(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記弾性部材が、前記スライド部材が前記開位置と前記閉位置との間の位置にあるとき、前記スライド部材に、前記スライド部材が前記アーチワイヤスロットから離れて移動する方向に付勢力を加えるように構成されている、請求項1に記載の歯列矯正ブラケット。
前記スライド部材が、前面を有し、前記スライド部材が前記閉位置にあるとき、前記前面と前記第1のスロット面及び前記第2のスロット面のうちの一方との間には、空隙が形成される、請求項7に記載の歯列矯正ブラケット。
前記弾性部材が、前記スライド部材が前記開位置と前記閉位置との間の位置にあるとき、前記スライド部材に、前記スライド部材が前記アーチワイヤスロットから離れて移動する方向に付勢力を加えるように構成されている、請求項9に記載の歯列矯正ブラケット。
前記ブラケット本体の前記開口が、前記アーチワイヤスロットにほぼ平行な平面に対して非対称的であり、前記スライド部材の移動方向で前記弾性部材を摺動可能に受けるように構成されている、請求項9に記載の歯列矯正ブラケット。
前記スライド部材が、前面を有し、前記スライド部材が前記閉位置にあるとき、前記前面と前記第1のスロット面及び前記第2のスロット面のうちの一方との間には、空隙が形成される、請求項15に記載の歯列矯正ブラケット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、セルフライゲーティングブラケットは概ね成功しているが、そのようなブラケットの製造業者は引き続きブラケットの使用および機能の改善に努めている。この点において、歯列矯正治療の最終段階などの歯列矯正治療中の回転調整を改善するセルフライゲーティング歯列矯正ブラケットに対する必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
既存のブラケットの上記の弱点およびその他の弱点に対処する歯列矯正ブラケットは、歯に取り付けられるように構成されたブラケット本体を含む。ブラケット本体は、アーチワイヤを受け入れるように構成されたアーチワイヤスロットを有する。スライド部材は、アーチワイヤスロットに対して開位置と閉位置との間を摺動可能である。歯列矯正ブラケットは、スライド部材に結合されかつスライド部材と一緒に摺動可能である弾性部材を含む。弾性部材は、スライド部材が開位置にあるときにはブラケット本体の第1の部分に係合し、スライド部材が閉位置にあるときにはブラケット本体の第2の部分に係合するように構成されている。ブラケット本体の第2の部分は、ブラケット本体の第1の部分とは異なる。弾性部材は、スライド部材が閉位置にあるとき、スライド部材に、スライド部材がアーチワイヤスロットに向かって移動する方向に付勢力をかけるように構成されている。
【0008】
一実施形態では、弾性部材は、スライド部材が開位置と閉位置の中間位置にあるとき、スライド部材に、スライド部材がアーチワイヤスロットから離れて移動する方向に付勢力をかけるように構成されている。
【0009】
一実施形態では、スライド部材は、弾性部材の一部分を受け入れるように構成された孔を含み、ブラケット本体は、弾性部材の別の部分を受け入れるように構成された開口を含む。孔内の弾性部材の部分の軸は、スライド部材が閉位置にあるとき、開口内の弾性部材の軸からずれる。
【0010】
一実施形態では、ブラケット本体は、アーチワイヤスロットに実質的に平行な平面に対して非対称的な開口をさらに含み、かつ弾性部材を摺動可能に受け入れるように構成されている。
【0011】
一実施形態では、開口は、ブラケット本体の第1の部分および第2の部分を含む。第1の部分は、弾性部材の滑り移動中に弾性部材の通過を制限するピンチポイントによって第2の部分から分離される。
【0012】
一実施形態では、第1の部分は中央部分によって第2の部分から分離される。第1の半径が第1の部分を画定し、第2の半径が第2の部分を画定する。中央部分は、第1のセグメントと、第1のセグメントと向かい合う第2のセグメントとを含む。第1のセグメントは、第1の半径に接し、かつ第2の半径に接する。第2のセグメントは、第1の半径に接し、第1のセグメントを横断する。
【0013】
一実施形態では、第2のセグメントの突起が第1の部分とアーチワイヤスロットとの間の位置で第1のセグメントまたはその突起と交差し、第1のセグメントと約60°以下の角度を形成する。
【0014】
一実施形態では、第2のセグメントの突起が第1のセグメントまたはその突起と交差し、第1のセグメントと約10°から約30°の間の角度を形成する。
【0015】
一実施形態では、ブラケット本体はダブテール形部分を含み、スライド部材は、ダブテール形部分を受け入れるように構成された中央部分を含む。ダブテール形部分および中央部分は、スライド部材が少なくとも閉位置にあるとき、歯から離れる方向へのスライド部材の移動を制限する締り嵌めを形成するように構成されている。
【0016】
一実施形態では、アーチワイヤスロットは、ベース面と、各々がベース面から外側に延びる、第1のスロット面および反対側の第2のスロット面とを含む。ブラケット本体は、弾性部材が摺動可能なスライドトラックを画定する開口を含む。スライドトラックの突起が、ベース面またはその突起と鋭角を形成する。
【0017】
一実施形態では、スライド部材は前面を有し、スライド部材が閉位置にあるときには、前面と第1のスロット面および第2のスロット面のうちの一方との間に空隙が形成される。
【0018】
一実施形態では、ブラケット本体は、スライドトラックに対して正面接触角に向けられたショルダをさらに含み、スライド部材は、スライド部材が閉位置に来たとき、ショルダに当接する。
