(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854733
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】樹脂シート
(51)【国際特許分類】
B29C 59/04 20060101AFI20210329BHJP
B29C 43/36 20060101ALI20210329BHJP
B29C 43/46 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
B29C59/04 C
B29C43/36
B29C43/46
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-157518(P2017-157518)
(22)【出願日】2017年8月17日
(65)【公開番号】特開2019-34481(P2019-34481A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】板垣 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】秋山 光宏
【審査官】
正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭43−11816(JP,B2)
【文献】
特開2009−086208(JP,A)
【文献】
特開2009−053623(JP,A)
【文献】
特開2016−012095(JP,A)
【文献】
特開2017−024291(JP,A)
【文献】
特開2012−9408(JP,A)
【文献】
特開2008−233870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00−39/44
B29C 43/00−43/58
B29C 59/00−59/18
C03B 11/00−11/16
C03B 13/00−13/18
G02B 5/00− 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明熱可塑性樹脂からなるチェッカーガラス調の樹脂シートであって、
該樹脂シートの一方の面には、一方向に延びる断面アーチ状の突条が規則的に複数列設されており、
前記樹脂シートの他方の面には、前記一方の面に列設された突条と直交する方向に延びる断面アーチ状の突条が規則的に複数列設されており、
前記樹脂シートの両面共に、前記突条が延びる方向における前記突条の頂点の算術平均うねり(Wa)が20μm以下であることを特徴とする樹脂シート。
【請求項2】
前記樹脂シートの両面共に、前記突条のピッチが10〜40mmであり、前記突条の平均高さが300〜1500μmであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記樹脂シートの両面共に、前記突条の高さに対する前記突条の頂点の算術平均うねり(Wa)の割合が5%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記透明熱可塑性樹脂がポリスチレン樹脂、アクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記樹脂シートの坪量が2000〜5000g/m2であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明熱可塑性樹脂からなるチェッカーガラス調の樹脂シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チェッカーガラスは、ワッフルガラスやモザイクガラスとも呼ばれ、レトロ感を有する意匠性の高さからアンティーク調の室内ドアや戸棚等のインテリアに使用されている。チェッカーガラスの格子模様は、一方の面に一方向に延びる断面アーチ状の突条を等間隔で賦形して列設するとともに、他方の面に、該一方の面の突条と直交する方向に延びる断面アーチ状の突条を等間隔で賦形して列設することにより、表面から見ると表裏の突条が重なって全体として格子模様として見えるものである。そして、このような格子模様を有するチェッカーガラスは、遠距離からの隠蔽性を有しながらも近距離における視認性を有するという特性を有している。
【0003】
前記の特徴を有するチェッカーガラスは、通常、ロールアウト法により製造される。ロールアウト法は、上下2本の賦形ロールの間に直接熔解したガラスを通すことによりガラス製品を成形する製造方法である(例えば、特許文献1を参照)。チェッカーガラスの製造では、上下2本の賦形ロールの内、一方の賦形ロールにはロールの周方向に連続する多数の凹溝を形成し、他方の賦形ロールにはロールの幅方向に連続する多数の凹溝を形成し、熔解したガラスを上下2本の賦形ロールで圧延させることによりガラス表面にロールの凹溝を転写させて断面アーチ状の突条を有するチェッカーガラスを製造することができる。
