(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854833
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】冷間圧延され及び焼鈍された鋼板、その製造方法、並びに自動車部品を製造するためのそのような鋼の使用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20210329BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20210329BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20210329BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20210329BHJP
C22C 18/04 20060101ALN20210329BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D9/46 P
!C22C21/02
!C22C18/04
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-561563(P2018-561563)
(86)(22)【出願日】2017年5月23日
(65)【公表番号】特表2019-522723(P2019-522723A)
(43)【公表日】2019年8月15日
(86)【国際出願番号】IB2017000616
(87)【国際公開番号】WO2017203346
(87)【国際公開日】20171130
【審査請求日】2019年1月17日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/000701
(32)【優先日】2016年5月24日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソレ,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】スアソ・ロドリゲス,イアン・アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】デ・ディエゴ・カルデロン,イレーヌ
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−176843(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/099221(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0081740(US,A1)
【文献】
FROMMEYER Georg、外1名,Microstructures and Mechanical Properties of High-Strength Fe-Mn-Al-C Light-Weight TRIPLEX Steels,Steel Research International,ドイツ,2006年 9月,Vol.77 No.9/10,Page.627-633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延及び焼鈍された鋼板であって、重量で、
0.6<C<1.3%、
15.0≦Mn<35%、
6.0≦Al<15%、
Si≦2.40%、
S≦0.015%、
P≦0.1%、
N≦0.1%、
個々の量で3%までの、Ni、Cr及びCuの中から選択される1種以上の任意元素、及び累積量で2.0%までの、B、Ta、Zr、Nb、V、Ti、Mo及びWの中から選択される1種以上の任意元素を含み、組成の残部は鉄及び不可避的不純物により構成され、前記板の微細構造は、少なくとも0.1%の粒内κ炭化物(ここで、そのようなκ炭化物の少なくとも80%は30nm未満の平均サイズを有する。)及び任意に10%までの粒状フェライトを含み、残部はオーステナイトから構成され、オーステナイトの平均粒径及び平均アスペクト比は、それぞれ6μm未満及び1.5〜6であり、フェライトの平均粒径及びアスペクト比は、存在する場合、それぞれ5μm未満及び3.0未満である、鋼板。
【請求項2】
炭素含有量が0.8〜1.0%である、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
マンガン含有量が18〜30%である、請求項1又は2に記載の鋼板。
【請求項4】
アルミニウム含有量が8.5〜10%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項5】
