(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854774
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】水素製造のためのバイオリアクターおよび発酵プロセス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/107 20060101AFI20210329BHJP
C01B 3/06 20060101ALI20210329BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20210329BHJP
C12P 3/00 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
C12M1/107
C01B3/06
C12M1/00 C
C12P3/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-551365(P2017-551365)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公表番号】特表2018-504139(P2018-504139A)
(43)【公表日】2018年2月15日
(86)【国際出願番号】FI2015050880
(87)【国際公開番号】WO2016097478
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年7月14日
【審判番号】不服2020-2053(P2020-2053/J1)
【審判請求日】2020年2月14日
(31)【優先権主張番号】20146125
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520052581
【氏名又は名称】クー・パワー・オサケユフティオ
【氏名又は名称原語表記】Q Power Oy
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アンニ・アリタロ
(72)【発明者】
【氏名】エルッキ・アウラ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ニスカネン
【合議体】
【審判長】
田村 聖子
【審判官】
中島 庸子
【審判官】
山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/167806号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12P 1/00-41/00
C12M 1/00- 3/10
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO供給システム、H2O供給システム、流出水再循環システム、ならびにH2回収システムを含む不飽和バイオリアクターであって、
該バイオリアクターが、多孔質固体支持体を充填され、ここで、多孔質固体支持体の少なくとも10%が、約0.01〜約1.0バールの水吸引をもたらし;
バイオリアクターに、
(i)少なくとも20%の粒子が0.1mm〜10mmの直径を有する、粒子;または
(ii)少なくとも10%の材料が0.1mm〜10mmの細孔サイズを有する、スポンジ状材料;または
(iii)少なくとも10%の材料が、0.1mm〜10mmの直径を有する繊維間空間を含む、繊維状材料;または
(iv)(i)〜(iii)の任意の混合物;
を含む固体支持体を装填することにより、前記水吸引レベルが得られ;
および固体支持体に、水性ガスシフト反応を触媒する微生物が接種され;および
バイオリアクターが、固相、液相および気相を含み、気相の体積が、バイオリアクターの体積の20%〜80%である、バイオリアクター。
【請求項2】
固体支持体が、少なくとも0.1mmol/gである陽イオン交換容量を有する、請求項1に記載のバイオリアクター。
【請求項3】
固体支持体が、少なくとも5m2/gの比表面積を有する、請求項1または2に記載のバイオリアクター。
【請求項4】
固体支持体粒子が、バーミキュライトを含む材料混合物、改質バーミキュライトを含む材料混合物、バーミキュライト様材料を含む材料混合物、合成バーミキュライトを含む材料混合物、合成陽イオン交換樹脂、さまざまな種類の泥炭、およびその混合物から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1つに記載のバイオリアクター。