【0019】
一実施形態では、ショルダはアーチワイヤスロットのベース面に平行である。
【0020】
一実施形態では、スライド部材は前面を有し、かつスライド部材はショルダに当接し、それによって前面がブラケット本体の向かい合う部分に接触するのを防止する。
【0021】
添付の図面は、本明細書に組み込まれかつ本明細書の一部を構成しており、本発明の実施形態を示し、上記における本発明の概略的な説明および以下の詳細な説明と一緒に、本発明について説明する働きをする。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面、特に
図1および
図2を参照すると、歯列矯正ブラケット10は、ブラケット本体12と、ブラケット本体12に結合された可動式閉鎖部材とを含む。一実施形態では、可動式閉鎖部材は、ブラケット本体12に摺動可能に結合されたスライド部材またはライゲーティングスライド14を含んでもよい。ブラケット本体12には、アーチワイヤ18(仮想線で示されている)を受け入れて歯に矯正力をかけるように構成されたアーチワイヤスロット16が形成されている。ライゲーティングスライド14は、アーチワイヤ18がアーチワイヤスロット16内に保持される閉位置(
図1)とアーチワイヤ18をアーチワイヤスロット16に挿入することができる開位置(
図2)との間を移動可能である。ブラケット本体12とライゲーティングスライド14は協働して、歯列矯正治療に使用される歯列矯正ブラケット10を形成する。
【0024】
上記のことに加えて、歯列矯正ブラケット10は、ライゲーティングスライド14に結合されブラケット本体12の少なくとも一部分に係合するように構成された弾性部材をさらに含む。以下により詳しく説明するように、弾性部材は、一実施形態では管状のピン20(
図2に示されている)を含み、ライゲーティングスライド14の滑り方向または並進運動方向にライゲーティングスライド14を付勢するための力を発生させる。弾性部材は本明細書では管状のピンとして示されているが、本発明はこの特定の構成に限定されず、本明細書に開示される発明により他の弾性部材が構成されてもよい。後述のように歯列矯正ブラケット10の構造上の特徴に伴う付勢力を加えると、アーチワイヤスロット16の公差ばらつきの影響が低減されると考えられる。公差ばらつきを制限することによって、アーチワイヤスロット16の使用寸法をより厳密に知ることができる。これによって最終的に、臨床医は、歯列矯正ブラケット10による歯の移動をより厳密に予測し調整することができる。歯の移動に対する臨床医の調整を改善すると、特定の患者の治療時間がかなり短縮されることが了解されよう。
【0025】
歯列矯正ブラケット10については、別段の指示がないかぎり、本明細書では、下顎の前歯の舌側表面に取り付けられる基準フレームを使用して説明する。したがって、本明細書では、ブラケット10について説明するのに使用される唇側、舌側、近心、遠心、咬合、および歯肉は、選択された基準フレームに対する語である。しかしながら、本発明の実施形態は、選択された基準フレームおよび記述用語に限定されず、歯列矯正ブラケット10は他の歯に使用されてもよく、口腔内の他の向きに使用されてもよい。たとえば、ブラケット10は、歯の唇側表面に結合されてもよく、その場合も本発明の範囲内である。当業者は、本明細書で使用される記述用語が、基準フレームが変更されるときには直接適用されない場合があることを認識されよう。それにもかかわらず、本発明の実施形態は、口腔内の位置および向きとは無関係であり、歯列矯正ブラケットの実施形態について説明するのに使用される相対語は、図面において実施形態について単に明確に説明するための語である。したがって、相対語の唇側、舌側、近心、遠心、咬合、および歯肉は、本発明を特定の位置または向きに限定するものではない。
【0026】
ブラケット本体12は、(
図1に示されている)患者の下顎に載せられて歯Tの舌側表面に取り付けられたとき、特に
図3を参照すると、舌側22、咬合側24、歯肉側26、近心側28、遠心側30、および唇側32を有する。ブラケット本体12の唇側32は、たとえば適切な歯列矯正用セメントまたは接着剤あるいは隣接する歯の周りのバンドなどの任意の従来法によって歯に固定されるように構成されている。
図1〜
図3に示す一実施形態では、唇側32は、歯Tの表面に固定された接着ベースを画定するパッド34をさらに備えてもよい。パッド34は、別個の部材または要素としてブラケット本体12に結合されてもよく、あるいはブラケット本体12と一体的に形成されてもよい。さらに、パッド34は、特に、特定の舌側歯面の表面にぴったりと接触するように形作られてもよい。したがって、パッド34は、
図1〜
図3に示す構成とは異なる多数の構成を有してもよい。本発明の実施形態がパッド34の任意の特定の構成に限定されないことが諒解されよう。
【0027】
図1および
図2を参照すると、ブラケット本体12は、ベース面36と、近心側28から遠心側30への近心側から遠心側方向に延びることのできるアーチワイヤスロット16を集合的に画定する、ベース面36から舌側に突き出る互いに向かい合う一対のスロット面38、40とを含む。ベース面36およびスロット面38、40は、ブラケット本体12の材料内に実質的に封止されるかまたは埋め込まれる。一実施形態では、ベース面36およびスロット面38、40のうちの1つまたは複数は、対応するくぼみ42、44、および46によって分離することのできる対応するレール36a、36b、38a、38b、40a、および40bによって画定される。任意の一対のレール36aおよび36b、38aおよび38b、ならびに40aおよび40b(
