特許第6854798号(P6854798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854798
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】高張力黄銅合金及び合金製品
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20210329BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20210329BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20210329BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210329BHJP
【FI】
   C22C9/04
   C22F1/08 K
   F16C33/12 Z
   !C22F1/00 603
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630D
   !C22F1/00 630E
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-232151(P2018-232151)
(22)【出願日】2018年12月12日
(62)【分割の表示】特願2016-567567(P2016-567567)の分割
【原出願日】2015年5月13日
(65)【公開番号】特開2019-108608(P2019-108608A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年1月9日
(31)【優先権主張番号】102014106933.1
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510055839
【氏名又は名称】オットー フックス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】プレット, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】グンメルト, ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】レーツ, ビョルン
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−133537(JP,A)
【文献】 特開2009−007673(JP,A)
【文献】 特開平11−058034(JP,A)
【文献】 特開昭56−163231(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103589903(CN,A)
【文献】 社団法人日本金属学会 編,「金属便覧」改訂4版,1982年,第933頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/04
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60〜62重量%のCuと、
1.6〜2.0重量%のMnと、
1.8〜2.2重量%のNiと、
0.2〜0.4重量%のAlと、
0.65〜0.95重量%のSiと、
0.9〜1.1重量%のFeと、
0.1重量%以下のSnと、
0.1重量%以下のPbと、
不可避な不純物とともに残部のZnと、からなる黄銅合金。
【請求項2】
0.2%降伏強度R0.2が350〜590MPaの範囲内であり、引張強度Rが400〜650MPaの範囲内であり、破断伸びAが3〜19%の範囲内であるように調整されることを特徴とする、請求項1に記載の合金組成を有する黄銅合金からなる製品。
【請求項3】
記黄銅合金からなる製品が、時間とともに変動する摩擦荷重に対して設計される構成要素であることを特徴とする、請求項2に記載の製品。
【請求項4】
記黄銅合金からなる製品が、軸受ブッシュ、滑りシュー、ウォーム歯車、またはターボチャージャー用の軸方向軸受であることを特徴とする、請求項3に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、高張力黄銅合金、及び摩擦荷重を受ける、高張力黄銅合金で作製される製品に関する。
【0002】