【請求項5】
スポンジ状材料が、合成スポンジ状材料および天然スポンジから選ばれる、請求項1〜3のいずれか1つに記載のバイオリアクター。
【請求項6】
繊維状材料が、被覆されるか、または被覆されないスチールウールである、請求項1〜3のいずれか1つに記載のバイオリアクター。
【請求項7】
不飽和固体発酵により水素を生成する方法であって、
a)請求項1〜6のいずれか1つに記載のバイオリアクターを提供するステップ;
b)COおよびH2Oを反応器に供給するステップ;
c)COおよびH2Oを水素および二酸化炭素に嫌気的に生物転換するステップ;および
d)バイオリアクターから水素および二酸化炭素を回収するステップ;
を含む方法。
【請求項8】
不飽和固体発酵プロセスにおいて一酸化炭素および水から水素を発生させるための、多孔質固体支持体の使用であって、
固体支持体の少なくとも10%が、約0.01〜約1.0バールの水吸引をもたらし;
前記水吸引レベルが、バイオリアクターに、
(i)少なくとも20%の粒子が0.1mm〜10mmの直径を有する、粒子;または
(ii)少なくとも10%の材料が0.1mm〜10mmの細孔サイズを有する、スポンジ状材料;または
(iii)少なくとも10%の材料が、0.1mm〜10mmの直径を有する繊維間空間を含む、繊維状材料;または
(iv)(i)〜(iii)の任意の混合物;
を含む固体支持体を装填することにより得られ;
固体支持体が気相を提供し、該気相の体積がバイオリアクターの体積の20%〜80%であり、気相がバイオリアクター全体に均一に分布している、固体支持体の使用。
【請求項9】
固体支持体が、少なくとも0.1mmol/gである陽イオン交換容量を有する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
固体支持体が、少なくとも5m2/gの比表面積を有する、請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
固体支持体粒子が、バーミキュライトを含む材料混合物、改質バーミキュライトを含む材料混合物、バーミキュライト様材料を含む材料混合物、合成バーミキュライトを含む材料混合物、合成陽イオン交換樹脂、さまざまな種類の泥炭、およびその混合物から選ばれる、請求項8〜10のいずれか1つに記載の使用。
【請求項12】
スポンジ状材料が、合成スポンジ状材料および天然スポンジから選ばれる、請求項8〜10のいずれか1つに記載の使用。
【請求項13】
繊維状材料が、被覆されるか、または被覆されないスチールウールである、請求項8〜10のいずれか1つに記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を製造するための固体発酵プロセス、および該プロセスで使用するためのバイオリアクターおよび固体支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
水素(H
2)は、宇宙で最も単純であり、最も豊富な元素である。しかしながら、それは常に他の元素と結合しており、地球上のガスとして天然には少量しか存在しない。
【0003】
水素は、水性ガスシフト反応:CO+H
2O→CO
2+H
2において、水(H
2O)との反応により一酸化炭素(CO)を二酸化炭素(CO
2)と水素(H
2)に変換することによって製造することができる。該反応は、数百℃の温度で金属触媒を無機的に使用するか、または微生物学的に数十℃の温度で無機的に使用する、2つの代替方法によって触媒され得る。
【0004】
要求される非常に高い操作温度と水素の爆発性のために、無機触媒での水素生成は困難な課題である。この欠点は、微生物学的に触媒された水素発酵バイオリアクターを用いることによって回避することができる。
【0005】
バイオリアクターの微生物活性に影響を与える一般的な環境要因として、含水量、温度、pH、溶存酸素および他のガスの分圧、栄養状態、および均質度が挙げられる。伝統的に、発酵プロセスは液体中または湿った固体粒子中のいずれかで行われる。機械的撹拌(agitation)または攪拌(stirring)は、バイオリアクター内のガスおよび他の物質の移動を強化する最も一般的な方法である。撹拌と組み合わせた液体発酵は、制御が容易なバイオリアクターを提供する。しかしながら、このようなバイオリアクターは高価であり、攪拌は大量のエネルギーを消費する。バイオリアクションが気体基質を使用し、および/または気体最終生成物を生成する場合、低コストで効率的な気体移動を確保することは非常に困難になる。