図3)が、対応するアーチワイヤスロット面36、38、および40に沿ってブラケット本体12とアーチワイヤ18との間に2つの接触点を形成することが諒解されよう。
【0028】
図3に示すように、一実施形態では、ブラケット本体12は、ライゲーティングスライド14を受け入れるように構成されたスライド支持部分48をさらに含む。スライド支持部分48は、全体的にパッド34から舌側に突き出てもよくあるいはパッド34に垂直に向けられてもよい。スライド支持部分48は、閉位置から開位置への並進運動の少なくとも一部分においてライゲーティングスライド14に摺動可能に係合する支持面50を画定する。
図1に示すような舌側適用例では、支持面50は、アーチワイヤスロット16の咬合側に位置し、概ね咬合側から歯肉側方向に延びる。
【0029】
次に
図4を参照すると、スライド支持部分48は唇側から舌側方向において先細りにされてもよい。図示の構成では、スライド支持部分48は、パッド34の近接位置における近心側から遠心側の第1の幅W1と、支持面50に近接する近心側から遠心側の第2の幅W2とを有してもよい。楔形またはダブテール形を形成するように、幅W2は幅W1よりも大きくてもよい。ダブテール形は、以下により詳しく説明するように幅W2とスライド14のチャネルの最も狭い寸法との間の締り嵌めによるブラケット本体12に対するスライド14の唇側から舌側方向への移動を抑制するかまたはその移動に抵抗してもよい。スライド支持部分48の楔形構成は、弾性部材20に何らかの形で不具合が生じた場合にライゲーティングスライド14をブラケット本体12上に保持するのを助けることができると考えられる。支持面50は、図示のように弧状構成を有してもよいが、本明細書で開示するように本発明から逸脱せずに平面状であるかまたは他の構成を有してもよい。
【0030】
図5を参照すると、スライド支持部分48は、近心側から遠心側方向における貫通孔として形成された開口52を含む。開口52は、弾性部材20の長手方向軸がアーチワイヤスロット16と概ね平行に延びかつ近心側から遠心側方向に延びるように位置してもよい。一実施形態では、開口52は、
図2に示す矢印54によって示されるような滑り運動の方向に垂直な平面に対する概ね非対称的な孔である。開口52は、不規則な構成を有するものとして記載されてもよい。
【0031】
以下に詳しく説明するように、開口52は、弾性部材20に摺動可能に係合してライゲーティングスライド14を滑り並進運動方向に付勢するように構成されている。特に、
図1に示すように、スライド14が閉位置に来ると、開口52は、弾性部材20およびスライド14と連動してスライド14に対して歯肉側方向(たとえば、閉鎖方向)に正味の力を加える。次いで、スライド14が閉位置から離れて、または
図1による咬合側方向に、もしくは開位置に向かって移動できるようになる前に、後述の他の力に加えて、この正味の力に打ち勝たなければならない。正味の力は、スライド14をブラケット本体12に対して固定されたより安定した位置に維持し、それによって、より一定の唇側から舌側アーチワイヤスロット寸法を維持する。言い換えれば、唇側から舌側方向における積み重ね公差が低減されるかまたはなくなる。
【0032】
図5に示すように、開口52は、咬合側24の近くに第1のローブ部分56を含んでもよい。一例としてのみ、第1のローブ部分56は開口52の一部分に沿って概ね円形の周縁を画定してもよい。ローブ部分56は軸58および半径R1によって画定されてもよい。開口52は、アーチワイヤスロット16の近くに第2のローブ部分60をさらに含んでもよい。第1のローブ部分56と同様に、第2のローブ部分60は、軸62および半径R2を有する概ね円形の周縁によって画定されてもよい。
【0033】
一実施形態では、開口52は、第1のローブ部分56と第2のローブ部分60との間に位置し、第1のローブ部分56と第2のローブ部分60を連結する中央部分64を含んでもよい。中央部分64は、第1のローブ部分56に接しかつ第2のローブ部分60にも接する第1のセグメント66を含んでもよい。第1のローブ部分56、第2のローブ部分60、および第1のセグメント66は全体として、弾性部材20のスライドトラック70を画定してもよい。
図5に概略的に示すように、スライドトラック70の突起は、アーチワイヤスロット16のベース面36と鋭角θ1を形成してもよい。
【0034】
さらに、中央部分64は、第1のセグメント66と向かい合う第2のセグメント68を含んでもよい。第2のセグメント68は、第1のローブ部分56と接してもよいが、第2のセグメント68の延長部が第2のローブ部分60と(接するのではなく)交差するような方向に延びてもよい。第2のセグメント68は、さらに延ばされることによって第1のセグメント66と交差する。第1のセグメント66と第2のセグメント68との間に形成される角度は、約60°以下であってもよく、ブラケット10が固定される特定の歯に依存してもよい。一例として、第2のセグメント68を第1のセグメント66に対して約10°から約30°の間の角度に傾斜させてもよく、さらなる例として、第1のセグメント66に対して約19°から約21°の間の角度に傾斜させてもよい。
【0035】
