特許第6854740号(P6854740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854740
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】多孔質細胞足場及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20210329BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-207848(P2017-207848)
(22)【出願日】2017年10月27日
(65)【公開番号】特開2019-76070(P2019-76070A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸田 勝典
(72)【発明者】
【氏名】平野 稔
(72)【発明者】
【氏名】岡本 正巳
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−521614(JP,A)
【文献】 特表2002−541925(JP,A)
【文献】 特開2009−160302(JP,A)
【文献】 特開2003−116981(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108537(WO,A1)
【文献】 特表2009−514643(JP,A)
【文献】 特開2011−172533(JP,A)
【文献】 特表2005−523739(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/076252(WO,A1)
【文献】 特開2006−136673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 1/00−7/08
A61K 35/00−35/768
C08J 9/00−9/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を規定し、生体適合性及び/又は生体吸収性を有するポリマーを含むマトリックスを備え、
前記マトリックスは、互いに連通する第1のサイズの第1の細孔と、少なくとも前記第1の細孔の内表面に存在する第2の細孔と、前記第1の細孔と第1の細孔の連絡孔である第3の細孔と
を備え、
前記マトリックスの細孔連結率が76%以上であり、前記マトリックスの吸水率が2000%以上である、細胞培養用足場。
【請求項2】
前記マトリックスは、空孔率が96%以上である、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
前記第1のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が200μm以上400μm以下である、請求項1又は2に記載の足場。
【請求項4】
前記第2の細孔の第2のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が30μm以上100μm未満である、請求項1〜3のいずれかに記載の足場。
【請求項5】
前記マトリックスは、前記第3の細孔を備えるフレーム及び/又はウォールを少なくとも部分的に有する、請求項1〜4のいずれかに記載の足場。
【請求項6】
前記第3の細孔が備える第3のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が100μm以上170μm以下である、請求項5記載の足場。
【請求項7】
前記ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体及びポリカプロラクトンから選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の足場。
【請求項8】
多孔質構造を規定し、生体適合性及び/又は生体吸収性を有するポリマーを含むマトリックスを備え、
前記マトリックスは、互いに連通する第1のサイズの第1の細孔と、少なくとも前記第1の細孔の内表面に存在する第2の細孔と、前記第1の細孔と第1の細孔の連絡孔である第3の細孔と
を備え、
前記マトリックスの細孔連結率が76%以上であり、前記マトリックスの吸水率が2000%以上であるか又は空孔率が96%以上である、多孔質基材。
【請求項9】
前記多孔質基材は、以下の(a)〜(d);
(a)前記第1のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が200μm以上400μm以下である、
(b)前記第2の細孔の第2のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が30μm以上100μm未満である、
(c)前記マトリックスは、前記第1の細孔と第1の細孔の連絡孔である第3の細孔を備えるフレーム及び/又はウォールを少なくとも部分的に有する、及び
(d)前記(c)における前記第3の細孔が備える第3のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が100μm以上170μm以下である
からなる群から選択される1種又は2種以上の特徴を備える、請求項8に記載の多孔質基材。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の多孔質基材の製造方法であって、
水溶性固体である複数の水溶性粒子の少なくとも一部を水分を介して相互に連結して前記水溶性粒子の連結構造体を取得する工程と、
第1の液体に生体適合性及び/又は生体吸収性を有するポリマーを溶解したマトリックス原液中に前記連結構造体を備える基材原液を準備する工程と、
前記基材原液に対して、前記第1の液体及び水が凍結可能な温度条件を付与して、前記基材原液を凍結させた凍結体を得る工程と、
減圧条件下で前記凍結体から前記第1の液体及び前記第2の液体を昇華させて乾燥体を得る工程と、
前記乾燥体中の前記複数の水溶性粒子を除去する工程と、
を備える、方法。
【請求項11】
