列挙する。
【0076】
太さ7μmの炭素繊維を1000本束ねて構成される4本のストランド4を用いてブレーディング体を編んだ。すなわち、ブレーディング体は、2本が左回転、2本が右回転となるように編まれている。得られたブレーディング体の太さは、1mmであった。得られたブレーディング体は、紐状であり、自在に曲げることができる。
【0077】
炭素繊維は、東レ株式会社製T−300を使用した。
【0078】
巻回工程S1において、得られた紐をφ30mmのカーボン製のマンドレル5にヘリカル巻きとなるよう巻回、組み体とした。巻回のピッチは、10mmであった。
【0079】
セラミック繊維2からなる紐の両端は、カーボン製のとめ具によってマンドレル5に固定した。このように固定されているので、後のCVI工程S2でもマンドレル5から分離することなく保持することができる。
【0080】
CVI工程S2において、セラミック繊維2からなる紐を巻回したマンドレル5をCVD炉にいれ、メタンガスを導入し、セラミック繊維2の繊維間に侵入するようにセラミック層3を形成した。このときの炉内の圧力は10Pa、温度は1400℃、処理時間は200分であった。セラミック繊維2からなる紐は、セラミック繊維2間にセラミック層3が架橋を形成することにより形状が固定されている。
【0081】
得られたセラミックバネ1の内寸は、30mmであり、カーボン製のマンドレル5の外径と同じであった。またバネ定数は、600N/mであった。さらに調整工程S4において、所定のバネ定数に合わせるためバネに荷重を加え、セラミック層3が形成する架橋にクラックを形成することによって調整することができる。調整工程S4の後のセラミックバネ1のバネ定数は600N/mより低い値となる。
【0082】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のセラミックバネの製造方法及びセラミックバネは、高温下に曝される半導体炉の可動部、ロボットアーム、ガラス封着等の過重負荷治具、電気絶縁性を要求される半導体関連装置など、長期安定した形状とバネ定数を要望する分野に適合可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 セラミックバネ
2 セラミック繊維
3 セラミック層
4 ストランド
5 マンドレル
6 溝
7 スリット
8 スリーブ
9 中芯
S1 巻回工程
S2 CVI工程
S3 分離工程
S4 調整工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9