一実施形態では、中央部分64の第1のセグメント66および第2のセグメント68の向きは、第1のローブ部分56と第2のローブ部分60との間に拘束点またはピンチポイント72を形成する。ピンチポイント72は概して、第1のローブ部分56と第2のローブ部分60との間の開口52の狭窄部である。このことは、第1のローブ部分56および第2のローブ部分60の最大高さ(または唇側から舌側)寸法の各々よりも小さい寸法へと、開口52が狭くなることを含み得る。限定ではなく一例としてのみ、第1のローブ部分56および第2のローブ部分60の各々が全体として、それぞれ半径R1およびR2を有する円形孔を画定する場合、ピンチポイント72は、第1のセグメント66と、第1のセグメント66と向かい合い第1のセグメント66に最も近い中央部分64の部分との間の垂直距離として測定されてもよい。この垂直距離は、第1のローブ部分56の直径よりも小さいかあるいは第2のローブ部分60の直径よりも小さいかあるいは第1のローブ部分56および第2のローブ部分60の直径の各々よりも小さくてもよい。さらに、この寸法は、第1のローブ部分56または第2のローブ部分60のいずれかの直径よりも少なくとも5%小さいかあるいは約10%から約20%までの範囲内の割合だけ小さくてもよい。一実施形態では、半径R2は半径R1よりも小さく、ピンチポイント72はR2の2倍よりも小さいサイズに設定される。限定ではなく一例としてのみ、半径R2は半径R1よりも約5%〜約15%小さくてもよい。例示的な実施形態では、半径R1は約0.010インチであってもよく、半径R2は約0.009インチであってもよく、ピンチポイント72は約0.017インチであってもよい。
【0036】
上記に記載したように、開口52は非対称的であってもよい。この非対称性は、ピンチポイント72が開口52の全長の中間点からずれていることによるものであってもよい。
図5に示すように、ピンチポイント72は第2のローブ部分60の方へずれている。このずれのみに基づいて、開口52は、開口52の全長の垂直2等分線を形成する平面に対して非対称的である。さらに、第1のローブ部分56および第2のローブ部分60が概ね円形である実施形態では、対応する半径寸法の差によって、開口52にも非対称性が生じる。開口52の非対称性によって、スライド14の運動において明確な触覚応答を生じさせてもよい。特に、以下に詳しく記載するように、開口52の非対称性によって、臨床医は、スライド14が閉位置に来たことを示す明確な「カチッ」または「パチン」という音を知覚することができる。
【0037】
引き続き
図4および
図5を参照すると、本発明の一実施形態では、ブラケット本体12は、スライドトラック70に対して斜めに向けられた少なくとも1つのショルダ74を有する。ショルダ74は、スライド支持部分48から概ね近心側方向または遠心側方向に延びてもよい。しかし、実施形態が図示の構成のショルダ74に限定されないことが諒解されよう。この点に関して、スライド14に当接する表面は、スライドトラック70に垂直に向けられた少なくとも1つの構成要素を有する別の表面を含んでもよい。
【0038】
図示の例示的な実施形態では、近心側ショルダ74と遠心側ショルダ76の2つのショルダがある。一方のショルダ74、76がスライド支持部分48の各側面から延びる。
図4および
図5を参照すると、近心側ショルダ74および遠心側ショルダ76は、スライドトラック70に対して傾斜しており、概ね咬合側方向を向いている。一例として、ショルダ74、76の一方または両方の相対的な向きは、スライドトラック70に対するベース面36の向きと同様であってもあるいは同じであってもよい。一実施形態では、各ショルダ74、76は概ねベース面36に平行である。
図7に示すように、ショルダ74、76の一方または両方は、スライド14が閉位置に来たときに配置される止め具を形成してもよい。
【0039】
図3および
図6を参照すると、ライゲーティングスライド14は概ねU字形構成である。ライゲーティングスライド14は、全体としてスライドチャネル84を間に画定する、第1の脚部または近心部分80と第2の脚部または遠心部分82とを含む。スライドチャネル84は、スライド支持部分48と摺動可能に協働するように寸法が定められる。一実施形態では、
図6に示すように、スライドチャネル84は、近心部分80および遠心部分82の各々の最も唇に近い縁部に隣接する互いに向かい合う突起86、88のところで最も幅が狭い。したがって、スライドチャネル84は、ブラケット本体12のスライド支持部分48の形状と相補的なまたはスライド支持部分48の形状と対応する楔形構成またはダブテール構成を有してもよい。
【0040】
一実施形態では、突起86、88間の距離は、スライド支持部分48の幅W2(
図4に示されている)よりも短いが、幅W1よりもわずかに長い。この場合、スライド14は、ブラケット本体12の咬合側24からアーチワイヤスロット16に向かう方向への滑り運動によってブラケット本体12に組み付けられる。このことは概ね
図3に矢印90によって示されている。上記に記載したように、スライド支持部分48の楔形構成またはダブテール構成は、スライドチャネル84の同様の楔形構成またはダブテール構成と協働して、弾性部材20に不具合が生じた場合にスライド14が偶然にブラケット本体12から外側すなわち舌側方向に外れるのを抑制またはなくす。
【0041】
図6を参照すると、近心部分80、遠心部分82の各々は、弾性部材20を受け入れる少なくとも1つの貫通孔を含む。図示のように、近心部分80は近心貫通孔92を含み、遠心部分82は遠心貫通孔94を含む。孔92、94は共通軸95を共有する。
図3に示すように、弾性部材20は、軸95に沿って貫通孔92から開口52を通って反対側の孔94入るように位置付けられる。この構成によって、弾性部材20は、開位置と閉位置の一方または両方においてライゲーティングスライド14をブラケット本体12に固定するための機構を形成することができる。一実施形態では、弾性部材20は、ブラケット本体12と協働し、特に、開口52内を延びて、開位置および閉位置の各々においてスライド14をブラケット本体12に固定する。孔92および孔94が弾性部材20の直径または同等の寸法よりもわずかに大きいサイズを有してもよいことが諒解されよう。一例として、孔92、94は、弾性部材20の対応する最大外径よりも寸法が約0.002インチ大きくてもよい。さらなる例として、孔92、94は弾性部材20の対応する外径よりも約10%から約20%大きくてもよい。
