特許第6854728号(P6854728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854728
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】振動制御システム
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20210329BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20210329BHJP
   F16F 15/027 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   E04H9/02
   F16F15/02 A
   F16F15/027
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-141879(P2017-141879)
(22)【出願日】2017年7月21日
(65)【公開番号】特開2019-19646(P2019-19646A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2019年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 直幹
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−004374(JP,A)
【文献】 特開平10−121775(JP,A)
【文献】 特開平04−049388(JP,A)
【文献】 特開2006−045885(JP,A)
【文献】 特開2004−218529(JP,A)
【文献】 米国特許第05984062(US,A)
【文献】 特開2005−214304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02−15/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を受ける構造物に入力された振動エネルギーを流体エネルギーに変換する変換装置と、
ピストン式アキュムレータであり、液体を媒体として、前記流体エネルギーを蓄積する蓄圧装置と、
前記蓄圧装置に蓄積されている前記流体エネルギーを用いて、制振対象となる構造物の振動を抑制するための制御力を出力する駆動装置と、
前記振動エネルギーの大きさに関する情報を得る情報取得装置と、を備え、
前記蓄圧装置は、
所定の圧力を付与しながら前記液体を受け入れる収容部と、
前記収容部に収容された前記液体を押圧するピストンと、
前記ピストンを前記液体に向けて押し付けるスプリングと、
前記振動エネルギーの大きさに基づいて前記所定の圧力の大きさを制御する圧力制御部と、を有し、
前記圧力制御部は、前記情報取得装置により取得された前記情報に基づいて、前記振動エネルギーが相対的に大きいほど前記スプリングの伸縮量を相対的に大きくして前記ピストンを前記液体に向けて押し付けることで前記液体に作用する前記所定の圧力を相対的に高い状態とし、前記振動エネルギーが相対的に小さいほど前記スプリングの伸縮量を相対的に小さくして前記ピストンを前記液体に向けて押し付けることで前記所定の圧力が相対的に低い状態とする、振動制御システム
【請求項2】
前記情報取得装置は、
前記振動を受ける構造物から離間して設置された情報提供装置から前記振動エネルギーの大きさに関する第1情報を得る入力部と、
前記振動を受ける構造物に設置され、前記振動を受ける構造物に入力される振動エネルギーの大きさに関する第2情報を出力する計測部と、を有し、
前記圧力制御部は、前記第1情報に基づく制御を行った後に、前記第2情報に基づく制御を行う、請求項に記載の振動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エネルギー変換・供給型制震構造物が記載されている。このエネルギー変換・供給型制震構造物は、外乱により構造物に生じる地震動等からのエネルギーを変換するエネルギー変換装置と、変換されたエネルギーを蓄える蓄積装置と、蓄積装置に蓄えられたエネルギーを構造物の振動を抑制するために用いる駆動装置と、を備える。
【0003】
