(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
上記(1)式、(2)式、(3)式、(4)式を満足することを特徴とする銅合金トロリ線。
【背景技術】
【0002】
従来、電気鉄道車両等に使用されるトロリ線においては、パンタグラフ等の集電装置と摺接され、電気鉄道車両等に対して給電される構成とされている。
パンタグラフからの離線が少ないなど、良好な集電性能を得るためには、トロリ線の波動伝播速度が走行速度を十分に上回ることが必要である。トロリ線の波動伝播速度は負荷される張力の平方根に比例するため、波動伝播速度を向上させるためには、高強度のトロリ線が必要となる。また、トロリ線には、優れた導電率、耐摩耗性、疲労特性が要求される。
【0003】
近年、電気鉄道車両の走行速度の高速化が図られているが、新幹線等の高速鉄道においては、電気鉄道車両の走行速度が、トロリ線等の架線に発生した波の伝播速度よりも速くなると、パンタグラフ等の集電装置とトロリ線との接触が不安定となって、安定して給電を行うことができなくなるおそれがある。
ここで、トロリ線の架線張力を高くすることによって、トロリ線における波の伝播速度を高速化することが可能となるため、従来よりもさらに高強度のトロリ線が求められている。
【0004】
上述のような要求特性を満足する高い強度と高い導電率とを備えた銅合金からなる銅合金線として、例えば特許文献1−3に示すように、Co、P及びSnを含有する銅合金線が提案されている。これらの銅合金線は、Co及びPの化合物を銅の母相中に析出させることによって、導電率を確保したまま、強度の向上を図ることが可能となる。
また、例えば特許文献4には、高速走行用に開発されたPHCトロリ線が提案されている。このPHCトロリ線は、Cr,Zr,Sn含有銅合金で構成されており、強度及び導電性に優れている。
【0005】
ところで、上述の特許文献1−3に記載されたCo、P及びSnを含有する銅合金線、及び、特許文献4に記載された銅合金トロリ線を製造する場合には、ビレットと呼ばれる断面積の大きな鋳塊を製出し、このビレットを再加熱して熱間押出し、その後、さらに伸線加工等を行う方法が実施されている。しかしながら、断面積の大きな鋳塊を製出した後に熱間押出を行って銅合金を製造する場合、鋳塊のサイズによって得られる銅合金の長さが制限されることになり、長尺の銅合金線(銅合金トロリ線)を得ることができなかった。また、生産効率が悪いといった問題があった。
【0006】
そこで、例えばベルトホイール式の連続鋳造機等を用いた連続鋳造圧延法によって銅合金線を製造する方法が提案されている。この場合、鋳造と圧延とを連続で実施するために、生産効率が高く、長尺の銅合金線を得ることが可能となる。
また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造し、この連続鋳造線材を再加熱せずに直接冷間加工することによって銅合金線を製造する方法も提案されている。
【0007】
しかしながら、ベルトホイール式の連続鋳造機等を用いた連続鋳造圧延法によって製造された銅合金線、及び、連続鋳造線材を再加熱せずに直接冷間加工することによって製造された銅合金線は、ビレットを熱間押出する熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、強度が低くなる傾向にあった。このため、強度を確保するためには、熱間押出工程を含む製造方法によって製造する必要があり、高強度の銅合金線を効率良く生産することができなかった。
【0008】
ここで、本発明者らが検討した結果、連続鋳造圧延法で製造された銅合金線は、熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、Co,Pの偏析が大きいことが判明した。そこで、特許文献5には、CoとPの比率を規定することにより、Co、Pの偏析を抑制し、引張強度及び導電性を向上させる技術が提案されている。また、特許文献6には、強度、耐熱性、導電率、伸びに優れた銅合金トロリ線を、連続鋳造圧延法で製造することが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0022】
(第一の参考実施形態)
本発明の第一の参考実施形態である銅合金は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しており、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(1)式及び(2)式を満足している。
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
【0023】
さらに、本実施形態では、B,Cr,Zrの含有量は、以下の(3)式及び(4)式を満足している。
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
【0024】
なお、この銅合金においては、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含んでいてもよい。
また、さらにZn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含んでいてもよい。
以下に、各元素の含有量を上述の範囲内に設定した理由について説明する。
【0025】
(Co)
Coは、Pとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。
ここで、Coの含有量が0.05mass%未満の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Coの含有量が0.70mass%を超える場合には、強度の向上に寄与しない元素が多く存在し、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Coの含有量を0.05mass%以上0.70mass%以下の範囲内に設定している。