潤滑剤環境における一般的な摩擦用途の場合は、一般に、低摩擦係数の合金の使用が必要とされ、加えて、摩擦係数は、特定の用途に対して予め定義された限度の範囲内に、具体的には、摩擦パートナー、使用する潤滑剤、並びに接触圧力及び相対速度などの摩擦条件に適合できなければならない。これは、特に、高い静的及び動的な荷重が作用するピストンスリーブの場合に当てはまる。加えて、ターボチャージャーの軸方向軸受用に提供されるような、高い相対速度の摩擦パートナーを伴う用途は、例えば、熱の発生を低減させることに加えて、摩擦表面からの良好な熱の放散も確実にする合金が必要である。
【0003】
摩擦動力及び油の接触は、結果として、潤滑剤成分が軸受表面に蓄積したトライボロジー層をもたらす。十分安定した吸着層を摺動層上に得るために、潤滑剤成分及びそれらの分解生成物の高い堆積速度が必要である。
【0004】
適切な軸受材料は、追加的に、広範囲にわたる耐油性を特徴とし、よって、トライボロジー層の構造は、大部分が特定の油添加剤の選択に影響されない。更なる目的は、良好な緊急走行特性を有し、よって、乾燥摩擦条件下で十分な耐用年数を確保することができる、摩擦用途の合金を提供することである。
【0005】
また、摩擦荷重下の成分については、使用する合金が十分な強度を有することも重要である。故に、荷重下で発生する塑性変形を最小にするために、高い0.2%降伏強度を提供しなければならない。加えて、摩耗応力及び粘着応力に対する合金の耐性を増加させるために、特に硬質の高抗張力合金を提供することが必要である。同時に、衝撃応力からの保護として、充分な耐久性がなければならない。これに関して、微小欠陥の数を低減させ、結果として生じる欠陥の成長を遅らせることが、必要である。これには、内部応力を殆ど含まない、好ましくは高い破壊靱性を有する合金を提供するといった要件が付随する。
【0006】
数多くの事例において、摩擦荷重下にある部品に適切な合金は、特殊黄銅であり、これは、主要成分としての銅及び亜鉛に加えて、ニッケル、鉄、マンガン、アルミニウム、シリコン、チタニウム、またはクロミウムのうちの少なくとも1つの要素と合金化される。特にシリコン黄銅は、上述の要件を満たし、CuZn31Si1は、ピストンスリーブなどの摩擦用途の標準合金を表す。更に、スズ青銅を使用することが知られており、これは、摩擦用途に、更には採掘用に、スズ及び銅に加えて、追加的に、ニッケル、亜鉛、鉄、及びマンガンを含有する。
【0007】
軸受、ウォーム歯車、歯車、滑りシュー、及び同類のものなどの、摺動による応力下の機械部品に適している銅−亜鉛合金の一例として、CH 223 580 Aを参照する。この引用文献は、銅の含有量が50〜70重量%で、2〜8重量%のアルミニウム、0.05〜3%のシリコン、及び0.5〜10重量%のマンガン、並びに残部の亜鉛と合金化したことを開示している。加えて、この合金は、最大10重量%の鉛、並びに0.1〜5重量%の鉄、ニッケル、及びコバルトからなる群のうちの1つ以上の要素を含むことができる。更に、EP 0 407 596 B1による高張力黄銅合金が知られており、これは、銅、亜鉛、マンガン、アルミニウム、及びシリコンに加えて、随意の合金成分として、鉄、ニッケル、及びコバルトを含有する。加えて、0.03〜1重量%の含有量の酸素が提供される。更に、DE 15 58 467Aは、摺動及び摩擦による応力下の物体に提供される、別の高張力黄銅合金を開示している。45重量%という高さの銅及び亜鉛の含有量に加えて、マンガン、シリコン、及びテルルといった合金添加剤が存在する。加えて、Fe、Ni、Al、及びBeは、更なる随意の合金成分を表す。更に、DE 15 58 817 B2及びDE 101 59 949 01は、摩耗を低減させた軸受材料を形成する、広範囲の組成を有する銅合金を記載している。
【0008】
高張力黄銅合金から製造される製品の特定の特性を達成するために、異なる合金要素を含有する合金が使用される。したがって、このタイプの成分の場合は、そのような異なる製品を在庫しておくことが必要であり、特に、これらの様々な合金を用いて作業できるようにすることも必要である。
【0009】
このような背景の下で、本発明の目的は、ベース高張力黄銅合金を提案することであり、該高張力黄銅合金は、高力、摩擦荷重下での改善された摩耗、及び潤滑が不十分であるときの良好な緊急走行特性を特徴とする製品を製造することができるだけでなく、該高張力黄銅合金は、追加的な合金要素を必要とすることなく、単にそのようなベース合金の合金要素の含有量を変動させるだけで合金を形成することができ、その製品は、多種多様な特性を有する。更なる目的は、合金の、及び高張力黄銅合金で作製される製品の製造方法を提供することである。
【0010】
上記目的は、以下の合金成分、すなわち、
58〜66重量%のCuと、
1.6〜7重量%のMnと、
