(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854799
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】分析物分子をイオン化する方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/14 20060101AFI20210329BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20210329BHJP
【FI】
H01J49/14 700
G01N27/62 G
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-245132(P2018-245132)
(22)【出願日】2018年12月27日
(62)【分割の表示】特願2015-557524(P2015-557524)の分割
【原出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2019-91699(P2019-91699A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2019年1月7日
(31)【優先権主張番号】1302818.8
(32)【優先日】2013年2月19日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515226021
【氏名又は名称】マークス インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MARKES INTERNATIONAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】ピエール シャネン
【審査官】
中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−140545(JP,A)
【文献】
特開平02−282251(JP,A)
【文献】
特開平07−272652(JP,A)
【文献】
特開2011−066022(JP,A)
【文献】
特開2000−223040(JP,A)
【文献】
James E. Hudson, et al.,"Absolute electron impact ionization cross-sections for the C1 to C4 alcohols",Physical Chemistry Chemical Physics,英国,Royal Society of Chemistry,2003年 6月30日,5, 2003,3162-3168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/14
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析のために分析物分子をイオン化する方法であって、ターゲットボリュームに分析物分子を供給する工程と、第1のイオン化電子エネルギ ーを使用して分析物イオンを生成するように、前記分析物分子をイオン化するために、電子供給源から前記ターゲットボリュームへの電子の流れを加速する工程と、前記第1のイオン化電子エネルギーによって生成したイオンを検知する工程と、前記第1のエネルギー化電子エネルギーを、前記第1のイオン化電子エネルギーと異なる第2のイオン化電子エネルギーに変化して前記第2のイオン化電子エネルギーを使用してイオン化を引き起こして分析物イオンを生成する工程と、前記第2のイオン化電子エネルギーによって生成された前記分析物イオンを検知する工程とを含み、且つ、前記分析物イオンを検知する工程は、質量ス ペクトルを生成し、第1の質量スペクトルは、前記第1のイオ ン化電子エネルギーに応じて生成され、第2の質量スペクトルは、前記第2のイオン化電子エネルギーに応じて生成されるイオン化方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン化方法であって、前記電子供給源は、フィラメントであり、前記ターゲットボリュームは、イオンチャンバーであり、前記電子の流れを加速する工程は、前記フィラメントから電子フラックスを維持するように、前記ターゲットボリュームより高い電位で前記フィラメントと前記イオンチャンバーとの間の位置まで電子の流れを加速する工程を含み、且つ前記方法は、前記電子を最終のイオン化電子エネルギーまで減速するために、前記フィラメントと前記イオンチャンバーとの間の位置よりも低い電位で前 記電子が前記イオンチャンバーに入らせしめる工程を更に含んでいるイオン化方法。
【請求項3】
請求項2に記載のイオン化方法であって、前記第1のイオン化電子エネルギーによって 生成される前記分析物イオンは、第1のイオン化期間中に生成され、前記第2のイオン化電子エネルギーを使用して生成される分析物イオンは、所定の第2のイオン化期間中に生成されるイオン化方法。
【請求項4】
請求項3に記載のイオン化方法であって、前記第1のイオン化期間に続いて前記ターゲ ットボリュームへの電子の流れを絶つ工程と、前記電子の流れが絶たれている間、前記第1のイオン化電子エネルギーを、この第1のイオン化電子エネルギーと異なる第2のイオン化電子エネルギーに変化する工程と、前記第2のイオン化電子エネルギーを使用して所定の第2のイオン化期間イオン化を引き起こすために前記電子の流れへの前記ターゲットボリュームへの前記電子の流れを再開する工程を更に含むイオン化方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のイオン化方法であって、前記第1のイオン化電子エネ ルギーは、70eVであり、前記第2のイオン化電子エネルギーは、15eVであるイオ ン化方法。
【請求項6】
請求項3に記載のイオン化方法であって、前記第1のイオン化期間に生成された分析物イオンは、前記第1のイオン化期間の終了時に検知され、前記第2のイオン化期間に生成されたイオンは、前記第2のイオン化期間の終了時に検知されるイオン化方法。
