(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態の冷却装置を備えた原子炉圧力容器1の構成を示す図である。
図1は、改良型沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器1を示し、原子炉圧力容器1の全体の高さは、約20mある。
原子炉圧力容器1は、上下に分割されており、上部は圧力容器上蓋1aであり、下部は容器としての圧力容器胴1bと圧力容器下部鏡板1cとが一体構成されている。
【0012】
圧力容器上蓋1aと圧力容器胴1bとの接続面は、フランジ構造となっている(不図示)。このフランジ部では、圧力容器上蓋1aと圧力容器胴1bの間に設置された図示しない金属Oリングにより、原子炉圧力容器1内の高圧蒸気をシールしている。この構造により、圧力容器上蓋1aと圧力容器胴1bが直接接触していないために互いの熱は伝わり難い。
【0013】
圧力容器胴1bの中には、図示しない燃料棒を含む炉心が収納されている。
原子炉運転中は、原子炉圧力容器1の約3分の2の高さまで炉水があり(約14m)、炉心が水中で核熱を発して炉水を沸騰させて蒸気を作る。原子炉圧力容器1の上3分の1にはこの蒸気が溜る。発生する蒸気および炉水は約280℃の高温、かつ、約7MPaの高圧の状態にある。
【0014】
このため、圧力容器上蓋1aの内部は、約280℃の高温かつ、約7MPaの高圧の蒸気で満たされた状態となっている。
圧力容器上蓋1aの外側には、熱を逃がさないように保温材2で囲まれており、圧力容器上蓋1aの外表面もほぼ280℃となっている。
【0015】
圧力容器上蓋1aの頂部には、冷却水を圧力容器上蓋1aの内部に噴霧するヘッドスプレイノズル4が設けられている。
実施形態の冷却装置では、ヘッドスプレイノズル4から噴霧される冷却水を、原子炉冷却材浄化系(CUW)や残留熱除去系から供給するようにしている。
【0016】
つぎに、原子炉冷却材浄化系(CUW)の概要を説明する。
原子炉冷却材浄化系(CUW)は、原子炉の運転時や停止時に、炉水の腐食生成物、核分裂生成物、溶解性無機物質などの不純物を除去する装置である。
【0017】
原子炉圧力容器1の下部から取水された炉水は、原子炉冷却材浄化系再生熱交換器13、および、原子炉補機冷却系熱交換器14によって50℃程度まで冷却されたのち、濾過脱塩装置15によって浄化される。浄化された炉水は、原子炉冷却材浄化系再生熱交換器13により再加熱されて、原子炉圧力容器1に還流する。この炉水の再加熱により、原子炉冷却材浄化系による熱影響を緩和している。
【0018】
より詳細には、原子炉冷却材浄化系再生熱交換器13の再加熱側の流路には、浄化された炉水が原子炉冷却材浄化系再生熱交換器13を通流することをバイパスする再生熱交換器バイパス弁16および再生熱交換器バイパス配管17が設けられている。また、濾過脱塩装置15に並列に、濾過脱塩装置15の通流をバイパスする濾過脱塩装置バイパス弁19および濾過脱塩装置バイパス配管20が設けられている。
隔離弁18は、原子炉圧力容器1と原子炉冷却材浄化系再生熱交換器13の間に設けられ、原子炉圧力容器1を隔離する。
【0019】
ヘッドスプレイノズル給水弁21は、ヘッドスプレイノズル給水配管6により供給される原子炉冷却材浄化系からの給水を開閉する弁であり、ヘッドスプレイを行う際に開かれ、通常運転時には閉じられている。
原子炉冷却材浄化系給水弁22は、原子炉冷却材浄化系からの給水を開閉する弁であり、通常運転時に開いて、原子炉冷却材浄化系で浄化された炉水が、図示しないタービンからの復水給水系に還流され、原子炉圧力容器1に給水される。
【0020】
定期検査のために原子炉を冷温停止する際には、まず通常運転状態からタービンや発電機を解列した後、全ての制御棒を炉心に挿入して原子炉を未臨界状態とする。次いで、
図示しないタービンバイパス弁を開いて原子炉圧力容器1内の蒸気を逃がすことにより原子炉圧力容器1内の減圧操作が行われ、最終的に大気圧まで減圧する。このとき、炉水温度は飽和温度の低下に伴い低下するため、原子炉圧力容器1の内壁温度もそれに従って低下する。