【0004】
一方、上記のロールアウト法により製造されるチェッカーガラスにおいては、2本の賦形ロールにより形成した上下面の断面アーチ状の突条において、賦形後のライン上で断面アーチ状の突条が自重により変形し、突条が延びる方向に沿ってうねりが生じるという欠点があった。また、溶融ガラスが賦形ロールに接触して急激に冷却されると、熱の逃げ方が自重のかかる下側の方が大きくなり、上下両面で均一な冷却が行われず、特にガラスの片面に欠陥が発生し易く、両面共にうねりが抑制されたチェッカーガラスを得ることが困難であった。
【0005】
このような原因で発生する突条のうねりは、反対面に対する近距離での視認性を低下させるという問題があった。また、チェッカーガラスはガラス製であるため、軽量性に欠けるという問題、また、衝撃により割れ易く、破損時に破片で怪我をする危険性があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−180949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、チェッカーガラスの代替として使用可能な樹脂シートであり、樹脂シートの視認性において、遠距離からの隠蔽性を有しながらも、近距離からのある程度の視認性を有する樹脂シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に記載の樹脂シートを提供する。
<1>透明熱可塑性樹脂からなるチェッカーガラス調の樹脂シートであって、
該樹脂シートの一方の面には、一方向に延びる断面アーチ状の突条が規則的に複数列設されており、
前記樹脂シートの他方の面には、前記一方の面に列設された突条と直交する方向に延びる断面アーチ状の突条が規則的に複数列設されており、
前記樹脂シートの両面共に、前記突条が延びる方向における前記突条の頂点の算術平均うねり(Wa)が20μm以下であることを特徴とする樹脂シート。
<2>前記樹脂シートの両面共に、前記突条のピッチが10〜40mmであり、前記突条の平均高さが300〜1500μmであることを特徴とする<1>に記載の樹脂シート。
<3>前記樹脂シートの両面共に、前記突条の高さに対する前記突条の頂点の算術平均うねり(Wa)の割合が5%以下であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の樹脂シート。
<4>前記透明熱可塑性樹脂がポリスチレン樹脂、アクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂のいずれかであることを特徴とする<1>から<3>のいずれかに記載の樹脂シート。
<5>前記樹脂シートの坪量が2000〜5000g/m
2であることを特徴とする<1>から<4>のいずれかに記載の樹脂シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂シートは、一方の面に、一方向に延びる断面アーチ状の突条が規則的に複数列設されており、該樹脂シートの他方の面に、一方の面に列設された突条と直交する方向に延びる断面アーチ状の突条が規則的に複数列設されており、該突条の頂点の算術平均うねり(Wa)を特定範囲に規定することにより、遠距離からの隠蔽性を有しながらも、近距離からのある程度の視認性を有するものである。また、本発明の樹脂シートは、ガラスよりも切削や曲げ等の二次加工性、軽量性に優れ、万一割れてもガラスと異なり破片の飛散を抑制することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る樹脂シートの一実施形態を示す概略斜視図である。
【
図2】(a)は両表面に直行する溝部が形成された樹脂シートの一例を示す平面図であり、(b)は(a)のA−A線に沿う縦断面図である。
【
図3】(a)は装置の一例を示す模式図であり、(b1)は横溝ロールの例を示す模式図、(b2)は縦溝ロールの例を示す模式図であり、(c)はロール表面に形成された凹溝の模式図である。
【
図4】実施例における算術平均うねり(Wa)の測定箇所を示す概略説明図である。
【
図5】実施例1の上面の3D表面形状及び算術平均うねり(Wa)のデータである。
【
図6】(A1)は、実施例1の近距離からの視認性を示すイメージ図であり、(B1)は、比較例1の近距離からの視認性を示すイメージ図であり、(A2)は、実施例1の遠距離からの視認性を示すイメージ図であり、(B2)は、比較例1の遠距離からの視認性を示すイメージ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の樹脂シートについて図面に基づいて以下に詳述する。