鋼板が、少なくとも1000MPaの極限引張強度、少なくとも900MPaの降伏強度及び7.2未満の密度を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項6】
鋼板が金属皮膜で覆われている、請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項7】
鋼板がアルミニウム系皮膜又は亜鉛系皮膜で覆われている、請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に規定する微細構造を有する鋼板の製造方法であって、以下の工程:
− 請求項1〜4に記載される組成であるスラブの供給工程:
− そのようなスラブを1000℃を超える温度で再加熱し、及びそれを少なくとも800℃の最終圧延温度で熱間圧延する工程、
− 熱間圧延鋼板を600℃未満の温度で巻取る工程、
− そのような熱間圧延鋼板を30〜80%である圧下率で冷間圧延する工程、
− そのような冷間圧延板を700〜1000℃である焼鈍温度まで加熱し、それをそのような温度で5分未満の間保持し、及びそれを少なくとも30℃/秒の速度で冷却することによる、冷間圧延板の第1の焼鈍工程、
− そのような焼鈍された板を400〜700℃である焼鈍温度まで加熱し、それをそのような温度で1分〜150時間の期間中保持し、及びそれを少なくとも30℃/秒の速度で冷却することによる、焼鈍された板の第2の焼鈍工程
を含む、方法。
【請求項9】
第1の焼鈍温度が800〜950℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
巻取り温度が350〜500℃である、請求項8から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第2の焼鈍の保持時間が2〜10時間の間である、請求項9から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
最終被覆工程をさらに含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
車両の構造部品又は安全部品を製造するための、請求項1から7のいずれか一項に記載の鋼板、又は請求項8から12のいずれか一項に記載の方法に従って得ることができる鋼板の使用。
【請求項14】
車両の構造部品又は安全部品を製造するための方法であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の鋼板をフレキシブル圧延する、又は請求項8から12のいずれか一項によって製造した鋼板をフレキシブル圧延することを含む、方法。
【請求項15】
車両の製造方法であって、
請求項1から7のいずれか一項に記載の鋼鈑を使用することによって、若しくは請求項8から12のいずれか一項に記載の方法によって製造した鋼板を使用することによって、構造部品若しくは安全部品を製造すること、又は
請求項14に記載の方法によって構造部品若しくは安全部品を製造すること、
次いで、構造部品若しくは安全部品を車両において使用すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にオーステナイトを含む微細構造を示す低密度鋼板を扱う。本発明による鋼板は、陸上自動車のような車両用の安全部品又は構造部品の製造に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
環境規制により、自動車メーカーは車両のCO
2排出量を継続的に削減する必要がある。そうするために、自動車メーカーにはいくつかの選択肢があり、その主な選択肢は、車両の重量を減らすこと、又はエンジンシステムの効率を向上させることである。進歩は、この2つのアプローチの組み合わせによって頻繁に達成される。本発明は、第1の選択肢、即ち、自動車の重量の低減に関する。この非常に特定の分野では、複線的代替手段がある。
【0003】
第1の路線は、鋼の厚さを減少させながらその機械的強度のレベルを増加させることからなる。残念なことに、この解決法は、特定の自動車部品の剛性の著しい低下と、機械的強度の増加に伴う延性の不可避的な低下は言うまでもなく、乗客に不快な状態を引き起こす音響的問題の出現のために、限界がある。
【0004】
第2の路線は、より軽い他の金属と合金化することによって鋼の密度を低下させることからなる。これらの合金の中でも、低密度のものは、重量を大幅に削減することを可能にしながら、魅力的な機械的及び物理的特性を有する。
【0005】