【0021】
圧力容器上蓋1aや圧力容器胴1bは、核熱による蒸気圧を保持するために肉厚を大きくして強度を確保している。このため、熱容量も大きい。
圧力容器胴1bは、炉水に触れているため、炉水に冷やされて炉水温度に近い温度降下を呈する。
しかし、圧力容器上蓋1aは、保温材2で囲まれ、かつ、内側が蒸気で満たされているために、圧力容器上蓋1aの温度はなかなか低下しない。
【0022】
図1の原子炉圧力容器1では、第1実施形態の冷却装置により、圧力容器上蓋1aを強制冷却する。
第1実施形態の冷却装置は、圧力容器上蓋1aと保温材2の間に、圧力容器上蓋1aを覆うように配した冷却水配管3を設置して構成されている。
【0023】
冷却水配管3には、ヘッドスプレイノズル給水配管6に接続され、冷却水配管分岐弁8を介して、原子炉冷却材浄化系の冷却水が給水される。そして、
図1の矢印に示す方向に通流した冷却水が、冷却水戻り弁9を介してヘッドスプレイノズル4に注水するように配設されている。
【0024】
より具体的には、冷却水配管3は、圧力容器上蓋1aのフランジ側から頂部に向けて、圧力容器上蓋1aの外表面を螺旋状(スパイラル状)に配設されている。
冷却水配管3は、ステンレス鋼等、機能を維持するために十分な耐食性と伝熱性を有する材料で形成され、その肉厚は、冷却水の圧力に対応する強度を確保する程度とする。
また、冷却水配管3は、圧力容器上蓋1aの外表面に密着して接触するように設けるか、あるいは、圧力容器上蓋1aの外表面から一定距離だけ離れて設ける。
【0025】
図1では、冷却水配管3を一本の配管のように図示しているが、複数本の配管を連結して冷却水が通流する配管を形成するようにしてもよい。
例えば、すでに運転している既存プラントの圧力容器上蓋1aに冷却水配管3を装着する場合には、圧力容器上蓋1aに対する冷却水配管3の接触面の曲率と、圧力容器上蓋1aの外曲面の曲率とが、一致するように複数の配管を用意する。そして、圧力容器上蓋1aと配管の接触面とが熱伝導に優れた熱伝導材で介して接続するように取り付けるか、あるいは、圧力容器上蓋1aの外表面から一定距離だけ離れて配管を設置し、複数の配管を冷却水が通流するように接合する。
【0026】
つぎに、冷却水配管3に冷却水を通流して圧力容器上蓋1aの外面を冷却するとともに、冷却水配管3を通流した冷却水をヘッドスプレイノズル4に注水して圧力容器上蓋1aの内面を冷却する様子を詳細に説明する。
実施形態1の冷却装置は、原子炉冷却材浄化系で浄化された炉水を冷却水とするために、
図1の原子炉冷却材浄化系給水弁22を閉じる。そして、ヘッドスプレイノズル給水弁21、冷却水配管分岐弁8、冷却水戻り弁9が開かれ、ヘッドスプレイノズル分岐弁11が閉じた状態となっている。
【0027】
言うまでもないが、実施形態1の冷却装置は、
図1において、冷却水配管分岐弁8、冷却水戻り弁9を閉じ、ヘッドスプレイノズル分岐弁11を開いた状態では、原子炉冷却材浄化系によるヘッドスプレイを行うことができる。
【0028】
図1において、冷却水配管3には、原子炉冷却材浄化系から冷却水が供給され、
図1の矢印の方向に通流する。冷却水配管3の冷却水は、圧力容器上蓋1aのフランジ側から頂部に向けて螺旋状に配設された冷却水配管3を通流する。冷却水は、通流過程で、圧力容器上蓋1aから受熱することで、圧力容器上蓋1aを冷却する。
【0029】
冷却水は、螺旋状の冷却水配管3を通流して圧力容器上蓋1aから受熱することで、温度上昇する。このため、圧力容器上蓋1aの頂部よりもフランジ側の方の受熱量が大きくなる。
これにより、構造上厚みが大きく、熱容量が大きいフランジ側の冷却量が多くなるので、圧力容器上蓋1aの温度分布の均一化を図ることができる。
また、圧力容器上蓋1aのフランジ側の温度低下が大きくなるので、圧力容器胴1bと圧力容器上蓋1aのフランジ側との温度差が小さくなる。これにより、径方向の熱応力の差が小さくなり、フランジ部への熱応力差の影響を小さくできる。