特許文献2には、エネルギー変換・供給システムが記載されている。このエネルギー変換・供給システムは、エネルギー変換装置として機能する液圧シリンダと、蓄積装置として機能するアキュムレータと、を備える。液圧シリンダは、地震動等によって振動する構造物の振動エネルギーを高効率で流体エネルギーに変換する。アキュムレータは、液圧シリンダによって液圧が上昇した流体を蓄積する。
【0004】
特許文献3には、蓄積装置等のエネルギー源に蓄えられた圧液を用いて構造物の振動を抑制するための制振装置用液圧式駆動装置が記載されている。この制振装置用液圧式駆動装置は、圧液が充填されたシリンダと、シリンダ内を往復道するピストンと、エネルギー源からシリンダ内におけるピストンを挟んだ両側のシリンダ室内に流入する圧液を制御するサーボ弁と、シリンダ室間の圧液の移動量を制御する流量制御弁と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−163317号公報
【特許文献2】特開2005−214304号公報
【特許文献3】特開2015−4374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1〜3に記載されている構造物の振動を制御する技術は、構造物に入力されたエネルギーを蓄積し、蓄積した当該エネルギーを用いて構造物の振動の抑制動作を行う。この場合に、蓄積されるエネルギーよりも振動の抑制動作のために利用されるエネルギーが多いと、蓄積装置が有するエネルギーは減少する。すなわち、システムが蓄積するエネルギーとシステムが使用するエネルギーとのバランスを良好に保てないので、振動の抑制動作を好適に継続することが難しくなってしまう。
【0007】
本発明は、振動の抑制動作を継続することが可能な振動制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、振動を受ける構造物に入力された振動エネルギーを流体エネルギーに変換する変換装置と、液体を媒体として、流体エネルギーを蓄積する蓄圧装置と、蓄圧装置に蓄積されている流体エネルギーを用いて、制振対象となる構造物の振動を抑制するための制御力を出力する駆動装置と、を備え、蓄圧装置は、所定の圧力を付与しながら液体を受け入れる収容部と、振動エネルギーの大きさに基づいて所定の圧力の大きさを制御する圧力制御部と、を有する。
【0009】
この振動制御システムにおいては、収容部は、所定の圧力と流体エネルギーとして送り込まれる液体の圧力との差に対応する量の液体を収容する。すなわち、蓄圧装置は、所定の圧力よりも大きい圧力を有する液体を流体エネルギーの媒体として受け入れる。ここで、蓄圧装置は、所定の圧力を制御する圧力制御部を有している。また、この圧力制御部は、振動エネルギーの大きさに応じて所定の圧力を制御する。従って、液体は、圧力制御部によって制御された所定の圧力に応じて収容部に受け入れられる。この所定の圧力は、振動エネルギーの大きさに基づいて制御されているので、蓄圧装置は振動エネルギーの大きさに対応しながら流体エネルギーの媒体としての液体を受け入れることが可能になる。従って、蓄圧装置に様々な大きさの振動エネルギーから変換された流体エネルギーを効率よく蓄積しながら、蓄圧装置に蓄積されている流体エネルギーを用いて、構造物の振動を抑制することができる。ひいては、振動制御システムは、振動の抑制動作を継続することができる。
【0010】
この振動制御システムは、振動エネルギーの大きさに関する情報を得る情報取得装置をさらに備え、圧力制御部は、情報取得装置により取得された情報に基づいて、振動エネルギーが相対的に大きいほど所定の圧力を相対的に高い状態とし、振動エネルギーが相対的に小さいほど所定の圧力が相対的に低い状態としてもよい。この場合、情報取得装置によって相対的に小さい振動エネルギーが測定された場合には、圧力制御部が所定の圧力を相対的に低い状態になるように調整する。これにより、当該振動エネルギーから変換された流体エネルギーを蓄圧装置に確実に蓄積することが可能となる。
【0011】
この振動制御システムにおいて、情報取得装置は、振動を受ける構造物から離間して設置された情報提供装置から振動エネルギーの大きさに関する第1情報を得る入力部と、振動を受ける構造物に設置され、振動を受ける構造物に入力される振動エネルギーの大きさに関する第2情報を出力する計測部と、を有し、圧力制御部は、第1情報に基づく制御を行った後に、第2情報に基づく制御を行ってもよい。この場合、情報取得装置からの情報によって早いタイミングで振動エネルギーの大きさに応じた所定の圧力に調整したうえで、第1構造物に設置された振動計測装置による第1構造物の応答を計測することによって振動エネルギーの大きさに精度よく応じた所定の圧力に再調整することができる。