【請求項7】
請求項3に記載のイオン化方法であって、前記フィラメントと前記イオンチャンバーとの間の位置は、前記第1と第2とのイオン化期間中に異なる電位であるイオン化方法。
【請求項8】
請求項3に記載のイオン化方法であって、前記電子供給源と前記電子ターゲット領域との間に電子ビームシャッタが設けられ、前記電子ビームシャッタは、前記ターゲットボリュ ーム領域に前記電子が通過するのを許す第1の通過状態と前記ターゲット領域に通過するのが防止される停止状態とで動作し、また前記シャッタは、前記第1と第2のイオン化期間の間で電子の流れを停止する停止状態で動作するイオン化方法。
【請求項9】
請求項2に記載のイオン化方法であって、前記フィラメントと前記イオンチャンバーとの間の前記位置に電子ビームシャッタが設けられているイオン化方法。
【請求項10】
請求項3に記載のイオン化方法であって、第1のイオン化期間で前記分析物分子をイオ ン化する工程を含み、前記第1のイオン化期間からイオンを検知する工程は、第1の検知 イベントを形成し、また、前記方法は、前記第1のイオン化電子エネルギーで一連の第1の検知イベントを実行することと、所定数の第1の検知イベントからのデータである第1の検知セットに各イベントから検知データを積み重ねることと、その後前記検知セットの データを第1のデータ移送期間中にデータ蓄積装置に移送することとを含むイオン化方法 。
【請求項11】
請求項10に記載のイオン化方法であって、第2のイオン化期間で前記分析物分子をイオン化し、イオンを検知する工程は、第2の検知イベントを形成し、また、前記方法は、一連の第2の検知イベントを実行することと、各第2の検知イベントからの検知データを所定数の第2の検知イベントからのデータである第2の検知セットに積みか重ねることと 、次いで前記検知セットのデータを第2のデータ移送期間中にデータ蓄積装置に移送することとを含んでいるイオン化方法。
【請求項12】
請求項11に記載のイオン化方法であって、前記第2の検知セットは、前記第1のデー タ移送期間後に開始され、前記電子イオン化エネルギーは、前記第1の検知セット後に前記第1のイオン化電子エネルギーから前記第2のイオン化電子エネルギーに変更されるイ オン化方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のイオン化方法であって、前記電子イオン化エネルギーは、 前記第1のデータ移送期間中に前記第1のイオン化電子エネルギーから前記第2のイオン化電子エネルギーに変更されるイオン化方法。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン化方法であって、所定数の第1と第2の検知セットが完了するまで、一連の第1の検知セットと第2の検知セットとを実行するイオン化方法。
【請求項15】
請求項14に記載のイオン化方法であって、前記の一連の第1と第2との検知セットを周期的に交互に行うイオン化方法。
【請求項16】
請求項1に記載のイオン化方法であって、前記分析物イオンは、質量スペクトルを使用して検知されるイオン化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物分子をイオン化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析法(MS)は、粒子の質量を測定するために一般に使用されている分析技術である。このMSは、サンプル又は分子のエレメント組成物の構成部分を分析することによりそのエレメント組成物を測定し、また分子、例えば複雑な炭化水素鎖の化学構造に対する洞察を行うのにも使用することができる。質量分析計は、その質量と電荷との割合を測定することにより粒子の質量を測定する。この方法は、粒子を帯電することを必要とし、従って、質量分析計は、イオン源でサンプルをイオン化して帯電分子及び/又は分子のフラグメントを生成し、次いで、これらのイオンの質量と電荷の割合を測定することによって動作する。
【0003】
荷電していない粒子(中立)は、電界によって加速することができない。従って、質量分析によって分析されるべきすべての粒子をイオン化する必要がある。典型的なイオン化技術は、気相中立原子又は分子の供給源が電子(複数)によって砲撃される電子衝撃イオン化と称される電子イオン化法(EI法)である。これらの電子は、エネルギー性の電子のリリースを引き起こすワイヤーを加熱するために、ワイヤーフィラメントに電流を流す熱電子放出によって通常生成される。その後、これらの電子は、フィラメントとイオン源との間の電位差を用いてイオン源に向けて加速される。
【0004】
EI法は、通常、低質量で揮発性と熱安定性とを有する有機化合物の分析を意図した慣例的に用いられている技術である。EI法は、高いイオン化効率を有し、イオン化技術を提供する異なるMS装置を横切る標準化分析手段を示すとともに、70eVの電子エネルギー値で通常行なわれる。しかし、70eVの電子エネルギーでは、イオン化衝撃中に加速された電子からサンプル分子へ移送されるエネルギーは、分析物分子内で結合を破るのには充分であるので、分子は、幾つかのより小さなイオンにフィラメント化せしめる。通常、これは望ましいことであるが、その理由は、分子のフィラメント化を引き起こすエネルギー付与が再現性良く標準化されて、所定の分析物の「質量分析」であるフラグメントイオンのパターンは、分析物用の分析指紋を生成する異なる装置でも十分に類似しているからである。フラグメント化のレベルは、分析物の多くの化学分類用では、オリジナルの分子(又は「分子のイオン」)をしばしば見ることができないか、又は非常に小さいような程度である。このような理由で、EI法は、「ハードな」イオン化技術として知られている。
【0005】