なお、析出物の個数を確実に確保するためには、Coの含有量の下限を0.12mass%以上とすることが好ましく、0.25mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Coの含有量の上限を0.40mass%以下とすることが好ましく、0.36mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0026】
(P)
Pは、Coとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。Pの含有量が0.02mass%未満の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Pの含有量が0.20mass%を超える場合には、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Pの含有量を0.02mass%以上0.20mass%以下の範囲内に設定している。
なお、析出物の個数を確実に確保するためには、Pの含有量の下限を0.04mass%以上とすることが好ましく、0.08mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Pの含有量の上限を0.16mass%以下とすることが好ましく、0.14mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
(Sn)
Snは、銅の母相中に固溶することによって強度を向上させる作用を有する元素である。また、CoとPとを主成分とする析出物の析出を促進させる効果や、耐熱性、耐食性を向上させる作用も有する。
ここで、Snの含有量が0.005mass%未満の場合には、上述した作用効果を奏功せしめることができないおそれがある。一方、Snの含有量が0.70mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Snの含有量を0.005mass%以上0.70mass%以下の範囲内に設定している。
なお、上述した作用効果を確実に奏功せしめるためには、Snの含有量の下限を0.01mass%以上とすることが好ましく、0.02mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Snの含有量の上限を0.50mass%以下とすることが好ましく、0.10mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
(B,Cr,Zr)
これらB,Cr,Zrは、高温で保持した際の結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。これらB,Cr,Zrの含有量については、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(1)式及び(2)式で規定されている。
【0029】
B,Cr,Zrの含有量が、(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)を満足しない場合には、高温で保持した際に結晶粒の粗大化を十分に抑制することができず、強度が低く、高温で脆化するおそれがあり、また加工性が低下するおそれがある。
一方、B,Cr,Zrの含有量が、(2)式:X+Y+Z≦1000を満足しない場合には、鋳造性や導電率が低下したり、鋳造割れが発生したりするおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、B,Cr,Zrの含有量は、上述の(1)式及び(2)式を満足する必要がある。
なお、高温で保持した際に結晶粒の粗大化をさらに抑制するためには、B,Cr,Zrの含有量が、(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)を満足することが好ましい。
さらに、鋳造性の低下や鋳造割れをさらに抑制するためには、B,Cr,Zrの含有量が、(4)式:Y<400を満足することが好ましい。
【0030】
(Ni及びFe)
Ni及びFeは、Co及びPの化合物からなる析出物を微細化する作用効果を有する元素である。
ここで、Niの含有量が0.01mass%未満の場合あるいはFeの含有量が0.005mass%未満の場合には、上述した作用効果を確実に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Niの含有量が0.15mass%を超える場合あるいはFeの含有量が0.07mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Niを含有する場合には、Niの含有量を0.01mass%以上0.15mass%以下の範囲内に、Feを含有する場合には、Feの含有量を0.005mass%以上0.07mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
(Zn,Mg,Ag)
Zn,Mg,Agといった元素は、Sと化合物を形成し、銅の母相中へのSの固溶を抑制することで導電率を向上させる作用を有する元素である。
ここで、Zn,Mg,Agといった元素の含有量がそれぞれ上述の下限値未満の場合には、銅の母相中へのSの固溶を抑制する作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Zn,Mg,Agといった元素の含有量がそれぞれ上述の上限値を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Zn,Mg,Agといった元素を含有する場合には、それぞれ上述の範囲内とすることが好ましい。
【0032】
次に、上述の銅合金からなる銅合金部材の製造方法について説明する。
図1に本発明の実施形態である銅合金部材の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記の組成の銅合金からなる銅荒引線50を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S01)。この連続鋳造圧延工程S01においては、例えば
図2に示す連続鋳造圧延設備が用いられる。
【0033】
図2に示す連続鋳造圧延設備は、溶解炉Aと、保持炉Bと、鋳造樋Cと、ベルトホイール式連続鋳造機Dと、連続圧延装置Eと、コイラーFとを有している。
【0034】
