(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態を説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[ポリオレフィン延伸多孔性フィルム]
本実施形態のポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、ポリオレフィン系樹脂と所定の微細フィラーとを少なくとも含み、さらにフィルム内部に連通しているボイド(連通ボイド)を有する、延伸フィルムである。なお、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムを、以降「延伸多孔性フィルム」とも称することもある。
【0015】
ボイド及び連通ボイドは、延伸多孔性フィルム中に存在する空孔(空隙)であり、延伸多孔性フィルムに多孔性(多孔質構造)を与え、延伸多孔性フィルムに後述する所定の透湿度を与えるものである。ここでは、フィルム中で各々独立して区画されている微小空孔をボイドとし、隣接する2以上のボイドが例えば線状、矩形状、球状、網目状、不定形状に連通することで形成された、比較的に高容量の空孔を連通ボイドとする。ボイド及び連通ボイドは、少なくとも延伸多孔性フィルムの内部に存在していればよく、延伸多孔性フィルムの表面においてその一部が外部に露出していてもよい。このようなボイド及び連通ボイドの形成方法は、特に限定されないが、例えば内部紙化法や発泡法等の公知の方法により行うことができる。例えば、内部紙化法の場合、ポリオレフィンフィルムを延伸して製膜する際に、ポリオレフィン系樹脂中に含有される微細フィラーを核として、フィルム内にボイドを形成するのが一般的である。
【0016】
<ポリオレフィン系樹脂>
本実施形態の延伸多孔性フィルムに使用することができるポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等の結晶性エチレン系樹脂、結晶性プロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
これらの中でも、耐水性、耐溶剤性、耐薬品性及び生産コスト等の観点から、結晶性エチレン系樹脂、結晶性プロピレン系樹脂が好ましい。結晶性プロピレン系樹脂としては、プロピレンを単独重合させたアイソタクティック重合体又はシンジオタクティック重合体がより好ましい。また、主成分となるプロピレンと、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンとの共重合体を使用することもできる。共重合体は、モノマー成分が2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂の含有量は、特に限定されないが、延伸多孔性フィルムの総量に対して、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂の含有量は、特に限定されないが、延伸多孔性フィルムの総量に対して、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。ポリオレフィン系樹脂の含有量を上記の下限値以上、上限値以下とすることで、特に好ましい多孔質構造を有する延伸多孔性フィルムが得られ易い傾向にある。また、上記の範囲とすることで、特に難透水性が得られ易い傾向にある。
【0019】
<微細フィラー>
本実施形態の延伸多孔性フィルムに使用することができる微細フィラーは、特定の範囲の平均一次粒子径を有することを特徴とする。この平均一次粒子径とは、延伸多孔性フィルムに、後述する所定の空孔を与えるものである。そして、この微細フィラーは、その表面に、従来の延伸多孔性フィルムに用いられる無機フィラー、典型的には炭酸カルシウムと比べて高い疎水性を示す、疎水性表面を有することが望ましい。この疎水性とは、延伸多孔性フィルムに、後述する所定の透水度と透湿度とを与えるものである。
【0020】
疎水性表面を有する微細フィラーとしては、それ自体が疎水性である微細粉末をそのまま用いることもできる。また、微細粉末を疎水化処理したものを用いることができる。微細粉末としては、無機微細粉末、有機微細粉末のいずれも用いることができる。疎水化処理は、微細粉末の表面を表面処理剤(疎水化剤)で処理することにより行うことができる。疎水化処理された微細粉末は、その表面に疎水化剤を有し、この疎水化剤によって疎水性が付与されている。微細フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
無機微細粉末の具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレー、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、珪藻土、酸化珪素などの微細粉末、中空ガラスビーズ等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭酸カルシウム、焼成クレー、珪藻土は、安価で延伸時に多くの空孔を形成させることができ、空孔率の調整が容易なために好ましい。また、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムは、多くの種類の市販品があり、その平均粒子径や粒度分布が所望のものを得やすいためにより好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
有機微細粉末としては、延伸多孔性フィルムの構成母材となる上記のポリオレフィン系樹脂とは異なる種類の樹脂であって、その融点又はガラス転移点が、当該ポリオレフィン系樹脂の融点又はガラス転移点よりも高い樹脂からなる微細粉末を用いることができる。このような有機微細粉末を用いると、延伸多孔性フィルムの構成母材のポリオレフィン系樹脂に対する非相溶性を高めることができ、延伸成形する際の空孔形成性が向上する傾向にある。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
延伸多孔性フィルムの構成母材となるポリオレフィン系樹脂に使用可能な、有機微細粉末の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状オレフィン単独重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体、ポリエチレンサルファイド、ポリイミド、ポリメタクリレート、ポリエチルエーテルケトン、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、メラミン樹脂粒子等であって、構成母材となるポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い融点(例えば170〜300℃)又はガラス転移温度(例えば170〜280℃)を有し、かつ構成母材となるポリオレフィン系樹脂に非相溶のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
これらの微細粉末の表面を疎水化処理する疎水化剤としては、脂肪酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸、樹脂酸等の有機カルボン酸、及びそれらの塩、アミド、又は炭素数1〜6のアルコールとのエステル;ポリ(メタ)アクリル酸;シランカップリング剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、脂肪酸、及びそれらの塩が好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの疎水化剤は、上記の微細粉末の表面を修飾して、微細フィラーを疎水化することで、これを含む延伸多孔性フィルムの疎水性を向上させやすいものである。
【0025】
上記の脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸;エライジン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭素数8〜24の脂肪酸が好ましく、炭素数12〜20の脂肪酸がより好ましく、オレイン酸、ステアリン酸がさらに好ましい。また、これらの有機カルボン酸の塩として、K、Na、Ag、Al、Ba、Ca、Cu、Fe、Li、Mg、Mn、Pb、Sn、Sr、Znなどの金属塩が挙げられる。中でも金属石鹸が好ましく、Al、Znの金属石鹸がより好ましく、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛がさらに好ましく、ステアリン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0026】
上記のシランカップリング剤としては、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
延伸多孔性フィルム中におけるこれらの疎水化剤の存在は、例えば質量分析法による疎水化剤に由来するピーク(例えば、ステアリン酸のピーク)の有無などから判断することができる。