前記水溶性固体は、塩及びその誘導体並びに糖及びその誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記水溶性固体は、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体及びポリカプロラクトンからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、多孔質細胞足場及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞による三次元構造体の作製にあたっては、生体適合性ポリマーなどからなる多孔質細胞足場が用いられている。かかる多孔質細胞足場の作成方法の1つとして、ポロ−ゲンリーチング法と呼ばれる不溶性個体粒子(ポローゲン)を用いてポローゲンに対応する細孔をポリマーマトリックス中に形成する方法がある。ポローゲンリーチング法は、ポリ乳酸などの生体適合性ポリマーをジオキサン、クロロホルム等の非水溶媒に溶解した溶液中に非水溶媒には不溶性の糖質や食塩などの粒子(ポローゲン)を予め混合しておき、非水溶媒を蒸発させた後に、ポローゲンを溶解する溶媒でポローゲンのみを溶解させてポリマーマトリックス中に多孔質構造を形成する方法である(非特許文献1)。ポロ−ゲンリーチング法は、複雑な形状に対応でき、ポロ−ゲンのサイズに応じた細孔を形成できるという利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Murphyら、Tissue Eng. 2002, 8, 43-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポローゲンリーチング法で得られる多孔質体は、細孔がそれぞれ独立した独立気泡であることが多く連通率が低い場合が多かった。かかる多孔質体の表面に細胞を播種して場合、多孔質体の更なる内部方向への細胞の移動や増殖が妨げられやすく、意図した細胞構造体が必ずしも得られるわけではなかった。
【0005】
本明細書は、細孔の連結性に優れる多孔質細胞足場基材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポローゲンリーチング法について種々検討していたところ、ポローゲンが連結することによって形成される連結体に由来するキャビティを備え、さらに、ポローゲンの表面あるいはその近傍から成長させた氷結晶に由来する細孔を備えるポリマーマトリックスを有する多孔質材料を得ることに成功した。こうした多孔質材料によれば、ポローゲンに由来する細孔、ポローゲンの連結部分に由来する細孔及びポローゲンに付随する氷結晶に由来する細孔を備えるために、高い空孔率と細孔連通率を充足できるという知見を得た。本明細書は、かかる知見に基づき以下の手段を提供する。
【0007】
(1)多孔質構造を規定し、ポリマーを含むマトリックスを備え、
前記マトリックスは、互いに連通する第1のサイズの第1の細孔と、前記第1の細孔の内表面又はその近傍に存在する第2の細孔と、を規定する、細胞培養用足場。
(2)前記マトリックスの細孔連結率が76%以上である、(1)に記載の足場。
(3)前記マトリックスの吸水率が2000%以上であるか又は空孔率が96%以上である、(1)又は(2)に記載の足場。
(4)前記第1のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が200μm以上400μm以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の足場。
(5)前記第2の細孔の第2のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が30μm以上100μm未満である、(1)〜(4)のいずれかに記載の足場。
(6)前記マトリックスは、前記第1の細孔と第1の細孔の連絡孔である第3の細孔を規定するフレーム及び/又はウォールを少なくとも部分的に有する、(1)〜(5)のいずれかに記載の足場。
(7)前記第3のサイズは、最大差し渡し寸法の平均値が100μm以上170μm以下である、(6)記載の足場。
(8)前記ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体及びポリカプロラクトンから選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の足場。
(9)多孔質構造を規定し、ポリマーを含むマトリックスを備え、
前記マトリックスは、互いに連通する第1のサイズの第1の細孔と、前記第1の細孔の内表面又はその近傍に存在する第2の細孔と、を規定する、多孔質基材。
(10)多孔質基材の製造方法であって、
水溶性固体である複数の水溶性粒子の少なくとも一部を水分を介して相互に連結して前記水溶性粒子の連結構造体を取得する工程と、
第1の液体にポリマーを溶解したマトリックス原液中に前記連結構造体を備える基材原液を準備する工程と、
前記基材原液に対して、前記第1の液体及び水が凍結可能な温度条件を付与して、前記基材原液を凍結させた凍結体を得る工程と、
減圧条件下で前記凍結体から前記第1の液体及び前記第2の液体を昇華させて乾燥体を得る工程と、
前記乾燥体中の前記複数の水溶性粒子を除去する工程と、
を備える、方法。
(11)前記水溶性固体は、塩及びその誘導体並びに糖及びその誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上である、(9)に記載の製造方法。
(12)前記水溶性固体は、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムからなる群から選択される1種又は2種以上である、(10)又は(11)に記載の製造方法。
(13)前記ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体及びポリカプロラクトンからなる群から選択される1種又は2種以上である、(10)〜(12)のいずれかに記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本明細書に開示される足場の一例の概要を示す図である。
図2】足場の製造工程の一部を示す図である。
図3】足場の製造工程の他の一部を示す図である。
図4】実施例により得られた多孔質基材のSEM画像を示す図である。