【0006】
固体発酵プロセスは、液体発酵プロセスを凌ぐいくつかの利点を提供する。たとえば、微生物増殖の前提条件である水は、主に、固体バイオリアクター内の湿った固体粒子に吸着されるか、または毛細管に結合して存在する。したがって、粒子間の空間における水相は不連続であり、粒子間の空間の大部分は気相によって満たされる。このことは、圧力を加えることによってガス状出発物質をバイオリアクターに供給することを比較的容易にする。さらに、ガス状の最終製品は、圧力差によってシステムから排出されうる。固体バイオリアクターでは攪拌を必要としないため、装置は、液体バイオリアクターよりもはるかに単純である。さらに、湿った固体粒子上に著しく高密度の微生物増殖が達成され、高い発酵効率がもたらされる。固相アプローチは、最終製品の単価が低く、低維持費で低コストのバイオリアクターを構築することが目的である場合に、大規模発酵プロセスおよびバイオリアクターに特に適している。
【0007】
トリクルベッドリアクターは、固体発酵に使用する固定床バイオリアクターの一種である。これらの反応器では、液体が重力によって触媒粒子の充填床上を流れると同時に、ガスが並流または向流のいずれかで同時に流れる。このように、トリクルベッドは液体による飽和レベルが非常に高く、湿った触媒粒子は液体を吸い取ることができない。十分な液体供給は、液体を消費する発酵反応において特に重要である。
【0008】
Wolfrum and Wattは、Proceedings of the 2001 U.S. DOE(米国エネルギー省) Hydrogen Program Review、Baltimore、MD、United States、April 17-19、2001、pp. 11-22に、水と共に天然の微生物によってCOを代謝してH
2およびCO
2を生成するための向流トリクルベッドリアクターの使用を開示する。水を滅菌培地に入れ、その新鮮なアリコートを定期的に反応器に加えて液相を補充した。試験した支持材料には、2つの異なる直径のガラスビーズ、セルローススポンジ材料、および粉砕した硬材が含まれた。反応器の性能は、支持材料によって異なった。
【0009】
固体発酵に関連するいくつかの欠点も存在する。たとえば、さまざまな物理的および化学的環境条件のために、微生物の増殖およびその効力は、固体粒子にわたって不均一に分布する可能性がある。固体バイオリアクターは、撹拌によって均質化され得ないので、微生物への栄養素の利用可能性は不均一であり、pH制御を提供することは困難であり得る。さらに、バイオリアクターの異なる部分間で、ガス状物質の通気または移動が制限されることがある。これは、たとえば、水を凝縮させることによる粒子間空間の封鎖、または生物反応で生成された水によるものである可能性がある。一方、生物反応が水を生成しない場合、重力またはガスの流れによって固体粒子が乾燥し、微生物の発酵能力が低下することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、特に生物反応がガス状の出発材料および/または反応生成物を含み、低い建築コストおよび維持コストが望ましい場合に、従来の固体バイオリアクターの欠点を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の簡単な記載
本発明の1つの態様は、CO供給システム、H
2O供給システム、流出水再循環システム、ならびにH
2およびCO
2回収システムを含むバイオリアクターであって、
バイオリアクターが、多孔質固体支持体を充填され、多孔質固体支持体の少なくとも10%が、遊離水と比較して約0.01〜約1.0バールの水吸引をもたらす細孔容積サイズを有し;
バイオリアクターに、
(i)少なくとも20%の粒子について、粒子が0.1mm〜10mmの直径を有する粒子;
(ii)少なくとも10%の細孔について、細孔が0.1mm〜10mmの細孔サイズを有するスポンジ状材料;
(iii)少なくとも10%の繊維間空間について、空間の直径が、0.1mm〜10mmである繊維状材料;または
(iv)(i)〜(iii)の任意の混合物;