0.2〜6重量%のNiと、
0.2〜5.1重量%のAlと、
0.1〜3重量%のSiと、
1.5重量%以下のFeと、
0.5重量%以下のSnと、
0.5重量%以下のPbと、
不可避な不純物とともに残部のZnと、を含む高張力黄銅合金によって達成される。
【0011】
上で述べられる合金組成を有する高張力黄銅について、存在する特定の摩擦印加に対する驚くべき適応性が確認された。摩耗特性及び緊急走行特性は、可変的に設定することができ、それによって、アルミナイド及びシリサイドの形態の硬質相が合金中に存在し、該硬質相は、組成、平均サイズ、形状、及び合金構造中の分布に関して、広範囲にわたって選択することができる。これは、特に比較的狭い限度範囲内で、単にベース合金に含まれる合金要素の特定の含有量を変動させるだけで達成される。
【0012】
ベース合金は、比較的高い、特に好ましくは20〜35重量%のZn含有量を有する。これは、銅含有量が58〜66重量%という狭い限度範囲内で選択されることから、注目に値する。所望される特定の異なる特性を有する合金を提供するために、Cu当量の割合は、比較的高く、一般的には45〜65重量%になるように選択される。したがって、特定の合金、故に、該合金から製造される製品の特性は、Cu当量と関連する要素を変動させることによって設定される。これに関しては、要素Mn、Ni、Al、及びSiが最も重要である。高張力黄銅合金中のこれらの要素の関係を変動させることによって、例えば、マトリックス中のα相及びβ相の割合を調整することができる。したがって、合金は、これらの要素を適切に変動させることによって形成することができ、該合金は、支配的にα相を有するか、支配的にβ相を有するか、または両方の相の混合物を有する。また、加工方法の変更を必要とすることなく、主にこれらの要素を適切に変動させることによって、高張力黄銅合金製品の異なる粒度を設定することも可能である。
【0013】
そのようなベース高張力黄銅合金及び該高張力黄銅合金から誘導される特殊高張力黄銅合金の使用はまた、工業加工において、特に、急速交換シーケンスにおいてベース高張力黄銅合金の中に含まれる異なる合金の鋳造物を精錬するときに有利である。この合金は、全てが同じ合金要素を含有するので、汚染のリスク、及びしたがって、汚染によって合金特性が知らない間に変化するリスクが最小限に低減される。
【0014】
硬質相に加えて、合金の硬度及び耐久性は、摩擦層の特性にかなりの影響を及ぼす。本発明による合金は、非常に広範囲の達成可能な機械的パラメータを特徴とし、よって、降伏強度、引張強度、破断伸び、硬度、及び耐久性を、合金鋳造後の加工作業の選択によって、これまで摩擦用途に使用されていた合金と比較して改善された手法で、互いに独立して設定することができる。用途の要件に対して特に選択された合金製品は、本発明による成分の溶融後に以下の加工作業を行うことによって得ることができる。
【0015】
−追加的な処理工程を伴わない、または単に仕上げ焼鈍工程を続けて行うだけの、合金鋳造直後の、特に連続鋳造直後の熱間形成、
−冷間形成直後の押し出し加工に続く、仕上げ焼鈍工程、
−冷間形成及び仕上げ焼鈍工程を行う前の、その後の中間焼鈍を伴う押し出し加工。
【0016】
この点において、上で説明されるベース高張力黄銅合金の中に含まれる個々の特殊高張力黄銅合金を、全て同じ方法を使用して製作することができ、よって、熱処理を同じ方法で行うことができることを再度強調しなければならない。
【0017】
上で説明されるベース高張力黄銅合金の下で確立された第1の特殊高張力黄銅合金は、所望の特性における特定の改善を伴って、以下の組成、すなわち、
58〜64重量%のCuと、
5〜7重量%のMnと、
3〜5重量%のNiと、
4〜6重量%のAlと、
0.5〜2.5重量%のSiと、
0.1〜1.5重量%のFeと、
0.3重量%以下のSnと、
0.5重量%以下のPbと、
不可避な不純物とともに残部のZnと、を含む。
【0018】
この第1の実施形態による高張力黄銅合金は、軸受材料として使用したときの特に良好な緊急走行性能を特徴とする。これは、合金の中の金属間相の領域割合が大きいことに起因する。したがって、蓄積した潤滑剤成分の吸着層まで延在する、高い耐摩耗性を有する複数の平坦に延在する接触点が、摩擦面に存在する。同時に、本発明によって存在する金属間相の平坦な特徴は、吸着層成分と表面近くの合金成分との反応生成物で構成され、吸着層の下に形成する、反応層の強度を増加させる。個々の硬質相粒子が剥がれ落ちる傾向、及び関連する切り欠き効果は、金属間相の高い領域割合に起因して低減される。全体として、これは、高い耐摩耗性を有する軸受材料をもたらす。