図5図3に示すSEM画像に基づく画像解析結果を示す図である。
図6】実施例で作製した多孔質基材の空孔率、吸水率についての評価結果を示す図である。
図7】実施例で作製した多孔質基材の空孔率、吸水率及び連結率についての評価結果を示す図である。
図8】実施例で作製した多孔質基材の細胞培養用足場としての評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の開示は、多孔質細胞足場及びその利用等に関する。本明細書に開示される多孔質細胞足場(以下、単に、本足場ともいう。)は、ポリマーを含むマトリックスを有している。本足場におけるマトリックスの概要を図1に例示する。
【0010】
図1に例示するように、本足場100のマトリックス10は、互いに連通する第1のサイズを有する第1の細孔20と、前記第1のサイズよりも小さい第2のサイズを有し、前記第1の細孔20の内表面及び/又はその近傍において延在する第2の細孔60と、を規定することができる。かかる足場によれば、第1の細孔が互いに連通して形成する連続的なキャビティと、第1の細孔20から延在する第2の細孔60と、を有するため、高い細孔連結率を容易に確保することができ、また、また各細孔20、60の内表面に細胞が接着できるほか、各細孔20、60を通じて細胞が走化性の発揮などに基づく移動、増殖、伸展、伸長が可能となり、細胞の培養を効果的に促進でき、例えば、移植材料などの作製に好適である。
【0011】
さらに、本足場100のマトリックス10は、第1の細孔20が連結し連通して得られる連絡孔としての第3の細孔40を備えることができる。第3の細孔40を備えることで、連続的なキャビティが形成される。
【0012】
なお、本明細書において、「細胞」とは、特に限定するものではなく、培養し、増殖させて用いることができる公知の細胞が挙げられる。例えば、動物細胞、植物細胞等が挙げられる。動物細胞としては、ヒトを含む動物の組織や臓器を構成する細胞であってもよい。例えば、皮膚、骨、軟骨、靱帯、筋肉、気管、食道、鼻、血管、膵臓、肝臓、心臓等を構成しうるあるいはこれらに由来する細胞のほか、中枢神経及び末梢神経など各種神経細胞が挙げられる。また、胚性幹細胞、多能性幹細胞、間葉系幹細胞などの各種幹細胞を含む未分化細胞が挙げられる。
【0013】
本明細書において、「多孔質細胞足場」は、細胞を培養するための足場である。多孔質細胞足場は、例えば、ヒトを含む動物の組織や臓器の少なくとも一部を置換する材や同少なくとも一部を補綴する材の構成要素(移植材料)とすることができる。多孔質細胞足場は、生体外で細胞を培養して培養細胞を保持した足場として生体内に移植されるものであってもよいし、それ自体を生体内に移植し生体内において細胞を増殖させるための足場であってもよい。
【0014】
以下、本足場、その製造方法等について詳細に説明する。
【0015】
(多孔質細胞足場)
(マトリックス)
本足場は、多孔質構造を規定し、ポリマーを含むマトリックスを備えることができる。以下、適宜図1を参照して説明する。なお、図1は、本足場を例示するものではあるが、本足場は図1に開示されるものに限定されない。
【0016】
本足場100のマトリックス10を構成するポリマーは、特に限定するものではないが、生体適合性及び/又は生体吸収性を有するポリマーを用いることができる。かかるポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン等の合成ポリマー、コラーゲン、ゼラチン、セルロース、ポリアルギン酸、キチン、キトサン、デンプン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン及びラミニン等の天然ポリマーが挙げられる。これらのポリマーは、いずれも、生体適合性でありかつ生体吸収性である。ポリマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本足場100におけるマトリックス10は、後述する第1の細孔20、第3の細孔40及び第2の細孔60を規定する周辺構造体である。また、マトリックス10は、種々の細孔を包含し規定する、ウォール及び/又はフレームを少なくとも部分的に有する構造体を構成することができる。ウォール及びフレームの厚み及び形状等は、内包する細孔の大きさ、個数、形状等によって、種々の形態を採りうる。
【0018】
また、マトリックス10のウォール及び/又はフレームである構造体は、それ自体多孔質体であってもよい。マトリックス10は、第1のサイズ、第3のサイズ、及び後述する第2のサイズの20%以下、10%以下又は5%以下程度の孔径の微小な孔を多数備える多孔質体などとすることができる。
【0019】
(第1の細孔)
マトリックス10は、互いに連通する第1のサイズの第1の細孔20を規定することができる。マトリックス10においては、少なくとも二つの隣接する第1の細孔20が連結してキャビティ22を構成している。典型的には、例えば、図1に示すように、3個以上あるいはさらに多数個の第1の細孔20が連結したキャビティ22を構成することができる。
【0020】
(第1の細孔が有する第1のサイズ)
第1の細孔20が有する第1のサイズは、第1の細孔20の連結部分でない部分における最大の差し渡し寸法の平均値をいう。ここで、最大の差し渡し寸法とは、例えば、第1の細孔20が、略球状の場合には、キャビティの直径等となり、同略楕円球状の場合には、そのキャビティの最長径となり、同略立方体状又は略直方体状の形状の場合には、最大内寸等となる。なお、後述するように、これらの最大差し渡し径は、いずれも顕微鏡観察画像において確認及び計測できるものである。
【0021】
第1のサイズは、特に限定するものではないが、培養する細胞の大きさ等を考慮して決定することができる。例えば、第1のサイズは、例えば、200μm以上400μm以下とすることができる。かかるサイズを備えていることで、十分な空孔率を確保することができる。第1のサイズは、好ましくは、240μm以上390μm以下である。
【0022】
第1のサイズは、例えば、走査型電子顕微鏡において、1200μm×850μmの画像30枚につき、第1の孔20として確認できた細孔について、ImageJソフトウェアあるいはそれと精度及び正確性において同等である他の画像解析ソフトウェアを用いて、2点間オートスケール機能を用いて測定することができる。なお、二点間距離は、孔の長軸及び短軸を避けて中間径を測定する。