【0012】
この振動制御システムにおいて、蓄圧装置は、ピストン式アキュムレータであり、圧力制御部は、収容部に収容された液体を押圧するピストンと、ピストンを液体に向けて押し付けるスプリングと、を含み、圧力制御部は、スプリングの伸縮量を調整することによって、液体に作用する所定の圧力を制御してもよい。この場合、スプリングの伸縮量の調整によって簡易にピストンへの押圧力を調整することができる。従って、ピストンから液体へ作用する圧力を簡易に調整することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動の抑制動作を継続することが可能な振動制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態に係る振動制御システム及び振動制御システムが構造物に適用される様子を示す概念図である。
図2図2は、本実施形態に係る振動制御システムの構成を示す図である。
図3図3(a)及び図3(b)は、図2に示されるアキュムレータが制御される様子を示す図である。
図4図4は、各例における解析結果をまとめたグラフである。
図5図5(a)及び図5(b)は、各例における解析結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素同士、或いは相当する要素同士には、互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0016】
本実施形態に係る振動制御システム1は、図1に示されるように、構造物2の振動を利用して構造物3の振動を抑制する場合に適用される。換言すると、振動制御システム1は、地震時に構造物に入力されるエネルギーを変換して、それを利用するアクティブ制震に関するものである。構造物2及び構造物3は、例えば、互いに隣接している。構造物2は、振動を受ける構造物であり、例えば、免震構造物である。構造物2は、下部構造21(例えば、基礎)と、上部構造22と、上部構造22を下部構造21に対して相対移動可能に支持する免震装置23と、を備えている。構造物3は、制振対象の構造物であり、例えば、非免震構造物である。この構造物3は、各階に配置されたブレース31と、各ブレース31を構面内で取り囲むフレーム32と、を備えている。ブレース31は、耐震要素として機能する。構造物3は、例えば、ブレース31に代えて耐震壁を備えていてもよい。
【0017】
振動制御システム1は、変換装置5と、蓄圧装置6と、駆動装置7と、回収装置8(図2参照)と、情報取得装置9と、を備えている。変換装置5は、下部構造21と上部構造22との間に跨設されている。これにより、地震動Mに基づく振動エネルギーが構造物2に入力すると、上部構造22が下部構造21に対して相対移動する。駆動装置7は、一端をフレーム32に固定されたブレース31の他端において、ブレース31とフレーム32とを連結して配置されている。蓄圧装置6は、変換装置5及び駆動装置7に接続され、構造物2及び構造物3の間の地盤上に配置されている。
【0018】
変換装置5は、構造物2に入力した振動エネルギーを流体エネルギーに変換する。本実施形態において、変換装置5は、構造物2に入力した振動エネルギーを液体の圧力(圧液)として発生させる。変換装置5は、例えば、油圧ダンパである。図2に示されるように、変換装置5は、シリンダ51と、ピストン52と、を有している。ピストン52は、シリンダ51内に配置され、シリンダ51内を往復動する。シリンダ51内には、ピストン52によって収容室51a,51bが形成されている。シリンダ51内の収容室51a,51bには、液体が収容されている。構造物2に入力した地震動Mによって、上部構造22が下部構造21に対して相対移動すると、収容室51a又は収容室51b内の液圧が上昇する。
【0019】
変換装置5は、収容室51a内の液圧が上昇した場合には、収容室51a内に高圧の圧液L1(圧力P1、容積V1)を発生させる。また、変換装置5は、収容室51b内の液圧が上昇した場合には、収容室51b内に高圧の圧液L2(圧力P2、容積V2)を発生させる。地震動Mにより構造物2が継続して振動すると、シリンダ51内をピストン52が往復動するため、収容室51a,51bには、高圧の圧液L1,L2が交互に発生する。圧液L1,L2は、蓄圧装置6に流入する。図2においては、このときの圧液L1の流量がQ13で示され、圧液L2の流量がQ23で示されている。