溶解炉Aとして、本実施形態では、円筒形の炉本体を有するシャフト炉を用いている。
炉本体の下部には円周方向に複数のバーナ(図示なし)が上下方向に多段状に配備されている。そして、炉本体の上部から原料である電気銅が装入され、前記バーナの燃焼によって溶解され、銅溶湯が連続的に製出される。
【0035】
保持炉Bは、溶解炉Aでつくられた銅溶湯を、所定の温度で保持したままで一旦貯留し、一定量の銅溶湯を鋳造樋Cに送るためのものである。
【0036】
鋳造樋Cは、保持炉Bから送られた銅溶湯を、ベルトホイール式連続鋳造機Dの上方に配置されたタンディッシュ11にまで移送するものである。この鋳造樋Cは、例えばAr等の不活性ガス又は還元性ガスでシールされている。なお、この鋳造樋Cには、不活性ガスによって銅溶湯を攪拌して溶湯中の酸素等を除去する脱ガス手段(図示なし)が設けられている。
【0037】
タンディッシュ11は、ベルトホイール式連続鋳造機Dに銅溶湯を連続的に供給するために設けられた貯留槽である。このタンディッシュ11の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル12が配置されており、この注湯ノズル12を介してタンディッシュ11内の銅溶湯がベルトホイール式連続鋳造機Dへと供給される構成とされている。
【0038】
ここで、本実施形態では、鋳造樋C及びタンディッシュ11に合金元素添加手段(図示なし)が設けられており、銅溶湯中に、上述の元素(Co,P、Sn等)が添加される構成とされている。
【0039】
ベルトホイール式連続鋳造機Dは、外周面に溝が形成された鋳造輪13と、この鋳造輪13の外周面の一部に接触するように周回移動される無端ベルト14とを有している。このベルトホイール式連続鋳造機Dにおいては、前記溝と無端ベルト14との間に形成された空間に注湯ノズル12を介して銅溶湯が注入され、この銅溶湯を冷却・固化することで、棒状の銅合金鋳塊21を連続的に鋳造するものである。
【0040】
このベルトホイール式連続鋳造機Dの下流側には、連続圧延装置Eが連結されている。
この連続圧延装置Eは、ベルトホイール式連続鋳造機Dから製出された銅合金鋳塊21を連続的に圧延して、所定の外径の銅荒引線50を製出するものである。
この連続圧延装置Eから製出された銅荒引線50は、洗浄冷却装置15及び探傷器16を介してコイラーFに巻き取られる。
ここで、上述の連続鋳造圧延設備によって製出される銅荒引線50の外径は、例えば8mm以上40mm以下とされており、本実施形態では27mmとされている。
【0041】
次に、得られた銅荒引線50に対して、溶体化処理を行う(溶体化処理工程S02)。この溶体化処理工程S02においては、大気雰囲気下で、保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内の条件で加熱する。
なお、この溶体化処理工程S02後の溶体化材においては、導電率が45%以下とされている。
【0042】
次に、溶体化処理工程S02後の溶体化材に対して冷間加工を実施する(冷間加工工程S03)。この冷間加工工程S03においては、加工率を10%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0043】
次に、冷間加工工程S03後の冷間加工材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S04)。この時効熱処理工程S04によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S04では、熱処理温度が200℃以上700℃以下、保持時間が1時間以上30時間以下の条件で実施される。
【0044】
上述の工程により、本実施形態である銅合金からなる銅合金部材が製造されることになる。
なお、必要に応じて、時効熱処理工程S04後にさらに冷間加工及び熱処理を実施してもよい。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金によれば、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)を満足しているので、これらの元素によって、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることが抑制され、伸線性及び高温伸びに優れている。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、強度及び導電率を向上させることができる。
一方、B,Cr,Zrの含有量が、(2)式:X+Y+Z≦1000を満足しているので、鋳造性の低下や鋳造割れ等の発生を抑制することができる。
【0046】
ここで、本実施形態である銅合金においては、(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)を満足しているので、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることをさらに抑制することができる。
また、(4)式:Y<400を満足しているので、鋳造性の低下をさらに抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態において、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種以上を含む場合には、Ni,Feによって、Co及びPの化合物を微細化することができ、さらなる強度の向上を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態において、さらにZn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種以上を含む場合には、例えば銅材料のリサイクル過程で混入するSを、Zn、Mg、Agによって無害化することができ、中間温度脆性を防止し、銅合金部材の強度及び延性を向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、溶体化処理工程S02後の溶体化材において、導電率が45%以下とされているので、十分に溶体化がなされている。よって、その後の時効熱処理工程S04によって析出物を微細且つ均一に分散させることができ、強度及び導電率に優れた銅合金部材を得ることができる。