【0023】
第3の細孔)
マトリックス22は、そのキャビティ22において、第1の細孔20が連結して連通する連結部分(連絡孔)を第3の細孔40として備えることができる。連結孔として第3の細孔40を備えることで、高い細孔連結率、空孔率などを備えることができる。第3の細孔40は、第1の細孔20の連結によって概ね形成されているといえるキャビティ22のくびれ様部分となっている。したがって、それ自体独立した細孔ではないが、本足場100のマトリックス10の断面構造の観察時においては、隣接する第1の細孔20の径より小さく、隣接する第1の細孔の連絡として観察されうる。
【0024】
第3の細孔が有する第3のサイズ)
第3の細孔40が有する第3のサイズは、第1の細孔20の第1のサイズを本来的に越えるものではなく、第1のサイズより小さい第3のサイズを有することができる。また、後述する第2の細孔60の第2のサイズよりも概して大きい。第3のサイズは、第1の細孔20の連絡孔としての第3の細孔40の最大の差し渡し寸法の平均値をいう。ここで、最大の差し渡し寸法とは、例えば、第3の細孔40の形態が、略円形状の場合には、その開口の直径等となり、同略楕円状の場合には、その開口の最長径となり、同略四角形状の場合には、最大内寸等となる。なお、後述するように、これらの最大差し渡し径は、いずれも顕微鏡観察画像において確認及び計測できるものである。
【0025】
第3のサイズは、特に限定するものではないが、例えば、90μm以上とすることができる。かかるサイズを備えていることで、細胞の移動性や増殖性のほか、培地等の移動性を十分確保できるからである。より効率的な培養の観点からは、例えば、100μm以上であり、また例えば110μm以上であり、また例えば120μm以上である。また、上限は、特に限定するものではないが、例えば、180μm以下であり、また例えば、170μm以下であり、また例えば、160μm以下である。第3のサイズの範囲は、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、90μm以上180μm以下、100μm以上170μm以下などとすることができる。
【0026】
第3のサイズは、第1の細孔における第1のサイズと同様の方法で測定することができる。
【0027】
(第2の細孔)
マトリックス10は、また、第2の細孔60を規定することができる。第2の細孔60は、第1の細孔20の内表面24からマトリックス側10に膨出するように存在することができる。例えば、図1に示すように、マトリックス10は、第3の細孔40を、第1の細孔20、すなわち、キャビティ22の内表面24から連通してマトリックス10側に延在、突出又はマトリックス10を貫通するキャビティ62として備えることができる。なお、第2の細孔60は、後述するように、氷結体に基づく細孔である。
【0028】
キャビティ62は、第1の細孔20側から見て遠位側が狭くなった形態の錐体状のキャビティ62や、第1の細孔20の近位から遠位までほぼ等しい大きさの孔径を維持する柱状のキャビティ62などであってもよい。
【0029】
また、第2の細孔60は、第1の細孔20の近傍に存在していてもよい。例えば、第2の細孔60は、第1の細孔20とは独立して存在することができる。第2の細孔60は、第1の細孔20とは独立して存在するが、第1の細孔20の近傍に存在することができるし、第1の細孔20の近傍でなくても存在することができる。いずれの形態であってもy、第2の細孔60は、一方端部が狭くなった形態の錐体状のキャビティ62や、ほぼ等しい大きさの孔径を維持する柱状のキャビティ62であってもよい。
【0030】
第2の細孔が有する第2のサイズ)
第2の細孔60が有する第2のサイズは、例えば、第2の細孔60が有するキャビティにおいて、最大の差し渡し寸法の平均値をいう。ここで、最大の差し渡し寸法とは、例えば、第2の細孔60が、先細りする針状の場合には、そのキャビティの短手方向における最大寸法となり、第2の細孔が柱状の場合には、そのキャビティの短手方向における最大寸法となる。なお、第1の細孔20の第1のサイズと同様、これらの最大差し渡し寸法は、いずれも顕微鏡観察画像において確認及び計測できるものである。
【0031】
第2のサイズは、第1の細孔20の第1のサイズよりも小さく、また、概して第3の細孔40の第3のサイズよりもまた小さく設計することができる。第2のサイズは、特に限定するものではなく、第1のサイズ等にもよるが、例えば、30μm以上であり、また例えば、40μm以上であり、また例えば、50μm以上である。また、第2のサイズは、第1のサイズにもよるが、例えば、100μm未満であり、また例えば、90μm以下であり、また例えば、80μm以下であり、また例えば、70μm以下であり、また例えば、60μm以下である。第2のサイズの範囲は、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、30μm以上90μm以下であり、また例えば、40μm以上80μm以下などとすることができる。
【0032】
第2のサイズについても、第1のサイズと同様にして測定することができる。
【0033】
(細孔連結率)
本足場100のマトリックス10は、高い細孔連結率を備えることができる。ここで、本明細書において細孔連結率とは、マトリックス10の吸水率と空孔率とに基づいて得られるものであって、マトリックス10が有する細孔の連結程度の指標である。細孔連結率は、例えば、以下の方法により取得することができる。
【0034】
(空孔率)
まず、空孔率を測定する。空孔率は、マトリックス10の乾燥重量及びみかけ体積から、嵩密度(ρa)を算出するとともに、マトリックス10の真密度(ρt)を取得し、嵩密度ρ=ρa/ρtを得て、1−p(ρa/ρt)を、空孔率とする。
【0035】
(吸水率)
また、本明細書において、吸水率とは、マトリックス10の単位重量(g)当たりの吸水量の百分率で表示したものである。具体的には、以下の式で求められる。水の吸収質量は、マトリックス10を70%エタノールに15分間室温で浸漬し、次いで、37℃、3時間、水に浸漬して70%エタノールを完全に水に置き換えて水で充填した後の質量を測定する。