なお、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムに含まれる疎水化剤は、微細粉末の表面に担持されているものであってもよく、微細フィラーから系中に分散したものであってもよく、ポリオレフィン系樹脂に別添したものであってもよい。
【0027】
疎水性表面を有する微細フィラー総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、疎水性表面を有する微細フィラー総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルム総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルム総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。疎水化剤の含有量が上記の下限値以上であることにより、微細フィラーに十分な疎水化処理が施され、延伸多孔性フィルムの透水性が抑えられる傾向にある。疎水化剤の含有量が上記の上限値以下であることが、コストの面から好ましい。
【0028】
疎水化処理は、常法にしたがって行うことができ、その方法は特に限定されない。例えば、疎水化剤を有機溶媒の溶液又はスラリーとして微細粉末に噴霧し、所定時間撹拌することにより行うことができる。別の例としては、微細粉末を水中に分散させた水スラリーに疎水化剤を添加して、攪拌、混合することより行うことができる。微細粉末がアルカリ土類金属を含む場合には、疎水化剤として、さらにアルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物を加えてもよい。また、疎水化剤と水とをなじませるために、疎水化剤を水可溶性有機溶媒の溶液又はスラリーとして添加してもよい。攪拌、混合した状態の微細フィラーは、さらに脱水、乾燥を行い、粉末状の微細フィラーを得てもよい。
【0029】
疎水化剤を用いた疎水化処理は、例えば、特開平11−349846号公報、特開2002−363443号公報、WO2001−027193号公報、WO2004−006871号公報に記載された方法により行うことができる。
【0030】
微細フィラーの平均一次粒子径は、通常0.05μm以上であり、0.07μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.12μm以上であることがさらに好ましい。また、微細フィラーの平均一次粒子径は、通常0.8μm以下であり、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。微細フィラーの平均一次粒子径が上記の下限値以上であることにより、延伸多孔性フィルム中にボイドが効率よく形成される傾向にある。また、微細フィラーの平均一次粒子径が上記の上限値以下であることにより、粒径の大きなものに比べて配合量が同一であればより多数の微細フィラーを延伸多孔性フィルム中に含有せしめることができる。これにより、連通ボイドが効率よく形成されやすくなり、透湿度が高まる傾向にあるとともに、粗大粒子の混入により延伸時にフィルムが破断することが抑制される傾向にある。
【0031】
なお、本明細書において、微細フィラーの平均一次粒子径とは、延伸多孔性フィルムの厚み方向の切断面を電子顕微鏡により観察し、観察領域より無作為に抽出した100個の微細フィラーのそれぞれの一次粒子径を測定し、これに基づいて算出した平均値である。微細フィラーの一次粒子径は、粒子の輪郭上の2点間の距離の最大値、即ち最大径から決定する。
【0032】
延伸多孔性フィルムは、微細フィラーとして、上述した平均一次粒子径を有する微細フィラーの一次粒子からなる二次粒子を含んでいてもよく、微細フィラーの一次粒子と二次粒子とを共に含んでいてもよい。ここで、一次粒子とは、分散した状態にあって単独で存在する微細フィラーの粒子単位をいう。二次粒子とは、複数個の一次粒子が凝集又は結合した状態にある集合体をいう。
【0033】
微細フィラーの二次粒子を含む場合、二次粒子の平均粒子径(平均二次粒子径)が0.05μm〜0.9μmであることが好ましく、0.15μm〜0.8μmであることがより好ましく、0.25μm〜0.6μmであることがさらに好ましく、0.25μm〜0.5μmであることが特に好ましい。平均一次粒子径が上記数値範囲となる一次粒子と、平均二次粒子径が上記数値範囲となる二次粒子とを含む微細フィラーの使用により、連通ボイドを形成しやすくなることがある。
【0034】
なお、本明細書において、微細フィラーの平均二次粒子径とは、レーザー回折法による粒度分布測定装置を用いて測定される微細フィラーの体積基準のメジアン径(D
50)をいう。また、延伸多孔性フィルムの厚み方向の切断面を電子顕微鏡により観察し、観察領域より無作為に抽出した100個の二次粒子の粒子径を測定し、これに基づいて算出した平均値であってもよい。この場合の微細フィラーの二次粒子径は、粒子の輪郭上の2点間の距離の最大値(最大径)から決定する。
【0035】
延伸多孔性フィルムは、難透水性を阻害しない範囲で親水性表面を有する微細フィラーをさらに含んでいてもよい。親水性表面を有する微細フィラーを混合して使用することで延伸多孔性フィルムの透湿性をより向上させることができる。親水性表面を有する微細フィラーとしては、それ自体が親水性である微細粉末をそのまま用いることもできる。また、微細粉末に親水化処理したものを用いることができる。微細粉末としては、上記の微細フィラーにおいて説明した無機微細粉末又は有機微細粉末を用いることができる。親水化処理は、微細粉末の表面を表面処理剤(親水化剤)で処理することにより行うことができる。親水化処理された微細粉末は、その表面に親水化剤を有し、この親水化剤によって親水性が付与されている。
【0036】
親水化剤を用いた親水化処理は、例えば、特開平8−231873号公報、特開2005−82756号公報に記載された方法により行うことができる。
【0037】
親水化剤としては、ポリリン酸、親水性シランカップリング剤、親水性ポリマー、親水性多価アルコール、親水性金属酸化物が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、親水性金属酸化物が好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの親水化剤は、上記の微細粉末の表面を修飾して、微細フィラーを親水化することで、これを含む延伸多孔性フィルムの親水性を向上させやすいものである。
【0038】
親水性シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその塩、ポリアクリル酸誘導体;カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、第1・2・3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基を含む単量体の単独重合体又は共重合体などが挙げられる。親水性多価アルコールとしては、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。親水性金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムなどが挙げられる。
【0039】
親水性表面を有する微細フィラー総量に対する親水化剤の含有量は、特に限定されないが、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、親水性表面を有する微細フィラー総量に対する親水化剤の含有量は、特に限定されないが、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましい。親水化剤の含有量が上記の下限値以上であることにより、微細フィラーに十分な親水化処理が施され、延伸多孔性フィルムの透湿性が高まる傾向にある。また、親水化剤の含有量が上記の上限値以下であることが、延伸多孔性フィルムの連通ボイド率を達成しやすい観点から好ましい。
【0040】
延伸多孔性フィルムは、疎水性表面を有する微細フィラーの二次粒子と、親水性表面を有する微細フィラーの一次粒子とを共に含むことが好ましい。親水性表面を有する微細フィラーの平均一次粒子径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.07μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。また、親水性表面を有する微細フィラーの平均一次粒子径は、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。親水性表面を有する微細フィラーの平均一次粒子径が上記の下限値以上であることにより、ボイドを形成しやすい傾向がある。また、親水性表面を有する微細フィラーの平均一次粒子径が上限値以下であることにより、透水しづらい微細なボイドを成形しやすい傾向がある。また、この様な親水性表面を有する微細フィラーを併用することによって、延伸多孔性フィルムに適度な透湿性を付与しやすくなる。