【0020】
蓄圧装置6は、液体を媒体として、流体エネルギーを蓄積する。本実施形態においては、蓄圧装置6は、変換装置5によって発生した高圧の圧液L1,L2のうちの少なくとも一部の圧液L31(圧力P3、容積V31)を蓄積する。蓄圧装置6は、例えば、ピストン式アキュムレータである。図2に示されるように、蓄圧装置6は、タンク61と、ピストン62と、スプリング63と、コントローラ64(圧力制御部)と、を有している。ピストン62は、タンク61内に配置され、タンク61内を往復動する。タンク61内には、ピストン62によって収容室61a(収容部)が形成されている。
【0021】
収容室61aは、所定の圧力Pxを付与しながら液体を受け入れる。また、収容室61aは、受け入れた液体のうち、圧力P3と圧力Pxとの差に対応する量の液体を圧液L31として収容する。ピストン62は、収容室61aに収容された液体を圧力Pxで押圧する。スプリング63は、ピストン62を液体に向けて押し付けることにより、ピストン62が液体を押圧する圧力Pxを調整する。コントローラ64は、構造物2に入力した振動エネルギーの大きさに基づいて圧力Pxの大きさを制御する。コントローラ64による制御の詳細については後述する。
【0022】
駆動装置7は、蓄圧装置6に蓄積されている流体エネルギー(ここでは、圧液L31)のうちの少なくとも一部(ここでは、圧液L32(圧力P3、容積V32))を用いて、振動を抑制するための制御力を出力する。駆動装置7は、例えば、油圧アクチュエータである。図2に示されるように、駆動装置7は、シリンダ71と、ピストン72と、サーボ弁73と、流量調整弁74と、を有している。ピストン72は、シリンダ71内に配置され、シリンダ71内を往復動する。シリンダ71内には、ピストン72によって収容室71a,71bが形成されている。シリンダ71内の収容室71a,71bには、蓄圧装置6からサーボ弁73を介して圧液L32が流入する。
【0023】
サーボ弁73は、蓄圧装置6と収容室71a,71bとに接続され、蓄圧装置6からの圧液L32の流入量を調整する。これにより、サーボ弁73は、収容室71a,71bの圧液L32の圧力を調整し、駆動装置7が出力する制御力の時期及び大きさを調整する。流量調整弁74は、収容室71a,71bに接続され、収容室71aと収容室71bと間の圧液L32の移動量を調整する。これにより、流量調整弁74は、サーボ弁73によって調整された流入量が0である場合も含め、収容室71a,71bの圧液L32の圧力をさらに調整する。
【0024】
図2において、駆動装置7に流入する流量がQ1+Q3とされ、駆動装置7から放出される流量がQ2+Q4とされ、流量調整弁74によって調整される流量がQseとされている。これにより、図2においては、収容室71aに収容されている圧液L32の流量がQ1−Q2−Qseで示され、収容室71bに収容されている圧液L32の流量がQ3−Q4+Qseで示されている。
【0025】
回収装置8は、駆動装置7による制御力の出力の際に収容室71a,71bから放出された圧液L32のうちの少なくとも一部の圧液L4(P4,V4)を回収する。また、回収装置8は、回収した圧液L4のうちの少なくとも一部を変換装置5に復帰させる。回収装置8は、例えば、油圧タンクである。或いは、回収装置8は、アキュムレータであってもよい。図2においては、このときの収容室51aに復帰する圧液L4の流量がQ41で示され、収容室51bに復帰する圧液L4の流量がQ42で示されている。
【0026】
情報取得装置9は、振動エネルギーの大きさに関する情報を取得する。図1に示されるように、情報取得装置9は、入力部91と、計測部92と、を有している。入力部91は、構造物2から離間して設置された情報提供装置Sから振動エネルギーの大きさに関する情報m1(第1情報)を得る。本実施形態において、入力部91は、情報m1として地震動Mの大きさを取得する。情報提供装置Sは、例えば、遠隔観測点に設置された観測計である。地震動Mの大きさとしては、例えば、観測計から発信される緊急地震速報からの当該地域の予測震度(例えば、平均値)を適用することができる。
【0027】
計測部92は、構造物2に入力する振動エネルギーの大きさに関する情報m2(第2情報)を入力部91に出力する。計測部92は、振動計測装置92aと、振動計測装置92bと、を有している。振動計測装置92a,92bは、地震動Mが入力したときの構造物2の応答を計測する。
【0028】
