【実施例1】
【0025】
図1、
図2に示すように、低温液化ガスポンプ用断熱容器1は、液化ヘリウム、液化水素、液化窒素、液化酸素、液体空気、LNG等の低温液化ガスを圧送する為の低温液化ガスポンプを収容する断熱容器である。
【0026】
本実施例の低温液化ガスは液化水素であり、低温液化ガスポンプ2は液化水素貯蔵タンクから断熱構造の二重管を介して供給される液化水素を加圧して外部の断熱構造の二重管へ圧送するものである。例えば、低温液化ガスポンプ2は、液化水素圧送用の断熱構造の二重管における内管と外管の間の冷媒通路に液化水素を圧送する用途などにも適用可能なものである。
【0027】
この低温液化ガスポンプ用断熱容器1(以下、断熱容器という)は、液化水素を収容する鉛直の軸心を有する内槽3と、この内槽3の周囲に真空断熱層4を空けて外装された外槽5と、内槽3内に設置された低温液化ガスポンプ2と、蓋構造体6と、液化水素を吸い込む吸込管7と、加圧した液化水素を吐出する吐出管8と、内槽3内から気化した水素ガスを導出するガス管9と、電線類を通す電線管10と、2つの圧力検知管11,12と、ドレン管13などを備えている。
【0028】
この断熱容器1とこれに付随する後述の種々の付随構造を構成する諸部材は、低温用鋼(本実施例では、ステンレス鋼)で構成され、低温用鋼以外の材料で製作する部材についてはその材料を特記するものとする。
【0029】
内槽3は、所定の直径を有する細長い円筒体の底部を椀状の鏡板で塞いで液化水素を収容可能に構成した容器である。
外槽5は、内槽3よりも大径の細長い円筒体の底部を椀状の鏡板で塞いだものであり、外槽5は、内槽3の周囲(外周側と底面側)に真空断熱層4を空けて外装されている。本実施例の場合、真空断熱層4は、公知の積層断熱材4a(スーパーインシュレーション、SI)を収容して真空状態にしたものである。但し、積層断熱材4aの代わりにパーライトを充填して真空状態にした真空断熱層も採用可能である。但し、この場合、真空断熱層4の径方向の厚さ寸法を必要な大きさに設定するものとする。
【0030】
外槽5は、上端部側部分を構成する円筒状の上部外槽5Uと、この上部外槽5U以外の外槽本体5Lとを有する。上部外槽5Uに外部の真空ポンプに接続可能な真空ポンプポート14が形成され、蓋部材14aで開閉可能に閉塞されている。真空ポンプポート14から真空計や温度センサの信号線が真空断熱層4に導入される。
【0031】
内槽3と上部外槽5Uの上端部には外径側へ張り出す環状の第1フランジ15が設けられ、蓋構造体6の上端部の外周部には第1フランジ15と同外径を有する環状の第2フランジ16が設けられ、第1,第2フランジ15,16の間にシート状の低温用ガスケット17を介装した状態で、第1フランジ15に第2フランジ16を複数のボルト18で締結した第1締結部19が設けられている。
【0032】
外槽本体5Lの上端部には外径側へ張り出す環状の第3フランジ20が設けられ、上部外槽5Uの下端部には第3フランジ20と同外径の環状の第4フランジ21が設けられ、第3,第4フランジ20,21の間にシート状の低温用ガスケット22を介装した状態で、第3フランジ20に第4フランジ21を複数のボルト23で締結した第2締結部24が設けられている。
【0033】
蓋構造体6は、内槽3の上部側所定長さ部分に着脱可能に内嵌された断熱構造のものである。蓋構造体6は、内槽3に上下方向に摺動可能に微小隙間をもって内嵌される筒体6aと、筒体6aの底部を塞ぐ底板6bと、第2フランジ16とを一体的に接合したものである。筒体6aの下端寄り部位に対応する位置で、内槽3に形成された複数の環状シール溝に低温用Oリング25が装着され、これらOリング25により内槽3と蓋構造体6間が液密にシールされている。
【0034】