【0041】
延伸多孔性フィルムの総量に対する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、32質量%以上であることが好ましく、39質量%以上であることがより好ましく、44質量%以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの総量に対する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、72質量%以下であることが好ましく、62質量%以下であることがより好ましく、52質量%以下であることがさらに好ましい。微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることにより、ボイドの数が増加して連通ボイドの形成が容易となり、また多孔質構造によって透湿性が向上する傾向にある。さらに、微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることにより、延伸多孔性フィルムを延伸成形しやすく歩留りが向上する傾向にある。また、微細フィラーの含有量が上記の上限値以下であることにより、延伸時にフィルムが破断することが抑制される傾向にある。
【0042】
延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、32質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、72質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。疎水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることにより、多孔質構造によって透湿性が向上する傾向にある。また、疎水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の上限値以下であることにより、透水性を抑えやすい。
【0043】
延伸多孔性フィルムの総量に対する親水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、親水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、延伸多孔性フィルムの総量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。親水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることによって、透湿性が向上しやすい。また、親水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の上限値以下であることにより、難透水性を維持しやすい。
【0044】
疎水性表面を有する微細フィラーと、親水性表面を有する微細フィラーとを併用する場合に、延伸多孔性フィルムに含まれる、疎水性表面を有する微細フィラーの含有量と、親水性表面を有する微細フィラーの含有量との比は、特に限定されないが、難透水性と透湿性とを所期のものに調整しやすい観点から、相対的に疎水性表面を有する微細フィラーを多めにすることが好ましく、具体的には質量基準で、(疎水性表面を有する微細フィラーの含有量)/(親水性表面を有する微細フィラーの含有量)とした比が、99.5/0.5〜85/15の範囲内であることが好ましく、99/1〜89/11の範囲内であることがより好ましく、98.5/1.5〜92/8の範囲内であることがさらに好ましい。
疎水性表面を有する微細フィラーと親水性表面を有する微細フィラーのそれぞれの含有量が上記範囲内であれば、仮に延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水化剤の含有量よりも、親水化剤の含有量が多い場合であっても、難透水性の効果を十分に担保しやすい。
【0045】
なお、延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水性表面を有する微細フィラーの含有量は、疎水化処理前の微細フィラー(微細粉末)の質量を基準として算出するのが容易である。同様に、延伸多孔性フィルムの総量に対する親水性表面を有する微細フィラーの含有量は、親水化処理前の微細フィラー(微細粉末)の質量を基準として算出するのが容易である。
【0046】
<その他の添加剤>
本実施形態の延伸多孔性フィルムには、必要に応じて分散剤、熱安定剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、核剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤を配合してもよい。これらの添加剤は、フィルムの総量100質量%に対して、0.01〜3質量%の割合で配合するのが好ましい。
【0047】
分散剤は、例えば、上述したポリオレフィン系樹脂を含むフィルム中に微細フィラーを高分散させる目的で用いられる。二次粒子を形成した微細フィラーを使用する場合、二次粒子の状態で微細フィラーを高分散させることが好ましい。分散剤としては、シランカップリング剤、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、金属石鹸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸若しくは無水マレイン酸変性ポリプロピレン又はこれらの塩等を例示することができる。
【0048】
分散剤の含有量は、特に限定されないが、フィルムの総量に対して、0.01〜3質量%が好ましい。分散剤の含有量が0.01質量%以上であることにより、微細フィラーが十分に分散するため、連通ボイドが得られやすく、所定の透水度及び透湿度が得られる傾向にある。また、分散剤の含有量が3質量%以下であることにより、フィルムの延伸性が良好で成形時における延伸切れが抑えられる傾向にある。なお、上述した疎水化剤と分散剤の合計量は、フィルムの総量に対して、0.25〜8質量%が好ましく、0.3〜6質量%がより好ましい。
【0049】
[ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの製造]
次に、本実施形態の延伸多孔性フィルムの製造方法について説明する。
本実施形態の延伸多孔性フィルムは、従来公知の種々の方法、例えば内部紙化法や発泡法等の公知の方法により製造することができ、その製法は特に限定されない。ここでは、延伸成形と同時に多孔性フィルムが得られる好適な製法の1つとして、内部紙化法による製法を詳述する。
【0050】
<樹脂組成物の調製及び樹脂シートの成形>
内部紙化法による延伸多孔性フィルムの製造では、まず、ポリオレフィン系樹脂及び微細フィラーを含む樹脂組成物を調製する。具体的には、ポリオレフィン系樹脂、微細フィラー、及び必要に応じて各種添加剤を配合し、これを溶融混練することにより樹脂組成物を調製することができる。このとき、樹脂組成物の各成分の配合割合を上述した好ましい数値範囲内とすることにより、後述する樹脂シートの延伸成形によって所定の透水度及び透湿度を具備するポリオレフィン延伸多孔性フィルムが得られ易い傾向にある。
次いで、この樹脂組成物をシート状に溶融押出して、微細フィラーを内部に含むポリオレフィン系樹脂シートを成形する。その後、得られたポリオレフィン系樹脂シートを少なくとも一方向に延伸することにより、本実施形態の延伸多孔性フィルムを得ることができる。
【0051】
<延伸>
1軸延伸する方法としては、樹脂シートの搬送方向にロール群の周速差を利用して延伸するロール間延伸(縦延伸)法、樹脂シートの搬送方向に直交する方向(幅方向)にテンターオーブンを利用して延伸するクリップ延伸(横延伸)法などを挙げることができる。
【0052】
2軸延伸する方法としては、上記の縦延伸法と、上記の横延伸法を組み合わせて利用した逐次2軸延伸法を挙げることができる。また、樹脂シートの搬送方向の延伸と、樹脂シートの搬送方向に直交する方向の延伸を同時に行う同時2軸延伸法を挙げることができる。より具体的には、テンターオーブンとパンタグラフの組合せ、テンターオーブンとリニアモーターの組合せによる同時2軸延伸方法などによる方法を挙げることができる。また、インフレーションフィルムの延伸方法であるチューブラー法による同時2軸延伸法を挙げることができる。
【0053】
ポリオレフィン系樹脂シートの延伸は、上記の縦1軸延伸、横1軸延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸等から適宜選択することができる。さらにポリオレフィン系樹脂シートが積層体である場合には、各層の延伸方法がすべて同じであっても、各層の延伸方法が異なっていてもよい。各層の延伸方法が異なる場合、各層の延伸方法は上記の延伸方法から適宜選択すればよい。これらの中でも、逐次2軸延伸法、同時2軸延伸法が好ましく、逐次2軸延伸法がより好ましい。
【0054】