吸水率(%)=(吸水後のマトリックス質量(g)−乾燥時マトリックス質量(g)/乾燥時のマトリックス質量(g)×100
【0036】
(連結率)
空孔率に基づいて水を吸収できるマトリックス10の単位質量(g)あたりの吸水率(理論吸水率)を算出する。さらに、この理論吸水率と実際の吸水率の比率を計算する。水の吸収質量は、マトリックス10を70%エタノールに15分間室温で浸漬し、次いで、37℃、3時間、水に浸漬して70%エタノールを完全に水に置き換えて水で充填した後の質量を測定する。
【0037】
本足場100のマトリックス10は、例えば、連結率が50%以上とすることができる。細孔連結率が50%以上であると、従来にない高い連結率であるために、細胞の移動や細胞増殖を阻害しない足場を提供することができる。細孔連結率は、細胞増殖や移動の容易性の良好な指標であり、高い細孔連結率は、細胞培養足場としての優れた特性を表している。
【0038】
マトリックス10は、また例えば、細孔連結率が55%以上であってもよいし、また例えば同60%以上であってもよいし、65%以上であってもよいし、同70%以上であってもよいし、同75%以上であってもよいし、同76%以上であってもよいし、同77%以上であってもよいし、同78%以上であってもよいし、同79%以上であってもよいし、同80%以上であってもよいし、同85%以上であってもよい。好ましくは、同65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上である。
【0039】
マトリックス10は、空孔率が、例えば、90%以上であり、また例えば、95%以上であり、また例えば、96%以上である。マトリックス10の吸水率は、特に限定するものではないが、例えば、1500%以上であり、また例えば、1600%以上であり、また例えば1700%以上であり、また例えば、1800%以上であり、また例えば、1900%以上であり、また例えば、2000%以上であり、また例えば、2100%以上であり、また例えば、2200%以上であり、また例えば、2300%以上であり、また例えば、2400%以上であり、また例えば、2500%以上である。空孔率と空気極水率とが増大すると細孔連結率が相乗的に増大する。
【0040】
(多孔質基材)
本明細書に開示される多孔質基材のマトリックスは、新たな細孔構造を有するため、細胞培養足場としてのみならず、種々の用途の多孔質基材として用いることができる。
【0041】
本足場100は、こうした細孔構造を有するために、細胞の移動に有利であり、細胞の移動を制限しないで促進できる細胞培養用足場を提供できる。これにより、細胞の効率的な培養が可能であるほか、高い移動性を持って増殖する細胞の培養に有利である。また、本足場100は、こうした細孔構造を有するために、細胞播種時においても、表面のみならずその内部にまで速やかに細胞が移動できる細胞培養用足場を提供できる。
【0042】
(多孔質基材の製造方法)
本明細書に開示される多孔質基材の製造方法(以下、単に、本製造方法という。)は、本足場のマトリックスなどに適用できる多孔質基材の製造方法として好適に用いることができる。
【0043】
本製造方法は、水溶性固体である複数の水溶性粒子の少なくとも一部を水分を介して相互に連結して前記水溶性粒子の連結構造体を取得する工程と、第1の液体にポリマーを溶解したマトリックス原液中に前記連結構造体を備える基材原液を準備する工程と、前記基材原液に対して、前記第1の液体及び水が凍結可能な温度条件を付与して、前記基材原液を凍結させた凍結体を得る工程と、減圧条件下で前記凍結体から前記第1の液体及び前記第2の液体を昇華させて乾燥体を得る工程と、前記乾燥体中の前記複数の水溶性粒子を除去する工程と、を備えることができる。
【0044】
本製造方法によれば、水溶性粒子を水分を介して連結した連結構造体をある種の消失鋳型(第1の鋳型)として用いることで、水溶性固体電解質が連結した状態のキャビティをマトリックスに形成することができる。また、基材原液を凍結させることで、連結構造体が保持する水分が第1の液体中で氷結し、その後の乾燥により消失させることが可能な第2の消失鋳型をその場生成させることができる。本製造方法によれば、第2の消失鋳型のその場生成により、従来よりも多孔質で細孔連結率に優れた多孔質基材を容易に得ることができる。以下、本製造方法の一例を、図2A及び図2Bを適宜参照して説明する。
【0045】
(連結構造体の取得工程)
本工程では、水溶性固体である複数の水溶性粒子110の少なくとも一部を水分Wを介して相互に連結して水溶性粒子110の連結構造体120を取得することができる。本工程において取得する連結構造体120は、既述のマトリックス10における第1の細孔20が連結して構造を有するキャビティ22のための消失鋳型となる。連結構造体120は、三次元のネットワーク状、凝集体状の形態を採ることができる。
【0046】
本工程では、水溶性固体からなる水溶性粒子110を用いる。水溶性固体は、水に溶解可能な物質である。水溶性固体としては、特に限定するものではないが、例えば、塩及びその誘導体、糖及びその誘導体等が挙げられる。
【0047】
塩及びその誘導体における塩の構成イオンは、無機または有機、および単原子イオンまたは多原子イオンであり得る。例えば、塩を構成する陽イオンには、アンモニウムNH4+、カルシウムCa2+、鉄Fe2+およびFe3+、マグネシウムMg2+、カリウムK+、ピリジニウムC55NH+、第四アンモニウムNR4+、ならびにナトリウムNa+が含まれるが、これらに限定されない。また例えば、塩を構成する陰イオンは、酢酸塩CH3COO-、炭酸塩CO32-、塩化物Cl-、クエン酸塩HOC(COO-)(CH2COO-2、シアニドC≡N-、水酸化物OH-、硝酸塩NO3-、亜硝酸塩NO2-、酸化物O2-、リン酸塩PO43-、および硫酸塩SO42-が含まれるが、これらに限定されない。塩の非限定例には、塩化コバルト6水化物、硫酸銅5水和物、ヘキサシアノ鉄酸、酢酸鉛、硫酸マグネシウム、二酸化マンガン、硫化水銀、グルタミン酸ナトリウム、塩化ニッケル6水化物、重酒石酸カリウム、塩化カリウム、二クロム酸カリウム、フッ化カリウム、過マンガン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、クロム酸ナトリウム、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、および/またはこれらの混合物が含まれる。好ましくは、水分によって潮解生じる塩であり、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び塩化ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、塩化ナトリウムである。