図1は本発明に係る樹脂シートの一実施形態を示す概略斜視図であり、
図2(a)は両表面に直行する溝部が形成された樹脂シートの一例を示す平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA−A線に沿う縦断面図である。
【0012】
本発明の樹脂シート1は、透明熱可塑性樹脂からなるチェッカーガラス調の樹脂シート1であり、樹脂シート1の一方の面2aには、一方向に延びる断面アーチ状の突条3(以下、単に突条ともいう)が規則的に複数列設されており、樹脂シート1の他方の面2bには、一方の面2aに列設された突条3a(3)と直交する方向に延びる突条3b(3)が規則的に複数列設されている。
【0013】
本実施形態の樹脂シート1における突条3の幅Wは、遠距離からの樹脂シートを通した向こう側への隠蔽性を確保するという観点から、10〜30mmが好ましく、より好ましくは12〜25mmであり、さらに好ましくは15〜20mmである。また、突条3のピッチは10〜40mm以下が好ましく、12〜30mmがより好ましい。突条3の幅W及びピッチが上記範囲であれば、優れた意匠性を有する樹脂シート1とすることができる。なお、本発明において、突条3の幅とは、断面アーチ状の突条3における両端の溝部4同士の距離であり、ピッチとは、断面アーチ状の突条3の頂点と、該断面アーチ状の突条3と隣り合う断面アーチ状の突条3の頂点との距離である。
【0014】
なお、一方の面2aと、他方の面2bのそれぞれにおいて、意匠性や近距離からの視認性の観点等から、幅Wとピッチはそれぞれ一定であることが好ましく、一方の面と他方の面の幅Wとピッチが両面ともそれぞれ一定であることがより好ましい。また、幅Wとピッチの値が一致する場合には、断面アーチ状の突条3が連続して列設することとなり、特に意匠性に優れることから、一方の面2aと、他方の面2bのそれぞれにおいて幅Wとピッチが一致することが好ましく、両面の幅Wとピッチが一致していることが特に好ましい。
【0015】
また、溝部4から突条3の頂点までの平均高さHは、200〜1700μmであることが好ましい。突条3の高さHが上記範囲であれば、突条3が鮮明となり意匠性に優れる樹脂シート1とすることができる。かかる観点から、突条3の平均高さHは300〜1500μmが好ましく、より好ましくは400〜800μmである。なお、一方の面2aに形成する高さHと他方の面2bに形成する高さHとは、異なる大きさにすることもできるが、意匠性や近距離からの視認性の観点等から同じ大きさであることが好ましい。
【0016】
幅W、ピッチ、及び突条3の平均高さHは、例えば、表面粗さ測定機を用いて、樹脂シート1表面の断表面形状を測定することにより測定することができる。表面粗さ測定機としては、例えば、株式会社小坂研究所製 サーフコーダSE1700αを用いることができる。
【0017】
本実施形態の樹脂シート1においては、樹脂シート1の両面共に、突条3が延びる方向における突条3の頂点の算術平均うねり(Wa)が20μm以下である。算術平均うねり(Wa)を上記範囲とすることにより、樹脂シート1を通して視認される物体の輪郭の歪を少なくすることができ、遠距離からの隠蔽性を有するとともに、近距離からのある程度の視認性を有する樹脂シート1とすることができる。上記観点から、算術平均うねり(Wa)は両面共に15μm以下が好ましく、13μm以下がより好ましい。また、突条3が延びる方向における突条3の頂点以外についても算術平均うねりが低いことが好ましく、具体的には、
図4に示す突条の溝部4(P1)、(P5)、及び溝部4と頂点の中間部(P2)、(P4)の各々において、樹脂シート1の両面共に、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。本発明における算術平均うねり(Wa)は、例えば、三鷹光器株式会社製、超精密非接触三次元測定装置(型式:NH−3SP)等を用いて測定することができる。該測定からJIS B0601:2013に基づいて算出することにより各算術平均うねりの値を求めることができる。
【0018】
また、本実施形態の樹脂シート1においては、樹脂シート1の両面共に、突条3の高さHに対する突条3の頂点の算術平均うねり(Wa)の割合が5%以下であることが好ましい。突条3の高さHに対する突条3の頂点の算術平均うねり(Wa)の割合が上記範囲であることにより、突条3の高さHと視認性のバランスがよい樹脂シート1とすることができる。かかる観点から、算術平均うねり(Wa)の割合は3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。
【0019】