延伸多孔性フィルムの延伸倍率は、特に制限されず、得られる延伸多孔性フィルムの特性等を考慮して、適宜決定すればよい。本発明では構成母材にポリオレフィン系樹脂を用い、所期の連通ボイドを形成する目的から、縦1軸延伸時の延伸倍率は3〜11倍の範囲であることが好ましく、4〜10倍の範囲であることがより好ましく、5〜7倍の範囲であることがさらに好ましい。横1軸延伸時の延伸倍率は4〜11倍の範囲であることが好ましく、4〜10倍の範囲であることがより好ましく、5〜9倍の範囲であることがさらに好ましい。逐次2軸延伸時、又は同時2軸延伸時の面積延伸倍率は10〜90倍の範囲であることが好ましく、15〜75倍の範囲であることがより好ましく、30〜60倍の範囲であることがさらに好ましい。延伸倍率を上記の範囲とすることで、延伸ムラを防いで均一な膜厚となるよう安定した延伸成形ができ、また、フィルムの表面まで連通した所望のボイドが得られ易く、所定の透水度と透湿度が得られる傾向にある。
【0055】
延伸多孔性フィルムの延伸温度は、特に限定されないが、構成母材となるポリオレフィン系樹脂の結晶化温度よりも高い温度であり、且つ融点よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましい。また、2種以上の樹脂を用いる場合は含有量の最大を占める樹脂の結晶化温度よりも高い温度であり、且つ融点より5℃以上低い温度で行うことが好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂に融点が155〜167℃であるプロピレン単独重合体を用いる場合は、延伸温度は100〜162℃であることが好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂に融点が121〜136℃である高密度ポリエチレンを用いる場合は、延伸温度は70〜131℃であることが好ましい。なお、延伸処理後に、必要に応じて、延伸温度より高温での熱処理を施してもよい。
【0056】
<熱処理>
延伸後の延伸多孔性フィルムには、熱処理を行うのが好ましい。熱処理の温度は、延伸温度より0〜30℃高い温度範囲内で選択することが好ましい。熱処理を行うことにより、ポリオレフィン系樹脂分子の非晶部分の結晶化が促進されて延伸方向への熱収縮率が低減し、製品保管時の巻き締まりや、巻き締まりに起因する波打ち等が少なくなる。熱処理の方法はロール加熱又は熱オーブンで行うのが一般的であるが、これらを組み合わせてもよい。
【0057】
延伸多孔性フィルムを延伸成形する場合の搬送速度は、縦延伸の場合、通常は10〜500m/minであり、30〜300m/minであることが好ましく、50〜200m/minであることがより好ましい。また、横延伸の場合、通常は10〜150m/minであり、30〜120m/minであることが好ましく、50〜100m/minであることがより好ましい。また、逐次2軸延伸の場合、通常は10〜500m/minであり、30〜300m/minであることが好ましく、50〜200m/minであることがより好ましい。また、同時2軸延伸の場合、通常は3〜350m/minであり、5〜120m/minであることが好ましく、5〜100m/minであることがより好ましい。
【0058】
延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合は、共押出により積層したものをまとめて延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸してもよい。また、上記の方法によって得られたフィルムを貼り合わせて形成してもよい。各層を別個に延伸した後に積層することも可能であるが、上記のように各層を積層した後にまとめて延伸する方が工程数は少なく簡便であり、製造コストも安くなるので好ましい。
【0059】
延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合、これを構成する各層の延伸軸数は、無延伸や未延伸であっても、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよい。例えば延伸多孔性フィルムをスキン層/コア層の2層構造とした場合の各層の延伸軸数は、無延伸/一軸、無延伸/二軸、一軸/一軸、一軸/二軸、二軸/二軸等、任意に組み合わせることができる。
【0060】
また、例えば延伸多孔性フィルムを表スキン層/コア層/裏スキン層の3層構造とした場合の各層の延伸軸数は、無延伸/一軸/無延伸、無延伸/二軸/無延伸、無延伸/一軸/一軸、無延伸/一軸/二軸、無延伸/二軸/一軸、無延伸/二軸/二軸、一軸/一軸/一軸、一軸/一軸/二軸、一軸/二軸/一軸、一軸/二軸/二軸、二軸/二軸/二軸等、任意に組み合わせることができる。
【0061】
<表面処理>
延伸後に得られる延伸多孔性フィルムには、後述する表面処理を行うのが好ましい。表面処理を行うことにより、延伸多孔性フィルムの表面が、後述する所定のぬれ張力を有するように調整できる。延伸多孔性フィルムが後述する所定のぬれ張力を有することで、その二次加工適性を向上させることができる。表面処理は、延伸後のフィルムに対して酸化処理を行うことで実施でき、また延伸後のフィルムに対して酸化処理を行った後に、アンカー剤及び帯電防止剤の塗布を行うことで実施できる。
【0062】
酸化処理方法としては、一般的にフィルムの処理に使用されているコロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、オゾン処理などの方法を単独又は組み合わせて使用することができる。これらのうちで好ましくはコロナ放電処理、フレーム処理であり、設備や操作の容易さから特に好ましくはコロナ放電処理である。
【0063】
アンカー剤としては、ポリイミン系重合体又はポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物を単独或いはこれらを混合したもの、又はこれらにさらに架橋剤を加えたものが挙げられる。ポリイミン系重合体又はポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物としては、ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン−尿素)及びポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、又はこれらのアルキル変性体、シクロアルキル変性体、アリール変性体、アリル変性体、アラルキル変性体、アルキラル変性体、ベンジル変性体、シクロペンチル変性体、若しくは脂肪族環状炭化水素変性体、ないしはこれらの水酸化物、ないしはこれら前述のものを数種類複合させたものを挙げることができる。
【0064】
帯電防止剤として、ポリマー型帯電防止剤が挙げられる。ポリマー型帯電防止剤としては、カチオン型、アニオン型、両性型、ノニオン型などが使用可能である。カチオン型としては、アンモニウム塩構造やホスホニウム塩構造を分子構造中に有するものが挙げられる。アニオン型としては、スルホン酸、リン酸、カルボン酸等のアルカリ金属塩、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸などのアルカリ金属塩(例としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)構造を分子構造中に有するものが挙げられる。両性型としては、前述のカチオン型とアニオン型の両方の構造を同一分子中に含有するもので、例としてはベタイン型が挙げられる。ノニオン型としては、アルキレンオキシド構造を有するエチレンオキシド重合体や、エチレンオキシド重合成分を分子鎖中に有する重合体が挙げられる。その他、ホウ素を分子構造中に有するポリマー型帯電防止剤も例として挙げることができる。これらの中で好ましくはカチオン型のポリマー型帯電防止剤であり、特に窒素含有ポリマー型帯電防止剤であり、より具体的には第三級窒素又は第四級窒素(アンモニウム塩構造)含有アクリル系ポリマーである。
【0065】
[ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの特徴]
本実施形態の延伸多孔性フィルムは、ポリオレフィン系樹脂のフィルムの内部に多数のボイドが形成されており、これらのボイドの少なくとも一部は、相互に連通した連通ボイドを形成している。さらにボイド及び連通ボイドは、疎水化剤によって表面を疎水性に処理された微細なフィラーを内在している。これにより延伸多孔性フィルムは、後述する透水度を示す程度に水の透過が抑制される難透水性を有するとともに、後述する透湿度を示す程度に水蒸気が透過する透湿性を有する。
【0066】
すなわち、本実施形態の延伸多孔性フィルムは、水を殆ど通さないのに対して、水蒸気を十分に通過させることができる。延伸多孔性フィルムがこのような特性を示すのは、ボイドの少なくとも一部がフィルム内で連通しており、フィルム表面の開口から連通ボイドを通じて、水蒸気が延伸多孔性フィルム内を通過することができるためであると推測される。一方で、オレフィン系樹脂そのものの疎水性、及び疎水性表面を有する微細フィラーの存在により、連通ボイド内への水の浸入及び水の透過が抑制されていることにより、延伸多孔性フィルム内の水の通過は抑制されていると推測される。なお、疎水性表面を有する微細フィラーに加えて、親水性表面を有する微細フィラーを併用する場合には、透湿性が適度に向上する傾向がある。