【0019】
更に、第1の実施形態は、特に好都合な機械的特性を特徴とする。特徴的な機能は、高い硬度、高い降伏強度、及び同じく好都合に高い破断伸びを伴う高い抗張力であり、その後の焼鈍中であっても比較的高い値に保持することができる。加えて、熱間形成工程、その後の合金鋳造を介して、及びその後の熱処理の過程制御によって、機械的値を設定することができることが示されている。故に、好都合な機械的値は、冷間形成による追加的な合金の歪み硬化を行うことを必要とせずに、熱間形成を行うための押し出し加工及びその後の熱処理工程のための焼鈍から直接もたらされる。
【0020】
この第1の実施形態による合金組成の1つの具体的な利点は、支配的なβ相を有する押し出し加工状態である。故に、押し出し加工状態をもたらす仕上げ焼鈍の直後の溶融溶解及び熱間形成によって、α相とβ相との比率は、機械的特性が広い範囲内で適合可能となるように設定される。より延性のあるα相の割合を増加させることによって、結果として生じる合金製品の摩擦層に外来粒子を包埋する能力を増加させることができ、その結果、所与の用途に存在する潤滑剤環境と協働して、摩擦面の吸着層の安定化をもたらす。比較的柔らかいα相が比較的硬いβ相の粒子境界に位置するので、これは、特に功を奏する。外来粒子の包埋に起因して、比較的柔らかいα相に外来粒子を包埋する特定の能力は、外来粒子を、そのような成分が使用されるトライボロジー回路から抽出させる。これは、この合金からの成分に加えて、このトライボロジー系に含まれる他の成分の摩耗を低減させる。
【0021】
この高張力黄銅合金の中に形成されるシリサイドは、丸みのある形状を有し、したがって、僅かな切り欠き効果だけしか有しない。
【0022】
結果として生じる粒度は、一般的に10〜20μmであり、したがって、非常に微粒状であるといわれる。
【0023】
本発明の合金組成の第1の実施形態の上で説明される利点は、以下の合金範囲、すなわち、
60〜62重量%のCu、
5.8〜6.2重量%のMn、
4.3〜4.7重量%のNi、
4.9〜5.1重量%のAl、
1.3〜1.7重量%のSi、
0.9〜1.1重量%のFe、
0.1重量%以下のSn、
0.1重量%以下のPb、及び
不可避な不純物とともに残部のZn、について特に顕著である。
【0024】
上で説明されるベース高張力黄銅合金の中に含まれる第2の特殊高張力黄銅合金は、高張力黄銅合金が以下の組成、すなわち、
60〜66重量%のCuと、
1〜2.5重量%のMnと、
4〜6重量%のNiと、
1〜2.5重量%のAlと、
1〜3重量%のSiと、
0.1〜1重量%のFeと、
0.5重量%以下のSnと、
0.5重量%以下のPbと、
不可避な不純物とともに残部のZnと、を有するときにもたらされる。
【0025】
第2の実施形態による合金組成は、十分に調整可能な摩損挙動を特徴とする。存在する静的及び動的な摩擦荷重、並びに潤滑剤及び対向する摩擦表面の選択に応じて、合金マトリックスのα相とβ相との相の割合を広い間隔内で設定することができるので、摩損を関心の用途に適合させることができる。β相の割合は、より高い硬度及び耐摩耗性を有する。
【0026】
押し出し加工状態における支配的なαの割合は、押し出し加工状態から直接冷間形成することが可能である高張力黄銅合金をもたらす。したがって、押し出し加工後の焼鈍が省略される。この中間工程を伴わなくても、冷間形成中に、特に冷間引き抜き中に、同様に高合金の高張力黄銅と比較して極めて高くなる、変形の程度を達成することができる。冷間形成中の増加した引き抜き速度は、比較的高い降伏強度及び改善された強度をもたらす。結果として生じる合金製品の機械的特性は、本発明の第2の実施形態において特に広い範囲内で設定することができる。
【0027】
第2の実施形態の選択した合金組成は、2.0〜2.5重量%という比較的高いシリコン含有量にもかかわらず、対応して高いシリコン含有量を有する比較の合金には存在しない、好都合な加工特性を特徴とする。本発明に従って選択されるシリコン割合の下限値は、高い強度を有する合金がもたらされるような方法で設定した。添加シリコンの上限値は、鋳造中の表面張力が、クラックの形成が生じるのに必要なだけ増加しないような方法で決定される。
【0028】
加えて、シリコンの割合がシリサイドの形態で完全に結合されず、したがって、硬質相に結合されないという事実のため、本発明による合金組成の実施形態は、特に好都合である。むしろ、合金マトリックスの中の遊離シリコンを検出することができた。これは、反応速度は低減されるが、同時に、より適切で広範囲の油耐性吸着層をもたらすような方法で、潤滑剤環境での摩擦荷重の下で、結果として生じる合金製品の層構造に影響を及ぼす。