内槽3内の蓋構造体6の下側空間には、液化水素を収容すると共に低温液化ガスポンプ2を収容する収容室3aが形成されている。蓋構造体6の筒体6aには、真空断熱二重管からなる吸込管7及び吐出管8と、ガス管9と、電線管10とが挿入されて、これらの配管類7〜10は内槽3の軸心と平行な鉛直姿勢に設置されている。吸込管7の内管7aの下端部分は底板6bを貫通して収容室3aに突入し、その下端は収容室3a内に開口し、外管7bの下端は底板6bの上面に接合されている。
【0035】
吐出管8は、内管と外管とからなる真空断熱二重管で構成され、その内管は底板6bを貫通して収容室3a内の底部近くまで延びてから上方へUターンするU字管8aを有し、U字管8aの上端部から湾曲してポンプ2の頂部の吐出口に接続されている。ガス管9の下端は底板6bの上面に接合されている。電線管10の下端部は底板6bに接合され、この電線管10にはポンプ2に接続されるポンプ駆動用電力ケーブルとポンプ2に取り付けた振動センサの信号線と温度センサの信号線が挿通状に装着されている。
【0036】
蓋構造体6の筒体6a内の空間のうちの配管類7〜10の外側空間にはウレタン発泡体(PUF)からなる断熱材26が充填されている。
但し、蓋構造体6の天面を塞ぐ天板を設け、ウレタン発泡体26の代わりに、パーライトを充填して真空状態にしたり、積層断熱材を充填して真空状態にしてもよい。
低温液化ガスポンプ2は、ステンレス等の低温用金属材料で構成された遠心ポンプであり、収容室3aに軸心を鉛直にして設置され、このポンプ2は後述するポンプ支持機構30を介して蓋構造体6に固定されている。
【0037】
図1、
図3、
図4に示すように、ポンプ支持機構30は、収容室3a内で内槽3の内面に固定された鉛直の第1ガイド溝31aを有する複数(本実施例では4つ)の第1ガイド部材31と、これら複数の第1ガイド部材31の第1ガイド溝31aに摺動自在に装着されて上端部が蓋構造体6の底板6bに連結された複数(本実施例では4つ)の第1棒状部材32と、これら複数の第1棒状部材32にポンプ2を連結する複数(本実施例では各4つ)の第1,第2連結部材33,34とを備えている。第1連結部材33はポンプ2の頂部を第1棒状部材32に連結するものであり、第2連結部材34はポンプ2の中段部を第1棒状部材32に連結するものである。
【0038】
第1ガイド部材31は、収容室3aの上下長よりやや短い条材であって断面矩形の条材に、偏平なT溝状の第1ガイド溝31aを全長に亙って形成したものである。4本の第1ガイド部材31は、内槽3の内面の円周4等分位置に第1ガイド溝31aを内径側に向けて鉛直姿勢に設置されて内槽3の内面に接合されている。
【0039】
4本の第1ガイド部材31には、夫々、フラットバー状の第1棒状部材32が上下方向に摺動自在に装着されている。4本の第1棒状部材32に夫々固定された4つの第1連結部材33がポンプ2の頂部にボルト33aにより締結されている。
【0040】
第1連結部材33は、第1棒状部材32に対して直角に固定されて第1棒状部材32からポンプ2側へ延び、第1連結部材33の基端部が第1棒状部材32にボルトにより連結されている。第1連結部材33の基部には第1ガイド溝31aの開口溝部31bを通過可能な首部33bが形成されている。また、第1連結部材33の下面側には開口溝部31bを通過可能な補強ブラケット33cが形成されている。
【0041】
第1連結部材33の先端部にはボルト穴33dが形成され、その先端部をポンプ2の頂部に当接させ、ボルト穴33dに挿通させたボルト33aをポンプ2のケースのボルト穴に締結することで、ポンプ2が第1棒状部材32に連結されている。
【0042】
第2連結部材34は、第1連結部材33より短かく形成されているが、第1連結部材33と同様のもので、第1連結部材33と同様に第1棒状部材32に連結され、その先端部がボルト34aによりポンプ2のケースの中段部に締結されている。
【0043】