【0067】
延伸多孔性フィルムの透湿度、透気度、及び透水度は、微細フィラーの粒子径、含有量、疎水化処理の程度、疎水性表面を有する微細フィラーと親水性表面を有する微細フィラーとの併用、フィルム内部のボイドの数、ボイドの連通度、又はボイドの大きさを調整することによって制御することができる。
【0068】
なお、延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合には、延伸多孔性フィルムを構成するいずれの層についても、疎水性表面を有する平均一次粒子径が0.05〜0.8μmの微細フィラーを含むことが好ましい。また、延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合には、複数の層全体として、後述する透水度及び透湿度を満たすことで、所望の難透水性と透湿性とが達成される。
【0069】
<厚み>
延伸多孔性フィルムにおける厚みとは、JIS K7130:1999に準拠して測定した値をいう。延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合には、複数の層全体として測定した値である。延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合の各層の厚みは、電子顕微鏡を用いてその断面を観察し、外観より層間の界面を判断して厚み比率を求め、上で測定した厚みと各層の厚み比率から算出する。
【0070】
延伸多孔性フィルムの厚みは、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、農業用材料として用いるのであれば、20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの厚みは、500μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。延伸多孔性フィルムの厚みが上記の下限値以上であることにより、延伸多孔性フィルムは十分な機械的強度が得られ、延伸多孔性フィルムの延伸成形や敷設の際にフィルムの破断を防止しやすい傾向にある。また延伸多孔性フィルムの厚みが上記の上限値以下であることにより、延伸多孔性フィルムが重くなりすぎず、取り扱いが容易になる傾向にある。
【0071】
<密度>
延伸多孔性フィルムの密度は、0.45g/cm
3以上であることが好ましく、0.5g/cm
3以上であることがより好ましく、0.55g/cm
3以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの密度は、0.7g/cm
3以下であることが好ましく、0.65g/cm
3以下であることがより好ましく、0.6g/cm
3以下であることがさらに好ましい。延伸多孔性フィルムの密度が上記の下限値以上であることにより、延伸の際にフィルムの破断を防止しやすく、また延伸多孔性フィルムに十分な機械的強度が得られる傾向にある。延伸多孔性フィルムの密度が上記の上限値以下であることにより、フィルム内部に連通するボイドが生じやすく、透湿性が発現しやすい傾向にある。延伸多孔性フィルムの密度は、微細フィラーの含有量や、フィルムの延伸軸数及び延伸倍率を調整することにより制御することができる。
【0072】
延伸多孔性フィルムにおける密度とは、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求められる値をいう。なお、この密度は、後述する密度ρ
wに等しい。延伸多孔性フィルムは、フィルムの中に適切に連通ボイドが形成されることにより、所定の密度を有するものとなる。
【0073】
<ボイド率>
延伸多孔性フィルムにおけるボイド率とは、フィルム全体の体積に対する、フィルム中の空孔が占める体積の割合(体積率)をいう。ここで、フィルム中の全ての空孔の体積率を示すものを、「全体ボイド率」と称する。また、フィルム中の空孔のうち、フィルム内部で独立している空孔の体積率を示すものを、「内部独立ボイド率」と称する。さらに、フィルム中の空孔のうち、フィルムの表面と連通している空孔の体積率を示すものを、「連通ボイド率」と称する。
【0074】
延伸多孔性フィルムの全体ボイド率は下記の式(1)で求められる。
【数2】
式(1)中、ρ
0はJIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求められる延伸前のフィルムの密度である。ρ
wはJIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求められる延伸後のフィルムの密度である。
【0075】
ここで、延伸前の空孔を有しないフィルムの密度を示すρ
0は、延伸後の空孔を有するフィルムから空孔部分を除いた、ポリオレフィン系樹脂及び微細フィラーを含む樹脂組成物が占める部分の密度を示す真密度とほぼ同じである。
【0076】
また、本実施形態の延伸多孔性フィルムの内部に形成された連通している空孔の界面は疎水性であるため、短時間・無加圧下ではフィルム内部の空孔に水が浸透し難い。したがって、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて測定することにより得られるρ
wは、フィルム内部で独立している空孔が占める体積と、フィルムの表面と連通している空孔が占める体積と、フィルム自身が占める体積とに基づく、延伸後のフィルムの密度に相当する。
【0077】
よって、式(1)に示すように、ρ
0とρ
wとの差を利用して、延伸多孔性フィルムの内部に形成された全ての空孔がフィルム全体に占める割合を、全体ボイド率として求めることができる。
【0078】
次に、延伸多孔性フィルムの内部独立ボイド率は下記の式(2)で求められる。
【数3】
式(2)中、ρ
0の定義は式(1)と同じである。ρ
sはJIS K7112:1999のA法において、浸漬液として蒸留水に代えて表面張力が27.3mN/mの液体を用いて求められる密度である。
【0079】
この浸漬液によれば、対象物の表面が疎水性であっても濡れやすい特徴を有することから、延伸多孔性フィルムの表面から内部まで連通している空孔(連通ボイド)を満たすことができる。一方で、表面張力が27.3mN/mの液体を用いた場合でも、フィルム表面に連通していない空孔(内部独立ボイド)はこの液体で満たされずに空孔として残存する。したがって、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液として蒸留水に代えて表面張力が27.3mN/mの液体を用いて測定することにより得られるρ
sは、フィルム内部で独立している空孔が占める体積と、フィルム自身が占める体積とに基づく、延伸後のフィルムのみかけ密度に相当する。表面張力が27.3mN/mの液体は、JIS K6768:1999の表に記載されている配合(メタノール80体積%と蒸留水20体積%とを混合)に従い調製することができ、また、ぬれ張力試験用混合液等の名称で市販されるものを使用することができる。
【0080】
よって、式(2)に示すように、ρ
0とρ
sとの差を利用して、延伸多孔性フィルムの内部に形成された、フィルム外部と連通していない、フィルム内部で独立している空孔がフィルム全体に占める割合を、内部独立ボイド率として求めることができる。
【0081】
続いて、延伸多孔性フィルムの連通ボイド率は、下記の式(3)で求められる。
【数4】
【0082】
延伸多孔性フィルムの表面まで連通している空孔に注目すると、この空孔は蒸留水では満たされず、表面張力が27.3mN/mの液体で満たされる。したがって、式(3)に示すように、全体ボイド率と内部独立ボイド率の差から、フィルム表面と連通している空孔がフィルム全体に占める割合を、連通ボイド率として求めることができる。
【0083】
本実施形態の延伸多孔性フィルムは、適度な透湿性及び難透水性を示すことで、水蒸気を透過すると共に、過度な水の浸透を抑制する。これはフィルム中に形成される全体の空孔のうち、連通ボイドが適度な割合で存在することによって達成される。すなわち、連通ボイド率と全体ボイド率との比を表す、(連通ボイド率/全体ボイド率)の値に好適な範囲が存在する。この(連通ボイド率/全体ボイド率)は、下記の式(4)で表される。
【数5】
【0084】
本実施形態の延伸多孔性フィルムは、(連通ボイド率/全体ボイド率)の値が0.4〜0.85であることが好ましく、0.5〜0.8であることがより好ましく、0.6〜0.75であることがさらに好ましい。同値が同範囲内であることで、所期の透湿性を達成しやすい。延伸多孔性フィルムの(連通ボイド率/全体ボイド率)の値は、用いる微細フィラーの含有量、微細フィラーの粒子径や、延伸多孔性フィルムの延伸倍率等を調整することにより制御することができる。
【0085】