分析物(複数)の混合物については、ガスクロマトグラフィー(GC)の如きハイフンで結ぶ(ハイフネイティングな)分析技術は、分析物の高度に複雑な混合物が追って分離されて順次イオン源に入れられるのを可能にする質量分析計にしばしばインターフェースされる。しかし、分析物のハイフネーションでさえも、サンプルの複雑性は、圧倒的であり、そのため、解決することができない多くの重畳する質量スペクトルが生成され、集団的に、分析的な識別を無視することになる。従って、電子イオン化のエネルギーを減少することによってフラグメント化の程度を減少することが多くの場合望ましい。しかし、電子エネルギーが電子加速化を減少することによって低下すると、一部には、イオン源の濃度の減少によってイオン生成の著しい減少が経験されるが、それは、集中通路でフィラメントから離れて著しく多数の電子を加速するのには不十分であるからであり、また、他の一部には、70eV未満の電子エネルギーでイオン化効率が減少することによってイオン生成の著しい減少が経験される。後者の効率は、
図1に示されており、この図は、幾つかの例の分子(複数)に対してイオン化確率対電子エネルギーを示している。ピークは、約70eVで表示され、70eV未満の感度は、レベルが典型的には約15eVで到達するまで、急速に減少し、その結果は、通常では、分析上、有用ではない。
【0006】
電子放出フィラメントの流れを増加させることによって、生成された電子の群れが増加し、またイオンフラックスも増加して、低い電子エネルギーでの感度がある程度改善することになる。しかし、フィラメント電流が大きい場合には、フィラメントに近い高い電子密度、クーロンの法則による反発作用(平面幾何学の場合のチャイルド-ラングミュア則として知られている空間電荷リミテッド放射と称されている作用)を引き起こし、フィラメント自体に近い高密度電子間の反発力によって電子がリリースされるのが更に防止される。その結果、電子流フラックスのプラトー(平坦)が生ずる。更に、フィラメントのまわりの高い電子密度の領域では、リリースされた電子も相互に相手からはね返される。これは、電子ビームの広大化を生じ、その結果、イオン源にイオンが集中する正確性が減少し、従ってイオン化のレベルが減少する。イオン源の方向へのイオンの勢いが減少すると、電子は、一層低い印加電位差によって運動エネルギーが低くなって、この問題が増幅される。そのため、大きなフィラメント電流は、単にイオン化効率の改良が制限されるにすぎない。
【0007】
化学的イオン化は、公知の「ソフトな」イオン化技術である。化学的イオン化は、メタンの如き大量の試薬ガスの使用を必要とし、また、イオン化エネルギーは、使用される試薬ガスに依存する。従って、イオン化エネルギーは、容易に調整することができない。スペクトルの標準化は、探索すべきライブラリーの不足によりこの方法でも困難である。
【0008】
多くの他のソフトなイオン化技術は、GC/MS測定に適用されている。これらは、共振が促進されたマルチ光子イオン化(REMPI)、及び更に普遍的な単一光子イオン化(SPI)を含んでいる。これらのソフトなイオン化方法は、GC/MS装置中のイオン源に適用された分子イオンのフラグメント化をほとんど又は全く引き起こさない。別のソフトなイオン化技術は、超音波分子ビーム(SMB)中の分子の冷却を使用する。SMBは、ピンホールを通して真空室内にガスを拡張することによって形成され、この真空室は、内部震動の自由度をクーリングすることになる。SMBは、GCとMSとの間のインターフェースとして使用され、分子イオン信号を促進することになる電子衝撃イオン化と結合し、従って、ソフトなイオン化方法と見なすことができる。
【0009】
このような「ソフトな」イオン化技術は、ソフトなイオン化のみを提供し、所要の場合に、ハードなイオン化を提供するためには利用することができない。US2009/0218482号明細書は、分析物分子のハードな電子イオン化を生成するための電子パルスとソフトな光イオン化を提供するための光パルスとを用いてハードとソフトとの両方のイオン化を提供するシステムを記載している。これらの2つの技術は、ソフトとハードとの両方のイオン化の間を切り替えるようにパルス状に電子イオン化の切替え繰り返し「オン」「オフ」して同時に履行される。しかし、このようなシステム用のハードウェア要件は、各技術毎に設定される関連するデリバリとフォカシングとともに、電子及び光子発生手段の両方で重要である。従って、このような二重システムのコストは高額であり、また、両方のイオン化技術を履行実施するのに必要な設備の量及びサイズは、このシステムに必要なスペースを著しく増加させる。
【0010】
従って、上記の問題に取り組み、及び/又は、一般に改良を提示する分析物サンプルをイオン化するためのイオン化装置及び方法の改良を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載されるような電子イオン化方法が提供される。
【0012】
発明の一実施例では、電子エミッタと、イオン化されるべきサンプル物体が配置されるようにしたイオン化ターゲット領域と、前記電子エミッタと前記イオン化ターゲット領域との間に設けられた電子エキストラクターとを含み、前記電子エキストラクターは、前記電子エミッタと電子エキストラクターとの間の電位差が前記電子エミッタと前記イオン化ターゲット領域との間の電位差より大きくなるように電圧が印加される導電素子から成っている電子衝撃イオン化装置が提供される。エキストラクターは、電子の放出を制限するクーロンの法則による反発作用を防止するために前記電子エミッタから離れるように電子を引く加速器として機能する。エミッタとターゲット領域のみとの間の加速界と比較すると、エキストラクターで増強された加速界は、エミッタからの電子フラックスを一層高くせしめる。しかし、ターゲット領域の電子のエネルギーが電子エミッタとイオン化ターゲット領域との間の電位差によって制限されると、ターゲット領域中の電子エネルギーは、エキストラクターによって変更されることはない。その結果、電子は、エキストラクターとターゲット領域との間で減速される。このようにして、「ソフトな」電子イオン化は、イオン化ターゲット領域で高い電子密度の維持により感度の損失なく、達成される。
【0013】
電子エキストラクターは、プレート又はグリッドから成っている。この電子エキストラクタープレートは、好ましくは、電子通路に実質的に垂直であるように設けられる。