【0030】
螺旋状の冷却水配管3を通流した冷却水は、ヘッドスプレイノズル4に注水され、圧力容器上蓋1aの内側に噴霧される。圧力容器上蓋1aの内部では、噴霧された冷却水の気化熱により蒸気が冷却され、圧力容器上蓋1aの内部の蒸気温度が低下する。これにより、圧力容器上蓋1aの内側表面では、蒸気からの受熱量が低下する。つまり、圧力容器上蓋1aは、冷却水により内側から冷却される。
【0031】
このとき、圧力容器上蓋1aの内部では、頂部のヘッドスプレイノズル4から冷却水が噴霧されるので、冷却水の気化熱による圧力容器上蓋1aの冷却能力は、圧力容器上蓋1aのフランジ側より頂部側の方が大きくなる。
このように、圧力容器上蓋1aの内面では、フランジ側より頂部側の方が温度低下は大きく、圧力容器上蓋1aの外面では、頂部側よりフランジ側の方が温度低下は大きくなっている。したがって、圧力容器上蓋1a全体では、均一に温度低下することで温度分布を均一化できるので、熱応力による歪みの発生を低減し、圧力容器上蓋1aの構造健全性を確保できる。
【0032】
冷却水配管3を通流した冷却水のスプレイ(噴霧)開始時に、スプレイ水(冷却水)の温度と炉水の温度の差が大きい場合には、圧力容器上蓋1aの急激な温度変化を避けるために冷却水の流量(原子炉冷却材浄化系からの取得流量)を原子炉冷却材浄化系の定格流量より下げる。炉水の温度が一定温度まで低下したら、圧力容器上蓋1aと炉水の温度差が過大となることを防止するために冷却水の流量(原子炉冷却材浄化系からの取得流量)をさらに下げる。
【0033】
炉水の温度が大気圧での沸騰がない温度まで低下したら、図示しない残留熱除去系の並列運転を開始して、炉水の温度をこの温度で一定とするように調節する。また、このとき、圧力容器上蓋1aと圧力容器胴1bとの間のフランジ(胴フランジ)温度と炉水温度の差の制限値を設け、両者の差がこの制限値を超えないように、図示しない残留熱除去系の流量を調整する。
【0034】
圧力容器胴1bの温度が一定温度を下回ったら、原子炉冷却材浄化系(冷却水)の流量を定格流量の半分程度まで上げ、圧力容器上蓋1aの冷却を促進する。
最終的に炉水の温度が十分に低下し、原子炉圧力容器1内の圧力が大気圧となったら、原子炉冷却材浄化系(冷却水)の流量を定格流量に戻す(上げる)。
圧力容器上蓋1aが十分に冷却された時には、ヘッドスプレイノズル給水弁21を閉じて、原子炉冷却材浄化系の冷却水による圧力容器上蓋1aの冷却を終了する。
【0035】
このように、保温材2に覆われた圧力容器上蓋1aを第1実施形態の冷却装置により、圧力容器上蓋1aの外面を強制冷却するとともに、圧力容器上蓋1aの内部の蒸気温度を冷却液の噴霧により低下させて圧力容器上蓋1aの受熱量を小さくすることで、圧力容器上蓋1aの冷却時間を短縮することができる。
【0036】
第1実施形態の冷却装置により、圧力容器上蓋1aの強制冷却を行うことができるが、炉水により冷却されている圧力容器胴1bや圧力容器下部鏡板1cの温度と同じ温度となるように、冷却することが望ましい。
【0037】
このため、第1実施形態の冷却装置は、圧力容器胴1bの温度(炉水温度)を検出し、圧力容器上蓋1aの外面と内面の平均温度が、炉水温度に近くなるように、冷却水配管3に供給する冷却水の流量を調整する。流量調整は、ヘッドスプレイノズル給水弁21の開閉時間を制御してもよいし、原子炉冷却材浄化系の流量を調整してもよい。
【0038】
これにより、圧力容器上蓋1aと圧力容器胴1bとを含む原子炉圧力容器1の温度分布の均一化を図ることができるので、原子炉圧力容器1の熱応力の発生を低減でき、構造健全性確保が可能となる。
【0039】
また、原子炉冷却材浄化系では、浄化した炉水を原子炉冷却材浄化系再生熱交換器13により再加熱しているが、浄化した炉水を冷却水として、ヘッドスプレイノズル4に給水する際には、再生熱交換器バイパス弁16を開いて、浄化した炉水の再加熱を抑止してもよい。
【0040】
これにより、原子炉補機冷却系熱交換器14によって冷却された炉水を冷却水として、冷却水配管3に給水されるようになるので、圧力容器上蓋1aの外面の冷却性能を向上することができる。