特に、US2003/0145911号は、良好な成形性及び高い強度を有するFe−Al−Mn−Si軽量鋼を開示する。しかし、このような鋼の極限引張強度(ultimate tensile strength)は800MPaを超えるものではなく、全ての種類の幾何学的形状の部品についてその低密度を最大限に生かすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0145911号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、7.2未満の密度、少なくとも1000MPaの極限引張強度及び少なくとも900MPaの降伏強度を示す鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、7.1以下又は7.0以下の密度、少なくとも1100MPaの極限引張強度及び少なくとも1000MPaの降伏強度を示す。
【0009】
この目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することによって達成される。鋼板は、請求項2〜7の特徴も含むことができる。請求項8〜12に記載の方法を提供することによって、別の目的が達成される。請求項13〜15に記載の部品又は車両を提供することによって、別の態様が達成される。
【0010】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)は試験2のサンプルのκ炭化物の暗視野像の複製であり、
図1(b)は試験2のサンプルの対応する回折パターンの複製である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
いかなる理論にも拘束される意図はないが、本発明による低密度鋼板は、この特定の微細構造の為に機械的特性の改善を可能にすると思われる。
【0013】
鋼の化学組成に関して、炭素は、微細構造の形成及び目標とされる機械的性質の到達に重要な役割を果たす。その主な役割は、鋼の微細構造の主な相であるオーステナイトを安定化させ、及び強化を提供することである。0.6%未満の炭素含有量により、オーステナイトの割合が減少し、合金の延性及び強度の両方が低下する。粒内κ炭化物(Fe,Mn)
3AlC
xの主成分元素として、炭素はそのような炭化物の析出を促進する。しかし、1.3%を超える炭素含有量は、粒界における粗大な形でのそのような炭化物の析出を促進する可能性があり、その結果、合金の延性が低下する。
【0014】
好ましくは、炭素含有量は、十分な強度を得るために、0.80〜1.3重量%の間、より好ましくは0.8〜1.0重量%の間である。
【0015】
マンガンは、この系の重要な合金元素である。非常に多量のマンガン及び炭素による合金化によりオーステナイトを室温まで安定化させ、不安定化させてフェライト又はマルテンサイトに変態させることなく、多量のアルミニウムを許容することができるという事実に主としてよるものである。合金が優れた延性を有することを可能にするために、マンガン含有量は15%以上でなければならない。しかし、マンガンの含有量が35%を超えると、β−Mn相の析出により合金の延性が低下する。したがって、マンガン含有量は、15.0%以上35%以下に制御されるべきである。好ましい実施形態では、マンガン含有量は15.5%以上、又はさらに16.0%以上である。その量はより好ましくは18〜30%の間、さらには18〜25%の間でさえある。
【0016】
高マンガンオーステナイト鋼へのアルミニウムの添加により、合金の密度が効果的に低下する。加えて、それはオーステナイトの積層欠陥エネルギー(SFE)を大幅に増加させ、ひいては合金の歪み硬化挙動の変化をもたらす。アルミニウムはまた、ナノサイズのκ炭化物(Fe,Mn)
3AlC
xの主な元素の1つであり、したがってその添加によりそのような炭化物の形成が著しく高まる。一方で、オーステナイトの安定性及びκ炭化物の析出を保証するために、また、他方で、フェライトの形成を制御するために、本合金のアルミニウム濃度を調整すべきである。したがって、アルミニウム含有量は、6.0%以上15%以下に制御する必要がある。好ましい実施形態では、アルミニウム含有量は7〜12%の間、好ましくは8〜10%の間である。
【0017】
ケイ素は、高マンガン及びアルミニウム鋼の一般的な合金元素である。これは、D0
3構造を有する規則フェライト(ordered ferrite)の形成に非常に強い影響を及ぼす。さらに、ケイ素は、オーステナイト中の炭素の活性を高め、κ炭化物への炭素の濃化を高めることが示された。さらに、ケイ素は、脆いβ−Mn相の析出を遅延又は防止するために使用できる有効な合金元素として説明されてきた。しかし、2.40%の含有量を超えると、伸びを低下させ、特定の組立工程の間に望ましくない酸化物を形成する傾向があり、したがってこの限界未満に保たなければならない。好ましくは、ケイ素の含有量は2.0%未満、有利には1.0未満である。
【0018】