【0048】
また、糖及びその誘導体としては、特に限定するものではないが、例えば、1〜10の単糖単位を含む化合物(例えば、単糖類、二糖類、三糖類、および4〜10の単糖単位を含むオリゴ糖)をいう。親単糖に(潜在的に)カルボニル基を有する場合、単糖類は、3個以上の炭素原子を有するポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンであり、これらには、アルドース、ジアルドース、アルドケトース(aldoketose)、ケトース、およびジケトース、ならびに環状形態、デオキシ糖、およびアミノ糖とこれらの誘導体が含まれる。オリゴ糖は、グリコシド結合が少なくとも2つの単糖単位に加わる化合物である。単位の数によって、これらは、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類、六糖類(hexoaccharide)、七糖類(heptoaccharide)、八糖類(octoaccharide)、九糖類(nonoaccharide)、十糖類(decoaccharide)等と呼ばれる。オリゴ糖は、分岐していないか、分岐しているか、または環状であり得る。糖の非限定例には、例えば、グリセルアルデヒドおよびジヒドロキシアセトンのようなトリオース;エリトロース、トレオース、およびエリトルロースのようなテトロース;アラビノース、リキソース、リボース、キシロース、リブロース、キシルロースのようなペントース;アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、タガトース、フコース、ラムノースのようなヘキソース;セドヘプツロースおよびマンノヘプツロースのようなヘプトース;オクツロース(octulose)および2‐ケト‐3‐デオキシ‐マンノ‐オクトナート(2-keto-3-deoxy-manno-octonate)のようなオクトース(octoose);シアロース(sialose)のようなノノース;デコース(decose)等の単糖類;ならびに、例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、ゲンチオビオース、コウジビオース、ラミナリビオース、マンノビオース、メリビオース、ニゲロース、ルチノース、およびキシロビオースのような二糖類;ラフィノース、アカルボース、マルトトリオース、およびメレジトースのような三糖類、および/またはこれらの混合物等のオリゴ糖が含まれる。また、糖には、アセスルファムカリウム、アリターム、アスパルテーム、アセスルファム、シクラマート、ズルチン、グルシン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ネオテーム、サッカリン、およびスクラロースのような糖代替物も含まれる。
【0049】
本工程で用いる水溶性粒子110は、こうした水溶性固体からなる。水溶性粒子110は、従来のポロ−ゲンリーチング法で用いられたのと同様、ポリマーマトリックス中で最終的に除去される消失鋳型である。水溶性粒子110は、製造しようとする多孔質基材(マトリックス)における第1の細孔20が有する第1のサイズを規定することになる。したがって、意図した第1のサイズに対応する平均粒子径の水溶性粒子110を用いることができる。かかる水溶性粒子110は、意図に応じて、好ましい平均粒子径のみならず粒度分布を備えるように準備することができる。
【0050】
水溶性粒子110の形態は、特に限定するものではないが、例えば、球状、楕円体状、多面体状、三角錐状、四角錐状、円錐状等の各種錐体状、立方体、直方体、円柱等の各種柱体状、紡錘体状等などでありうる。
【0051】
水溶性粒子110としては、特に限定するものではないが、例えば、平均粒子径が200μm以上500μm以下、また例えば、平均粒子径が220μm以上400μm以下、また例えば、平均粒子径が240μm以上390μm以下などの水溶性粒子を用いることができる。なお、水溶性粒子の平均粒子径は、メッシュサイズによる篩わけや光学的手法により測定することができる。
【0052】
本工程では、例えば、図2Aの(b)に示すように、こうした複数の水溶性粒子の少なくとも一部を水分Wを介して相互に連結して前記水溶性粒子の連結構造体120を取得する。連結構造体120は、例えば、図2Aの(a)に示すように、複数の水溶性粒子110を適当な型内に供給後、水溶性粒子110の表面に、塗布、噴霧等の方法で水分を供給して、水溶性粒子110の表面を一部溶解したり、あるいは、例えば、相対湿度50%以上、また例えば、同60%以上、また例えば、同70%以上、また例えば、同80%以上、また例えば、同90%以上、同95%以上の雰囲気下で、例えば、30分以上、また例えば、1時間以上、また例えば1.5時間以上など、水溶性粒子110の表面において吸湿や潮解等を生じさせることにより、得ることができる。なお、こうした操作を行う温度条件は、特に限定しないが、例えば、15℃以上40℃以下、また例えば、20℃以上40℃以下などで実施することができる。
【0053】
本工程においては、複数の水溶性粒子110に供給される水分Wの量、水溶性粒子110の接触状態、水分Wの供給時間等により、その水溶性粒子110の連結状態を制御することができる。水分量が多い場合には、水溶性粒子110の溶解や潮解により、水溶性粒子110の連結部分が大きくなり、結果として、連結構造体120における水溶性粒子110の連結部分(マトリックスにおける連絡孔に対応する。)が大きくなる傾向がある。また、水溶性粒子110が高度に充填された状態で連結構造体120を作製すると、水溶性粒子110の連結が促進されて、連絡部分(同連絡孔)を十分に備える連結構造体120を得ることができる。
【0054】