【0050】
(第二の参考実施形態)
次に、本発明の第二の参考実施形態について説明する。
本発明の第二の参考実施形態である銅合金は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有している。
すなわち、第一の参考実施形態において、B,Cr,ZrのうちBのみを添加しているのである。なお、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有するとともに、上述した(1)式、(2)式、(3)式、(4)式を満足するものとされている。
【0051】
なお、第一の参考実施形態と同様に、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含んでいてもよい。
また、さらにZn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0052】
ここで、Bは、上述のように、高温で保持した際の結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。
Bの含有量を5massppm以上とすることで、上述の結晶粒の粗大化を抑制する作用効果を奏することができる。一方、Bの含有量を1000massppm以下とすることで、鋳造性、加工性の低下を抑制することができる。
以上のことから、本実施形態では、Bの含有量を5massppm以上1000massppm以下の範囲内に設定している。
なお、上述した作用効果を確実に奏功せしめるためには、Bの含有量の下限を10massppmとすることが好ましく、15massppm以上とすることがさらに好ましい。一方、鋳造性、加工性の低下を確実に抑制するためには、Bの含有量の上限を200massppm以下とすることが好ましく、100massppm以下とすることがさらに好ましい。
【0053】
次に、上述の銅合金からなる銅合金部材の製造方法について説明する。
図3に本発明の第二の参考実施形態である銅合金部材の製造方法のフロー図を示す。
まず、上述の組成となるように各種原料を秤量し、真空溶解炉を用いて原料を溶解し、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入し、上述の組成の銅合金からなる銅合金鋳塊を製出する(溶解鋳造工程S11)。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0054】
なお、この銅合金鋳塊においては、加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下とされている。
また、この銅合金鋳塊においては、950℃で1時間の熱処理を行った後の導電率が45%IACS以下とされている。
【0055】
次に、得られた銅合金鋳塊に対して、溶体化処理を行う(溶体化処理工程S12)。この溶体化処理工程S12においては、大気雰囲気下で、保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内の条件で加熱する。
なお、この溶体化処理工程S12後の溶体化材においては、導電率が45%以下とされている。
【0056】
次に、溶体化処理工程S12後に熱間加工を行う(熱間加工工程S13)。この熱間加工工程S13においては、熱間加工温度は、700℃以上1000℃以下の範囲内、加工率は10%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。また、加工後には、水冷等によって急冷を行う。
【0057】
次に、熱間加工工程S13の後の熱間加工材に対して冷間加工を実施する(冷間加工工程S14)。この冷間加工工程S14においては、加工率を10%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0058】
次に、冷間加工工程S14後の冷間加工材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S15)。この時効熱処理工程S15によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S15では、熱処理温度が200℃以上700℃以下、保持時間が1時間以上30時間以下の条件で実施される。
【0059】
上述の工程により、本実施形態である銅合金からなる銅合金部材が製造されることになる。
なお、必要に応じて、時効熱処理工程S15後にさらに冷間加工及び熱処理を実施してもよい。
【0060】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金によれば、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しているので、Bによって、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることが抑制され、加工性及び高温伸びに優れている。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、強度及び導電率を向上させることができる。さらに、Bの含有量が1000massppm以下とされているので、鋳造性の低下や鋳造割れ等の発生を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態の銅合金鋳塊においては、加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下とされているので、高温保持時における結晶粒の粗大化が抑制されており、溶体化処理工程S13において高温条件で実施して溶体化を十分に行っても、結晶粒の粗大化による加工性の低下や高温脆化等を抑制することができる。
さらに、本実施形態の銅合金鋳塊においては、950℃で1時間の熱処理を行った後の導電率が45%IACS以下とされているので、十分に溶体化処理を行うことが可能である。
よって、溶体化処理を高温条件で行うことで、その後の時効熱処理工程S15で、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を微細、かつ、均一に分散させることが可能となり、強度及び導電率に優れた銅合金部材を得ることができる。