【0042】
一実施形態では、ライゲーティングスライド14は、それぞれ近心部分80および遠心部分82の各々の最も舌に近い部分に沿って形成された近心側係合部分96および遠心側係合部分98を含む。
図1および
図7に示す一実施形態では、係合面96、98の各々の一部分は、ライゲーティングスライド14が閉位置に来たとき、ベース面36と向かい合い、それによって、アーチワイヤスロット16の第4の側を形成する。この点に関して、
図1に示す実施形態では、係合面96、98は、歯列矯正治療中にアーチワイヤ18をアーチワイヤスロット16に捕捉するためのアーチワイヤスロット16の舌側境界を形成する。
【0043】
さらに、一実施形態では、係合面96、98は、ライゲーティングスライド14が閉位置に来たとき、近心側ショルダ74および遠心側ショルダ76に当接する。上述のように、弾性部材20は、スライド14をその並進運動方向に付勢することができる。このことは、スライド14をアーチワイヤスロット16に向かう方向に付勢することを含んでもよい。ライゲーティングスライド14を弾性部材20によってスライド14の運動方向に付勢することができるので、アーチワイヤスロット16の深さを概ね唇側から舌側方向に設定する際には、もはやライゲーティングスライド14の公差ばらつきは無関係である。これは、ライゲーティングスライド14が、通常の歯列矯正中には、公差ばらつきの大きさとは無関係に、常にブラケット本体12のショルダ74、76に係合するからである。したがって、依然として製造時に考慮し監視しなければならない公差ばらつきは、ショルダ74、76をアーチワイヤスロット16のベース面36に対して位置付ける際の公差である。有利なことに、これによって、積み重なって最終的に概ね唇側から舌側方向におけるアーチワイヤスロット16の深さを決定する公差の数が少なくなり、それによって、ブラケット本体12およびライゲーティングスライド14によって形成されるルーメンとアーチワイヤ18とのより安定した嵌め合いが実現される。歯の回転調整が、歯列矯正治療中、より安定的に維持され予測可能になり得ると考えられる。
【0044】
さらに、
図1、
図6、および
図7に示すように、一実施形態では、係合面96、98がアーチワイヤスロット16の全幅または全垂直距離にわたって延びることはない。この点に関して、近心部分80および遠心部分82は、概ね舌側に向けられた前面100、102をさらに含む。図示の実施形態では、
図7に最もよく示されているように、前面100、102は、ブラケット本体12の互いに向かい合う表面には当接しない。たとえば、表面100、102は、向かい合うスロット面40、またはレール40a、40bが存在する場合にはレール40a、40bのいずれにも接触しない。したがって、この位置におけるブラケット本体12とライゲーティングスライド14との間に空隙104が残る。空隙104は、ライゲーティングスライド14が常にベース面36と相対的に位置し、レール36a、36bが存在するときにはレール36a、36bと相対的に位置するように意図的でありかつ必要なものであってもよい。
【0045】
この位置に空隙を設けることによって、治療中のライゲーティングスライド14の係合面96、98とブラケット本体12のショルダ74、76との接触する確率または可能性が高くなる。ライゲーティングスライド14とブラケット本体12との他の接触点の数を減らすと、ブラケット本体12に対するライゲーティングスライド14の位置付けがより安定したものになる可能性が高くなることが諒解されよう。具体的には、他の位置との接触を制限するかまたは他の位置に組み込み空隙を設けると、係合面96、98とショルダ74、76とが常に接触する確率が高くなる。一例として、空隙104は少なくとも約0.001インチであってもよく、さらなる例として、約0.001インチから約0.005インチまでの範囲であってもよい。しかしながら、空隙104の最大寸法が、アーチワイヤ18をアーチワイヤスロット16内に捕捉するのに必要な係合面96、98の最小伸びによってのみ制限されてもよいことが諒解されよう。
【0046】
さらに
図6を参照すると、スライド14とブラケット本体12との間に別の空隙または隙間を設けてもよい。一実施形態では、近心部分80および遠心部分82の各々は表面105および106によって画定される。
図7に示すように、表面105および106は、ライゲーティングスライド14が閉位置に来たとき、パッド34と向かい合うがパッド34と摺動可能に係合または接触することはない。この点に関して、ライゲーティングスライド14とパッド34との間に、具体的には、表面105とパッド34との間および表面106とパッド34との間に組み込み空隙108がある。限定ではなく一例として、上記に記載したように、空隙108は、表面100、102とスロット面40との間の空隙104と同様な寸法を有してもよい。具体的には、空隙108は、ライゲーティングスライド14が閉位置に来たとき、少なくとも約0.001インチであってもよく、さらなる例として、約0.001インチから約0.005インチであってもよい。
【0047】
一実施形態では、スライド14は、舌側に向けられた2つの表面のみに沿ってブラケット本体12に接触する。一方の接触面は支持面50であり、他方の接触面は一方のショルダ74または76である。両方のショルダ74、76がスライド14に接触する場合、スライド14とブラケット本体12との間の接触面は3つだけである。限られた数の接触点のみを設けることによって、上記に記載したように、ブラケット本体12に対するスライド14の位置がより安定した位置になる。