本工程においては、複数の水溶性粒子110をランダムに配置して連結構造体120を作製することもできるが、複数の水溶性粒子110をある種のパターンに配置することで、デザインされた連結構造体120ひいてはキャビティ22を作製することができるようになる。例えば、水溶性粒子110は、平面的に格子状に配置することもできるし、さらに、高さ方向にも、水溶性粒子110を積層して意図した三次元構造体に配置することもできる。
【0055】
本工程における温度等の条件は、水溶性粒子110が固体を維持できる温度であればよく、特に限定されない。例えば、25℃以上40℃以下等の温度で実施できる。また、本工程は、十分な連結状態が得られ、意図した連結構造体が得られる範囲の時間実施すればよい。特に限定するものではないが、例えば、10分以上であり、また例えば、20分以上であり、また例えば、30分以上であり、また例えば、60分以上であり、また例えば、1.5時間以上などである。
【0056】
本工程は、複数の水溶性粒子110は、得ようとするマトリックス10意図する三次元形状を備えることができるように、予め当該三次元形状を有するキャビティを有する型に配置して実施することもできる。なお、型としては、冷却された型及び/又は熱伝導性の高い金属などの材料であることが好ましい。
【0057】
(基材原液の準備工程)
本工程は、第1の液体にポリマーを溶解したマトリックス原液130中に連結構造体120を備える基材原液140を準備することができる。この工程で得られる基材原液140は、既述の多孔質基材であるマトリックス10を得るための原材料となる。本工程の一例を図2Aの(c)に示す。
【0058】
ポリマーとしては、既に記載した各種のポリマーであって、好適には生体適合性又は生体吸収性ポリマーを用いることができる。第1の液体は、こうしたポリマーを溶解できる液体を用いることができる。第1の液体は、後段の凍結工程及び乾燥工程を考慮すると、例えば、凝固点が−20℃以下の液体であって、少なくとも第1の液体を凍結するまでの間、水溶性粒子110の連結構造体120をその状態で維持して保持できる程度に、水溶性粒子110を溶解しない液体であることが好ましい。
【0059】
水溶性粒子110を塩又はその誘導体や糖又はその誘導体とする場合、第1の液体としては、例えば、1,4−ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、t−ブタノール、キシレン等が挙げられる。
【0060】
基材原液140を得るのに際して、連結構造体120がマトリックス原液130に溶解・混和したり、マトリックス原液130において連結状態が解除したりしないように、連結構造体120及び/又はマトリックス原液130を、低温に維持してあるいは低温条件で、連結構造体120とマトリックス原液130とを接触させるか、あるいは、接触後直ちに凍結工程を実施することが好ましい。連結構造体120とマトリックス原液130とを、例えば、−20℃以下の条件で接触させて、基材原液140を調製することが好ましい。
【0061】
(凍結体を得る工程)
本工程は、例えば、図2Bの(d)に示すように、基材原液140に対して、第1の液体及び水が凍結可能な温度条件を付与して、基材原液140を凍結させた凍結体150を得ることができる。この工程によれば、連結構造体120が保持する水分W、例えば、水溶性粒子110の表面に存在する水分Wをマトリックス原液130中で氷結させて、乾燥工程によって昇華させることができる第2の消失鋳型である氷結体160を凍結体150中にその場生成させることができる。氷結体160は、連結構造体120に連結した状態で形成される場合もあり、連結構造体120の近傍又は近傍でないところで形成される場合もある。なお、マトリックス原液130中において連結構造体120に付随していた水分Wが氷結体160となることで、固体である水溶性粒子110と氷結体160とに分離することができる。なお、水溶性粒子110は固体の状態を維持している。
【0062】
また、本工程によれば、基材原液140中のポリマー以外の第1の液体も凍結する。凍結により、マトリックス原液130中において固体であるポリマーは析出するため、ポリマーと第1の液体とを分離することができる。
【0063】
本工程における凍結のための条件は、基材原液140が凍結するものであれば特に限定するものではないが、例えば、0℃以下であり、また例えば、−5℃以下であり、また例えば、−10℃以下であり、また例えば、−20℃以下であり、また例えば、−30℃以下である。また、凍結のための時間も、特に限定するものではないが、例えば、1時間以上であり、また例えば、2時間以上であり、また例えば、3時間以上であり、また例えば、4時間以上であり、また例えば、5時間以上であり、また例えば6時間以上であり、また例えば、7時間以上であり、また例えば、8時間以上である。
【0064】
(乾燥体を得る工程)
本工程は、例えば、図2Bの(e)に示すように、減圧条件下で凍結体150において凍結した第1の液体及び氷結体160を昇華させて乾燥体を得ることができる。本工程によれば、凍結体150から氷結体160と第1の液体の凍結体を昇華させて、これらの部分に対応するキャビティを有する乾燥した多孔質体170を得ることができる。この多孔質体170は、依然として水溶性固体である水溶性粒子110を包含している。
【0065】
本工程は、いわゆる凍結乾燥工程であり、公知の減圧乾燥方法に準じて実施することができる。乾燥条件は、特に限定するものではないが、例えば、2時間以上、また例えば、3時間以上、また例えば、4時間以上、また例えば、5時間以上、また例えば、6時間以上、また例えば、8時間以上、また例えば、10時間以上、また例えば、12時間以上とすることができる。
【0066】
(水溶性粒子の除去工程)
本工程は、例えば、図2Bの(f)に示すように、乾燥体170中の複数の水溶性粒子110を除去することができる。本工程によれば、連結構造体120を構成する水溶性粒子110を除去することで、連結構造体120に対応するキャビティ22を有する多孔質基材180を得ることができる。
【0067】
水溶性粒子110を除去するには、当該水溶性粒子110を溶解する水性媒体を用いて水溶性粒子110を溶解抽出する方法を用いることができる。典型的には、水であり、あるいはアルカリや酸などを含んで水溶性粒子の溶解性が調整された水であり、さらには、こうした水と、水と混和するアルコールやアセトニトリル、DMSO、DMFなどの有機溶媒との混液が挙げられる。