【0014】
電子の抽出とは別に、エキストラクターは、異なった時間間隔中、異なった電圧、優先的には負の電圧を印加することにより電子ビームを調整するか停止するのに用いられてもよい。
【0015】
この電子イオン化装置は、実質的にイオン化ターゲット領域の方向に電子エミッタから放射された電子を撃退するように設けられた電子リフレクターを更に含んでいる。この電子リフレクターは、負に帯電されるように構成された電気的帯電素子とし、イオン化ターゲット領域に対し電子ジェネレーターの反対側に設けられて、負に帯電されると、イオン化ターゲット領域の方向に電子を撃退して材料のイオン化を生ずる。この電子リフレクターは、イオン化ターゲット領域と組み合わさって、イオン化ターゲット領域の方向に、正の電位差を生成して電子をターゲット領域の方向に駆動する。
【0016】
ターゲット領域に向けて電子を反射することとは別に、電子リフレクターは、異なった時間間隔中、異なった電圧、優先的には、正の電圧を印加することにより電子ビームを調整するか停止するのに用いることができる。
【0017】
電子イオン化装置は、電子通路と整列し、電子エミッタとイオン化ターゲット領域との間に配置された電子集中エレメント(又は電子集合エレメントとも称される)を含み、この電子集中エレメントは、電子をターゲット領域に向けて電子を集中し方向づけるようになっている。電子集中エレメントは、電気的に帯電し、負に帯電するように構成されている。電子通路に沿って電子エミッタからイオン化ターゲット領域に電子を集中することによって、イオン化ターゲット領域で生ずる電子密度は、増加し、従って、イオン化効率は、それに相応して増加する。
【0018】
電子通路は、好ましくは、電子エミッタとイオン化ターゲット領域との間に形成され、電子集中エレメントは、電子通路と整列する集中用アパーチャを含んでいる。このように、電子は、ターゲット領域に向けてアパーチャを経て集中される。電子集中エレメントは、この集中用アパーチャが延びている導電性プレートから成っていてもよい。この電子集中エレメントは、エミッタとエキストラクターとの間、又はエキストラクターとターゲット領域との間に位置している。
【0019】
電子を集中させることとは別に、集中エレメントは、異なった時間間隔中、異なった電圧、優先的には、負の電圧を印加することによって電子ビームを調整するか停止するのに使用することができる。
【0020】
好ましい構成では、電子集中エレメントは、電子エミッタの近くに配置されるか、電子エミッタを部分的に囲んでいる。集中エレメントをエミッタの近くに配置するか集中エレメントの一部でエミッタを囲むと、放射位置から電子の横方向の偏流を最小化し、電子通路に沿って指向される電子の数を最大化する。
【0021】
電子集中エレメントは、主体部分と延長部分とから成っており、延長部分は、電子エミッタの方向に前記主体部分の表面から延びており、またこの延長部分は、電子エミッタの近くか電子エミッタを囲む一方の開放端を有し、主体部分のアパーチャに隣接する他方の開放端を有するケースを形成している。好ましくは、主体部分と延長部分とは、延長部分がエミッタの近くかエミッタを囲むようにしたシルクハット構造を形成している。このシルクハット構造は、エミッタを囲む空間がエミッタを囲む領域で壁厚が減少しているので、この空間が制限されている場合に有利である。
【0022】
電子エミッタは、熱電子放散によって電子を生成するために加熱されるように構成された電気フィラメントから成っているのが好ましい。
【0023】
電子イオン化装置は、電子エミッタと、電子ビームがその中心に沿って集中されて制限されるように、電子エミッタとターゲット領域との間で磁界を生成する磁気集中エレメントを更に含んでおり、この磁気集中エレメントは、電子通路の両側に設けられている。
【0024】
電子イオン化装置は、イオン化ターゲット領域を形成する内部ボリュームを有するイオン化チャンバーを含み、このイオン化チャンバーは、電子エミッタからイオン化チャンバーへ放散される電子が入るのを許すようにした電子通路に整列した電子入口アパーチャと、イオン化用のチャンバー中への気相分子の流れを許すように構成されたガス入口とを含んでいる。
【0025】
以下の図面を参照して本発明を例示的に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、イオン化効率に基づく電子エネルギーの効果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本発明の実施例による電子イオン化装置を備えた質量分析計を示し、この装置は、ボックスとして象徴化している。
【
図3】
図3は、
図2の電子イオン化装置の第1の実施例の概略図を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施例による集中レンズを更に含む
図3の電子イオン化装置を示す。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施例による他の電子集中レンズを含む
図3の電子イオン化装置を示す。
【
図6】
図6は、磁気集中エレメントを含む
図5の電子イオン化装置を示す。
【
図7】
図7は、電子速度に基づく電子集中レンズとエキストラクターの効果を示す電界図である;
【
図8】
図8は、2つのデータセットについて時間に対するデータ蓄積量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図2に示される実施例では、TOF質量分析計は、分析物分子を分析するために用いられ、この技術と本発明のイオン化システムとの組み合わせは、分析物分子の分析のためのシステムの使用の1例として記載されている。
