(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。
【0010】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る温度測定装置1は、自動車(例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車)に搭載されるバッテリーユニット2のバッテリー(被検温物)3の温度を測定するために使用される。バッテリーユニット2は、バッテリー3と、バッテリー3を収容する金属製のケース4を備える。バッテリー3は、例えば二次バッテリーであり、例えばラミネートタイプのリチウムイオンバッテリーである。以下の説明では、温度測定装置1とバッテリーユニット2の組合せを温度測定機構と呼ぶことがある。
【0011】
バッテリーユニット2のケース4は、薄い直方体の形状を有する。ケース4の天井板には、温度測定装置1を配置するための取付け穴(取付け位置)4aが形成されている。取付け穴4aは、天井板を貫通する円形の穴であって、温度測定装置1により閉塞される。
【0012】
温度測定装置1は、電気式温度測定器6と、電気式温度測定器6の感温部8を覆う弾性材料部16とを有する。電気式温度測定器6は、サーミスター式温度計でもよいし、熱電対式温度計でもよいし、測温抵抗体式温度計でもよいし、静電容量式温度計でもよい。
【0013】
図3に示すように、電気式温度測定器6は、感温部8と、感温部8に接続された複数の配線12と、配線12が固定されたテープ状のフレキシブルプリント基板10とを備え、感温部8の温度を電気的に測定する。感温部8は、サーミスターでもよいし、熱電対でもよいし、測温抵抗体でもよいし、キャパシターでもよい。電気式温度測定器6は、感温部8の温度を電気的に測定するための電気回路(図示せず)を備え、配線12はこの電気回路に接続されている。この電気回路は、電気式温度測定器6の種類に応じて異なる。フレキシブルプリント基板10は、例えば、ポリイミド、ポリアミドなどの樹脂材料から形成されている。
【0014】
図1から
図3に示すように、弾性材料部16は、エラストマー材料製の伝熱部18と、エラストマー材料製の断熱部20とを備える。伝熱部18と断熱部20の両方は、平面図において円形の輪郭を有しており、互いに同心に配置されている。伝熱部18は、感温部8のほぼ全体を覆う。すなわち、感温部8は伝熱部18に埋設されている。断熱部20は、伝熱部18の片面を覆うとともに、伝熱部18の外周を包囲する。断熱部20は伝熱部18に直接接合されている。
【0015】
伝熱部18および断熱部20の両方は、好ましくは、電気的絶縁性が高いエラストマー材料から形成されている。好ましい材料の抵抗率は、例えば0.1TΩ・m以上である。
【0016】
伝熱部18の熱伝導率は、断熱部20の熱伝導率よりも高い。伝熱部18の好ましい熱伝導率は、0.4W/(m・K)以上である。
【0017】
断熱部20には、取付け部22が形成されており、取付け部22をケース4の取付け穴4aに取り付けることが可能である。断熱部20の取付け部22は、円環状であって、円形の伝熱部18の外周を包囲する。取付け部22は、断熱部20の側面に形成された周溝24を有する。周溝24には、ケース4の取付け穴4aの縁部4bが嵌め入れられる。
【0018】
この弾性材料部16の中央には、伝熱部18と断熱部20が重なった重なり部分26が設けられる。弾性材料部16の外端には、断熱部20の取付け部22が設けられる。重なり部分26と取付け部22との間の中間部分28の厚さは、重なり部分26の厚さよりも小さい。
【0019】
この実施形態では、重なり部分26において、断熱部20の厚さが小さくされており、重なり部分26が軽量化および小型化されている。但し、重なり部分26において、断熱部20の厚さを大きくして、断熱性を高めてもよい。
【0020】
断熱部20と伝熱部18には、フレキシブルプリント基板10の端部10aが埋設されている。フレキシブルプリント基板10上の配線12の端部も断熱部20と伝熱部18に埋設されている。
【0021】
この実施形態では、感温部8は、配線12の端部とともにフレキシブルプリント基板10の端部10aの片面に固定されており、端部10aの他の面は伝熱部18の底部から露出している。但し、端部10aの全体が伝熱部18に埋設されていてもよい。また、感温部8をフレキシブルプリント基板10には固定せず、感温部8全体が伝熱部18で覆われていてもよい。
【0022】