上記の構成により、第1棒状部材32は第1ガイド部材31に対して上下方向に摺動移動可能であるため、ポンプ2のメンテナンスの際に蓋構造体6と配管類7〜10を上方へ引き抜くことにより、蓋構造体6に連結支持された4つの第1棒状部材32とポンプ2とを上方へ引き抜くことができる。
【0044】
図1、
図3、
図5に示すように、外槽5に対して内槽3がその軸心直交方向へ移動しないように位置規制する位置規制機構40が設けられている。この位置規制機構40は、外槽本体5Lの内面に固定された鉛直の第2ガイド溝41aを有する複数(本実施例では4つ)の第2ガイド部材41と、内槽3の外面に固定され且つ複数の第2ガイド部材41の第2ガイド溝41aに摺動自在に係合した係合部42bを有する複数(本実施例では8つ)の係合連結部材42とを備えている。なお、第2ガイド部材41と係合連結部材42の少なくともいずれか一方の部材は、繊維強化合成樹脂(例えば、GFRPやCFRP等)で構成されていてもよい。
【0045】
上側の4つの係合連結部材42は、内槽3の中段のやや上側部位に対応する位置に設けられ、下側の4つの係合連結部材42は、内槽3の下端寄り部位に対応する位置に設けられている。
【0046】
第2ガイド部材41は、外槽本体5Lの上下長よりやや短い条材であって断面矩形の条材に、偏平なT溝状の第2ガイド溝41aを全長に亙って形成したものである。4つの第2ガイド部材41は、外槽本体5Lの内面の円周4等分位置に第2ガイド溝41aを内径側に向けて鉛直姿勢に設置されて外槽本体5Lの内面に接合されている。
【0047】
係合連結部材42は、断面I字形の所定の上下幅を有する部材である。係合連結部材42は、4つのボルト穴42dに通した4本のボルトで内槽3の外面に締結される固定側フランジ42aと、第2ガイド部材41の第2ガイド溝41aに上下方向に摺動自在に装着される係合フランジ42b(係合部)と、固定側フランジ42aと係合フランジ42bとを一体的に接続するウェブ42cとを備えている。
【0048】
以上の構成により、上側の4つの係合連結部材42と下側の4つの係合連結部材42とを介して外槽5と内槽3を上下方向にのみ相対移動可能とし、内槽3の軸心と直交する方向への相対移動を禁止することができる。そのため、真空断熱層4をメンテナンスする場合等に、第2締結部24を分離して、真空断熱層4に影響を及ぼすことなく、外槽本体5Lを下方へ引き抜くことが可能になる。
【0049】
尚、上記の構成の変更例として、4つの係合連結部材42を外槽本体5Lの内面に固定し、第2ガイド部材41を内槽3の外面に固定してもよい。
【0050】
次に、圧力検知管11,12、ドレン管13、ラプチャーディスク43等について説明する。液化水素が充填される収容室3a内の頂部の圧力を検知する第1圧力検知管11と、収容室3a内の底部の圧力を検知する第2圧力検知管12と、収容室3aの底部からドレンを排出するドレン管13が設けられている。これら第1,第2圧力検知管11,12とドレン管13は上部外槽5Uに貫通固定されている。
【0051】
第1圧力検知管11は、上部外槽5Uを貫通する貫通部位から真空断熱層4内を下方へ延び、収容室3aの頂部に対応する部位で内槽3を貫通し、その先端11aが内槽3の内面から僅かに突出して開端している。第2圧力検知管12は、上部外槽5Uを貫通する貫通部位から真空断熱層4内を下方へ延びてから内槽3の底部外側の中心部まで延び、内槽3の底部の中心部を貫通し、その先端が内槽3の底部の内面に開端している。
【0052】
ドレン管13は、上部外槽
5Uを貫通する貫通部位から真空断熱層4内を下方へ延びてから内槽3の底部外側の中心部まで延び、内槽3の底部の中心部を貫通し、その先端が内槽3の底部の内面に開端している。
【0053】
外槽本体5Lの下部の所定部位には、真空断熱層4の圧力が異常に上昇した場合に、圧力をリリーフさせる為のラプチャーディスク43が設けられている。