図2を参照すると、飛行時間(TOF)質量分析計1は、真空ポンプ20によって吸引され電子ジェネレータ4を含む真空室2、イオン源6、加速器プレート8、イオン光学器10、リフレクター12及び検知器14を含んでいる。分析物は、ガスクロマトグラフ(GC)中での初期クロマトグラフィー分離に続いて、TOFに導入される。GC(図示されていない)は、ガス入口通路16によってTOF 1に接続される。ガス入口通路16は、加熱移送通路であり、分析物供給源は、GCのコラムからガス入口16を経てイオン源チャンバー18中へ流れ込む。分析物供給源は、GCから分子含有気流から成っており、GCの質量対帯電の割合は、TOF1によって決定されるべきである。
【0028】
図3に示されるように、電子源4は、電力源に接続されたフィラメント22から成っている。フィラメント22は、このフィラメントに電流が流れると、大量の電子が生成されフィラメント22から熱電子放散によって放出される。フィラメント22は、イオン源チャンバー18の外部に位置している。フィラメント22は、イオン源チャンバー18から間隔をあけて配置され、電子がイオン源チャンバー18に入るのを許すように構成されたチャンバー18のアパーチャ24に整列している。
【0029】
先行技術の電子衝撃イオン化システムでは、70Vの加速電圧が用いられて70eVのエネルギーでイオンチャンバーに向けて電子を加速している。しかし、70Vの加速電圧を用いると、分析物分子が過剰フラグメント化となり、これらのフラグメント化パターン間の干渉によって2つ以上の同時にイオン化された物質間を識別することを困難にすることが判った。例えば、約15Vまで加速電圧を低下させると、電子ビームの運動エネルギーを減少して「一層ソフトな」イオン化を許す。これは、フラグメント化の程度を減少し、分子のイオンが一層広がるのを許す。しかし、これらの低い加速電圧を用いると、イオン化の確率が急激に落ちることが判った。その1つの理由は、低い加速電圧がフィラメントの領域から非常に多数の電子を引き離すのに不十分であり、低い加速電圧で重要性が増加するクーロン効果により、フィラメントを囲む大量の電子雲がイオンチャンバーから離れる方向に流れることにある。他の理由は、既存の電子雲(空間帯電が制限された放射)のクーロン性の反発作用によってフィラメントからの更なる電子の生成が抑制されることである。そのため、イオンチャンバー18の電子密度は減少する。
【0030】
この問題に対処するために、電子エキストラクター又はエキストラクターレンズ36がフィラメント22とイオンチャンバー18との間の位置でフィラメント22に接近して設けられている。「レンズ」という用語は、エキストラクターが集中機能を提供するものして用いられるが、この用語は、非限定的であり、エキストラクター36は、電子を集中させることが必須ではない。エキストラクター36は、中心に位置するアパーチャ40を有する金属性プレート38から成っている。他の実施例では、エキストラクターは、金属性グリッド、金属性グリッドを備えたフレーム又は複数のアパーチャを有するプレートとすることができる。エキストラクター36は、プレート又はグリッド38が電子ビーム34の通路にほぼ直角であるように構成され、アパチャー又はグリッド40は、電子ビーム34の通路に整列していて電子ビーム通路34に沿って移動するフィラメント22からの電子がアパーチャ40を通過し、イオンチャンバー18に向かうのが許されるようになっている。フィラメント22とイオン源チャンバー18との間の直接の視線は、これらの間の最短距離を有して電子ビーム通路を形成している。
【0031】
低い加速電圧では、フィラメント22のまわりのクーロン効果は、フィラメント22の領域の電子密度が更なる電子の生成を妨げるのに充分である条件となることができる。
【0032】
従って、フィラメントを囲む電子雲のクーロン効果による反発作用を克服するために、エキストラクター36は、フィラメント22とイオンチャンバー18との間の電位差より大きい正の電位差をフィラメント22とエキストラクター36との間に生成するように帯電される。この大きな電位差は、フィラメント22とイオンチャンバー18との間の電位差のみによって達成されるよりはるかに高い割合で電子をフィラメント22から遠ざけて加速するように働き、それによって、フィラメント22の領域の電子密度を減少し、クーロン効果による反発作用が電子の放散を禁止するのを防止し、従ってフィラメントからの電子の生成を最大化する。
【0033】
一旦電子(複数)がエキストラクター36のアパーチャ40を通過すると、これらの電子は、フィラメント22とイオンチャンバー18との間の電位差に相応するエネルギーまで減速されるので、電子の推進力は低下する。
【0034】
好ましくは、フィラメント22とイオンチャンバー18との間の正の電位差は、5―30Vの範囲となるように選択され、それによってイオンチャンバーでの電子エネルギーは、5―30eVの範囲となる。この範囲未満であると、電子エネルギーは低すぎて分析物分子のイオン化を起こすことができなくなり、一方この範囲を越えると、フラグメント化が発生し始める。更に好ましい範囲は、5―25Vであることが確認されており、この場合、電子エネルギー範囲が5―25eVとなる。また、一層好ましくは、このシステムは、14eVの電子エネルギーで操作される。
【0035】
反射プレート26は、イオン源チャンバー18とは反対側のフィラメント22でフィラメント22の背後に取り付けることができ、このようにすると、イオン源チャンバー18と反射プレート26との間にフィラメント22が位置することになる。反射プレート26は、負に帯電されて、負に帯電された電子がイオン源チャンバー18のほぼ方向に反射プレート26から遠ざけて反発されるようになっている。他の実施例では、この装置は、反射プレートなしで機能することもでき、それは、エキストラクター36によって加えられた抽出力によって可能である。しかし、リフレクターがあると、電子通路から離れる方向の電子の損失を減少することによって効率を上昇することができる。
【0036】
電子ビーム34とガスのイオンチャンバー18へのガス入口16とは、電子ビーム34がガス入口16からイオンチャンバー18への分析物の流れに実質的に垂直にしてイオン源チャンバー18に入るように配列されている。
【0037】