また、樹脂シート1の耐傷付き性の観点からは、樹脂シート1表面が鉛筆硬度試験で「2B」以上の硬度を有することが好ましく、「HB」以上の硬度を有することがより好ましく、「2H」以上の硬度を有することがさらに好ましい。樹脂シート1の両表面ともに前記の硬度を満足する表面であることが好ましい。前記鉛筆硬度試験は、JIS K5600−5−4(1999)で規定される。
【0020】
本発明の樹脂シート1の特徴は、ガラス製のチェッカーガラスと同じ程度に光を通す採光性に優れており、遠距離からの隠蔽性を有するとともに、近距離からの優れた視認性を有していることにある。光の透過性は全光線透過率で数値化される。全光線透過率は樹脂シート1を透過する光の割合を表し、全光線透過率が大きいほど光が樹脂シート1の表面側から裏面側へ通過し易いことを意味する。かかる観点から、全光線透過率は85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。全光線透過率、拡散光線透過率、平行光線透過率は、JIS K7361−1:1997に従って、濁度計(例えば、日本電色工業株式会社社製Haze Meter NDH7000SP)を用いて測定することができる。
【0021】
また、像鮮明度により近距離からの視認性を規定することができる。像鮮明度性は、樹脂シート1を透過して見える物体の像が、どの程度鮮明に歪みなく見えるかの度合を示す指標となる数値であり、鮮明であるほど高い値を示す。測定方法としては、樹脂シート1の透過光の光線軸に直交する光学くしを移動させて、光線軸上に光学くしの透過部分があるときの光量(M)と、光学くしの遮光部分があるときの光量(m)を求め、両者の差(M−m)と和(M+m)との比率(%)として求めることができ、具体的にはJIS K7374:2007に準拠した方法により測定することができる。
【0022】
本発明の樹脂シート1における像鮮明度は、近距離からの視認性を特定の範囲とする観点から、光学くしの幅0.125mm、0.25mm、0.5mm、1mm、2mmの像鮮明度の合計値が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。一方、近距離における視認性が高くなりすぎることを回避する観点から、本発明の樹脂シート1における像鮮明度の上限は、200%以下であることが好ましく150%以下であることがより好ましい。
【0023】
また、該樹脂シート1の坪量は、2000〜5000g/m
2であることが好ましく、3000〜4000g/m
2であることがより好ましい。該坪量が上記範囲であれば、ガラス製のチェッカーガラスと比較して軽量性に優れ、取り扱い易い樹脂シート1とすることができる。また、該樹脂シート1は切削等の二次加工性に優れることから、その縦、横の寸法は、使用する用途によって適宜変更することができる。
【0024】
本発明において用いられる透明熱可塑性樹脂としては、JIS K7361:1997に記載された「透明プラスチック」に該当する樹脂が好適に用いられる。透明熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、環状オレフィン樹脂等を例示することができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。上記の中でも優れた加工性等の観点からポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂のいずれかであることが好ましい。さらに、優れた耐傷つき性の観点からアクリル樹脂が特に好ましい。
【0025】
上記ポリスチレン樹脂は、スチレンに基づく単位又はスチレン成分含有量が50モル%以上であり、好ましくは70モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上である。
【0026】
上記アクリル樹脂は、アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステル(これらを総称して以下、(メタ)アクリル酸エステルということもある。)の単独重合体もしくは(メタ)アクリル酸エステル同士の共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルに基づく単位が50モル%以上であり他のコモノマーに基づく単位が50モル%以下である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、及びこれらの2以上の混合物等である。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタアクリル酸とを含む概念であり、これら一方又は両方を意味する。上記(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、又はメタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体等が例示される。これらのうち、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、又はメタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体が好ましく、ポリメタクリル酸メチルがより好ましい。