尚、断熱容器1は、基礎コンクリート上に設置された普通鋼製の支持台(図示略)に支持した状態に設置されている。
【0054】
次に、低温液化ガスポンプ用断熱容器1の作用、効果について説明する。
通常、液化水素貯蔵タンクの液化水素がそのヘッド圧で吸込管7を経由して収容室3aに充填される。充填された液化水素はポンプ2により加圧されて吐出管8から外部に吐出される。収容室3a内に発生するボイルオフガスはガス管9から外部へ導出される。
【0055】
内槽3と外槽5の間の真空断熱層4には積層断熱材4a(又はパーライト)が充填されて真空状態に保持され、蓋構造体6は厚さの大きなウレタン発泡体26で断熱されているため、断熱容器1は、高断熱の容器になっている。
しかも、蓋構造体6の上下長は長いため、配管類7〜10の伝熱距離を長くして配管類7〜10からの入熱量を少なくしている。蓋構造体6においてウレタン発泡体26は底板6bの上側に配置されているため、収容室3a内の液化水素がウレタン発泡体26で汚染されることもない。
【0056】
ポンプ2のメンテナンスを行う際には、第1締結部19の締結を解除し、蓋構造体6と配管類7〜10を上方へ抜き出すと、ポンプ支持機構30において第1棒状部材32が第1ガイド部材
31に対して上方へ摺動移動し、第1棒状部材32に支持されたポンプ2も上方へ移動し、ポンプ2を上方へ抜き取ることができる。
こうして、真空断熱層4の真空をブレイクすることなく、ポンプ2を簡単に抜き取ることができるためメンテナンスを容易に行うことができる。
【0057】
ポンプ2のメンテナンス終了後には、第1棒状部材32とポンプ2を内槽3内へ挿入し、第1棒状部材32を第1ガイド部材31の第1ガイド溝31aに挿入していき、第2フランジ16を第1フランジ15と低温用ガスケット17に当接させて第1締結部19を締結する。
【0058】
内槽3と外槽5の間の真空断熱層4の積層断熱材4a等に対するメンテナンスを行う際には、第2締結部24の締結を解除し、外槽本体5Lを下方へ引き抜くか、或いは、断熱容器1のうちの外槽本体5L以外の断熱容器部分を上方へ引き抜くことにより、真空断熱層4の大部分を外界に露出させることができる。
【0059】
このとき、位置規制機構40の係合連結部材42の係合フランジ42bが第2ガイド部材41の第2ガイド溝41a内を摺動移動し、係合連結部材42と真空断熱層4の積層断熱材4aは内槽3に対して相対移動しないから、係合連結部材42により積層断熱材4aに何ら悪影響を及ぼすことなく、真空断熱層4の大部分を簡単に外界に露出させてメンテナンスを容易に行うことができる。
【0060】
その真空断熱層4に対するメンテナンス終了後には、係合フランジ42bを第2ガイド部材41の第2ガイド溝41aに係合させながら、外槽本体5Lを下方から内槽3に外装させるか、外槽本体5Lに対して外槽本体5L以外の断熱容器部分を上方から挿入し、第3フランジ20と低温用シール部材22に第4フランジ21を当接させて第2締結部24を締結する。
【0061】
しかも、簡単な構成の位置規制機構40により、外槽5に対して内槽3をその軸心直交方向へ移動しないように位置規制することができる。
上部外槽5Uに真空ポンプポート14が形成されたため、真空ポンプポート14から真空断熱層4に導入される信号線等に影響を及ぼすことなく、外槽本体5Lを取り外すことができる。
【0062】
上部外槽5Uに圧力検知管11,12及びドレン管13を貫通固定して設けたため、圧力検知管11,12とドレン管13に影響を及ぼすことなく、外槽本体5Lを取り外すことができる。
【0063】
第2ガイド部材41と係合連結部材42の少なくともいずれか一方が繊維強化合成樹脂材料で構成されているため、外部から低温液化ガスポンプ用断熱容器1内への入熱を抑制することができ、断熱性能を向上することができる。