上記のように、この実施形態に係る温度測定装置1においては、エラストマー材料製の伝熱部18が電気式温度測定器6の感温部8の全体を覆い、エラストマー材料製の断熱部20が伝熱部18の片面を覆う。高い熱伝導率を有する伝熱部18により、バッテリー(被検温物)3から感温部8に良好に熱が伝導される一方で、伝熱部18の片面を覆う断熱部20により、伝熱部18の熱が伝導で逃げにくい。したがって、被検温物の温度を正確かつ迅速に測定することが可能である。
【0023】
また、感温部8は伝熱部18に埋設され、感温部8と被検温物との間には、フレキシブルプリント基板10の端部10aが介在するので、被検温物と感温部8の電気的接触が避けられる。したがって、例えば、バッテリー3のような外部からの電気の流れを避けるべき被検温物に対して、電気式温度測定器6から電気が流れるおそれを低減することができる。
【0024】
さらに、断熱部20と伝熱部18がエラストマー材料から形成されていることにより、伝熱部18が被検温物に接触しても、被検温物に対する接触圧は小さい。ラミネートタイプのリチウムイオンバッテリーは、薄い部品から構成されており、部品の損傷または性能低下を回避するために、大きな力を与えないことが望ましい。しかし、被検温物の損傷または性能低下を避けるために、電気式温度測定器6を被検温物から離間させたのでは、被検温物の温度を正確かつ迅速に測定するのが難しい。この実施形態では、伝熱部18が被検温物に接触しても、被検温物に対する接触圧が小さいので、伝熱部18が被検温物に接触した状態で、被検温物の温度を正確かつ迅速に測定することができる。
【0025】
さらにまた、断熱部20が弾性の高いエラストマー材料から形成されていることにより、断熱部20に形成された取付け部22を取付け穴4aに取り付けることが容易である。
【0026】
また、この実施形態では、断熱部20が伝熱部18の外周を包囲するので、伝熱部18の熱がさらに伝導で逃げにくい。また、取付け部22ひいては取付け穴4aは、断熱部20の全周にわたって設けられるので、取付け部22と取付け穴4aとの間の隙間を周方向全体にわたって、なくすことができ、伝熱部18の熱が伝達または放射によって逃げにくい。
【0027】
この実施形態では、断熱部20の高い弾性を利用して、取付け部22の周溝24を取付け穴4aの縁部4bに容易に取り付けることができる。また、この取付け構造では、
縁部4bが周溝24に嵌め入れられることにより、取付け部22と取付け穴4aとの間の隙間をなくすことができ、伝熱部18の熱がさらに伝達または放射によって逃げにくい。
【0028】
この実施形態では、伝熱部18と断熱部20が重なった重なり部分26と取付け部22との間の中間部分28の厚さが、重なり部分26の厚さよりも小さい。したがって、中間部分28の柔軟性が高いので、伝熱部18が被検温物に接触しても、被検温物に対する接触圧を低減することができる。
【0029】
この実施形態では、配線12の端部とフレキシブルプリント基板10の端部10aが断熱部20と伝熱部18に埋設されている。したがって、電気式温度測定器6の製造において、感温部8を容易に伝熱部18に埋設することができる。
【0030】
この実施形態に係る温度測定機構によれば、感温部8が埋設された伝熱部18または感温部18が固定されたフレキシブルプリント基板10の端部10aが被検温物に直接接触させられるので、被検温物の温度を正確かつ迅速に測定することが可能である。
【0031】
この実施形態に係る温度測定装置1の温度測定性能を調べるための実験を行った。また、比較例に係る温度測定装置の温度測定性能を調べるための実験を行った。
【0032】
図4は、比較例に係る温度測定装置を示す。この温度測定装置は、棒状のサーミスター38と、サーミスター38を支持するワイヤーハーネス40とを備える。ワイヤーハーネス40の内部には、サーミスター38に接続される複数の配線が配置されている。これらの配線は、サーミスター38の温度を電気的に測定するための電気回路(図示せず)に接続されている。サーミスター38は、ラミネートタイプのリチウムイオンバッテリー3を収容するケース30の開口部30aを通じて、ケース30の内部に挿入された。但し、バッテリー3の損傷または性能低下を避けるために、サーミスター38とバッテリー3の間には、間隔が設けられた。間隔は20mmであった。ケース30の材料と厚さは、実施形態のケース4のそれらと同じである。
【0033】
一方、実施形態に係る温度測定装置1では、感温部8はチップ型のサーミスターであった。伝熱部18は、熱伝導性シリコーンゴムで形成し、断熱部20は、断熱性シリコーンゴムで形成した。伝熱部18の熱伝導率は、0.9W/(m・K)であり、断熱部20の熱伝導率は、0.159W/(m・K)であった。伝熱部18と断熱部20の抵抗率は、0.1TΩ・mであった。感温部8とバッテリー3との間には、フレキシブルプリント基板10の端部10aが介在させられた(感温部8とバッテリー3との間隔は、フレキシブルプリント基板10の厚さであった)。