【0027】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体としては、メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エチル−スチレン共重合体、又はメタクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等が例示される。これらのうち、メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体、又はメタクリル酸メチル−スチレン共重合体が好ましい。
【0028】
上記ポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールA(4,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン)ポリカーボネート、ビスフェノールF(4,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−メタン)ポリカーボネート、ビスフェノールS(4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン)ポリカーボネート、又は2,2−ビス(4−ジヒドロキシヘキシル)プロパン)ポリカーボネートなどが例示される。これらのうち特に光学グレードのポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0029】
本発明に用いられる透明熱可塑性樹脂の密度は、0.8〜1.6g/cm
3であることが好ましく、0.9〜1.5g/cm
3であることがより好ましく、1〜1.3g/cm
3であることがさらに好ましい。透明熱可塑性樹脂の密度が上記範囲であれば、ガラス製の板と比較して軽量性に優れ、取り扱い易い樹脂シート1とすることができる。なお、ガラス製品として一般的に使用されるフロートガラスの密度は、約2.5g/cm
3である。
【0030】
本発明の樹脂シート1の材料とする上記透明熱可塑性樹脂に対しては、本発明の目的効果を阻害しない範囲において各種添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、難燃剤、金属不活性剤、顔料、染料等を挙げることができる。具体的な該添加剤の添加量としては、透明熱可塑性樹脂100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0031】
本発明の樹脂シート1の製造方法は、本発明の樹脂シート1において規定する突条3の頂点の算術平均うねり(Wa)を20μm以下とすることができれば、その製造方法は金型を用いるプレス成形法、ロール賦形法のどちらでもよい。近距離からの視認性を特定の範囲とし易いという観点からは、ロール賦形法により製造することが好ましい。
【0032】
ロール賦形法では、
図3(a)に示すように溶融させた熱可塑性樹脂をシート状に押出し、押出された透明樹脂シート10を引き取りつつ、
図3(b2)、
図3(c)に示すロールの周方向に連続する凹溝51aを有する縦溝ロール51と、
図3(b1)に示すロールの幅方向に連続する凹溝52aを有する横溝ロール52とからなる成形ロールで、押出された透明樹脂シート10を挟圧し、透明樹脂シート10の両面に成形ロール51、52の表面形状を転写させて樹脂シート1の突条3を賦形する。なお、透明樹脂シート10の賦形条件については、本発明で規定する突条3の頂点の算術平均うねり(Wa)が20μm以下となる条件で引き取り及び成形ロールによる賦形条件を設定する必要がある。
【0033】
上記方法で製造された本発明の樹脂シート1は、アンティーク調の室内ドアや家具等の採光窓や、パーテーション材、間仕切り材、クローゼットや食器棚の扉に好適に用いることができる。本発明の樹脂シート1を室内ドアに採用した場合には、遠距離からは隠蔽性を有し、近距離からはある程度の視認性を有するといった効果を有する。従って、特定のプライバシーの保護が求められる仕切り材、例えば病室や老人ホームの個室の扉、浴室のドアや採光窓等に利用されることが期待される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の樹脂シート1について、実施例により具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