この際、冷却水配管3の冷却水は、圧力容器上蓋1aから受熱して温度上昇するので、ヘッドスプレイノズル4から噴霧された冷却水の温度と炉水の温度(圧力容器上蓋1a内の温度)の差が小さくなり、温度差による影響が小さくなる。
【0041】
原子炉冷却材浄化系の冷却水をヘッドスプレイノズル4に給水して、スプレイを行う既設の原子炉においても、圧力容器上蓋1aの外面に冷却水配管3を設け、ヘッドスプレイノズル4への冷却水の供給を開閉する弁(ヘッドスプレイノズル分岐弁11に相当する弁)に並列接続するように、冷却水配管分岐弁8と冷却水戻り弁9を介して冷却水配管3を接続することで、実施形態1の冷却装置とすることができる。
【0042】
≪第2実施形態≫
図1の冷却装置では、ひとつの冷却水の流路が形成されて、圧力容器上蓋1aの外側を冷却水の顕熱で冷却し、圧力容器上蓋1aの内側を冷却液の潜熱で冷却しているので、一方の冷却能力を高めると、他方の冷却能力も高まる。
つぎに、圧力容器上蓋1aの外側の冷却能力と内側の冷却能力を調整可能な冷却装置の構成を
図2により説明する。
【0043】
図2は、第2実施形態の冷却装置を示す図であり、原子炉圧力容器1の圧力容器上蓋1aの周りのみを示している。
図1の第1実施形態の冷却装置とは、冷却水を原子炉冷却材浄化系に還流する冷却水排水管7を備え、管路の途中に、弁の開閉を制御して、冷却水の一定量をヘッドスプレイノズル4に給水せずに原子炉冷却材浄化系に還流する冷却水排水弁10を設ける点が異なる。他の構成は、
図1と同様であるので、ここでは説明しない。
【0044】
図2の冷却装置において、ヘッドスプレイノズル分岐弁11と冷却水排水弁10を閉じ、冷却水配管分岐弁8と冷却水戻り弁9を開いて、原子炉冷却材浄化系の冷却水を冷却水配管3に供給する場合には、
図1で説明した第1実施形態の冷却装置と同様に圧力容器上蓋1aを冷却する。
【0045】
第2実施形態の冷却装置は、冷却水配管分岐弁8とヘッドスプレイノズル分岐弁11と冷却水戻り弁9と冷却水排水弁10の弁開度を調整して、冷却水の流量を調整することで、圧力容器上蓋1aの外側の冷却能力と内側の冷却能力を以下のとおり調整する。
【0046】
・圧力容器上蓋の内側の冷却能力を増す場合
増量する内側の冷却能力に応じてヘッドスプレイノズル分岐弁11の弁開度を増し、冷却水をヘッドスプレイノズル4に直接給水する。このとき、圧力容器上蓋1aの内側に噴霧される流量の冷却水が原子炉冷却材浄化系から供給されるように、原子炉冷却材浄化系の系統流量を調整する。
これにより、ヘッドスプレイノズル4では、直接給水された冷却水と冷却水配管3を通流した冷却水とが合わせて噴霧されるので、圧力容器上蓋1aの内側の冷却能力を増すことができる。
【0047】
・圧力容器上蓋の内側の冷却能力を減らす場合
減量する内側の冷却能力に応じて冷却水排水弁10の弁開度を開き、冷却水配管3を通流し、ヘッドスプレイノズル4に給水される冷却水の一部を冷却水排水管7により原子炉冷却材浄化系に還流する。
これにより、ヘッドスプレイノズル4に給水される冷却水の水量が減るので、圧力容器上蓋1aの内側の冷却能力を減らすことができる。
【0048】
また、減量する内側の冷却能力に応じて冷却水戻り弁9の弁開度を絞り、ヘッドスプレイノズル4に給水される冷却水を減らしてもよい。余剰の冷却水は、冷却水排水弁10を経由して冷却水排水管7から原子炉冷却材浄化系に還流する。
【0049】
・圧力容器上蓋の外側の冷却能力を増す場合
増量する外側の冷却能力に応じて冷却水配管分岐弁8の弁開度を大きくし、冷却水配管3を通流する冷却水量を増す。そして、冷却水の増量分がヘッドスプレイノズル4に給水されないように、冷却水戻り弁9の弁開度を調整する。余剰の冷却水は、冷却水排水弁10を調整して冷却水排水管7から原子炉冷却材浄化系に還流する。
これにより、冷却水配管3を通流する冷却水量が増すので、圧力容器上蓋1aの外側の冷却能力を増すことができる。
【0050】
・圧力容器上蓋の外側の冷却能力を減らす場合