【0062】
(本発明の実施形態)
次に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態である銅合金トロリ線は、Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しており、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(1)式及び(2)式を満足している。
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
【0063】
さらに、本実施形態では、B,Cr,Zrの含有量は、以下の(3)式及び(4)式を満足している。
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
【0064】
なお、本実施形態においては、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有するとともに、上述した(1)式、(2)式、(3)式、(4)式を満足するものとされていてもよい。
【0065】
ここで、本実施形態においては、トロリ線としての特性(強度及び導電率)を確保するために、Coの含有量を0.12mass%以上0.40mass%以下の範囲内、Pの含有量を0.04mass%以上0.16mass%以下の範囲内、Snの含有量を0.01mass%以上0.50mass%以下の範囲内に設定している。
なお、本実施形態である銅合金トロリ線においては、引張強度が532MPa以上、かつ、導電率が76%IACS以上であることが好ましい。
【0066】
そして、本実施形態においては、結晶粒径の粗大化を抑制し、摩耗特性及び疲労特性を向上させるために、第一の実施形態と同様に、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、上述した(1)式、(2)式、(3)式、(4)式を満足するものとしている。
また、結晶粒径の粗大化を抑制し、摩耗特性及び疲労特性を向上させるために、第一の実施形態と同様に、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有してもよい。
【0067】
次に、上述の銅合金からなる銅合金トロリ線の製造方法について説明する。
図4に本発明の実施形態である銅合金トロリ線の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記の組成の銅合金からなる銅荒引線を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S21)。この連続鋳造圧延工程S21においては、第一の実施形態と同様に、例えば
図2に示す連続鋳造圧延設備が用いられる。
ここで、上述の連続鋳造圧延設備によって製出される銅荒引線の外径は、例えば8mm以上40mm以下とされており、本実施形態では27mmとされている。
【0068】
次に、得られた銅荒引線に対して、溶体化処理を行う(溶体化処理工程S22)。この溶体化処理工程S22においては、大気雰囲気下で、保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内の条件で加熱する。
なお、この溶体化処理工程S22後の溶体化材においては、導電率が45%以下とされている。
【0069】
次に、溶体化処理工程S22後の溶体化材に対して冷間加工して銅線材を得る(1次冷間加工工程S23)。この1次冷間加工工程S23においては、加工率を5%以上90%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、冷間伸線、皮剥ぎ、溝付き伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0070】
次に、1次冷間加工工程S23後の銅線材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S24)。この時効熱処理工程S24によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S24では、熱処理温度が300℃以上600℃以下、保持時間が60分以上1500分以下の条件で実施される。
この時効熱処理工程S24によって得られる時効熱処理材においては、導電率が76IACS%以上であることが好ましい。
【0071】
次に、時効熱処理工程S24後の時効熱処理材に対して、さらに冷間加工を実施する(2次冷間加工工程S25)。この2次冷間加工工程S25においては、加工率を5%以上 90%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、冷間伸線、溝付き伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0072】
上述の工程により、本実施形態である銅合金からなる銅合金トロリ線が製造されることになる。
なお、必要に応じて、2次冷間加工工程S25の後に、さらに熱処理及び冷間加工を実施してもよい。
【0073】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金トロリ線によれば、Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しているので、トロリ線として要求される強度及び導電率を満足することができる。
また、B,Cr,Zrによって、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径の粗大化を抑制でき、摩耗特性及び疲労特性を向上させることができる。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、強度及び導電率をさらに向上させることができる。
【0074】