のいずれかを含む固体支持体を装填することにより、細孔容積の少なくとも10%の前記水吸引レベルが得られ;
および固体支持体に、水性ガスシフト反応を触媒する微生物が接種され;および
バイオリアクターが、固相、液相および気相を含み、気相の体積が、バイオリアクターの体積の20%〜80%である、バイオリアクターに関する。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、a)本発明のいずれかの実施態様によるバイオリアクターを提供するステップ、b)COおよびH
2Oを反応器に供給するステップ、c)COおよびH
2Oを水素および二酸化炭素に嫌気的に生物転換するステップ、およびd)バイオリアクターから水素を回収するステップを含む、固体発酵により水素を生成する方法に関する。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、固体発酵プロセスにおいて一酸化炭素および水から水素を発生させるための、(i)少なくとも20%の粒子について、粒子が0.1mm〜10mmの直径を有する粒子;(ii)少なくとも10%の細孔について、細孔が0.1mm〜10mmの細孔サイズを有するスポンジ状材料;(iii)少なくとも10%の繊維間空間について、空間の直径が、0.1mm〜10mmである繊維構造材料;またはその混合物を含む固体支持体の使用に関する。
【0014】
本発明の特定の実施態様は、従属請求項に記載されている。本発明の他の態様、詳細、実施態様および利点は、以下の図面、詳細な説明および実施例から明らかになるであろう。
【0015】
以下では、添付の図面を参照して好ましい実施態様によって本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】例示的な水素バイオリアクターの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な記載
本発明は、一酸化炭素(CO)および水(H
2O)が、バイオリアクター内の多孔性の固体支持体上で増殖し、水性ガスシフト反応(WGS)を触媒することができる微生物によって水素(H
2)および二酸化炭素(CO
2)に変換される不飽和固体発酵(SSF)プロセスおよびバイオリアクターに関する。
【0018】
本SSFプロセスおよびバイオリアクターでの使用に適した微生物は、菌株保存機関などのさまざまな供給源から得てもよく、あるいは、たとえば、泥炭湿原やミズゴケ湿原などの湿地、または他の湿地から、または消化器官もしくは消化管から単離されてもよい。本プロセスにおける微生物の選択は、当業者によって容易に理解されるような所定の微生物の栄養素、温度、およびpH要件を含むがこれらに限定されないさまざまな要因に依存し得る。いくつかの実施態様では、生物反応を加熱するために必要とされるエネルギーがより少ないので、より低い温度で良好に機能する微生物が好ましい可能性がある。当業者は、微生物が本発明の異なる実施態様において使用するのに適しているか否かを決定することができる。
【0019】
本発明のバイオリアクターは、3つの主要な相、すなわち、 多孔質固体支持体を含む固相、発酵プロセスで使用される水を含む液相、およびCO、H
2、およびCO
2を含む気相を含む。気相の体積は、十分に大きな液体-固体界面を達成するために、バイオリアクターの体積の20%〜80%であるべきである。さらに、気相が大きいほど、反応時間が長くなり、したがって、バイオリアクターがより効率的になる。固相がバイオリアクター全体の分散気相中に均一に分布することが重要である。
【0020】
重要なことには、本発明のバイオリアクターは、液相に対して不飽和である。本明細書で使用される用語「不飽和」は、飽和していないこと、すなわち、さらに多くの液相、典型的には水を含むための吸引が生じることを示す。結果として、本発明のバイオリアクターは、トリクルベッドリアクターなどの飽和バイオリアクターとは根本的に異なる。本明細書で使用される用語「飽和」は、飽和していること、すなわち、より多くの水などの液体を結合するための吸引が生じないことを示す。
【0021】
毛細管導電性および十分な固体支持体間ガス量は、固体支持体を通る気体および液体の流れ特性を規定する。適切な毛細管の導電性は、気体および液体の移動が均一に分散され、発酵プロセスの持続時間中、所望のレベルに維持されることを確実にするために必要である。さらに、バイオリアクター内の湿度は、固体支持体上で微生物を生育させるのに十分なほど高くなければならない。一方、含水量が多すぎると、少なくともいくつかのタイプの微生物にとって有害であり、固体支持体間空間を充填してしまうことによってガス移動が遮断される。