【0029】
β相は、島状の様式でα相に含有される。これは、この合金から製造される製品の強度に関して、等方化に対して好ましい影響を及ぼす。これは、設定される強度が、比較的方向に関係ないことを意味する。
【0030】
特殊高張力黄銅合金及び該高張力黄銅合金から製造される製品はまた、非常に微粒状でもあり、10〜20μmの一般的な粒度を有する。
【0031】
本発明の合金組成の第2の実施形態の上で説明される利点は、以下の合金範囲、すなわち、
63〜65重量%のCu、
1.8〜2.2重量%のMn、
4.8〜5.2重量%のNi、
1.9〜2.1重量%のAl、
2.0〜2.5重量%のSi、
0.2〜0.4重量%のFe、
0.1重量%以下のSn、
0.1重量%以下のPb、及び
不可避な不純物とともに残部のZn、について特に顕著である。
【0032】
上で説明されるベース高張力黄銅合金の中に含まれる第3の特殊高張力黄銅合金は、好都合に高い機械的耐摩耗性を有する、以下の組成、すなわち、
58〜64重量%のCuと、
1.5〜3.5重量%のMnと、
0.1〜1重量%のNiと、
2〜4重量%のAlと、
0.1〜1重量%のSiと、
0.5重量%以下のFeと、
0.5重量%以下のSnと、
0.5重量%以下のPbと、
不可避な不純物とともに残部のZnと、によって表すことができる。
【0033】
観察される高い機械的耐摩耗性は、押し出し加工方向において長手方向の配向への良好な傾向を示す、細長い金属間相の存在に起因する。よって、第3の実施形態による高張力黄銅合金によってもたらされる合金製品の軸受表面は、摩擦荷重の方向が、金属間相の長手方向とほぼ平行して延在するような方法で設計される。シリサイド、主にMnシリサイドの好ましくは細長い設計は、摩耗荷重からマトリックスを保護するといった機能を有する。
【0034】
第3の実施形態はまた、合金マトリックスの中のα相とβ相との比率の良好な調整力も特徴とする。したがって、摩損挙動をその用途に直接的に適合させることができる。
【0035】
加えて、比較的高い降伏強度及び高い達成可能な強度は、α相とβ相との割合に関する、選択可能な基本構造によってもたらされる。更に、加工作業の後にもたらされる合金製品の機械的特性の非常に広い調整力が示された。故に、存在する特定の摩擦用途の条件に対する好都合に良好な適合性が提供される。
【0036】
結果として生じる粒度は、100〜300μmであり、また、上で説明される2つの特殊高張力黄銅合金と比較して、比較的大きい粒である。しかしながら、これは、この合金から製造される半完成製品の機械加工に好都合である。
【0037】
本発明の合金組成の第3の実施形態の上で説明される利点は、以下の合金範囲、すなわち、
58〜64重量%のCu、
1.5〜3.5重量%のMn、
0.1〜1重量%のNi、
2〜4重量%のAl、
0.1〜1重量%のSi、
0.5重量%以下のFe、
0.5重量%以下のSn、
0.5重量%以下のPb、及び
不可避な不純物とともに残部のZn、について特に顕著である。
【0038】
上で説明される3つの特殊高張力黄銅合金において、Mn/Al比は、好ましくは、0.9〜1.1に、好ましくは約1に設定される。
【0039】
述べられるベース合金の中に含まれる第4の特殊高張力黄銅合金は、以下の合金組成、すなわち、
58〜64重量%のCuと、
1〜3重量%のMnと、
1〜3重量%のNiと、
0.1〜1重量%のAlと、
0.2〜1.5重量%のSiと、
0.1〜1.5重量%のFeと、
0.5重量%以下のSnと、
0.5重量%以下のPbと、
不可避な不純物とともに残部のZnと、を有する。
【0040】
この高張力黄銅合金は、特に高い破断伸び及びそれでも充分である強度を特徴とする。加えて、黄銅マトリックスの単列構造に起因する、特に高い耐摩耗性が存在する。更に、上で述べられる好都合な機械的特性と組み合わせて、高い耐久性も達成することができることが分かった。この特性は、マトリックスが支配的にα相で構成されるという事実に基づく。存在するβ相は、小さい島を形成する。丸みのあるシリサイドは、切り欠き効果に比較的影響されないない。
【0041】
本発明の合金組成の第4の実施態様の上で説明される利点は、以下の合金範囲、すなわち、
60〜62重量%のCu、
1.6〜2.0重量%のMn、
1.8〜2.2重量%のNi、
0.2〜0.4重量%のAl、
0.65〜0.95重量%のSi、
0.9〜1.1重量%のFe、
0.1重量%以下のSn、
0.1重量%以下のPb、及び
不可避な不純物とともに残部のZn、について特に顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