減量する外側の冷却能力に応じて冷却水配管分岐弁8の弁開度を小さくし、冷却水配管3を通流する冷却水量を減らす。そして、冷却水配管3を通流してヘッドスプレイノズル4に給水する冷却水を補うように、ヘッドスプレイノズル分岐弁11の弁開度を調整して、冷却水をヘッドスプレイノズル4に直接給水する。
これにより、冷却水配管3を通流する冷却水量が減るので、圧力容器上蓋1aの外側の冷却能力を減らすことができる。
【0051】
上記のとおり、第2の実施形態の冷却装置は、圧力容器上蓋1aの外側の冷却能力と内側の冷却能力との間で、圧力容器上蓋1aの内側の冷却能力を外側の冷却能力より相対的に高める場合には、ヘッドスプレイノズル分岐弁11を開いて原子炉冷却材浄化系の冷却水をヘッドスプレイノズル4に直接給水するようにする。そして、圧力容器上蓋1aの外側の冷却能力を内側の冷却能力より相対的に高める場合には、冷却水がヘッドスプレイノズル4に給水されないように冷却水排水弁10を開いて原子炉冷却材浄化系に還流する。
【0052】
図2の第2実施形態の冷却装置によれば、冷却水配管3を通流する冷却水量の調整とヘッドスプレイノズル4の噴霧量の調整とにより、圧力容器上蓋1aの外側と内側の冷却性能を調整できるので、圧力容器上蓋1aを均一に温度低下させることができる。
【0053】
加えて、圧力容器上蓋1aの外面のみを冷却する必要がある場合は、冷却水戻り弁9を全閉にするとともに冷却水排水弁10を全開にして、冷却水排水管7を用いて、冷却水配管3を通流した冷却水を全て原子炉冷却材浄化系に還流する。これにより、ヘッドスプレイノズル4への冷却水の給水を行うことなく、圧力容器上蓋1aの外面のみを冷却することが可能となる。
【0054】
図1の第1実施形態の冷却装置と
図2の第2実施形態の冷却装置では、圧力容器上蓋1aのフランジ側から頂部に向けて、圧力容器上蓋1aの外表面を螺旋形状(スパイラル形状)に配設されている冷却水配管3を示したが、冷却水配管3の形状は、これに限定されない。
図3から
図5により、冷却水配管3の他の形状を説明する。
【0055】
図3は、冷却水配管3を2条の螺旋形状に配設した状態を、圧力容器上蓋1aの頂部からみた図である。冷却水は、周囲(フランジ側)から央部(頂部)に向かって通流する。
【0056】
冷却水の受熱量は、螺旋形状の通流に従って減少するので、圧力容器上蓋1aの周方向に温度分布が生じるが、
図1に示した1条の螺旋形状の冷却水配管3に比べ、
図3の2条の螺旋形状に配設された冷却水配管3の方が周方向に均一な冷却を行える。冷却水配管3を多条の螺旋形状とすることで、圧力容器上蓋1aの周方向の温度分布がより均一になる。
【0057】
図4は、冷却水配管3を放射形状に配設した状態を、圧力容器上蓋1aの頂部からみた図である。冷却水は、周囲(フランジ側)から央部(頂部)に向かって通流する。
これにより、周方向における冷却水の受熱量分布(流量分布)が均一になるので、圧力容器上蓋1aの周方向の温度分布が均一になる。
【0058】
図5は、冷却水配管3を冷却水配管3a、3b、3cの3重の環形状とし、周方向に2分割して配設した状態を、圧力容器上蓋1aの頂部からみた図である。冷却水は、円弧状の冷却水配管3a、3b、3cのフランジ側配管に接続する一端から頂部の配管に接続する他端に周方向の並列に一方向通流する。
これにより、圧力容器上蓋1aのフランジ側から頂部の温度分布を平坦化することができる。周方向の分割数を増やせば、圧力容器上蓋1aの周方向の温度分布を平坦化することができる。
【0059】
図6は、
図3から
図5に示した冷却水配管3を複数の冷却水流路を形成するように配設した冷却装置を備えた原子炉圧力容器の構成を示す図である。
冷却水配管3a、3b、3cの複数配管のそれぞれに、冷却水配管分岐弁8a、8b、8cと冷却水戻り弁9a、9b、9cと冷却水排水弁10a、10b、10cを設けるようにした。冷却水配管3a、3b、3cは、ここでは、
図5の3重の環形状の冷却水配管3に対応するものとして説明する。
【0060】