【0048】
一実施形態では、
図5に示すように、ブラケット本体12は器具隙間用くぼみ110を含む。
図5に示すように、くぼみ110は、スライド支持部分48の舌側表面に支持面50に隣接して形成される。この点に関して、支持面50はスライド支持部分48の一部分のみにわたって延び、くぼみ110はその残りの部分を形成する。くぼみ110は概ね、支持面50から唇側にずらされた平面として構成されてもよい。くぼみ110は、スライド14と協働して、スライド支持部分48とスライド14を開位置に向かって移動させるための器具(不図示)との間に隙間を形成する。
【0049】
この実施形態では、
図6を参照すると、ライゲーティングスライド14は、前面100、102に形成され概ね咬合側24に向かう方向に延びる器具用くぼみ112をさらに含む。器具用くぼみ112は、スライド14が閉位置に来たとき、より大きい隙間の領域をスライド14とブラケット本体12との間に形成する。器具用くぼみ112は、ライゲーティングスライド14を開くための器具(不図示)を受け入れるように構成されている。したがって、器具用くぼみ112には、Ormco Corporationから市販されているSpin Tek(登録商標)器具または同様の器具などの器具(器具は、歯の舌側表面に接近するように構成されてもよい)を概ねアーチワイヤスロット16と一致する方向に挿入してもよい。器具を挿入方向から90°回転させると、器具がスロット面40のところまたはその近くでブラケット本体12に強く作用し、スライド14を開位置に向かって押す。くぼみ110は、器具用くぼみ112と連絡するような寸法を有し、したがって、器具は、スライド14を開位置に向かって移動させ、器具を器具用くぼみ112への挿入時の器具の向きから完全に90°回転させたとき、ブラケット本体12から離れる。くぼみ110および器具用くぼみ112の相対的な位置は
図8Aに最もよく示されている。
【0050】
さらに、一実施形態では、
図7を参照すると、ブラケット本体12は歯肉側タイウィング(gingival tie wing)114を含んでもよい。ライゲーティングスライド14もタイウィング116を含んでもよい。互いに向かい合うタイウィング114、116が、臨床医が治療中に、スライド14に追加的な圧力を加えてスライド14をブラケット本体12に対するように、閉位置に維持するためにたとえば結紮線を係合させることのできる領域を形成し得ることが諒解されよう。
【0051】
上述のように、一実施形態では、
図3に示すように、弾性部材20は概ね、円形断面を有する管状であってもよい。この断面は連続的であってもよく、すなわち、管状の弾性部材20はその側壁にスロットまたはその他の不連続部分を有さなくてもよい。この点に関して、スロット付きの管状のばねピンとは異なり、弾性部材20が弾性変形したときの弾性部材20の周縁は概ね維持される。部材20は、孔92、94内に嵌り、開口52を通過するような寸法を有してもよい。例示的な実施形態では、弾性部材20はニッケルチタン(NiTi)超弾性材料で構成されてもよい。一例として、あるNiTi組成は、約55重量%のニッケル(Ni)と約45重量%のチタン(Ti)と少量の不純物とを含み、California州FremontのNDCから市販されている。NiTi合金の機械的特性は、約155ksiを超える最大抗張力と、約55ksiを超える上部プラトー領域と、約25ksiを超える下部プラトー領域とを含んでもよい。弾性部材20の寸法は、ブラケット自体のサイズに応じて異なってもよい。一実施形態では、弾性部材20は概ね、軸118を有し、直径が約0.016インチであり、長さが約0.50インチから約0.125インチである中空の直円柱である。壁厚は、約0.001インチから約0.004インチであってもよく、好ましくは約0.002インチから約0.003インチであってもよい。組立て時には、かしめ、仮付け溶接、レーザ溶接、接着剤、または他の適切な方法を含む様々なプロセスを使用して弾性部材20を孔92、94に圧入または滑り嵌めし、かつ/あるいは孔92、94に固定して孔92、94間の相対的な移動を防止するためにもよい。
【0052】
使用時には、
図8A〜
図8Dに示すように、ライゲーティングスライド14が開位置に来たとき、弾性部材20が開口52の第1のローブ部分56(
図5に示されている)内に位置付けられてもよい。各孔92、94の共通軸95は、第1のローブ部分56の軸58に揃えられてもよい。弾性部材20の軸118は、弾性部材20の断面寸法に応じて軸58に揃えられてもよい。一般に、この位置では、第1のローブ部分56および孔92、94の各々は、概して寸法が弾性部材20よりも大きく、弾性部材20は、弛緩した非変形状態にあり、ライゲーティングスライド14を任意の所与の方向に付勢することができない。しかしながら、弾性部材20は、スライド14に対して
図8Aに矢印120によって示す方向に作用する外力に抵抗することができる。
【0053】
たとえば、ブラケット10を(
図1に示すように)下側前歯の舌側表面に取り付けると、重力によって閉位置の方または
図8Aの矢印120の方向にスライド14を引く傾向がある。中央部分64は、弾性部材20の外径よりも小さい徐々に小さくなる隙間寸法を形成するセグメント68を含むので、矢印120によって示される方向への弾性部材20の移動に干渉する。有利なことに、セグメント68と弾性部材20との干渉は、重力によってスライド14を移動させることができる距離を制限する。したがって、スライド14は実質的に開位置のままである。臨床医が、スライド14を開位置に位置付けた後、既存のアーチワイヤをアーチワイヤスロット16から取り出し、ライゲーティングスライド14が重力の作用の下で自然に閉位置に向かって移動することを気にせずに別のアーチワイヤをアーチワイヤスロット16に挿入し得ることを諒解されたい。