本発明は、図面を参照して、好適な例示的実施形態に基づいて下で説明され、図面は、以下を示す。
図1】100倍に拡大した断面の、本発明による高張力黄銅の第1の実施形態としての、第1の特殊高張力黄銅合金の押し出し加工状態の光学顕微鏡写真を示す。
図2】500倍に拡大した、光学顕微鏡写真として図1からの押し出し加工状態を示す。
図3】50倍に拡大した断面の、450℃で軟化焼鈍した後の、本発明による高張力黄銅の第1の実施形態の光学顕微鏡写真を示す。
図4】500倍に拡大した断面の、図3からの本発明による高張力黄銅の第1の実施形態の軟化焼鈍状態の光学顕微鏡写真を示す。
図5】6000倍に拡大した、押し出し加工状態の、本発明による高張力黄銅の第1の実施形態(第2の特殊高張力黄銅合金)の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
図6】6000倍に拡大した、押し出し加工状態の、本発明による高張力黄銅の第1の実施形態(第2の特殊高張力黄銅合金)の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
図7】50倍に拡大した断面の、本発明による高張力黄銅の第2の実施形態の押し出し加工状態の光学顕微鏡写真を示す。
図8】500倍に拡大した、光学顕微鏡写真として図7からの本発明よる高張力黄銅の第2の実施形態の押し出し加工状態を示す。
図9】50倍に拡大した断面の、450℃で軟化焼鈍した後の、本発明による高張力黄銅の第2の実施形態の光学顕微鏡写真を示す。
図10】500倍に拡大した断面の、図9からの本発明による高張力黄銅の第2の実施形態の軟化焼鈍状態の光学顕微鏡写真を示す。
図11】7000倍に拡大した、合金の最終状態の、本発明による高張力黄銅の第2の実施形態の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
図12】7000倍に拡大した、合金の最終状態の、本発明による高張力黄銅の第2の実施形態の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
図13】100倍に拡大した断面の、本発明による高張力黄銅の更なる実施形態としての、第3の特殊高張力黄銅合金の押し出し加工状態の光学顕微鏡写真を示す。
図14】500倍に拡大した、光学顕微鏡写真として図13からの本発明よる高張力黄銅の第3の実施形態の押し出し加工状態を示す。
図15】50倍に拡大した断面の、450℃で軟化焼鈍した後の、本発明による高張力黄銅の第3の実施形態の光学顕微鏡写真を示す。
図16】500倍に拡大した断面の、図15からの本発明による高張力黄銅の第3の実施形態の軟化焼鈍状態の光学顕微鏡写真を示す。
図17】7000倍に拡大した、本発明による高張力黄銅の第3の実施形態の押し出し加工状態の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
図18】2000倍に拡大した、本発明による高張力黄銅の第3の実施形態の合金の最終状態の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
図19】100倍に拡大した断面の、本発明による高張力黄銅のなお更なる実施形態としての、第4の特殊高張力黄銅合金の押し出し加工状態の光学顕微鏡写真を示す。
図20】500倍に拡大した、光学顕微鏡写真として図19からの本発明よる高張力黄銅の第4の実施形態の押し出し加工状態を示す。
図21】50倍に拡大した断面の、450℃で軟化焼鈍した後の、本発明による高張力黄銅の第4の実施形態の光学顕微鏡写真を示す。
図22】500倍に拡大した断面の、図15からの本発明による高張力黄銅の第4の実施形態の軟化焼鈍状態の光学顕微鏡写真を示す。
図23】3000倍に拡大した、本発明による高張力黄銅の第4の実施形態の合金の最終状態の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
図24】6500倍に拡大した、本発明による高張力黄銅の第4の実施形態の合金の最終状態の二次電子コントラストによる走査電子顕微鏡写真を示す。
【0043】
鋳造状態において、微細な黄銅マトリックス構造の中に包埋される金属間相(IMP)は、請求項3に記載の合金組成を有する第1の実施形態による高張力黄銅の中に存在する。加えて、鋳造構造は、断面において、または鋳造ストランドの長手方向範囲にわたって、いかなる顕著な構造変動も有しない。この第1の実施形態による高張力黄銅合金の化学組成は、以下の通りである(データは、重量%)。