振動計測装置92aは、構造物2における下部構造21上に設置されている。振動計測装置92aは、地震動Mによる応答として下部構造21における振動の速度v1(Kine;cm/sec)を計測する。速度v1としては、例えば、振動計測装置92aによる計測値のうち、構造物2の固有周期の1/2における応答の絶対値の平均値が採用される。
【0029】
振動計測装置92bは、構造物2における上部構造22上(例えば、上部構造22の最上部)に設置されている。振動計測装置92bは、地震動Mによる応答として上部構造22における振動の速度v2(Kine;cm/sec)を計測する。速度v2としては、例えば、振動計測装置92bによる計測値のうち、構造物2の固有周期の1/2における応答の絶対値の平均値が採用される。
【0030】
計測部92は、振動計測装置92a,92bによって計測された速度v1,v2の差である相対速度を情報m2として出力する。そして、入力部91は、取得した情報m2を蓄圧装置6のコントローラ64に出力する。
【0031】
コントローラ64は、情報取得装置9により取得された情報m1,m2に基づいて、蓄圧装置6の圧力Pxの大きさを制御する。このとき、コントローラ64は、振動エネルギーが相対的に大きいほど圧力Pxを相対的に高い状態とし、振動エネルギーが相対的に小さいほど圧力Pxが相対的に低い状態とする。具体的には、コントローラ64は、スプリング63の伸縮量Δxを調整する処理を行う。ここで、図3(a)及び図3(b)において、
A:ピストン62の面積(m
k:スプリング63のバネ係数(N/cm)
F:スプリング63による反力(N)
と定義すると、圧力Pxは次のように求められる。
Px=F/A=kΔx/A
従って、図3に示されるように、スプリング63の伸縮量Δxを調整することにより、圧力Pxが調整される。
【0032】
コントローラ64は、まず、情報m1に基づいて圧力Pxを制御する。例えば、情報提供装置Sから相対的に大きい地震動の大きさが情報m1として出力された場合、コントローラ64は、図3(a)に示されるように、伸縮量Δxが相対的に大きくなるように調整する。これにより、圧力Pxは、相対的に高い状態となるように制御される。
【0033】
情報m1に基づく制御を行った後に、コントローラ64は、情報m2に基づいて圧力Pxを制御する。例えば、計測部92から相対的に小さい相対速度が情報m2として出力された場合、コントローラ64は、図3(b)に示されるように、伸縮量Δxが相対的に小さくなるように調整する。これにより、圧力Pxは、相対的に低い状態となるように制御される。
【0034】
次に、振動制御システム1の作用効果について説明する。振動制御システム1においては、収容室61aは、蓄圧装置6の圧力Pxと流体エネルギーとして送り込まれる液体の圧力P3との差に対応する量の液体を収容する。すなわち、蓄圧装置6は、圧力Pxよりも大きい圧力を有する液体を流体エネルギーの媒体として受け入れる。ここで、蓄圧装置6は、圧力Pxを制御するコントローラ64を有している。また、このコントローラ64は、振動エネルギーの大きさに応じて圧力Pxを制御する。従って、液体は、コントローラ64によって制御された圧力Pxに応じて収容室61aに受け入れられる。この圧力Pxは、振動エネルギーの大きさに基づいて制御されているので、蓄圧装置6は振動エネルギーの大きさに対応しながら流体エネルギーの媒体としての液体を受け入れることが可能になる。従って、蓄圧装置6に様々な大きさの振動エネルギーから変換された流体エネルギーを効率よく蓄積しながら、蓄圧装置6に蓄積されている流体エネルギーを用いて、構造物3の振動を抑制することができる。ひいては、振動制御システム1は、振動の抑制動作を継続することができる。
【0035】
要するに、振動制御システム1は、液圧ダンパである変換装置5において変換した圧液をアキュムレータである蓄圧装置6に蓄積して、液圧アクチュエータである駆動装置7で再利用するアクティブ制震システムである。そして、振動制御システム1は、地震動の大きさに応じて、エネルギー蓄積装置であるアキュムレータの設定圧を可変とする。この振動制御システム1は、変換装置5の圧力が蓄圧装置6の圧力Pxよりも小さくなることによりエネルギーが変換及び蓄積されない状態を回避し、地震の大きさに関わらず、一定以上のエネルギー変換及び蓄積が可能である。従って、振動制御システム1によれば、エネルギー変換装置からのエネルギーを地震動の大きさに応じて効率的に変換することができ、中小地震から大地震までエネルギー収支を良好に保つことができる。