【0022】
本明細書に記載される十分な発酵条件を得るためには、本発明における使用に適した固体支持体は多孔質でなければならない。水は、吸着および表面張力から生じる毛細管力によって固体支持体の細孔に結合する。結合強度は、バールなどの圧力単位で表すことができる。所定の細孔径は、特定の結合強度に対応する。細孔が円筒形の管であると仮定すると、水で満たされた最大の細孔の半径を、以下の式から計算することができる:
r=2γ/hρg
ここで、
rは、細孔の半径(m)であり;
γは、水の表面張力、すなわち0.073N/mであり;
hは、水柱の高さ(m)(水の毛細管ポテンシャルの絶対値)として表される水吸引量であり;
ρは、水の密度、すなわち、1000 kg/m
3であり;
gは、重力加速度、すなわち、9.81 m/s
2である。
【0023】
この方程式は、簡略化された形式で表されることが多い:
D=0.3/h
ここで、
Dは、細孔の直径(cm)であり;および
hは、水柱の高さ(m)(水の毛細管ポテンシャルの絶対値)として表される水吸引量である。
【0024】
本発明における使用に適した固体支持体は、細孔容積の少なくとも10%が、遊離水と比較して約0.01〜約1.0バールの水吸引をもたらす細孔直径を有するようにすべきである。この水吸引レベルは、本バイオリアクターが不飽和条件下で機能するための前提条件である。
【0025】
細孔容積の少なくとも10%についての約0.01〜約1.0バールの該必要とされる水吸引レベルは、以下に示す任意の実施態様による固体支持体を使用することによって達成される。
【0026】
いくつかの実施形態では、固体支持体は、0.1mm〜10mmの直径を有する粒子の形態を含むか、またはその形態であってもよい。この範囲内のいずれか1つの粒子サイズまたはそれらの任意の組合せを、本発明のプロセスおよびバイオリアクターに使用することができる。細孔の適切な平均直径の非限定的な例は、約10 nm〜約100 nmの範囲内にあり、適切な粒子材料として、それらが、本明細書に記載された必要な物理的および化学的特性を有するか、または提供する限り、これらに限定されるものではないが、バーミキュライト、改質バーミキュライト、バーミキュライト様材料、または合成バーミキュライトを含む材料混合物;合成陽イオン交換樹脂;さまざまな種類の泥炭;他の有機材料; およびその混合物が挙げられる。固体支持体は、その体積がバイオリアクターの体積の20%〜80%であり、バイオリアクター全体に均一に分布している気相を提供することが特に重要である。
【0027】
いくつかの他の実施態様では、固体支持体は、その細孔容積の少なくとも10%について、約0.1mm〜約10mmの範囲内の細孔径分布を有するスポンジ構造を含むか、またはその形態であってもよい。適切なスポンジ状材料の非限定的な例としては、発泡プラスチックポリマーなどの合成スポンジ状材料、ならびに天然スポンジが挙げられる。
【0028】
さらにいくつかの他の実施態様において、固体支持体は、繊維状構造として提供されてもよい。このような場合、繊維間空間は、繊維状固体支持体の細孔とみなされてよく、繊維間空間の少なくとも10%について、その直径分布は約0.1mm〜約10mmの範囲内にあるべきである。
【0029】
適切な繊維状材料の非限定的な例は、スチールウールを含む。スチールウールは、陽イオン交換特性を有していないので、十分な陽イオン交換特性を有する粒子との混合物として提供されうる。これに代えて、または加えて、スチールウールは、十分な陽イオン交換特性を達成するために、ポリアクリルアミドのような有機材料で被覆されるか、または有機材料を塗布されうる。
【0030】
多孔性固体支持体は、本明細書に記載の物理的要件を満たす限り、粒子、スポンジ状材料および繊維の任意の混合物であってもよい。
【0031】
固体支持体の多孔性は、バイオリアクター内の湿度条件に影響を及ぼすだけでなく、微生物のための大きな付着表面を提供し、それらをフラッシングから保護する。さらに、多孔性は固体支持体の比表面積を増加させる。いくつかの実施態様では、固体支持体の比表面積は少なくとも5m
2/gである。
【0032】