また、延伸多孔性フィルムの全体ボイド率は、40〜80%であることが好ましく、50〜70%であることがより好ましく、55〜65%であることがさらに好ましい。また、内部独立ボイド率は、5〜50%であることが好ましい。また、連通ボイド率は30〜75%であることが好ましく、35〜65%であることがより好ましく、40〜60%であることがさらに好ましい。
【0086】
またさらに、上記式(4)の分子である密度ρ
sと密度ρ
wとの差(ρ
s−ρ
w)は、JIS K7112:1999のA法において蒸留水を用いて測定した密度ρ
wと、蒸留水に代えて表面張力が27.3mN/mの液体を使用して測定した密度ρ
sの差を示すものである。
【0087】
本実施形態の延伸多孔性フィルムは、ρ
s−ρ
wの値が、0.15〜1.15であることが好ましく、0.3〜1.0であることがより好ましく、0.5〜0.9であることがさらに好ましい。密度差が上記の下限値以上であることにより、透湿性を発揮させやすくする傾向がある。密度差が上記の上限値以下であることにより、透湿性を抑制する傾向にある。
【0088】
<透水度>
本実施形態の延伸多孔性フィルムにおける透水度とは、上記課題で説明するところの「難透水性」を示すものである。さらに、この透水度は、農業用材料等として使用した場合に殆ど水は通さないことを示すものである。また、この透水度は、JIS Z0221:1976に準拠して測定した透水度を意味する。
【0089】
このような延伸多孔性フィルムの透水度は、10,000秒以上であり、12,000秒以上であることが好ましく、14,000秒以上であることがより好ましく、20,000秒以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透水度は、85,000秒以下であり、78,000秒以下であることが好ましく、70,000秒以下であることがより好ましく、50,000秒以下であることがさらに好ましい。透水度が上記の下限値以上であることにより、水の通過が抑制される傾向にある。また、透水度の値は大きいほど難透水性であることを示すが、透水度が上記の上限値以下であっても、難透水性は十分に担保できる。延伸多孔性フィルムの透水度は、微細フィラーの含有量、粒子径や、フィルムの延伸倍率を調整することにより得られる連通ボイド率で制御することができる。また、疎水性表面を有する微細フィラーや親水性表面を有する微細フィラーの含有量及びこれらの含有量の比の調整によっても制御することができる。
【0090】
<透湿度>
本実施形態の延伸多孔性フィルムにおける透湿度とは、上記課題で説明するところの「適度な透湿性」を示すものである。さらに、この透湿度は、農業用材料等として使用した場合に内部空間が蒸れて結露したりしないよう、フィルムの一方の面側の水蒸気圧が高い場合には、他の面に向けて速やかに水蒸気の移動が行われることを示すものである。また、この透湿度は、JIS Z0208:1976に準拠して、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した透湿度を意味する。
【0091】
このような延伸多孔性フィルムの透湿度は、700g/m
2・24hr以上であり、800g/m
2・24hr以上であることが好ましく、1,000以上g/m
2・24hr以上であることがより好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透湿度は、2,500g/m
2・24hr以下であり、2,400g/m
2・24hr以下であることが好ましく、2,000g/m
2・24hr以下であることがより好ましい。透湿度が上記の下限値以上であることで、水蒸気が延伸多孔性フィルムを容易に透過して、延伸多孔性フィルムに被覆された内部空間に水蒸気が溜まることが防止される傾向にある。また、透湿度が上記の上限値以下であることで、透湿性と難透水性とを両立しやすい傾向にある。延伸多孔性フィルムの透湿度は、微細フィラーの含有量、粒子径や、フィルムの延伸倍率を調整することにより得られる連通ボイド率で制御することができる。また、疎水性表面を有する微細フィラーや親水性表面を有する微細フィラーの含有量及びこれらの含有量の比の調整によっても制御することができる。
【0092】
<透気度>
本実施形態の延伸多孔性フィルムにおける透気度とは、農業用材料等として使用した場合に、作物の呼吸や根粒菌の窒素固定等を妨げないように、適度に通気することを示すものであり、JIS P8117:2009に準拠して測定した透気度を意味する。延伸多孔性フィルムの透気度は、5,000秒以上であることが好ましく、10,000秒以上であることがより好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透気度は、85,000秒以下であることが好ましく、75,000秒以下であることがより好ましい。延伸多孔性フィルムの透気度が上記範囲内であれば、適切な通気性を有していると言える。
【0093】
<ぬれ張力>
本実施形態の延伸多孔性フィルムは、農業用材料等として使用する際に、予め不織布等の他部材との貼り合せ加工や、商品名等を表面に印刷加工したものを、商品として販売することがある。
延伸多孔性フィルムにおけるぬれ張力とは、延伸多孔性フィルムに貼り合せ加工やオフセット印刷等の二次加工を施すことを容易とするための特徴であり、ダインレベルの異なる複数のぬれ張力評価インクペン(英国Corona Supplies社製)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下で塗布後、約2秒後の液膜の状態で濡れているか弾くかを判定して、境界となるダインレベルから決定される。
【0094】
延伸多孔性フィルムのぬれ張力は、表面張力が31mN/m以上であることが好ましく、33mN/m以上であることがより好ましい。また、延伸多孔性フィルムのぬれ張力は、42mN/m以下であることが好ましく、37mN/m以下であることがより好ましい。表面張力が上記の下限値以上であることで、二次加工の際に接着剤や塗料等をはじくことがない傾向にあるため、加工性の点から好ましい。また、表面張力が上記の上限値以下であることで、フィルム表面の耐水性が発揮され、また、フィルム表面にオフセット印刷で印刷を施す際には、湿し水が広がることなく良好な画像を形成する傾向にあるため好ましい。
【0095】
[ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの用途]
本実施形態の延伸多孔性フィルムは、疎水性表面を有する微細フィラーを内在する連通ボイドを有しており、透水性が抑えられるとともに、透湿性に優れている。このため、本実施形態の延伸多孔性フィルムは、水の透過の抑制と水蒸気の透過の促進が要求される分野において広く且つ有効に使用可能である。また、連通ボイドの形成により、透気性が要求される分野にも用いることができる。さらには、微細フィラーとして表面が疎水化された無機微細粉末を使用する態様においては、不透明性と光拡散反射性を付与することもでき、果実の色付き等、これらの特性が要求される分野にも用いることができる。
【0096】
本実施形態の延伸多孔性フィルムの用途としては、例えば、マルチフィルム、ハウス用フィルム、野菜包装袋、果実包装袋などの農業用材料;滅菌・殺菌包装材料、医療用基布、医療用器具の包装材料、手術衣、手術用手袋などの医療用材料;使い捨てカイロ、家庭用除湿剤、乾燥剤、脱酸素剤、鮮度保持剤などの包装材料;紙おむつ、生理用品などの衛生材料;壁紙、ハウスラップなどの建築材料に用いることができる。中でも、畑の土壌を覆うことで、肥料流出防止などのための水の非透過性と、根に対して十分な保湿性を有しかつ圃場中の余剰水分を蒸散させるための適度な透湿性とをもたらすことにより、農作物の栽培に適した環境を提供する、農業用のマルチフィルムとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0097】
以下、製造例及び実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[評価手法]
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの評価は、以下の方法で行った。
【0099】
<透水度>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの透水度を、JIS Z0221:1976に準拠し、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。
【0100】
<透湿度>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの透湿度を、JIS Z0208:1976に準拠して、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。
【0101】
<透気度>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの透気度を、JIS P8117:2009に準拠して測定した。