【0036】
この振動制御システム1は、振動エネルギーの大きさに関する情報m1,m2を得る情報取得装置9をさらに備え、コントローラ64は、情報取得装置9により取得された情報m1,m2に基づいて、振動エネルギーが相対的に大きいほど圧力Pxを相対的に高い状態とし、振動エネルギーが相対的に小さいほど圧力Pxが相対的に低い状態とする。この場合、情報取得装置9によって相対的に小さい振動エネルギーが測定された場合には、コントローラ64が圧力Pxを相対的に低い状態になるように調整する。これにより、当該振動エネルギーから変換された流体エネルギーを蓄圧装置6に確実に蓄積することが可能となる。
【0037】
特に、この振動制御システム1において、情報取得装置9は、振動を受ける構造物2から離間して設置された情報提供装置Sから振動エネルギーの大きさに関する情報m1を得る入力部91と、振動を受ける構造物2に設置され、振動を受ける構造物2に入力される振動エネルギーの大きさに関する情報m2を出力する計測部92と、を有し、コントローラ64は、情報m1に基づく制御を行った後に、情報m2に基づく制御を行っている。これにより、情報取得装置9からの情報m1によって早いタイミングで振動エネルギーの大きさに応じた所定の圧力Pxに調整したうえで、構造物2に設置された計測部92による構造物2の応答を計測することによって振動エネルギーの大きさに精度よく応じた所定の圧力Pxに再調整することができる。
【0038】
この振動制御システム1において、蓄圧装置6は、ピストン式アキュムレータであり、コントローラ64は、収容室61aに収容された液体を押圧するピストン62と、ピストン62を液体に向けて押し付けるスプリング63と、を含み、コントローラ64は、スプリング63の伸縮量Δxを調整することによって、液体に作用する圧力Pxを制御する。この場合、スプリング63の伸縮量の調整によって簡易にピストン62への押圧力を調整することができる。従って、ピストン62から液体へ作用する圧力を簡易に調整することができる。
【0039】
この振動制御システム1において、変換装置5は、振動を受ける構造物2に入力した地震動Mに基づく振動エネルギーを流体エネルギーに変換する。地震動Mの大きさは、様々である。この振動制御システム1によれば、地震動Mを振動エネルギーとして取得した場合であっても、蓄圧装置6が様々な大きさの振動エネルギーを蓄積できる。従って、蓄圧装置6のエネルギー収支を一定以上に保ちながら、構造物2に入力した地震動Mに起因するエネルギーを用いて、構造物3の振動を良好に抑制することが可能となる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0041】
例えば、上記実施形態では、計測部92は、振動エネルギーの大きさに関する情報m2として、速度v1及び速度v2の差である相対速度を出力したが、情報m2は速度v1及び速度v2のうちのいずれか一方であってもよい。
【0042】
また、振動計測装置92aは、地震動Mによる構造物2の応答として下部構造21における振動の速度v1を計測したが、速度v1に代えて、振動の加速度及び変位のうちのいずれかを計測してもよい。同様に、振動計測装置92bは、地震動Mによる構造物2の応答として上部構造22における振動の速度v2を計測したが、速度v2に代えて、振動の加速度及び変位のうちのいずれかを計測してもよい。
【0043】
また、計測部92は、構造物2の速度又は加速度を計測し、計測された速度又は加速度を積分することにより求めた変位を、地震動Mによる構造物2の応答として出力してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、情報取得装置9は、振動エネルギーの大きさに関する情報m1,m2を取得したが、情報取得装置9は、情報m1,m2のうちのいずれか一方のみを取得してもよい。例えば、情報取得装置9は、振動を受ける構造物2から離間して設置された情報提供装置Sから振動エネルギーの大きさに関する情報m1を得る入力部91を有し、コントローラ64は、情報m1のみに基づいて圧力Pxを制御してもよい。これにより、情報取得装置9からの情報m1を取得した時点で圧力Pxの調整を開始できる。従って、振動制御システム1は、構造物2に振動エネルギーが入力した後に所定の圧力Pxの調整を開始する場合と比較して、早いタイミングで振動エネルギーの大きさに応じた圧力Pxに制御し得る。
【0045】