硫黄及びリンは、粒界を脆化させる不純物である。十分な熱間延性を維持するために、それぞれの含有量は0.03%及び0.1%を超えてはならない。
【0019】
AlNの析出及び凝固時の体積欠陥(ブリスター)の形成を防止するためには、窒素含有量は0.1%以下でなければならない。
【0020】
ニッケルは、鋼中への水素の浸透に対して肯定的な影響を有するため、水素に対する拡散障壁として使用することができる。ニッケルは、B2成分のようなフェライト中の規則化合物の形成を促進し、追加の強化をもたらすので、有効な合金元素としても使用することができる。しかし、とりわけコストの理由から、ニッケル添加を4.0%以下、好ましくは0.1〜2.0%の間又は0.1〜1.0%の間の最大含有量に制限することが望ましい。別の実施形態では、ニッケル量は0.1%未満である。
【0021】
クロムは、溶液硬化によって鋼の強度を増加させるための任意の元素として使用することができる。それはまた、本発明による鋼の高温耐食性を向上させる。しかし、クロムは積層欠陥エネルギーを低下させるので、その含有量は3.0%を超えてはならず、好ましくは0.1%〜2.0%の間又は0.1〜1.0%の間である。別の実施形態では、クロムの量は0.1%未満である。
【0022】
同様に、任意に、含有量が3.0%を超えない銅の添加は、銅に富む析出物の析出による鋼の硬化の一手段である。しかし、この含有量を超えると、銅は熱間圧延板の表面欠陥の出現の原因となる。好ましくは、銅の量は0.1〜2.0%の間又は0.1〜1.0%の間である。別の実施形態では、クロムの量は0.1%未満である。
【0023】
ホウ素は、非常に低い固溶度、及び粒界に偏析し、格子欠陥と強く相互作用する強い傾向を有する。したがって、ホウ素は粒間κ炭化物の析出を制限するために使用することができる。好ましくは、ホウ素の量は0.1%未満である。
【0024】
ニオブは、有効な結晶成長抑制剤であるため、鋼の強度及び靭性を同時に高めることができる。さらに、タンタル、ジルコニウム、バナジウム、チタン、モリブデン及びタングステンも、窒化物、炭窒化物又は炭化物の析出による硬化及び強化を達成するために任意に使用することができる元素である。しかし、その累積量が2.0%を超える、好ましくは1.0%を超えると、過度の析出により靱性の低下が引き起こされ得るリスクがあり、これは避けなければならない。
【0025】
本発明による鋼板の微細構造は、少なくとも0.1%のκ炭化物、任意に10%までの粒状フェライトを含み、残部はオーステナイトで構成される。
【0026】
オーステナイトマトリックスは、6μm未満、好ましくは4μm未満、より好ましくは3μm未満の平均粒径を示し、1.5〜6の間、好ましくは2.0〜4.0の間、より好ましくは2.0〜3.0の間の平均アスペクト比を有する。
【0027】
κ炭化物(Fe,Mn)
3AlC
xは、体積分率において0.1%、好ましくは0.5%、より好ましくは1.0%、及び有利には3%を超える、最小量で、本発明による鋼板の微細構造中に存在する。そのようなΚ−炭化物の少なくとも80%は、30nm未満、好ましくは20nm未満、より好ましくは15nm未満、有利には10nm未満又はさらに5nm未満の平均サイズを有する。それらはオーステナイト結晶粒の内部に析出する(いわゆる粒内κ炭化物)。ナノサイズのκ炭化物の均質かつまとまりのある析出は、合金の強度を増加させる。粒間κ炭化物の存在は、そのような粒間粗大κ炭化物が鋼の延性を低下させることがあるので、許容されない。
【0028】
フェライトも、面積率で10.0%まで、好ましくは5.0%まで、より好ましくは3.0%までの量で、本発明による板の微細構造中に存在することができる。しかし、鋼の延性及び成形性を著しく低下させるため、フェライトの形態は、帯の形態のフェライトを除いた粒状の形状に限定される。存在する場合、フェライト粒子は、5μm未満、好ましくは1μm未満の平均粒径を有する。存在する場合、フェライトの平均アスペクト比は、3.0未満、好ましくは2.5未満である。そのようなフェライトは、α、B2、D0
3構造が本発明による鋼で観察され得るように、標準の無規則フェライトα(regular disorded ferrite α)の形態であってもよいし、又は(Fe,Mn)Al組成を有するB2構造として、若しくは(Fe,Mn)
3Al組成を有するD0
3構造として規則的でもよい。
【0029】
本発明による鋼板を腐食から保護するために、好ましい実施形態では、鋼板は金属皮膜で覆われる。金属皮膜は、アルミニウム系皮膜又は亜鉛系皮膜とすることができる。
【0030】
好ましくは、アルミニウム系皮膜は、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意に0.1〜8.0%のMg、及び任意に0.1〜30.0%のZnを含み、残部はAlである。
【0031】