【0034】
実験結果を
図5に示す。
図5において、線L1は実際の温度を示す。実際の温度は、バッテリー3に接触させた熱電対で測定した。この時、アルミホイルで熱電対を覆い、外気の影響を受けないようにした。線L2は実施形態に係る温度測定装置1によるバッテリー3の温度測定結果を示す。線L3は比較例に係る温度測定装置によるバッテリー3の温度測定結果を示す。実施形態によれば、測定された温度の定常状態において、実際の温度との差は2℃程度であり、実際の温度変化に対する測定の遅れは30秒程度であった。
【0035】
一方、比較例によれば、測定された温度の定常状態において、実際の温度との差は10℃程度であり、実際の温度変化に対する測定の遅れは10分程度であった。実施形態に係る温度測定装置1は、バッテリー3の温度を正確かつ迅速に測定することができるのに対して、比較例に係る温度測定装置では、温度の測定性能が実施形態よりも劣ることが確認された。これは、比較例に係る温度測定装置では、サーミスター38はバッテリー3に直接接触せず周辺部の温度を測定しており、ケース30の開口部30aから熱が伝達および放射によって逃げたことによると考えられる。
【0036】
他の変形例
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【0037】
例えば、本発明の用途は、ラミネートタイプのリチウムイオンバッテリーの温度測定に限定されないし、自動車のバッテリーの温度測定にも限定されない。
【0038】
また、温度測定装置1を配置する位置は、天井板に限られない。例えば、ケース4の底板に取付け穴を形成して、その取付け穴に弾性材料部16を取り付けてもよい。
【0039】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0040】
条項1. 感温部を有しており、前記感温部の温度を電気的に測定する電気式温度測定器と、
前記感温部
が埋設されたエラストマー材料製の伝熱部と、
前記伝熱部の片面を覆うエラストマー材料製の断熱部とを備え、
前記伝熱部の熱伝導率は、前記断熱部の熱伝導率よりも高く、
前記断熱部には、取付け位置に取り付けるための取付け部が形成されている
ことを特徴とする温度測定装置。
【0041】
条項2. 前記断熱部の前記取付け部は、前記伝熱部の外周を包囲する
ことを特徴とする条項1に記載の温度測定装置。
【0042】
この場合には、断熱部が伝熱部の外周を包囲するので、伝熱部の熱がさらに伝導で逃げにくい。また、取付け部ひいては取付け位置は、断熱部の全周にわたって設けられるので、取付け部と取付け位置との間の隙間を周方向全体にわたって、なくすことができ、伝熱部の熱が伝達または放射によって逃げにくい。
【0043】
条項3. 前記断熱部の前記取付け部は、前記断熱部の側面に形成された周溝を有する
ことを特徴とする条項2に記載の温度測定装置。
【0044】
この場合には、断熱部の高い弾性を利用して、取付け部の周溝を取付け位置に容易に取り付けることができる。また、この取付け構造では、嵌め合わせによって、取付け部と取付け位置との間の隙間をなくすことができ、伝熱部の熱がさらに伝達または放射によって逃げにくい。
【0045】
条項4. 前記伝熱部と前記断熱部が重なった重なり部分と、前記取付け部との間の中間部分の厚さが、前記重なり部分の厚さよりも小さい
ことを特徴とする条項1から3のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【0046】
この場合には、中間部分の柔軟性が高いので、伝熱部が被検温物に接触しても、被検温物に対する接触圧を低減することができる。
【0047】
条項5. 前記電気式温度測定器は、前記感温部に接続された配線と、前記配線が固定されたフレキシブルプリント基板とを備え、
前記配線の端部と前記フレキシブルプリント基板の端部が前記断熱部と前記伝熱部に埋設されている
ことを特徴とする条項1から4のいずれか1項に記載の温度測定装置。
【0048】
この場合には、電気式温度測定器の製造において、感温部を容易に伝熱部に埋設することができる。
【0049】
条項6. 条項1から5のいずれか1項に記載の温度測定装置と、
前記取付け部が取り付けられたケースと、
前記ケース内に配置されて、前記伝熱部が直接接触させられた被検温物とを備える
ことを特徴とする温度測定機構。
【0050】
この温度測定機構によれば、感温部が埋設された伝熱部が被検温物に直接接触させられるので、被検温物の温度を正確かつ迅速に測定することが可能である。