さらに、本実施形態の銅合金トロリ線の製造方法においては、銅荒引線を連続的に製出する連続鋳造圧延工程S21と、得られた銅荒引線に対して溶体化処理を行う溶体化処理工程S22と、を備えており、溶体化処理工程S22においては、保持温度が900℃以上1000℃以下の範囲内、保持温度での保持時間が30分以上600分以下の範囲内とされているので、連続鋳造圧延法によって製造された銅荒引線におけるCo,Pの偏析を十分に解消することができる。
また、時効熱処理工程S24においては、熱処理温度が300℃以上600℃以下の範囲内、熱処理温度での保持時間が60分以上1500分以下の範囲内とされているので、時効処理を確実に行うことができ、Co及びPを析出させることができる。よって、強度及び導電性に優れた銅合金トロリ線を製造することが可能となる。
【0075】
以上、本発明の実施形態である銅合金トロリ線について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、銅合金トロリ線の製造方法の一例として、
図2に示すベルトホイール式連続鋳造機を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、ツインベルト式の連続鋳造圧延機等を用いてもよい。また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造してもよい。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0077】
図2に示す連続鋳造圧延設備を用いて、表1に示す組成の銅荒引線(φ27mm)を製造した。
次に、この銅荒引線に対して、大気炉を用いて表1に示す条件で溶体化処理を行った。
溶体化処理後の溶体化材に対して冷間伸線(加工率77%)を行って銅線材を得た。
そして、この銅線材に対して、大気炉を用いて表2に示す条件で時効熱処理を行った。
次に、時効熱処理材に対して、銅荒引線からの全加工率が81%となるように、冷間伸線を実施した。
【0078】
(強度)
銅合金トロリ線から、JIS Z2241に規定する形状の試験片を採取し、常温で引張試験を行い、引張強度を評価した。評価結果を表2に示す。
【0079】
(導電率)
銅合金トロリ線に対して、四端子法によって導電率を測定した。評価結果を表2に示す。
【0080】
(伸線性)
上述の銅荒引線に対して、加工率99%の冷間伸線を行い、直径1mmの銅線材に加工した。直径1mmで伸線長さが500mとなるまで伸線加工した際に断線した回数を評価し、10m当たりの断線回数に換算した値を伸線性とした。評価結果を表2に示す。
【0081】
(硬さ)
得られた銅合金トロリ線から試験片を採取し、エメリー紙及びバフを用いて研磨を行い、エッチング液でエッチング後、JIS Z 2244に規定された方法にてビッカース硬さを測定した。5回測定を行い、平均値及び標準偏差を算出した。評価結果を表2に示す。なお、従来例については、合金組成が大きく異なることから硬さを測定しなかった。
【0082】
(平均結晶粒径)
得られた銅合金トロリ線から試験片を採取し、エメリー紙及びバフを用いて研磨を行い、エッチング液でエッチング後、光学顕微鏡で観察し、JIS H 0321に規定された面積法により、平均結晶粒径を算出した
。評価結果を表2に示す。なお、従来例については、合金組成が大きく異なることから平均結晶粒径を測定しなかった。
【0083】
(ラボ疲労特性)
溶体化処理後の溶体化材から、幅10mm,厚さ4mmの板材を切り出し、加工率50%で冷間圧延を行い、厚さを2mmとした。その後、大気炉を用いて表1に示す条件で時効熱処理を実施し、加工率75%で冷間圧延を行い、厚さ0.5mmとし、シャーを用いて長さ60mmに切断した。そして、得られた試験片の端面のバリを1500番のエメリー紙を用いて除去した。
そして、日本伸銅協会の薄板・条の疲労特性試験方法(JCBA T308:2002)に準じて、薄板疲労試験機に試験片をセット長30mmでセットした。そして、周波数50Hz
で歪み振幅を変量させて、破断までの振動回数を計測した。
試験片のセット長さに対する振幅量の比率を歪振幅と定義し、歪振幅が6×10
−2の条件における破断寿命で評価した。具体的には、歪振幅が6×10
−2の条件で破断までの振動回数が10
7回以上のものを「A」、10
7回未満のものを「B」と評価した。評価結果を表2に示す。
【0084】
(疲労特性)
図5に示す試験装置により、本発明例82,比較例71,従来例の疲労特性を評価した。
図5に示すように、銅合金トロリ線の両端を固定して張力を付与し、銅合金トロリ線の長手方向中央部を加振し、破断するまでの加振回数を疲労寿命(回)とした。評価結果を
図7に示す。
【0085】
(摩耗特性)
図6に示す試験装置により、銅合金トロリ線の摩耗特性を評価した。ディスクの外周面に銅合金トロリ線を巻き付け、ディスクを回転させてパンタグラフの摺り板(型版T3−2)に摺接させた。なお、
パンタグラフは、銅合金トロリ線の摺接長さ240m毎に振幅200mmでディスクの回転方向に対して直交する方向に移動させた。
本発明例82,従来例において、2種類の摺り板(型版T3−2,N5C−5)を用いて、通電なし(注水なし)及び通電電流200A(注水あり)の2条件で摩耗試験を実施し、トロリ線の摩耗率を測定した結果を
図8に示す。なお、摺動速
度200km/時間、試験時間2時間である。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
本発明例においては、伸線性、強度及び導電率に優れていた。また、硬さが比較例よりも高く標準偏差も小さくなった。また、平均結晶粒径が比較例よりも小さくなった。そして、ラボ疲労特性評価の結果、比較例及び従来例よりも良好であった。
さらに、
図5及び
図6に示す測定装置を用いて、疲労特性及び摩耗特性を評価した結果、硬さが硬く、平均結晶粒径が小さい本発明例82においては、従来例のトロリ線(PHCトロリ線)よりも良好であることが確認された。
また、本発明例83−86においては、溶体化処理工程及び時効熱処理工程の条件を変更したが、本発明の範囲内であれば、伸線性、強度及び導電率に優れ、かつ、硬さが硬く、平均結晶粒径が小さくなり、疲労特性及び摩耗特性に優れた銅合金トロリ線を製造可能であることが確認された。
以上のことから、本発明例によれば、強度及び導電率に優れ、且つ、従来よりも摩耗特性及び疲労特性に優れた銅合金トロリ線を提供可能であることが確認された。