【0054】
さらに、部材20と開口52とを協働させるには、意図的に力を加えてスライド14を閉鎖することが必要になることがある。スライド14を閉位置に向かって移動させる場合、スライド14に最小しきい値力を加えることが必要になることがある。一実施形態では、最小しきい値力はスライド14の送り錘よりも大きい。この実施形態では、スライド14に対する力が最小しきい値力を超えたときにのみ、弾性部材20が閉位置に向かって移動する。スライド14に対する力が最小しきい値力を超えると、弾性部材20が弾性変形する。弾性部材20の弾性変形は、開口52の中央部分64の形状によって決まる。この点に関して、部材20の弾性変形は、開口52と接触する領域に限定されてもよい。弾性変形によって、弾性部材20に生じたひずみが完全に復元され、部材20は、変形力が除去されたとき、元の形状に戻る。
【0055】
図8Bは、スライド14に対する力が、スライド14を閉位置に向かって移動させるのに必要な最小しきい値力を超える例示的な実施形態を示す。スライド14に対する力が弾性部材20を弾性変形させるのに十分である場合、スライド14を閉位置に向かって移動させることができる。スライド14をスライドトラック70に沿って閉位置に向かって連続的に移動させるには、第2のセグメント68の構成に応じて、徐々に大きくなる力が必要であることが諒解されよう。力を大きくする必要がある場合の速度は、中央部分64の形状および弾性部材20の特性によって決定される。
【0056】
図8Bに示す例示的な実施形態の場合、第2のセグメント68は、概ね平面であり、図示のように弾性部材20を変形させるには、少なくとも開運動の一部分にわたってスライド14に対する力を概ね直線的に増大させる必要があると考えられる。弾性部材20は、弾性部材20と第1のセグメント66が接触する領域と弾性部材20と第2のセグメント68が接触する領域との間の距離によって画定される形状に合うように変形してもよい。図示のように、弾性部材20は、部材20の断面形状の変化によって弾性変形してもよい。これには、弾性部材20と開口52が接触する領域において断面が概ね卵形に変化することを含めてもよい。開口52の外側の弾性部材20の部分は、それほど弾性変形せず、したがって、その元の断面形状を保持してもよい。たとえば、孔92、94内の弾性部材20の部分は実質的に円形のままであってもよい。したがって、弾性部材20の弾性変形は、開口52に滑り接触する弾性部材20の個別領域に限定されてもよい。本発明の実施形態が弾性部材20の任意の特定の形態または形状に限定されないことが諒解されよう。
【0057】
図8Cを参照すると、ライゲーティングスライド14は、
図8Bに示すように弾性部材20を変形させるのに必要な力よりも大きい力を受けて閉位置に接近させられる。スライド14に加えられる力は、最初にスライド14を閉位置に向かって移動させるのに必要なしきい値力よりも大きいある力であるとき、弾性部材20をピンチポイント72の寸法に合わせるのに十分である。この大きさの力では、弾性部材20は、開口52と接触する領域において弾性変形し、したがって、弾性部材20は、ピンチポイント72を通過する際に少なくとも部分的に圧搾されてもよい。図示のように、弾性部材20は、卵形の断面に弾性変形してもよい。ピンチポイント72では、弾性部材20の先端部122が第2のローブ部分60内に配置されてもよく、一方、弾性部材20の残りの部分124は中央部分64内に延びる。弾性部材20の一部分が第2のローブ部分60および中央部分64の各々に配置されてもよい。限定ではなく一例として、弾性部材20の一部分が第2のローブ部分60に進入する位置にスライド14を移動させるのに必要な力は約0.1kgf(キログラム重)を超えてもよく、追加的な例として、この力は約0.2kgfから約0.8kgfの範囲または約0.5kgfから約0.7kgfの範囲であってよく、好ましくは約0.6kgfであってもよい。
【0058】
図8A〜
図8Cを参照すると、ライゲーティングスライド14が開位置から離れて移動するとき、しきい値力およびしきい値滑り力に打ち勝つのに必要な力の大きさは開口52の構成に依存する。したがって、この力は、開口52の構成を変更することによって選択的に変化させてもよい。この点に関して、所望の開き力および/または滑り力ならびにその力を大きくする速度を実現するには、第2のセグメント68と第1のセグメント66との交差角度を大きくしてもよい。さらに、ピンチポイント72の位置としては、力増加率を変更するのを可能にするより短い中央部分またはより長い中央部分を実現する位置が選択されてもよい。第1のセグメント66および/または第2のセグメント68の形状は、弾性部材20が中央部分64に位置するとき、滑り力を直線的に増大させるように概ね平面状であってもよい。代替として、可変滑り力を実現するようにセグメント66、68の一方または両方が曲線状にされるかまたは湾曲してもよい(不図示)。開き力および/または滑り力を変化させるための上述の方法は例示的である。
【0059】
次に、