高い比表面積は、次いで、多孔性固体支持体の高いイオン交換容量をもたらす。本発明の発酵プロセスでの使用に適当であるために、固体支持体は、典型的には0.1mmol/gより高い、高陽イオン交換容量を有するべきである。大部分の栄養物質は陽イオン性であるので、固体支持体の陽イオン交換特性は、陰イオン交換特性より重要である。しかしながら、いくつかの実施態様では、固体支持体は陰イオン交換特性を有することもできる。いくつかのさらなる実施態様では、陽イオン交換容量および陰イオン交換容量は、互いにほぼ同じであってもよい。
【0033】
さらに、高い比表面積は、高い陽イオン交換容量とともに、バイオフィルムの形成をもたらす。このことは、次いで、高い微生物含量により、発酵プロセスの効率を増加させる。
【0034】
固体支持体の上記の特性は、発酵プロセスにおいて十分な緩衝特性を提供する。固体支持体が、その陽イオン交換能力のために、水素および/またはヒドロキシルイオンを液相と交換することができる場合、当然、追加のpH制御の必要はない。
【0035】
本発明での使用に適していない固体支持体として、それらの陽イオン交換容量に関して不活性である材料が挙げられる。このような材料のより具体的な例として、ガラスなどのシリカ系材料、木質材料、ほとんどのプラスチック(活性基と結合していない限り)、および長石や石英などのほとんどの石材が挙げられる。バーミキュライトは十分な陽イオン交換容量を有する形態で存在するが、本発明のバイオリアクターにおいて単独で使用するのに適した固体支持材料ではないことは注目に値する。これは、バーミキュライト単独でで十分な気相体積を達成することができないためである。いくつかの特定の場合において、バイオリアクターの体積の20%をわずかに上回る初期気相体積を達成することが可能であるとしても、湿潤および乾燥効果による自発的圧縮は、バイオリアクターの体積の20%未満の気相体積を減少させる。したがって、バーミキュライトを本発明バイオリアクターに使用する場合には、気相の容積が20%〜80%の範囲でなければならないという要件を満たすために、パーライトなどのな他の非平面材料と混合して提供する必要がある。
【0036】
本発明の方法は、たとえば、ガラス、ステンレススチール、またはプラスチックのタンクまたは容器であるバイオリアクター内で行なわれうる。バイオリアクターの材料は、プロセスで使用される微生物に対して非毒性でなければならない。バイオリアクターのサイズおよび形状は、固体支持体材料の選択などのさまざまなパラメーターに応じて、当業者に公知の範囲内で変化してもよい。このサイズが、工業規模の水素製造に適しているのが好ましい。バイオリアクターは、低コストで、操作が容易であり、かつ信頼性が高くなければならない。
【0037】
典型的なバイオリアクターを
図1に示す。バイオリアクター容器10の上端には、CO分配システム20および水分配システム30が設けられ、一方、容器10の下端には、H
2およびCO
2回収システム40および流出水回収システム50が設けられている。バイオリアクター容器の底部は、粉砕された石灰岩60の層で覆われているが、容器の残りには、本明細書に記載の多孔性の固体支持材料70が充填されている。バイオリアクター容器は、加熱水循環80に囲まれている。
【0038】
いくつかの実施態様では、流出水回収システム50は、水分配システム30に接続された排水再循環システムである。本明細書で使用する「流出水」という用語は、バイオリアクターからの水の流出を示す。
【0039】
生成されたH
2およびCO
2 は、当該分野で公知の標準的な方法によって互いに分離されうる。この分離工程は、本発明の発酵プロセスに含まれていてもいなくてもよい。
【0040】
バイオリアクターには、反応器内の温度、pH、湿度などの所望のパラメータを監視するためのさまざまなセンサーを設けることができる。このようなセンサーは、当技術分野で容易に入手可能である。バイオリアクターには、バイオリアクターの動作および水素生成の収率を監視するためのガス分析器を設けることもできる。
【0041】
本発明方法の温度制御は、たとえば、閉鎖された水循環システムをバイオリアクターに接続することによって行われる。そのようなシステムは、所定の微生物の必要性に応じてプロセスの加熱または冷却のいずれかを提供することができる。熱は、水循環システムとバイオリアクターとの間で伝導率によって伝達される。本発明の方法の温度を調節するための他の手段および方法は、当該技術分野において周知である。