例えば、圧力容器上蓋1aのフランジ側に設けられた冷却水配管3aのみに冷却水が通流するように、冷却水配管分岐弁8aと冷却水戻り弁9aを開き、冷却水配管分岐弁8b、8cと冷却水戻り弁9b、9cを閉じる。これにより、熱容量の大きい圧力容器上蓋1aのフランジ部を冷却することができるので、圧力容器上蓋1aの温度分布の均一化を図ることができる。
【0061】
図6の冷却装置によれば、圧力容器上蓋1aの外面と内部および炉水温度により、冷却水配管3の冷却水配管分岐弁8a、8b、8cと冷却水戻り弁9a、9b、9cと冷却水排水弁10a、10b、10c、ヘッドスプレイノズル分岐弁11のそれぞれの開閉を行うことで、原子炉圧力容器1の温度分布を均一に冷却でき、定期点検にかかる時間を短縮することができる。
【0062】
図7は、
図5における環形状冷却水配管3の他の形状を示す図である。
図7の冷却装置は、環形状の冷却水配管3を圧力容器上蓋1aの周方向にジグザクに配設したものである。これにより、圧力容器上蓋1aに配設する配管が長くなることから、圧力容器上蓋1aの冷却効率が上昇する効果が得られる。
【0063】
≪第3実施形態≫
原子炉では、事故時の原子炉格納容器内の温度や圧力上昇を抑えるために、図示しない原子炉格納容器スプレイ装置を設けているが、圧力容器上蓋1aは、保温材2に覆われているため、原子炉格納容器スプレイ装置の噴霧に直接触れることがない。また、保温材破損時に、保温材内の高温空気が流出することで、周辺機器を破損する可能性がある。
原子炉格納容器スプレイ装置の冷却機能の補完および、保温材破損時の圧力容器上蓋1aの冷却を行うために、冷却装置の冷却水配管3に、スプレイ機構5を設ける。
【0064】
図8は、
図1の冷却装置の冷却水配管3にスプレイ機構5を設けた冷却装置を備えた原子炉圧力容器の構成を示す図である。
原子炉格納容器スプレイ装置が作動された際に、冷却水配管3に冷却水を通流し、冷却水の一部を、圧力容器上蓋1aと保温材2の間の空間に噴霧する。この噴霧された冷却水により、圧力容器上蓋1aと保温材2の間の空気が冷却されるとともに、圧力容器上蓋1aに滴下した冷却水の蒸発により、圧力容器上蓋1aが冷却される。
これにより、保温材2(圧力容器上蓋1a)からの輻射熱が低減して、原子炉格納容器内の温度や圧力上昇を抑えることができる。
【0065】
図8では、ひとつのスプレイ機構5を設けた構成が示されているが、複数のスプレイ機構5を設け、スプレイ機構5が圧力容器上蓋1aの周方向に配置されるように、圧力容器上蓋1aの外面で冷却水配管3を周回配管してスプレイ機構5を周方向に配設した後に、圧力容器上蓋1aのフランジ側から頂部側に螺旋形状の冷却水配管3を配設するとなおよい。
【0066】
≪第4実施形態≫
上記では、実施形態の冷却装置は、圧力容器上蓋1aと保温材2の間に、圧力容器上蓋1aを覆うように配した冷却水配管3により構成され、冷却水配管3が、圧力容器上蓋1aの外表面に密着して接触するように設けるか、あるいは、圧力容器上蓋1aの外表面から一定距離だけ離れて設けることを説明した。
しかし、これに限らず、保温材2の内面に冷却水配管3を設ける構成としてもよい。
【0067】
図9は、冷却水配管3が設けられた保温材2の構成を示す図である。
冷却水配管3を構成する配管は、冷却水配管固定部12によって保温材2に固定され、保温材2と冷却水配管3とを一体として取り扱いを可能とする。冷却水配管3を保温材2と一体とすることで、保温材を改装すれば既設の原子炉プラントにも実施形態の冷却装置が適用可能となる。
【0068】
より詳細には、冷却水配管固定部12の寸法は、冷却水配管3および前記冷却水配管固定部12が圧力容器上蓋1aの外表面に接触しない程度とし、保温材2の内部空間の気体を偏りなく冷却するように、冷却水配管3は配置される。
【0069】
また、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施形態は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。