【0102】
<微細フィラーの平均一次粒子径>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムに含まれる微細フィラーの平均一次粒子径は、延伸多孔性フィルムの切断面を電子顕微鏡により観察し、無作為に抽出した100個の微細フィラーのそれぞれにおいて、一次粒子の輪郭上の2点間の距離の最大値(最大径)を求め、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0103】
<微細フィラーの平均二次粒子径>
微細フィラーが凝集体の場合、表面処理を行った後の微細フィラーをメタノールで湿らせた後、水に分散させてスラリーを作成し、このスラリーに対してレーザー回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD−2200)を用いて測定した体積基準のメジアン径(D
50)を平均二次粒子径とした。
【0104】
<ぬれ張力>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムのぬれ張力を、ダインレベルの異なる複数のぬれ張力評価インクペン(英国Corona Supplies社製)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下で塗布後、約2秒後の液膜の状態で濡れているか弾くかを判定して、境界となるダインレベルから決定した。
【0105】
<密度>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの密度ρ
wを、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて、温度23℃の条件で測定した。
【0106】
<全体ボイド率>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムについて、延伸前の樹脂組成物のペレットの密度ρ
0を、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求めた。密度ρ
w及び密度ρ
0を用いて、上記式(1)から、全体ボイド率を算出した。
【0107】
<連通ボイド率>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの密度ρ
sを、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液として蒸留水に代えて、市販の表面張力が27.3mN/mの液体(商品名:ぬれ張力試験用混合液No.27.3、和光純薬工業社製)を用いて求めた。密度ρ
s及び密度ρ
wを用いて、式(3)から、連通ボイド率を算出した。
【0108】
<連通ボイド率と全体ボイド率との比>
連通ボイド率及び全体ボイド率を用いて、式(4)から、連通ボイド率と全体ボイド率との比(連通ボイド率/全体ボイド率)を算出した。
【0109】
<ρ
s−ρ
w>
各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムについて、密度ρ
s及び密度ρ
wを用いて、ρ
s−ρ
wを算出した。
【0110】
[微細フィラーの調製]
<疎水性表面を有する微細フィラーの調製例1>
軽質炭酸カルシウム微細粉末(商品名:ブリリアント1500、白石カルシウム社製、表面処理なし、平均一次粒子径:0.15μm)10000gをニーダーで撹拌しながら、これに疎水化剤としてステアリン酸亜鉛(商品名:ZP、大日化学工業社製)15.0gをメタノール100mlに分散させた分散液を添加し、30分撹拌した。攪拌により得られた混合物を80℃で1時間乾燥させて、表1の樹脂組成物の配合例(a)の微細フィラー(A)を得た。また、微細粉末と疎水化剤の配合割合を表1の樹脂組成物の配合例(b)〜(d)に記載の配合割合とする以外は、樹脂組成物の配合例(a)に用いる微細フィラー(A)の調製例と同様にして、樹脂組成物の配合例(b)〜(d)の微細フィラー(A)を得た。樹脂組成物の配合例(a)〜(d)に用いた微細フィラー(A)は凝集体を形成し、平均二次粒子径は何れも0.7μmであった。
【0111】
<疎水性表面を有する微細フィラーの調製例2>
上記調整例1のステアリン酸亜鉛に代えて、疎水化剤としてステアリン酸アルミニウム(商品名:アルミニウムステアレート900、日油社製)を用いて、微細粉末と疎水化剤の配合割合を表1の樹脂組成物の配合例(e)〜(n),(v),(y)〜(zz)に記載の配合割合とする以外は、上記調製例1と同様にして、樹脂組成物の配合例(e)〜(n),(v),(y)〜(zz)の微細フィラー(A)を得た。樹脂組成物の配合例(e)〜(n),(v),(y)〜(zz)に用いた微細フィラー(A)は凝集体を形成し、平均二次粒子径は何れも0.7μmであった。
【0112】
<疎水性表面を有する微細フィラーの調製例3>
市販の重質炭酸カルシウム(商品名:カルテックス 5、丸尾カルシウム社製、平均一次粒子径:0.9μm)を、表1の配合例(o)〜(u),(y),(z)の微細フィラー(B)として、そのまま使用した。当該品は、重質炭酸カルシウムをステアリン酸アルミニウムで、10000:15の配合割合で、表面処理したものである。
【0113】
<疎水性表面を有する微細フィラーの調製例4>
市販の二酸化チタン(商品名:タイペーク A−100、石原産業社製、平均一次粒子径:0.15μm)を、表1の樹脂組成物の配合例(a),(b)に用いる微細フィラー(C)として、そのまま使用した。当該品は、二酸化チタンをステアリン酸で、95:5の配合割合で、表面処理したものである。
【0114】
<親水性表面を有する微細フィラーの調製例1>
市販の二酸化チタン(商品名:タイペーク CR60、石原産業社製、平均一次粒子径:0.21μm)を、表1の樹脂組成物の配合例(c)〜(r),(u),(v),(y)〜(zz)に用いる微細フィラー(D)として、そのまま使用した。当該品は、ルチル型二酸化チタンを水酸化アルミニウムで、95:5の配合割合で、表面処理したものである。
【0115】
<親水性表面を有する微細フィラーの調製例2>
市販の親水性表面処理炭酸カルシウム(商品名:AFF−Z、ファイマテック社製、平均一次粒子径:1.0μm)を、表1の樹脂組成物の配合例(s),(t),(w),(x)に用いる微細フィラー(E)として、そのまま使用した。当該品は、重質炭酸カルシウムをジアリルアミンコポリマー及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムで、100:4.8の配合割合で、表面処理したものである。
【0116】
【表1】
【0117】
[樹脂組成物の作製]
表1の樹脂組成物の配合例(a)に記載の原料を、同表に記載の配合割合で混合して、原料混合物(a)を得た。原料混合物(a)を210℃に設定した2軸混練機にて溶融混練し、次いで230℃に設定した押出機にてストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにて切断して樹脂組成物(a)のペレットを作成した。この樹脂組成物(a)のペレットを、以降の延伸多孔性フィルムの製造例で作製した。樹脂組成物(a)の作製例と同様にして、表1の樹脂組成物配合例(b)〜(zz)の原料を、同表に記載の配合割合で用いて、樹脂組成物(b)〜(zz)のペレットを作製した。
【0118】
[延伸多孔性フィルムの製造]
<延伸多孔性フィルムの製造例1>
樹脂組成物(a)をコア層用として、樹脂組成物(b)を表スキン層用及び裏スキン層用として用い、これらを250℃に設定した3台の押出機でそれぞれ溶融混練し、これを共押出Tダイに導入してダイ内で表スキン層/コア層/裏スキン層となるように積層してシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸3層積層樹脂シートを得た。
【0119】
この無延伸3層積層樹脂シートを、142℃まで加熱した後、多数のロール群の周速差を利用したロール間延伸法にて樹脂シートの搬送方向(縦方向)に5倍の延伸倍率で1軸延伸し、その後60℃にて冷却して1軸延伸された樹脂延伸フィルムを得た。
【0120】
次いで、この1軸延伸された樹脂延伸フィルムを、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて樹脂シートの幅方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで160℃まで加熱して2秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして逐次2軸延伸された2軸/2軸/2軸の3層の、製造例1の延伸多孔性フィルムを得た。樹脂延伸フィルムの搬送速度は、120m/minに制御した。
【0121】
<延伸多孔性フィルムの製造例2〜7,12〜14>
製造例1の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例2〜7,12〜14の延伸多孔性フィルムを得た。
【0122】
<延伸多孔性フィルムの製造例8>