或いは、情報取得装置9は、振動を受ける構造物2に設置され、振動を受ける構造物2に入力される振動エネルギーの大きさに関する情報m2を出力する計測部92を有し、コントローラ64は、情報m2のみに基づいて所定の圧力Pxを制御してもよい。これにより、構造物2に設置された計測部92によって構造物2の応答を計測する。そのため、構造物2に入力した振動エネルギーの大きさを精度よく測定することが可能となる。従って、振動エネルギーの大きさに精度よく応じた所定の圧力Pxに調整し得る。
【0046】
また、上記実施形態では、変換装置5は、地震動に基づく振動エネルギーを流体エネルギーに変換したが、地震動に基づく振動エネルギーに限定されない。変換装置5は、例えば、台風(風)に基づく振動エネルギーを変換してもよく、地震動及び台風の両方を組み合わせた外力に基づく振動エネルギーを変換してもよい。
【0047】
変換装置5が台風に基づく振動エネルギーを変換する場合、上記実施形態において情報取得装置9の入力部91は、緊急地震速報に代えて、例えば、AMeDAS(地域気象観測システム:Automated Meteorological Data Acquisition System)による「前10分間の平均風速」からの風速(m/s)を用いてもよい。
【0048】
また、変換装置5が台風に基づく振動エネルギーを変換する場合、入力部91は、振動計測装置92a,92bのうちのいずれか(例えば、振動計測装置92b)が計測した速度(ここでは、速度v2)を情報m2として取得してもよい。さらに、入力部91は、構造物2に設置された風速計からの風速をさらに取得してもよい。コントローラ64は、情報取得装置9の入力部91により取得された種々の情報に基づいて、蓄圧装置6の圧力Pxの大きさを調整し得る。
【0049】
また、上記実施形態では、蓄圧装置6がピストン式アキュムレータである例について説明したが、蓄圧装置は、ブラダ式アキュムレータであってもよい。この場合、蓄圧装置のコントローラ64は、収容室61aに配置されると共にガスを封入したブラダを含み、コントローラ64は、ブラダに封入されたガスの圧力を調整することによって、液体に作用する圧力Pxを制御してもよい。これにより、ガスの圧力を調整するため、圧力Pxを精度よく調整することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、構造物の応答を利用して蓄圧装置6の圧力Pxを設定した。つまり、振動が印加されたときの結果(応答)を利用して圧力Pxを設定した。例えば、振動制御システムは、構造物2に入力される振動そのものを利用してもよい。具体的には、構造物の固有周期の1/2における地震動の絶対値の平均に基づいて蓄圧装置6の圧力Pxを設定してもよい。より詳細には、スプリング式アキュムレータのスプリング伸縮量やブラダ式アキュムレータのガス圧力を調整してもよい。
【0051】
続けて、実施例を参照して振動制御システム1の振動の抑制についてさらに説明する。以下、入力された地震動の大きさK、及び圧力Pxをパラメータとして、構造物2,3の振動系をモデル化し、次の条件により数値解析を行った。そして、入力エネルギーと蓄圧装置6の圧力Pxとの関係と、各条件におけるエネルギー収支と、を確認した。なお、入力エネルギーは、所定の波形及び当該波形における振幅(地震動の最大速度振幅の大きさK)として規定した。
・共通する条件
構造物2の固有周期:3s
入力地震波の波形:「エルセントロ 1940(NS)」
・解析例1:K=50(Kine;cm/s)、Px=500(kg/cm
・解析例2:K=25(Kine;cm/s)、Px=250(kg/cm
・解析例3:K=50(Kine;cm/s)、Px=250(kg/cm
・比較例1:K=25(Kine;cm/s)、Px=500(kg/cm
【0052】
解析例1及び解析例2の条件は、入力エネルギーに応じた蓄圧装置6の圧力Pxに設定した場合である。解析例3の条件は、入力エネルギーに応じた蓄圧装置6の圧力Pxよりもさらに小さい値に設定した場合である。つまり、解析例1〜3は、本実施形態に係る振動制御システム1によって入力エネルギーを蓄圧装置6に効率よく回収できるように圧力Pxを調整した場合に対応する。一方、比較例1は、入力エネルギーに応じた蓄圧装置6の圧力Pxよりもさらに大きい値に設定した場合である。比較例1は、解析例1〜3とは異なり、入力エネルギーを蓄圧装置6に効率よく回収できるように圧力Pxを調整しない場合に対応する。
【0053】