イオン源チャンバー18内では、エネルギー性の電子は、イオンを生成するために、気相の分析物分子と相互作用している。電子が分析物分子に近接して通過すると、エネルギーは、電子から分析物分子に移送されて分子のイオン化を起こす。この方法は、電子イオン化(EI)として知られている。フラグメント化の程度は、電子から分析物分子へ移送されるエネルギー量に依存し、一方このエネルギー量は、到来する電子のエネルギーに依存する。従って、到来する電子のエネルギー量を一層低いレベルまで減少することによって、分析物のフラグメント化が著しく減少して、フラグメント化していない分子のイオンの濃度が大きくなる。
【0038】
一旦イオンがイオン源チャンバー18内で分析物に向けて適当なボリュームで発生してイオンが生成されると、これらのイオンは放射され、次いで、使用されるべき分析技術に基づいて、前進的に処理される。
図2に示される実施例では、分析物分子を分析するために、TOF質量分析計が使用される。
【0039】
図4に示される実施例では、このシステムは、イオン源チャンバーで電子密度を増加させるように電子ビームを集中させる集中レンズ28を更に含んでいる。この電子集中レンズ28は、中心アパーチャ61が形成された金属プレート60を含んでいる。アパーチャ61は、好ましくは、円形である。このアパーチャ61は、フィラメント22とイオン源チャンバー18の開口24との間の直接視線上に配置されている。電子集中レンズ28は、電子ビーム34の通路に実質的に垂直になるように配列されており、プレート60が電子ビーム34の通路と整列しているアパーチャ61を備えていて電子ビーム通路34に沿って移動するフィラメント22からの電子がアパーチャ61を通過し、イオンチャンバー18に向かうのが許されるようにしている。
【0040】
電子集中レンズ28のプレート60は、負のバイアス電圧がかけられている。プレート60の負の電圧バイアスは、反発性の静電界を生成して、フィラメント22からアパーチャ61を経て電子ビーム通路34に沿って放出される電子の雲を圧縮し集中させるように作用する。このようにして、電子ビームの広がりは、電子集中レンズ28を使用して電子を集中させることにより抑制され、その結果、電子通路34に沿った電子密度が著しく増加する。従って、イオンチャンバー18に入る電子の数が増加し、イオン化に帰結する分析物分子との衝突の可能性が上昇する。
【0041】
図5に示される更に他の実施例では、電子集中レンズ28は、付加的な集中エレメント62を含んでいる。好ましくは、この集中エレメント62は、アパーチャ61の周囲の周りの円周を延びてフィラメント22に近いディスク60の表面から突き出る直立壁から成っている。集中エレメント62は、ほぼ円筒形であって、そのフィラメントに対して近い端部は開口し、末端は、レンズ28のアパーチャ61に連続している。集中エレメント62は、このエレメントがフィラメントを囲み、フィラメント22とレンズ28のアパーチャ61との間を延びるチャンネルを形成するようにフィラメント22を囲んで位置決めされているのが好ましい。プレート60との組み合わせにおいて、集中エレメント62は、ほぼ「シルクハット」状を形成している。このようにシルクハット状にすると、電子集中レンズ28は、フィラメント22に向けて、好ましくは、フィラメント22上に伸長することができる。また、「シルクハット」状は、電子の漏斗化を増加し、集中前に、電子が繁殖し接線状に分岐することができる時間量を減少し、それによって、電子通路34中の電子密度を増加する。これは、電子が生成時に比較的高い切線分力を受けて分岐が大きくなる本発明で使用されるより低電子エネルギーでは、特に重要である。
【0042】
図6に示される更に他の実施例では、
図3乃至
図5の実施例に固定磁石70及び71が設けられ、その極は、イオン化の確率を更に最適化するために電子を螺旋形に集中させるように電子に作用する磁界を生成するように配置されている。
【0043】
図7は、フィラメントとイオン源チャンバーとの間の変化する電界に沿った電子の流れを表わす静電界図を示している。一旦電子がフィラメント22から放射され、電子集中レンズ28を通過すると、これらの電子は、エキストラクター36の相対的に正の電位差に向けて急速に加速することは理解することができる。これは、フィラメント22から離れるように電子が滝のように流れてフィラメント22の直ぐ近くの電子密度が電子の一層の生成を促進する適当な低レベルで維持されることが判る。一旦、電子ビーム34がエキストラクター36を通過すると、この電子ビームは、エキストラクター36とイオンチャンバー18との間の電位差を受けて電子の急速な減速を生じ、遂には、電子は、イオンチャンバー18を入る位置でフィラメントとイオンチャンバー18との間の電位差によって規定された設定電子エネルギーに達する。
【0044】
従って、電子集中レンズ28とエキストラクター36の形態のイオン源チャンバー18との間の正の電位を使用すると、クーロン効果を低減し、フィラメントによって生成された電子の数を増加することによって、信号が改善される。これは、ソフトなイオン化に必要とされる一層低いイオン化エネルギーで装置の感度が改善される。集中エレメント62によってフィラメントの周りに電子集中レンズ28が包まれるこの更なる他の実施例は、信号の更なる増強をもたらすとことが示されている。更に、N
2、O
2,CO
2(H
2O)の如き大気ガスのイオン化エネルギー以下に留めることによって、このイオン化方法は、大気ガスを質量分析計中に直接導入するための必要な手段を単純化するリアルタイムな分析(GCの分離なしのサンプルガスの直接導入)に好適である。更に、上記のソフトな電子イオン化技術は、例えば、化学的イオン化と比較すると、普遍的なイオン化方法である。低いイオン化エネルギーとは別に、それは、大多数の分析物に対して特異性がない。従って、それは、低いバックグラウンド信号で分析物をスクリーニングするのに好適である(例えば、カラム・ブリード又は大気ガスからのシロキサンのイオン化が抑制されるが、すべての関連する有機化合物をイオン化する)。
【0045】