コア層用の樹脂組成物(j)を、250℃に設定した押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸の樹脂シートを得た。
【0123】
この無延伸単層樹脂シートを、142℃まで加熱した後、多数のロール群の周速差を利用したロール間延伸法にて樹脂シートの搬送方向(縦方向)に5倍の延伸倍率で1軸延伸し、その後60℃にて冷却して1軸延伸された樹脂延伸フィルムを得た。
【0124】
次いで、この1軸延伸された樹脂延伸フィルムを、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて、樹脂シートの搬送方向に直交する方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで165℃まで加熱して4秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして逐次2軸延伸された単層の、製造例8の延伸多孔性フィルムを得た。
【0125】
<延伸多孔性フィルムの製造例9,15,16,19〜21>
製造例8の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例9,15,16,19〜21の延伸多孔性フィルムを得た。
【0126】
<延伸多孔性フィルムの製造例10>
コア層用の樹脂組成物(k)を、250℃に設定した押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸の樹脂シートを得た。
【0127】
この無延伸単層樹脂シートを、140℃まで加熱した後、多数のロール群の周速差を利用したロール間延伸法にて樹脂シートの搬送方向(縦方向)に5倍の延伸倍率で1軸延伸し、その後60℃にて冷却して1軸延伸された樹脂延伸フィルムを得た。
【0128】
次いで、スキン層用の樹脂組成物(l)を、250℃に設定した2台の押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、上記の1軸延伸された樹脂延伸フィルムの両面に積層して3層構造の積層物を得た。
【0129】
次いで、この3層積層物を、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて、樹脂シートの幅方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで160℃まで加熱して2秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして逐次2軸延伸された1軸/2軸/1軸の3層の、製造例10の延伸多孔性フィルムを得た。樹脂延伸フィルムの搬送速度は、120m/minに制御した。
【0130】
<延伸多孔性フィルムの製造例17>
製造例10の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例17の延伸多孔性フィルムを得た。
【0131】
<延伸多孔性フィルムの製造例11>
コア層用の樹脂組成物(l)を、250℃に設定した押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸の樹脂シートを得た。
【0132】
次いで、この無延伸単層樹脂シートを、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて、樹脂シートの幅方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで160℃まで加熱して2秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして横1軸延伸された単層の、製造例11の延伸多孔性フィルムを得た。樹脂シートと樹脂延伸フィルムの搬送速度は、120m/minに制御した。
【0133】
<延伸多孔性フィルムの製造例18>
製造例11の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例18の延伸多孔性フィルムを得た。
【0134】
<延伸多孔性フィルムの製造例22>
製造例8の延伸多孔性フィルムと同様にして、樹脂組成物(zz)を用いて、表2に記載の延伸条件にて、延伸多孔性フィルムを得ようとしたが、テンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて樹脂シートの幅方向(横方向)に延伸した際に、フィルムの破断が多発し、安定して延伸多孔性フィルムを得ることができなかった。そのため製造例22の延伸多孔性フィルムについては後述する評価は行っていない。
【0135】
<実施例1>
製造例1の延伸多孔性フィルムの両面に、コロナ放電処理装置(機器名:HF400F、春日電気社製)で、連続的にコロナ放電処理を施した。処理条件は長さ0.8mのアルミニウム製放電電極と、絶縁ロールとしてシリコーン被膜ロールとを用い、放電電極と絶縁ロールとのギャップを5mm、ライン処理速度を15m/分、印加エネルギー密度を4,200J/m
2とした。続いて、金属ニップロールを用いて後述する表面処理剤を塗布した後、80℃で熱風乾燥してロール状に巻き取った。このようにして、製造例1の延伸多孔性フィルムに表面処理を行うことにより、実施例1の延伸多孔性フィルムを得た。
【0136】
表面処理剤としては、4級アンモニウム塩系ポリマー(三菱化学(株)製、商品名:サフトマーST−1000)固形分0.5質量%、プロピレンオキサイド変性ポリエチレンイミン(日本触媒(株)製、商品名:エポミンPP−061)固形分濃度0.5質量%、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)製、商品名:WS4002)固形分濃度0.5質量%の水溶液を用いた。
【0137】
<実施例2〜12,14,15,比較例1〜5>
製造例1の延伸多孔性フィルムに代えて、表2に示す製造例2〜17の延伸多孔性フィルムを用いた以外は、実施例1と同様に表面処理を行い、実施例2〜12,14,15,比較例1〜5の延伸多孔性フィルムを得た。実施例3のポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、表面のぬれ張力が39mN/mであった。
【0138】
<実施例13,比較例6,7>
表2に示す製造例3,18,19の延伸多孔性フィルムをそのまま用いて、表面処理を行わなかったものを、実施例13,比較例6,7の延伸多孔性フィルムとした。実施例13のポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、表面のぬれ張力が41mN/mであった。
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
[評価]
表2,表3に延伸多孔性フィルムの製造条件、物性、及び評価結果をまとめて示す。
表3に示すとおり、ステアリン酸亜鉛処理によって表面を疎水化した微細フィラーを含む実施例1の延伸多孔性フィルムは、難透水性と透湿性とを兼ね備えたものなっている。さらに、疎水性表面を有する微細フィラーと、水酸化アルミニウム処理によって親水性表面を有する微細フィラーとを含む実施例2の延伸多孔性フィルムは、実施例1よりも透湿度が高まり、難透水性と透湿性とを兼ね備えたものなっている。
【0142】
また、ステアリン酸アルミニウム処理によって疎水性表面を有する微細フィラーと、親水性表面を有する微細フィラーとを含む実施例3〜15の延伸多孔性フィルムも同様に、難透水性と透湿性とを兼ね備えたものなっている。
【0143】
これに対し、疎水性表面を有するが粒子径が粗大な炭酸カルシウムを多く含む比較例1〜5は、難透水性と透湿性の両立が困難であった。たとえば比較例1では全体ボイドに対して連通ボイドの割合が比較的に高く、比較例2〜5は、逆に連通ボイドが乏しいことが分かる。
また、比較例6、7は、疎水性表面を有する微細フィラーを含まないものであり、透水度の値がきわめて低く、水がきわめて浸透しやすいものであることが分かる。
【0144】
ここで、実施例1〜15、比較例6の延伸多孔性フィルムは、全体ボイド率から、フィルムの内部に十分にボイドが形成されていることが分かる。さらに、連通ボイド率、及び(連通ボイド率/全体ボイド率)から、連通ボイドが良好に形成されていることが分かる。このとき、実施例1〜15の延伸多孔性フィルムは透水度及び透湿度が適切な値を示すのに対して、比較例6の延伸多孔性フィルムは透水度がきわめて高いことから、実施例1〜15では、連通ボイドを通じた水の透過を、疎水性表面を有する微細フィラーによって制御できていることが分かる。またさらに、実施例1〜15の延伸多孔性フィルムは、ρ
s−ρ
wが所定の範囲であることにより、難透水性を発揮するものとなっている。
【0145】
実施例3、10、12を対比すると、密度ρ
wが0.45g/cm
3より低いと透水度が低く(水を浸透しやすく)、透湿度が高く(水蒸気を通しやすく)なる傾向があり、密度が0.7g/cm
3より高いと透水度が高く、透湿度が低くなる傾向にあることがわかる。