内径65mmの単軸押出機にリップ幅300mmのTダイ(Tダイのリップ間隙=5.0mm、リップ部の平行ランド長=5.0mm)を取付けた押出装置を用いた。
【0036】
また、
図3(a)に示すように、第1ロール51(縦溝ロール)、第2ロール52(横溝ロール)、第3ロール6(鏡面ロール)をこの順で、各ロールの回転軸が同一高さになるように配置した。3本のロールの直径は全て195mm、幅は全て700mmであり、材質は鉄製であり、ロール内部にオイル温調のための流路を設けた。
【0037】
第1ロール51(縦溝ロール)には凹溝51aの溝深さH500μm、山部の先端から0.05mm下の山部の幅が1.84mm、ピッチP15mmの縦溝を形成し、第2ロール52(横溝ロール)には凹溝52aの溝深さH500μm、山部の先端から0.05mm下の山部の幅が0.66mm、ピッチ15mmの横溝を形成した。第3ロール6は、第2ロール52のロール表面と、第3ロール6のロール表面との距離が65mmとなるように配置した。
【0038】
原料は新日鉄住金化学株式会社製のエスチレンMS樹脂(メチルメタクリレート・スチレン共重合樹脂)「MS−600」(ガラス転移温度Tg=103℃、全光線透過率92%、ヘーズ=0.1、屈折率1.53)を使用した。
【0039】
押出樹脂温度を250℃とし、吐出量45kg/hでTダイより樹脂をシート状に押出し、押出されたシート状物10を第2ロール52に接触させて第1ロール51側にバンクを形成し、さらに第1ロール51と第2ロール52で挟圧して、シート状物10の第1ロール51側に縦溝を、第2ロール側52に横溝を賦形し、さらに第2ロール52、続けて第3ロール6に沿わせて引取り、樹脂シート1を得た。引取り速度は0.6m/minとし、シート幅300mm、シート厚み4mmの樹脂シート1を得た。ロール温度は3台のオイル温調ポンプを用いて別々の温度調整を行った(第1ロール60℃、第2ロール70℃、第3ロール75℃)。
【0040】
実施例2
原料の樹脂として、PS(ポリスチレン PSJ社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により樹脂シートを得た。
【0041】
比較例1
市販品のチェッカーガラス(ガラス厚4mm、格子サイズ約12.8mm×14.8mm)を用いた。
【0042】
比較例2
市販品のチェッカーガラス(ガラス厚4mm、格子サイズ約16.2mm×17.2mm)を用いた。
【0043】
比較例3
市販品のチェッカーガラス(ガラス厚4mm、格子サイズ約15.0mm×15.6mm)を用いた。
【0044】
<突条の幅、ピッチ及び突条の高さの測定>
断面アーチ状の突条の幅は、以下の方法により求めた。樹脂シートから無作為に100mm×100mmの試験片を切り出し、断面アーチ状の突条と直交する方向について、株式会社小坂研究所製の「表面粗さ測定機 サーフコーダSE1700α」を用いて測定し、シート断面の任意の断面アーチ状の突条の両端の溝部の最も深い点同士を直線Aで結び、直線Aの長さを突条の幅とした。ピッチは、該直線Aと平行な直線であって突条の山部と点接触となる点を突条の頂点と定め、隣り合う頂点同士の直線距離をピッチとした。また、突条の頂点から樹脂シートの厚み方向における下方向に向かって直線Aに直交する直線Bを引き、直線Bにおける突条の山部の頂点から直線Aとの交点までの長さを測定し、突条の高さを求めた。前記操作を等間隔の4点について行い、4点の算術平均値を突条の幅、ピッチ及び突条の高さとした。その結果を表1に示す。
【0045】
<算術平均うねり(Wa)の測定>
実施例1、2の樹脂シート及び、比較例1〜3のチェッカーガラスの上下面の突条について、算術平均うねり(Wa)を測定した。具体的には、超精密非接触三次元測定装置(三鷹光器株式会社製 型式:NH−3SP)を用いて3D解析画像を抽出し、3D表面形状のデータ上における
図4に示す突条の溝部4(P1)、(P5)、突条の頂点(P3)及び溝部4と頂点の中間部(P2)、(P4)の各々の長手方向のライン上について、カットオフλc=0.8mm、λf=8.0mm、測定距離40mmの条件で測定した。該測定からJIS B0601:2013に基づいて各算術平均うねりの値を求めた。その算術平均うねり(Wa)の測定結果を表1に示し、実施例1の上面の各点の3D表面形状のデータを
図5に示す。また、各々の突条の平均高さに対する頂点(P3)の割合(%)を求めた。その結果を表1に示す。
【0046】
<突条のうねり評価>
また、算術平均うねり(Wa)の上面及び下面の測定結果のP1〜P5の平均値を求め、以下の基準に基づいて突条のうねりを評価した。その結果を表1に示す。
○…樹脂シート又はチェッカーガラスの上面、下面ともに算術平均うねりの平均値が50μm未満。