電子イオン化が融通性を有すると、1つの測定で多数のイオン化電圧を切り替えるか多重化するのに応用することができる。これは、多セットのスペクトルを同時に蓄積する機会を付与し、例えば、一方は、ハードなオン化(例えば、70eV)で、他方は、ソフトなイオン化とすることができる。これは、コスト、感度、時間又は所要のサンプルの量に基づいてとんど衝撃のない分析情報のレベルを増大することになる。
【0046】
ある分析について、2つの異なるイオン化エネルギーで分析物分子をイオン化することができることが望ましい。例えば、所定のサンプルについて、所定の分析物供給源に対して第1の「ソフトなイオン化」データセットと第2の「ハードなイオン化」データセットを得ることが望ましく、第1のデータセットは、減少するフラグメント化から利益を得、従って分子イオンの可視性を増加し、一方、ハードなイオン化は、イオン化効率を高め、確立しているデータ・ライブラリに対して参照することができる。
【0047】
図3乃至
図6による実施例において、電子ビームの強度を止めるか調整する幾つかの可能性がある。これは、次のエレメント、即ち、リフレクター26、フィラメント22、集中レンズ28、エキストラクター36及びイオンチャンバー18の1つの電圧を変えることによって達成することができる。また、それは、電子ビームの通路34に追加のシャッタ・レンズ又はグリッドを導入することにより行うことができる。例示的のみであるが、これは、モデユレータ又はシャッタとして集中レンズ28を用いて説明されている。
【0048】
電子を集中することに加えて、電子集中レンズ28は、イオンチャンバー18への電子ビーム34の通過を選択的にブロックしたり許したりする「シャッタ」として用いるように構成されている。この電子集中レンズ28を異なる電圧に切り替えることによって、電子が所要のイオン源に到達するのを許したり拒否したりする「ゲート」として作用せしめることができる。
【0049】
初期状態では、レンズは、第1の負の電圧が電子集中レンズ28に印加される「通過」に設定される。この第1の電圧の選択は、レンズ28を電子ビームが通過するのを許しつつ電子ビームを集中させるのに十分に負とするように行われる。レンズ28の中央のアパーチャの配置は、静電界が発生すると、レンズ28に向けて電子が移動し、レンズ28のアパーチャ61に向けて内径方向に導かれてイオン源チャンバー18に向けて電子が移動する方向に垂直な反発作用力を経験させるような状態にする。この電界は、電子を狭いビームに「押し付けて」これらの電子がレンズ28を通過するように導く。電子を圧縮すると、電子は、集中させられて、イオン源チャンバー18に入る電子の数を増加する。このようにして、チャンバー18内のイオン化の効率と正確性が増大する。
【0050】
第2の状態では、電子集中レンズ28は、イオン源チャンバー28への電子の流れを防止する「ストップ」にセットされる。レンズ28をストップにセットするために、第2の負の電圧を電子集中レンズに印加するが、この電圧は、第1の電圧より大きい(即ち、一層負である)。この大きな負の反発電圧によって、接近する電子は、電子反発作用により電子集中レンズ28を通過するのが妨げられ、その代りに、消散する。このようにして、レンズ28を通る電子ビームの流れが止められ、従って、イオン源チャンバー18への電子の流れが止められ、また、更なるイオン生成が停止される。
【0051】
1つの実施例において、イオンの検出は、一連の「スキャン」を経て周期的な方式で行うことができる。各スキャンは、ターゲット領域内の分子のイオン化が開始する個々のデータ捕集のイベントである。その後、電子集中レンズ28は、イオン化を停止させるためにシャッタとして動作し、更に、イオンは、イオン源18から抽出され、上記したように飛行領域を通って広められる。スキャンは、検知器でイオンを検知して締めくくる。このシステムのデータ収集周期は、スキャンの期間によって定まる。例えば、約100μβのスキャン期間では、システムの特有のデータ速度は、ほぼ10,000Hzである。
【0052】
単一のスキャン期間中では比較的低いイオン量が蓄積され、このようにして、単一のスキャンだけに基づいた分析は、大きな統計的誤差を受けることになり、従って、使用が限定されることになる。また、各スキャン期間(即ちすべての100με)毎に記憶装置にデータを書き込む要件が極めて大きく収拾不可能なファイル・サイズとなるので、単一のスキャンだけからデータを得ることは望ましくない。これらの問題を回避するために、このシステムは、統計的により重要な蓄積信号で多数の連続するスキャンから検知信号を合計して「スキャンセット」(複数)とする。その後、各スキャンセットは、それぞれ、各スキャンからの多数のデータポイントではなく、単一のデータポイントとして記録される。
【0053】
スキャンセットを形成するために合計されるスキャンの数は、例えば、クロマトグラフィーの条件に依存して選択的に変えることができる。このシステムは、このパラメータ以下で動作されてもよいが、各GCのピーク毎に少なくとも5つのデータポイントを得ることが望ましいことが分かっている。従って、このGCシステムがピークに約3秒を広く与るのが典型的であり、且つ1ピーク当たり6のデータポイント値が必要である場合、「1スキャンセット当たり複数のスキャン」の値が約5000であるようにセットされると、5000*100με=0.5s毎に1つのスキャンセットとなる。このようにすると、各ピーク毎に約6つのデータポイントを与えるように、1秒当たり2つのデータポイントが付与される。従って、各スキャンに続いて、電子集中レンズ28が再び開いて更なるイオン化を許し、スキャンサイクルが継続する。
【0054】
これは、システムに依存して変えられ、また、例えば、GC×GCシステムでは、ピークは、一層狭く、従って、遥かに大きなスキャンセット割合が要求される。ここで、約100Hzまでのスキャンセット割合又は0.001秒毎に1つのスキャンセットを用いてもよい。この速度で、スキャンセットは、100スキャンから成っている。
【0055】