【0042】
本発明の発酵プロセスにおいて出発物質として使用される一酸化炭素は、石炭、石油または発電所のガスなどの化石燃料からの合成ガスを含むが、これに限定されない任意の適切な供給源から捕捉されうる。
【0043】
微生物は、その成長のために窒素、ニッケルおよび/またはコバルトなどの追加の栄養素を必要とする。これらの物質は、発酵プロセスの間に供給することができ、または好ましくは、上記の陽イオン交換能力を有する固体支持体に付着させて提供することができ、この点で自立したプロセスをもたらす。窒素は、たとえば、尿素または炭酸アンモニウムの形態で与えられてもよい。いくつかの実施態様では、微生物に追加の栄養素を供給するために木材灰を使用することができる。これらの元素の特定の濃度は、使用される微生物に応じて異なる。
【0044】
本実施態様による機能的バイオリアクターおよび水素発酵プロセスは、数日などの短期間で設定されてもよい。発酵プロセスが稼動した後、バイオリアクターは、数ヶ月または数年間、水素および二酸化炭素を生成し続ける。いくつかの実施態様では、生物反応の効率が、1リットル当たり数ワットを超えることがあり、および/または生成されるガスの純度が、理論値であるの50%水素および50%二酸化炭素に近い可能性がある。バイオリアクターが、容積で、より効率的であるほど、そのサイズはより小さくなりうる。
【0045】
バイオリアクターから回収された水素は、燃料電池を含むが、これに限定されない任意の所望の目的に使用されうる。水素は、メタンなどのさまざまな炭化水素を製造するための出発物質としても使用されうる。
【0046】
技術の進歩とともに、本発明の概念が、さまざまな方法で実施されうることは、当業者には明らかであろう。本発明およびその実施態様は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で変更されうる。
【実施例1】
【0047】
図1に示す18.15リットルの垂直型バイオリアクターを、直径160mm、高さ1000mmのポリ塩化ビニルの下水管から構築した。COおよびバイオリアクターの流出水放出のための2つのナイロン入口管をパイプの上部に取り付けた。管の下部には2つの出口管が設けられており、1つはガス回収用であり、もう1つはバイオリアクター流出水のリサイクルなどの可能なメンテナンス手順用である。下水管の下部を、厚さ10cmの破砕石灰岩の層で覆い、バイオリアクターの残りの部分に、固体支持体、バーミキュライを充填した。充填する前に、2.5kgのバーミキュライトを、700gのパーライト、40.0gの木材灰、0.8gの水和硫酸コバルト(CoSo4・7H
2O)および0.8gの水和塩化ニッケル(NiCl2・6H
2O)と混合した。バイオリアクターには、初期のバイオリアクターから得られた微生物の8.4リットルの水性スラリーを植菌し、バイオリアクターの上部の入口を通してポンプ輸送することによってCO中で貯蔵した。
【0048】
バイオリアクターを加熱するために、水循環システムを使用した。加熱水の温度は、所望の温度、通常は53〜55℃に調整された。
【0049】
バイオリアクター流出水およびCOを、バイオリアクターの上部に取り付けられた2本のナイロン入口管を通してバイオリアクターに運搬した。COおよびバイオリアクターの流出水放出の比率およびモードは、バイオリアクターの乾燥などの変数に基づいて、発酵プロセスの開始時に調節された。
【0050】
リアクター出力からガスサンプルを採取した。TCD検出器を用い、Hewlett Packard 6890ガスクロマトグラフにより、CO、CO
2およびCH
4を分析した。電気化学センサーを用い、COMBIMASS GA-mガス分析器により、H
2S、H
2およびO
2を測定した。測定されたガス成分の濃度が高いので、ガス組成を測定する前にサンプルガスを希釈した。CO、CO
2およびCH
4測定のために、希釈は100倍であった。H
2S、H
2およびO
2測定のために、希釈は500〜1000倍であった。Draeger GasVisi X-am 7000ガス分析器を使用して、出力ガスのCO
2レベルの連続測定を行った。
【0051】
CO供給の速度が30リットル/日〜300リットル/日との間で変化した場合、バイオリアクターの平均効率は、0.2ワット/リットル〜2ワット/リットルの間で変化し、一方、H
2およびCO
2は、それぞれ、45 Vol%および45 Vol%である。