図4は、制御ゲインと、エネルギー収支との関係を示す計算結果である。横軸は、制御ゲインを示す。縦軸は、エネルギー収支を示す。エネルギー収支は、蓄圧装置6に入力した流体エネルギー(圧液L31;圧力P3、容積V31)と蓄圧装置6から出力した流体エネルギー(圧液L32;圧力P3、容積V32)との比である。この解析では、振動系の絶対速度に制御ゲインを乗じた値が制御力であるとした。例えば、図4において、エネルギー収支が1.0よりも大きいときは、蓄圧装置6に回収されるエネルギーが制御力のために提供されるエネルギーよりも大きいことを示す。つまり、エネルギー収支が良好であることを示す。
【0054】
グラフG1は、解析例1の結果を示す。グラフG2は、解析例3の結果を示す。グラフG3は、比較例1の結果を示す。図4のグラフG1及びグラフG2においては、制御ゲインが10以下であるときにエネルギー収支が1.0よりも大きくなっている。エネルギー収支が1.0よりも大きい状態は、変換エネルギーが再利用エネルギーを上回り、エネルギー収支が成立してアクティブ制震が実現できていることを示す。従って、振動制御システム1を利用して入力エネルギーに応じて圧力Pxを調整することにより、良好なエネルギー収支が得られることがわかった。
【0055】
これに対し、図4のグラフG3においては、いかなる制御ゲインの値においても、エネルギー収支は1.0より小さかった。具体的には、全制御ゲインのときにエネルギー収支がグラフG1及びグラフG2の場合の半分以下となっており、制御ゲインが10のときにエネルギー収支が1.0よりも小さくなっている。従って、入力エネルギーに応じた圧力Pxへの調整を行わない場合には、良好なエネルギー収支が得られないことがわかった。
【0056】
図5(a)は、制御ゲインが10のときの解析例1、解析例2、解析例3、及び比較例1におけるエネルギー収支の値を比較した棒グラフである。グラフG11は、解析例1の結果を示す。グラフG12は、解析例2の結果を示す。グラフG13は、解析例3の結果を示す。グラフG14は、比較例1の結果を示す。図5(a)のグラフG11,G12,G13において、エネルギー収支が1.0よりも大きくなっている。従って、入力エネルギーに応じて圧力Pxを調整することにより、良好なエネルギー収支が得られることがわかった。また、図5(a)のグラフG14において、エネルギー収支が1.0よりも小さくなっている。入力エネルギーに応じた圧力Pxへの調整を行わない場合には、良好なエネルギー収支が得られないことがわかった。
【0057】
図5(b)は、制御ゲインが10のときの解析例1、解析例2、解析例3及び比較例1における構造物3の応答最大加速度(gal;cm/s)を比較したグラフである。グラフG21は、解析例1の結果を示す。グラフG22は、解析例2の結果を示す。グラフG23は、解析例3の結果を示す。グラフG24は、比較例1の結果を示す。
【0058】
グラフG21(解析例1)とグラフG22(解析例2)とを比較すると、最大応答加速度は、地震動の大きさKに応じていることがわかった。具体的には、解析例2の地震動の大きさK(25(Kine;cm/s))は、解析例1の地震動の大きさK(50(Kine;cm/s))の半分である。その結果、グラフG22の最大応答加速度は、グラフG21の最大応答加速度のおよそ半分であった。
【0059】
グラフG21(解析例1)とグラフG23(解析例3)とを比較すると、圧力Pxの調整度合いによって、最大応答加速度に違いが生じることがわかった。具体的には、解析例3の圧力Pxは、最適な値(500(kg/cm))よりも小さい値(250(kg/cm))に設定されている。この場合には、エネルギーを回収する観点からすると、解析例1よりも良好な結果が得られる(図5(a)参照)。一方、振動の抑制の観点からすると、最大応答加速度が解析例1よりも大きくなっていることがわかった。
【0060】
従って、上記の解析例1〜3及び比較例1によれば、地震動の大きさKに応じた圧力Pxへの調整(解析例1、2)が、エネルギーの回収と振動抑制の観点から好適であることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
1…振動制御システム、2…構造物、3…構造物、5…変換装置、6…蓄圧装置、7…駆動装置、9…情報取得装置、61a…収容室(収容部)、62…ピストン、63…スプリング、64…コントローラ(圧力制御部)、91…入力部、92…計測部、M…地震動、m1…情報(第1情報)、m2…情報(第2情報)、Px…圧力、Δx…伸縮量。
図1
図2
図3
図4
図5