スキャン同士の間及びスキャンセット同士の間、イオン化が停止される閉止状態にシャッタとして電子集中レンズ28を優先的に利用することによりイオン化の休止が付与される。しかし、リフレクター、フィラメント、集中レンズ、エキストラクター、イオン化チャンバーの如き電子ビームの通路の他のすべての電気的帯電性エレメントをシャッタとして使用することができる。別個のシャッタエレメントも考えられる。スキャン同士の間及びスキャンセット同士の間の休止期間は異ならせることができる。スキャンセット同士の間の休止は、次のスキャンセットが開始さられる前に、電子イオン化電圧を変えるのに利用してもよい。リフレクタープレート26、エキストラクター36及び電子集中レンズ28を制御する電圧は、スキャンセットの休止中に調節することができ、このスキャンセット休止期間は、次のスキャンセットの開始及びその後のデータ収集前に、十分に安定した電圧が確立するのを保証するように選択される。1つの実施例では、
図8に示されるように、第1のスキャンセットは、15Vの電子加速電圧で行われる。その後、第1のスキャンセット休止中、加速電圧は、70Vに増加され、その後、次のスキャンセットは、この高い電圧で行われる。その後、第2のスキャンセット休止中に、電圧は、15Vに減少し、この加速電圧の昇降サイクルは、断続的な交互の基礎に基づいて継続される。
【0056】
電子電圧は、イオン化電子のエネルギーを限界するイオンチャンバー18に対してフィラメント22のバイアス電圧を変えることによってスキャンセット同士の間で有効に変えることができる。エキストラクターと電子集中レンズ28の最適電圧は、異なったイオン化エネルギーと共に変化するので、フィラメント22の電圧と並んでこれらの値を変更することも必要である。
【0057】
2つ以上の電圧値間でスキャンセット同士の間のフィラメントの電圧を選択的に変えることによって、所定のサンプルが1つの電子エネルギーで分析される必要があるとか、再分析が第2の又は他の電子エネルギーで行なわれるとかいうのではなく、単一の分析実験で多数のイオン化エネルギー(Ex)が印加される。単一のサンプル分析中の電子エネルギーの迅速な周期的な変化は、シャッタとして動作する電子集中レンズ28によって可能になって、スキャン同士の間とスキャンセット同士の間でイオン化を停止してスキャンセット休止を付与し、またこの周期的な変化は、エキストラクター36によって可能であり、このエキストラクター36は、電子密度を増加し、従って、これらの低いエネルギーでのイオン化効率を増加することによって、ソフトなイオン化エネルギーで分析的に実行可能な測定が行われるのを可能にする。ソフトなイオン化は、化学的イオン化の如き他の手段によって、合理的な効率で行われるが、このような技術は、所要の時間間隔で達成することができなかったイオン化ガスの代替物を必要とするので、分析運転中、イオン化エネルギーを変化せしめることがない。その上、化学的イオン化は、ある個別のイオン化エネルギーだけを許すが、本発明は、装置の電圧パラメータの範囲内で所望のイオン化エネルギーを達成するのを許す。
【0058】
隣接したスキャンセット同士の間での電子加速電圧の変化は、一方がE
1で他方がE
2にイオン化した2つのフルセットのスペクトルの同時の生成を支持する。しかし、分析中、イオン化エネルギーを選択的に変える可能性は、種々の他の方法で適用することができることは理解されることと思う。例えば、サンプルの測定中、所定時間でイオン化エネルギーを選択的に変えることができる。
【0059】
2つの交互の電圧分析について、各ピーク毎のデータポイントの正確な数とイオン化エネルギーを維持するスキャンセット割合全体を倍加することが望ましい。事実、同数の検知されたイオンは、両方のイオン化エネルギーの間で「共有される」ことになる。このようにすると、1つの一定のイオン化エネルギーを使用して、各結果は、50%の強度が見られることになる。しかし、多くの場合、第2セットの結果からの情報によって得られる利点は、各結果の感度の減少から欠点に遥かに重きを置くことになる。
【0060】
所要の電子エネルギーは、例示的に既に引用されているが、このシステムは、分析中、所定の順番又は時期に分析中の所望数のイオン化エネルギーを使用して動作することができたことは理解されることと思う。例えば、絶えず交互となる方式で、E
IとE
2でサンプリングするのではなく、後のセクションでE
IとE
3とで集めるように動き続ける前に、最初の測定セクションでE
2と同時にイオン化エネルギーE
Iでデータを集めることができることになる。このようにして、イオン化は、同時か又は同じ測定内で順次にエネルギー又はエネルギーセットで達成してもよい。ソフトな電子電圧でイオン化する可能性と組み合わせて、ハードとソフトにイオン化されたサンプルデータを同時に蓄積するために、強力で高度の融通性を有するツールが設けられる。
【0061】
空間電荷効果は、電子の生成を妨害し、従って、イオン化を減少する。本発明は、高い電界で電子雲を抽出することによって空間電荷の限定的な放射の影響を否定するか緩和する。この抽出に続いて、電子は、イオンチャンバーに接近しつつ、自動的に減速させられる。このようにすると、エミッタでの高い電子の生成を維持しつつ、ターゲット領域で低い電子エネルギーを許す。
【0062】
上記の明細書で、特に重要であると考えられる本発明の特徴に注意を引き付けるように努めつつ、出願人は、特別の強調を置くか置くまいが、先に 記載し及び/又は図示した特許性ある特徴又は特徴の組み合わせに関し、保護を要求していることは、理解すべきである。
【0063】
更に他の実施例では、上記し図示された特定の装置の種々の変形をなすことができることは理解されることと思う。例えば、上記した特定の実施例に有利である電圧と時間との特定の値が例示的に記載されたが、本発明は、本発明の特定の適用に依存して変えることができるこれらの値の応用例に限定されるものではないことは理解されるであろう。その上、特定のTOFシステムを例示的に記載したが、本システムは、このようなシステムの使用に限定されるものではない。更に、このイオン化技術は、TOF質量分析に使用するのに限定されていないことが強調され、また、本システムは、分子のイオン化を必要とする用途に用いることができ、特に、ソフトなイオン化の要求及び又は単一のサンプル分析内で複数のイオン化電圧間での切替えの可能性とに用いることができる。