【0044】
比較的高くなるように選択される、本発明による高張力黄銅の第1の実施形態のアルミニウム含有量は、鋳造状態にある合金の冷却中にβ相からα相への変換を抑制し、よって、選択される比較的高い亜鉛の割合にもかかわらず、α及びβの混合相ではなく、支配的なβ相がもたらされる。
【0045】
鋳造に続く押し出し加工により、図1及び図2において、それぞれ100倍及び500倍の倍率の断面の光学顕微鏡写真として示される、押し出し加工状態が達成される。鋳造と比較してかなり微細化された構造は、2つの平均サイズに分けられる金属間相が介在する均一なβ相を伴うマトリックスを有する。より大きい金属間相は、粒界に、更には粒の内部にも存在し、一方で、より小さい金属間相は、粒界だけに存在する。詳細には例示されないが、長手方向断面に基づいて、黄銅マトリックス並びに金属間相が、押し出し加工方向において比較的弱い配向だけを有すると判断することができた。
【0046】
第1の実施形態による合金は、押し出し加工状態において、走査電子顕微鏡写真及びEDX解析によって特徴付けた。図5及び図6は、6000倍に拡大した、二次電子走査電子顕微鏡画像の例を示し、対照的な暗領域は、2つの異なる平均サイズを有する平坦な金属間相を示す。EDXの測定値は、金属間相の化学組成が、(Fe、Mn、Ni)が混合したシリサイド、支配的にマンガンが混合したシリサイドMnSi、MnSi、MnSi、またはMn44.1Si8.9であることを示した。
【0047】
機械的特性を設定するために、第1の実施形態による高張力黄銅合金の押し出し加工製品を、450℃での軟化焼鈍の形態で熱処理を受けさせることができ、それによって、14%の最大α相の割合を達成することができる。より低い、及びより高い焼鈍温度では、α相の可溶性の低減が示される。また、450℃での軟化焼鈍中に形成するα相が、主として粒界に存在することも分かった。
【0048】
機械的特性に関して、第1の実施形態による高張力黄銅は、押し出し加工状態において、760〜810MPaの0.2%降伏強度、780〜920MPaの引張強度R、及び1.5〜3%の破断伸びを有する。焼鈍及び随意の仕上げ焼鈍中に、選択した温度制御の機能として、高張力黄銅製品の必要とされる機械的特性の調整を行うことができる。熱処理の後の冷間形成を伴わずに設定される、合金の最終状態において、第1の実施形態による高張力黄銅合金は、高い機械的強度を達成する。
【0049】
請求項5に記載の合金組成を有する本発明の高張力黄銅の第2の実施形態の場合、金属間相(IMP)は、鋳造状態において生じる。図7及び図8において光学顕微鏡写真で例示される押し出し加工状態では、島状の分布を有するβ相部分を伴う支配的なα相がもたらされる。金属間相は、マトリックスのα部分及びβ部分の中に存在し、丸みのある形状を有する硬質相の広範囲のサイズ分布が確認された。具体的には、この調査試料の高張力黄銅合金は、以下の組成を有する(データは、重量%)。
【0050】
詳細には例示されないが、長手方向断面図は、押し出し加工方向において、黄銅マトリックスが比較的弱い配向だけを有し、金属間相がいかなる配向も有しないことを示した。
【0051】
第2の実施形態による高張力黄銅合金の押し出し加工製品は、その後の過程工程の軟化焼鈍によって処理され、軟化焼鈍状態は、図9及び図10に示される断面の光学顕微鏡写真によって例示される。450℃〜550℃の焼鈍温度での軟化焼鈍の後の構造は、α相が支配的であり、また、島状のβ相部分を有する。
【0052】
軟化焼鈍の後には冷間形成が続き、変形の程度は、一般的に、断面が5〜15%の範囲で低減するように選択される。最後に、仕上げ焼鈍が行われ、450℃〜550℃の焼鈍温度の場合、軟化焼鈍状態と比較して増加するβ相部分とともに、支配的なα相部分がもたらされる。
【0053】
第2の実施形態による合金は、合金の終了状態において、走査電子顕微鏡写真及びEDX解析によって特徴付けた。図11及び図12は、α/βが混合したマトリックス及び金属間相の走査電子顕微鏡画像の例を示す。EDXの測定値は、金属間相の化学組成が、(Fe、Mn、Ni)が混合したシリサイド、支配的にマンガンが混合したシリサイドMnSi、MnSi、MnSi、またはMn44.1Si8.9であることを示した。
【0054】
機械的特性に関して、第2の実施形態による高張力黄銅は、押し出し加工状態において、280〜300MPaの0.2%降伏強度、590〜630MPaの引張強度R、及び9〜14%の破断伸びを有する。合金の最終状態では、450〜650MPaの0.2%降伏強度、570〜770MPaの引張強度R、及び4〜9.4%の破断伸びが存在する。