図8Dを参照すると、開き力および/または滑り力が、ピンチポイント72を少なくとも部分的に通過する位置まで弾性部材20を移動させるのに必要な力に達するかまたはそれを超えた後、弾性部材20は残りの距離を自然に滑るかまたは移動して第2のローブ部分60に進入する。すなわち、先端部120および残りの部分124は、さらなる外力がない状態で自然に第2のローブ部分60に進入してもよい。より詳細には、弾性部材20のしきい値相当部分が第2のローブ部分60に進入した後、第2のローブ部分60内への弾性部材20の滑り移動が自然に進行してもよい。この移動には、弾性部材20が第2のローブ部分60内に拡張したとき、「カチッ」または「パチン」という音および/または感触が伴ってもよい。この特徴によって、臨床医は、ライゲーティングスライド14がその閉位置に達しており、歯列矯正治療中に観測される通常の力の下で閉位置に留まることを確認することができる。
【0060】
弾性部材20の弾性性質によって弾性部材20が自然に傾斜して、非変形の形状構成、または少なくともピンチポイント72の近傍の弾性部材20の変形形状構成よりも変形度の低い形態に戻ると考えられる。したがって、弾性部材20のしきい値相当部分が開口52の第2のローブ部分60に進入すると、部材20は自然に(その変形状態による)内部弾性エネルギーを解放することができる。そのような解放によって、ピンチポイント72の近傍に位置する弾性部材20は、さらなる外力を加えずに第2のローブ部分60に進入し第2のローブ部分60を充填する。言い換えれば、スライド14をピンチポイント72に移動させる外力がスライド14に加えられたとき、第2のローブ部分60に進入することができるのは弾性部材20のわずかな部分だけである。弾性部材20は、残りの距離を移動して第2のローブ部分60に進入し、弾性変形がより少ないかまたはまったくない形態に戻る。
【0061】
一実施形態では、弾性部材20に加えられる力が不十分であり、したがって、弾性部材20が第2のローブ部分60に進入しない場合、弾性部材20は、第1のローブ部分56に近接した中央領域64のより大きい領域に徐々に拡張することができるので、スライド14は外力のない状態で開位置に向かって移動することができる。最終的に、弾性部材20は第1のローブ部分56に進入することができる。
【0062】
一実施形態において、
図8Dおよび
図9を参照すると、ライゲーティングスライド14が閉位置に示されている。しかしながら、孔92、94は開口52の第2のローブ部分60に完全に揃ってはいない。特に、スライド14が閉位置にある間、孔92、94は第2のローブ部分60からずれる。このずれは、咬合側方向またはアーチワイヤスロット16から離れる方向に生じることがある。
【0063】
一実施形態では、孔92、94の軸95は、第2のローブ部分60の軸62よりもアーチワイヤスロット16から遠い距離に位置する。それにもかかわらず、ずれ関係が生じても、弾性部材20は自然に第2のローブ部分60内に拡張して、ピンチポイント72によって生じた弾性変形の一部分を解放することができる。すなわち、解放することのできる弾性変形は100%未満である。その結果、弾性部材20は、第2のローブ部分60内に位置するとき、
図9に示すように、軸62と軸95のずれによって弾性部材20の軸118に沿って弾性変形することができる。孔92、94が第2のローブ部分60からずれているときの位置合わせ不足により、弾性部材20が屈曲または湾曲すると考えられる。したがって、弾性部材20は、自然に第2のローブ部分60内に拡張して、開位置からピンチポイント72までの強制移動によって蓄積された弾性変形エネルギーを解放することができる一方、閉位置においてある程度の弾性変形を保持することができる。しかしながら、弾性変形の量はピンチポイント72において観測される量よりも少なくなり得る。
【0064】
上記に記載したように、スライド14が閉位置(
図8D)に来た後、弾性部材20が弾性変形することによってスライド14がスライド14の運動方向、たとえばアーチワイヤスロット16の方向に付勢される。スライド14が開位置に向かって移動可能になるには、弾性部材20の付勢に打ち勝たなければならない。加えられる力がまず、弾性部材20の弾性変形の結果である付勢に打ち勝たなければならないので、弾性部材20はスライド14とブラケット本体12とのより安定した接触を実現する。たとえば、この付勢は、係合面96、98とショルダ74、76とのより安定した接触を実現することができる。有利なことに、概ね唇側から舌側方向のアーチワイヤスロット16の深さは、アーチワイヤスロット16のベース面36に対するショルダ74、76の位置によって決定される。ライゲーティングスライド14がショルダ74、76に対するように付勢されるので、他の公差ばらつきはもはや、アーチワイヤスロットルーメンとアーチワイヤ18とがぴったり嵌り合うかどうかとは無関係になる。
【0065】
図10は、本発明の一実施形態によるスライド部材を開位置から閉位置に移動させるのに必要な力を表すデータを示す。MA州NoorwoodのInstron Corporationから市販されている機械を使用して
図10に示すデータを収集した。概して、上部の曲線は、スライド部材の閉鎖時に観測される圧縮荷重であり、下部曲線は、スライド部材が開いている間、観測される圧縮荷重である。
【0066】
様々な好ましい実施形態について説明することによって本発明を例示し、これらの実施形態についてある程度詳しく説明したが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に制限するかあるいは何らかの方法で限定することは本発明者の意図することではない。当業者にはさらなる利点および修正例が容易に明らかになろう。一例として、本明細書で説明した実施形態は、ライゲーティングスライドを滑り運動方向に押す弾性部材を示すが、弾性部材は、ライゲーティングスライドをアーチワイヤスロットのベース面の方へ引くように構成されてもよい。
【0067】
したがって、本発明の様々な特徴は、ユーザの要件および好みに応じて単独で使用されてもあるいは任意の組合せで使用されてもよい。