有利には、亜鉛系皮膜は、0.01〜8.0%のAl、任意に0.2〜8.0%のMgを含み、残部はZnである。
【0032】
本発明による鋼板は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者は、それを規定することができる。しかし、以下の工程:
− 本発明による組成であるスラブの供給工程:
− そのようなスラブを1000℃を超える温度で再加熱し、及びそれを少なくとも800℃の最終圧延温度で熱間圧延する工程、
− 熱間圧延鋼板を600℃未満の温度で巻取る工程、
− そのような熱間圧延鋼板を30〜80%の間に含まれる圧下率で冷間圧延する工程、
− そのような冷間圧延板を700〜1000℃の間に含まれる焼鈍温度まで加熱し、それをそのような温度で5分未満の間保持し、及びそれを少なくとも30℃/秒の速度で冷却することによる、冷間圧延板の第1の焼鈍工程、
− そのような焼鈍された板を400〜700℃の間に含まれる焼鈍温度まで加熱し、それをそのような温度で1分〜150時間の期間中保持し、及びそれを少なくとも30℃/秒の速度で冷却することによる、焼鈍された板の第2の焼鈍工程
を含む、本発明による方法を使用することが好ましい。
【0033】
本発明による鋼板は、好ましくは、上記の組成を有する本発明による鋼製の半製品、例えば、スラブ、薄いスラブ又はストリップを鋳造し、その鋳造された投入原料を1000℃を超える、好ましくは1050℃を超える、より好ましくは1100℃又は1150℃を超える温度に加熱する方法により製造されるか、鋳造後のそのような温度で中間冷却することなく、直接使用される。
【0034】
熱間圧延工程は、最終圧延温度が800℃を超えるように行われる。帯中のフェライトの形成による延性の欠如による亀裂の問題を回避するために、最終圧延温度は、好ましくは850℃以上である。
【0035】
熱間圧延の後、ストリップは600℃未満、好ましくは350℃を超える温度で巻取られなければならない。好ましい実施形態では、過度のκ炭化物の析出を避けるために、350〜450℃の間で巻取りが行われる。
【0036】
上記の方法により得られた熱間圧延された製品は、可能な事前の酸洗い操作が通常の方法で行われた後に冷間圧延される。
【0037】
冷間圧延工程は、30〜80%の間、好ましくは50〜70%の間の圧下率で行われる。
【0038】
この圧延工程の後、短い焼鈍が、板を700〜1000℃の間に含まれる焼鈍温度まで加熱し、そのような温度で5分未満の間保持し、それを少なくとも30℃/秒、より好ましくは少なくとも50℃/秒、さらにより好ましくは少なくとも70℃/秒の速度で冷却することにより実施される。好ましくは、この焼鈍は連続的に行われる。焼鈍温度及び時間を制御することにより、上記の特性を有する完全オーステナイト又は2相構造のいずれかを得ることができる。
【0039】
この焼鈍工程の後、板を400〜700℃の間に含まれる焼鈍温度まで加熱し、それをそのような温度で1分〜150時間の期間中保持し、それを少なくとも30℃/秒、より好ましくは少なくとも50℃/秒、さらにより好ましくは少なくとも70℃/秒の速度で冷却することにより、第2の焼鈍が行われる。好ましくは、この焼鈍は連続的に行われる。
【0040】
これらの2つの焼鈍工程の後、鋼板は、腐食からの保護を改善するために、任意に、金属被覆操作に供されてもよい。使用される被覆法は、本発明の鋼に適合するいずれの方法であってもよい。電気的又は物理的蒸着を、ジェット気相蒸着を特に強調して挙げることができる。金属皮膜は、例えば、亜鉛又はアルミニウムをベースとすることができる。
【実施例】
【0041】
組成物が表1にまとめられた6つの等級(grade)をスラブに鋳造し、表2にまとめられた方法のパラメータに従って処理した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
次いで、得られたサンプルを分析し、対応する微細構造要素及び機械的特性をそれぞれ表3及び表4にまとめた。
【0045】
【表3】
【0046】
サンプル9を除いて、サンプルは粒間Κ炭化物及びβ−Mn相の存在を示さなかった。試験1〜4のκ炭化物の量は0.1%を上回ったが、試験5及び6では0.1%未満であった。試験1〜4のκ炭化物の80%超は、20nm未満の平均粒径を有していた。
【0047】
いくつかの微細構造の分析を試験2のサンプルで行った。κ炭化物の画像を、以下のとおり
図1(a)及び
図1(b)に複製する。
(a) κ炭化物の暗視野像
(b) 対応する回折パターン、ゾーン軸[110]κ。矢印は、(a)における暗視野像に用いられる反射を示す。
【0048】
【表4】
【0049】
これらの例は、本発明による鋼板が、それらの特定の組成及び微細構造によって、全ての目的とする特性を示す唯一のものであることを示す。