【0055】
本発明による高張力黄銅合金の第3実施形態には、請求項7に記載の好適な合金組成が選択される。鋳造状態では、押し出し加工状態において粒の内部に丸みのある細長い硬質相として確認された、金属間相が存在する。押し出し加工状態の合金マトリックスは、β相によって形成される。具体的には、この調査試料の高張力黄銅合金の第3実施形態は、以下の組成を有する(データは、重量%)。
【0056】
詳細には例示されないが、長手方向断面から、押し出し加工方向において、黄銅マトリックスが、比較的弱い配向だけを有することが明らかである。対照的に、押し出し加工方向と平行して明瞭な金属間相の配向がある。
【0057】
粒の内部の金属間相は、単一の相を表し、10μm以下の平均長さが測定された。金属間相の化学組成は、EDXの測定値によって決定したが、混合したシリサイド、主としてMnSi及びMnSiの形態のマンガンシリサイドを示した。
【0058】
押し出し加工状態から始まり、第3の実施形態による高張力黄銅合金は、その後の過程工程の軟化焼鈍によって処理され、軟化焼鈍状態は、図9及び図10に示される断面の光学顕微鏡写真によって例示される。支配的なβ相は、450℃の軟化焼鈍温度の結果であり、不規則な分布を有するα相部分は、粒界領域の中に、及び粒の内部に存在する。軟化焼鈍温度を550℃に高めると、均一なβ相がもたらされる。
【0059】
軟化焼鈍の後には、冷間形成が続き、変形の程度は、一般的に、断面が5〜15%の範囲で低減するように選択される。最後に、仕上げ焼鈍が行われ、450℃の焼鈍温度の場合、軟化焼鈍状態と比較して大幅に増加する連続した支配的なβ相部分及びα相部分が存在する。相対的に、550℃の仕上げ焼鈍温度では、軟化焼鈍した状態と比較して、合金構造にいかなる顕著な変化も生じない。
【0060】
機械的特性に関して、第3の実施形態による高張力黄銅は、押し出し加工状態において、480〜550MPaの0.2%降伏強度、720〜770MPaの引張強度R、及び9.3〜29%の破断伸びを有する。合金の最終状態では、570〜770MPaの0.2%降伏強度、750〜800MPaの引張強度R、及び7.5〜12%の破断伸びが存在する。
【0061】
本発明による高張力黄銅合金の第4の好ましい実施形態は、請求項9によって定義される合金組成に基づく。この第4の実施態様の場合、鋳造状態では、押し出し加工状態においてα相の粒の内部に存在する丸みのある硬質相として確認された金属間相を形成する。押し出し加工状態では、追加的なβ相部分がα相の粒界に存在する、支配的なα相が見られた。詳細には例示されないが、長手方向断面に基づいて、黄銅マトリックスの場合、これは、押し出し加工方向には明瞭な配向がもたらされ、一方で、金属間相は弱く配向されるだけである。具体的には、この調査試料の高張力黄銅合金の第4の実施態様は、以下の組成を有する(データは、重量%)。
【0062】
第4の実施態様による高張力黄銅合金の押し出し加工製品は、その後の過程工程の軟化焼鈍によって処理され、軟化焼鈍状態は、図21及び図22に示される断面の光学顕微鏡写真によって例示される。450℃の軟化焼鈍温度の場合、島状のβ相部分を有する支配的なα相がもたらされる。550℃の範囲の軟化焼鈍温度に高めると、均一なα相がもたらされ、より低い軟化焼鈍温度と比較して、島状のβ相部分が減少する。
【0063】
軟化焼鈍の後には、冷間形成が続き、変形の程度は、一般的に、断面が5〜15%の範囲で低減するように選択される。最後に、仕上げ焼鈍が行われ、合金構造は、軟化焼鈍した状態と大きく異ならない。
【0064】
合金の最終状態について、ベースマトリックスの粒の内部の金属間相は、7μm以下の平均長の単相構造を有し、多結晶構造を示した。EDXの測定値に基づいて、金属間相の化学組成に関して、(Fe、Mn、Ni)が混合したシリサイドに加えて、特に、FeNiSi及びFeSiの形態の鉄シリサイドが存在することを示した。加えて、粒界及びβ相の中には、0.2μm以下の平均サイズを有する硬質相堆積物が見られた。
【0065】
機械的特性に関して、第4の実施態様による高張力黄銅は、押し出し加工状態において、480〜550MPaの0.2%降伏強度、430〜470MPaの引張強度R、及び22〜42%の破断伸びを有する。合金の最終状態では、350〜590MPaの0.2%降伏強度、400〜650MPaの引張強度R、及び3〜19%の破断伸びが存在する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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