×…樹脂シート又はチェッカーガラスの上面及び/又は下面の算術平均うねりの平均値が50μm以上。
【0047】
【表1】
【0048】
<像鮮明度の測定と評価>
実施例1、2の樹脂シート及び、比較例1〜3のチェッカーガラスの突条に沿った縦方向と、それに直交する横方向について、それぞれJIS K7374:2007に準拠した方法で像鮮明度を測定した。測定は、樹脂シート及びチェッカーガラスから縦横それぞれ2本の溝部を含むように20mm×20mmのサイズ(厚みは樹脂シート及びチェッカーガラスの厚み)の試験片を切り出し、該試験片の格子模様の中央部を含むようにして、縦方向とそれに直交する横方向について、それぞれスガ試験機株式会社 ICM−1Tを用い、光学くしから受光部までの距離を450mm、試験片から受光部までの距離を230mmとし、透過光の光線軸に直交する光学くしを移動させて、各光学くしの幅(0.125mm、0.25mm、0.5mm、1mm、2mm)について、以下の式(1)により像鮮明度を算出した。
C(n)={(M−m)/(M+m)}×100(%)・・・(1)
式(1)中、C(n)は光学くしの幅n(mm)のときの像鮮明度(%)、Mは光学くしの幅n(mm)のときの最高光量、mは光学くしの幅n(mm)のときの最低光量である。
【0049】
また、各光学くしの幅における縦方向と横方向の平均値を算出し、その合計値を求めて、その値を像鮮明度の指標として評価した。像鮮明度の評価は、80%以上を○、80%未満を×として評価した。その結果を表2に示す。
【0050】
<近距離及び遠距離からの視認性の評価>
実施例1、2の樹脂シート及び、比較例1〜3のチェッカーガラスについて、近距離及び遠距離からの視認性を評価した。近距離からの視認性は、樹脂シート及びチェッカーガラスの後方600mmに物体を置き、樹脂シート及びチェッカーガラスから前方10mmから樹脂シート及びチェッカーガラスを通して目視により物体の像の見え方について評価した。遠距離の視認性は、樹脂シート及びチェッカーガラスの後方600mmに物体を置き、樹脂シート及びチェッカーガラスから前方300mmから樹脂シート及びチェッカーガラスを通して目視により物体の像の見え方について評価した。反対側の物体の像がはっきり見えるものを○とし、見えないものを×とした。その結果を表2に示す。
【0051】
また、
図6(A1)に、実施例1の近距離からの視認性を示すイメージ図を示し、
図6(A2)に、実施例1の遠距離からの視認性を示すイメージ図を示す。また、
図6(B1)に、比較例1の近距離からの視認性を示すイメージ図を示し、
図6(B2)に、比較例1の遠距離からの視認性を示すイメージを示す。
【0052】
【表2】
【0053】
<光学物性試験>
実施例1、2の樹脂シート及び、比較例1〜3のチェッカーガラスについて、光学物性試験として全光線透過率、ヘーズ、平行光線透過率、拡散光線透過率を測定した。樹脂シート及びチェッカーガラスから縦横それぞれ2本の溝部を含むように20mm×20mmのサイズ(厚みは樹脂シート及びチェッカーガラスの厚み)の試験片を3つ切り出し、該試験片の格子模様の中央部についてヘーズメーター(日本電色工業株式会社製 NDH7000SP)を用いて、測定範囲φ7mmで測定し、算術平均した値を採用した。
【0054】
<鉛筆硬度>
実施例1、2の樹脂シートについて、(株)安田精機製作所社製No.553−Sを使用し、JIS K5600−5−4(1999年)に準拠した方法(角度45°、荷重750g、速度1mm/s、温度23℃)で鉛筆硬度試験を行った。なお、鉛筆法における硬度の大小は硬度が高い方を大と定義すると、「2B<B<HB<F<H<2H<3H<4H」となる。
【0055】
【表3】
【0056】
表1に示す算術平均うねり(Wa)の測定結果から、本願発明の実施例1、2の樹脂シートは、比較例1〜3の市販のチェッカーシートより突条のうねりが少ないことが確認できた。また、表2に示す写像性(像鮮明度)の測定結果から、実施例1、2の突条のうねりの少なさに伴う優れた写像性が確認され、表2に示す視認性の評価結果及び
図6から、近距離の良好な視認性と遠距離の良好な遮蔽性が確認された。また、表3の結果から、本発明の樹脂シートが、ガラス製のチェッカーガラスと比較しても光学的透過率に関して差異のない優れたものであることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
1 樹脂シート
2a 一方の面
2b 他方の面(裏面)
3 突条
3a 一方の面に形成された突条
3b 他方の面(裏面)に形成された突条
4 溝部
4a 一方の面に形成された溝部
4b 他方の面(裏面)に形成された溝部
51 縦溝ロール(第1ロール)
51a ロールの周方向に連続する凹溝
52 横溝ロール(第2ロール)
52a ロールの幅方向に連続する凹溝
6 第3ロール
H 突条の高さ
W 突条の幅