【0068】
本工程は、例えば、乾燥体170をこうした水性媒体で1回以上洗浄することによって実施できる。
【0069】
必要に応じて、こうした除去工程後に、得られた多孔質基材180を乾燥する工程を実施できる。また、必要に応じて、除去工程後又は乾燥工程後に、マトリックス10を構成するポリマーを架橋するなどの工程を実施することもできる。架橋工程は、放射線による方法、紫外線照射による方法、加熱架橋、架橋剤を用いる方法など公知の方法を採用できる。
【0070】
さらに、必要に応じて、得られた多孔質基材180に対して、細胞培養のための各種の薬剤、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管細胞成長因子(VEGF)、神経成長因子(NGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、血小板成長由来因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、骨形成誘導タンパク質(BMP)、血管細胞成長因子又は神経細胞成長因子のいずれか1種以上を含浸させることもできる。
【0071】
本製造方法によって得られる多孔質基材180は、連結構造体120である第1の消失鋳型、連結構造体120に付随する水分Wの氷結体160である第2の消失鋳型に基づく細孔を有する多孔質基材180を容易に得ることができる。かかる多孔質基材180は、第2の消失鋳型に基づく細孔、すなわち、第3の細孔40を有していることから、十分な多孔質性と細孔連通性とを備える多孔質基材180となっている。さらに、本製造方法によって得られる多孔質基材180は、第1の液体の凍結体が昇華して得られる多孔質ポリマーマトリックスを備えるものとなっている。
【実施例】
【0072】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を原知恵するものではない。
【実施例1】
【0073】
(多孔質基材の作製)
(1)ポリマー濃度が5%(w/w)になるようにPLLA(ポリL−乳酸)と1,4−ジオキサンをバイアル瓶に入れた後、スターラーで6時間撹拌しPLLAを溶解させた。PLLAが溶解した後、超音波処理を30分間行い、マトリックス原液を調製した。
【0074】
(2)多孔質基材を得るための型として、ポリプロピレンの24ウェルプレート(500μl/ウェル)を用いて、NaCl1gを各ウェルに投入した。その後、このウェルプレートを相対湿度95%以上、温度37℃のインキュベーターに入れ1.5時間加湿した。これにより、ウェル内にNaCl結晶の連結構造体を作製した。
【0075】
(3)インキュベータからウェルプレートを取り出した後、各ウェルに、500μlのマトリックス原液を供給し、ウェル内に基材原液を調製した。
【0076】
(4)このウェルプレートを、冷凍庫(-20℃)に入れ、5時間程度冷却して、ウェル内の基材原液を凍結した。その後、このウェルプレートを凍結乾燥装置に投入して12時間乾燥させた。乾燥後、ウェルプレートのウェルから乾燥体を取り出し、超純水で3回洗浄して多孔質基材を得た。
【0077】
対照として、上記(1)で得たマトリックス原液をそのまま上記(4)と同一条件で凍結乾燥して対照例1の多孔質基材を得た。また、上記(1)で得たマトリックス原液をそのまま50℃で24時間乾燥して、対照例2の多孔質基材を得た。
【0078】
(SEM画像による観察)
実施例の多孔質基材及び対照例1の多孔質基材のSEM観察画像を図3に示す。図3に示すように、実施例の多孔質基材は、細孔、細孔の連通孔及び細孔近傍における小径の細孔を多数確認できた。これに対して、対照例1の多孔質基材では、細胞が通過できる程度の細孔を確認できなかった。
【0079】
(SEM観察像からの解析)
図4に、図3のSEM観察画像を用いたImageJによる構造解析結果を示す。図4に示すように、NaCl結晶に基づく細孔と、NaCl結晶の連結に基づく連絡孔と、氷結体に基づく細孔と、ジオキサン基づく細孔とを観察することができた。
【0080】
(空孔率、吸水率及び連結率の評価)
図5A及び図5Bに、実施例の多孔質基材、対照例1及び2の多孔質基材の空孔率、吸水率及び連結率についての評価結果を示す。なお、これらの評価は、以下の方法によって行った。
【0081】
(1)空孔率
空孔率は、マトリックス10の乾燥重量及びみかけ体積から、嵩密度(ρa)を算出するとともに、マトリックス10の真密度(ρt)を取得し、嵩密度ρ=ρa/ρtを得て、1−p(ρa/ρt)を、空孔率とした。
(2)吸水率
各多孔質基材の重量を測定後、十分に水を吸収させた後、重量を測定した。結果を、以下の式に当てはめて吸水率を取得した。吸水後重量は、予め、多孔質基材を70%エタノール15分間浸漬後、超純水で十分に置換して、37℃、3時間静置した後の重量を吸水後重量とした。

吸水率(%)=(吸水後の多孔質材料重量−乾燥時の多孔質材料重量)/乾燥時の多孔湿重量×100
(3)連結率
空孔率に基づいて水を吸収できるマトリックス10の単位質量(g)あたりの吸水率(理論吸水率)を算出した。さらに、この理論吸水率と実際の吸水率の比率を計算した。水の吸収質量は、マトリックス10を70%エタノールに15分間室温で浸漬し、次いで、37℃、3時間、水に浸漬して70%エタノールを完全に水に置き換えて水で充填した後の質量を測定した。
【0082】
図5A及び図5Bに示すように、実施例の多孔質基材は、格段の空孔率、吸水率及び連結率を備えていることがわかった。
【0083】
(細胞播種及び浸潤の評価)
実施例の多孔質基材及び対照例の多孔質基材(それぞれ直径14mm×厚さ6mm)に吸水させた後、MC3T3−E1細胞懸濁液(2×105cells/ml)を1ml播種した。翌日、多孔質基材を切断して、Calcein-AMにて、基材内の生細胞の評価を行った。結果を図6に示す。図6に示すように、実施例の多孔質基材によれば、12時間以内であっても、細胞が基材内部まで浸潤していることがわかった。



図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6